説明

遊星差動ネジ型回転直動変換機構及びアクチュエータ

【課題】耐久性に問題を生じることなくオイルシールが容易な遊星差動ネジ型回転直動変換機構及びこの遊星差動ネジ型回転直動変換機構を備えたアクチュエータ。
【解決手段】ナット10は後方カラー18にて後方側の端部が密閉され、この端部側でのオイルシールは考慮する必要がないことから、前方側の端部側のみ、オイルシール24を配置してシールすれば良くオイルシールが容易となる。サンシャフト12の軸方向移動領域を制限するナット10の2つの内面16d,18aは共に、高剛性材料にて形成されているナット10に設定されているため、回転直動変換機構6を収納するハウジング4に対して、サンシャフト12の軸方向移動領域を制限するための当接面を設定する必要がない。このため耐久性上の問題を生じることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナットの内部空間にて噛み合うサンシャフト、プラネタリシャフト及びナットのネジ間の差動により、ナットとサンシャフトとの間で回転直動間の変換を行う遊星差動ネジ型回転直動変換機構及びこの遊星差動ネジ型回転直動変換機構を備えたアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
コントロールシャフトのスライドによって、バルブ特性の一つであるバルブ作用角を変更する内燃機関可変動弁機構用のアクチュエータが知られ、このようなアクチュエータにおいては遊星差動ネジ型回転直動変換機構を備えたものが知られている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0003】
この内、特許文献2では、サンシャフトの軸方向移動を規制するものとして、サンシャフトに設けたリングをハウジング本体に設けたフランジに当接させている。特許文献3では、円筒状のナット内に入らないようにサンシャフトに大径のストッパを設けて、このストッパをナットの両端面に当接させることにより、サンシャフトの両方向での移動領域を規制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−2588号公報(第8−12頁、図2)
【特許文献2】特開2007−298069号公報(第6−7頁、図1)
【特許文献3】特開2007−64314号公報(第6−10頁、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2のようにハウジング本体に設けたフランジでは、ハウジング本体が軽量化などのために軽合金が用いられる場合などでは、サンシャフトに設けたリングが当接する際に過大な圧力が作用して耐久性に問題を生じる場合がある。
【0006】
特許文献3では、元来、高剛性とされているナットにサンシャフトのストッパを当接することから、耐久性上の問題は生じない。
しかし、特許文献3のストッパ機構では、ナットの両端部を大きく開口したままの構成を採用している。このことにより差動機構が存在するナット内部をオイルシールすることが不可能となる。したがって遊星差動ネジ型回転直動変換機構の周りに配置する電動モータその他の機構へのオイル浸入防止のためには、ナット外にて複雑なオイルシール構造を採用する必要性が生じる。
【0007】
本発明は、耐久性に問題を生じることなくオイルシールが容易な遊星差動ネジ型回転直動変換機構及びこの遊星差動ネジ型回転直動変換機構を備えたアクチュエータを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用・効果について記載する。
請求項1に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構は、サンシャフトと、このサンシャフトの周上に配列された複数のプラネタリシャフトと、このプラネタリシャフトの配列外側に配置されたナットとを備え、ナットの内部空間にて噛み合うサンシャフト、プラネタリシャフト及びナットのネジ間の差動により、ナットとサンシャフトとの間で回転直動間の変換を行う遊星差動ネジ型回転直動変換機構であって、前記サンシャフトの突出方向とは反対側にて前記ナットの端部を密閉する密閉壁と、前記密閉壁の内面位置から前記サンシャフトが突出する側の領域にて前記ナットに設定され、前記サンシャフトの移動方向に向けられていると共に相互に反対方向に向けられた2面であって、前記サンシャフトに当接することでサンシャフトの軸方向移動領域を制限する移動領域設定当接面とを備えたことを特徴とする。
【0009】
ナットは、密閉壁にてサンシャフトの突出方向とは反対側の端部が密閉されているので、この端部側でのオイルシールは考慮する必要がない。したがってサンシャフトの突出方向の端部側のみ、オイルシールを配置してシールすれば良いことから、オイルシールが容易となる。
【0010】
