説明

遊星歯車減速装置

【課題】遊星歯車の取り扱いが容易で、遊星歯車の支持に必要な大きさを備える軸受を配置するスペースを確実に確保でき、かつ、遊星歯車減速装置全体のコンパクト化をより促進させる。
【解決手段】第1、第2遊星歯車16、18の自転成分と同期する第1、第2キャリヤ部材28、30を、第1、第2遊星歯車16、18の軸方向側部に有する。第1、第2遊星歯車16、18は、偏心体軸24に第1、第2ころ軸受40、42を介して支持されるとともに、歯部86、88を含む本体部90、92と、第1、第2ころ軸受40、42が配置される軸受孔100、102の内周縁部において軸方向一方側にのみ突出した突出部94、96とを有する。該突出部94、96と第1、第2キャリヤ部材28、30とが、第1、第2遊星歯車16、18の径方向から見たときにΔ1、Δ2だけ重なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星歯車減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1において、偏心揺動型の遊星歯車減速装置が開示されている。この遊星歯車減速装置は、外歯歯車(遊星歯車)と、該外歯歯車が内接噛合する内歯歯車と、を備える。外歯歯車と内歯歯車は、僅少の歯数差に設定されている。
【0003】
この遊星歯車減速装置では、偏心体を有する偏心体軸が回転することで、外歯歯車が内歯歯車に内接しながら揺動し、内歯歯車に対する外歯歯車の相対回転が、出力軸から取り出される構成とされている。
【0004】
前記偏心体軸の偏心体と外歯歯車との間には、偏心体の外周で外歯歯車が円滑に揺動回転できるように、偏心体軸受が組み込まれている。外歯歯車の軸方向長さ(厚さ)は、この偏心体軸受が配置されている部分のみが軸方向に大きく形成され、ここに容量の大きな偏心体軸受を配置することにより、外歯歯車全体の重量の増大を抑えつつ、必要な伝達容量を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−76716号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1において開示されている構成では、外歯歯車の偏心体軸が配置されている部分以外の軸方向側部に、いわゆるデッドスペースが生じており、遊星歯車減速装置全体のコンパクト化が阻害されていた。
【0007】
また、外歯歯車の突出部が軸方向両側に存在していたため、外歯歯車を床や作業台上に置いたときの据わりが悪く、取り扱いが不便であるという問題もあった。
【0008】
本発明は、このような従来の問題を解消するためになされたものであって、遊星歯車の取り扱いが容易で、遊星歯車の支持に必要な大きさを備える軸受を配置するスペースを確実に確保でき、かつ、遊星歯車減速装置全体のコンパクト化をより促進させることのできる遊星歯車減速装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、遊星歯車を有する遊星歯車減速装置において、前記遊星歯車の自転成分、または公転成分と同期するキャリヤ部材を、前記遊星歯車の軸方向側部に有し、前記遊星歯車は、軸部材に軸受を介して支持されるとともに、歯部を含む本体部と、前記軸受が配置される軸受孔の内周縁部において軸方向一方側にのみ突出した突出部とを有し、該突出部と前記キャリヤ部材とが、前記遊星歯車の径方向から見たときに重なっている構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0010】
本発明においては、軸受が配置される軸受孔の内周縁部において軸方向一方側にのみ突出した突出部を有している。軸受は、この突出部の内側を含む大きなスペースを利用して配置できるため、十分な容量を容易に確保することができる。
【0011】
一方、この突出部は、遊星歯車の軸方向側部に配置された(該遊星歯車の自転成分または公転成分と同期する)キャリヤ部材と前記遊星歯車の径方向から見たときに重なっている。換言するならば、キャリヤ部材は、この遊星歯車の突出部と前記遊星歯車の径方向から見たときに重なるように、遊星歯車の突出部の半径方向外側位置まで、該遊星歯車の側部に接近して組み込まれる。
【0012】
この結果、軸受の容量を十分に確保した上で、遊星歯車の軸方向側部のデッドスペースを最小限に抑え込むことができ、より軸方向にコンパクトな遊星歯車減速装置を得ることができる。
