説明

遊星歯車機構のピニオンギヤ用黒鉛添加樹脂系すべり軸受

【課題】 従来、遊星歯車機構のピニオンギヤ用に使用されていたころがり軸受に代わる黒鉛添加樹脂系すべり軸受を提供する。
【解決手段】 黒鉛−平均粒径が5〜50μmであり、黒鉛化度が0.6以上であり、且つ、平均粒径の0.5倍以下である微粒子を除いた粒子の下記定義による平均形状係数(YAVE)が1〜4であって、かつ形状係数(Y)=1〜1.5の範囲の粒子が個数割合で70%以上存在黒鉛5〜60重量%と、残部ポリイミド樹脂及び/又はポリアミドイミド樹脂からなる摺動層を裏金上に焼成した軸受。
AVE=total[{PM/4πA}]/i
Y=PM/4πA
PMは粒子1個の周囲長さ、Aは粒子1個当りの断面積、iは測定個数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートマティックトランスミッションの遊星歯車機構のピニオンギヤに使用される軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遊星歯車機構は、同軸状に配置されたサンギヤ(太陽歯車)及び内歯車と、これらサンギヤ及び内歯車と噛合う複数個のピニオンギヤ(遊星歯車)からなることは、例えば特許文献1:特開2006−336754号公報にて公知であり、その代表図を本願の図1に引用する。図中、11はサンギヤ、12は内歯車、14はピニオンギヤである。
【0003】
ピニオンギヤはギヤ段によっては、30000rpmに近い高速で運転され、荷重も25MPaと高く、さらに、摩耗量の許容値や起動時の摺動抵抗についても要求が高いために、従来ころがり軸受が使用されていた。例えば、特許文献2:特開2001−124157号公報には、ピニオンシャフトとピニオンギヤの間にころがり軸受(ローラーベアリング)を配置し、ころがり軸受を介して回転自在にピニオンギヤを取付けた遊星歯車機構が記載されている。
また、ピニオンギヤの外側面に接して設けられる環状ワッシャ(特許文献2の図1の参照符号10に相当する)にはギヤ反力によるスラスト力がかからないのでりん青銅などのすべり軸受が用いられる(非特許文献1:機械要素活用マニュアル「すべり軸受」工業調査会、1998年7月20日発行、初版、第1刷、第125〜126頁)。
【0004】
すべり軸受ところがり軸受の定性的関係については、非特許文献2:トライボロジストVol.56/No.5/2011「転がり軸受の最新技術」第277頁にグラフを用いて整理されており、これを表に表すと次のとおりである。
【0005】
【表1】

【0006】
本出願人の特許文献3:特許第2517504号明細書は、次の組成をもつ黒鉛−樹脂系摺動材料を提案している。黒鉛−5〜60重量%の黒鉛;樹脂−20〜90重量%のポリイミド及び/又はポリイミドアミド;摩擦調整剤−0.5〜20重量%のクレー、ムライト、シリカ及び/又はアルミナ。また前記黒鉛は人造又は天然グラファイト、形状は粒状もしくは扁平状であるが、片状又は鱗片状黒鉛は平坦面が摺動面に配列されるので好ましいと説明されている。また、摺動材料の用途として、クーラーコンプレッサ、ミッション、ターボチャージャー、スーパーチャジャー、ウォーターポンプ、エンジン、パワーステアリングなどが挙げられているが、遊星歯車機構のピニオンギヤは用途として挙げられていない。
【0007】
また、特許文献4:特開平7−223809号公報によると、高度に配向した黒鉛類似の結晶構造をもつ球状の炭素微粒子は等方性を有しており、各種樹脂に分散して摺動部材として使用できる。この炭素微粒子は、メソフェーズ小球体(メソカーボンマイクロビーズ)であり、コールタール、コールタールピッチ、アスファルトなどを350〜450℃で熱処理し、生成した球状結晶を分離したものであり、これを粉砕した後1500〜3000℃にて黒鉛化処理することにより、球状化が進行すると説明されている。しかしながら、この公報の顕微鏡写真に示されたメソフェーズ小球体は真球形態からは著しく変形している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−336754号公報
