説明

連続鋳造鋳片の二次冷却方法及び装置

【課題】連続鋳造機の二次冷却帯において、鋳片の表面温度を適確に制御して、表面割れ及び内部割れの発生を防止し、高品質の鋳片を製造することを課題を解決する二次冷却方法及び装置を提供する。
【解決手段】連続鋳造機で鋳造した鋳片を、鋳型下部の二次冷却帯で冷却する方法において、(i)連続鋳造鋳片の幅方向における表面温度を測定し、(ii)上記表面温度の最大値又は最小値が目標温度範囲を超えたとき、冷却水の噴霧水量W(L/min)を、冷却水の温度及び噴霧水量密度(L/m2min)に基づいて調整し、上記表面温度が目標温度範囲に収まるように冷却することを特徴とする連続鋳造鋳片の二次冷却方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造鋳型で鋳造した鋳片を二次冷却帯で冷却する冷却方法と冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造機においては、鋳型内で凝固した凝固殻からなり、内部に未凝固の溶鋼を含む鋳片を、鋳型から引き抜き、鋳型に続く湾曲した二次冷却帯で、鋳片表面に冷却媒体を噴霧して、鋳片を冷却するが、二次冷却帯での冷却(以下「二次冷却」ということがある。)は、鋳片の品質に大きく影響する。
【0003】
例えば、鋳片を過剰に冷却(強冷却)すると、連続鋳造機の二次冷却帯の鋳片曲げ部や、鋳片曲げ戻し部で、鋳片表面に表面割れが発生する。一方、鋳片を緩冷却すると、まだ比較的凝固殻が薄く、大きな溶鋼静圧を受けている鋳片が、二次冷却帯の上部を通過する時、鋳片内部に内部割れが発生する。
【0004】
連続鋳造においては、二次冷却帯において、鋳片の表面温度を、適正に制御することが、高品質の鋳片を製造する上で重要である。それ故、鋳片の表面温度又は表面温度分布を、所定の範囲に収めるため、鋳片に噴霧する冷却水量を制御する二次冷却方法及び/又は二次冷却装置が、数多く提案されている(特許文献1〜13、参照)。
【0005】
例えば、特許文献1には、鋳片表面の幅方向における温度分布を測定し、該温度分布が、目標温度に一致するように、冷却水の噴霧水量を調整することや、噴霧ノズルと鋳片表面の面間距離を変更することが提案されている。また、特許文献2にも、鋳片の表面温度を測定し、冷却水の噴霧水量を調整することが提案されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、鋳片の鋳造速度に応じて求めた冷却水量を、二次冷却水の温度に基づいて補正し、二次冷却帯において鋼板に噴霧する冷却水量を制御する冷却水制御装置が提案されている。
【0007】
二次冷却帯での冷却水の冷却能は、冷却水の温度により変わるので、特許文献3提案の冷却水制御装置においては、二次冷却帯での冷却水の噴霧水量を、冷却水の温度に基づく補正係数で増減し、冷却水の冷却能を一定に維持していると推定される。
【0008】
一方、連続鋳造機の操業において、鋳造速度や、鋼種に基づいて、二次冷却帯での冷却水量を調整する冷却方法も提案されている(特許文献5、7、及び、8、参照)。
【0009】
二次冷却おいては、冷却能を一定に維持することが重要であるが、冷却水の冷却能に影響を及ぼす要素が数多くあり、しかも、これら要因が相互に関連している場合もあり、鋳片の表面温度又は表面温度分布を適確に制御し、高品質の鋳片を安定して製造することは難しいのが実情である。
【0010】
【特許文献1】特開昭54−032130号公報
【特許文献2】特開昭55−045581号公報
【特許文献3】特開2000−271713号公報
【特許文献4】特開2001−096346号公報
【特許文献5】特開2001−138019号公報
【特許文献6】特開2001−191158号公報
【特許文献7】特開2002−086252号公報
【特許文献8】特開2002−248553号公報
【特許文献9】特開2004−058117号公報
【特許文献10】特開2005−052881号公報
【特許文献11】特開2006−315011号公報
【特許文献12】特開2007−061888号公報