【0013】
また、遊星歯車は、軸方向一方側にのみ突出部を有しているため(片側は、突出部が存在しないため)、床や作業台上に置いたときの据わりがよく、取り扱いも容易である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、遊星歯車の取り扱いが容易で、遊星歯車の支持に必要な大きさを備える軸受を配置するスペースを確実に確保でき、かつ、遊星歯車減速装置全体のコンパクト化をより促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る偏心揺動型の遊星歯車減速装置の実施形態の一例を示す要部断面図
【図2】上記遊星歯車減速装置の全体断面図
【図3】本発明の他の実施形態の一例を示す要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る偏心揺動型の遊星歯車減速装置をフォークリフトの車輪駆動に適用した実施形態の一例を示す要部断面図、図2は、該遊星歯車減速装置の全体断面図である。
【0018】
フォークリフト(全体は図示略)12の車輪W1は、積荷を支える「支点」となる。したがって、「力点」あるいは「作用点」となるフォーク(図示略)の位置を車輪W1の接地点にできるだけ近づけるためには、車輪W1の外径d1は小さい程よい。また、積荷の荷重を確実に受けるためには、車輪W1のタイヤの部分(ゴムの部分)W1aの容積は大きい程よい。そのため、フォークリフト12の車輪W1は、その内側に極めて小さな空間しか確保できないことが多い。
【0019】
したがって、この小さな空間に遊星歯車減速装置の一部または全部を収容するためには、該減速装置のコンパクト性が非常に重要視される。換言すると、フォークリフト12の車輪W1への適用は、本発明が最も顕著な効果を奏する実施形態の一つである。
【0020】
この偏心揺動型の遊星歯車減速装置14は、モータM1と連結して用いられ、第1、第2外歯歯車(遊星歯車)16、18と、該第1、第2外歯歯車16、18と噛合する第1、第2内歯歯車20、22とを有する。
【0021】
主に、図1を参照して、概略を説明すると、入力軸を兼ねる偏心体軸(軸部材)24は、モータ軸25と連結されている。偏心体軸24は、第1、第2内歯歯車20、22の半径方向中央(軸心O1の位置)に位置している。偏心体軸24は、後述する第1キャリヤ部材28および第2キャリヤ部材30に、一対の玉軸受32、34を介して支持されている。
【0022】
偏心体軸24には第1、第2偏心体36、38が一体的に形成されている。第1、第2偏心体36、38の位相は、180度ずれている。第1、第2偏心体36、38の外周には、それぞれ第1、第2ころ軸受(軸受)40、42を介して2枚の前記第1、第2外歯歯車16、18が組み込まれている。
【0023】
第1、第2外歯歯車16、18には、該第1、第2外歯歯車16、18の軸心位置O2、O3(あるいは軸心O1)からオフセットした位置に複数の内ローラ孔66、68が円周方向に等間隔にそれぞれ形成されている。内ローラ孔66、68には、複数の内ピン70が摺動促進用の内ローラ72、74とともに隙間を有してそれぞれ貫挿されている。
【0024】
第1、第2内歯歯車20、22は、共通の(1本の)支持ピン76と、該支持ピン76の外周に回転自在に被せられるとともに第1、第2外歯歯車16、18とそれぞれ噛合する内歯ローラ78、80と、支持ピン76を回転自在に支持する共通の内歯歯車本体82と、から構成されている。内歯ローラ78、80は、実質的に第1、第2内歯歯車20、22の歯部を構成している。内歯歯車本体82は、ケーシング84と一体化されている。この実施形態では、支持ピン76は、内歯歯車本体82に形成された支持ピン溝82A、82Bによって両端部を支持されているほか、内歯ローラ78、80の間でも支持ピン溝82Cによって支持されている(3点支持)。
【0025】
以下、第1、第2外歯歯車16、18の近傍の構成をより詳細に説明する。
【0026】
第1、第2キャリヤ部材28、30は、それぞれ第1、第2外歯歯車16、18の軸方向側部に配置されている。第1、第2キャリヤ部材28、30は、第1、第2外歯歯車16、18を貫通している前記内ピン70およびボルト104を介して互いに連結・一体化されている。このため、第1、第2キャリヤ部材28、30は、第1、第2外歯歯車16、18の自転成分と同期した動きをする。この実施形態では、第1キャリヤ部材28が、ボルト106(図2参照)を介して車体フレーム110に固定されているため、第1、第2キャリヤ部材28、30は、第1、第2外歯歯車16、18の自転を拘束している。
