説明

造血幹細胞及び該細胞を使用して眼の新生血管の疾患を治療する方法

【課題】網膜症のような眼の血管の疾患を特異的に治療する方法の提供。
【解決手段】単離された、哺乳動物の骨髄に由来する、系統陰性の造血幹細胞集団(LinHSC)の使用。該造血幹細胞集団は網膜の血管を形成することができる内皮前駆細胞(EPC)を含有し、その少なくとも約50%はCD31及びc−kit細胞表面マーカーを有している。最大約8%の細胞がSca−1細胞マーカーを有し、最大約4%の細胞がFlk−1/KDRマーカーを有することができる。治療上有用な遺伝子をトランスフェクトされた、単離されたLin HSC集団も提供され、これは細胞を用いた遺伝子治療において眼に遺伝子を送達するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2002年7月25日に出願された仮特許出願第60/398,522号及び2003年5月2日に出願された仮特許出願第60/467,051号の利益を主張するものであり、両出願を参考として本明細書に援用する。
【0002】
本明細書に記載されている研究の一部は、国立癌研究所からのグラント第CA92577号及び国立衛生研究所からのグラント第EY11254号、EY12598号、EY125998号による補助を受けて為されたものである。米国政府は、本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、骨髄に由来する、単離された、哺乳動物の、系統陰性の造血幹細胞(LinHSC)に関する。本発明は、LinHSC及びトランスフェクトされたLinHSCの網膜への投与により眼の血管の疾患を治療することにも関する。
【背景技術】
【0004】
加齢黄斑変性(ARMD)と糖尿病網膜症(DR)は先進国における主要な失明の原因であり、網膜での異常な新生血管形成の結果として発生する。網膜は、明瞭に区切られたニューロン、グリア及び血管要素の層からなり、血管増殖や浮腫に見られるような比較的小さな障害が視覚機能の著しい損失を起こし得る。色素性網膜炎(RP)等の遺伝性の網膜変性もまた、細動脈の狭窄や血管の萎縮という血管の異常に関連している。血管新生を促進及び阻害する因子の同定には著しい進歩があったが、眼の血管の疾患を特異的に治療する方法は現在のところ得られていない。
【0005】
何年もの間、幹細胞の集団が正常な成体の循環器及び骨髄に存在することが知られてきた。これらの細胞の様々な副集団は、造血性の系統陽性(Lin)又は非造血性の系統陰性(Lin)の系列に沿って分化することができる。さらに、近年では、系統陰性の造血幹細胞(HSC)集団はin vitro及びin vivoで血管を形成することができる内皮前駆細胞(EPC)を含有することが示された(Asahara et al. Science 275, 964−7 (1997))。これらの細胞は、肝細胞(Lagasse et al. Nat.Med. 6,1229−34 (2000)を参照)、ミクログリア(Priller et al. Nat.Med. 7,1356−61 (2002)を参照)、心筋細胞(Orlic et al. Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 98,10344−9 (2001)を参照)及び上皮細胞(Lyden et al. Nat.Med. 7,1194−201 (2001)を参照)を含む様々な非内皮細胞型に分化するとともに、正常及び病的な生後の血管新生に関与することができる(Lyden et al. Nat.Med. 7,1194−201 (2001)、Kalka et al. Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 97,3422−7 (2000);及びKocher et al. Nat.Med. 7,430−6 (2001)を参照)。これらの細胞は血管新生のいくつかの実験的モデルにおいて使用されてきたが、EPCが新生血管を標的とするメカニズムは不明であり、特定の血管構造に寄与する細胞の数を効果的に増加させるという戦略は明かになっていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Asahara et al. Science 275, 964−7 (1997)
【非特許文献2】Lagasse et al. Nat.Med. 6,1229−34 (2000)
【非特許文献3】Priller et al. Nat.Med. 7,1356−61 (2002)
【非特許文献4】Orlic et al. Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 98,10344−9 (2001)
【非特許文献5】Lyden et al. Nat.Med. 7,1194−201 (2001)
【非特許文献6】Kalka et al. Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 97,3422−7 (2000)
【非特許文献7】Kocher et al. Nat.Med. 7,430−6 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、活性化された網膜星状膠細胞を選択的に標的とする内皮先祖細胞(EPC、内皮前駆細胞とも言う)を含有する、骨髄に由来する、単離された、哺乳動物の、系統陰性の造血幹細胞集団(LinHSC)を提供する。本発明の単離されたLinHSC集団の細胞のうち、少なくとも約50%はCD31及びc−kitに関する細胞マーカーを有する。
【0008】
本発明の系統陰性(lineage negative)HSC集団に含まれるEPCは発生過程にある網膜の脈管に広く取り込まれ、眼の新生血管構造に安定に取り込まれた状態となる。本発明の、単離された、系統陰性のHSC集団は、哺乳動物の変性した網膜血管構造を救出し安定化させるために使用することができる。本発明の単離されたLinHSC集団の実施形態の1つでは、細胞を治療上有用な遺伝子でトランスフェクトする。トランスフェクトされた細胞は選択的に新生血管を標的とすることができ、細胞に基づく遺伝子治療によって、すでに確立している脈管に影響を与えることなく新たな脈管形成を阻害できる。血管新生阻害ペプチドをコードする遺伝子でトランスフェクトされた、本発明の単離された系統陰性HSC集団からの細胞は、ARMD、DR及び異常な血管構造に関連する特定の網膜変性等の疾患で、異常な血管成長を調節するのに有用である。
【0009】
本発明の、単離されたLinHSC集団で眼を治療することの特別な利点は、硝子体内的にLinHSC処理した眼で観察される血管栄養性及び神経栄養性の救出効果である。本発明の単離されたLinHSCで治療された眼では、網膜のニューロン及び光受容体が保持され、視覚機能は維持される。
【0010】
本発明は、また、骨髄、好ましくは成体の骨髄から内皮前駆細胞を含有する系統陰性の造血幹細胞集団を単離する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、内皮前駆細胞を含有する、単離された、哺乳動物の、骨髄由来である系統陰性の造血幹細胞集団を提供する。本発明の単離されたLinHSC集団は、好ましくは少なくとも約50%の細胞がCD31及びc−kit細胞マーカー抗原を含有するHSCを含む。好ましい実施形態では、少なくとも約75%のHSC細胞、より好ましくは約81%の細胞がCD31マーカーを含む。別の好ましい実施形態では、少なくとも約65%の細胞、より好ましくは約70%の細胞がc−kit細胞マーカーを含む。
【0012】
本発明の単離されたLinHSC集団の特に好ましい実施形態では、約50%から約85%の前記細胞がCD31マーカーを含み、約70%から約75%の細胞がc−kitマーカーを含み、約4%から約8%の細胞がSca−1マーカーを含み、約2%から約4%の細胞がFlk−1/KDRマーカーを含む。
【0013】
本発明の単離されたLinHSC集団はまた、Tie−2抗原マーカーを有する細胞を最大約1%まで含み得る。
【0014】
好ましい実施形態では、本発明の単離されたLinHSC集団はマウス又はヒトの骨髄に、好ましくはヒトの骨髄に由来する。
【0015】
本発明の単離されたLinHSC集団が、細胞を単離した種と同じ種の哺乳動物の眼に硝子体内注入されると、網膜の新生血管構造を選択的に標的とし、新生血管構造に取り込まれる。
【0016】
本発明の単離されたLinHSC集団は、内皮細胞に分化し網膜内で血管構造を生じるEPC細胞を含有する。特に、本発明のLinHSC組成物は、網膜の新生血管及び網膜の血管変性疾患の治療、並びに、網膜の血管傷害の修復に有用である。
【0017】