そして、サンシャフトの軸方向移動領域を制限する移動領域設定当接面は2面とも、ナットにおいて密閉壁の内面位置からサンシャフトが突出する側の領域に設定されている。このように、元来、高剛性材料にて形成されているナットにて、当接面が2面とも設定されている。このため遊星差動ネジ型回転直動変換機構を各種用途に適用する場合に、この遊星差動ネジ型回転直動変換機構を収納するハウジングにおいては、サンシャフトの軸方向移動領域を制限する当接面を設定する必要がないことから、耐久性上の問題を生じることがない。
【0011】
請求項2に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構では、請求項1に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、前記密閉壁とは反対側における前記ナットの端部は、前記サンシャフトを貫通させて前記ナットから突出させている貫通壁を備えると共に、この貫通壁は、前記ナットの内部空間に対してオイルを給排する油孔が開口されていることを特徴とする。
【0012】
尚、ナットにおける密閉壁とは反対側の端部には、サンシャフトを貫通させ、かつ油孔が開口する貫通壁を備えることができる。この油孔からナットの内部空間にオイルが給排されるが、この油孔が存在する貫通壁側のみオイルシールを行えば良く、密閉壁側はオイルシールは不要となる。このようにオイルシールが容易となる。
【0013】
請求項3に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構では、請求項2に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、前記移動領域設定当接面は、前記密閉壁の内面と前記貫通壁の内面とに設定され、前記サンシャフトは前記密閉壁側の端部が前記密閉壁の内面に当接し、外周面に設けた突出部が前記貫通壁の内面に当接することで、前記移動領域設定当接面にて軸方向移動領域を制限されていることを特徴とする。
【0014】
このようにサンシャフトの端部が密閉壁の内面に当接し、サンシャフトの突出部が貫通壁の内面に当接することにより、収納するハウジングの耐久性に問題を生じさせることなく、サンシャフトの軸方向移動領域を制限することができる。
【0015】
しかも移動領域設定当接面とこれに当接するサンシャフトの部分とが完全にナット内に収納されるので、遊星差動ネジ型回転直動変換機構を各種用途に適用する場合に、前述したごとく耐久性上の問題を生じないことと共に、外部の部材との干渉も生じにくく、配置の自由度が高まる。
【0016】
請求項4に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構では、請求項2に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、前記移動領域設定当接面は、前記貫通壁の内面と前記貫通壁の外面とに設定され、前記サンシャフトは、前記貫通壁の内外にて外周面に2つの突出部を設け、一方の突出部が前記貫通壁の内面に当接し、他方の突出部が前記貫通壁の外面に当接することで、前記移動領域設定当接面にて軸方向移動領域を制限されていることを特徴とする。
【0017】
このようにサンシャフトの一方の突出部が貫通壁の内面に当接し、他方の突出部が貫通壁の外面に当接するようにしても良い。すなわち密閉壁には移動領域設定当接面を設定せず貫通壁のみに移動領域設定当接面を2面設定することで、収納するハウジングの耐久性に問題を生じさせることなく、サンシャフトの軸方向移動領域を制限することができる。
【0018】
請求項5に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構では、請求項2〜4のいずれか一項に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、前記貫通壁は、その外周に一体化している円筒部を備え、この円筒部を、前記ナットの本体に対して外側から嵌め込まれていることで、前記ナットの一部として一体化されていると共に、前記円筒部と前記ナットの本体の一部とによりベアリングを軸方向で挟持することで、前記ナットの外周面に前記ベアリングを取り付けていることを特徴とする。
【0019】
このように貫通壁に設けられている円筒部を利用してナットの本体と共に外周面のベアリングを挟持して保持させることができる。このことで少ない部品で、ナットを回転可能に支持するためのベアリングをナットに取り付けることが可能となる。
【0020】