【0027】
一方、第1、第2外歯歯車16、18は、歯部86、88を含む本体部90、92と、本体部90、92から突出した突出部94、96と、それぞれを有している。
【0028】
第1外歯歯車16の歯部86の歯数は、この実施形態では、Nであり、第1内歯歯車20の内歯ローラ(第1、第2歯部)78の本数(歯数に相当:N+1)よりも、1だけ小さい。同様に、第2外歯歯車18の歯部88の歯数も、Nであり、第2内歯歯車22の内歯ローラ80の本数(N+1)よりも、1だけ小さい。
【0029】
第1外歯歯車16の突出部94は、第1ころ軸受40が配置される軸受孔100の内周縁部において、第1キャリヤ部材28の存在する側にのみ(軸方向一方側にのみ)突出している。この結果、第1キャリヤ部材28と第1外歯歯車16の突出部94はΔ1だけ、第1外歯歯車16の径方向から見たときに重なっている(軸方向の座標位置が重なっている)。これに対し、第2外歯歯車18の突出部96は、第2ころ軸受42が配置される軸受孔102の内周縁部において、第2キャリヤ部材30の存在する側にのみ(軸方向一方側にのみ)突出し、この結果、第2キャリヤ部材30と第2外歯歯車18の突出部96はΔ2だけ、第2外歯歯車18の径方向から見たときに重なっている。すなわち、第1外歯歯車16の突出部94と、第2外歯歯車18の突出部96は、互いに反対方向(反相手側方向)に突出している。第1外歯歯車16の第2外歯歯車18側の軸方向側面は平坦であり、突出部は形成されていない。第2外歯歯車18の第1外歯歯車16側の軸方向側面も平坦であり、突出部は形成されていない。
【0030】
第1外歯歯車16の突出部94と第1キャリヤ部材28の対向部94A、28Aは、軸方向に対して傾斜している。同様に、第2外歯歯車18の突出部96と第2キャリヤ部材30の対向部96A、30Aも、軸方向に対して傾斜している。対向部94A、28A、および対向部96A、30Aは、それぞれ平行である。
【0031】
また、この実施形態では、第1、第2外歯歯車16、18は、突出部94、96が突出しているのと軸方向反対側の歯部86、88の一部がそれぞれカットされている。そのため、第1、第2外歯歯車16、18の歯部86、88の歯幅(軸方向厚さ)L1、L2は、それぞれ第1、第2外歯歯車16、18の該歯部86、88と突出部94、96の間の(領域の)軸方向厚さL3、L4よりも小さい。
【0032】
また、第1、第2外歯歯車16、18の軸受孔100、102の軸方向長さL5、L6は、突出部94、96が存在する分、前記歯部86、88と突出部94、96の間の軸方向厚さL3、L4よりも大きい。
【0033】
第1ころ軸受40は、この広く確保された軸受孔100の軸方向長さL5にほぼ一致する大きな寸法とされ、十分な軸受容量が確保されている。第2ころ軸受42も、広く確保された軸受孔102の軸方向長さL6にほぼ一致する大きな寸法とされ、十分な軸受容量が確保されている。
【0034】
なお、第1、第2ころ軸受40、42は、この実施形態では、このように軸方向スペースが大きく確保されていることを利用して、第1、第2外歯歯車16、18を偏心体軸24に対して位置規制する機能をも有した構成としている。
【0035】
すなわち、第1ころ軸受40は、内輪40A、一対のローラ(転動体)40B、40C、およびリテーナ44を備えている。一対のローラ40B、40Cは、内輪40Aの突起部40A1にて軸方向離反側の位置規制がなされている。また、第1外歯歯車16の内周には、止め輪48が嵌め込まれており、該一対のローラ40B、40Cは、この止め輪48によってスラストプレート61、62を介して軸方向接近側の位置規制がなされている。第2ころ軸受42も、同様に、内輪42A、一対のローラ(転動体)42B、42C、およびリテーナ46を備え、一対のローラ42B、42Cは、内輪42Aの突起部42A1にて軸方向離反側の位置規制がなされている。また、第2外歯歯車18の内周には、止め輪50が嵌め込まれており、一対のローラ42B、42Cは、この止め輪50によってスラストプレート63、64を介して軸方向接近側の位置規制がなされている。この構成から、第1、第2外歯歯車16、18は、結果として、第1、第2ころ軸受40、42を介して偏心体軸24に対し軸方向に位置決めされている。このため、他の部分(例えば、第1キャリヤ部材28と第1外歯歯車16との間、第1、第2外歯歯車16、18の間、あるいは第2キャリヤ部材30と第2外歯歯車18との間)で第1、第2外歯歯車16、18の位置規制のための部材を別途配置しなくて済み、当該他の部分で軸方向長が増大するのが防止されている。
