説明

連続鋳造用モールドパウダーの溶融層厚み測定方法

【課題】連続鋳造時におけるパウダー溶融層厚みの測定を連続的に可能とする。
【解決手段】モールドパウダーの粉体部分と溶融層の界面でのマイクロ波の反射が明瞭に得られない場合における、連続鋳造時のモールドパウダー溶融層厚み測定方法である。モールドパウダーの粉体部分と溶融層の各々の平均誘電率の影響を受けるマイクロ波の反射による溶鋼の湯面レベル測定値L1と、前記平均誘電率の影響を受けない渦流センサーによる溶鋼の湯面レベル測定値Lの差ΔL1(=L1−L)と、モールドパウダーの溶融層厚みの相関を予め求めておく。予め求めておいた相関に基づき、モールドパウダー溶融層厚みを得る。
【効果】連続鋳造に用いるパウダーの溶融層の厚みを連続的に精度良く測定することが出来るので、パウダー開発ならびに操業管理・品質管理に効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造時、鋳型内に注入された溶鋼の湯面上に投入するモールドパウダー(以下、単にパウダーという。)の溶融層の厚みを、製品品質に影響を及ぼすことなく、精度良く連続的に測定することを可能とする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造では、溶鋼を鋳型内に注入して鋳型と接触させることで冷却して凝固シェルを生成させ、生成させた凝固シェルを鋳型下方に連続的に引く抜くことで鋳片を製造している。
【0003】
この連続鋳造において、鋳型と凝固シェル間の摩擦力低減、ならびに鋳型からの抜熱を制御する目的で鋳型内溶鋼の湯面上に投入されるモールドパウダーが、溶融状態となって鋳型と凝固シェル間の隙間に流入するようにしている。
【0004】
すなわち、鋳型内溶鋼の湯面上に投入されたパウダーは、溶鋼湯面上で溶融して厚さ数mm〜十数mmの溶融層を形成する。溶融したパウダーは、鋳型と凝固シェルの間に流入してパウダーフィルムを形成する。このパウダーフィルムのうち、鋳型側の部分は冷やされて凝固し、結晶を晶出もしくは析出しつつ、鋳造の進行に伴って鋳型下方へ移動し、やがて下端から排出される。この排出されるパウダーフィルムの量をパウダー消費量という。
【0005】
従って、連続鋳造に際しては、前記パウダー消費量分のパウダーを新たに追加投入する必要がある。
【0006】
ところで、近年、多種多様な鋳造鋼種に対応すべく、パウダーの開発がなされているが、鋳型内溶鋼からの浮上酸化物ならびに鋳造鋼種成分により溶融パウダーの物性が変化する場合がある。
【0007】
この溶融パウダー物性の変化は、前記パウダー溶融層の厚み(以下、パウダー溶融層厚みという。)やパウダー消費量に影響するため、パウダー溶融層厚みを連続的に計測し調整することは、連続鋳造操業の安定に繋がる。そこで、パウダー溶融層厚みを計測する方法が各種提案されている。
【0008】
このパウダー溶融層厚みを測定する方法として、浸漬した検尺棒の溶損量から測定するバッチ測定(非連続測定)や、この検尺棒による測定を連続的に行えるよう様にした方法(例えば特許文献1)がある。また、複数の各周波数における位相と絶対値の双方を用いてパウダー溶融層厚みを計測する多周波渦流式の方法(例えば特許文献2,3)も提案されている。
【0009】
しかしながら、検尺棒を用いた測定は、パウダー融点で溶融しない鉄棒又は鉄部と、溶融する例えばアルミニウム棒又はアルミニウム部の溶融差をパウダー溶融層厚みとするため、低融点のパウダーの場合は測定が難しい。さらに、検尺棒を用いた測定を連続的に実施する場合、溶融したアルミニウムが溶鋼中に溶解していくので、不純物を製品に添加することになって実用に際しては問題がある。
【0010】
一方、多周波渦流式は、パウダー層の種類、溶鋼の湯面温度によって計測誤差が大きくなったり、製造する鋳片の厚みが狭くなると計測精度が悪くなる。また、オシレーションの振動パターンによっては計測データがばらつく場合がある。
【0011】
そこで、多周波渦流式の問題点を改良した方法が特許文献4で提案されている。この特許文献4で提案された方法は、パウダー溶融層の温度変化による導電率変化を校正してパウダー溶融層厚み測定値の高精度化を図るべく、以下の4つの工程を備えることを特徴としている。
【0012】
・計測前に校正データの収集を行う校正データ収集工程
・位相情報と絶対値情報を得る計測データ収集工程