本発明はまた、患者の骨髄から内皮前駆細胞を含む系統陰性の造血幹細胞集団を単離すること、及び、疾患を阻止するのに十分な数の単離された幹細胞を患者の眼の硝子体内に注入することを包含する、患者の眼疾患を治療する方法を提供する。本方法は、網膜変性疾患、網膜血管変性疾患、虚血性網膜症、血管からの出血、血管からの漏出及び脈絡膜症等の眼の疾患の治療に利用することができる。これらの疾患の例には、網膜傷害の他、加齢黄斑変性(ARMD)、糖尿病網膜症(DR)、推定眼ヒストプラスマ症(POHS)、未熟児網膜症(ROP)、鎌状赤血球貧血及び色素性網膜炎が含まれる。
【0018】
眼に注入される幹細胞数は、患者の眼の病状を抑止するのに十分な数である。例えば、細胞の数は、患者の眼における網膜の損傷を修復し、網膜の新生血管構造を安定化し、網膜の新生血管構造を成熟させ、血管からの漏出や出血を防止又は修復するのに効果的な数であり得る。
【0019】
本発明の単離されたLinHSC集団に存在する細胞は、細胞に基づく眼の遺伝子治療で用いられる抗血管新生蛋白質をコードする遺伝子等の、治療上有用な遺伝子でトランスフェクトすることができる。
【0020】
トランスフェクトされた細胞には、網膜障害の処置に治療上有用である任意の遺伝子を含有させることができる。好ましくは、本発明のLinHSC集団中のトランスフェクトされた細胞は、TrpRS等の抗血管新生ペプチド、蛋白質若しくは蛋白質フラグメント又はTrpRSのT1及びT2フラグメント等のTrpRSの抗血管新生フラグメントをコードする遺伝子を含む(これらは同じ出願人の同時係属している米国特許出願第10/080,839号に詳細に記載されており、その開示内容は参考として本明細書に援用される)。
【0021】
本発明はまた、内皮前駆細胞を含有する系統陰性の造血幹細胞集団を骨髄から単離する方法を提供する。本方法は、(a)哺乳動物から骨髄を抽出すること、(b)前記骨髄から複数の単球を分離すること、(c)CD45、CD3、Ly−6G、CD11及びTER−119に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記単球を標識すること、及び(d)前記複数の単球からCD45、CD3、Ly−6G、CD11及びTER−119に関して陽性である単球を除去して、内皮前駆細胞を含有する系統陰性の造血幹細胞集団を得ること、という工程を包含する。
【0022】
本発明はまた、前記細胞を眼に硝子体内注入して本発明のトランスフェクトされたLinHSC組成物を投与することによって、眼の血管新生の疾患を治療する方法を提供する。このようなトランスフェクトされたLinHSC組成物は、抗血管造影遺伝子産物をコードする遺伝子等の治療上有用な遺伝子でトランスフェクトされたLinHSCを含む。
【0023】
好ましくは、少なくとも約1x10のLinHSC細胞又はトランスフェクトされたLinHSC細胞が、網膜変性疾患を罹っている眼に硝子体内注入によって投与される。注入される細胞の数は、網膜変性の重症度、患者の年齢及び網膜疾患を治療する当業者にとって容易に理解できるその他の要因に依存することがある。治療を担当する医師の決定に従って、LinHSCは単回投与してもよいし、あるいは一定の期間にわたって複数回投与してもよい。
【0024】
本発明のLinHSC集団は、網膜血管構造の中断又は分解に関わる網膜の傷害及び欠損の治療に有用である。
【0025】
本発明のトランスフェクトされたLinHSC集団は、網膜、特に網膜の血管構造に治療用遺伝子を送達するのに有用である。
【0026】
本発明の遺伝子送達方法の好ましい実施形態では、本発明のLinHSC集団中の細胞はトリプトファンRNAシンセターゼ(TrpRS)の抗血管新生フラグメント等の抗血管新生ペプチドをコードする遺伝子をトランスフェクトされる。特に好ましいTrpRSフラグメントには、TrpRSのT1及びT2フラグメントが挙げられる。本発明のLinHSC組成物に含まれ抗血管新生ペプチドをコードするトランスフェクト細胞は、糖尿病網膜症や類似疾患等の異常な血管の発生を伴う網膜疾患の治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1−1】図1(a及びb)は発生過程にあるマウス網膜の概略図を示す。(a)第一叢の発生。(b)網膜での脈管形成の第2段階。GCL神経節細胞層、IPL内網状層、INL内顆粒層、OPL外網状層、ONL外顆粒層、RPE網膜色素上皮、ON視神経、P末梢。図1cは骨髄に由来するLinHSC及びLinHSC分離細胞のフローサイトメトリーによる特性決定を表す。上列、抗体で標識されていない細胞のドットプロット分布。その中で、R1はPE染色陽性の定量可能なゲート領域を表しており、R2はGFP陽性を示している。中列、LinHSC(C57B/6)及び下列、LinHSC(C57B/6)、それぞれの細胞系は、Sca−1、c−kit、Flk−1/KDR、CD31に対するPE結合抗体で標識された。Tie−2のデータはTie−2−GFPマウスより得られた。百分率は全LinHSC又はLinHSC集団の中で標識された陽性細胞のパーセントを示す。
【図1−2】図1(a及びb)は発生過程にあるマウス網膜の概略図を示す。(a)第一叢の発生。(b)網膜での脈管形成の第2段階。GCL神経節細胞層、IPL内網状層、INL内顆粒層、OPL外網状層、ONL外顆粒層、RPE網膜色素上皮、ON視神経、P末梢。図1cは骨髄に由来するLinHSC及びLinHSC分離細胞のフローサイトメトリーによる特性決定を表す。上列、抗体で標識されていない細胞のドットプロット分布。その中で、R1はPE染色陽性の定量可能なゲート領域を表しており、R2はGFP陽性を示している。中列、LinHSC(C57B/6)及び下列、LinHSC(C57B/6)、それぞれの細胞系は、Sca−1、c−kit、Flk−1/KDR、CD31に対するPE結合抗体で標識された。Tie−2のデータはTie−2−GFPマウスより得られた。百分率は全LinHSC又はLinHSC集団の中で標識された陽性細胞のパーセントを示す。
【図2−1】図2は発生過程にあるマウス網膜へのLinHSC細胞の移植を表す。(a)注入4日後(P6)では、硝子体内に注入されたeGFPLinHSC細胞は網膜上に接着し分化する。(b)LinHSC(B6.129S7−Gtrosa26マウス、β−gal抗体で染色される)はコラーゲンIV抗体で染色される血管構造の先端に定着する(*は血管構造の先端を示す)。(c)LinHSC細胞(eGFP)の大部分は注入4日後(P6)の時点では分化できなかった。(d)注入4日後(P6)のeGFPマウス腸間膜EC。(e)成体マウスの眼に注入されたLinHSC(eGFP)。(f)GFAP−GFPトランスジェニックマウスですでに存在している星状細胞の鋳型に定着しそれに沿って分化しているeGFPLinHSC(矢印)を低倍率で示す。(g)Lin細胞(eGFP)とその下に存在する星状細胞(矢印)の関係を高倍率で示す。(h)対照となる注入されていないGFAP−GFPトランスジェニックマウス。(i)注入4日後(P6)、eGFPLinHSC細胞は将来の深層叢となる領域に移動し分化する。左図は全体的にマウントされた網膜でのLinHSC細胞の動きを捕らえている。右図は網膜(上は硝子体側、下は強膜側)内でのLin細胞(矢印)の局在を示している。(j)αCD31−PE及びαGFP−alexa488抗体による二重染色。注入後7日目、注入されたLinHSC(eGFP、赤)は血管構造(CD31)中に取り込まれた。矢印は取り込まれた領域を示している。(k)eGFPLinHSC細胞は注入14日後(P17)に脈管を形成する。(l及びm)ローダミン−デキストランの心臓内注入は第一叢(l)及び深層叢(m)の両者で脈管が無傷であり機能的であることを示す。
【図2−2】図2は発生過程にあるマウス網膜へのLinHSC細胞の移植を表す。(a)注入4日後(P6)では、硝子体内に注入されたeGFPLinHSC細胞は網膜上に接着し分化する。(b)LinHSC(B6.129S7−Gtrosa26マウス、β−gal抗体で染色される)はコラーゲンIV抗体で染色される血管構造の先端に定着する(*は血管構造の先端を示す)。(c)LinHSC細胞(eGFP)の大部分は注入4日後(P6)の時点では分化できなかった。(d)注入4日後(P6)のeGFPマウス腸間膜EC。(e)成体マウスの眼に注入されたLinHSC(eGFP)。(f)GFAP−GFPトランスジェニックマウスですでに存在している星状細胞の鋳型に定着しそれに沿って分化しているeGFPLinHSC(矢印)を低倍率で示す。(g)Lin細胞(eGFP)とその下に存在する星状細胞(矢印)の関係を高倍率で示す。(h)対照となる注入されていないGFAP−GFPトランスジェニックマウス。(i)注入4日後(P6)、eGFPLinHSC細胞は将来の深層叢となる領域に移動し分化する。左図は全体的にマウントされた網膜でのLinHSC細胞の動きを捕らえている。右図は網膜(上は硝子体側、下は強膜側)内でのLin細胞(矢印)の局在を示している。(j)αCD31−PE及びαGFP−alexa488抗体による二重染色。注入後7日目、注入されたLinHSC(eGFP、赤)は血管構造(CD31)中に取り込まれた。矢印は取り込まれた領域を示している。(k)eGFPLinHSC細胞は注入14日後(P17)に脈管を形成する。(l及びm)ローダミン−デキストランの心臓内注入は第一叢(l)及び深層叢(m)の両者で脈管が無傷であり機能的であることを示す。