【0036】
なお、第1キャリヤ部材28および第2キャリヤ部材30は、一対の主軸受、すなわち、アンギュラボール軸受112とテーパードローラ軸受114を介してケーシング84を回転自在に支持している。すなわち、本実施形態では、自転の拘束された第1、第2外歯歯車16、18が揺動することによって(内歯歯車本体82と一体化された)ケーシング84が相対的に回転し、ボルト116(図2参照)によって該ケーシング84と固定されたタイヤフレーム118を介して車輪W1が駆動される構成とされている。
【0037】
次に、この偏心揺動型の遊星歯車減速装置14の作用を説明する。
【0038】
モータM1のモータ軸25が回転すると、入力軸に相当する偏心体軸24が回転し、該偏心体軸24と一体化されている第1、第2偏心体36、38が回転する。
【0039】
第1、第2偏心体36、38が回転すると、第1、第2ころ軸受40、42を介して第1、第2外歯歯車16、18が、揺動回転しながら第1、第2内歯歯車20、22にそれぞれ内接噛合する。
【0040】
第1、第2外歯歯車16、18の自転は、内ピン70(および内ローラ72、74)を介して第1、第2キャリヤ部材28、30によって拘束されている。このため、第1、第2外歯歯車16、18は、自転せずに揺動のみを行う。その結果、偏心体軸24が1回回転するごとに、ケーシング84が1/(N+1)に減速された速度で回転する。なお、第1、第2外歯歯車16、18の揺動成分は、内ローラ72、74と内ローラ孔66、68との間に形成された隙間によって吸収される。
【0041】
ケーシング84の回転は、該ケーシング84にボルト116を介して連結されたタイヤフレーム118に伝達され、これにより、フォークリフト12の車輪W1が駆動される。
【0042】
ここで、この実施形態に係る遊星歯車減速装置14は、外歯歯車が2枚設けられており(第1、第2外歯歯車16、18)、かつ、第1、第2外歯歯車16、18の突出部94、96が、該第1、第2外歯歯車16、18の軸方向両側に配置された第1、第2キャリヤ部材28、30の側に、すなわち互いに反対方向に突出して設けられている。そして、その結果、第1キャリヤ部材28と第1外歯歯車16の突出部94はΔ1だけ、第2キャリヤ部材30と第2外歯歯車18の突出部96はΔ2だけ、それぞれ第1、第2外歯歯車16、18の径方向から見たときに重なっている。つまり、第1、第2キャリヤ部材28、30は、突起部94、96の先端の軸方向位置よりも、それぞれ、第1、第2外歯歯車側にΔ1、Δ2だけ寄った(近づいた)状態で組み込まれている。
【0043】
この構成により、第1ころ軸受40は、突出部94の分、軸方向に広く確保された軸受孔100の軸方向長さL5にほぼ一致する大きな寸法とされ、十分な軸受容量が確保されている。第2ころ軸受42も、突出部96の分、軸方向に広く確保された軸受孔102の軸方向長さL6にほぼ一致する大きな寸法とされ、十分な軸受容量が確保されている。
【0044】
第1、第2外歯歯車16、18の軸方向側部には、デッドスペースが殆どなく、遊星歯車減速装置14の軸方向長の短縮(あるいは第1、第2キャリヤ部材28、30の軸方向の厚さ増大による強度の増強)を実現し、結果として遊星歯車減速装置14の全てを車輪W1の軸方向長さLw1内に収容することができている。デッドスペースがない分、遊星歯車減速装置14内に封入する潤滑油の封入量も低減できる。
【0045】
また、突出部94と第1キャリヤ部材28のそれぞれの対向部94A、28A、および突出部96と第2キャリヤ部材30のそれぞれの対向部96A、30Aは、軸方向に対して傾斜している。このため、この種の偏心揺動型の遊星歯車減速装置14において強度不足となりがちな、内ピン70付近の第1、第2キャリヤ部材28、30の肉厚(軸方向厚さ)を十分に確保することができる。
【0046】
更に、本実施形態では、第1、第2外歯歯車16、18の歯部86、88の歯幅(軸方向長さ)L1、L2が、歯部86、88と突出部94、96との間の軸方向厚さL3、L4よりも小さく形成されている(噛合強度を確保するのに必要最小限の寸法としている)。このため、その分、歯部86、88の歯切り工程での作業をより短時間で行うことができ、工具の寿命もそれだけ延ばすことができる(より低コストでの製造が可能である)。
