連続繊維シート固定部材及びこれを用いた構造物補強工法
【課題】連続繊維シートを切断することなく構造物を簡単に且つより効果的に補強することができる、軽量でコンパクトな形状の連続繊維シート固定部材及びこれを用いた構造物補強工法を提供すること。
【解決手段】連続繊維シート固定部材10は、連続繊維シート20を面101に接合し、その両端27(28)を固定する構造物の補強工事に使用される部材であり、シート巻き掛け部30と、フランジ部40とを具備している。シート巻き掛け部30は、略三角形又は構造物側の面が平面である略楕円形であり、端部定着面を有している。連続繊維シート20の端部27(28)の巻き掛け部への巻き掛け及び定着は、面101に接着された連続繊維シート20上に連続繊維シート固定部材10を載置した後、端部定着面90に定着することによって行われる。フランジ部40には、固定手段50と貫通孔60、61又は切り欠き部が設けられている。
【解決手段】連続繊維シート固定部材10は、連続繊維シート20を面101に接合し、その両端27(28)を固定する構造物の補強工事に使用される部材であり、シート巻き掛け部30と、フランジ部40とを具備している。シート巻き掛け部30は、略三角形又は構造物側の面が平面である略楕円形であり、端部定着面を有している。連続繊維シート20の端部27(28)の巻き掛け部への巻き掛け及び定着は、面101に接着された連続繊維シート20上に連続繊維シート固定部材10を載置した後、端部定着面90に定着することによって行われる。フランジ部40には、固定手段50と貫通孔60、61又は切り欠き部が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RC造やSRC造などの既存のコンクリート建造物の耐震性を高めるために、高強度連続繊維シートを用いて補強する際に、好適に用いられる連続繊維シート固定部材及びこれを用いた構造物補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造部材の補強方法として、炭素繊維シートなどの高強度連続繊維シートを用いた補強方法が行われていることが従来から知られている。この方法は、例えば、柱や梁などの補強をする場合、コンクリート躯体の表面にエポキシ樹脂などの接着剤を用いて連続繊維シートを貼り付けて閉鎖型に巻き付けるもので、連続繊維シートが樹脂によりコンクリート躯体に密着してこれを被覆した状態で、その補強効果を発揮させることができる。
【0003】
一方、既存の実構造物の補強を考えた場合、補強したい柱や梁に壁やスラブなどが付帯していることで、連続繊維シートを閉鎖型に巻き付けることが難しい場合が多い。この様な場合において、補強したい柱や梁の一部の表面に単に連続繊維シートを強固に接着しただけでは、独立した柱や梁の全周を閉鎖型に巻き付ける補強方法に比べ、その補強効果は極めて低いものとなる。
また、壁やスラブのような面状の部材を補強する際には、連続繊維シートの両端を壁やスラブ、あるいはそれらの周囲の柱や梁に確実に定着する必要がある。
【0004】
そこで連続繊維シートの両端をしっかりと固定して構造物の補強効果を高めるために、従来様々な試みがなされてきた。特許文献1、特許文献3及び特許文献8では、構造物に貼り付けた連続繊維シートに、連続繊維シートを補強するための定着プレートを接着剤で接着し、この定着プレートの上からアンカーボルトで連続繊維シートを押さえることによる構造物補強技術を開示している(以下、「Aタイプ」という。図10参照)。
【0005】
特許文献6では、構造物の柱又は梁と壁又はスラブとの隅部に円形棒材を設けて、この円形棒材に柱又は梁に貼り付けた連続繊維シートを巻き付けて折り返し、貼り付けた連続繊維シートと折り返した連続繊維シートの両方を、定着アングルといわれるL字型押さえ部材とアンカーボルトとで押さえることによる構造物補強技術を開示している(以下、「Bタイプ」という。図11参照)。
【0006】
特許文献2及び特許文献3では、柱又は梁と壁との隅部まで連続繊維シートを貼り付けた後、この隅部に位置する連続繊維シート端部に、L字型の定着アングルを接着し、連続繊維シート接着面でない方向にアンカーボルトを打ち込んで連続繊維シートを固定することによる構造物補強技術を開示している(以下、「Cタイプ」という。図12参照)。
【0007】
特許文献4では、柱又は梁と壁との隅部に円筒形定着冶具を設け、連続繊維シートをこれに巻きつけ、連続繊維シートを貼り付けた後、この円筒形定着冶具へ連続繊維シート接着面でない方向にアンカーボルトを打ち込んで、連続繊維シートを固定することによる構造物補強技術を開示している(以下、「Dタイプ」という。図13参照)。
【0008】
特許文献7では、U字型に加工した冶具に予め連続繊維シートを貼り付けておき、躯体側に貼り付けた連続繊維シートにこれを貼り合わせて定着させることによる構造物補強技術を開示している(以下、「Eタイプ」という。図14参照)。
【特許文献1】特開平9−144338号公報
【特許文献2】特開平9−144339号公報
【特許文献3】特開平9−144334号公報
【特許文献4】特開平10−298930号公報
【特許文献5】特開平10−252018号公報
【特許文献6】特開平10−238134号公報
【特許文献7】特開2000−274085号公報
【特許文献8】特開2005−068921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上述の種々の構造物補強技術では、強度計算上、十分な補強効果を呈していない。具体的には、Aタイプでは、構造物に貼り付けた連続繊維シートにアンカーボルトを打ち込むことにより、連続繊維シートを切断してしまい、シート貼り付け面積が減少し、また、押さえつけが不十分になることから、補強効果が低下するという問題がある。これに対して、貼り付ける繊維を厚くするなどして繊維補強量を多くすると、定着プレート及びアンカーボルトのサイズが大きくなるため、これら補強資材の重量が増して作業性が劣る。さらに、定着プレート等のサイズが大きくなるのに伴って、繊維切断面積も増加する上、定着プレートと連続繊維シートの接着部分は構造計算上有効な補強範囲に算定されないため、繊維補強量を多くすることによっても、補強効果を飛躍的に向上させることはできないという問題もある。
【0010】
Bタイプでは、円形棒材の径が小さく、連続繊維シートの応力を円形棒材に有効に伝達してこれを吸収できないという問題がある。また、円形棒材に隣接する位置にL字型の定着アングルで連続繊維シートを押さえつけるときに、定着アングルの角で巻き返したシートが切れる可能性があり、さらに、この定着アングルの上からアンカーボルトで連続シートを押さえ込むため、Aタイプと同様に、連続繊維シートを切断してしまい、結果的に補強効果が低下するという問題もある。
【0011】
Cタイプでは、連続繊維シートに直接アンカーボルトを打ち込まないため、連続繊維シートが切断されることはない。しかし、連続繊維シートの幅や厚さの増加による補強量の増加がある場合には、これを重量と圧力で押さえ込む定着プレートやアンカーボルトのサイズが必然的に大きくなり、これらの重量の増加は作業性を低下させるという問題がある。また、上述と同様に、定着プレートと連続繊維シートの接着部分は有効な補強範囲に算定できないという問題もある。さらに、定着プレートを連続繊維シートの引張り張力Pと反対方向に打ち付けて固定するとき、固定力をモーメントP・e(引張り張力Pとアンカーボルト−柱間距離eの積)に抵抗させるべく、定着プレートのサイズを大きくする必要があるという問題がある。
【0012】
Dタイプでは、円筒形定着冶具へアンカーボルトを打ち込むため、結果的に、円筒形定着冶具に巻き付けてある連続繊維シートを切断してしまい、補強効果が低下するという問題がある。また、施工面においても、現場で連続繊維シートを円筒形定着冶具に巻き付けて、連続繊維シートが弛まないように固定することが困難であるという問題がある。さらに、円筒形定着冶具を連続繊維シートの引張り張力Pと反対方向に打ち付けて固定するとき、固定力をモーメントP・e(引張り張力Pとアンカーボルト−柱間距離eの積)に抵抗させるべく、円筒形冶具のサイズを大きくする必要があるという問題もある。
【0013】
Eタイプでは、躯体に貼り付けた連続繊維シートとの定着が定着冶具よりも外側となるため、定着範囲が長くなる。また、定着冶具と連続繊維シートの接着部分は有効な補強範囲に算定できないという問題がある。
【0014】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、連続繊維シートを切断することなく構造物を簡単に且つより効果的に補強することができる、軽量でコンパクトな形状の連続繊維シート固定部材及びこれを用いた構造物補強工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0016】
請求項1の発明は、連続繊維シート(20)(以下、「シート」ということもある。)を構造物の面(101又は102)に接合し、その両端(27、28)を固定する構造物の補強工事に使用される連続繊維シート固定部材(10、12)(以下、「シート固定部材」ということもある。)であって、
連続繊維シート固定部材は、連続繊維シートの端部を巻き掛けて定着させるためのシート巻き掛け部(30、32)(以下、「巻き掛け部」ということもある。)と、シート巻き掛け部の連続繊維シート巻き掛け方向に対して直角方向両脇に設けられているフランジ部(40、42)とを具備しており、
シート巻き掛け部の断面形状は、巻き掛け部の少なくとも二つの角が滑らかな曲面となるような略三角形又は構造物側の面(70)が平面である略楕円形であり、
シート巻き掛け部は、構造物側の面と、連続繊維シートの端部を巻き掛けて定着させる端部定着面(90)とを有しており、
連続繊維シートの端部の巻き掛け部への巻き掛け及び定着が、端部を残して構造物に接着された連続繊維シート上に連続繊維シート固定部材を載置した後、端部を巻き掛け部に巻き掛けて、その端部定着面に定着するように定着することによって行われ、
フランジ部には、連続繊維シートの両端の構造物上に固定手段(50)を取り付けて、連続繊維シート固定部材を固定するための貫通孔(60、61、62、63)又は切り欠き部が設けられていることを特徴とする連続繊維シート固定部材によって、前記課題を解決しようとするものである。
【0017】
「連続繊維シート固定部材」は、梁又は柱と壁とが直交する隅部、又は梁とスラブが直交する隅部における、梁もしくは柱又は壁もしくはスラブのいずれかにアンカーボルトのような固定手段によって取り付けられることにより使用される。
【0018】
「シート巻き掛け方向」とは、連続繊維シートの端部をシート巻き掛け部に巻き掛けるために引っ張る方向をいう。
【0019】
「シート巻き掛け部」とは、連続繊維シートの端部を接着剤等により定着させる部分であって、その断面形状は、連続繊維シート引っ張り方向側の少なくとも二つの角が滑らかな曲線を有する略三角形が、加工上又は施工上好ましいが、構造物側の面が平面である略楕円形であってもよい。シート巻き掛け部を連続繊維シート上に載置するときは、補強効果を向上させるため、巻き掛け部の構造物側の面に接着剤等で定着させないことが好ましい。「曲面」は、滑らかであるほど連続繊維シートが切断されにくく、好ましい。また、シート巻き掛け部のシート巻き掛け方向の長さは、長すぎると加工上、施工上又は強度上問題が出てくるが、ある程度長いほうがシートの定着面積が広くなるため、補強効果が高まり好ましい。「構造物側の面」とは、シート巻き掛け部の構造物に面した面のことを指す。
