説明

連続合成桁橋の架設工法

【課題】 連続合成桁橋の架設に際し、中間支点部に発生する引張力を打ち消すために、従来のような、コンクリート床版の施工後早い時期に、鋼桁と一体的に結合されたコンクリートに強制圧縮力を与える工法では、コンクリートだけでなく鋼桁まで変形するような大きい圧縮力を必要とし、かつ、圧縮力が与られた後にもコンクリートが乾燥収縮により収縮するので、圧縮力の付与が有効に作用せず、ひび割れを防止できないという問題がある。
【解決手段】 中間支点部3に架設した鋼桁4上にコンクリート床版9を非結合の状態で施工し、その後、他の区間の架設工事を行って、コンクリート床版を十分に乾燥収縮させてから強制圧縮力を与えることにより、圧縮力をコンクリート床版にだけ与え、しかも圧縮力付与後に生ずる乾燥収縮による収縮量を小さくして、圧縮力が有効に与えられてひび割れを的確に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋軸方向の引張力が作用する中間支点部上のコンクリート床版に、予め効率的に強制圧縮力が加えられるように改良することで、コンクリート床版にひび割れが発生することを防止できるようにした連続合成桁の架設工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート床版と鋼桁とを一体化した連続合成桁橋としては、コンクリート床版に予め強制圧縮力を与えない形式の連続合成桁橋と、コンクリート床版に予め強制圧縮力を与える形式の連続合成桁橋とが知られている。
【0003】
前者の、コンクリート床版に予め強制圧縮力を与えない形式の連続合成桁橋は、コンクリート床版のひび割れが発生することを許容しながらも、そのひび割れ幅を制限値以下に制御するものであって、コンクリート床版にひび割れが発生する区間での荷重を支える桁作用は鋼桁および鉄筋のみに期待するものである。
【0004】
また、後者の、コンクリート床版に予め強制圧縮力を与える形式の連続合成桁橋は、例えば、図12に示すように、中間支点部Bのコンクリート床版Aにひび割れが発生することを防止するために、施工時にコンクリート床版Aに強制的に圧縮力を与えるものであるが、この圧縮力を与える形式にも、図は省略したが、コンクリート床版の施工後の初期段階に支点部をジャッキによりダウンさせてコンクリート床版に圧縮力が発生するように桁を曲げ変形させる方式と、図12のように、支点部Bのコンクリート床版A内部に橋軸方向に沿って挿通したPC鋼材Dに緊張力を与えて、この緊張力を両端の定着部からコンクリート床版Aに圧縮力Pとして伝えるようにした方式とが知られている。
【0005】
一方、上記の方式のうち、コンクリート床版Aに挿通したPC鋼材Dを緊張してコンクリート床版Aに圧縮力を発生させる合成桁については、鋼桁とコンクリートとの接触面に硬化時間の長い遅延硬化性樹脂を介在させることで、コンクリートが打設された直後から所定の時間が経過するまでの間は、鋼桁がコンクリートを拘束しないようにして、コンクリートに強制圧縮力が与えられることによる変形などに対し、鋼桁によるコンクリートの変形拘束の影響をできるだけ小さくして、強制圧縮力が有効に与えられるようにした合成桁が知られている。
【特許文献1】特開2002−4475号公報
【特許文献2】特開2003−278385号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、連続合成桁橋では、舗装や高欄などの橋面荷重や、コンクリート床版の乾燥収縮やクリープ現象、あるいは通行車輌等によって、コンクリート床版に引張力が発生する区間があり、引張りに弱いコンクリートに引張強度以上の引張力が作用すると、コンクリート床版にはひび割れが発生する。
【0007】
先に述べた連続合成桁のうち、コンクリート床版に予め強制圧縮力を与えない形式の連続合成桁橋では、ひび割れの発生したコンクリート床版が、荷重を支える桁作用に対して有効に寄与しないため、鋼桁および鉄筋は全荷重を分担して耐えるだけの桁高が必要となるとともに、コンクリート床版の引張変形を小さくして、ひび割れ幅が耐久性に影響を及ぼさない制限値に制御するために、大きな桁剛性を有する寸法が必要となり、使用する鋼材料の量が多くなるので経済的効果が薄いという問題がある。