・計測データ収集工程で収集した計測データを補正する補正工程
・補正工程にて補正したデータに基づきパウダー溶融層厚みを演算する演算工程
【0013】
しかしながら、特許文献4で提案された方法も、大型のために小断面鋳型への適用が難しい多周波渦流式センサーを使用することに変わりはなく、さらに多周波渦流式センサーは装置本体が高価であることなどから、実用に際しては課題がある。また、多周波渦流式は、溶融金属とパウダー溶融層面を測定(分離)する方法で、パウダー層 全体の厚みを計測することが出来ないため、パウダー全体の層厚みの把握が出来ないという欠点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9−79805号公報
【特許文献2】特開2005−221282号公報
【特許文献3】特開2006−205227号公報
【特許文献4】特開2007−21529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする問題点は、鋼の連続鋳造時に、製品品質に影響を及ぼすことなく、パウダー溶融層厚みを精度良く、連続的に測定する方法は、現時点では確立されていないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の連続鋳造用パウダーの溶融層厚測定方法は、
連続鋳造時におけるパウダー溶融層厚みの測定を連続的に可能とするために、
例えばパウダーの粉体部分と溶融層の界面でのマイクロ波の反射が明瞭に得られない場合における、連続鋳造時のパウダー溶融層厚み測定方法であって、
前記パウダーの粉体部分と溶融層の各々の平均誘電率の影響を受けるマイクロ波の反射による溶鋼の湯面レベル測定値L1と、前記平均誘電率の影響を受けない渦流センサーによる溶鋼の湯面レベル測定値Lの差ΔL1(=L1−L)と、パウダーの溶融層厚みの相関を予め求めておき、
この予め求めておいた相関に基づいて、パウダー溶融層厚みを得ることを最も主要な特徴としている。
【0017】
上記の本発明では、予め求めておいた、マイクロ波の反射による溶鋼の湯面レベル測定値L1と、渦流センサーによる溶鋼の湯面レベル測定値Lの差ΔL1と、パウダーの溶融層厚みの相関に基づき、パウダー溶融層厚みを得ることで、パウダーの溶融層の厚みを連続的に精度良く測定できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、連続鋳造に用いるパウダーの溶融層の厚みを連続的に精度良く測定することが出来るので、パウダー開発ならびに操業管理・品質管理に効果があり、連続鋳造技術開発に対し、技術的に価値の高い発明である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】パウダー厚み測定試験装置の概念図である。
【図2】中心周波数が20GHzで、変調振幅が4GHzのマイクロ波を用いて、パウダー厚みを測定した結果の一例を示した図である。
【図3】中心周波数が32GHzで、変調振幅が8GHzのマイクロ波を用いて、厚み40mmのパウダーを測定した結果の一例を示した図である。
【図4】中心周波数が32GHzで、変調振幅が8GHzのマイクロ波を用いたパウダー厚み測定結果の一例を示した図である。
【図5】請求項1に係る発明のパウダー溶融層厚みの測定原理を説明した図である。
【図6】マイクロ波を用いたパウダー層厚の校正結果を示した図である。
【図7】請求項2に係る発明のパウダー溶融層厚みの測定原理を説明した図である。
【図8】パウダー溶融層厚みとマイクロ波指示値の関係を示した図である。
【図9】粉体のパウダーとパウダー溶融層の誘電率差が大きい場合の、マイクロ波を用いた測定データ例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明では、連続鋳造時におけるパウダー溶融層厚みの測定を連続的に可能とするという目的を、例えば、予め求めておいた、マイクロ波の反射による溶鋼の湯面レベル測定値L1と、渦流センサーによる溶鋼の湯面レベル測定値Lの差ΔL1と、パウダーの溶融層厚みの相関に基づき、パウダー溶融層厚みを得ることで実現した。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を用いて説明する。
先ず、本発明の新しい着想から課題解決に至るまでの経過について説明する。