【0020】
本発明における「フランジ部」は、シート巻き掛け部を構造物に固定するために、シート巻き掛け方向に対して直角方向両脇に設けられている鍔状の板である。フランジ部は、シート巻き掛け部に、構造物から少し持ち上げる程度の高さを確保しつつ、フランジ部自体は構造物に密着するように設けられていることが好ましい。シート巻き掛け部と構造物との間には連続繊維シートが通されるからである。
【0021】
また、フランジ部の厚さは、フランジ部をシートの構造物定着面方向に固定手段によって固定する場合には、ある程度薄くてもよい。一方、フランジ部を、シートの引っ張り方向に固定手段によって固定する場合には、フランジ部の形状は略直方体(肉厚の板)となり、固定手段を設けるための貫通孔又は切り欠きは、この略直方体のフランジ部に設けられる。
【0022】
「端部定着面」とは、連続繊維シートの端部を巻き掛けてシートの端を貼り付ける面で、シート巻き掛け部の構造物側の面以外の面を指す。
【0023】
「固定手段」には、アンカーボルトを用いることが好ましいが、構造物に対して十分な強度を維持できる固定手段であれば、これに限られない。また、フランジ部には、固定手段を設けるための「貫通孔」を設けるが、例えば、夫々の貫通孔を円形とすると、施工時に壁やスラブに明けたボルト固定用の穴の位置ずれにより、フランジ部の貫通孔と一致しない場合も出てくる。そこで、これを防いで、この横方向寸法誤差をオフセットするために、片方の貫通孔をフランジ部が延びる方向に長くしてもよいし、あるいは、貫通孔の代わりに、フランジ部が延びる方向に開口するようなスリット状の「切り欠き部」を設けることが好ましい。
【0024】
請求項2の発明は、請求項1に記載の連続繊維シート固定部材において、構造物(101)への定着面(75)には、構造物の連続繊維シート引っ張り方向に対して直角方向を補強する他の連続繊維シート(25)の通過を許容するための溝(80)が設けられていることを特徴とする。
【0025】
「溝」は、連続繊維シート固定部材の両脇の両フランジ部を貫く方向に、その幅よりも小さく、一方、連続繊維シートの幅と略同一又はこれよりも大きくなるように設けられている必要がある。また、溝の深さは、他の連続繊維シートが納まる程度の深さを有している必要がある。
【0026】
請求項3の発明は、連続繊維シート(20)を、補強を要する構造物(101)に貼り付ける工程と、連続繊維シートの両端(27、28)を、請求項1又は2に記載の連続繊維シート固定部材(10、12、15)のシート巻き掛け部(30、32、35)に巻き掛けながら、構造物に貼り付けた連続繊維シート上に、連続繊維シート固定部材のシート巻き掛け部の構造物側の面(70、75)を連続繊維シートに接着しないで連続繊維シート固定部材(10、12、15)を載置、位置決めする工程と、連続繊維シート固定部材のフランジ部(40、42、45)に設けられた貫通孔(60、61、62、63、65、66)又は切り欠き部と固定手段(50、50)とを用いて連続繊維シート固定部材を構造物に固定する工程と、連続繊維シートの両端を端部定着面(90、92、95)に定着させる工程と、を具備する構造物補強工法によって、前記課題を解決しようとするものである。
【0027】
請求項3の発明において、一の連続繊維シートを構造物に貼り付ける工程の後、斯かる連続繊維シートの引っ張り方向に対して直角方向を補強する他の連続繊維シートを貼り付ける場合には、請求項2に記載の連続繊維シート固定部材を用いて構造物を補強する。他の連続繊維シートは、連続繊維シート固定部材の取り付け位置に、斯かるシート固定部材の長手方向に沿って貼り付けられる。
【0028】
請求項4の発明は、請求項3に記載の構造物補強工法において、連続繊維シートは、炭素繊維であることを特徴とする。「炭素繊維シート」には、両面メッシュタイプ、クロスタイプ(一方向織物)、又は離型紙タイプ等があり、これらのいずれかを用いることが好ましいが、これらに限定されない。
【発明の効果】
【0029】
請求項1に記載の発明によれば、連続繊維シートを切断することなく構造物を簡単に且つより効果的に補強することができる、軽量でコンパクトな形状の連続繊維シート固定部材を提供することができる。
【0030】
請求項2に記載の発明によれば、二つの互いに直角する連続繊維シートを用いて構造物をさらに強固に補強することができる、軽量でコンパクトな形状の連続繊維シート固定部材を提供することができる。
【0031】
請求項3に記載の発明によれば、連続繊維シートと請求項1又は2に記載の連続繊維シート固定部材を使用して、簡単に取り付けることができつつも、構造物に十分な補強効果を与えることができる構造物補強工法を提供することができる。
【0032】
請求項4に記載の発明によれば、連続繊維シートが炭素繊維であるとき、構造物に十分な補強効果を与えることができる構造物補強工法を提供することができる。
【0033】
本発明のこのような作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための最良の形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0035】
図1は、本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材に連続繊維シートを固定して構造物に取り付けた状態を示す斜視図である。なお、連続繊維シート固定部材10が取り付けられている構造物は、連続繊維シート固定部材10が載置されている面101とこの面に直交している面100、102を有している。図示の連続繊維シート固定部材10は、連続繊維シート20を面101に定着し、その両端27(28)を固定する面の補強工事に使用される部材であって、連続繊維シート固定部材10は、連続繊維シート20の端部27(28)を巻き掛けて定着させるためのシート巻き掛け部30と、シート巻き掛け部30の連続繊維シート巻き掛け方向に対して直角方向両脇に設けられているフランジ部40、41とを具備しており、
シート巻き掛け部30の断面形状は、シート巻き掛け部30の少なくとも二つの角が滑らかな曲線を有する略三角形又は構造物側の面が平面である略楕円形であり、
シート巻き掛け部30は、構造物側の面と、連続繊維シートの端部を巻き掛けて定着させる端部定着面90とを有しており、
連続繊維シート20の端部27(28)の巻き掛け部への巻き掛け及び定着が、端部27(28)を残して面101に接着された連続繊維シート20上に連続繊維シート固定部材10を載置した後、端部27(28)を巻き掛け部30に巻き掛けて、その端部定着面90に定着することによって行われ、フランジ部40、41には、連続繊維シート20の両端の面101上に固定手段50を取り付けて、連続繊維シート固定部材10を固定するための貫通孔60、61又は切り欠き部が設けられている。
【0036】
図示のように、本発明は、シート巻き掛け部30とフランジ部40、41が一体的に加工されている固定部材であり、シート巻き掛け部30に連続繊維シート20の端部27(28)を巻き掛けて定着させ、一方、フランジ部40、41にはシート固定部材10を面101に固定させるというように、役割を分けている。したがって、本発明は、従来技術と異なり、連続繊維シート20を切断することなくその端部27、28を面101及びもう片方の端部を定着させる面にしっかりと固定して、面101、102に十分な補強効果を与えることができるものである。
【0037】
図1に示す連続繊維シート固定部材10は、構造物、例えば、梁又は柱(ここでは面101)と壁(ここでは面100)とが交わる隅部における、梁又は柱上に、アンカーボルトのような固定手段によって取り付けられることにより使用される。この固定部材10を用いた施工方法は、後に詳述する。
【0038】
図2は、本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材を示す断面図である。図2(a)は、本発明の第一の実施形態として、連続繊維シート固定部材10のシート巻き掛け部30と、その両脇に設けられているフランジ部40(41)の横方向から見た位置関係を説明している。次に、図2(b)と図2(c)は、図2(a)を分解した各部位を説明している。図2(b)は、本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材10のシート巻き掛け部30の断面図である。一方、図2(c)は、本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材10のフランジ部40の断面図である。これらの図面に基づいて、連続繊維シート固定部材10のシート巻き掛け部30及びフランジ部40(41)について、以下説明する。
【0039】
シート巻き掛け部30は、連続繊維シート20の端部27(28)を接着剤等により定着させるための部分である(図2(a)参照)。その断面形状は、図2(b)に示すように、構造物側の面と、連続繊維シート20の端部27(28)を定着させる端部定着部90が曲面となるような面とによって囲まれてできる図形であり、略三角形又は構造物側の面が平面である略楕円形であることが好ましい。シート20上に連続繊維シート固定部材15を安定的に載置するために、シート巻き掛け部30の構造物側に平面であることが必要であり、また、巻き掛けたシート20が切断されないように、シート巻き掛け部30の特にR1で示す範囲では、角がない滑らかな曲面を具備する必要があるからである。また、この形状は、加工上、施工上及び外観上においても好ましい。
【0040】
構造物側の面が平面であることが好ましいのは、そのほうがシート巻き掛け部30を連続繊維シート20上に載置して、シート固定部材10を面101に固定する際に作業性がよいからである。
【0041】
上述した断面形状のうち、略三角形は、面100側(図1参照)の少なくとも二つの角が滑らかな曲面となるような三角形が好ましいが、三つの角すべてが曲面を有していてもよい。シートの端部27(28)を定着させる端部定着部90は、平面であるほうが好ましい。その理由としては、凹凸がないほうがシート20の端部定着面90への定着作業が簡単だからである。また、この形状のほうが、室内の隅部等に施工する場合には、シート固定部材の形状が目立ちにくく、外観上も好ましい。しかし、端部定着面90は、必ずしも平面である必要はなく、構造物側の面70が平面になっている略楕円形の場合にできるような曲面であってもよい。
【0042】
少なくとも二つの角に設けられた滑らかな曲面は、その曲率が滑らかであるほど連続繊維シートの端部27(28)にかかる応力が分散吸収されるために連続繊維シートが切断されにくく、好ましい。
【0043】
また、シート巻き掛け部30のシート巻き掛け方向の長さは、長すぎると加工上、施工上又は強度上問題が出てくるが、ある程度長いほうがシートの定着面積が広くなるため、補強効果が高まり好ましい。
【0044】