【特許文献13】特開2007−330998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
鋳片温度を測定して、冷却水の噴霧水量を調整することにより、鋳片温度を、所定の範囲内に収め、良質の鋳片を得ることは可能である。しかし、従来の二次冷却方法によっても、鋳片の表面及び/又は内部に、割れが発生する。
【0012】
この原因は、冷却水温(以下、「水温」ということがある。)が、冷却水の冷却能に及ぼす影響を考慮していないため、水温が季節要因で変化した場合に、鋳片表面温度の制御精度が悪化するためである。
【0013】
例えば、冬場に水温が低下し、鋳片表面温度の測定値が目標温度範囲より下側にあった場合、目標温度に入るように、測定した鋳片表面温度と目標値の差から、必要となる冷却水調整代を演算し、その結果に基づいて、冷却水噴霧水量を調整する(この場合は、水量を減らす)が、水温が冷却能に与える影響を考慮していない場合、演算で求めた冷却水調整代が実機の冷却で必要な調整代と一致せず、水量密度や鋳片表面温度にもよるが、水量調整代に過不足が生じることになる。
【0014】
結果として、測定した鋳片表面温度が目標温度範囲に入るまで、冷却水量の調整が繰り返され、調整の間に目標温度範囲に収まらない状態において、水量減少代が足らない場合は、過冷却に起因する表面割れが発生し、また、水量減少代が多すぎた場合は、冷却不足に起因する内部割れが発生することになる。
【0015】
そこで、本発明は、従来の二次冷却方法においては、鋳片の表面温度が、適確に制御されていないとの前提にたち、連続鋳造機の二次冷却帯において、鋳片の表面温度を適確に制御して、表面割れ及び内部割れの発生を防止し、高品質の鋳片を製造することを課題とする。そして、この課題を解決する二次冷却方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、従来の二次冷却方法において、鋳片の表面温度が適確に制御されていない理由について調査した。
【0017】
その結果、冷却水の温度変化により、冷却水の冷却能は変化するが、
(x)冷却能の変化幅は、冷却水の水量(水量密度)により異なること、及び、
(y)従来の二次冷却方法においては、(x)が考慮されていないこと
が判明した。
【0018】
本発明者らは、知見(x)を前提に、鋳片に噴霧する冷却水の噴霧水量を適確に制御すれば、表面割れ及び内部割れの発生を防止して、高品質の鋳片を安定して製造することができるとの発想の下に鋭意研究し、本発明をなすに至った。本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0019】
(1)連続鋳造機で鋳造した鋳片を、鋳型下部の二次冷却帯で冷却する方法において、
(i)連続鋳造鋳片の幅方向における表面温度を測定し、
(ii)上記表面温度の最大値又は最小値が目標温度範囲を超えたとき、冷却水の噴霧水量W(L/min)を、冷却水の温度、及び、下記(1)式で定義する噴霧水量密度(L/m2min)に基づいて調整し、上記表面温度が目標温度範囲に収まるように冷却する
ことを特徴とする連続鋳造鋳片の二次冷却方法。
噴霧水量密度(L/m2min)=冷却水の噴霧水量W(L/min)/噴霧厚み(m)/スプレーノズルピッチ(m) ・・・(1)
【0020】
(2)前記表面温度を、二次冷却帯の湾曲部上部で測定することを特徴とする前記(1)に記載の連続鋳造鋳片の二次冷却方法。
【0021】
(3)前記(1)又は(2)に記載の連続鋳造鋳片の二次冷却方法を実施する装置であって、
(x)鋳片の幅方向における表面温度を測定する温度測定手段、
(y)上記温度測定手段で測定した表面温度と目標温度範囲を対比し、該表面温度の最大値又は最小値が目標温度を超えたとき、上記表面温度を目標温度範囲に収める冷却水の噴霧水量W(L/min)を、冷却水の温度、及び、下記(1)式で定義する噴霧水量密度(L/m2min)に基づいて演算する水量演算制御装置、及び、
(z)上記水量演算制御装置で演算した噴霧水量Wに基づいて、ノズルから噴霧する冷却水の噴霧水量を調整する流量調整手段、