【0047】
とりわけ、本実施形態では、支持ピン76に内歯ローラ78、80を被せる構成を採用しているため、第1、第2外歯歯車16、18および第1、第2内歯歯車20、22の噛合負荷を比較的軽減することができていることから、第1、第2外歯歯車16、18の歯部86、88の歯幅(軸方向の長さ)L1、L2を支障なく短縮することができ、より低コストに第1、第2外歯歯車16、18を製造することができる。
【0048】
更に、本実施形態では、第1、第2外歯歯車16、18の歯部86、88の歯幅L1、L2の短縮に当たって、突出部94、96が突出しているのと軸方向反対側の歯部86、88の一部が削除されている。これにより、第1、第2外歯歯車16、18が、支持ピン76と、複数の内歯ローラ78、80と、支持ピン76を支持する内歯歯車本体82とで構成されていることと相まって、内歯歯車本体82の支持ピン溝82A〜82Cにより、支持ピン76の軸方向両端部に加え、軸方向中央部をも、支持することができている(3点支持)。そのため、支持ピン76の支持剛性を極めて高く維持することができ、より円滑で、かつ振動・騒音の少ない噛合が可能となっている。
【0049】
更には、第1、第2外歯歯車16、18は、軸方向一方側にのみ突出部94、96を有しているため(軸方向他側は、突出部が存在せず平坦であるため)、第1、第2外歯歯車16、18を床や作業台上に置いたときの据わりがよく、取り扱いも容易である。
【0050】
また、既に述べたように、この実施形態では、第1、第2ころ軸受40、42は、第1、第2外歯歯車16、18を偏心体軸24に対して位置規制する機能をも有した構成とされているため、他の部分に、該第1、第2外歯歯車16、18を位置規制するための部材を別途配置する必要がない。このため、当該他の部分で(第1、第2外歯歯車16、18の位置規制部材の配置に伴って)軸方向長が増大するのが防止されている。
【0051】
なお、上記実施形態においては、外歯歯車の自転が拘束され、内歯歯車(ケーシング)が回転するタイプの遊星歯車減速装置が示されていたが、これとは逆に、内歯歯車(ケーシング)が固定され、外歯歯車が回転することによって、その自転成分が出力として取り出されるタイプの偏心揺動型の遊星歯車減速装置にも本発明を適用することができる。
【0052】
また、上記実施形態においては、入力軸を兼ねた偏心体軸が内歯歯車の軸心位置に配置された、いわゆるセンタクランク型の偏心揺動型の遊星歯車減速装置に本発明を適用していたが、本発明は、例えば、外歯歯車の軸心からオフセットされた位置に複数の偏心体軸を備え、各偏心体軸が同時に同方向に回転することによって偏心体軸受の外周で外歯歯車を揺動回転させる、いわゆる振り分けタイプの偏心揺動型の遊星歯車減速装置にも適用可能である。この場合には、外歯歯車の(複数の)偏心体軸受の軸受孔の内周縁部に形成した突起部と、キャリヤ部材とに対して同様に本願発明を適用できる。
【0053】
更には、本発明は、必ずしもこのような偏心揺動型の遊星歯車減速装置である必要もなく、例えば、単純遊星歯車減速装置においても適用可能である。図3にその例を示す。
【0054】
この単純遊星歯車減速装置200は、太陽歯車204と、該太陽歯車204の周りで公転する遊星歯車206と、該遊星歯車206が内接噛合する内歯歯車(ケーシング)208と、を備える。
【0055】
遊星歯車206の軸方向側部には、遊星ピン(軸部材)210を介して該遊星歯車206の公転成分と同期するキャリヤ部材212が配置されている。なお、先の実施形態のように、遊星歯車が揺動する偏心揺動型の減速装置にあっては、キャリヤ部材が同期するのは遊星歯車の自転成分となるが、本実施形態のような単純遊星歯車減速装置にあっては、キャリヤ部材が同期するのは遊星歯車の自転成分ではなく公転成分となる。なお、いずれの場合でも、同期してキャリヤ部材が遊星歯車と一緒に回転する場合と、同期してキャリヤ部材が停止して遊星歯車の自転または公転を拘束する場合とを含んでいる。遊星歯車206は、ニードル(軸受)214、215を介して遊星ピン210の外周に回転可能に支持されている。
【0056】
遊星歯車206は、歯部220を含む本体部222と、ニードル214が配置される軸受孔の内周縁部において軸方向一方側(キャリヤ部材212が存在する側)にのみ突出した突出部226を有している。
【0057】