図2(c)に示すように、連続繊維シート固定部材10のフランジ部40(41)は、シート巻き掛け部30を面101に固定するために、シート巻き掛け方向に対して直角方向両脇に設けられている板状の部分である(図1参照)。このフランジ部40(41)には貫通孔60(61)又は切り欠き部が設けられている。そして、この貫通孔60(61)又は切り欠き部にアンカーボルトのような固定手段50(図2(a)参照)を挿入して、フランジ部40(41)を面101に密着させて固定することにより、連続繊維シート固定部材10全体を面101に固定させている。
【0045】
フランジ部の厚さは、フランジ部40(41)を面101に対して固定手段50によって固定するため、加工上及び施工状及びコストの面から、強度を保てる程度に薄肉の板状であることが好ましい。
【0046】
図3は、本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材を示す説明図である。図3(a)は、本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材に連続繊維シートを固定して構造物に取り付けた状態を示す平面図である。図3(b)と図3(c)は、図3(a)の連続繊維シート固定部材の正面断面図の例を示している。図3(a)に示すとおり、シート巻き掛け部30は連続繊維シート20を介して面101に、フランジ部40は直接面101に固定される。
【0047】
したがって、図3(b)で示すように、シート巻き掛け部30とフランジ部40の位置関係は、シート巻き掛け部30の構造物側の面70とフランジ部40の面101への定着面77、78は、ほぼ同一面になるように設けられていてもよい。斯かる場合には、連続繊維シート固定部材10のシート巻き掛け部30を面101に定着させたシート20の上に載置したときに、フランジ部40、41はシート20の厚さ分だけやや浮き上がるが、板状のフランジ部40の弾性を利用してボルト締めを行えば、シート20はより強固に面101に押し付けられ、密着する。
【0048】
一方、図3(c)で示すように、シート20にある程度の厚みがある場合、又は、フランジ部が厚く、弾性力があまり期待できないような場合には、連続繊維シート固定部材10’のシート巻き掛け部30’の構造物側の面70’に、シート20の通過を許容する程度の幅及び深さを有する溝82を設けてもよい。また、溝を設ける代わりとして、フランジ部40’、41’は、シート巻き掛け部30’の構造物側の面70’をシート20’の厚さ分構造物から持ち上げつつ、フランジ部40’、41’の定着面77’、78’は面101に密着するように設けられていてもよい。
【0049】
固定手段には、アンカーボルトを用いることが好ましいが、構造物に対して十分な強度を維持できる固定手段であれば、これに限られない。
【0050】
また、固定手段50を取り付けてフランジ部40、41を面101に固定するための貫通孔60、61は、例えば、夫々の貫通孔を円形とすると、施工時に壁やスラブに空けたボルト固定用の穴の位置ずれにより、フランジ部の貫通孔と一致しない場合も出てくる。そこで、これを防いで、この横方向寸法誤差をオフセットするために、片方の貫通孔61、または両方の貫通孔60と61とをフランジ部が延びる方向に長くしてもよいし、あるいは、貫通孔の代わりに、フランジ部が延びる方向に開口するようなスリット状の切り欠き部を設けることが好ましい。
【0051】
図4は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材に連続繊維シートを固定して構造物に取り付けた状態を示す斜視図である。図5は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材を示す断面図である。図5(a)は、本発明の第二の実施形態として、連続繊維シート固定部材15のシート巻き掛け部35と、その両脇に設けられているフランジ部45(46)の横方向から見た位置関係を説明している。次に、図5(b)と図5(c)は、図5(a)を分解した各部位を説明している。図5(b)は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材15のシート巻き掛け部35の断面図である。一方、図5(c)は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材15のフランジ部45の断面図である。さらに、図6は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材を示す説明図である。図6(a)は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材に連続繊維シートを固定して構造物に取り付けた状態を示す平面図である。図6(b)は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材15を示す平面図である。図6(c)は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材15を示す断面図である。
【0052】
図4に示すように、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材15は、その基本構造が、本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材10と同様に、シート巻き掛け部とフランジ部を具備する点で共通している。しかし、図5(a)及び図6に示すように、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材15のシート巻き掛け部35の構造物側の面75と、フランジ部45(46)の定着面79には、夫々、巻き掛けるシート20と直角方向に配置される他の連続繊維シート25の通過を許容する溝85、86(図5(b)参照)、87が設けられている点で、第一の形態の連続繊維シート固定部材10と異なる。これらの図面に基づいて、この連続繊維シート固定部材15の構成要素について以下説明する。これらの図面に基づいて、連続繊維シート固定部材10のシート巻き掛け部30及びフランジ部40(41)について、以下説明する。
【0053】
図5(b)に示すように、シート巻き掛け部35の全体的な形状は、本発明の第一の実施形態と同様、略三角形又は構造物側の面が平面である略楕円形であることが好ましい。シート20上に連続繊維シート固定部材15を安定的に載置するために、シート巻き掛け部35の構造物側に平面である必要があり、また、巻き掛けたシート20が切断されないように、シート巻き掛け部35の特にR2で示す範囲では、角がない滑らかな曲面を具備する必要があるからである。また、この形状は、加工上、施工上及び外観上においても好ましい。
【0054】
図6(b)及び図6(c)に示すように、シート巻き掛け部35の構造物側の面75には、巻き掛ける連続繊維シート20と直角方向に配置される他の連続繊維シート25の通過を許容する両フランジ部45、46を貫く方向の溝86が設けられていることが好ましい。シート巻き掛け部35と面101との間には、シート巻き掛け部35に巻き掛けて定着させる連続繊維シート20が介在する。さらに、この連続繊維シート20に直交するように他の連続繊維シート25を配置すれば、固定部材15のシート巻き掛け部35と面101との間に連続繊維シート20及び25が重なって介在することになり、フランジ部がその厚さ分、面101から浮き上がるからである。
【0055】
巻き掛け部35の溝86の深さが連続繊維シート25の厚さ分である場合には、フランジ部45は連続繊維シート20の厚さ分浮き上がるため、フランジ部の弾性を利用してボルト締めを行えば、連続繊維シート20及び25を強固に面101に固定することができる。一方、巻き掛け部35の溝86の深さが連続繊維シート20及び25の厚さを合計した深さである場合には、フランジ部45をよりしっかり面101に固定することができ、また、フランジ部45が肉厚で弾性を利用できない場合にはより好ましい。
【0056】
また、図5(c)及び図6(c)に示すように、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材15のフランジ部45、46の断面図は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材15のフランジ部40と同じ構造のフランジ部の定着面に他の連続繊維シート25の通過を許容する溝85、87を設けている。
【0057】
シート巻き掛け部35及びフランジ部45、46には他の連続繊維シート25の通過を許容する溝85、86、87が設けられているが、この溝85、86、87の幅は、他の連続繊維シート25の幅と略同一又はやや広めの幅であることが好ましい。
【0058】
フランジ部45は、折り曲げ加工又は溶接等により、巻き掛け部35を持ち上げるように設けることで、巻き掛け部35に溝86を設けないでも他の連続繊維シート25の通過を許容することができる。
【0059】
図7は、本発明の第三の実施形態の連続繊維シート固定部材12を示す斜視図である。本発明の第三の実施形態の連続繊維シート固定部材12は、シート固定部材12を、シート固定部材12の載置方向と垂直の面100方向に固定することができる、本発明の第一及び第二の実施形態の変形例である。すなわち、本発明の第三の実施形態では、第一及び第二の実施形態と固定方向が異なるため、フランジ部の形状が異なる。したがって、ここでは、シート巻き掛け部32の説明は省略し、フランジ部42のみ、以下に説明する。
【0060】
フランジ部42の形状は略直方体(肉厚の板)が好ましい。換言すれば、まず、フランジ部42は、施工上、連続繊維シート20を定着させる面101に定着する面には一定の面積を有していることが好ましい。また、面101に直交方向に隣接する面100に対して固定手段50を取り付けるための貫通孔62、63又は切り欠き部を設けたときの強度を確保するために、フランジ部42、43には、フランジ部42、43を載置する面101に対して高さがあるほうが好ましい。したがって、本発明の第三の実施形態によるフランジ部42は、略直方体の肉厚な構造になる。
【0061】
固定手段を設けるための貫通孔62、63は、斯かる夫々の略直方体のフランジ部42、43の面102側の面の中央部から面100方向に面100と平行に設けられていることが好ましい。
【0062】
上述の本発明の第一、第二及び第三の夫々の実施形態による連続繊維シート固定部材10、12、15の素材は、コンクリート製構造物の補強にかかる力に耐えうる強度と、シート固定部材の加工性等の観点から、金属であることが好ましい。
【0063】
次に、図1を使って、本発明に係る連続繊維シート固定部材を用いた構造物補強工法を説明する。本発明の第一又は第三の実施形態による連続繊維シート固定部材10、12を用いて構造物を補強する場合には、以下の工程を行う。
【0064】