を備えることを特徴とする連続鋳造鋳片の二次冷却装置。
噴霧水量密度(L/m2min)=冷却水の噴霧水量W(L/min)/噴霧厚み(m)/スプレーノズルピッチ(m) ・・・(1)
【0022】
(4)前記温度測定手段が、二次冷却帯の湾曲部上部に配置されていることを特徴とする前記(3)に記載の連続鋳造鋳片の二次冷却装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、冷却水の温度や水量密度に応じて、冷却水の噴霧水量を調整するので、冷却水の温度が変化した場合においても、鋳片表面温度の精度が悪化しない。
【0024】
例えば、冬場に冷却水の温度が低下し、鋳片表面温度の測定値が目標温度範囲より下側にあった場合、目標温度に入るように、測定した鋳片表面温度と目標値の差から、必要となる冷却水調整代を演算することになる。
【0025】
本発明においては、冷却能に与える水温や水量密度の影響を考慮しているので、実機における冷却現象を精度よく推定でき、演算した冷却水調整代が、実際に必要な冷却水調整代と一致するので、水量調整時間が短縮されて、水量調整の間の過冷却による表面割れや、冷却不足による内部割れの発生が大幅に減少する。
【0026】
また、本発明によれば、連続鋳造機の二次冷却帯の湾曲部上部で、鋳片の幅方向における表面温度を測定しているので、鋳片が急激に冷え込んでも(過冷却しても)、冷却水の噴霧水量を直ちに低減して、鋳片が復熱するのに必要な時間を充分に確保し、鋳片を救済することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明者らは、「連続鋳造機の二次冷却帯において、鋳片の表面温度を適確に制御して、表面割れ及び内部割れの発生を抑制し、高品質の鋳片を製造する」との課題を踏まえ、まず、冷却水の温度が、冷却速度へ及ぼす影響について調査した。
【0028】
表面から4mmの深さの位置に熱電対を埋め込んだ鋼板(試験片)を、1000℃以上に加熱した後、鋼板表面に冷却水を噴霧し、冷却水の温度が冷却速度に及ぼす影響について調査した。
【0029】
図1に、冷却水の温度が、25℃、35℃、及び、45℃の場合の冷却曲線を示す。図2に、図1に示す冷却曲線に基づいて求めた表面温度と熱伝達係数の関係(熱伝達曲線)を示す。
【0030】
図1から、冷却水の温度が低いほど、冷却速度が速いことが解る。また、図2から、鋳片の表面温度が同じでも、冷却水の温度が低いと、熱伝達係数が大きいことが解る。
【0031】
また、図1に示す冷却曲線、及び、図2に示す熱伝達曲線には、変曲点が存在し、この変曲点は、冷却水の温度が低いほど、高温側に移行していることが解る(図中、点線の囲み、参照)。
【0032】
冷却水は、鋼板表面上で、沸騰し、噴霧当初、膜沸騰状態を形成するが、表面温度の低下に伴い、遷移沸騰状態に移行する。図中に示す変曲点は、冷却途中の鋼材表面における沸騰状態が、膜沸騰状態から遷移沸騰状態に移行した時点を示している。
【0033】
膜沸騰状態は、鋼板表面に、蒸気膜が形成されている状態である。鋼板の冷却は、冷却水が蒸気膜を介して熱を奪うことで進行するので、膜沸騰状態での熱伝達係数は小さい。
【0034】
遷移沸騰状態は、鋼材表面に、蒸気膜が局所的に消失している部分が生じている状態である。鋼板の冷却は、冷却水が、蒸気膜消失部分にて、直接、鋼板に接触して熱を奪うことで進行するので、遷移沸騰状態での熱伝達係数は大きい。
【0035】
また、図1から明らかなように、変曲点は、高温側に移行すると同時に、短時間側に移行する。即ち、冷却開始時に鋼材表面に生成する蒸気が消失する(遷移沸騰状態に変化する)時間は、冷却水温が低いほど短くなる。なお、このことは、鋼板表面を目視で観察することで確認した。
【0036】
変曲点の高温側及び短時間側への移行は、「蒸発した水蒸気が水膜に吸収され、復水する量は、水温により変化して、蒸気膜の厚みが変化する」ことに起因すると考えられる。
【0037】
即ち、鋼板表面に噴霧する冷却水の温度が低いほど、水蒸気が水膜に吸収され、復水する量が多くなるので、蒸気膜の消失が速くなるということである。
【0038】