請求項6に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構では、請求項1〜5のいずれか一項に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、前記サンシャフトはサンネジとサンギヤとを有し、前記複数のプラネタリシャフトはそれぞれプラネタリネジとプラネタリギヤとを有して前記サンシャフトの周上に配列され、前記ナットは内ネジと内ギヤとを有して前記プラネタリシャフトの配列外側に配置されて、前記ナットの内部空間にてネジ及びギヤによる噛合が形成されたものであることを特徴とする。
【0021】
このようにギヤの噛み合いを利用してナットの回転力を十分にプラネタリシャフトに伝達することで円滑な回転直動変換が可能となっている遊星差動ネジ型回転直動変換機構においてもオイルシールが容易にできることから、ナットの内部空間に配置されているネジ及びギヤによる噛合部分に十分にオイルを供給できる。
【0022】
請求項7に記載のアクチュエータでは、回転駆動源の回転を直線運動に変換して出力するアクチュエータであって、請求項1〜6のいずれか一項に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構を備え、前記ナットを前記回転駆動源にて回転させることにより、前記サンシャフトに接続された部材を直線運動させることを特徴とする。
【0023】
請求項1〜6にて述べた遊星差動ネジ型回転直動変換機構のいずれかを備えて回転駆動源によりナットを回転させるアクチュエータとすることで、収納するハウジングの耐久性に問題を生じることなく、かつオイルシールを容易なものとすることができる。このことからアクチュエータの耐久性向上や製造コスト低減に貢献できる。
【0024】
請求項8に記載のアクチュエータでは、請求項7に記載のアクチュエータにおいて、前記サンシャフトに接続された部材は軸方向にスライドさせることによりバルブ特性を変更する内燃機関の可変動弁機構に設けられたコントロールシャフトであることを特徴とする。
【0025】
このように内燃機関の可変動弁機構に設けられたコントロールシャフトをスライドさせるアクチュエータに適用しても、前述したごとく耐久性に問題を生じることなく、かつオイルシールを容易なものにできる。このため内燃機関の耐久性向上や製造コスト低減に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施の形態1のアクチュエータの縦断面図。
【図2】実施の形態1のアクチュエータに組み込まれている回転直動変換機構の斜視図。
【図3】同じく別方向から見た回転直動変換機構の斜視図。
【図4】同じく回転直動変換機構の部分破断斜視図。
【図5】(a)〜(c)実施の形態1の回転直動変換機構におけるナットの構成説明図。
【図6】同じくナットの分解斜視図。
【図7】(a),(b)実施の形態1の回転直動変換機構におけるサンシャフトの軸方向移動領域を示す説明図。
【図8】(a),(b)実施の形態2の回転直動変換機構におけるサンシャフトの軸方向移動領域を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[実施の形態1]
図1は内燃機関の可変動弁機構に用いられるアクチュエータ2の縦断面図を示している。このアクチュエータ2は、軽合金製のハウジング4、ここではアルミニウム合金製のハウジング4の内部に、遊星差動ネジ型回転直動変換機構(以下、回転直動変換機構と略す)6を配置している。
【0028】
このアクチュエータ2は電動アクチュエータとして構成され、背面位置に備えられている駆動制御回路8からの電気信号により、ハウジング4と回転直動変換機構6のナット10との間に形成したステータ4a及びロータ6aからなる電動モータ(回転駆動源に相当)を駆動することで、ナット10を回転させるものである。そしてナット10の回転運動を、回転直動変換機構6内部で直動(直線運動)に変換している。このことでハウジング4から前方に突出するサンシャフト12を、電動モータにより軸方向に移動することができる。
【0029】
本実施の形態のアクチュエータ2は、内燃機関の可変動弁機構に適用するものである。したがって駆動制御回路8にて、回転センサにより検出されるナット10の回転量を換算してサンシャフト12のスライド量を算出し、このスライド量が目標位置を示すように制御することができる。
【0030】
ハウジング4から前方に突出した部分にてサンシャフト12には可変動弁機構側のコントロールシャフト(請求項におけるサンシャフトに接続された部材に相当)が接続されているので、駆動制御回路8によりコントロールシャフトの軸方向位置が調節できる。このことにより、バルブ作用角、例えば吸気バルブのバルブ作用角を調節することで、吸入空気量を制御して内燃機関の出力を調節できる。
【0031】
アクチュエータ2に組み込まれている回転直動変換機構6を図2〜4に示す。図2,3は斜視図、図4は縦断して示す部分破断斜視図である。回転直動変換機構6は、ナット10、サンシャフト12及び複数のプラネタリシャフト14を主体として構成されている。