【0022】
鋼の連続鋳造時におけるパウダー溶融層厚み、及び投入したパウダー全体の層厚み(以下、パウダー投入厚みという。)の管理は、従来から操業管理の重要な因子である。特にパウダー溶融層厚みの定量的な把握は、近年、多種多様な鋳造鋼種対応において、パウダー開発の重要な管理ファクターであった。
【0023】
しかしながら、従来は、連続鋳造中に安定してパウダー溶融層厚みを測定する方法がなく、検尺棒を用いて非連続的に測定する方法が用いられていた。多周波渦流式によるパウダー溶融層厚みの測定方法も提案されているが、先に説明した問題点を有するために、現状では実用化されていない。
【0024】
そこで、発明者らは、粉体及び固体の界面を測定する方法として実用化されているマイクロ波は、空気中での温度変化に影響されず、さらに金属は透過せずに非金属物体を透過する特性があるため、粉体のパウダー表面(以下、パウダー投入界面という。)と、溶鋼湯面(以下、溶鋼界面という。)で反射して二つの界面の分離が可能であると考えた。なお、転炉内スラグのレベル測定などに実用化されていてスラグ表面を測定する目的で従来から用いられている汎用マイクロ波は、中心周波数は10GHz近傍、変調振幅は2GHz程度のものが一般的である。
【0025】
また、連続鋳造時におけるパウダー溶融層厚みは、通常、十数mmである。従って、発明者らは、本発明の目的とする、パウダー溶融層厚み及びパウダー投入厚みを測定するために必要な、パウダー溶融層厚みが十数mmの場合に、パウダー投入界面と溶鋼界面の、二つの界面の測定(分離)が可能かどうかを確認するためのラボ試験を実施した。
【0026】
先ず、中心周波数が20GHz、変調振幅が4GHzのマイクロ波を用いて、鋳型内溶鋼湯面上へのパウダー(粉体)投入後の厚みを変化させ、パウダー投入量と投入底面の測定指示値の変化を調査した。その結果、パウダー投入量と投入底面指示値に相関があり、パウダーの誘電率の影響を受けて投入パウダー全体層厚みと線形な関係にあることを見出した。
【0027】
ここで、投入底面指示値とは、測定器から溶鋼界面(=溶鋼湯面)までの距離をいう。また、変調振幅とは、マイクロ波の中心周波数からの変動周波数幅を意味する。
【0028】
パウダーの投入量によって投入底面指示値が変化するのは、マイクロ波がパウダーを透過するときにパウダーの誘電率に影響されるためである。
【0029】
そこで、発明者らは、パウダー投入厚みによる投入底面指示値の変化を事前に測定しておけば、検量データを用いて補正することで、連続的にパウダー溶融層厚みの変化を測定できると考えた。
【0030】
しかしながら、前記マイクロ波は波長が十数mmと長く距離測定精度が悪いために、本発明で目的とするパウダー溶融層厚みやパウダー投入界面などの十数cmの範囲内での測定の場合、測定精度ならびにパウダー投入界面での反射波を安定して得ることが難しかった。
【0031】
そこで、発明者らは、パウダー投入界面と溶鋼界面の二つの界面の測定(分離)のさらなる精度向上を図るには、マイクロ波の波長を前記マイクロ波よりも短い数mmにすること、さらに変調振幅を大きくすることが有効であると考えた。
【0032】
マイクロ波を用いて距離を正確に測定するのは、一般的にFMCW(Frequency Modulation Continuous Wave)方式が有効とされていて、今回のマイクロ波も本方式を採用している。
【0033】
FMCW方式は、マイクロ波に周波数変調を連続的に行う方式で、変調振幅と中心周波数が重要である。中心周波数の増加によるメリットは、マイクロ波波長を短くする方向に作用することにあり、また、変調振幅を大きくすると、マイクロ波反射の遅れを分離しやすく、距離の測定精度向上に繋がることが知られている。
【0034】
発明者らは、さらなる距離測定精度の向上を図るべく、中心周波数を、20GHzの前記マイクロ波よりも増加した32GHzのマイクロ波を用い、変調振幅を変化させて、中心周波数が20GHzの前記マイクロ波を用いた場合と同様の試験を実施した。
【0035】
その結果、変調振幅を、4GHzの前記マイクロ波よりも大きい8GHzとすることで、目標とするパウダー投入界面と溶鋼界面の二つの界面の分離測定を、パウダー投入厚みが15mmから可能であることを見出した。
【0036】
本発明は上記の知見に基づいて成されたものである。