以上のことから、次のことが解る。
(i)鋼板の表面温度が同じでも、冷却水の温度が低いほど、熱伝達係数は大きい。
(ii)冷却水の温度が低いほど、膜沸騰状態から遷移沸騰状態へ移行する時点(図中の変曲点。以下、「移行点」ということがある。)は、高温側及び短時間側に移行する。
即ち、冷却水の温度が変化すると、鋼板表面上の蒸気膜の厚みが変化する。
【0039】
鋼板表面上の蒸気膜の厚さは、蒸気の生成量と、噴霧した冷却水による抜熱量との平衡関係で定まる。冷却水の噴霧水量密度が高くなると、冷却水が、鋼材表面に連続的に接触するので、抜熱量が増え、鋼板表面上の蒸気膜の厚さが薄くなる。
【0040】
噴霧水量密度(L/m2min)は、下記(1)式で定義される指標である。
噴霧水量密度(L/m2min)=冷却水の噴霧水量W(L/min)/噴霧厚み(m)/スプレーノズルピッチ(m) ・・・(1)
【0041】
図8に、上記(1)式の技術的意味を模式的に示す。図8から、冷却水の噴霧水量密度が高くなると、冷却水が、鋼材表面に連続的に接触することになり、抜熱量が増えることが解る。
【0042】
冷却水の温度が変化すると、鋼板表面上の蒸気膜の厚さが変化する現象は、冷却水の噴霧水量(水量密度)を変化させた場合に発現する上記現象と似た現象である。
【0043】
そこで、本発明者らは、「冷却水の温度変化により変化する冷却能の変化幅は、冷却水の噴霧水量密度により異なる」と考え、冷却水の噴霧水量(水量密度)と、冷却水の温度を変えて冷却試験を行った。結果を、図3及び図4に示す。蒸気膜の厚さの変化は、膜沸騰状態から遷移沸騰状態への移行温度の変化で表示した。図4には、熱伝達係数(kcal/m2hr℃)と冷却水の水量密度(L/m2min)の関係を示す。
【0044】
図3から、(a1)膜沸騰状態が遷移沸騰状態に移行する温度(移行温度)が、冷却水の温度と、冷却水の噴霧水量(水量密度)によって変化すること、即ち、(a2)冷却水の噴霧水量(水量密度)に応じて、鋼材表面上の沸騰状態が異なることが解る。
【0045】
また、図4から、鋼板の表面温度が一定の条件下では、冷却水の水量密度や温度に応じて沸騰状態が変わるので、冷却水の温度の影響が、冷却水の水量密度によって変化することが解る。
【0046】
上記知見は、鋼板を冷却する際、鋼板表面の温度を適確に制御するうえで重要である。本発明者らは、上記知見を、連続鋳造機の二次冷却帯における冷却に導入すれば、表面割れ及び内部割れの発生を防止し、高品質の鋳片を、より安定的に製造することができると考えた。
【0047】
図5に、連続鋳造機の二次冷却帯に本発明の実施の一態様を示す。鋳型1を下方に引き抜かれた鋳片2は、サポートロール3で誘導され、曲げ部4を経て、二次冷却帯を通過し、曲戻し部5で曲げ戻される間に冷却される。
【0048】
連続鋳造機鋳型の二次冷却帯の湾曲部(図中、AA’間。以下「湾曲部AA’」ということがある。)の上部に、温度計6が配置されている。温度計6で、鋳片の幅方向における表面温度を測定し、測定値を水量演算制御装置9へ送信する。
【0049】
温度計6の配置位置は、湾曲部AA’の上部で、表面温度を精度よく測定できる位置であればよく、特定の位置に限定されない。
【0050】
高品質の鋳片を安定的に生産するためには、鋳片に歪みが生じる曲戻し部を通過するときの鋳片の表面温度を、脆化温度以上に維持し、表面割れを回避する必要がある。
【0051】
鋳片の表面温度を、曲戻し部5の付近で測定し、表面温度が脆化温度を下回ったとき、噴霧水量を絞る方法が考えられるが、この方法だと、鋳片が復熱するための時間を充分に確保することができなく、結局は、曲戻し部5で、表面割れが生じてしまう。それ故、温度計6は、曲戻し部5より上流側に設置するのが好ましい。
【0052】
さらに、過冷却が発生した場合に、十分な復熱時間を確保すること、また、内部割れは、凝固殻の厚が比較的薄く、溶鋼静圧が大きく作用している鋳片が曲げ部(湾曲部上部)を通過しているときに発生し易いことを考慮すると、温度計6は、湾曲部AA’の上部で、表面温度を精度よく測定できる位置に取り付けるのが好ましい。なお、温度計は、耐久性及び測定精度の点で、放射温度計が好ましい。