【0032】
ナット10は、図5,6に示すごとく、サンシャフト12の突出方向の端部に前方カラー16が固定され、反対側端部は後方カラー18が固定されている。前方カラー16は円筒状のナット本体10aに対してその外側から嵌合状態で固定されている。この固定は圧入、溶接、あるいは螺合により固定されている。尚、図5の(a)は正面図、(b),(c)はそれぞれ異なる方向から見た斜視図、図6は分解斜視図である。
【0033】
前方カラー16の端面は、貫通壁16aをなして、その中央に中央貫通孔16bが形成されて、サンシャフト12が突出している。中央貫通孔16bの周囲にはナット10の内部空間に潤滑油としてのオイルを給排するための油孔16cが貫通している。
【0034】
後方カラー18は、ナット本体10aの後端内面に固定されて、全体が密閉壁として機能して、サンシャフト12の突出方向とは反対側の端部を密閉することでナット本体10aの内部空間を完全に閉塞している。この固定は圧入、溶接、あるいは螺合により固定されている。尚、後方カラー18の背面には、図1に示したごとく回転センサの回転部20が設けられ、その回転量が駆動制御回路8側のセンサ回路により検出されている。
【0035】
ナット10の内部には、複数のプラネタリシャフト14、ここでは6本又は9本がサンシャフト12の周上に配列されている。これらのプラネタリシャフト14は、均等の位相間隔にて、あるいは6本の場合には2本ずつペアとして、3ペアが120°の位相間隔に配列されている。
【0036】
ナット10は、内ネジ10bと、この内ネジ10bの両側にてネジが形成されていない内周面に固定されたリングギヤ10c,10d(内ギヤに相当)とを備えている。内ネジ10bはここでは5条からなる左ネジである。
【0037】
サンシャフト12は、サンネジ12a、サンネジ12aの前後に配置されている平歯ギヤであるサンギヤ12b,12c、及びナット10より飛び出した位置にストレートスプライン12dを備えている。サンネジ12aは、ここでは4条からなる右ネジである。
【0038】
そしてプラネタリシャフト14は、ナット10及びサンシャフト12と軸方向を同一にし、ナット10とサンシャフト12との間に配列されている。プラネタリシャフト14は、プラネタリネジ14a、プラネタリネジ14aの前方に前方プラネタリギヤ14b、及び後方に後方プラネタリギヤ14cを備えたものである。前方プラネタリギヤ14bはプラネタリネジ14aと一体に回転するが、後方プラネタリギヤ14cはプラネタリネジ14aに対して自由回転可能に軸支されている。尚、プラネタリネジ14aは1条からなる左ネジである。
【0039】
上述した各構成が、図1,4に示したごとく組み合わされている。
すなわちプラネタリシャフト14の前方プラネタリギヤ14bがナット10の内面に固定されている前方リングギヤ10cに噛み合わされ、後方プラネタリギヤ14cがナット10の内面に固定されている後方リングギヤ10dに噛み合わされている。プラネタリシャフト14のプラネタリネジ14aはナット10の内ネジ10bに噛み合わされている。このことによりプラネタリシャフト14とナット10との間の噛合状態が形成されている。
【0040】
更にプラネタリシャフト14の前方プラネタリギヤ14bはサンシャフト12の前方サンギヤ12bと噛み合わされ、プラネタリシャフト14の後方プラネタリギヤ14cは後方サンギヤ12cと噛み合わされている。プラネタリシャフト14のプラネタリネジ14aはサンシャフト12のサンネジ12aに噛み合わされている。このことによりプラネタリシャフト14とサンシャフト12との間に噛合状態が形成されている。
【0041】
尚、サンシャフト12のストレートスプライン12dは、図1に示したごとく回転直動変換機構6がアクチュエータ2に組み込まれることで、アクチュエータ2のハウジング4の開口部分に形成されているストレートスプライン4bに噛み合わされる。したがってアクチュエータ2の駆動時には、サンシャフト12は、ストレートスプライン12dでハウジング4側のストレートスプライン4bに対して摺動することで軸方向移動は許されるが軸回転は阻止されることになる。
【0042】
アクチュエータ2のハウジング4内にてベアリング22により回転可能に支持されたナット10が、アクチュエータ2の駆動により、ロータ6aを介してステータ4aから回転力を受けると、その回転力は、前方リングギヤ10cによりプラネタリシャフト14の前方プラネタリギヤ14bに伝達される。そして前方プラネタリギヤ14bと一体のプラネタリネジ14aがサンシャフト12のサンネジ12aとナット10の内ネジ10bとの間で転動する動力となる。
【0043】