本発明の第一の実施形態による連続繊維シート固定部材を用いた構造物補強工法は、第一の工程で、連続繊維シート20の両端27(28)を少し余らせながら、これを、補強を要する面101に貼り付ける。第二の工程では、余らせた連続繊維シート20の両端27(28)を、連続繊維シート固定部材10のシート巻き掛け部30に巻き掛けながら、面101に貼り付けた連続繊維シート20上に、連続繊維シート固定部材10のシート巻き掛け部30の構造物側の面70(図2参照)を、連続繊維シート20に接着しないで連続繊維シート固定部材10を載置、位置決めする。第三の工程では、連続繊維シート固定部材10のフランジ部40に設けられた貫通孔60、61又は切り欠き部と固定手段50とを用いて連続繊維シート固定部材10を面101に固定する。最後の工程では、連続繊維シート20の両端27(28)を端部定着面90に定着させ、これら四工程により、一通りの補強工法が完結する。
【0065】
本工法では、特に、第二の工程で、シート巻き掛け部30の構造物側の面70をシート20に接着剤等により定着させないで固定することが重要である。斯かる構造物側の面70を接着してしまうと、シート20を巻き掛けるために引っ張った方向と反対方向の張力に対する連続繊維シート20の有効補強面積が、連続繊維シート固定部材10の手前までの領域となってしまうからである。しかし、シート巻き掛け部30の構造物側の面70をシート20に接着剤等により定着させないで固定すれば、シート20の端部27(28)まで、有効補強範囲として算定されるため、より高い補強効果を有するので好ましい。
【0066】
次に、図4を見ながら、本発明の第二の実施形態による連続繊維シート固定部材を用いた構造物補強工法を、以下の工程で説明する。第一の工程では、連続繊維シート20の両端27(28)を少し余らせながら、これを、補強を要する面101に貼り付ける。第二の工程では、余らせた連続繊維シート20の両端27(28)の根元部分に、他の連続繊維シート25を、連続繊維シート20に直角になるように定着させる。第三の工程では、余らせた連続繊維シート20の両端27(28)を、連続繊維シート固定部材10のシート巻き掛け部30に巻き掛けながら、面101に貼り付けた連続繊維シート20及び25の交わる点上に、連続繊維シート固定部材15のシート巻き掛け部35の構造物側の面75を、連続繊維シート20に接着しないで連続繊維シート固定部材15を載置、位置決めする。第四の工程では、連続繊維シート固定部材10のフランジ部40に設けられた貫通孔60、61又は切り欠き部と固定手段50とを用いて連続繊維シート固定部材10を面101に固定する。最後の工程では、連続繊維シート20の両端27(28)を端部定着面90に定着させ、これら五工程により、一通りの補強工法が完結する。
【0067】
本発明の第二の実施形態による連続繊維シート固定部材15を用いた構造物補強工法は、本発明の第二の実施形態による連続繊維シート固定部材15の溝を活かすべく、第二の工程で、余らせた連続繊維シート20の両端27(28)の根元部分に、他の連続繊維シート25を、連続繊維シート20に直角になるように定着させる点が特徴的である。
【0068】
他の連続繊維シート25には、あらかじめボルトなどの固定手段50を設けるための貫通孔を設けていてもよい。
【0069】
図7に示す本発明の第三の実施形態による連続繊維シート固定部材12を用いた構造物補強工法は、本発明の第一及び第二の実施形態による連続繊維シート固定部材10、15を用いた構造物補強工法固定手段とその固定方向のみが異なるため、第三の実施形態を用いた構造物補強工法の説明は省略する。
【0070】
本発明の第三の実施形態による連続繊維シート固定部材12を用いた構造物補強工法では、固定方向が連続繊維シート20の定着面と異なるため、本発明の第二の実施形態による連続繊維シート固定部材15を使用する場合における、他の連続繊維シート25をシート固定部材15のフランジ部45の溝85、86、87に通過させるようなときには、固定手段50で通過させたシート25を切断することがなく、構造物のこのシート25方向のも十分に補強ができるため、好ましい。
【0071】
図8は、本発明に係る連続繊維シート固定部材10、12を用いた構造物補強工法の一例を示す説明図である。図8(a)は、本発明の第一の実施形態による連続繊維シート固定部材10を用いた構造物補強工法の一例を示した断面図である。連続繊維シート固定部材10は、図1で示すように、二つの構造物が直交する隅部に固定して、互いに隣接する二つの構造物に連続繊維シート20を貼り付けて固定すると、補強効果が効果的であり、好ましい。また、同一平面状で、連続繊維シート20の両端部27(28)を引っ張るように固定してもよい。
【0072】
図8(b)は、本発明の第一の実施形態による連続繊維シート固定部材10を用いた構造物補強工法の一例を示した断面図である。固定手段は、図8(a)のように、個々に独立した固定手段50である必要はなく、構造物の柱や梁の向かい合う両側面から連通するように構造物に孔を空けて、二つの向かい合う連続繊維シート固定部材10を共に固定してもよい。
【0073】
図8(c)は、本発明の第一及び第三の実施形態による連続繊維シート固定部材10、12を組み合わせて用いた構造物補強工法の一例を示した断面図である。本発明の第一の実施形態による連続繊維シート固定部材10を構造物の柱等の凸部のない面に配置し、一方、柱等構造物の凸部の三方は連続繊維シート20で囲むように巻き付けて、本発明の第三の実施形態による連続繊維シート固定部材12でその両端部を固定し、最後に柱等の両端に設けたシート固定部材12と、その反対面に設けたシート固定部材10を夫々連通させて固定すれば、壁やスラブのある柱や梁であっても、連続繊維シート20で閉鎖的に巻き付けて補強したのと同等の補強効果を奏することができ、好ましい。
【0074】
図9は、本発明に係る連続繊維シート固定部材を用いた構造物補強工法他の一例を示す説明図である。図9(a)に示すように、耐震壁を打ち抜いて通路を造ったような場合、打ち抜いた領域の上に残された耐震壁の部分は、他の部分に比べて、構造物の強度が落ちる。そこで、この部分の強度を補強するために、二本の連続繊維シートを用いて、打ち抜かれた領域の上に残された耐震壁上で交差するように配置して、両側の耐震壁に連続繊維シートの両端を固定すれば、斯かる部分の強度を補強することができる。
【0075】
また、図9(b)に示すように、耐震壁を打ち抜いて開口を造ったような場合、打ち抜いた領域の周囲の耐震壁の部分は、他の部分に比べて構造物の強度が落ちる。そこで、この部分の強度を補強するために、四本の連続繊維シートを用いて打ち抜かれた領域の周囲に井形配置して、かつ開口部の対角線の延長上に斜め方向の連続繊維シートを配置して、それぞれの連続繊維シートの両端を固定することで、斯かる部分の強度を補強することができる。
【0076】
さらに、図9(c)に示すように、柱や梁が格子状に配置されている構造物の場合では、これらにより囲まれた領域が地震などによって崩壊することを防ぐために、囲まれた四角形に対して対角線上に連続繊維シートを配置して、構造物を補強することもできる。
【0077】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う連続繊維シート固定部材及びこれを用いた補強工法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材に連続繊維シートを固定して構造物に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材を示す断面図である。
【図3】本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材を示す説明図である。
【図4】本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材に連続繊維シートを固定して構造物に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材を示す断面図である。
【図6】本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材を示す説明図である。
【図7】本発明の第三の実施形態の連続繊維シート固定部材に連続繊維シートを固定して構造物に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図8】本発明に係る連続繊維シート固定部材を用いた構造物補強工法の一例を示す説明図である。
【図9】本発明に係る連続繊維シート固定部材を用いた構造物補強工法他の一例を示す説明図である。
【図10】Aタイプの構造物補強技術を示す断面図である。
【図11】Bタイプの構造物補強技術を示す断面図である。
【図12】Cタイプの構造物補強技術を示す断面図である。
【図13】Dタイプの構造物補強技術を示す断面図である。
【図14】Eタイプの構造物補強技術を示す断面図である。
【符号の説明】
【0079】
10、12、15 連続繊維シート固定部材
20、25 連続繊維シート
27、28 端部
30、32、35 シート巻き掛け部
40、41、42、43、45、46 フランジ部
50 固定手段
60、61、62、63、65、66 貫通孔
70、75 構造物側の面
77、79 定着面
80、85、86 溝
90、92、95 端部定着部
100、101、102 面
【技術分野】
【0001】
本発明は、RC造やSRC造などの既存のコンクリート建造物の耐震性を高めるために、高強度連続繊維シートを用いて補強する際に、好適に用いられる連続繊維シート固定部材及びこれを用いた構造物補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造部材の補強方法として、炭素繊維シートなどの高強度連続繊維シートを用いた補強方法が行われていることが従来から知られている。この方法は、例えば、柱や梁などの補強をする場合、コンクリート躯体の表面にエポキシ樹脂などの接着剤を用いて連続繊維シートを貼り付けて閉鎖型に巻き付けるもので、連続繊維シートが樹脂によりコンクリート躯体に密着してこれを被覆した状態で、その補強効果を発揮させることができる。
【0003】
一方、既存の実構造物の補強を考えた場合、補強したい柱や梁に壁やスラブなどが付帯していることで、連続繊維シートを閉鎖型に巻き付けることが難しい場合が多い。この様な場合において、補強したい柱や梁の一部の表面に単に連続繊維シートを強固に接着しただけでは、独立した柱や梁の全周を閉鎖型に巻き付ける補強方法に比べ、その補強効果は極めて低いものとなる。
また、壁やスラブのような面状の部材を補強する際には、連続繊維シートの両端を壁やスラブ、あるいはそれらの周囲の柱や梁に確実に定着する必要がある。
【0004】
そこで連続繊維シートの両端をしっかりと固定して構造物の補強効果を高めるために、従来様々な試みがなされてきた。特許文献1、特許文献3及び特許文献8では、構造物に貼り付けた連続繊維シートに、連続繊維シートを補強するための定着プレートを接着剤で接着し、この定着プレートの上からアンカーボルトで連続繊維シートを押さえることによる構造物補強技術を開示している(以下、「Aタイプ」という。図10参照)。
【0005】
特許文献6では、構造物の柱又は梁と壁又はスラブとの隅部に円形棒材を設けて、この円形棒材に柱又は梁に貼り付けた連続繊維シートを巻き付けて折り返し、貼り付けた連続繊維シートと折り返した連続繊維シートの両方を、定着アングルといわれるL字型押さえ部材とアンカーボルトとで押さえることによる構造物補強技術を開示している(以下、「Bタイプ」という。図11参照)。
【0006】