【0008】
これに対して、図12に示したように、コンクリート床版に予め強制圧縮力を与える形式の連続合成桁橋では、現場での工事期間の冗長を避けるために、コンクリート床版Aの施工後の初期段階で強制圧縮力を与えるのが一般的である。しかし、コンクリート床版Aの施工後すぐに強制圧縮力を与えると、強制圧縮力を与えられた後にクリープ現象による収縮や乾燥収縮が大きく進行するので、予め与える強制圧縮力は、完成時に作用させるべき圧縮力に、このクリープ現象や乾燥収縮で相殺される分を加えた大きな量の力が必要になるという問題がある。
【0009】
また、コンクリート床版Aのクリープ現象や乾燥収縮が進行する段階では、コンクリート床版Aは下側に合成した鋼桁Cからの変形に対する拘束力も受けているため、自由に収縮できないコンクリート床版Aには引張力が発生することになる。
【0010】
支点部をジャッキによりダウンさせてコンクリート床版に圧縮力が発生するように鋼桁を曲げ変形させる方式では、大規模な橋梁の支点部をジャッキにより下降させる際の作業の安全性に問題があり、また、支点部に与える強制鉛直変位量からコンクリート床版の水平橋軸方向に発生する圧縮力を判断するための管理精度が低いという問題がある。
【0011】
さらに、コンクリート床版Aに挿通したPC鋼材Dを緊張してコンクリート床版Aに圧縮力を発生させるプレストレス方式では、図12のように、コンクリート床版Aは下側にある鋼桁Cと合成して一体化しているために、コンクリート床版Aのみを圧縮変形させて圧縮力を与えればよいのに、鋼桁Cまで変形させる不要なほど大きい圧縮力を与えなければならず、材料や工事に要する費用の面で経済的でないという問題を有し、また、必要なPC鋼材が床版内に配置できないほどの量になる場合もある。
【0012】
一方、上記のコンクリート床版にプレストレスによる圧縮力を与える合成桁については、前記特開2002−4475号のように、鋼桁とコンクリートとの接触面に硬化時間の長い遅延硬化性樹脂を設け、コンクリートが打設された直後から所定の時間が経過するまでの間は、鋼桁がコンクリートを拘束しないようにして、コンクリートに強制圧縮力が有効に与えられるようにした構造が知られている。
【0013】
しかし、現時点では、この合成桁構造について、鋼桁とコンクリートとの間に遅延硬化性樹脂を用いることでプレストレスを有効に導入できるという利点を有することは知られていても、この構造を連続合成桁橋の架設工法全体の工程の中で、他の工程とどのように組み合わせて使用すれば、この合成桁構造のもつ有効性をいかに架設工法の中へ適切に活用することができるか、ということについては未だ解明がなされていない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記のような、従来における連続合成桁橋のコンクリート床版に強制圧縮力を与える方式の各種の問題点を解消する手段として、コンクリート床版を鋼桁と非結合の状態で接合する合成桁構造の利点を、連続合成桁橋の架設工法という全体の工程の中へ合理的に活用することにより、コンクリート床版へ有効な強制圧縮力を与えることができ、PC鋼材や桁の鋼材の使用量も経済的で、かつ、工期も効率的な現場工事手順とすることができるような連続合成桁橋の架設工法を提供するものである。
【0015】
本発明は、そのための具体的手段として、橋軸方向の引張力が作用する中間支点部上のコンクリート床版に、強制圧縮力を与えてひび割れを生じさせないようにする連続合成桁の架設工法において、まず前記中間支点部上に鋼桁を架設して、この中間支点部の鋼桁上にコンクリート床版を鋼桁と非結合の状態で施工し、前記コンクリート床版に強制圧縮力を与える前の工程として、前記コンクリート床版を設けた区間以外の他の区間の鋼桁の架設、床版型枠の配置などの施工を進めることにより、前記コンクリート床版の乾燥収縮を進行させ、かつ、クリープ現象による変形が小さくなる材齢まで進める期間を確保し、しかる後に前記コンクリート床版に強制圧縮力を与えることを特徴とする。