【特許文献2】特開2001−124157号公報
【特許文献3】特許第2517604号明細書
【特許文献4】特開平7−223809号公報
【特許文献5】特開平5−331314号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】機械要素活用マニュアル「すべり軸受」工業調査会、1998年7月20日発行、初版、第1刷、第125〜126頁。
【非特許文献2】トライボロジストVol.56/No.5/2011「転がり軸受の最新技術」第277頁。
【非特許文献3】トライボロジストVol.49/No.7/2004「炭素材料の使い方」第561頁
【非特許文献4】トライボロジストVol.54/No.1/2009「グラファイト材料のトライボロジ」第6−7頁。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上説明したように、従来、遊星歯車機構のピニオンギヤの回転軸を軸支する軸受にはころがり軸受が使用されていた。本発明者らは、ころがり軸受に匹敵する耐摩耗性、耐焼付性及び境界潤滑下での低摩擦性を有するすべり軸受の開発を目的として研究を行った。
その際、本発明者らは、樹脂系摺動材料に添加される球状炭素材料に着目し、例えば特許文献5:特開平5−331314号に提案される真球性が高い黒鉛も検討したが、この硬度はHv800〜1200と高いために、相手軸を摩耗させる問題があると結論した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、遊星歯車機構のピニオンギヤの回転軸を軸支する軸受において、前記軸受が、平均径が5〜50μmであり、黒鉛化度が0.6以上であり、且つ、平均径の0.5倍以下である微粒子を除いた粒子の下記定義による平均形状係数(YAVE)が1〜4であって、かつ下記定義による形状係数(Y)=1〜1.5の範囲の粒子が個数割合で70%以上存在する黒鉛5〜60重量%と、残部ポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂の少なくとも1種とからなる摺動層を裏金上に焼成したすべり軸受であることを特徴とする。
AVE=total[{PM/4πA}]/i
Y=PM/4πA
ここで、totalは、[ ]内の値のi個についての合計、PMは粒子1個の周囲長さ、Aは粒子1個当りの断面積、iは測定個数である。形状係数(Y)=1〜1.5の範囲の粒子の個数割合を以下の説明では球状化率(Y’)という。以下、本発明を詳しく説明する。
【0012】
本発明のすべり軸受は、図2に断面を示すように、裏金1と摺動層2からなる。裏金1には一般に普通鋼板(JIS−SPCC)を使用することができるが、強度が高い高炭素鋼板などを使用しても支障ない。裏金1の厚さは一般に0.5〜2mmであり、その表面には焼結により形成された粗面化部1aが示されている。粗面化部はエッチング、ショットブラストなどにより形成してもよい。摺動層2は樹脂と黒鉛を溶剤中に分散したものを粗面化部1aに含浸させその後焼成を行い、厚さを一般には5〜200μmの範囲としたものである。
【0013】
摺動層2の表面2aを研磨、研削、切削加工を行うことが可能であり、これらを単独で行うことも、組み合わせて行うことも可能である。組合せ機械加工は、例えば、研磨にて表面粗さを小さく加工した後切削で溝加工をする、あるいは切削で粗加工した後研磨で仕上げるなどである。
【0014】
次に、摺動層2の必須成分のうち黒鉛について説明する。
完全黒鉛結晶の黒鉛化度が1とする黒鉛化度で表して、本発明の黒鉛は結晶化度が0.6以上であり、天然黒鉛に近くあるいは天然黒鉛自体であり、潤滑性及びなじみ性が優れているものである。好ましくは、球状黒鉛の黒鉛化度が0.8以上である。なお、黒鉛化度(degree of graphitization)は、非特許文献3:トライボロジストVol.49/No.7/2004「炭素材料の使い方」第561頁に定義されているC.R.Housakaの式のとおりである。
