説明

連続熱処理装置

【課題】 ワイヤを使用したウォーキング搬送機構によって、両面に塗布処理が施されたワークを適正に搬送し、塗布面の汚損や局部的な温度ムラの発生を防止しつつ連続的に熱処理を行うことが可能な連続熱処理装置を提供する。
【解決手段】 連続焼成炉10は、加熱室12、ウォーキング搬送機構40、および複数の治具50を備える。複数の治具50は、第1ワイヤ16および第2ワイヤ18を挿通可能な中空部510が長手方向に形成された筒状を呈する。これら治具50は、第1ワイヤ16および第2ワイヤ18におけるワーク100の前端および後端に対応する位置にそれぞれ配置されワーク100を下から支持するように構成される。複数の治具50はそれぞれ、ワーク100に向って先細りするように形成されたテーパ部506であって、ワークの前端または後端に当接するテーパ部506を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のワイヤを含むウォーキング搬送機構によってワークを搬送し、ワークに対して連続的に熱処理を行うように構成された連続熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークに対して連続的に熱処理を行う連続熱処理装置においてワークを搬送するための機構の1つにウォーキング搬送機構が存在する。このようなウォーキング搬送機構の中には、ワークにおける加熱ムラおよび搬送機構の動作による熱損失を低減する目的で、複数の細いワイヤにウォーキング動作をさせてワークを搬送させる構成を採用するものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第WO2006/059387号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、両面に回路パターンがプリントされたワークのように両面に塗布処理が施されたワークに対して連続して熱処理を行う要望が高まっているが、上述の特許文献1を含む従来技術では、このような要望にこたえることが難しかった。その理由は、上述のウォーキング搬送機構では、ワークの塗布面とワイヤが接触することにより塗布面が汚損されたり、ワイヤとの接触部において局部的な温度ムラが発生したりする虞があるからである。
【0005】
本発明の目的は、ワイヤを使用したウォーキング搬送機構によって、両面に塗布処理が施されたワークを適正に搬送し、塗布面の汚損や局部的な温度ムラの発生を防止しつつ連続的に熱処理を行うことが可能な連続熱処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る連続熱処理装置は、複数のワイヤを含むウォーキング搬送機構によってワークを所定のストロークで間欠的に搬送しつつ、ワークに対して連続的に熱処理を行うように構成される。この連続熱処理装置は、加熱室、ウォーキング搬送機構、および複数の治具を備える。
【0007】
加熱室は、ワークに対して熱処理を行うように構成される。ウォーキング搬送機構は、加熱室を貫通するように配置された複数のワイヤを含む。
【0008】
複数の治具は、ワイヤを挿通可能な中空部が長手方向に形成された筒状を呈する。これらの治具は、少なくとも加熱室内の複数のワイヤにおけるワークの前端および後端に対応する位置にそれぞれ配置されワークを下から支持するように構成される。
【0009】
そして、ワークの前端および後端に対応する位置に配置される一組の治具はそれぞれ、ワークに向って先細りするように形成されたテーパ部であって、ワークの前端または後端に当接するテーパ部を有する。また、一組の治具はそれぞれ、ワイヤに沿ってウォーキング搬送機構のストロークに対応した取付ピッチで配列される。
【0010】
この構成においては、ワークを治具上に配置するときに、ワークに向って傾斜する傾斜面を有するテーパ部にワークの前端または後端のエッジが載置される。このため、ワークの両面に塗布面が形成されている場合であっても、治具とワークのエッジのみとが接触するだけで、ワイヤおよび治具とワークの塗布面とが接触しなくなる。その結果、両面に塗布面を有するワーク(例えば、太陽電池のセル)の両面に対して同時に熱処理を適正に行うことが可能になる。
【0011】
また、細いワイヤを使用したウォーキング搬送機構では、ワイヤに対して複雑な形状を呈する治具や重量のある治具等を設置することが難しいが、本発明に係る治具は、構成がシンプルであり、かつ、中空部にワイヤを挿通させるだけで容易にワイヤに取り付けることが可能である。また、治具を小サイズ化し易いため、赤外線を遮蔽する面積を小さくして加熱ムラの発生を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ワイヤを使用したウォーキング搬送機構によって、両面に塗布処理が施されたワークを適正に搬送し、塗布面の汚損や局部的な温度ムラの発生を防止しつつ連続的に熱処理を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る連続焼成炉の概略を示す図である。
【図2】治具によってワークを支持する状態を示す図である。
【図3】治具によってワークを支持する状態を示す図である。