【図3】図3(a及びb)は、レーザーで(a)及び機械的に(b)成体網膜に与えた傷害(*は傷害部位を示している)によって誘導されるグリオーシス(GFAP発現星状細胞によって示される、最も左の画像)にeGFPLinHSC細胞が定着することを示している。最も右の画像はさらに高い倍率であり、LinHSCと星状細胞の密な関係を示している。目盛は20μMを示す。
【図4】図4は、LinHSC細胞が網膜変性マウスの血管構造を救出することを示している。(a−d)コラーゲンIV染色された注入27日後(P33)の網膜。(a)及び(b)LinHSC細胞(Balb/c)を注入された網膜の血管構造は正常なFVBマウスと比べて相違がなかった。(c)及び(d)LinHSC(Balb/c)を注入された網膜は野生型マウスに類似する豊富な血管ネットワークを示した。(a)及び(c)DAPI染色された網膜全体(上は硝子体側、下は強膜側)の凍結切片。(b)及び(d)全体的にマウントされた網膜の深層叢。(e)棒グラフは、深層の血管叢における血管分布の増加がLinHSC細胞を注入された網膜(n=6)で起きたことを示している。深層での網膜血管新生の程度はそれぞれの画像内で脈管の全長を計算することにより定量化された。LinHSC、LinHSC又は対照の網膜について、高倍率の視野(μ単位)での脈管の全長の平均が比較された。(f)rd/rdマウスから得たLinHSC(R、右眼)又はLinHSC(L、左眼)細胞を注入後の深層血管叢の長さの比較。独立した6匹のマウスの結果を示す(一色につき一匹のマウスを表している)。(g)及び(h)LinHSC細胞(Balb/c)はP15の眼に注入されたときでもrd/rdマウスの血管構造を救出した。LinHSC(G)又はLinHSC(H)細胞が注入された網膜(注入後1ヶ月)の中間及び深層血管叢を示す。
【図5】図5はマウス網膜組織の顕微鏡写真を示す。(a)eGFPLinHSC(緑)を注入してから5日後(P11)に、全体的にマウントされた網膜(rd/rdマウス)の深層。(b)及び(c)P6にBalb/c Lin細胞(A)又はLinHSC細胞(B)を注入されたTie−2−GFP(rd/rd)マウスのP60における網膜血管構造。血管構造はCD31抗体により染色され(赤)、内因性の内皮細胞のみが緑の色を示した。矢印はCD31で染色されたがGFPでは染色されなかった脈管を示す。(d)LinHSCを注入された網膜及び対照網膜のαSMA染色。
【図6】図6は、T2−TrpRSをトランスフェクトされたLinHSCがマウス網膜血管構造の発生を阻害することを示す。(a)ヒトTrpRS、T2−TrpRS及びN末端にIgkシグナル配列を有するT2−TrpRSの概略図。(b)網膜に注入されたT2−TrpRSトランスフェクトLin細胞はin vivoでT2−TrpRS蛋白質を発現する。1、E.coliで産生されたT2−TrpRS組換体。2、E.coliで産生されたT2−TrpRS組換体。3、E.coliで産生されたT2−TrpRS組換体。4、対照である網膜。5、LinHSC+pSecTag2A(ベクターのみ)を注入された網膜。6、LinHSC+pKLe135(pSecTag内にIgk−T2−TrpRS有する)を注入された網膜。(a)、内因性TrpRS。b、T2−TrpRS組換体。c、LinHSCを注入された網膜のT2−TrpRS。(c−f)注入7日後の典型的な損傷網膜の第一(表面)及び第二(深層)叢。(c)及び(d)空のプラスミドをトランスフェクトされたLinHSCを注入された眼は正常に発生した。(e)及び(f)T2−TrpRSをトランスフェクトされたLinHSCを注入された眼の大部分では深層叢の阻害が見られた。(c)及び(e)第一(表面)叢。(d)及び(f)第二(深層)叢。Fで観察される脈管のぼやけた輪郭は(e)に見られる一次ネットワークの脈管の「血流(bleed−through)」像である。
【図7−1】図7はHis−タグの付いたT2−TrpRSをコードするDNA配列(配列番号1)を示す。
【図7−2】図7はHis−タグの付いたT2−TrpRSをコードするDNA配列(配列番号1)を示す。
【図8】図8はHis−タグの付いたT2−TrpRSのアミノ酸配列(配列番号2)を示す。
【図9】図9は、本発明のLinHSC及びLinHSC(対照)を眼に注入されたマウスから採取した網膜の顕微鏡写真及び網膜電位図(ERG)を示す。
【図10】図10は、LinHSCで処理されたrd/rdマウス眼の中間(Int.)及び深層の血管層において、ニューロンの救出(y軸)と血管の救出(x軸)の間に相関が見られることを示す、統計学的プロットである。
【図11】図11は、LinHSCで処理されたrd/rdマウス眼のニューロンの救出(y軸)と血管の救出(x軸)の間には相関が見られないことを示す、統計学的プロットである。
【図12】図12は、注入後1ヶ月(1M)、2ヶ月(2M)、6ヶ月(6M)時点における、LinHSC処理(黒い棒)及び未処理(白い棒)のrd/rdマウスの眼について、血管長(y軸)を任意の比較単位で表した棒グラフである。
【図13】図13は、注入後1ヶ月(1M)、2ヶ月(2M)、6ヶ月(6M)におけるrd/rdマウス外側神経層(ONR)の核の数を表す3つの棒グラフであり、LinHSC(白い棒)で処理された対照の眼と比較してLinHSC(黒い棒)で処理された眼の核の数が顕著に増加していることを示している。
【図14】図14は、左眼(L、LinHSCで処理された対照の眼)に対して、右眼(R、LinHSCで処理された)を、(注入後)1ヶ月(1M)、2ヶ月(2M)、6ヶ月(6M)の時点で比較し、個々のrd/rdマウスについて外側神経層の核数をプロットしたものである。プロット中のそれぞれの線は個々のマウスの眼を比較している。
【0028】
方法
【実施例1】
【0029】
細胞の単離と濃縮、LinHSC集団A及び集団Bの調製
一般的な手順
全てのin vivo評価は、実験動物の飼育と使用についてのNIHの指針にしたがって行い、全ての評価手順はScripps Research Institute (TSRI, La Jolla, CA)の動物の飼育及び使用に関する委員会から承認を受けた。骨髄細胞をB6.129S7−Gtrosa26、Tie−2GFP、ACTbEGFP、FVB/NJ(rd/rdマウス)又はBalb/cBYJ成体マウス(The Jackson Laboratory, ME)から抽出した。
【0030】
次いで、HISTOPAQUE(登録商標)ポリスクロース勾配(Sigma, St. Louis, MO)を用いた密度勾配分離によって単球を分離し、Linを選択するためにビオチン結合系統パネル抗体(CD45、CD3、Ly−6G、CD11、TER−119(Pharmingen, San Diego, CA))で標識した。磁性分離装置AUTOMACS(商品名)ソーター(Miltenyi Biotech, Auburn, CA)を用いて系統陽性(Lin)細胞をLinHSCから分離し取り出した。さらにFACS(商品名) Caliburフローサイトメーター(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ)を使用し、以下の抗体、すなわちPEが結合したSca−1、c−kit、KDR、及びCD31(Pharmingen, San Diego, CA)を用いて、内皮前駆細胞を含有する得られたLinHSC集団を更に特性決定した。Tie−2の特性決定には、Tie−2−GFP骨髄細胞を用いた。
【0031】
成体マウス内皮細胞を採取するために、腸間膜組織をACTbEGFPマウスから外科的に取り除き、組織を消化するためにコラゲナーゼ(Worthington, Lakewood, NJ)中に置いた後、45μmフィルターを用いてろ過した。ろ液を集め内皮細胞成長培地(Clonetics, San Diego, CA)とともにインキュベートした。形態学的に丸石状の外見が観察されること、CD31モノクローナル抗体(Pharmingen)で染色されること、及びMATRIGEL(商品名)マトリックス(Beckton Dickinson, Franklin Lakes, NJ)中で培養物が管状構造を形成するか試験することによって、内皮細胞の特徴を確認した。
【0032】
LinHSC集団A
骨髄細胞をACTbEGFPマウスから上記の一般的手順により抽出した。CD31、c−kit、Sca−1、Flk−1及びTie−2細胞表面抗原マーカーに対するFACSフローサイトメトリーによって、LinHSC細胞の特性決定を行った。結果を図1cに示す。LinHSCの約81%はCD31マーカーを、LinHSCの約70.5%はc−kitマーカーを、LinHSCの約4%はSca−1マーカーを、LinHSCの約2.2%はFlk−1マーカーを、LinHSC細胞の約0.91%はTie−2マーカーを提示した。これに対して、これらの骨髄細胞から単離されたLinHSCは有意に異なる細胞マーカーのプロフィール(すなわちCD31は37.4%、c−kitは20%、Sca−1は2.8%、Flk−1は0.05%)を有していた。