黒鉛粒子の平均径が5μm未満であると、黒鉛が凝集してしまい、一方平均径が50μmを超えると、分散性が不良となるために、本発明の黒鉛は平均径が5〜50μmの範囲である。さらに、好ましい平均粒径は5〜20μmである。
【0015】
黒鉛は一般に天然黒鉛と人造黒鉛の二種類に分類され、また分類によっては、さらに膨張黒鉛の三種類に大別される。天然黒鉛は鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び土状黒鉛に分けられ、また人造黒鉛は人造黒鉛電極を破砕したもの、石油系タールやコークスを黒鉛化したもの、メソフェーズ小球体などが含まれる。鱗状黒鉛は塊状黒鉛といわれることもある。これらの黒鉛は製造方法が違っているのみならず、製品形状も明らかに識別される。最近は、球状化破砕技術の開発により球状化黒鉛もしくは球状黒鉛という粉末が入手できる(日本黒鉛工業株式会社の技術資料:製品名CGC−100、50.20;ITO GRAPHITEのホームページ;http://www.graphite.co.jp/seihin.htm)。
【0016】
上記した黒鉛の摺動層中の配向を、図2と同じ要素は同じ参照符号を使用している図3及び図4を参照して説明する。図3、4において、3は黒鉛粒子、4は樹脂である。鱗(片)状黒鉛3aはほぼ平坦な面が大きな面積を占めており、厚さが小さいために、樹脂4中に分散されると平坦面が表面2a方向を向くこととなり、摺動層2の断面で測定する平均形状係数YAVEは大きくなる。一方、図4に示す本発明における摺動層2に分散した黒鉛は、球状3b、フランスパン(バケット)やラグビーボール状3c、勾玉状3dなどであるために、図4に示す断面視でも、表面2aと平行方向の断面視でも、同じような黒鉛形状が現れ、平均形状係数YAVEは小さくなる。なお、黒鉛が全部球状3bの場合は平均形状係数YAVE=1となる。
【0017】
また、図5には、同じ面積をもつ球状黒鉛3bとメソフェーズ小球体6を示す。メソフェーズ小球体は周囲長さが大きいために、平均形状係数YAVEの分子が大きくなり、この結果平均形状係数YAVE自体が大きくなる。
平均形状係数YAVEが4を超えると黒鉛粒子の形状異方性が大きく、図3のような配向になるために好ましくない。好ましい平均形状係数YAVEは1〜2.5である。さらに、球状黒鉛30bの割合が大きいことが必要であるので、球状化率(Y’)は70%以上でなければならない。以下、平均形状係数YAVEの測定法を説明する。
【0018】
黒鉛の平均径(MV)は次式で表される。
MV={total(V*d)}/totalVi=total(d)/total(d)・・・・・(1)式
ここで、total ( )内の値又はViの値のi個についての合計、黒鉛粒子1個の円相当径、Vは黒鉛粒子1個の体積である。0.5MV以下の粒子は(2)式の平均形状係数測定においては考慮しない。
平均形状係数(YAVE)はi=1....n個の粒子の測定を行い、黒鉛粒子の周囲長さを断面積で割った比率であり、次の式で求められる。
Y=total[{PM/4πA}/]i ・・・・・・・・・・・・・・・(2)式
ここで、totalは[ ]内の値のi個についての合計、PMは粒子1個の周囲長さ、Aは粒子1個当りの断面積である。
黒鉛粒子の円相当径及び黒鉛粒子の形状係数の測定方法は、すべり軸受を任意の位置で切断し、図6に示すような切断面を倍率200倍、視野範囲0.37mm×0.44mmにて写真撮影し、摺動層を例えば株式会社ニコレ製LUZEX−FSを用いて2値化した画像の計測を行う。
【0019】
図4に示すように、本発明の黒鉛3b、c、dは全体として湾曲面から構成される。このために本発明の黒鉛は相手軸(通常は鋼軸)を傷つけることが少ない。この結果として相手軸の凹凸面が摺動層を摩滅することがなく、摺動層の耐摩耗性が優れ、また耐焼付性を良好になる。さらに、鱗(片)状黒鉛3a(図3)は粒子の平坦面が接近し、接触し、また粒子どうしが絡み合うために均一に分散することが困難である。これに対して、本発明の黒鉛は、全体的に曲面から構成され、粒子どうしが絡み合うことがないために、樹脂4中に均一に分散し易い。このことも、摺動特性向上に寄与している。なお、鱗状黒鉛はエッジ(図2、3a’)どうしが凝着して潤滑性を示さないという考え方がある(非特許文献4:トライボロジストVol.54/No.1/2009「グラファイト材料のトライボロジ」第6−7頁)が、本発明の黒鉛3b、c、dエッジが消失するかあるいは丸くなっているために、エッジどうしが接触することはない。