【0053】
水量演算制御装置9では、温度計6から送信されてくる表面温度の最大値又は最小値と、設定した目標温度を対比し、最大値又は最小値が目標温度を超えたとき、目標値と測定値の温度の差から、必要な冷却水調整代W2(L/min)を演算し、鋳造速度及び/又は鋼種に基づいて予め設定した噴霧冷却水量W0(L/min)から、W2(L/min)を減算し、噴霧冷却水量W(L/m2min)を演算する。
【0054】
次いで、噴霧ノズル7から噴霧する冷却水の水量を、鋳造速度及び/又は鋼種に基づいて予め設定した噴霧冷却水量W0(L/min)から、上記噴霧冷却水量W(L/m2min)に替える信号を、流量調整弁8へ送信する。
【0055】
噴霧ノズル7から噴霧する冷却水の水量を、鋳造速度及び/又は鋼種に基づいて予め設定した噴霧冷却水量W0(L/min)から、上記噴霧冷却水量Wに替えることにより、鋳片の幅方向における表面温度を、目標温度範囲に収めることができる。
【0056】
噴霧ノズルは、二次冷却帯全域に、適宜の数、配置され、かつ、特定範囲毎に、噴霧冷却水量を調整できるように、噴霧ノズル群に区分されて配置されている。噴霧冷却水量を調整する区間は、特に特定する必要はないが、内部割れ及び表面割れは、二次冷却帯の曲げ部4から曲戻し部5までの間に発生する場合が多いので、曲戻し部5より上流側の噴霧冷却水量を調整することが好ましい。
【実施例】
【0057】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例の条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0058】
(実施例1)
本発明者らは、鋳片の表面温度の推移と、凝固殻の厚さの成長推移を推定する非定常凝固解析モデルを構築し、前記試験結果で得た知見に基き、冷却水の温度が変化した場合における鋳片の表面温度を推定した。
【0059】
なお、非定常凝固解析モデルは、例えば、鉄と鋼、第60巻(1974年)、1023頁に記載されている一般的な手法を用いた。
【0060】
以下の方法を用い、実機表面温度推移とモデル解析値が一致すようにすることで、冷却水の温度が変化した場合における表面温度の推移を推定した。
【0061】
(1)冷却水の温度及び噴霧水量の冷却能への影響を考慮するため、本発明者らの冷却試験で求めた冷却能に係る回帰式を、非定常凝固解析モデルに組み入れた。
(2)実機に温度計を取り付け、冷却水の温度が変わったときの、鋳片の表面温度を測定した。
(3)上記冷却能に係る回帰式に係数を乗じることで、冷却水の温度が変わったときの表面温度とモデル解析値が一致するようにした。
【0062】
なお、二次冷却帯の湾曲部上部(ここでは、メニスカス〜10mの範囲)における鋳片の表面温度の最大目標値、及び、最小目標値を、それぞれ、900℃、及び、700℃とし、冷却水の温度が変わったときの表面温度への影響を推定した。
【0063】
なお、実施例における設備条件及び鋳造条件は、以下の通りである。
[設備条件]
連続鋳造機の機長:30m
二次冷却帯の冷却区間:9区間(湾曲部上部までの冷却区間:4区間)
[鋳造条件]
鋳片の厚み:250mm
鋳片の幅:1250mm
鋳造速度:1.2mpm
冷却区間毎のスプレー水量:表1
【0064】
【表1】

【0065】
図6に、二次冷却帯の湾曲部上部(ここでは、メニスカス〜10mの位置)における鋳片の表面温度の最大値及び最小値を示す。図6から、冷却水の温度に応じて、鋳片の表面温度が変化し、冷却水の温度が38℃を超えると、鋳片の表面温度が、目標温度の範囲外(900℃超)になることが解る。また、同様に、冷却水の温度が30℃未満になると、鋳片の表面温度が、目標温度の範囲外(700℃未満)になることが解る。
【0066】
したがって、冷却水の温度:Tw>38℃、又は、Tw<30℃の場合 冷却水の噴霧水量を増減し、鋳片の温度を目標温度範囲内に戻す必要がある。
【0067】
図7に、冷却水の温度に応じて噴霧水量を増減した場合の、湾曲部上部における鋳片の表面温度の最大値及び最小値を示す。冷却水の水温によらず、鋳片の表面温度は、目標温度範囲内に収まっていることが解る。