前述のごとく噛み合っているナット10の内ネジ10b、プラネタリシャフト14のプラネタリネジ14a、及びサンシャフト12のサンネジ12aは、ピッチ円径の比が「5:1:3」であるが、ネジ条数の比は「5:1:4」である。このためプラネタリシャフト14が上述のごとく転動により自転しつつ公転してもナット10とプラネタリシャフト14との間で軸方向での相対的移動は生じないが、サンシャフト12は、ナット10とプラネタリシャフト14とに対して軸方向での相対的移動を生じる。すなわち差動を生じる。
【0044】
このことによりナット10に対する回転力が、サンシャフト12を軸方向へ直動させる駆動力となる。すなわち電動モータの回転運動をサンシャフト12の直線運動に変換させることができる。このサンシャフト12の前方側先端には可変動弁機構側のコントロールシャフトが接続されていることから、駆動制御回路8がナット10の回転量を調節することでコントロールシャフトの軸方向位置が調節され、吸気バルブのバルブ作用角などのバルブ特性を調節することができる。
【0045】
尚、回転直動変換機構6を構成するナット10,サンシャフト12、プラネタリシャフト14についてはいずれも、回転直動変換動作時に加わる力に耐えうるように十分に耐久性の高い高剛性材料、例えば鉄合金製の材料にて形成されている。
【0046】
このような回転直動変換機構6の駆動においては、サンシャフト12がナット10に対して軸方向(前後方向)に移動することになるが、その移動量の前後方向の規制は、前方カラー16と後方カラー18とにより行われる。
【0047】
すなわちサンシャフト12にはナット10内において前方サンギヤ12bよりも前方にリング状のストッパ12eが外周面から突出している。このストッパ12eの外径は、前方カラー16の中央貫通孔16bよりも十分に大きく形成されている。したがって図7の(a)に示したごとく、サンシャフト12が前方に移動した場合に、突出部として形成されたストッパ12eが前方カラー16の貫通壁16aの内面16dに当接することで、これ以上、サンシャフト12が前方に移動することを阻止できる。
【0048】
更に図7の(b)に示したごとく、サンシャフト12が後方に移動した場合に、後方サンギヤ12cの先端面12fが後方カラー18の内面18aに当接することで、これ以上、サンシャフト12が後方に移動するのを阻止できる。
【0049】
後方カラー18の内面18aと前方カラー16の貫通壁16aの内面16dとは、ナット10において、密閉壁である後方カラー18の内面18a位置からサンシャフト12が突出する側の領域に設定されたものであり、サンシャフト12の移動方向に向けられていると共に相互に反対方向に向けられた2面となっている。すなわちナット10の2つの内面18a,16dは、移動領域設定当接面としてサンシャフト12に当接することでサンシャフト12の軸方向移動領域を前方移動位置Elowと後方移動位置Ehighとの間に制限するものとなっている。
【0050】
このように後方側については後方カラー18の内面18aが移動領域設定当接面となっているため、後方カラー18は完全に密閉壁として構成できる。このため前方カラー16の油孔16cを介してナット10の内部空間に導入されているオイルは、ナット10の後方からアクチュエータ2のハウジング4内に漏出することが阻止されている。
【0051】
したがって、アクチュエータ2のハウジング4とナット10との間に配置されているオイルシール24は、電動モータ(ステータ4aやロータ6a)が存在する空間よりも前方のみに配置することで、電動モータ側へオイルが浸入することを防止している。
【0052】
尚、前方カラー16は、ナット本体10aの外側から嵌め込まれている。このように外周側に圧入されている前方カラー16の円筒部16eを利用し、ベアリング22がナット10に取り付けられている。すなわち前方カラー16の円筒部16eの先端と、ナット本体10aの外周面に設けられた係止リング部10eとの間でベアリング22の内輪部分を軸方向で挟持することで、ナット10の外周面にベアリング22を固定している。
【0053】
以上説明した本実施の形態1によれば、以下の効果が得られる。
(1)ナット10は、密閉壁である後方カラー18にて、サンシャフト12の突出方向とは反対側(後方側)の端部が密閉されている。したがって、この端部側でのオイルシールは考慮する必要がないことから、サンシャフト12の突出方向(前方側)の端部側のみ、オイルシール24を配置してシールすれば良く、オイルシールが容易となる。
【0054】
特に上述したごとく遊星差動ネジ型である回転直動変換機構6においてオイルシールが容易にできることから、ナット10の内部空間に配置されているネジ10b,12a,14a及びギヤ10c,10d,12b,12c,14b,14cによる噛合部分に十分にオイルを供給できる。
【0055】