【0016】
引張力が発生する区間のコンクリート床版を、完成時の位置にて施工する場合には、その区間のコンクリート床版を現場工事手順の初期段階で施工し、強制圧縮力を与えるまでに、その他の区間の鋼桁の架設と床版型枠などを施工して、コンクリート床版の乾燥収縮の大半を進行させ、かつ、クリープ現象による変形が小さくなる材齢まで進める期間を確保することが好ましい。
【0017】
引張力が発生する区間のコンクリート床版を、工場などの完成時の位置以外の場所で分割して製作する場合には、完成時の位置にて強制圧縮力を与えるまでに、コンクリート床版の乾燥収縮の大半を進行させ、かつ、クリープ現象による変形が小さくなる材齢まで進める期間を確保することが好ましい。
【0018】
コンクリート床版に強制圧縮力を与える前の、完成時の位置にてコンクリート床版の乾燥収縮の大半が進行する期間は、コンクリート床版と鋼桁との結合用ずれ止めの拘束力及び/又はコンクリート床版と鋼桁との付着力が抑えられるようにしておくことが好ましい。
【0019】
また、コンクリート床版に強制圧縮力を与える時には、コンクリート床版と鋼桁との結合用ずれ止めの拘束力及び/又はコンクリート床版と鋼桁との付着力が抑えられようにしておくことが好ましい。
【0020】
鋼桁上に、コンクリート床版を非結合の状態で施工する手段としては、鋼桁とコンクリート床版との間に遅延硬化性樹脂を介在させることが好ましいが、鋼桁とコンクリート床版との間にゴムなどの軟質板を介在させて、鋼桁とコンクリート床版との間が縁切りされているようにしてもよい。
【0021】
なお、支間が長く、横からの力に対して抵抗性を高める必要がある場合には、中間支点部付近に鋼桁を架設する際に、鋼桁の下側にコンクリート版あるいは鋼とコンクリートとの合成版からなる下床版を設ける構造としてもよい。
【発明の効果】
【0022】
この連続合成桁橋の架設工法では、まず、引張力が作用する中間支点部の鋼桁上にコンクリート床版を鋼桁と非結合の状態、つまり、コンクリート床版と鋼桁とを縁切りした状態で施工するので、コンクリート床版に、強制圧縮力を与える前の段階で、鋼桁からの拘束力を受けることなく、乾燥収縮の大半を進行させることができる。
【0023】
その結果、後の工程としてコンクリート床版に強制圧縮力を与える時には、前記の大半の乾燥収縮が既に進行し、かつ、クリープ現象による変形が小さくなる材齢まで進んだ後の残りの乾燥収縮やクリープ現象による少ない引張力分や、舗装や高欄などの橋面荷重及び通行車輌により発生する引張力分などを、打ち消すだけの強制圧縮力をコンクリート床版に与えればよく、完成時までに相殺されてしまう割合の少ない、効率的な強制圧縮力を与えることができる。そのため、強制圧縮力を与える際に必要とするPC鋼材の量を少なくして、工事費を大幅に節減することができる。
【0024】
中間支点部の鋼桁上に施工されるコンクリート床版の態様としては、完成時の位置で現場施工により製造されるものと、工場などの完成時の位置以外の場所で分割製作されて現場へ持ち込まれるものとがあるが、いずれの場合も現場工事手順の初期の段階で施工されて、強制圧縮力を与えられるまで、乾燥収縮の大半を進行させ、かつ、クリープ現象による変形が小さくなる材齢まで進めるので、それまでの間は他の区間の鋼桁の架設などの施工工事を、全く無駄な期間を生ずることなく効率的に進行させることができる。
【0025】
本発明の実施の一態様として、支間が長く、風などの横方向からの力に対して抵抗性を高くするため、中間支点部付近の鋼桁の下側にコンクリート版あるいは鋼とコンクリートの合成版からなる下床版を設けた場合には、この付近の構造をコンクリート床版と、鋼桁と、下床版などによる箱断面として、橋軸直角方向荷重に対しての桁の剛性を高めると共に、鋼桁が桁作用により分担する荷重を減らすことができる。また、このような構造によれば、従来の施工方法ではコンクリート床版へ強制圧縮力を効率的に与えられなかったが、本発明の施工方法では、前記コンクリート床版のみに強制圧縮力を効率的に与えることができる。
【0026】