そして、この突出部226とキャリヤ部材212とが遊星歯車206の径方向から見たときにΔ3だけ重なっている。また、突出部226とキャリヤ部材212のそれぞれの対向部226A、212Aは、軸方向に対して傾斜している。
【0058】
なお、符号230は、ニードル214、215のリテーナ、232は、内歯歯車208とキャリヤ部材212との間に配置されたアンギュラ玉軸受である。
【0059】
このような構成によっても、基本的に先の実施形態と同様な作用効果が得られる。例えば、遊星歯車206のニードル214、215の軸方向長さL8を十分に確保しつつ(軸受の伝達容量を十分に確保しつつ)、遊星歯車206とキャリヤ部材212との間のデッドスペースをなくし、特に遊星ピン210の付近の剛性を高めることができる。遊星歯車206を床や作業台上に置いたときの据わりも良好である。
【0060】
この構成では、遊星歯車206は1個しかないが、本発明では、このような遊星歯車が1個しかない場合、あるいは3個以上ある場合でも適用することができ、同様な作用効果を得ることができる。なお、遊星歯車が3個以上ある場合には、軸方向最外側位置にある2つの遊星歯車に対して、図1、図2の第1、第2外歯歯車16、18と同様な構成を採用するとよい。
【0061】
本発明は、フォークリフトの車輪駆動に限らず、コンパクトで伝達容量の確保が求められる遊星歯車減速装置に広く適用でき、同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0062】
W1…車輪
12…フォークリフト
14…遊星歯車減速装置
16…第1外歯歯車
18…第2外歯歯車
20…第1内歯歯車
22…第2内歯歯車
24…偏心体軸
28…第1キャリヤ部材
30…第2キャリヤ部材
40…第1ころ軸受
42…第2ころ軸受
86、88…歯部
94、96…突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星歯車を有する遊星歯車減速装置において、
前記遊星歯車の自転成分、または公転成分と同期するキャリヤ部材を、前記遊星歯車の軸方向側部に有し、
前記遊星歯車は、軸部材に軸受を介して支持されるとともに、歯部を含む本体部と、前記軸受が配置される軸受孔の内周縁部において軸方向一方側にのみ突出した突出部とを有し、
該突出部と前記キャリヤ部材とが、前記遊星歯車の径方向から見たときに重なっている
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記突出部と前記キャリヤ部材のそれぞれの対向部が軸方向に対して傾斜している
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記遊星歯車の前記歯部の歯幅が、前記遊星歯車の前記歯部と突出部の間の軸方向厚さよりも小さい
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記遊星歯車の前記歯部の歯幅は、前記突出部が突出しているのと軸方向反対側の歯部が削除されることによって、前記歯部と突出部の間の軸方向厚さよりも小さく形成されている
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記遊星歯車を少なくとも2枚備え、
該遊星歯車が内接噛合する内歯歯車が、1本の支持ピンと、該支持ピンの外周に回転自在に被せられ前記2枚の遊星歯車それぞれに対して別個に設けられた内歯ローラと、前記支持ピンを支持する内歯歯車本体とで構成され、
前記内歯歯車本体が、前記支持ピンを、前記各遊星歯車に対して別個に設けられた内歯ローラの間で支持している
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記遊星歯車を2枚備えるとともに、該2枚の遊星歯車の軸方向両側に前記キャリヤ部材を備え、
前記2枚の遊星歯車の前記突出部が、互いに反対方向に突出し、それぞれ前記キャリヤ部材と前記遊星歯車の径方向から見たときに重なっている
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−53664(P2013−53664A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192128(P2011−192128)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】