そしてサンシャフト12の軸方向移動領域を制限する移動領域設定当接面であるナット10の2つの内面18a,16dは共に、後方カラー18の内面18aの位置からサンシャフト12が突出する側の領域において、ナット10上に設定されている。このように、元来、高剛性材料にて形成されているナット10に、2面とも設定されているため、回転直動変換機構6を収納するハウジング4に対して、サンシャフト12の軸方向移動領域を制限するための当接面を設定する必要がない。このためアクチュエータ2は耐久性上の問題を生じることがない。
【0056】
(2)前方カラー16を設ける場合に、その円筒部16eを利用して、ナット本体10aと共に、外周面のベアリング22を挟持して保持させることができる。このことで少ない部品で、ナット10を回転可能に支持するためのベアリング22をナット10に取り付けて固定することが可能となる。
【0057】
(3)特にアクチュエータ2は、内燃機関の可変動弁機構に設けられたコントロールシャフトを軸方向にスライドすることで、内燃機関のバルブ特性を変更するものである。このためアクチュエータ2が耐久性上で問題を生じることなく、かつオイルシールを容易なものにできるので、内燃機関の耐久性向上や製造コスト低減に貢献できる。
【0058】
(4)前方カラー16の内面16dと後方カラー18の内面18aとにそれぞれ当接するサンシャフト12の先端面12fとストッパ12eとは、完全にナット10内に収納される。このため図1に示したごとく回転直動変換機構6をアクチュエータ2に組み込んでも、アクチュエータ2のハウジング4内の各種部材との干渉が生じにくい。このためアクチュエータ2内での回転直動変換機構6の配置自由度が高い。
【0059】
[実施の形態2]
本実施の形態の回転直動変換機構106を図8に示す。図8の(a)はサンシャフト112を最も前方の位置に移動させた状態を示し、(b)は最も後方に移動させた状態を示している。
【0060】
ここでは、前記実施の形態1とは異なり、サンシャフト112にはナット110の前方外側にもう一つのストッパ112gを設けている。このストッパ112gはサンシャフト112に軸直交方向に開けられた嵌合孔112hにピンを嵌合して固定して形成したものである。
【0061】
このような構成により、図8の(b)に示したごとく、サンシャフト112が後方に移動した場合には、後方サンギヤ112cの先端面112fが後方カラー118の内面118aに当接する前に、ストッパ112gが前方カラー116の貫通壁116aの外面116fに当接して、これ以上の後方への移動を阻止する。尚、本実施の形態では、後方カラー118にはサンシャフト112の先端面112fを当接させないように、肉薄に形成されている。
【0062】
これ以外の構成は、前記実施の形態1と同じであり、図8の(a)に示したごとくサンシャフト112が前方に移動した場合には、ナット110内部のストッパ112eが前方カラー116の貫通壁116aの内面116dに当接して、これ以上の前方への移動を阻止する。
【0063】
本実施の形態においても前記実施の形態1と同様に、後方カラー118はナット110の後方側を完全に密閉できる。このためアクチュエータのハウジング104とナット110との間のオイルシール124は、前記実施の形態1と同様に一つであっても電動モータ側にオイルが浸入することを防止できる。
【0064】
しかもナット110の2つのストッパ112e,112gは共にナット110の一部である前方カラー116の貫通壁116aにおける内面116dと外面116fとに当接するものであることから、アクチュエータのハウジング104の耐久性には問題を生じることなく、サンシャフト112の軸方向移動領域を制限することができる。
【0065】
したがって前記実施の形態1に述べた(1)〜(3)と同様な効果を生じる。
[その他の実施の形態]
・前記各実施の形態ではプラネタリシャフトは6本と9本が用いられている例を示したが、これ以外の複数本用いられているものでも良い。
【0066】
・前記各実施の形態では、回転直動変換機構はアクチュエータに組み込んで内燃機関の可変動弁機構に設けられたコントロールシャフトの駆動を行うものであるが、これ以外の用途にも用いることができる。
【符号の説明】
【0067】
2…アクチュエータ、4…ハウジング、4a…ステータ、4b…ストレートスプライン、6…回転直動変換機構、6a…ロータ、8…駆動制御回路、10…ナット、10a…ナット本体、10b…内ネジ、10c…前方リングギヤ、10d…後方リングギヤ、10e…係止リング部、12…サンシャフト、12a…サンネジ、12b…前方サンギヤ、12c…後方サンギヤ、12d…ストレートスプライン、12e…ストッパ、12f…先端面、14…プラネタリシャフト、14a…プラネタリネジ、14b…前方プラネタリギヤ、14c…後方プラネタリギヤ、16…前方カラー、16a…貫通壁、16b…中央貫通孔、16c…油孔、16d…内面、16e…円筒部、18…後方カラー、18a…内面、20…回転センサの回転部、22…ベアリング、24…オイルシール、104…ハウジング、106…回転直動変換機構、110