【図4】治具の構成を示す図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る連続焼成炉の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を用いて、連続焼成炉10の概略を説明する。この実施形態では、連続焼成炉10は、例えば、両面に印刷面がある太陽電池のセルに対して連続して焼成処理を行うように構成される。連続焼成炉10は、加熱室12、冷却室14、およびウォーキング搬送機構40を備えている。加熱室12は、天井および床に複数の加熱ランプ122を備えており、室内に搬入されたワーク100を加熱するように構成される。冷却室14は、加熱室12の後段に配置されており、加熱室12にて加熱されたワーク100を冷却するように構成される。これらの加熱室12および冷却室14は、支持機構(図示省略)を介して架台24に支持される。
【0015】
ウォーキング搬送機構40は、一対の第1ワイヤ16、一対の第2ワイヤ18、上下駆動用シリンダ20、21、およびスライド機構22を備える。一対の第1ワイヤ16は、加熱室12および冷却室14の室内を貫通するように互いに平行に配置されるとともに、治具50を介してワーク100を下から支持するように構成される。第1ワイヤ16は、一端が上下駆動用シリンダ20に固定されるとともに、中間部が上下駆動用シリンダ21に設けられた2つのプーリ162に張架されており、全体としてU字状を呈するように配置される。第1ワイヤ16の他端は、架台24に設けられたブラケットに取り付けられたワイヤ張力調整用流体圧シリンダ164に取り付けられる。
【0016】
一方で、一対の第2ワイヤ18は、一対の第1ワイヤ16の内側において一対の第1ワイヤ16と平行するように配置される。第2ワイヤ18は、4つのプーリ182に張架されており、全体として環状を呈するように配置される。第2ワイヤ18の両端は、LMガイドに沿ってスライド可能なスライド機構22によって支持されている。
【0017】
第1ワイヤ16および第2ワイヤ18は、いずれも外径0.33mm程度の複数のニクロム素線を、外径が3mm程度になるように撚ることにより構成されているが、第1ワイヤ16および第2ワイヤ18の構成はこれには限定されない。なお、この実施形態では、一対の第1ワイヤ16の内側に一対の第2ワイヤ18が配置される例を説明するが、一対の第1ワイヤ16の外側に一対の第2ワイヤ18が配置されても良い。
【0018】
上述の構成において、熱処理されるべきワーク100は、第2ワイヤ18における加熱室12の前段部に搬入される。この状態においてスライド機構22が1ストローク分のスライド動作を行うことにより、第2ワイヤ18上のワーク100が1ストローク分だけ前進する。続いて、上下駆動用シリンダ20、21によって第1ワイヤ16を上昇させてワーク100を第2ワイヤ18から第1ワイヤ16に移し、その後、第2ワイヤ18を元の位置まで後退させる。そして、第1ワイヤ16を降下させることにより、ワーク100を第1ワイヤ16から第2ワイヤ18に再びに移す。その後は、上述と同様に、第2ワイヤ18の前進、第1ワイヤ16の上昇、第2ワイヤ18の後退、および第1ワイヤ16の下降を繰り返すことによって、ワーク100を1ストローク分ずつ前進させ、冷却室14の後段に到達したワーク100が順次的に搬出される。
【0019】
続いて、図2を用いて、第1ワイヤ16および第2ワイヤ18においてワーク100を支持する構成を説明する。連続焼成炉10では、第1ワイヤ16および第2ワイヤ18の上に直接的にワーク100を載置するのではなく、第1ワイヤ16および第2ワイヤ18とワーク100との間に概略円筒形を呈する治具50が介在する構成を採用している。
【0020】
治具50は、第1ワイヤ16および第2ワイヤ18を挿通可能な中空部510が長手方向に形成された筒状を呈している。ここでは、中空部510はその断面が直径約3.2mm程度になるように形成されているが、中空部510の大きさは第1ワイヤ16および第2ワイヤ18の直径の大きさに応じて適宜好適な値を採用すると良い。
【0021】
複数の治具50はそれぞれ、第1ワイヤ16および第2ワイヤ18におけるワーク100の前端および後端に対応する位置にそれぞれ配置され、ワーク100を下から支持するように構成される。この実施形態では、複数の治具50は、第1ワイヤ16および第2ワイヤ18における加熱室12内および加熱室12の周囲に配置されているが、複数の治具50の配置はこれには限定されない。例えば、複数の治具50を、加熱室12内および加熱室12の前段にのみ配置したり、加熱室12内にのみ配置したりすることも可能である。一方で、複数の治具50を、第1ワイヤ16および第2ワイヤ18における冷却室14内や冷却室14の後段にも配置しても良い。複数の治具50が、第1ワイヤ16および第2ワイヤ18における少なくとも加熱室12内に配置されていれば、ワーク100の塗布面が融解した状態で第1ワイヤ16および第2ワイヤ18に接触することを防止することが可能となる。また、これにより、融解したアルミペースト等の塗布剤が第1ワイヤ16および第2ワイヤ18に付着することが防止されるため、ワーク100の塗布面の汚損が防止されるとともに、塗布剤の付着に起因して第1ワイヤ16および第2ワイヤ18が汚損することが防止される。
【0022】
ワーク100の前端および後端に対応する位置に配置される一組の治具50は、第1ワイヤ16および第2ワイヤ18のそれぞれに沿って、ウォーキング搬送機構40のストローク(ここでは、スライダ機構22の動作ストローク)に対応した取付ピッチで配列される。
【0023】
各治具50は、ワーク100に向って先細りするように形成されたテーパ部506を備えており、ワーク100の前端または後端にテーパ部506が当接するように配置されている。
【0024】