本発明では、上記のように、工事の初期の段階で、引張力が作用する中間支点部の鋼桁上にコンクリート床版を鋼桁と非結合の状態で施工し、コンクリート床版に、強制圧縮力を与える前の段階で、鋼桁からの拘束力を受けることのない条件下で乾燥収縮の大半を進行させ、かつ、クリープ現象による変形が小さくなる材料齢まで進めるので、後の強制圧縮力を与える工程では、強制圧縮力を無駄なく有効に与えることができ、その結果、コンクリート床版にひび割れを発生させず、コンクリート床版の劣化を抑えた、高い耐久性のある構造とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の架設工法を実施するに際しては、引張力が作用する中間支点部上に鋼桁を架設して、この鋼桁上にコンクリート床版を鋼桁と非結合の状態で打設した後、次の工程として、このコンクリート床版に強制圧縮力を与えるのではなく、このコンクリート床版を設けた区間以外の他の区間の鋼桁の架設、床版型枠の配置などの施工を進めることによって、既に打設したコンクリート床版の乾燥収縮を進行させ、かつ、クリープ現象による変形が小さくなる材齢まで進める期間を確保し、しかる後に前記コンクリート床版に強制圧縮力を与えるという工程が好ましい。
【実施例】
【0028】
本発明に係る合成桁橋の架設工法を、図面に示す実施例により説明すると、図1は、施工初期における工事の一形態を示す側面図、図2は、図1の形態を含めた施工初期からコンクリート床版に強制圧縮力が与えられるまでの工事手順を示した工程図である。図1に示すように、この架設工法は、まず、橋脚1上の中間支点部3上に鋼桁4を架設して、この鋼桁4上にコンクリート床版9を施工し、このコンクリート床版9に強制圧縮力を与える前の工程で、鋼桁4の両端から両岸の橋台2,2に向けて支間部鋼桁13の架設が行われる。
【0029】
詳細には、図2のうち、図2aに示すように、両岸の橋台2の間に設けられた橋脚1の中間支点部3上に、後の工程で打設されるコンクリート床版に強制圧縮力を作用させる区間に相当する長さの中間支点部鋼桁4を架設する。
【0030】
中間支点部3上に、前記鋼桁4が架設されると、次の工程としては、図2bのように、中間支点部3付近の足場5の設置、床版型枠6の設置、PC鋼材7の配置など、この鋼桁4上にコンクリート床版が打設されるのに必要な工事を施工する。
【0031】
なお、支間が長く、横からの力に対しての抵抗性を高めるために、上記足場5の設置、床版型枠6の設置、PC鋼材7の配置などの工事の進行と並行して、図4及び図5に示すように、中間支点部3の鋼桁4の下側に鋼とコンクリートとの合成版からなる下床版8を設ける構造とする場合もある。
【0032】
次いで、図2bに示すように、床版型枠6の設置、PC鋼材7の配置などの工事が終了した後、この鋼桁4上にコンクリート床版9が打設される。このコンクリート床版9の打設に際しては、鋼桁4上にコンクリート床版9を鋼桁4と非結合の状態、つまり、コンクリート床版9と鋼桁4とが縁切りされているような状態に施工する。
【0033】
コンクリート床版9を鋼桁4と非結合の状態に施工するための手段としては、例えば、図6に示すように、コンクリート床版9が打設される前の鋼桁4の上面及びずれ止め10の周囲に、特許第3429222号に開示されているような、未硬化時はゲル状態なので、コンクリートが乾燥によって収縮する際に、鋼桁4からの拘束力を受けることなく自由に変形することができ、長い時間を経て硬化した後は圧縮強度がコンクリートの圧縮強度以上に変化するという性質をもった遅延硬化性樹脂11が用いられる。
【0034】
鋼桁4の上面に突出するずれ止め10の周囲に遅延硬化性樹脂11を塗布する作業が煩雑となる場合には、図7に示すように、鋼桁4とコンクリート床版9との間の平面的な付着面に遅延硬化樹脂11か、もしくはゴムシート(図示せず)を敷設して、鋼桁4とコンクリート床版9との間に付着力が生じないようにしておくと共に、鋼桁4の上面にコンクリート床版9を打設する時には、それぞれのずれ止め10の周囲に、ずれ止め10と接触しない空間を有するような縦孔12を設けておき、コンクリート床版9にクリープ現象や乾燥収縮が生じたり、後の工程でコンクリート床版9にプレストレスが与えられても、鋼桁4やずれ止め10がコンクリート床版9の変形に拘束力を与えないように構成する。