特許文献2及び特許文献3では、柱又は梁と壁との隅部まで連続繊維シートを貼り付けた後、この隅部に位置する連続繊維シート端部に、L字型の定着アングルを接着し、連続繊維シート接着面でない方向にアンカーボルトを打ち込んで連続繊維シートを固定することによる構造物補強技術を開示している(以下、「Cタイプ」という。図12参照)。
【0007】
特許文献4では、柱又は梁と壁との隅部に円筒形定着冶具を設け、連続繊維シートをこれに巻きつけ、連続繊維シートを貼り付けた後、この円筒形定着冶具へ連続繊維シート接着面でない方向にアンカーボルトを打ち込んで、連続繊維シートを固定することによる構造物補強技術を開示している(以下、「Dタイプ」という。図13参照)。
【0008】
特許文献7では、U字型に加工した冶具に予め連続繊維シートを貼り付けておき、躯体側に貼り付けた連続繊維シートにこれを貼り合わせて定着させることによる構造物補強技術を開示している(以下、「Eタイプ」という。図14参照)。
【特許文献1】特開平9−144338号公報
【特許文献2】特開平9−144339号公報
【特許文献3】特開平9−144334号公報
【特許文献4】特開平10−298930号公報
【特許文献5】特開平10−252018号公報
【特許文献6】特開平10−238134号公報
【特許文献7】特開2000−274085号公報
【特許文献8】特開2005−068921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上述の種々の構造物補強技術では、強度計算上、十分な補強効果を呈していない。具体的には、Aタイプでは、構造物に貼り付けた連続繊維シートにアンカーボルトを打ち込むことにより、連続繊維シートを切断してしまい、シート貼り付け面積が減少し、また、押さえつけが不十分になることから、補強効果が低下するという問題がある。これに対して、貼り付ける繊維を厚くするなどして繊維補強量を多くすると、定着プレート及びアンカーボルトのサイズが大きくなるため、これら補強資材の重量が増して作業性が劣る。さらに、定着プレート等のサイズが大きくなるのに伴って、繊維切断面積も増加する上、定着プレートと連続繊維シートの接着部分は構造計算上有効な補強範囲に算定されないため、繊維補強量を多くすることによっても、補強効果を飛躍的に向上させることはできないという問題もある。
【0010】
Bタイプでは、円形棒材の径が小さく、連続繊維シートの応力を円形棒材に有効に伝達してこれを吸収できないという問題がある。また、円形棒材に隣接する位置にL字型の定着アングルで連続繊維シートを押さえつけるときに、定着アングルの角で巻き返したシートが切れる可能性があり、さらに、この定着アングルの上からアンカーボルトで連続シートを押さえ込むため、Aタイプと同様に、連続繊維シートを切断してしまい、結果的に補強効果が低下するという問題もある。
【0011】
Cタイプでは、連続繊維シートに直接アンカーボルトを打ち込まないため、連続繊維シートが切断されることはない。しかし、連続繊維シートの幅や厚さの増加による補強量の増加がある場合には、これを重量と圧力で押さえ込む定着プレートやアンカーボルトのサイズが必然的に大きくなり、これらの重量の増加は作業性を低下させるという問題がある。また、上述と同様に、定着プレートと連続繊維シートの接着部分は有効な補強範囲に算定できないという問題もある。さらに、定着プレートを連続繊維シートの引張り張力Pと反対方向に打ち付けて固定するとき、固定力をモーメントP・e(引張り張力Pとアンカーボルト−柱間距離eの積)に抵抗させるべく、定着プレートのサイズを大きくする必要があるという問題がある。
【0012】
Dタイプでは、円筒形定着冶具へアンカーボルトを打ち込むため、結果的に、円筒形定着冶具に巻き付けてある連続繊維シートを切断してしまい、補強効果が低下するという問題がある。また、施工面においても、現場で連続繊維シートを円筒形定着冶具に巻き付けて、連続繊維シートが弛まないように固定することが困難であるという問題がある。さらに、円筒形定着冶具を連続繊維シートの引張り張力Pと反対方向に打ち付けて固定するとき、固定力をモーメントP・e(引張り張力Pとアンカーボルト−柱間距離eの積)に抵抗させるべく、円筒形冶具のサイズを大きくする必要があるという問題もある。
【0013】
Eタイプでは、躯体に貼り付けた連続繊維シートとの定着が定着冶具よりも外側となるため、定着範囲が長くなる。また、定着冶具と連続繊維シートの接着部分は有効な補強範囲に算定できないという問題がある。
【0014】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、連続繊維シートを切断することなく構造物を簡単に且つより効果的に補強することができる、軽量でコンパクトな形状の連続繊維シート固定部材及びこれを用いた構造物補強工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0016】
請求項1の発明は、連続繊維シート(20)(以下、「シート」ということもある。)を構造物の面(101又は102)に接合し、その両端(27、28)を固定する構造物の補強工事に使用される連続繊維シート固定部材(10、12)(以下、「シート固定部材」ということもある。)であって、
連続繊維シート固定部材は、連続繊維シートの端部を巻き掛けて定着させるためのシート巻き掛け部(30、32)(以下、「巻き掛け部」ということもある。)と、シート巻き掛け部の連続繊維シート巻き掛け方向に対して直角方向両脇に設けられているフランジ部(40、42)とを具備しており、
シート巻き掛け部の断面形状は、巻き掛け部の少なくとも二つの角が滑らかな曲面となるような略三角形又は構造物側の面(70)が平面である略楕円形であり、
シート巻き掛け部は、構造物側の面と、連続繊維シートの端部を巻き掛けて定着させる端部定着面(90)とを有しており、
連続繊維シートの端部の巻き掛け部への巻き掛け及び定着が、端部を残して構造物に接着された連続繊維シート上に連続繊維シート固定部材を載置した後、端部を巻き掛け部に巻き掛けて、その端部定着面に定着するように定着することによって行われ、
フランジ部には、連続繊維シートの両端の構造物上に固定手段(50)を取り付けて、連続繊維シート固定部材を固定するための貫通孔(60、61、62、63)又は切り欠き部が設けられていることを特徴とする連続繊維シート固定部材によって、前記課題を解決しようとするものである。
【0017】
「連続繊維シート固定部材」は、梁又は柱と壁とが直交する隅部、又は梁とスラブが直交する隅部における、梁もしくは柱又は壁もしくはスラブのいずれかにアンカーボルトのような固定手段によって取り付けられることにより使用される。
【0018】
「シート巻き掛け方向」とは、連続繊維シートの端部をシート巻き掛け部に巻き掛けるために引っ張る方向をいう。
【0019】
「シート巻き掛け部」とは、連続繊維シートの端部を接着剤等により定着させる部分であって、その断面形状は、連続繊維シート引っ張り方向側の少なくとも二つの角が滑らかな曲線を有する略三角形が、加工上又は施工上好ましいが、構造物側の面が平面である略楕円形であってもよい。シート巻き掛け部を連続繊維シート上に載置するときは、補強効果を向上させるため、巻き掛け部の構造物側の面に接着剤等で定着させないことが好ましい。「曲面」は、滑らかであるほど連続繊維シートが切断されにくく、好ましい。また、シート巻き掛け部のシート巻き掛け方向の長さは、長すぎると加工上、施工上又は強度上問題が出てくるが、ある程度長いほうがシートの定着面積が広くなるため、補強効果が高まり好ましい。「構造物側の面」とは、シート巻き掛け部の構造物に面した面のことを指す。
【0020】
本発明における「フランジ部」は、シート巻き掛け部を構造物に固定するために、シート巻き掛け方向に対して直角方向両脇に設けられている鍔状の板である。フランジ部は、シート巻き掛け部に、構造物から少し持ち上げる程度の高さを確保しつつ、フランジ部自体は構造物に密着するように設けられていることが好ましい。シート巻き掛け部と構造物との間には連続繊維シートが通されるからである。
【0021】
また、フランジ部の厚さは、フランジ部をシートの構造物定着面方向に固定手段によって固定する場合には、ある程度薄くてもよい。一方、フランジ部を、シートの引っ張り方向に固定手段によって固定する場合には、フランジ部の形状は略直方体(肉厚の板)となり、固定手段を設けるための貫通孔又は切り欠きは、この略直方体のフランジ部に設けられる。
【0022】
「端部定着面」とは、連続繊維シートの端部を巻き掛けてシートの端を貼り付ける面で、シート巻き掛け部の構造物側の面以外の面を指す。
【0023】
「固定手段」には、アンカーボルトを用いることが好ましいが、構造物に対して十分な強度を維持できる固定手段であれば、これに限られない。また、フランジ部には、固定手段を設けるための「貫通孔」を設けるが、例えば、夫々の貫通孔を円形とすると、施工時に壁やスラブに明けたボルト固定用の穴の位置ずれにより、フランジ部の貫通孔と一致しない場合も出てくる。そこで、これを防いで、この横方向寸法誤差をオフセットするために、片方の貫通孔をフランジ部が延びる方向に長くしてもよいし、あるいは、貫通孔の代わりに、フランジ部が延びる方向に開口するようなスリット状の「切り欠き部」を設けることが好ましい。
【0024】
請求項2の発明は、請求項1に記載の連続繊維シート固定部材において、構造物(101)への定着面(75)には、構造物の連続繊維シート引っ張り方向に対して直角方向を補強する他の連続繊維シート(25)の通過を許容するための溝(80)が設けられていることを特徴とする。
【0025】
「溝」は、連続繊維シート固定部材の両脇の両フランジ部を貫く方向に、その幅よりも小さく、一方、連続繊維シートの幅と略同一又はこれよりも大きくなるように設けられている必要がある。また、溝の深さは、他の連続繊維シートが納まる程度の深さを有している必要がある。
【0026】
請求項3の発明は、連続繊維シート(20)を、補強を要する構造物(101)に貼り付ける工程と、連続繊維シートの両端(27、28)を、請求項1又は2に記載の連続繊維シート固定部材(10、12、15)のシート巻き掛け部(30、32、35)に巻き掛けながら、構造物に貼り付けた連続繊維シート上に、連続繊維シート固定部材のシート巻き掛け部の構造物側の面(70、75)を連続繊維シートに接着しないで連続繊維シート固定部材(10、12、15)を載置、位置決めする工程と、連続繊維シート固定部材のフランジ部(40、42、45)に設けられた貫通孔(60、61、62、63、65、66)又は切り欠き部と固定手段(50、50)とを用いて連続繊維シート固定部材を構造物に固定する工程と、連続繊維シートの両端を端部定着面(90、92、95)に定着させる工程と、を具備する構造物補強工法によって、前記課題を解決しようとするものである。
【0027】
請求項3の発明において、一の連続繊維シートを構造物に貼り付ける工程の後、斯かる連続繊維シートの引っ張り方向に対して直角方向を補強する他の連続繊維シートを貼り付ける場合には、請求項2に記載の連続繊維シート固定部材を用いて構造物を補強する。他の連続繊維シートは、連続繊維シート固定部材の取り付け位置に、斯かるシート固定部材の長手方向に沿って貼り付けられる。
【0028】