【0033】
LinHSC集団B
BalbC、ACTbEGFP及びC3Hマウスから、上記の一般的手順によって骨髄細胞を抽出した。LinHSC細胞を細胞表面マーカー(Sca1、KDR、cKit、CD34、CD31及び様々なインテグリンα1、α2、α3、α4、α5、α6、α、α、α、αIIb、β、β、β、β、β及びβ)の存在について分析した。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【実施例2】
【0035】
細胞の硝子体内投与
P2からP6の眼球を露出するために、鋭利な刃によって、眼瞼に裂け目を入れた。本発明の系統陰性HSC集団A(細胞培養培地約0.5μlから1μl中におよそ10細胞)を33ゲージ(Hamilton, Reno, NV)の針の付いたシリンジで硝子体内に注入した。
【実施例3】
【0036】
EPCトランスフェクション
製造業者のプロトコールに従い、FuGENE(商品名)6トランスフェクト試薬(Roche, Indianapolis, IN)を用いて、TrpRSのT2フラグメントをコードしHisタグを封入するDNA(配列番号1、図7)でLinHSC(集団A)をトランスフェクトした。LinHSC組成物からの細胞(1mlあたり約10細胞)を幹細胞因子(PeproTech, Rocky Hill, NJ)を含有するopti−MEM(登録商標)培地(Invitrogen, Carlsbad, CA)中に懸濁した。次いで、DNA(約1μg)及びFuGENE試薬(約3μl)の混合物を添加し、混合物を約37℃で約18時間インキュベートした。インキュベート後、細胞を洗浄し回収した。このシステムのトランスフェクション効率は、FACS分析で確認したところ、およそ17%であった。T2の生産をウエスタンブロッティングにより確認した。Hisタグ化T2−TrpRSのアミノ酸配列を配列番号2、図8に示す。
【実施例4】
【0037】
免疫組織化学及び共焦点分析
網膜をさまざまな時点で採取し、全体的マウント又は凍結切片作製のための調製を行った。全体的マウントのためには、網膜を4%パラホルムアルデヒドで固定し、50%牛胎児血清(FBS)及び20%正常ヤギ血清中において1時間周囲の室温でブロッキングした。網膜を一次抗体で処理し、二次抗体で検出した。使用した一次抗体は、抗コラーゲンIV(Chemicon, Temecula, CA)、抗β−gal(Promega, Madison, WI)、抗GFAP(Dako Cytomation, Carpenteria, CA)、抗α平滑筋アクチン(α−SMA, Dako Cytomation)であった。使用した二次抗体をAlexa488又は594蛍光マーカー(Molecular Probes, Eugene, OR)に結合した。画像はMRC1024共焦点顕微鏡(Bio−Rad, Hercules, CA)で撮影した。全体的マウントした網膜中での血管の発生について3つの異なる層を調べるために、LASERSHARP(登録商標)ソフトウェア(Bio−Rad)を用いて三次元画像を作製した。共焦点顕微鏡よって区別される、増強されたGFP(eGFP)マウスとGFAP/wtGFPマウスの間のGFP画素強度の相違を利用して3D画像を作製した。
【実施例5】
【0038】
in vivoでの網膜の血管新生定量アッセイ
T2−TrpRS分析のために、第一及び深層の叢を三次元画像から再構築した。第一叢を二つのカテゴリー、正常発生又は停止した血管発生に分けた。深層での血管発生阻害についてのカテゴリーは、以下の基準を含む血管阻害の百分率に基づいて解釈した。深層叢形成の完全阻害を“Complete”と、正常血管発生(25%未満の阻害を含む)を“Normal”と、残りを“Partial”と分類した。rd/rdマウスの救出データを得るために、全体的マウントした網膜それぞれについて、さらに深層の叢の4つの独立した領域を10Xレンズで捉えた。血管構造の全長を各画像について計算し、まとめ、グループ間で比較した。正確な情報を得るために、LinHSCを一方の眼に、LinHSCを同じマウスのもう一方の眼に注入した。注入しない対照網膜は同じ親から生まれたマウスより得た。
【実施例6】
【0039】
成体網膜の傷害モデル
ダイオードレーザー(150mW、1秒、50mm)を用いて又は27ゲージ針で機械的に網膜に穴を開けることによって、レーザー及び傷跡のモデルを作製した。傷をつけてから5日後、細胞を硝子体内法を用いて注入した。眼を更にその5日後採取した。
【実施例7】
【0040】
網膜再生の神経栄養性救出
成体の骨髄由来の系統造血幹細胞(LinHSC)は網膜変性のマウスモデルにおいて血管栄養と神経栄養性の救出効果を有している。10日齢マウスの右眼に本発明のLinHSCを約10個含有する約0.5μlを硝子体内に注入し、2ヶ月後網膜の血管構造の存在及び神経層の核数について評価した。同じマウスの左眼にほぼ同じ数のLinHSCを対照として注入し、同様に評価した。図9に示すように、LinHSCで処理された眼では、網膜の血管構造はほぼ正常なようであり、内顆粒層はほぼ正常、外顆粒層(ONL)は約3から約4の核層を有していた。対照的に、LinHSCで処理された反対側の眼では、網膜血管の中間層が著しく萎縮し、網膜血管の外層は完全に萎縮し、内顆粒層は著しく萎縮し、外顆粒層は完全に消失していた。これはマウス3及びマウス5で顕著に示された。マウス1では、救出効果はなく、これは注入されたマウスのおよそ15%で観察された。
【0041】
視覚機能を網膜電位図(ERG)で評価すると、血管及び神経の両者が救出された時(マウス3及び5)に陽性ERGの回復が観察された。陽性ERGは、血管又は神経の救出がない時(マウス1)には観察されなかった。本発明のLinHSCによってrd/rdマウスの眼において血管栄養及び神経栄養性の救出の間にこの相関が見られたことは、図10の回帰分析プロットによって示される。神経(y軸)及び血管(x軸)の回復の間に見られる相関は中間の血管構造型(r=0.45)及び深層の血管構造(r=0.67)で観察された。
【0042】
図11に示すように、LinHSCによる血管と神経の救出の間にはいかなる統計的に有意な相関も存在しない。血管の救出を定量化し、そのデータを図12に示す。図12に示す注入後1ヶ月(1M)、2ヶ月(2M)及び6ヶ月(6M)のマウスのデータによれば、本発明のLinHSCで処理された眼(黒い棒)では、同じマウスの処理されていない眼(白い棒)の血管長と比べて、特に注入後1ヶ月及び2ヶ月で、血管長が顕著に増加したことが実証される。LinHSC又はLinHSCの注入後約2ヶ月に内顆粒層及び外顆粒層の核を数えることにより、神経栄養性の救出効果を定量化した。結果を図13及び14に示す。
【0043】
結果
マウス網膜血管の発生;眼の血管新生についてのモデル
マウスの眼は、ヒトの網膜血管発生のような哺乳動物の網膜血管の発生に関する研究に対して容認されるモデルである。マウスの網膜血管構造が発生する時期において、虚血を起こした網膜血管は星状細胞と密接な関係で発生する。これらグリアの要素は、妊娠後期のヒト胎児又は新生児期のげっ歯類の網膜上へ視神経円板から神経節細胞層に沿って移動し、放射状に広がる。マウスの網膜血管構造が発生するにつれて、内皮細胞はこのすでに確立された星状細胞の鋳型を利用し、網膜の血管パターンを決定する(図1a及びb参照)。図1(a及びb)は発生過程にあるマウス網膜の概略図を表している。図1aは星状細胞の鋳型(明るい線)上に重なっている第一叢(図の左上の暗い線)の発生を表しており、図1bは網膜の脈管形成の第二段階を表している。図中、GCLは神経節細胞層、IPLは内叢層、INLは内顆粒層、OPLは外叢層、ONLは外顆粒層、RPEは網膜色素上皮、ONは視神経及びPは末梢を意味する。
【0044】
出生時、網膜の血管構造は実質的に存在しない。出生後14日(P14)までに物が見え始めるのと一致して、網膜は網膜脈管からなる複雑な第一(表面)及び第二(深部)層を発達させる。初めに、車輪のスポーク状をした乳頭周囲の脈管が、末梢に向かって、すでに存在している星状細胞のネットワーク上を放射状に成長し、続いて毛細管状の叢を形成することで次第に相互に連結するようになる。これらの脈管はP10まで神経線維内で単層として成長する(図1a)。P7からP8の間に側副枝がこの第一叢から芽を出し始め、網膜を通り外叢状の層へと貫通し、そこで第二のすなわち深層の網膜叢を形成する。P21までにネットワーク全体が広範囲の再構築を行い、第三すなわち中間の叢が内顆粒層の内側表面に形成される(図1b)。
【0045】
新生児期のマウス網膜の血管新生モデルはいくつかの理由から眼の血管新生におけるHSCの役割の研究に有用である。この生理学上実用的なモデルでは、内在性の血管の出現前に大きな星状細胞の鋳型が存在し、新生血管の形成過程における細胞−細胞間の標的化の役割を評価することを可能にしている。さらに、この新生児期の網膜血管の一貫した再現性のある形成過程は低酸素により起こることが知られており、この点において虚血が役割を担っていることが知られる多くの網膜疾患と類似点がある。