【0020】
本発明において使用される黒鉛粒子は、実質的に球状化粉砕黒鉛であることが好ましい。この球状化粉砕黒鉛は、全体が湾曲もしくは曲面で構成される、エッジがないなど上述した特長をもっている。「実質的」とは粉砕精度に起因して、原料黒鉛粉末の形態をとどめているものが少量、具体的には10質量%以下は、許容されるが、全部が先の段落で説明した形状の粒子からなるという意味である。
【0021】
黒鉛の量:黒鉛の含有量が5重量%未満であると、低摩擦性が得られず、耐焼付性が劣り、一方黒鉛の含有量が60重量%を超えると摺動材料の強度が低下する。
【0022】
上記した黒鉛の残部は、ポリイミド(PI)及び/又はポリアミドイミド(PAI)樹脂である。ポリイミドとしては、液状もしくは固体粉末状のポリエステルイミド、芳香族ポリイミド、ポリエーテルイミド、ビスマレインイミドなどを使用することができる。
ポリアミドイミド樹脂としては、芳香族ポリアミドイミド樹脂を使用することができる。これらの樹脂は何れも耐熱性に優れ、摩擦係数が小さいという特長を有している。
【0023】
本発明のすべり軸受の摩擦を低減させるために、摩擦調整剤として、粒径が10μm未満のクレー、ムライト、タルクの少なくとも1種以上を摺動層2全体に対して0.5〜20重量%含有させることができる。ただし、その際この摩擦調整剤と黒鉛との合計量を5.5〜80重量%の範囲とすることが望ましい。上記クレーやムライトは硬質物であることを利用して、摺動層の耐摩耗性を向上させるために使用され、またタルクに含まれる滑石は層間が弱いファンデルワールス力で結合されていることから、層間ではがれ易く、摺動層に混合することにより摩擦調整作用を得ることができる。
そして、前記摩擦調整剤の含有量は、0.5重量%未満であると、摩擦低減効果が不充分であり、一方20重量%を超えると相手材を傷つけて耐摩耗性を不充分にする。ここで含有量としては5〜15重量%含有することがより好ましい。
なお、摩擦調整剤の粒径が10μmを超えると相手材への攻撃性が高くなり、さらに球状黒鉛との合計量が5.5重量%未満であると摺動層の摩耗量が増大し、80重量%を超えると耐熱性や強度不足などの問題が発生する。
【0024】
さらに、本発明のすべり軸受の潤滑性を向上させるために、固体潤滑剤として、PTFE、MoS、BNの1種以上を摺動層2全体に対して1から40重量%含有させることができる。ただしその際、黒鉛及び摩擦調整剤との合計含有量を6.5〜80重量%の範囲とすることが望ましい。固体潤滑剤の含有量が1重量%未満であるとその効果が少なく、40重量%を超えるか、もしくは黒鉛及び摩擦調整剤との合計が80重量%を超えると、耐熱性や強度の低下などの問題が発生する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の黒鉛添加樹脂系摺動材料、特許文献3で提案された従来の黒鉛添加樹脂系摺動材料及び銅系焼結合金摺動材料の耐焼付性は次の表のとおりであり、本発明の黒鉛添加樹脂系摺動材料は耐焼付性が優れていることが分かる。なお、試験条件は、潤滑−灯油、潤滑法−油浴、荷重−漸増、周速−3.6m/secである。この試験条件は駆動系軸受の性能を判断するための基本的な条件であり、ここで優位性を示す本発明の黒鉛添加樹脂系摺動材料は遊星歯車機構のピニオンギヤ用すべり軸受に使用可能である。
【0026】
【表2】

【0027】
従来のCu−Bi−硬質粒子系焼結合金に析出しているBi相は、摺動部の温度が低く保たれていると潤滑性を発揮するが、回転数が上昇し、摺動部の温度がBiの融点近くに上昇すると、Bi相の軟化および溶出により、Bi相が摺動面に適切に配置されなくなって焼付きが起こると考えられる。これに対して本発明のすべり軸受に使用されるポリ(アミド)イミド樹脂はBiの融点近傍では十分な耐熱性をもっており、黒鉛を樹脂に強く保持している。また、湾曲面から構成されている本発明の黒鉛は樹脂に強く保持される。