請求項4の発明は、請求項3に記載の構造物補強工法において、連続繊維シートは、炭素繊維であることを特徴とする。「炭素繊維シート」には、両面メッシュタイプ、クロスタイプ(一方向織物)、又は離型紙タイプ等があり、これらのいずれかを用いることが好ましいが、これらに限定されない。
【発明の効果】
【0029】
請求項1に記載の発明によれば、連続繊維シートを切断することなく構造物を簡単に且つより効果的に補強することができる、軽量でコンパクトな形状の連続繊維シート固定部材を提供することができる。
【0030】
請求項2に記載の発明によれば、二つの互いに直角する連続繊維シートを用いて構造物をさらに強固に補強することができる、軽量でコンパクトな形状の連続繊維シート固定部材を提供することができる。
【0031】
請求項3に記載の発明によれば、連続繊維シートと請求項1又は2に記載の連続繊維シート固定部材を使用して、簡単に取り付けることができつつも、構造物に十分な補強効果を与えることができる構造物補強工法を提供することができる。
【0032】
請求項4に記載の発明によれば、連続繊維シートが炭素繊維であるとき、構造物に十分な補強効果を与えることができる構造物補強工法を提供することができる。
【0033】
本発明のこのような作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための最良の形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0035】
図1は、本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材に連続繊維シートを固定して構造物に取り付けた状態を示す斜視図である。なお、連続繊維シート固定部材10が取り付けられている構造物は、連続繊維シート固定部材10が載置されている面101とこの面に直交している面100、102を有している。図示の連続繊維シート固定部材10は、連続繊維シート20を面101に定着し、その両端27(28)を固定する面の補強工事に使用される部材であって、連続繊維シート固定部材10は、連続繊維シート20の端部27(28)を巻き掛けて定着させるためのシート巻き掛け部30と、シート巻き掛け部30の連続繊維シート巻き掛け方向に対して直角方向両脇に設けられているフランジ部40、41とを具備しており、
シート巻き掛け部30の断面形状は、シート巻き掛け部30の少なくとも二つの角が滑らかな曲線を有する略三角形又は構造物側の面が平面である略楕円形であり、
シート巻き掛け部30は、構造物側の面と、連続繊維シートの端部を巻き掛けて定着させる端部定着面90とを有しており、
連続繊維シート20の端部27(28)の巻き掛け部への巻き掛け及び定着が、端部27(28)を残して面101に接着された連続繊維シート20上に連続繊維シート固定部材10を載置した後、端部27(28)を巻き掛け部30に巻き掛けて、その端部定着面90に定着することによって行われ、フランジ部40、41には、連続繊維シート20の両端の面101上に固定手段50を取り付けて、連続繊維シート固定部材10を固定するための貫通孔60、61又は切り欠き部が設けられている。
【0036】
図示のように、本発明は、シート巻き掛け部30とフランジ部40、41が一体的に加工されている固定部材であり、シート巻き掛け部30に連続繊維シート20の端部27(28)を巻き掛けて定着させ、一方、フランジ部40、41にはシート固定部材10を面101に固定させるというように、役割を分けている。したがって、本発明は、従来技術と異なり、連続繊維シート20を切断することなくその端部27、28を面101及びもう片方の端部を定着させる面にしっかりと固定して、面101、102に十分な補強効果を与えることができるものである。
【0037】
図1に示す連続繊維シート固定部材10は、構造物、例えば、梁又は柱(ここでは面101)と壁(ここでは面100)とが交わる隅部における、梁又は柱上に、アンカーボルトのような固定手段によって取り付けられることにより使用される。この固定部材10を用いた施工方法は、後に詳述する。
【0038】
図2は、本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材を示す断面図である。図2(a)は、本発明の第一の実施形態として、連続繊維シート固定部材10のシート巻き掛け部30と、その両脇に設けられているフランジ部40(41)の横方向から見た位置関係を説明している。次に、図2(b)と図2(c)は、図2(a)を分解した各部位を説明している。図2(b)は、本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材10のシート巻き掛け部30の断面図である。一方、図2(c)は、本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材10のフランジ部40の断面図である。これらの図面に基づいて、連続繊維シート固定部材10のシート巻き掛け部30及びフランジ部40(41)について、以下説明する。
【0039】
シート巻き掛け部30は、連続繊維シート20の端部27(28)を接着剤等により定着させるための部分である(図2(a)参照)。その断面形状は、図2(b)に示すように、構造物側の面と、連続繊維シート20の端部27(28)を定着させる端部定着部90が曲面となるような面とによって囲まれてできる図形であり、略三角形又は構造物側の面が平面である略楕円形であることが好ましい。シート20上に連続繊維シート固定部材15を安定的に載置するために、シート巻き掛け部30の構造物側に平面であることが必要であり、また、巻き掛けたシート20が切断されないように、シート巻き掛け部30の特にR1で示す範囲では、角がない滑らかな曲面を具備する必要があるからである。また、この形状は、加工上、施工上及び外観上においても好ましい。
【0040】
構造物側の面が平面であることが好ましいのは、そのほうがシート巻き掛け部30を連続繊維シート20上に載置して、シート固定部材10を面101に固定する際に作業性がよいからである。
【0041】
上述した断面形状のうち、略三角形は、面100側(図1参照)の少なくとも二つの角が滑らかな曲面となるような三角形が好ましいが、三つの角すべてが曲面を有していてもよい。シートの端部27(28)を定着させる端部定着部90は、平面であるほうが好ましい。その理由としては、凹凸がないほうがシート20の端部定着面90への定着作業が簡単だからである。また、この形状のほうが、室内の隅部等に施工する場合には、シート固定部材の形状が目立ちにくく、外観上も好ましい。しかし、端部定着面90は、必ずしも平面である必要はなく、構造物側の面70が平面になっている略楕円形の場合にできるような曲面であってもよい。
【0042】
少なくとも二つの角に設けられた滑らかな曲面は、その曲率が滑らかであるほど連続繊維シートの端部27(28)にかかる応力が分散吸収されるために連続繊維シートが切断されにくく、好ましい。
【0043】
また、シート巻き掛け部30のシート巻き掛け方向の長さは、長すぎると加工上、施工上又は強度上問題が出てくるが、ある程度長いほうがシートの定着面積が広くなるため、補強効果が高まり好ましい。
【0044】
図2(c)に示すように、連続繊維シート固定部材10のフランジ部40(41)は、シート巻き掛け部30を面101に固定するために、シート巻き掛け方向に対して直角方向両脇に設けられている板状の部分である(図1参照)。このフランジ部40(41)には貫通孔60(61)又は切り欠き部が設けられている。そして、この貫通孔60(61)又は切り欠き部にアンカーボルトのような固定手段50(図2(a)参照)を挿入して、フランジ部40(41)を面101に密着させて固定することにより、連続繊維シート固定部材10全体を面101に固定させている。
【0045】
フランジ部の厚さは、フランジ部40(41)を面101に対して固定手段50によって固定するため、加工上及び施工状及びコストの面から、強度を保てる程度に薄肉の板状であることが好ましい。
【0046】
図3は、本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材を示す説明図である。図3(a)は、本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材に連続繊維シートを固定して構造物に取り付けた状態を示す平面図である。図3(b)と図3(c)は、図3(a)の連続繊維シート固定部材の正面断面図の例を示している。図3(a)に示すとおり、シート巻き掛け部30は連続繊維シート20を介して面101に、フランジ部40は直接面101に固定される。
【0047】
したがって、図3(b)で示すように、シート巻き掛け部30とフランジ部40の位置関係は、シート巻き掛け部30の構造物側の面70とフランジ部40の面101への定着面77、78は、ほぼ同一面になるように設けられていてもよい。斯かる場合には、連続繊維シート固定部材10のシート巻き掛け部30を面101に定着させたシート20の上に載置したときに、フランジ部40、41はシート20の厚さ分だけやや浮き上がるが、板状のフランジ部40の弾性を利用してボルト締めを行えば、シート20はより強固に面101に押し付けられ、密着する。
【0048】
一方、図3(c)で示すように、シート20にある程度の厚みがある場合、又は、フランジ部が厚く、弾性力があまり期待できないような場合には、連続繊維シート固定部材10’のシート巻き掛け部30’の構造物側の面70’に、シート20の通過を許容する程度の幅及び深さを有する溝82を設けてもよい。また、溝を設ける代わりとして、フランジ部40’、41’は、シート巻き掛け部30’の構造物側の面70’をシート20’の厚さ分構造物から持ち上げつつ、フランジ部40’、41’の定着面77’、78’は面101に密着するように設けられていてもよい。
【0049】
固定手段には、アンカーボルトを用いることが好ましいが、構造物に対して十分な強度を維持できる固定手段であれば、これに限られない。
【0050】
また、固定手段50を取り付けてフランジ部40、41を面101に固定するための貫通孔60、61は、例えば、夫々の貫通孔を円形とすると、施工時に壁やスラブに空けたボルト固定用の穴の位置ずれにより、フランジ部の貫通孔と一致しない場合も出てくる。そこで、これを防いで、この横方向寸法誤差をオフセットするために、片方の貫通孔61、または両方の貫通孔60と61とをフランジ部が延びる方向に長くしてもよいし、あるいは、貫通孔の代わりに、フランジ部が延びる方向に開口するようなスリット状の切り欠き部を設けることが好ましい。
【0051】