【0046】
骨髄からの内皮前駆細胞(EPC)の濃縮
細胞表面マーカーの発現はHSCの調製物に見られるEPC集団について広く評価されてきたが、EPCを一意的に同定するマーカーはいまだ十分に定義されていない。EPCを濃縮するために、造血性の系統マーカー陽性細胞(Lin)、すなわちBリンパ球(CD45)、Tリンパ球(CD3)、顆粒球(Ly−6G)、単球(CD11)及び赤血球(TER−119)を骨髄単核細胞から除いた。EPCをさらに濃縮するためにSca−1抗原を使用した。同数のLinSca−1細胞又はLin細胞を硝子体内に注入後に得られた結果を比較したところ、2つのグループ間で違いは検出されなかった。事実、LinSca−1細胞のみが注入されると、発生過程の血管にずっと多く取り込まれるのが観察された。
【0047】
本発明のLinHSCは機能的アッセイに基づきEPCについて濃縮される。その上、Lin集団はLinHSC集団とは機能的に全く異なる振る舞いをする。(以前に報告されたin vitroにおける特性決定の研究に基づく)各画分について、EPCを同定するのに広く用いられるエピトープも評価した。Lin画分のみに見られるマーカーはなかったが、LinHSC画分と比較して、LinHSCでは、全てのマーカーが約70から約1800%増加した(図1c)。図1cは骨髄由来の分離されたLinHSC及びLinHSC細胞に対して行ったフローサイトメトリーによる特性決定を図示している。図1c上列は非抗体標識細胞の造血幹細胞のドットプロット分布を示している。R1はPE染色陽性が定量可能なようにゲーティングされた領域を表し、R2はGFP陽性を表している。LinHSCのドットプロットを中列に示し、LinHSCのドットプロットを下列に示す。C57B/6細胞をPEに結合したSca−1、c−kit、Flk−1/KDR、CD31に対する抗体で標識した。Tie−2のデータをTie−2−GFPマウスから得た。ドットプロットの角に記載されている百分率は全Lin又はLinHSC集団のうち陽性に標識された細胞のパーセントを示す。興味深いことに、Flk−1/KDR、Tie−2及びSca−1のような許容されるEPCマーカーはほとんど発現しておらず、このため、さらに分画するためには使用しなかった。
【0048】
硝子体内に注入されたHSC Lin細胞は、星状細胞を標的とし発生過程にある網膜血管構造に取り込まれるEPCを含有する
硝子体内に注入されたLinHSCが網膜の特異的な細胞型を標的とし、星状細胞の鋳型を利用して網膜の血管新生に関与しうるか否かを調べるために、成体(GFP又はLacZトランスジェニック)マウスの骨髄から単離された本発明のLinHSC組成物からのおよそ10個の細胞、又はLinHSC細胞(対照、約10細胞)を出生後2日(P2)のマウスの眼に注入した。注入から4日後(P6)、GFP又はLacZトランスジェニックマウスから採取された、本発明のLinHSC組成物からの多くの細胞は網膜に付着し、内皮細胞が示す特徴的な伸張した外観を有した(図2a)。図2は発生過程にあるマウス網膜へのLin細胞の移植を表している。図2aに示すように、注入後4日(P6)で硝子体内に注入されたeGFPLinHSCは網膜上に接着し分化する。
【0049】
網膜の多くの領域で、GFP発現細胞はその下部に存在する星状細胞に適合するパターンで配置され、血管に似ていた。これらの蛍光細胞は内在性の発生過程にある血管ネットワークの先端に観察された(図2b)。反対に、LinHSC(図2c)又は成体マウスの腸管膜内皮細胞(図2d)は少数が網膜表面に接着しているにすぎなかった。注入されたLinHSC組成物由来の細胞が網膜のすでに確立している脈管にも同様に接着できるか否かを調べるために、LinHSC組成物を成体の眼に注入した。興味深いことに、細胞は網膜にも付着しておらず、確立している正常な網膜血管中にも取り込まれていないことが観察された(図2e)。このことは、本発明のLinHSC組成物が正常に発生した血管構造を妨害せず、正常に発生した網膜で異常な血管新生を起こさないことを示している。
【0050】
注入された本発明のLinHSC組成物と網膜星状細胞との関係を調べるために、グリア線維酸性蛋白質(GFAP、星状細胞のマーカー)及びプロモーター誘導緑蛍光蛋白質(GFP)を発現するトランスジェニックマウスを使用した。eGFPトランスジェニックマウスから得たLinHSCを注入された、これらのGFAP−GFPトランスジェニックマウスの網膜を調べたところ、注入されたeGFP EPCと既存の星状細胞とが同じ場所に局在していた(図2f−h、矢印)。eGFPLinHSCの突起は、その下に位置する星状細胞ネットワークに適合していることが観察された(矢印、図2g)。これらの眼の試験は、注入された標識細胞のみが星状細胞に接着することを示していた。P6マウスの網膜では、網膜の末梢はまだ内因性の脈管を有さないが、注入された細胞はこれらのまだ血管形成されていない領域の星状細胞に付着するのが観察された。驚くべきことに、注入された標識細胞は網膜のさらに深い層の正しい場所(そこには後に正常な網膜の脈管が発生する)に観察された(図2i、矢印)。
【0051】
本発明の注入されたLinHSCが発生過程にある網膜血管構造中に安定に取り込まれるか調べるために、その後、複数の時点で網膜の脈管を調べた。早くもP9(注入後7日)には、LinHSCはCD31構造中に取り込まれ(図2j)。P16(注入後14日)までには、既に細胞は網膜の血管様構造中に広く取り込まれた(図2k)。動物を屠殺する前に(機能的な網膜血管を同定するため)ローダミン−デキストランを硝子体内に注入すると、LinHSCの大部分は開通した脈管に沿って整列していた(図2l)。標識細胞の分布には2つのパターンが観察された。(1)一方のパターンでは、細胞は標識されていない内皮細胞の間を脈管に沿って点在していた。(2)もう一方のパターンでは脈管は専ら標識細胞で構成されていた。注入された細胞はまた深層の血管叢の脈管にも取り込まれていた(図2m)。LinHSC由来のEPCが新生血管へ散在して取り込まれることは以前より報告されてきたが、専らこれらの細胞で構成される血管ネットワークがあることについてはこれが初めての報告である。このことは、硝子体内に注入された本発明の骨髄由来のLinHSC集団からの細胞が形成過程にある網膜血管叢のいずれの層にも効率よく取り込まれ得ることを示している。
【0052】
網膜以外の組織(例えば、脳、肝臓、心臓、肺、骨髄)の組織学的な試験は、硝子体内注入から5日後又は10日後まではGFP陽性細胞のいかなる存在も示さなかった。このことは、LinHSC画分内の細胞の副集団は網膜星状細胞を選択的に標的とし、発生過程にある網膜血管構造中に安定に取り込まれることを示している。これらの細胞は内皮細胞の多くの特徴を有している(網膜星状細胞との結合、伸張した形態、開通した脈管への安定した取り込み及び血管外に存在しないこと)ので、これらの細胞はLinHSC集団に存在するEPCであることを意味している。標的とされた星状細胞は、多くの低酸素網膜症で観察されるものと同じタイプである。グリア細胞が、DRや他の形態の網膜傷害で観察される、葉状の新生血管の主な構成要素であることはよく知られている。反応性グリオーシス及び虚血により誘導される新生血管形成の状況下では、ヒトを含む多くの哺乳動物種で新生児期に網膜血管の鋳型が形成される時と同様に、活性化された星状細胞が増殖し、サイトカインを生産し、GFAPをアップレギュレートする。
【0053】
本発明のLinHSC組成物が新生児期の眼と同様に成体マウスの眼でも活性化された星状細胞を標的とするか否かを試験するために、光凝固(図3a)又は針先(図3b)で傷つけられた網膜を有する成体マウスの眼にLinHSC細胞を注入した。両者のモデルにおいて、顕著にGFAP染色された細胞集団が傷害部位周辺でのみ観察された(図3a及びb)。注入されたLinHSC組成物由来の細胞は傷害部位に局在し、GFAP陽性星状細胞と特異的に結合したままであった(図3a及びb)。これらの部位では、新生児期における深層の網膜血管構造の形成時に見られるのと同様のレベルまで、LinHSC細胞が網膜のより深い層に移動するのが観察された(データ示さず)。傷害されなかった網膜部分には、正常で傷つけられていない成体網膜にLinHSCを注入したときに観察されるのと同様に、LinHSC細胞は含有されていなかった(図2e)。これらのデータは、血管形成している新生児期の網膜と同様に、グリオーシスを有する損傷した成体網膜においても活性化したグリア細胞を、LinHSC組成物が選択的に標的としうることを示している。
【0054】
硝子体内に注入されたLinHSCは変性している血管構造を救出し安定化できる
硝子体内に注入されたLinHSC組成物は星状細胞を標的とし正常な網膜血管構造中に取り込まれるので、これらの細胞はグリオーシスや血管変性を伴う虚血性疾患又は変性網膜疾患に見られる変性した血管構造も同様に安定化する。rd/rdマウスは、出生後1ヶ月までに光受容体と網膜血管層に甚大な変性を示す網膜変性のモデルである。これらマウスの網膜血管構造は、より深層の血管叢が退行するP16までは正常に発生し、ほとんどのマウスでP30までに深層及び中間の叢がほぼ完全に変性する。