以下、請求項1に係る発明の連続鋳造用パウダーの溶融層厚み測定方法について説明する。
発明者らは、図1に示す試験装置を使用してパウダー投入厚みとマイクロ波出力値変化の関係を調査した。なお、マイクロ波出力値とは、パウダーの表面や図1の試験装置を構成する箱の底面で反射した反射波の形状、強度、及び帰還時間を言う。
【0037】
図1中の1は、箱4に装入した粉体のパウダー5に向けてマイクロ波を照射し、パウダー5を透過して箱4の底面で反射したマイクロ波を受信する照射・受信器で、受信用のアンテナ1aを有している。このアンテナ1aで受信されたマイクロ波は、照射・受信器1から信号増幅用のアンプ2を介してデータ収集用PC3に送られる。
【0038】
なお、照射・受信器1から照射されたマイクロ波の一部は、パウダー5の表面(パウダー投入界面)で反射される。
【0039】
前記図1の試験装置を使用した試験においては、パウダー5とパウダー溶融層の界面は箱4の底面と近接しているが、実操業における溶鋼界面に相当する箱4の底面での反射波が最も大きい。
【0040】
従って、この箱4の底面での反射波が、パウダーの有無によって明確な差が生じ、パウダーの厚み変化に対して線形に変化していれば、オフラインでパウダー溶融状態のマイクロ波出力値の変化を測定して校正することで、連続してパウダー溶融層をモニターできることになる。
【0041】
そこで、発明者らは、第1段階の試験として、図1の装置を使用した試験において、箱4に装入するパウダー5の厚みだけを変化させ、マイクロ波出力値が粉体のパウダーの誘電率の影響を受けてどのように変化するかについて調査した。その結果、両者は線形に変化する知見を得た。
【0042】
次に、第2段階の試験として、粉体より密度が高い溶融状態のパウダーを模擬するために、パウダーを一旦溶解して凝固させた試料を粉体のパウダーとの間に挟み、パウダー溶融層を模擬した多層(粉体+固体)状態で、同様の試験を実施した。
【0043】
その結果、溶融凝固後のパウダーの誘電率は、粉体状態のパウダーの誘電率よりも大きいので、マイクロ波出力値に大きな差を生じることを確認し、今回の原理で測定が可能であることが判明した。
【0044】
しかしながら、実操業においては、パウダー溶融層の表面でのマイクロ波の反射は、溶鋼界面と近似していて、溶鋼界面の反射に吸収される懸念があり、明瞭に区別できないことが予想される。
【0045】
そこで、これに対する対策として、発明者らは、溶鋼界面は、金属面での反射なので、粉体のパウダーとパウダー溶融層を通過したマイクロ波は、安定した反射(マイクロ波出力)が得られることを利用してパウダー溶融層厚みを換算する、以下の本発明の原理を思いつくに至った。
【0046】
つまり、本発明の原理では、パウダーとパウダー溶融層を通過したマイクロ波は、空気中を透過したマイクロ波ではないため、粉体のパウダーとパウダー溶融層の平均誘電率の影響を受けて、マイクロ波出力値が大きくなる。すなわち、マイクロ波としては反射が遅れて見掛け上距離が大きくなる出力となる。従って、この大きな距離となったマイクロ波出力値と例えば従来の検尺棒を用いて測定した実際のパウダー溶融層厚みの関係の校正値をデータとして持っておくことで、パウダー溶融層厚みを換算できることになる。
【0047】
実操業における溶鋼界面からの反射波は、パウダーの誘電率の影響を受けた反射波になるので、この溶鋼界面とパウダー投入界面との測定(分離)が出来れば、パウダー溶融層表面でのマイクロ波の反射がなくても精度良くパウダー溶融層厚みを推定することができる。
【0048】
なお、金属面の反射は、溶鋼と固体でも変化しないため、鋳型内のメニスカス(溶鋼界面)として、確認した。
【0049】
従って、先ず、熱間試験、例えばタンマン炉(小型の試験炉)を用いてパウダーを溶融させ、実際のパウダー粉体厚みとパウダー溶融層厚みを従来の検尺棒で測定し、予め溶鋼界面、パウダー投入界面などの多点を測定した際のマイクロ波出力値との校正を行う。
【0050】
そして、マイクロ波を用いて測定した溶鋼界面からパウダー投入界面を減算して求めたパウダー投入厚み(紛体のパウダーとパウダー溶融層の誘電率の影響を受けて生じた差を含んでいる)を、例えば従来の検尺棒等で測定した実際のパウダー溶融層厚みによって校正し、検量線を求めておく。
【0051】