図4は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材に連続繊維シートを固定して構造物に取り付けた状態を示す斜視図である。図5は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材を示す断面図である。図5(a)は、本発明の第二の実施形態として、連続繊維シート固定部材15のシート巻き掛け部35と、その両脇に設けられているフランジ部45(46)の横方向から見た位置関係を説明している。次に、図5(b)と図5(c)は、図5(a)を分解した各部位を説明している。図5(b)は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材15のシート巻き掛け部35の断面図である。一方、図5(c)は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材15のフランジ部45の断面図である。さらに、図6は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材を示す説明図である。図6(a)は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材に連続繊維シートを固定して構造物に取り付けた状態を示す平面図である。図6(b)は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材15を示す平面図である。図6(c)は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材15を示す断面図である。
【0052】
図4に示すように、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材15は、その基本構造が、本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材10と同様に、シート巻き掛け部とフランジ部を具備する点で共通している。しかし、図5(a)及び図6に示すように、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材15のシート巻き掛け部35の構造物側の面75と、フランジ部45(46)の定着面79には、夫々、巻き掛けるシート20と直角方向に配置される他の連続繊維シート25の通過を許容する溝85、86(図5(b)参照)、87が設けられている点で、第一の形態の連続繊維シート固定部材10と異なる。これらの図面に基づいて、この連続繊維シート固定部材15の構成要素について以下説明する。これらの図面に基づいて、連続繊維シート固定部材10のシート巻き掛け部30及びフランジ部40(41)について、以下説明する。
【0053】
図5(b)に示すように、シート巻き掛け部35の全体的な形状は、本発明の第一の実施形態と同様、略三角形又は構造物側の面が平面である略楕円形であることが好ましい。シート20上に連続繊維シート固定部材15を安定的に載置するために、シート巻き掛け部35の構造物側に平面である必要があり、また、巻き掛けたシート20が切断されないように、シート巻き掛け部35の特にR2で示す範囲では、角がない滑らかな曲面を具備する必要があるからである。また、この形状は、加工上、施工上及び外観上においても好ましい。
【0054】
図6(b)及び図6(c)に示すように、シート巻き掛け部35の構造物側の面75には、巻き掛ける連続繊維シート20と直角方向に配置される他の連続繊維シート25の通過を許容する両フランジ部45、46を貫く方向の溝86が設けられていることが好ましい。シート巻き掛け部35と面101との間には、シート巻き掛け部35に巻き掛けて定着させる連続繊維シート20が介在する。さらに、この連続繊維シート20に直交するように他の連続繊維シート25を配置すれば、固定部材15のシート巻き掛け部35と面101との間に連続繊維シート20及び25が重なって介在することになり、フランジ部がその厚さ分、面101から浮き上がるからである。
【0055】
巻き掛け部35の溝86の深さが連続繊維シート25の厚さ分である場合には、フランジ部45は連続繊維シート20の厚さ分浮き上がるため、フランジ部の弾性を利用してボルト締めを行えば、連続繊維シート20及び25を強固に面101に固定することができる。一方、巻き掛け部35の溝86の深さが連続繊維シート20及び25の厚さを合計した深さである場合には、フランジ部45をよりしっかり面101に固定することができ、また、フランジ部45が肉厚で弾性を利用できない場合にはより好ましい。
【0056】
また、図5(c)及び図6(c)に示すように、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材15のフランジ部45、46の断面図は、本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材15のフランジ部40と同じ構造のフランジ部の定着面に他の連続繊維シート25の通過を許容する溝85、87を設けている。
【0057】
シート巻き掛け部35及びフランジ部45、46には他の連続繊維シート25の通過を許容する溝85、86、87が設けられているが、この溝85、86、87の幅は、他の連続繊維シート25の幅と略同一又はやや広めの幅であることが好ましい。
【0058】
フランジ部45は、折り曲げ加工又は溶接等により、巻き掛け部35を持ち上げるように設けることで、巻き掛け部35に溝86を設けないでも他の連続繊維シート25の通過を許容することができる。
【0059】
図7は、本発明の第三の実施形態の連続繊維シート固定部材12を示す斜視図である。本発明の第三の実施形態の連続繊維シート固定部材12は、シート固定部材12を、シート固定部材12の載置方向と垂直の面100方向に固定することができる、本発明の第一及び第二の実施形態の変形例である。すなわち、本発明の第三の実施形態では、第一及び第二の実施形態と固定方向が異なるため、フランジ部の形状が異なる。したがって、ここでは、シート巻き掛け部32の説明は省略し、フランジ部42のみ、以下に説明する。
【0060】
フランジ部42の形状は略直方体(肉厚の板)が好ましい。換言すれば、まず、フランジ部42は、施工上、連続繊維シート20を定着させる面101に定着する面には一定の面積を有していることが好ましい。また、面101に直交方向に隣接する面100に対して固定手段50を取り付けるための貫通孔62、63又は切り欠き部を設けたときの強度を確保するために、フランジ部42、43には、フランジ部42、43を載置する面101に対して高さがあるほうが好ましい。したがって、本発明の第三の実施形態によるフランジ部42は、略直方体の肉厚な構造になる。
【0061】
固定手段を設けるための貫通孔62、63は、斯かる夫々の略直方体のフランジ部42、43の面102側の面の中央部から面100方向に面100と平行に設けられていることが好ましい。
【0062】
上述の本発明の第一、第二及び第三の夫々の実施形態による連続繊維シート固定部材10、12、15の素材は、コンクリート製構造物の補強にかかる力に耐えうる強度と、シート固定部材の加工性等の観点から、金属であることが好ましい。
【0063】
次に、図1を使って、本発明に係る連続繊維シート固定部材を用いた構造物補強工法を説明する。本発明の第一又は第三の実施形態による連続繊維シート固定部材10、12を用いて構造物を補強する場合には、以下の工程を行う。
【0064】
本発明の第一の実施形態による連続繊維シート固定部材を用いた構造物補強工法は、第一の工程で、連続繊維シート20の両端27(28)を少し余らせながら、これを、補強を要する面101に貼り付ける。第二の工程では、余らせた連続繊維シート20の両端27(28)を、連続繊維シート固定部材10のシート巻き掛け部30に巻き掛けながら、面101に貼り付けた連続繊維シート20上に、連続繊維シート固定部材10のシート巻き掛け部30の構造物側の面70(図2参照)を、連続繊維シート20に接着しないで連続繊維シート固定部材10を載置、位置決めする。第三の工程では、連続繊維シート固定部材10のフランジ部40に設けられた貫通孔60、61又は切り欠き部と固定手段50とを用いて連続繊維シート固定部材10を面101に固定する。最後の工程では、連続繊維シート20の両端27(28)を端部定着面90に定着させ、これら四工程により、一通りの補強工法が完結する。
【0065】
本工法では、特に、第二の工程で、シート巻き掛け部30の構造物側の面70をシート20に接着剤等により定着させないで固定することが重要である。斯かる構造物側の面70を接着してしまうと、シート20を巻き掛けるために引っ張った方向と反対方向の張力に対する連続繊維シート20の有効補強面積が、連続繊維シート固定部材10の手前までの領域となってしまうからである。しかし、シート巻き掛け部30の構造物側の面70をシート20に接着剤等により定着させないで固定すれば、シート20の端部27(28)まで、有効補強範囲として算定されるため、より高い補強効果を有するので好ましい。
【0066】
次に、図4を見ながら、本発明の第二の実施形態による連続繊維シート固定部材を用いた構造物補強工法を、以下の工程で説明する。第一の工程では、連続繊維シート20の両端27(28)を少し余らせながら、これを、補強を要する面101に貼り付ける。第二の工程では、余らせた連続繊維シート20の両端27(28)の根元部分に、他の連続繊維シート25を、連続繊維シート20に直角になるように定着させる。第三の工程では、余らせた連続繊維シート20の両端27(28)を、連続繊維シート固定部材10のシート巻き掛け部30に巻き掛けながら、面101に貼り付けた連続繊維シート20及び25の交わる点上に、連続繊維シート固定部材15のシート巻き掛け部35の構造物側の面75を、連続繊維シート20に接着しないで連続繊維シート固定部材15を載置、位置決めする。第四の工程では、連続繊維シート固定部材10のフランジ部40に設けられた貫通孔60、61又は切り欠き部と固定手段50とを用いて連続繊維シート固定部材10を面101に固定する。最後の工程では、連続繊維シート20の両端27(28)を端部定着面90に定着させ、これら五工程により、一通りの補強工法が完結する。
【0067】
本発明の第二の実施形態による連続繊維シート固定部材15を用いた構造物補強工法は、本発明の第二の実施形態による連続繊維シート固定部材15の溝を活かすべく、第二の工程で、余らせた連続繊維シート20の両端27(28)の根元部分に、他の連続繊維シート25を、連続繊維シート20に直角になるように定着させる点が特徴的である。
【0068】
他の連続繊維シート25には、あらかじめボルトなどの固定手段50を設けるための貫通孔を設けていてもよい。
【0069】
図7に示す本発明の第三の実施形態による連続繊維シート固定部材12を用いた構造物補強工法は、本発明の第一及び第二の実施形態による連続繊維シート固定部材10、15を用いた構造物補強工法固定手段とその固定方向のみが異なるため、第三の実施形態を用いた構造物補強工法の説明は省略する。
【0070】
本発明の第三の実施形態による連続繊維シート固定部材12を用いた構造物補強工法では、固定方向が連続繊維シート20の定着面と異なるため、本発明の第二の実施形態による連続繊維シート固定部材15を使用する場合における、他の連続繊維シート25をシート固定部材15のフランジ部45の溝85、86、87に通過させるようなときには、固定手段50で通過させたシート25を切断することがなく、構造物のこのシート25方向のも十分に補強ができるため、好ましい。
【0071】