【0055】
HSCが退行した脈管を救出できるか否かを調べるために、(Balb/cマウスから得た)Lin又はLinHSCをP6にrd/rdマウスの硝子体内に注入した。Lin細胞注入後、P33までに、網膜の最も深い層の脈管はほぼ完全に消失した(図4a及びb)。対照的に、LinHSCを注入されたほとんどの網膜はP33までにきちんと形成された3つの平行な血管層を備えたほぼ正常な網膜血管構造を有していた(図4a及び4d)。この効果の定量化により、Linを注入されたrd/rdマウスの眼の深層血管叢における脈管の平均の長さは、未処理又はLin細胞処理の眼に比べてほぼ3倍長いことが明らかとなった(図4e)。驚くべきことに、rd/rd成体マウス(FVB/N)の骨髄に由来するLinHSC組成物の注入も同様に、rd/rd新生児期マウスの変性している網膜血管構造を救出した(図4f)。rd/rdマウスの眼における血管構造の変性は、早くも出生後2−3週には観察された。P15という遅い時期にLinHSCを注入しても、少なくとも1ヶ月間はrd/rdマウスの変性している血管構造は部分的に安定化された(図4g及び4h)。
【0056】
より若い(例えば、P2)rd/rdマウスに注入されたLinHSC組成物も同様に、表面上で発生している血管構造中に取り込まれた。P11までに、これらの細胞は血管叢の深層レベルに移動し、野生型の外網膜血管層で見られるものと同じパターンを形成することが観察された(図5a)。注入したLinHSC組成物由来の細胞がrd/rdマウスの変性している網膜血管構造に取り込まれ、これを安定化する様子をより詳しく記載するために、Balb/cマウス由来のLinHSC組成物をTie−2−GFP FVBマウスの眼に注入した。FVBマウスはrd/rd遺伝子型を有しており、Tie−2−GFP融合蛋白質を発現するので、すべての内因性の血管は蛍光を有している。
【0057】
LinHSC組成物由来の未標識細胞が新生児期のTie−2−GFP FVBマウスの眼に注入され、続いて発生過程にある血管構造に取り込まれると、注入され組み込まれた未標識LinHSCに対応する内因性のTie−2−GFP標識された脈管内に未標識の間隙が存在するはずである。続いて他の血管マーカー(例えば、CD−31)で染色することにより脈管全体の輪郭を描けば、非内因性の内皮細胞が血管構造の一部であるか否かを明らかにすることができる。注入から2ヵ月後、CD31陽性Tie−2−GFP陰性の脈管がLinHSC組成物を注入された眼の網膜で観察された(図5b)。興味深いことに、救出された脈管の大部分はTie−2−GFP陽性細胞を含んでいた(図5c)。平滑筋アクチンの染色によって決定された周皮細胞の分布は、血管の救出があるか否かにかかわらず、LinHSCの注入によっては変化しなかった(図5d)。これらのデータは明らかに、硝子体内に注入された本発明のLinHSC組成物が、網膜へと移動し、正常な網膜血管の形成に関与し、遺伝的に欠損のあるマウスにおいて内因性の変性している血管構造を安定化することを示している。
【0058】
LinHSC由来のトランスフェクトされた細胞による網膜血管新生の阻害
網膜血管の疾患の大部分は変性よりもむしろ異常な血管増殖を伴う。星状細胞を標的とするトランスジェニック細胞は抗血管新生蛋白質を送達し血管新生を阻害するのに使用することができる。LinHSC組成物から得た細胞にT2−トリプトファニル−tRNAシンセターゼ(T2−TrpRS)をトランスフェクトした。T2−TrpRSは、網膜の血管新生を強く阻害するTrpRSの43kDフラグメントである(図6a)。P2に対照プラスミドでトランスフェクトされたLinHSC組成物(T2−TrpRS遺伝子を有さない)を注入された眼の網膜は、P12において正常な第一(図6c)及び第二(図6d)網膜血管叢を有していた。本発明のT2−TrpRSでトランスフェクトされたLinHSC組成物をP2の眼に注入し10日後に評価すると、一次ネットワークは著しい異常を有し(図6e)、深層の網膜血管構造の形成はほぼ完全に阻害された(図6f)。これらの眼で観察された少数の脈管は、脈管の間の大きな間隙で著しく細くなっていた。T2−TrpRSを分泌しているLinHSC細胞によって阻害される程度を表2に詳述する。
【0059】
T2−TrpRSはLinHSC組成物中の細胞によってin vitroで生産され分泌される。これらのトランスフェクトされた細胞を硝子体内に注入すると、T2−TrpRSの30kDフラグメントが網膜で観察された(図6b)。この30kDフラグメントは本発明のトランスフェクトされたLinHSCを注入された網膜でのみ特異的に観察された。組換体すなわちin vitro合成された蛋白質に比べてこの見かけの分子量の減少はin vivoでのT2−TrpRSのプロセッシング又は分解によるものかもしれない。これらのデータはLinHSC組成物が、活性化された星状細胞を標的とすることにより網膜血管構造へ、血管新生抑制分子を発現する遺伝子のような機能的に活性な遺伝子を送達するのに使用できることを示している。観察された血管新生抑制効果が細胞の仲介する活性による可能性もあるが、これはほとんど起こりそうもない。なぜなら、T2でトランスフェクトされていない同一のLinHSC組成物で処理された眼は正常な網膜血管構造を有していたからである。
【0060】
【表2】

【0061】
硝子体内に注入されたLinHSC組成物は網膜の星状細胞に局在し、脈管に組み込まれる。そして、多くの網膜疾患の治療に有用であるはずである。注入されたHSC組成物から得られるほとんどの細胞は星状細胞の鋳型に付着する一方、少数の細胞は網膜の深層へと移動し、後に深層血管ネットワークが発生する領域に定着する。たとえ出生後42日より前にこの領域にGFAP陽性星状細胞は観察されなかったとしても、GFAP陰性のグリア細胞がすでに存在しLinHSCの局在のためのシグナルを提供している可能性を排除しない。以前の研究により多くの疾患が反応性グリオーシスと関連があることが明らかとなっていた。特にDRでは、グリア細胞とその細胞外マトリックスが病的な血管新生と関連している。
【0062】
傷害の種類に関わらず、注入されたLinHSC組成物の細胞は特異的にGFAP発現グリア細胞に接着したので、本発明のLinHSC組成物は網膜に血管新生が起こる前の病巣を標的とするために使用することができる。例えば糖尿病のような虚血性網膜症では、新生血管は低酸素への応答によるものである。LinHSC組成物を病的な新生血管部位へ誘導することにより、発生過程にある新生血管構造を安定化することができ、(DRに付随する失明の原因である)出血又は浮腫などの新生血管の異常を防止し、当初は新生血管生成を刺激していた低酸素状態を緩和できる可能性がある。異常な血管を正常な状態に回復することができる。さらに、トランスフェクトされたLinHSC組成物の使用及びレーザーで誘導される星状細胞の活性化により、T2−TrpRSのような血管新生抑制蛋白質を病的な血管新生部位へと送達することができる。レーザー光凝固は臨床眼科学で広く使用されており、このアプローチは多くの網膜疾患に用途がある。細胞に基づくこのようなアプローチは癌治療において探求されてきたが、目の疾患にこれらを使用することはより多くの利点を有している。なぜなら、眼内注入によれば多数の細胞を直接疾患部位に送達することが可能だからである。
【0063】
LinHSCによる神経栄養性及び血管栄養性の救出
上述の、増強された緑蛍光蛋白質(eGFP)、C3H(rd/rd)、FVB(rd/rd)マウスの骨髄からLinHSCを分離するのに、MACSを用いた。これらマウスから得たEPCを含有するLinHSCをP6のC3H又はFVBマウスの眼の硝子体内に注入した。網膜を注入後の様々な時点(1ヶ月、2ヶ月及び6ヶ月)で回収した。CD31に対する抗体で染色した後、走査型レーザー共焦点顕微鏡で血管構造を観察し、DAPIによる核染色後に網膜を組織学的に分析した。様々な時点で網膜から採取したmRNAのマイクロアレイ遺伝子発現分析を、この効果に関与している可能性のある遺伝子を同定するために用いた。
【0064】
rd/rdマウスの眼はP21までに網膜の感覚神経及び血管構造の両者に甚大な変性を有していた。P6にLinHSCで処理されたrd/rdマウスの眼は6ヶ月間、正常な網膜血管構造を維持した。全ての時点(1M、2M及び6M)で対照と比較すると、深層及び中間層の両者が著しく改善していた(図12参照)。さらに、LinHSCで処理された網膜も、対照としてLinHSCで処理された眼と比較して、より厚くなり(1Mで1.2倍、2Mで1.3倍、6Mで1.4倍)、外顆粒層により多くの細胞を有していた(1Mで2.2倍、2Mで3.7倍、6Mで5.7倍)のが観察された。対照(未処理又は非Lin処理)と比較して「救出された」(例えば、LinHSC)rd/rd網膜について大規模なゲノム分析をしたところ、表3に示される因子を含む、血管及び神経の救出に相関する特異的な増殖因子及びsHSPs(小分子の熱ショック蛋白質)をコードする遺伝子の顕著な発現誘導(アップレギュレーション)が明らかとなった。