【0028】
また、本発明の黒鉛は結晶性に優れ、かつ全体として湾曲した面から構成されているために、樹脂に均一に分散され、かつ相手材を傷つけない結果、相手軸摩耗が少なくなり、また摩耗した相手軸がすべり軸受を摩耗させることも少なくなり、惹いては、摺動面での凝着や摺動面での黒鉛の脱落が起こり難くなり、耐焼付性が改善される。これに対して従来の鱗片状黒鉛は、黒鉛そのものが大きな形状異方性を有し、かつ樹脂に分散する際に均一分散できないために、好ましくない方位に配向された黒鉛粒子やエッジをもつ黒鉛粒子は摩耗を起こし易く、摺動面は凹凸化する。さらに、黒鉛粒子の分散が不均一であるために、摩耗が均一に進行せず、摺動面は凹凸化する。これらの様々な原因による摩耗面は粗さが大きいのみならず、局部的に深い奥部が発生するために、焼付が起こり易い。
一般に、すべり軸受はころがり軸受よりも起動時の摩擦抵抗が大きいが、本発明において使用されている湾曲面から構成され、かつ球状に近い形状をもつ黒鉛は、起動時の摩擦抵抗低減に有効である。これについては、鱗(片)状黒鉛と上記本発明の黒鉛とを比較すると、後者はせん断面積が小さいことが関係していると考えられる。
【0029】
本発明において使用される球状化粉砕黒鉛(請求項2)は樹脂中に均一・無配向で分散するので、摺動特性が優れている。
【0030】
摩擦調整剤(請求項3)及び固体潤滑剤(請求項4)は、湾曲面から構成される黒鉛と共存して摺動特性を改良する。オイル(請求項5)は潤滑油を摺動面に供給する。また、機械加工された摺動面(請求項6)では、黒鉛粒子形状が湾曲面から構成されているために、黒鉛粒子が機械加工の際に樹脂から脱落し、欠け、あるいはエッジが削り取られることが少ない。このために本発明の機械加工された摺動面は一定の微細粗さを有しているので、更に起動時の摩擦抵抗が低下する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施例によりさらに詳しく本発明を説明する。
裏金として140mm×1.5mmの普通鋼板を、またその上に形成する粗面化部用の青銅粉末(Sn10%含有、+80、−150メッシュ)を、それぞれ用意した。裏金を脱脂後、青銅粉末を裏金上に単位面積(cm)当り0.05〜0.1g配置し、その後830〜850℃で焼成を行って粗面化部を形成した。粗面化部の厚さは約150μmであり、青銅の比重に基づいて計算した気孔率は40〜80%であった。 表3に組成を示す摺動層成分は溶剤とともに十分に混合した後、粗面化部への含浸を行い、100℃で乾燥し、続いて冷間状態で圧下して摺動層成分を固め、最後に250℃で焼成を行い、厚さが約80μmの摺動層を形成して、バイメタル材試料とし、さらにブシュに加工した。表1において、「黒鉛」は日本黒鉛工業株式会社が生産している球状化粉砕黒鉛(製品名CGB10)である。黒鉛の平均形状係数(YAVE)及び球状化率(Y’)は表1に示したとおりである。
【0032】
また、黒鉛以外の成分の詳細は次のとおりである。
ポリイミド樹脂:東レ社製品
ポリアミドイミド樹脂:日立化成工業社製品
クレー:白石カルシウム社製品;平均粒径1μm
ムライト:共立マテリアル社製品;平均粒径0.8μm
PTFE:メーカー…旭硝子社製品;平均粒径9μm
MoS:メーカー…住鉱潤滑剤社製品;平均粒径1.4μm
試験方法は次のとおりである。
【0033】
耐摩耗性試験
回転数:0⇔1000rpm
荷重:490N
油温:室温
油種:灯油
【0034】
耐焼付性試験
試験機:静荷重ブシュジャーナル試験機
油種:灯油
潤滑法:油浴50℃
荷重:漸増
回転数:4500rpm
軸材質:SCM415
軸粗さ:0.4μm Rzjis
試験結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