図8は、本発明に係る連続繊維シート固定部材10、12を用いた構造物補強工法の一例を示す説明図である。図8(a)は、本発明の第一の実施形態による連続繊維シート固定部材10を用いた構造物補強工法の一例を示した断面図である。連続繊維シート固定部材10は、図1で示すように、二つの構造物が直交する隅部に固定して、互いに隣接する二つの構造物に連続繊維シート20を貼り付けて固定すると、補強効果が効果的であり、好ましい。また、同一平面状で、連続繊維シート20の両端部27(28)を引っ張るように固定してもよい。
【0072】
図8(b)は、本発明の第一の実施形態による連続繊維シート固定部材10を用いた構造物補強工法の一例を示した断面図である。固定手段は、図8(a)のように、個々に独立した固定手段50である必要はなく、構造物の柱や梁の向かい合う両側面から連通するように構造物に孔を空けて、二つの向かい合う連続繊維シート固定部材10を共に固定してもよい。
【0073】
図8(c)は、本発明の第一及び第三の実施形態による連続繊維シート固定部材10、12を組み合わせて用いた構造物補強工法の一例を示した断面図である。本発明の第一の実施形態による連続繊維シート固定部材10を構造物の柱等の凸部のない面に配置し、一方、柱等構造物の凸部の三方は連続繊維シート20で囲むように巻き付けて、本発明の第三の実施形態による連続繊維シート固定部材12でその両端部を固定し、最後に柱等の両端に設けたシート固定部材12と、その反対面に設けたシート固定部材10を夫々連通させて固定すれば、壁やスラブのある柱や梁であっても、連続繊維シート20で閉鎖的に巻き付けて補強したのと同等の補強効果を奏することができ、好ましい。
【0074】
図9は、本発明に係る連続繊維シート固定部材を用いた構造物補強工法他の一例を示す説明図である。図9(a)に示すように、耐震壁を打ち抜いて通路を造ったような場合、打ち抜いた領域の上に残された耐震壁の部分は、他の部分に比べて、構造物の強度が落ちる。そこで、この部分の強度を補強するために、二本の連続繊維シートを用いて、打ち抜かれた領域の上に残された耐震壁上で交差するように配置して、両側の耐震壁に連続繊維シートの両端を固定すれば、斯かる部分の強度を補強することができる。
【0075】
また、図9(b)に示すように、耐震壁を打ち抜いて開口を造ったような場合、打ち抜いた領域の周囲の耐震壁の部分は、他の部分に比べて構造物の強度が落ちる。そこで、この部分の強度を補強するために、四本の連続繊維シートを用いて打ち抜かれた領域の周囲に井形配置して、かつ開口部の対角線の延長上に斜め方向の連続繊維シートを配置して、それぞれの連続繊維シートの両端を固定することで、斯かる部分の強度を補強することができる。
【0076】
さらに、図9(c)に示すように、柱や梁が格子状に配置されている構造物の場合では、これらにより囲まれた領域が地震などによって崩壊することを防ぐために、囲まれた四角形に対して対角線上に連続繊維シートを配置して、構造物を補強することもできる。
【0077】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う連続繊維シート固定部材及びこれを用いた補強工法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材に連続繊維シートを固定して構造物に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材を示す断面図である。
【図3】本発明の第一の実施形態の連続繊維シート固定部材を示す説明図である。
【図4】本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材に連続繊維シートを固定して構造物に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材を示す断面図である。
【図6】本発明の第二の実施形態の連続繊維シート固定部材を示す説明図である。
【図7】本発明の第三の実施形態の連続繊維シート固定部材に連続繊維シートを固定して構造物に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図8】本発明に係る連続繊維シート固定部材を用いた構造物補強工法の一例を示す説明図である。
【図9】本発明に係る連続繊維シート固定部材を用いた構造物補強工法他の一例を示す説明図である。
【図10】Aタイプの構造物補強技術を示す断面図である。
【図11】Bタイプの構造物補強技術を示す断面図である。
【図12】Cタイプの構造物補強技術を示す断面図である。
【図13】Dタイプの構造物補強技術を示す断面図である。
【図14】Eタイプの構造物補強技術を示す断面図である。
【符号の説明】
【0079】
10、12、15 連続繊維シート固定部材
20、25 連続繊維シート
27、28 端部
30、32、35 シート巻き掛け部
40、41、42、43、45、46 フランジ部
50 固定手段
60、61、62、63、65、66 貫通孔
70、75 構造物側の面
77、79 定着面
80、85、86 溝
90、92、95 端部定着部
100、101、102 面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続繊維シートを構造物に接合し、その両端を固定する構造物の補強工事に使用される連続繊維シート固定部材であって、
前記連続繊維シート固定部材は、前記連続繊維シートの端部を巻き掛けて定着させるためのシート巻き掛け部と、前記シート巻き掛け部の連続繊維シート巻き掛け方向に対して直角方向両脇に設けられているフランジ部とを具備しており、
前記シート巻き掛け部の断面形状は、前記シート巻き掛け部の少なくとも二つの角が滑らかな曲面となるような略三角形又は構造物側の面が平面である略楕円形であり、
前記シート巻き掛け部は、構造物側の面と、連続繊維シートの端部を巻き掛けて定着させる端部定着面とを有しており、
前記連続繊維シートの端部の前記巻き掛け部への巻き掛け及び定着が、前記端部を残して前記構造物に接着された前記連続繊維シート上に前記連続繊維シート固定部材を載置した後、前記端部を前記巻き掛け部に巻き掛けて、その端部定着面に定着することによって行われ、
前記フランジ部には、前記連続繊維シートの両端の構造物上に固定手段を取り付けて、前記連続繊維シート固定部材を固定するための貫通孔又は切り欠き部が設けられていることを特徴とする連続繊維シート固定部材。
【請求項2】
前記構造物への定着面側には、構造物の前記連続繊維シート引っ張り方向に対して直角方向を補強する他の連続繊維シートの通過を許容するための溝が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の連続繊維シート固定部材。
【請求項3】
連続繊維シートを、補強を要する構造物に貼り付ける工程と、
前記連続繊維シートの両端を、請求項1又は2に記載の連続繊維シート固定部材のシート巻き掛け部に巻き掛けながら、前記構造物に貼り付けた前記連続繊維シート上に、前記連続繊維シート固定部材のシート巻き掛け部の構造物側の面を前記連続繊維シートに接着しないで前記連続繊維シート固定部材を載置、位置決めする工程と、
前記連続繊維シート固定部材のフランジ部に設けられた貫通孔又は切り欠き部と固定手段とを用いて連続繊維シート固定部材を構造物に固定する工程と、
前記連続繊維シートの両端を端部定着面に定着させる工程と、
を具備する構造物補強工法。
【請求項4】
前記連続繊維シートは、炭素繊維であることを特徴とする請求項3に記載の構造物補強工法。
【請求項1】
連続繊維シートを構造物に接合し、その両端を固定する構造物の補強工事に使用される連続繊維シート固定部材であって、
前記連続繊維シート固定部材は、前記連続繊維シートの端部を巻き掛けて定着させるためのシート巻き掛け部と、前記シート巻き掛け部の連続繊維シート巻き掛け方向に対して直角方向両脇に設けられているフランジ部とを具備しており、
前記シート巻き掛け部の断面形状は、前記シート巻き掛け部の少なくとも二つの角が滑らかな曲面となるような略三角形又は構造物側の面が平面である略楕円形であり、
前記シート巻き掛け部は、構造物側の面と、連続繊維シートの端部を巻き掛けて定着させる端部定着面とを有しており、
前記連続繊維シートの端部の前記巻き掛け部への巻き掛け及び定着が、前記端部を残して前記構造物に接着された前記連続繊維シート上に前記連続繊維シート固定部材を載置した後、前記端部を前記巻き掛け部に巻き掛けて、その端部定着面に定着することによって行われ、
前記フランジ部には、前記連続繊維シートの両端の構造物上に固定手段を取り付けて、前記連続繊維シート固定部材を固定するための貫通孔又は切り欠き部が設けられていることを特徴とする連続繊維シート固定部材。
【請求項2】
前記構造物への定着面側には、構造物の前記連続繊維シート引っ張り方向に対して直角方向を補強する他の連続繊維シートの通過を許容するための溝が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の連続繊維シート固定部材。
【請求項3】
連続繊維シートを、補強を要する構造物に貼り付ける工程と、
前記連続繊維シートの両端を、請求項1又は2に記載の連続繊維シート固定部材のシート巻き掛け部に巻き掛けながら、前記構造物に貼り付けた前記連続繊維シート上に、前記連続繊維シート固定部材のシート巻き掛け部の構造物側の面を前記連続繊維シートに接着しないで前記連続繊維シート固定部材を載置、位置決めする工程と、
前記連続繊維シート固定部材のフランジ部に設けられた貫通孔又は切り欠き部と固定手段とを用いて連続繊維シート固定部材を構造物に固定する工程と、
前記連続繊維シートの両端を端部定着面に定着させる工程と、
を具備する構造物補強工法。
【請求項4】
前記連続繊維シートは、炭素繊維であることを特徴とする請求項3に記載の構造物補強工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−247197(P2007−247197A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70018(P2006−70018)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(501267357)独立行政法人建築研究所 (28)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【出願人】(000130374)株式会社コンステック (8)
【出願人】(591028108)安藤建設株式会社 (46)
【出願人】(504289473)川口テクノソリューション株式会社 (7)
【出願人】(000236159)三菱化学産資株式会社 (101)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(501267357)独立行政法人建築研究所 (28)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【出願人】(000130374)株式会社コンステック (8)
【出願人】(591028108)安藤建設株式会社 (46)
【出願人】(504289473)川口テクノソリューション株式会社 (7)
【出願人】(000236159)三菱化学産資株式会社 (101)
【Fターム(参考)】
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