【0065】
本発明の骨髄由来LinHSCは、rd/rdマウスにおいて、顕著にかつ再現性よく正常な血管構造の維持を誘発し、劇的に光受容体及び他のニューロン細胞層を増加させる。この神経栄養の救出効果は小分子熱ショック蛋白質及び成長因子の著しい発現誘導に相関しており、このため、現在治療できない網膜変性疾患について治療上のアプローチに対する洞察を与える。
【0066】
【表3】

【0067】
考察
EPCを含有する骨髄由来のLinHSC集団を陰性に選択するように、系統として分類する(lineage−committed)造血細胞に関するマーカーを使用した。EPCとして働くことができる骨髄由来LinHSC副集団は、一般に用いられる細胞表面マーカーによっては特徴づけられないが、これらの細胞の挙動は、発生過程の又は傷害を受けた網膜血管構造において、Lin又は成体の内皮細胞集団で観察される挙動とは全く異なっている。さらに、Sca−1等のマーカーを用いてHSCをさらに分画しても、LinSca1細胞はLinHSC細胞を単独で使用した場合に比べて実質的な相違は示さないことが明らかとなった。これらの細胞は、網膜の血管新生部位を選択的に標的とし、開通した血管の形成に関与する。
【0068】
遺伝性の網膜変性疾患はしばしば網膜の血管構造の消失に伴って起こる。これらの疾患の効果的な治療は、複雑な組織の構造を維持することと同様に、機能の回復を必要とする。最近のいくつかの研究では、栄養性因子又は幹細胞それ自身を、細胞に基づく送達を使用することについて探求してきたが、両者をある程度結合させることが必要であるかもしれない。例えば、網膜変性疾患を治療するために増殖因子療法を使用すると、結果として血管の無秩序な過剰増殖を引き起こし、正常な網膜組織の構造をひどく破壊した。網膜変性疾患を治療するために神経又は網膜幹細胞を使用すると、神経機能を再構成できるかもしれないが、網膜機能を完全な状態に保つためには、機能的な血管構造も必要となるであろう。本発明のLinHSC組成物由来の細胞がrd/rdマウス網膜の脈管に取り込まれると、網膜の構造を破壊することなく変性した血管構造を安定化した。この救出効果は細胞をP15のrd/rdマウスに注入した時にも観察された。血管の変性はrd/rdマウスにおいてP16に始まるので、この観察結果は効果的なLinHSC処理について治療上の窓口を広げる。本発明のLinHSCを注入された眼では、網膜のニューロン及び光受容体が保護され、視覚機能は維持される。
【0069】
本発明のLinHSC組成物は、反応性星状細胞を標的とすることによって血管新生を促進でき、網膜構造を破壊することなく確立された鋳型に取り込まれ得るEPC集団を含んでいる。本発明のLinHSCはまた網膜変性を患っている眼に驚くほど長期間にわたって神経栄養性の救出効果を与える。さらに、遺伝子的に修飾された、EPCを含有する自己由来のLinHSC組成物は虚血性の眼又は異常な血管形成が起きた眼に移植することが可能であり、新たな脈管に安定に取り込まれて、治療のための分子を局所的に長期間継続的に送達することができる。このように、生理学的に意味のある用量で薬理活性を示す因子を発現する遺伝子を局所的に送達することは、現在治療できない眼の疾患を治療することに関して新たな理論的枠組を提示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも約50%の細胞が細胞マーカーCD31及びc−kitを含む内皮前駆細胞を含む、単離された、哺乳動物の、骨髄由来である系統陰性の造血幹細胞集団。
【請求項2】
少なくとも約75%の細胞が細胞マーカーCD31を含む、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項3】
少なくとも約65%の細胞が細胞マーカーc−kitを含む、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項4】
少なくとも約80%の細胞がCD31細胞マーカーを含み且つ少なくとも約70%の細胞がc−kit細胞マーカーを含む内皮前駆細胞を含む、単離された、哺乳動物の、骨髄由来である、系統陰性の造血幹細胞集団。
【請求項5】
前記細胞がマウスの細胞である、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項6】
前記細胞がヒトの細胞である、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項7】
最大約8%の細胞が細胞マーカーSca−1も含み且つ最大約4%の細胞が細胞マーカーFlk−1/KDRも含む、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項8】
最大約1%の細胞がTie−2細胞マーカーを含む、請求項7に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項9】
約50%から約85%の細胞がCD31マーカーを含み、約70%から約75%の細胞がc−kitマーカーを含み、約4%から約8%の細胞がSca−1マーカーを含み、約2%から約4%の細胞がFlk−1/KDRマーカーを含む内皮前駆細胞を含む、単離された、哺乳動物の、骨髄由来である造血幹細胞集団。
【請求項10】
さらに細胞培養培地を含む、請求項1に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項11】
前記幹細胞が哺乳動物の骨髄に由来する、請求項10に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項12】
前記幹細胞がヒトの骨髄に由来する、請求項10に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項13】
(a)哺乳動物から骨髄を抽出する工程と、
(b)前記骨髄から複数の単球を分離する工程と、
(c)CD45、CD3、Ly−6G、CD11及びTER−119に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記複数の単球を標識する工程と、
(d)前記複数の単球からCD45、CD3、Ly−6G、CD11及びTER−119に関して系統陽性であった単球を除去して、内皮前駆細胞を含む系統陰性の造血幹細胞集団を得る工程と
を包含する、内皮前駆細胞を含む、骨髄由来である、系統陰性の造血幹細胞を単離する方法。
【請求項14】
前記哺乳動物が成体の哺乳動物である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記哺乳動物がマウスである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記哺乳動物がヒトである、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記系統陰性の造血幹細胞集団の少なくとも約50%がCD31及びc−kit細胞マーカーを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記系統陰性の造血幹細胞集団が、損傷した成体の網膜のグリアに富む領域を標的化し得る内皮前駆細胞を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
請求項13に記載の方法によって作製される、単離された、哺乳動物の、骨髄由来である系統陰性の造血幹細胞集団。
【請求項20】
少なくとも約50%の細胞が細胞マーカーCD31及びc−kitを含む、請求項19に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項21】
少なくとも約75%の細胞が細胞マーカーCD31を含む、請求項19に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項22】
少なくとも約65%の細胞が細胞マーカーc−kitを含む、請求項19に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項23】
少なくとも約80%の細胞がCD31細胞マーカーを含み且つ少なくとも約70%の細胞がc−kit細胞マーカーを含む、請求項19に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項24】
最大約8%の細胞が細胞マーカーSca−1も含み且つ最大約4%の細胞が細胞マーカーFlk−1/KDRも含む、請求項23に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項25】
最大約1%の細胞がTie−2細胞マーカーを含む、請求項24に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項26】