また、図3に示すように、第1ワイヤ16に取り付けられた治具50と、第2ワイヤ18に取り付けられた治具50とは、互いに平行に配置されるとともに、互いに衝突しない程度の距離を設けて近接配置される。
【0025】
さらに、図4(A)に示すように、各治具50は、第1ワイヤ16または第2ワイヤ18に対する位置を選択的に固定可能なネジ孔502およびビス(小ネジ)504を備えている。ビス504を締めることにより、ビス504が第1ワイヤ16または第2ワイヤ18を押えつけるようになり、各治具50は、第1ワイヤ16または第2ワイヤ18に固定される。一方で、ビス504を緩めることにより、各治具50を第1ワイヤ16または第2ワイヤ18に沿ってスライド移動させることが可能になる。このように、治具50の配置位置を第1ワイヤ16または第2ワイヤ18に沿って任意に変更することが可能であるため、スライダ機構22の動作ストロークと治具50の配置位置を変更することによって、ワイヤの前後動ストロークを簡単に変更することが可能である。なお、この実施形態では、ネジ孔502およびビス504が本発明の位置固定手段に対応するが、位置固定手段の構成はこれに限定されるものではない。
【0026】
以上の構成においては、図4(B)に示すように、第1ワイヤ16および第2ワイヤ18と、ワーク100とが接触しなくなるため、ワーク100の塗布面が第1ワイヤ16または第2ワイヤ18との接触により汚損するといった不都合が発生しなくなる。また、治具50のテーパ部506がワーク50の前端または後端のエッジにのみ当接するため、治具50との接触によりワークの塗布面の汚損が発生することもない。
【0027】
さらには、ワーク100を挟むように前後に配置された治具50のテーパ部506が逆ハの字状に配置されるため、治具50上のワーク100が前後方向に滑ることが起こりにくくなるため、ワーク100を安定して搬送することが可能になる。このように、連続焼成炉10を用いることにより、簡単な手法により適正な両面焼成を行うことが可能となる。
【0028】
なお、上述の実施形態では、治具50の形状を円筒状にしているが、同軸対象形状を呈する形状であれば円筒状に限定されることはない。例えば、治具50の形状を四角筒状、六角筒状、八角筒状のような多角筒状にすることも可能である。同軸対称形状を採用している限り、治具50における回転モーメントの発生に伴って第1ワイヤ16または第2ワイヤ18が捩れ、その捩れが原因でワーク100を支持する状態が変動し、ワーク100が第1ワイヤ16または第2ワイヤ18から脱落するといった不具合の発生を防止できる。また、治具50をコンパクト設計することが可能になるため、赤外線等の遮蔽が最小限に抑えられ、かつ治具50の熱容量を小さくできる。また、治具50が他の部位と物理的干渉を発生しにくいため、取り付けの自由度も高くなる。
【0029】
上述の実施形態では、上下動する第1ワイヤ16および前後動する第2ワイヤ18によってワーク100を搬送する例を説明したが、この実施形態に係る治具50は上述の搬送方式以外の搬送方式においても用いることが可能である。例えば、図5に示すように、固定された第1ワイヤ160と、駆動機構200によって上下動および前後動が可能な第2ワイヤ180とによってワーク100を搬送する構成においても、第1ワイヤ160および第2ワイヤ180のそれぞれに治具50を取り付けることが可能である。
【0030】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0031】
10−連続焼成炉
12−加熱室
14−冷却室
16−第1ワイヤ
18−第2ワイヤ
50−治具
100−ワーク
502−ネジ孔
504−ビス
506−テーパ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のワイヤを含むウォーキング搬送機構によってワークを所定のストロークで間欠的に搬送しつつ、ワークに対して連続的に熱処理を行うように構成された連続熱処理装置であって、
ワークに対して熱処理を行う加熱室と、
前記加熱室を貫通するように配置された複数のワイヤを含むウォーキング搬送機構と、
前記ワイヤを挿通可能な中空部が長手方向に形成された筒状を呈する治具であって、少なくとも前記加熱室内の前記複数のワイヤにおける前記ワークの前端および後端に対応する位置にそれぞれ配置され前記ワークを下から支持するように構成された複数の治具と、を備え、
前記ワークの前端および後端に対応する位置に配置される一組の治具はそれぞれ、前記ワークに向って先細りするように形成されたテーパ部であって、前記ワークの前端または後端に当接するテーパ部を有するとともに、前記ワイヤに沿って前記ウォーキング搬送機構のストロークに対応した取付ピッチで配列される連続熱処理装置。
【請求項2】
前記治具は、前記ワイヤに対する前記治具の位置を選択的に固定するように構成された位置固定手段を備えた請求項1に記載の連続熱処理装置。
【請求項3】
前記治具は、同軸対象形状を呈する請求項1または2に記載の連続熱処理装置。
【請求項4】
前記治具は、円筒状を呈する請求項1〜3のいずれか1項に記載の連続熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−196612(P2011−196612A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63945(P2010−63945)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【Fターム(参考)】