【0035】
上記のコンクリート床版9の施工については、コンクリート床版9が完成時の位置にて打設施工される現場打ち方式による場合と、コンクリート床版9が、工場などの完成時の位置以外の場所で分割して製造されるプレキャスト方式による場合とが考えられる。なお、プレキャスト方式の場合には、工場で製造される際に、後に配置される場所の形状に適合するような、ずれ止め挿入用の縦孔12を予め開設しておく。
【0036】
前記図2bに示すように、鋼桁4上にコンクリート床版9が施工されると、従来の架設工法のように、引き続いてコンクリート床版9にプレストレスを導入するのではなく、図2cに示すように、鋼桁4の両端から両岸の橋台2に向けて、支間部鋼桁13が順次接続されるように鋼桁の張り出し架設を進行する。
【0037】
そして、前記支間部鋼桁13の架設に次いで、図2dのように、支間部鋼桁13の足場14の設置、床版型枠15の設置などの工事を施工すると共に、引き続き図2eのように、支間部鋼桁13上に床版鉄筋16を配置するなど、既にコンクリート床版9を設けた区間以外の他の区間の架設に必要な工事を一通り進行させる。
【0038】
上記支間部鋼桁13の架設、足場14の設置、床版型枠15の設置、床版鉄筋16の配置などの工事を施工している間、前記コンクリート床版9は、鋼桁4及びずれ止め10との間に介在した遅延硬化性樹脂11や縦孔12の空間などにより、鋼桁4との付着力や拘束力を受けない実質的な縁切り状態となっている。そのため、コンクリート床版9は、その間に乾燥収縮の大半が進行し、かつ、クリープ現象による変形が小さくなる材齢まで進むことになる。
【0039】
コンクリート床版9の施工については、前に述べたように、現場打ち方式による場合と、プレキャスト方式による場合とがあり、図1は現場打ち方式による場合を示しているが、図示しないプレキャスト方式による場合も、当該プレキャスト床版は鋼桁4上に架設されてから所定の期間、つまり、支間部鋼桁13の架設の工事が終了するまでは、鋼桁4との付着力や拘束力を受けない縁切り状態のもとで放置され、その間乾燥収縮が十分に進み、かつ、クリープ現象による変形が小さくなる材齢まで進行させる。
【0040】
支間部鋼桁13の架設工事全般が完了した後は、図2fに示すように、中間支点部鋼桁4の上のコンクリート床版9に配置したPC鋼材7によりコンクリート床版9に強制圧縮力を与える。その時、図7のように、コンクリート床版9におけるずれ止め10の周囲に縦孔12を設けた施工例の場合には、強制圧縮力を与えた後、縦孔12内にモルタルの詰め物を充填して床版と鋼桁とを一体化する。
【0041】
前述のように、鋼桁上に施工したコンクリート床版にプレストレスを与える場合、従来の施工手順では、図11のように、コンクリート床版Aは鋼桁Cと結合されているので、コンクリート床版Aに両端から圧縮力を加えると、圧縮力はコンクリート床版Aにだけ伝えることはできず、鋼桁Cを圧縮変形する力まで分担しなければならないことになる。
【0042】
また、圧縮力が加えられた後にもコンクリートは乾燥収縮によって収縮変形を生ずるので、最終的にコンクリートが強制的に圧縮変形されている量は、プレストレスで与えた強制圧縮変形量から乾燥収縮によりコンクリート自身が収縮した量を除いた分となる。つまり、最終的にコンクリートに作用する強制圧縮力は、プレストレス導入後に発生した乾燥収縮分だけ少なくなり、プレストレスを有効に導入できないことになる。
【0043】
一方、本発明では、コンクリート床版9が鋼桁4と非結合の状態で施工されているため、強制圧縮力が与えられる前の段階では、鋼桁4からの拘束力を受けることのない条件下で、クリープ現象や乾燥収縮による変形の大半を進行させることができる。また、後の強制圧縮力を与える工程では、コンクリート床版9と鋼桁4とは非結合の状態、つまり縁切りされているので、図8のように、強制圧縮力をコンクリート床版9だけに導入でき、従来のようにコンクリート床版Aだけでなく鋼桁Cをも変形するような無駄な力を必要とせずに、強制圧縮力をコンクリート床版9だけに有効に導入することができる。