実機の連続鋳造では、鋳型内の溶鋼界面(鋳型内溶鋼湯面、メニスカスとも言う。)の真の値は、通常の操業の流動制御に使われている渦流センサーで常時監視している。従って、渦流センサーで測定した溶鋼界面の真の値と、マイクロ波を用いて測定した溶鋼界面の測定値との差(ズレ)が、粉体のパウダーとパウダー溶融層の誘電率の影響を受けて生じた差(ズレ)であるので、事前に調査した前記検量線から、パウダー溶融層厚みを推算するのである。
【0052】
発明者らは、上記方法に使用するマイクロ波の好適な条件を見出すべく、先ず初めに、中心周波数が20GHz、変調振幅が4GHzのマイクロ波を用いて、下記表1に示す主要成分値のパウダー厚みとマイクロ波出力値の関係を調査した。その結果を図2に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
図2における測定距離は、図1に示したアンテナ1aの根元(アンテナ導波管の細い方)から、パウダー表面及び箱の底面までの測定距離を示したものである。箱の底面は、パウダー投入厚みが増加すると誘電率の影響を多くうけて、見掛けの距離が離れたように出力される。一方、パウダー表面であるパウダー投入界面は、パウダー投入厚みが増えるとアンテナ1aとの距離が近づくので、測定距離が小さくなる。
【0055】
また、パウダー投入界面と溶鋼界面となる箱の底面の二つの界面の分離測定が可能であるかどうかを調査した結果、測定対象面までの測定距離はパウダー投入厚みの変化にほぼ線形に変化していた。
【0056】
このように、中心周波数が20GHz、変調振幅が4GHzのマイクロ波を使用した測定では、パウダー投入厚みと箱の底面の指示値(図2の▲印)に相関があることが判明した。
【0057】
一方、パウダー表面(図2の■印)については、パウダー投入厚みが50mmの場合は反射波が不明瞭で、100mmの場合は反射波がなく、150mmの場合のみ明確な反射波が確認された。
【0058】
本発明で目標とするマイクロ波によるパウダーの上記の二つの界面の測定(分離)を行うためには、パウダー投入厚みが100mm以下での精度が必要である。
【0059】
さらに精度の良い測定を行うためには、パウダー投入界面(パウダー表面)に加えて、溶鋼界面(箱の底面)の二つの測定値を得ることが重要なので、さらなる、精度向上試験として中心周波数が32GHz、変調振幅が8GHzのマイクロ波を用いて、同様の試験を実施した。その結果を図4に示す。
【0060】
図3は、パウダー厚みが40mmの場合における、箱の底面とパウダー表面の二つの界面からの反射波を示すデータの一例で、縦軸がマイクロ波反射波のスペクトルを示し、パウダー表面と箱の底面に相当する距離換算スペクトルにピーク値が出力されていることが読み取れる。
【0061】
また、前述の中心周波数が20GHz、変調振幅が4GHzのマイクロ波を用いた試験では、図2に示したように、パウダー投入厚みは100mm以下の場合の測定ができずに、パウダー投入界面と溶鋼界面の二つの界面の測定(分離)ができなかった。
【0062】
しかしながら、中心周波数が32GHz、変調振幅が8GHzのマイクロ波を使用した場合は、図4に示すように、パウダー投入厚みが15mmから、パウダー表面、箱の底面共に線形に変化し、パウダー投入界面と溶鋼界面の二つの界面の分離測定が可能であった。
【0063】
実操業を考えた場合、パウダー投入厚みが15mm以下ということはほとんど無いため、今回の発明範囲は連続鋳造操業の中で、十分適用可能な範囲と考えられる。従って、発明者らは、パウダー溶融層厚み測定への応用展開について考えた。
【0064】
パウダー溶融層の厚み変化は、パウダーの誘電率変化として現れるため、事前に、パウダー溶融状態の誘電率変化とパウダー投入界面と溶鋼界面の二つの界面の分離出力値を計測しておけば、計測データによりパウダーの溶融層厚みを連続的に推算できることになる。
【0065】
ところで、パウダーの誘電率とマイクロ波の中心周波数、変調振幅は、パウダー投入界面と溶鋼界面の二つの界面の測定精度などに影響を及ぼす。すなわち、パウダーの誘電率は、個々のパウダー物性により多少は変化するものの、粉体か溶融状態かによって大きく影響を受ける。つまり、パウダーの誘電率の変化は、溶融層の厚みに置き換えることが出来るので、マイクロ波の反射がパウダーの誘電率の影響を受けて測定値に変化が現れることは、パウダー溶融層の厚み変化がパウダー誘電率の変化として現れたことを意味している。
【0066】