【産業上の利用可能性】
【0068】
前述したように、本発明によれば、冷却水の温度の変動に起因して鋳片の表面及び/又は内部に発生する割れを防止して、高品質の鋳片を、安定して製造することができ、また、鋳片が急激に冷え込んだ場合でも、冷却水の噴霧水量を直ちに低減して、鋳片が復熱するのに必要な時間を充分に確保し、鋳片を救済することができる。
【0069】
したがって、本発明は、連続鋳造技術を柱とする鉄鋼産業において、利用可能性が大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】冷却水の温度が、25℃、35℃、及び、45℃の場合における鋼材の冷却曲線を示す図である。
【図2】図1に示す冷却曲線に基づいて求めた表面温度(℃)と熱伝達係数(α)の関係を示す図である。
【図3】水量密度(L/m2min)と移行温度(℃)の関係を示す図である。
【図4】熱伝達係数(kcal/m2hr℃)と冷却水の水量密度(L/m2min)の関係を示す図である。
【図5】連続鋳造機の二次冷却帯の態様示す図である。
【図6】二次冷却帯の湾曲部上部(ここでは、メニスカス〜10mの位置)における鋳片の表面温度の最大計算値、及び、最小計算値を示す図である。
【図7】冷却水の温度に応じて噴霧水量を増減した場合の、湾曲部上部における鋳片の表面温度の最大値及び最小値を示す図である。
【図8】噴霧水量密度(L/m2min)の技術的意味を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 鋳型
2 鋳片
3 サポートロール
4 曲げ部
5 曲戻し部
6 温度計
7 ノズル
8 流量調整弁
9 水量演算制御装置
AA’ 湾曲部
0 冷却水量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造機で鋳造した鋳片を、鋳型下部の二次冷却帯で冷却する方法において、
(i)連続鋳造鋳片の幅方向における表面温度を測定し、
(ii)上記表面温度の最大値又は最小値が目標温度範囲を超えたとき、冷却水の噴霧水量W(L/min)を、冷却水の温度、及び、下記(1)式で定義する噴霧水量密度(L/m2min)に基づいて調整し、上記表面温度が目標温度範囲に収まるように冷却する
ことを特徴とする連続鋳造鋳片の二次冷却方法。
噴霧水量密度(L/m2min)=冷却水の噴霧水量W(L/min)/噴霧厚み(m)/スプレーノズルピッチ(m) ・・・(1)
【請求項2】
前記表面温度を、二次冷却帯の湾曲部上部で測定することを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造鋳片の二次冷却方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の連続鋳造鋳片の二次冷却方法を実施する装置であって、
(x)鋳片の幅方向における表面温度を測定する温度測定手段、
(y)上記温度測定手段で測定した表面温度と目標温度範囲を対比し、該表面温度の最大値又は最小値が目標温度を超えたとき、上記表面温度を目標温度範囲に収める冷却水の噴霧水量W(L/min)を、冷却水の温度、及び、下記(1)式で定義する噴霧水量密度(L/m2min)に基づいて演算する水量演算制御装置、及び、
(z)上記水量演算制御装置で演算した噴霧水量Wに基づいて、ノズルから噴霧する冷却水の噴霧水量を調整する流量調整手段、
を備えることを特徴とする連続鋳造鋳片の二次冷却装置。
噴霧水量密度(L/m2min)=冷却水の噴霧水量W(L/min)/噴霧厚み(m)/スプレーノズルピッチ(m) ・・・(1)
【請求項4】
前記温度測定手段が、二次冷却帯の湾曲部上部に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の連続鋳造鋳片の二次冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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