【0044】
図2fのように、コンクリート床版9にプレストレスが導入された後は、図3gに示すように、支間部鋼桁13にコンクリート床版19施工する。なお、この支間部鋼桁13上にコンクリート床版19が施工される工事開始から約8ケ月頃までは、中間支点部3上の鋼桁4とコンクリート床版9とは未だ結合しない状態、つまり非合成の状態で推移する。
【0045】
次いで、図3hに示すように、コンクリート床版19に舗装、高欄等の橋面施工を行う。この時期は工事開始から約9ケ月程になるが、その時には、中間支点部3上の鋼桁4とコンクリート床版9とが合成し、最後に図3iのように架設工事を全て完了することになる。
【0046】
図9は、プレストレスが導入される部分のコンクリート自身の乾燥収縮について、従来の施工方法によりプレストレスを導入した後のコンクリートの収縮量と、本発明の施工方法によりプレストレスを導入した後のコンクリートの収縮量とを比較した図であるが、従来の施工方法のように、プレストレスをコンクリート床版の施工後1ケ月以内の初期に導入した場合は、プレストレスの導入後においてもコンクリート自身が時間の経過とともに乾燥収縮する量がきわめて大きく、プレストレスが有効に機能していないことになる。
【0047】
これに対して、本発明の施工方法のように、コンクリートを鋼桁と非結合の状態を維持しながら、プレストレスをコンクリート床版の施工後約5ケ月経過後に導入した場合は、プレストレスが導入される前にコンクリートの収縮はあらかた進行しているため、この時点でプレストレスを導入すれば後にコンクリート自身が収縮する量はきわめて少なくて済み、少量のプレストレス鋼材によってプレストレスを有効に発揮させることができる。
【0048】
また、図10は、プレストレスが導入される部分のコンクリートのクリープによる圧縮力の減少量について、従来の施工方法によりプレストレスを導入した後の圧縮力の減少量と、本発明の施工方法によりプレストレスを導入した後の圧縮力の減少量とを比較した図であるが、従来の施工方法のように、プレストレスをコンクリート床版の施工後1ケ月以内の初期に導入した場合は、プレストレスの導入後においてもコンクリート自身が時間の経過とともに収縮する量が大きく、プレストレスが有効に機能していない。
【0049】
一方、本発明の施工方法では、プレストレスが導入される前にコンクリートのの材齢が進み、クリープ現象による変形も小さいため、この時点でプレストレスを導入すれば後にコンクリート自身がクリープによって収縮する量はきわめて少なくて済み、少量のプレストレス鋼材によってプレストレスを有効に発揮させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の連続合成桁橋の架設工法は、引張力が発生する中間支点部の鋼桁上に、コンクリート床版を鋼桁と縁切りされるように施工した後、他の区間の架設工事を進めて、前記コンクリート床版にクリープ現象や乾燥収縮を生じさせる時間をおいてからプレストレスを導入するので、従来の架設工法に比較して工期的にも問題がなく、かつ、プレストレスを有効に導入できて、ひび割れの発生を的確に防止することのできる実用性のある工法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る架設工法の初期の一工程を示す側面図。
【図2】本架設工法の工期開始からプレストレス導入までの手順を示す説明図。
【図3】同じくプレストレス導入から架設完了までの手順を示す説明図。
【図4】中間支点部の鋼桁の下側に下床版を設けた形状を示す断面図。
【図5】中間支点部の鋼桁の下側に下床版を設けた形状を示す斜視図。
【図6】鋼桁とコンクリート床版との間を遅延硬化性樹脂を介して非合成としたコンクリート床版の断面図。
【図7】鋼桁とコンクリート床版との間を他の手段により非合成としたコンクリート床版の断面図。
【図8】本発明の工法によりコンクリート床版にプレストレスを導入した状態を示すコンクリート床版の断面図。