従って、実用化されている成分範囲の一般的なパウダーには、基本パターンとなるパウダーの投入厚みとパウダー溶融層厚みの検量線を求めておけば、多くのパウダー溶融層厚みの測定に対応することが可能になる。勿論、個々のパウダーの誘電率を測定することも無意味ではない。
【0067】
つまり、パウダー投入界面及び溶鋼界面の二つの界面が安定して測定できれば、本発明で目的とするパウダー溶融層厚みの連続測定は十分に可能となる。
【0068】
鋼の連続鋳造では、図5に示すように、一般的に鋳型内溶鋼13の湯面レベルを測定する目的で、渦流センサー11が設置されている。浸漬ノズル12から供給された溶鋼13は鋳型14内に注入され、鋳型14からの冷却により凝固シェル15を形成し、鋳型下方に引き抜かれる。鋳型内は、注入された溶鋼13を保温・被覆さらに凝固シェル15と鋳型14の潤滑を目的として、パウダー16が投入され、溶鋼13との接触面にパウダー溶融層17が存在している。
【0069】
本発明の目的であるパウダー溶融層厚みの測定原理は、既設の渦流センサー11による溶鋼13の湯面レベル測定値L(真の値)と、マイクロ波を用いた前述のパウダー投入界面と溶鋼界面の二つの界面の測定分離値を対比比較することで、パウダー溶融層厚みを得るものである。
【0070】
すなわち、照射・受信器1より照射したマイクロ波をアンテナ1aで受信し、パウダー投入界面の測定値L2と、溶鋼13の湯面レベルの測定値L1を得る。このうち、パウダー投入界面の測定値L2は、空気中の測定であるために真の値であるが、湯面レベルの測定値L1は、パウダー16を透過しているので、パウダー誘電率の影響を受けて誤差を有している。
【0071】
そして、前記既設の渦流センサー11を用いて測定した溶鋼13の湯面レベルの測定値L(真の値)と、マイクロ波を照射して測定した溶鋼13の湯面レベルの測定値L1の差と、パウダー投入界面の測定値L2から、以下に説明するようにパウダー溶融層厚み変化(誘電率変化)の校正を行い、パウダー溶融層厚みを算出する。
【0072】
(パウダー溶融層厚みの換算方法)
図2をベースにパウダー溶融層厚み変化の試算原理を説明する。
【0073】
図2に示したように、マイクロ波を用いて測定したパウダー表面及び箱の底面までの距離と、パウダー投入厚みには相関があり、連続鋳造時のメニスカスに対応する箱の底面位置の測定距離が、パウダー誘電率の影響を受けてパウダー投入厚み増加と比例して大きくなる傾向がある。
【0074】
マイクロ波を用いて測定した溶鋼界面の距離L1と、渦流センサー11を用いて測定した溶鋼界面の距離Lとの差ΔL1(=L1−L)と、実際のパウダー投入厚みとの関係の一例を示した図を図6に示す。
【0075】
図5を用いて説明したように、溶鋼13の湯面(メニスカス)の真の値は、渦流センサー11により連続的に計測されている。
【0076】
よって、マイクロ波による測定値を、渦流センサー11による測定値を基に事前に校正しておけば、マイクロ波を用いて測定した溶鋼界面までの距離L1と渦流センサー11を用いて連続的に計測されている溶鋼界面までの真の距離Lの差ΔL1(=L1−L)を求めれば、図6からパウダー投入厚みを推算することができる。例えば前記差ΔLが30mmの場合は、図6に示すパウダー粉体単層時の校正線より、パウダー投入厚みは約70mmであると推算できる。
【0077】
同様に、パウダー投入厚み(粉体のパウダー+パウダー溶融層)とパウダー溶融層厚みの関係を事前に校正してデータを用意しておけば、パウダー溶融層厚みを連続的に推算することができる。
【0078】
すなわち、渦流センサー11を用いた溶鋼13の湯面レベルの測定値Lと、マイクロ波を用いた溶鋼13の湯面レベルの測定値L1を、予め冷間で校正して同一指示値としておく。
【0079】
溶鋼13の湯面上にパウダー16が投入されると、渦流センサー11による湯面レベルの測定値Lは変化しないが、マイクロ波による湯面レベルの測定値L1は、パウダー平均誘電率の影響を受けて変化する。
【0080】
そして、これら両測定値の差ΔL1(=L1−L)は、パウダー投入厚み(粉体+パウダー溶融層)の変化に比例するため、予め求めておいた、前記差ΔLとパウダー投入厚み(粉体+パウダー溶融層)、パウダー投入厚み(粉体+パウダー溶融層)とパウダー溶融層厚みの校正データより、パウダー溶融層厚みを推算することができる。これが請求項1に係る発明である。
【0081】