比較例は、黒鉛化度が低く、一部かなり扁平度が大きい粒子があるために平均形状係数(YAVE)が大きい鱗片状黒鉛を使用した樹脂系すべり軸受であり、耐熱性及び耐摩耗性が不良である。従来例はCu−Bi−硬質粒子系焼結合金であり、耐摩耗性は良好であり、耐焼付性は中等である。これに対して本発明実施例は硬質粒子を含有していないが、耐摩耗性が優れており、耐焼付性は焼結合金と同等以上である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上説明したように、本発明のすべり軸受は従来ころがり軸受が使用されていた遊星歯車機構のピニオンギヤの軸受として使用することができるので、遊星歯車機構の小型化と価格低減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】遊星歯車機構の主要部の断面図である。
【図2】すべり軸受の断面図である。
【図3】従来の鱗(片)状黒鉛を樹脂中に分散したすべり軸受の模式的断面図である。
【図4】本発明の黒鉛を樹脂中に分散したすべり軸受の模式的断面図である。
【図5】メソフェーズ小球体と球状黒鉛の平均形状係数を説明する図面である。
【図6】黒鉛粒子形状測定の説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 裏金
2 摺動層
3 黒鉛
4 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星歯車機構のピニオンギヤの回転軸を軸支する軸受において、前記軸受が、平均径が5〜50μmであり、黒鉛化度が0.6以上であり、且つ、平均径の0.5倍以下である微粒子を除いた粒子の下記定義による平均形状係数(YAVE)が1〜4の範囲内であって、かつ下記定義による形状係数(Y)=1〜1.5の範囲の粒子が個数割合で70%以上存在する黒鉛5〜60重量%と、残部ポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂の少なくとも1種とからなる摺動層を裏金上に焼成してなることを特徴とする遊星歯車機構のピニオンギヤ用すべり軸受。
AVE=total[{PM/4πA}]/i
Y=PM/4πA
ここで、totalは、[ ]内の値のi個についての合計、PMは粒子1個の周囲長さ、Aは粒子1個当りの断面積、iは測定個数である。
【請求項2】
前記黒鉛が実質的に球状化粉砕黒鉛からなることを特徴とする請求項1記載の遊星歯車機構のピニオンギヤ用すべり軸受。
【請求項3】
前記摺動層が、粒径が10μm未満のクレー、ムライト及びタルクの少なくとも1種以上からなる摩擦調整剤を0.5〜20重量%さらに含有し、かつ前記摩擦調整剤と前記黒鉛との合計量を5.5〜80重量%の範囲としたことを特徴とする請求項1又は2記載の遊星歯車機構のピニオンギヤ用すべり軸受。
【請求項4】
前記摺動層が、PTFE、MoS、BNの少なくとも1種以上からなる固体潤滑剤を1〜40重量%さらに含有し、かつ前記固体潤滑剤、黒鉛及び摩擦調整剤との合計含有量を6.5〜80重量%の範囲としたことを特徴とする請求項1から3までの何れか1項記載の遊星歯車機構のピニオンギヤ用すべり軸受。
【請求項5】
前記摺動層が、10容量%以下のシリコン油、機械油、タービン油及び鉱物油の少なくとも1種以上のオイルをさらに含むことを特徴とする請求項3又は4記載の遊星歯車機構のピニオンギヤ用すべり軸受。
【請求項6】
前記摺動層の表面が、研磨、研削及び切削加工の何れか加工を施されていることを特徴とする請求項1から5までの何れか1項記載の遊星歯車機構のピニオンギヤ用すべり軸受。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−83301(P2013−83301A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223395(P2011−223395)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000207791)大豊工業株式会社 (152)
【Fターム(参考)】