【図9】プレストレスの導入後におけるコンクリートの収縮量について、従来の施工方法と本発明の施工方法とを比較したグラフ図。
【図10】プレストレスの導入後におけるコンクリートのクリープによる圧縮力の減少量について、従来の施工方法と本発明の施工方法とを比較したグラフ図。
【図11】従来工法により、コンクリート床版にプレストレスを導入した状態を示すコンクリート床版の断面図。
【図12】従来工法により、中間支点部上のコンクリートに生ずる引張力を打ち消すために強制圧縮力を与えた状態を示すコンクリート床版の断面図。
【符号の説明】
【0052】
1:橋脚、
2:橋台、
3:中間支点部、
4:鋼桁、
5:足場、
6:床版型枠、
7:PC鋼材、
8:下床版、
9:コンクリート床版、
10:ずれ止め、
11:遅延硬化性樹脂、
12:縦孔、
13:支間部鋼桁、
14:足場、
15:床版型枠、
16:床版鉄筋



【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋軸方向の引張力が作用する中間支点部上のコンクリート床版に、強制圧縮力を与えてひび割れを生じさせないようにする連続合成桁の架設工法において、まず前記中間支点部上に鋼桁を架設して、この中間支点部の鋼桁上にコンクリート床版を鋼桁と非結合の状態で施工し、前記コンクリート床版に強制圧縮力を与える前の工程として、前記コンクリート床版を設けた区間以外の他の区間の鋼桁の架設、床版型枠の配置などの施工を進めることにより、前記コンクリート床版の乾燥収縮を進行させ、かつ、クリープ現象による変形が小さくなる材齢まで進める期間を確保し、しかる後に前記コンクリート床版に強制圧縮力を与えることを特徴とする連続合成桁橋の架設工法。
【請求項2】
引張力が発生する区間のコンクリート床版を、完成時の位置にて施工する場合には、その区間のコンクリート床版を現場工事手順の初期段階で施工し、強制圧縮力を与えるまでに、その他の区間の鋼桁の架設と床版型枠などを施工して、コンクリートの乾燥収縮の大半を進行させ、かつ、クリープ現象による変形が小さくなる材齢まで進める期間を確保する請求項1の連続合成桁橋の架設工法。
【請求項3】
引張力が発生する区間のコンクリート床版を、工場などの完成時の位置以外の場所で分割して製作する場合には、完成時の位置にて強制圧縮力を与えるまでに、コンクリートの乾燥収縮の大半を進行させ、かつ、クリープ現象による変形が小さくなる材齢まで進める期間を確保する請求項1の連続合成桁橋の架設工法。
【請求項4】
コンクリート床版に強制圧縮力を与える前の、完成時の位置にてコンクリート床版の乾燥収縮の大半が進行する期間は、コンクリート床版と鋼桁との結合用ずれ止めの拘束力及び/又はコンクリート床版と鋼桁との付着力を抑える請求項1の連続合成桁橋の架設工法。
【請求項5】
コンクリート床版に強制圧縮力を与える時に、コンクリート床版と鋼桁との結合用ずれ止めの拘束力及び/又はコンクリート床版と鋼桁との付着力を抑える請求項1の連続合成桁橋の架設工法。
【請求項6】
鋼桁上に、コンクリート床版を非結合の状態で施工する手段として、鋼桁とコンクリート床版との間に遅延硬化性樹脂を介在させる請求項1又は4の連続合成桁橋の架設工法。
【請求項7】
鋼桁上に、コンクリート床版を非結合の状態で施工する手段として、鋼桁とコンクリート床版との間にゴムなどの軟質板を介在させる請求項1又は5の連続合成桁橋の架設工法。
【請求項8】
中間支点部付近に鋼桁を架設する際に、鋼桁の下側に下床版を設ける請求項1の連続合成桁橋の架設工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−9339(P2006−9339A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186136(P2004−186136)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000200367)川田工業株式会社 (41)
【Fターム(参考)】