すなわち、請求項1に係る発明では、パウダー投入厚みの変化を、パウダー表面(パウダー投入界面)で反射するマイクロ波で測定した測定値L2で検出し、パウダー投入量(パウダー投入厚み)と、校正データを用いたパウダー溶融層厚みの補正を行なうことと、鋳型内溶鋼の湯面レベル変化に対しては、渦流センサーによる湯面レベル測定値Lとマイクロ波による湯面レベル測定値L1をモニターすることで、パウダー投入厚み変化・鋳型内湯面レベル変化を補正し、パウダー溶融層厚みの測定精度向上を図っている。
【0082】
次に、請求項3に係る発明のパウダー溶融層厚みの測定原理と実施例について説明する。
【0083】
粉体のパウダー部分とパウダー溶融層で大きく誘電率が異なる場合は、図7に示すように、粉体のパウダー表面と、パウダー溶融層の上面、および溶鋼湯面(パウダー溶融層の下面)の距離換算スペクトルが検知されることになる。
【0084】
よって、パウダー溶融層厚みは、マイクロ波による溶鋼の湯面レベル測定値L1からパウダー溶融層の上面レベル測定値L3の差ΔL2(=L1−L3)によっても求めることが可能となる。
【0085】
図8にパウダー溶融層厚みとマイクロ波指示値の関係の一例を示す。
マイクロ波によるパウダー溶融層厚み測定中に、検尺棒を用いて実際のパウダー溶融層厚みを測定し、図8に示したような、マイクロ波指示値と実際のパウダー溶融層厚みの相関を取ることで、連続的にパウダー溶融層厚みを推定することが可能となる。
【0086】
発明者らは、粉体のパウダー部分とパウダー溶融層で大きく誘電率が異なる場合の測定を行った。そのデータの一例を図9に示す。図7に示すような、溶鋼の湯面レベル測定値L1、パウダー溶融層の上面レベル測定値L3、パウダー投入界面測定値L2に相当するマイクロ波反射波が測定できていることが分かる。
【0087】
すなわち、粉体のパウダーとパウダー溶融層の誘電率が大きく異なる場合は、溶鋼の湯面レベルの測定値L1、パウダー投入界面の測定値L2、パウダー溶融層の上面レベルの測定値L3を測定することでパウダー溶融層厚みの推定が可能である。
【0088】
また、誘電率の差が小さい場合でも、先に説明したように、溶鋼の湯面レベルの測定値L1とパウダー投入界面の測定値L2を検出することにより、パウダー溶融層厚みの推定が可能であり、本発明の有効性が確認できた。
【0089】
なお、本発明では、マイクロ波の反射位相変化を考慮して測定精度を向上させている。すなわち、距離の変化量とマイクロ波の反射位相の変化は比例関係にあり、距離の変化は位相の変化にλ/(4π)を乗じることで求められる。従って、波長λが数mm〜数cmと短ければ、マイクロ波の反射位相の変化から、距離の変化量を精度よく求めることができる。
【0090】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0091】
例えば、パウダーの粉体部分と溶融層の界面でのマイクロ波の反射が明瞭に得られる場合には、次のようにして、パウダーの溶融層厚みを測定しても良い。
【0092】
パウダーの粉体部分と溶融層の界面である溶融層の上面からのマイクロ波反射による上面レベル測定値L3と、レーザーやマイクロ波反射などの任意のセンサーによるパウダー表面レベルの測定値L2の差ΔL3(=L3−L2)を粉体状態のパウダー誘電率で補正してパウダー粉体層の厚みを求める。
【0093】
前記求めたパウダー粉体層の厚みと、前記パウダー表面レベルの測定値L2を渦流センサーによって求められた溶鋼の湯面レベル測定値Lから減算する。これにより、モールドパウダー溶融層の厚みを得ることができる。これが請求項2に係る発明である。
【0094】
また、上記の例では、渦流センサーを用いて鋳型内溶鋼界面の真の値を測定したものについて説明しているが、真の値を測定できるものであれば、任意の湯面レベルセンサーにより測定した値を使用しても良い。
【0095】
さらに、上記の例では、中心周波数の増加とパウダー投入界面と溶鋼界面の二つの界面の分離測定を可能として、精度良く測定するために、中心周波数が32GHz、変調振幅が8GHzと大きくしたマイクロ波を使用しているが、本発明のモールドパウダー溶融層厚み測定を可能とするためには、少なくとも中心周波数が20GHz〜32GHzの範囲内にあり、かつ変調振幅が8GHz以内であればよい。
【0096】
その理由は、図2に示した結果を得たラボ試験でも、パウダー投入表面の測定は難しいものの、投入底面の測定は可能であるからである。