約50%から約85%の細胞がCD31マーカーを含み、約70%から約75%の細胞がc−kitマーカーを含み、約4%から約8%の細胞がSca−1マーカーを含み、約2%から約4%の細胞がFlk−1/KDRマーカーを含む、請求項19に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項27】
前記細胞がマウスの細胞である、請求項19に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項28】
前記細胞がヒトの細胞である、請求項19に記載の単離された幹細胞集団。
【請求項29】
哺乳動物において網膜の新生血管形成を増強する方法であって、網膜の新生血管形成が必要である哺乳動物の眼に請求項1に記載の系統陰性の造血幹細胞集団を硝子体内注入することを包含し、ここで該幹細胞は細胞を眼に注入される種と同じ種の哺乳動物の骨髄に由来する、方法。
【請求項30】
前記哺乳動物がマウスである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記哺乳動物がヒトである、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
患者の骨髄から内皮前駆細胞を含む系統陰性の造血幹細胞集団を単離すること、及び、眼疾患を阻止するのに十分な数の単離された幹細胞を患者の眼の硝子体内に注入すること、を包含する、患者の眼疾患を治療する方法。
【請求項33】
幹細胞の数が患者の眼にある網膜の損傷を修復するのに有効である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
幹細胞の数が患者の眼にある網膜の新生血管構造を安定化するのに有効である、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
幹細胞の数が患者の眼にある網膜の新生血管構造を成熟させるのに有効である、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
(a)哺乳動物から骨髄を抽出すること、
(b)前記骨髄から複数の単球を分離すること、
(c)CD45、CD3、Ly−6G、CD11及びTER−119に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記複数の単球を標識すること、及び、
(d)前記複数の単球からCD45、CD3、Ly−6G、CD11及びTER−119に関して系統陽性であった単球を除去して、内皮前駆細胞を含む系統陰性の造血幹細胞集団を得ること、
により、系統陰性の造血幹細胞の集団を単離する、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
単離された系統陰性の造血幹細胞集団の少なくとも約50%が細胞マーカーCD31及びc−kitを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記疾患が網膜変性疾患である、請求項32に記載の方法。
【請求項39】
前記疾患が網膜血管変性疾患である、請求項32に記載の方法。
【請求項40】
前記疾患が虚血性網膜症である、請求項32に記載の方法。
【請求項41】
前記疾患が血管出血である、請求項32に記載の方法。
【請求項42】
前記疾患が血管漏出である、請求項32に記載の方法。
【請求項43】
前記疾患が脈絡膜症である、請求項32に記載の方法。
【請求項44】
前記疾患が加齢黄斑変性である、請求項32に記載の方法。
【請求項45】
前記疾患が糖尿病性網膜症である、請求項32に記載の方法。
【請求項46】
前記疾患が推定眼ヒストプラスマ症である、請求項32に記載の方法。
【請求項47】
前記疾患が未熟児網膜症である、請求項32に記載の方法。
【請求項48】
前記疾患が鎌状赤血球貧血である、請求項32に記載の方法。
【請求項49】
前記疾患が色素性網膜炎である、請求項32に記載の方法。
【請求項50】
治療上有用なペプチドをコードする遺伝子でトランスフェクトされた請求項1に記載の幹細胞集団を含む、トランスフェクトされた系統陰性の造血幹細胞集団。
【請求項51】
前記治療上有用なペプチドが抗血管新生ペプチドである、請求項50に記載のトランスフェクトされた幹細胞集団。
【請求項52】
前記抗血管新生ペプチドが蛋白質のフラグメントである、請求項51に記載のトランスフェクトされた幹細胞集団。
【請求項53】
前記蛋白質のフラグメントがTrpRSの抗血管新生フラグメントである、請求項52に記載のトランスフェクトされた幹細胞集団。
【請求項54】
前記TrpRSのフラグメントがT2−TrpRSである、請求項53に記載のトランスフェクトされた幹細胞集団。
【請求項55】
請求項49に記載のトランスフェクトされた幹細胞集団を患者の眼に硝子体内注入することを包含する、網膜の血管新生を阻害する必要のある患者の眼の中で網膜の血管新生を阻害する方法。
【請求項56】
(a)哺乳動物から骨髄を抽出すること、
(b)前記骨髄から複数の単球を分離すること、
(c)CD45、CD3、Ly−6G、CD11及びTER−119に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記複数の単球を標識すること、及び、
(d)前記複数の単球からCD45、CD3、Ly−6G、CD11及びTER−119に関して系統陽性であった単球を除去して、内皮前駆細胞を含む系統陰性の造血幹細胞集団を得ること、
により、トランスフェクトされた系統陰性の造血幹細胞集団を調製する、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
単離された系統陰性の造血幹細胞集団の少なくとも約50%が細胞マーカーCD31及びc−kitを含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
骨髄に由来するトランスフェクトされた系統陰性の造血幹細胞集団を患者の眼に硝子体内注入することを包含し、前記幹細胞集団が治療上有用な遺伝子でトランスフェクトされている、導入遺伝子を患者の網膜血管構造に送達する方法。
【請求項59】
(a)哺乳動物から骨髄を抽出すること、
(b)前記骨髄から複数の単球を分離すること、
(c)CD45、CD3、Ly−6G、CD11及びTER−119に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記複数の単球を標識すること、及び、
(d)前記複数の単球からCD45、CD3、Ly−6G、CD11及びTER−119に関して系統陽性であった単球を除去して、内皮前駆細胞を含む系統陰性の造血幹細胞集団を得ること、
により、トランスフェクトされた系統陰性の造血幹細胞を調製する、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
単離された系統陰性の造血幹細胞集団の少なくとも約50%が細胞マーカーCD31及びc−kitを含む、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記遺伝子が網膜の新生血管形成を阻害するのに有用である、請求項58に記載の方法。
【請求項62】
内皮前駆細胞を含有する単離された、哺乳動物の骨髄に由来する、系統陰性の造血幹細胞集団の中から神経栄養性の救出を誘導する数の細胞を哺乳動物の罹患した眼に投与することを包含し、前記幹細胞の少なくとも約50%がCD31及びc−kitに関する細胞マーカーを含む、網膜変性疾患を罹っている哺乳動物の網膜において神経栄養性の救出を誘導する方法。
【請求項63】
(a)哺乳動物から骨髄を抽出すること、
(b)前記骨髄から複数の単球を分離すること、
(c)CD45、CD3、Ly−6G、CD11及びTER−119に対するビオチン結合系統パネル抗体で前記複数の単球を標識すること、及び、
(d)前記複数の単球からCD45、CD3、Ly−6G、CD11及びTER−119に関して系統陽性であった単球を除去して、内皮前駆細胞を含む系統陰性の造血幹細胞集団を得ること、
により、幹細胞集団が単離される、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記哺乳動物がヒトである、請求項62に記載の方法。
【請求項65】
前記細胞が硝子体内注入によって投与される、請求項62に記載の方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−285434(P2010−285434A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−142292(P2010−142292)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【分割の表示】特願2005−505648(P2005−505648)の分割
【原出願日】平成15年7月25日(2003.7.25)
【出願人】(399038620)ザ スクリプス リサーチ インスティチュート (51)
【Fターム(参考)】