…ナット、112…サンシャフト、112c…後方サンギヤ、112e…ストッパ、112f…先端面、112g…ストッパ、112h…嵌合孔、116…前方カラー、116a…貫通壁、116d…内面、116f…外面、118…後方カラー、118a…内面、124…オイルシール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンシャフトと、このサンシャフトの周上に配列された複数のプラネタリシャフトと、このプラネタリシャフトの配列外側に配置されたナットとを備え、ナットの内部空間にて噛み合うサンシャフト、プラネタリシャフト及びナットのネジ間の差動により、ナットとサンシャフトとの間で回転直動間の変換を行う遊星差動ネジ型回転直動変換機構であって、
前記サンシャフトの突出方向とは反対側にて前記ナットの端部を密閉する密閉壁と、
前記密閉壁の内面位置から前記サンシャフトが突出する側の領域にて前記ナットに設定され、前記サンシャフトの移動方向に向けられていると共に相互に反対方向に向けられた2面であって、前記サンシャフトに当接することでサンシャフトの軸方向移動領域を制限する移動領域設定当接面と、
を備えたことを特徴とする遊星差動ネジ型回転直動変換機構。
【請求項2】
請求項1に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、前記密閉壁とは反対側における前記ナットの端部は、前記サンシャフトを貫通させて前記ナットから突出させている貫通壁を備えると共に、この貫通壁は、前記ナットの内部空間に対してオイルを給排する油孔が開口されていることを特徴とする遊星差動ネジ型回転直動変換機構。
【請求項3】
請求項2に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、
前記移動領域設定当接面は、前記密閉壁の内面と前記貫通壁の内面とに設定され、
前記サンシャフトは前記密閉壁側の端部が前記密閉壁の内面に当接し、外周面に設けた突出部が前記貫通壁の内面に当接することで、前記移動領域設定当接面にて軸方向移動領域を制限されていることを特徴とする遊星差動ネジ型回転直動変換機構。
【請求項4】
請求項2に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、
前記移動領域設定当接面は、前記貫通壁の内面と前記貫通壁の外面とに設定され、
前記サンシャフトは、前記貫通壁の内外にて外周面に2つの突出部を設け、一方の突出部が前記貫通壁の内面に当接し、他方の突出部が前記貫通壁の外面に当接することで、前記移動領域設定当接面にて軸方向移動領域を制限されていることを特徴とする遊星差動ネジ型回転直動変換機構。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、前記貫通壁は、その外周に一体化している円筒部を備え、この円筒部を、前記ナットの本体に対して外側から嵌め込まれていることで、前記ナットの一部として一体化されていると共に、
前記円筒部と前記ナットの本体の一部とによりベアリングを軸方向で挟持することで、前記ナットの外周面に前記ベアリングを取り付けていることを特徴とする遊星差動ネジ型回転直動変換機構。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、前記サンシャフトはサンネジとサンギヤとを有し、前記複数のプラネタリシャフトはそれぞれプラネタリネジとプラネタリギヤとを有して前記サンシャフトの周上に配列され、前記ナットは内ネジと内ギヤとを有して前記プラネタリシャフトの配列外側に配置されて、前記ナットの内部空間にてネジ及びギヤによる噛合が形成されたものであることを特徴とする遊星差動ネジ型回転直動変換機構。
【請求項7】
回転駆動源の回転を直線運動に変換して出力するアクチュエータであって、請求項1〜6のいずれか一項に記載の遊星差動ネジ型回転直動変換機構を備え、前記ナットを前記回転駆動源にて回転させることにより、前記サンシャフトに接続された部材を直線運動させることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項8】
請求項7に記載のアクチュエータにおいて、前記サンシャフトに接続された部材は軸方向にスライドさせることによりバルブ特性を変更する内燃機関の可変動弁機構に設けられたコントロールシャフトであることを特徴とするアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−169352(P2011−169352A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31730(P2010−31730)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】