【0097】
ちなみに、マイクロ波の波長が長い(中心周波数が小さい)とパウダー粉体を含めて透過し易くなるが、パウダー表面の反射波は得られ難くなる。一方、波長を短く(中心周波数を大きく)するとパウダー表面での反射は容易になるが、パウダー内を透過し難くなる。
【0098】
そこで、発明者らは、マイクロ波の中心周波数を20GHz〜32GHzの範囲に増加し、さらに変調振幅を8GHz以内まで広くすることで、測定に十分なパウダー表面の反射波、およびパウダー内の透過波を得て、パウダー投入界面と溶鋼界面の二つの界面の分離測定を可能としている。
【符号の説明】
【0099】
1 照射・受信器
1a アンテナ
2 アンプ
3 データ収集用PC
4 箱
5 パウダー
11 渦流センサー
12 浸漬ノズル
13 溶鋼
14 鋳型
15 凝固シェル
16 パウダー
17 パウダー溶融層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールドパウダーの粉体部分と溶融層の界面でのマイクロ波の反射が明瞭に得られない場合における、連続鋳造時のモールドパウダー溶融層厚み測定方法であって、
前記モールドパウダーの粉体部分と溶融層の各々の平均誘電率の影響を受けるマイクロ波の反射による溶鋼の湯面レベル測定値L1と、前記平均誘電率の影響を受けない湯面レベルセンサーによる溶鋼の湯面レベル測定値Lの差ΔL1(=L1−L)と、モールドパウダーの溶融層厚みの相関を予め求めておき、
この予め求めておいた相関に基づいて、モールドパウダー溶融層厚みを得ることを特徴とする連続鋳造用モールドパウダーの溶融層厚み測定方法。
【請求項2】
モールドパウダーの粉体部分と溶融層の界面でのマイクロ波の反射が明瞭に得られる場合における、連続鋳造時のモールドパウダー溶融層厚み測定方法であって、
モールドパウダーの粉体部分のみの平均誘導率の影響を受けるモールドパウダーの粉体部分と溶融層の界面である溶融層の上面からのマイクロ波反射による上面レベル測定値L3と、任意のセンサーによるパウダー表面レベルの測定値L2の差ΔL3(=L3−L2)を粉体状態のパウダー誘電率で補正してパウダー粉体層の厚みを求め、
この求めたパウダー粉体層の厚みと、前記パウダー表面レベルの測定値L2を湯面レベルセンサーによって求められた溶鋼の湯面レベル測定値Lから減算することにより、モールドパウダー溶融層の厚みを得ることを特徴とする連続鋳造用モールドパウダーの溶融層厚み測定方法。
【請求項3】
モールドパウダーの粉体部分と溶融層の界面、および溶鋼の湯面でのマイクロ波の反射がそれぞれ明瞭に得られる場合における、連続鋳造時のモールドパウダー溶融層厚み測定方法であって、
前記モールドパウダーの粉体部分と溶融層の各々の平均誘電率の影響を受けるマイクロ波の反射による溶鋼の湯面レベル測定値L1と、モールドパウダーの粉体部分のみの平均誘導率の影響を受けるモールドパウダーの粉体部分と溶融層の界面である溶融層の上面からのマイクロ波反射による上面レベル測定値L3の差ΔL2(=L1−L3)と、モールドパウダーの溶融層厚みの相関を予め求めておき、
この予め求めておいた相関に基づいて、マイクロ波の反射により測定したモールドパウダーの溶融層厚みを較正することを特徴とする連続鋳造用モールドパウダーの溶融層厚み測定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の連続鋳造用モールドパウダーの溶融層厚み測定方法において、
前記マイクロ波による溶鋼の湯面レベル測定値L1と、前記渦流センサーによる溶鋼の湯面レベル測定値Lの差ΔL1(L1−L)を連続的に測定し、前記予め求めておいた相関に基づいてパウダー溶融層厚みを連続的に得ることを特徴とする連続鋳造用モールドパウダーの溶融層厚み測定方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の連続鋳造用モールドパウダーの溶融層厚み測定方法において、
マイクロ波の反射位相変化を用いて、マイクロ波による前記測定値を計測することを特徴とする連続鋳造用モールドパウダーの溶融層厚み測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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