説明

運転状態診断装置

【課題】運転者の運転状態の診断の精度向上を図ることが可能な運転状態診断装置を提供する。
【解決手段】車輌100を運転する運転者の運転状態を診断する運転状態診断装置1は、車輌100の前後方向に沿った運転操作又は車輌状態を検出して縦方向信号を生成する縦方向信号生成装置10と、車輌100の幅方向に沿った運転操作又は車輌状態を検出して横方向信号を生成する横方向信号生成装置20と、縦方向信号と横方向信号とに基づいて運転者の運転状態を判定する運転状態判定装置30と、を備えており、運転状態は、「スポーティ運転」と、「急ぎ/イライラ運転」と、を少なくとも含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌の運転者の運転状態を診断する運転状態診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
運転者が通常走行を行っている時の加速度を速度毎に判定加速度として記憶しておき、加速度センサによって検出された加速度を車速毎に判定加速度と比較して、その比較結果に基づいて運転者の運転状態を判定する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−331848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の技術では、加速度センサによって検出された加速度が判定加速度よりも大きい場合に、運転者が急ぎ運転(異常運転)を行っていると判定する。そのため、普段からスポーティな運転をする傾向の強い運転者の運転状態を判定する場合には、判定加速度が元々大きくなってしまうので急ぎ運転を検出することができず、運転者の運転状態を正確に診断することができない場合があるという問題があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、運転者の運転状態の診断の精度向上を図ることが可能な運転状態診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、車輌の前後方向に沿った運転操作又は車輌状態を検出して生成された第1の信号と、車輌の幅方向に沿った運転操作又は車輌状態を検出して生成された第2の信号と、に基づいて、運転者の運転状態を判定することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、2つの方向の信号に基づいて運転者の運転状態を判定するので、スポーティ運転と、急ぎ/イライラ運転と、を判別することが可能となり、運転者の運転状態の診断の精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の実施形態における運転状態診断装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、自動車の前後方向及び幅方向を示す平面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態における逸脱度の算出方法を説明するためのグラフである。
【図4】図4は、本発明の実施形態における運転状態マップの一例を示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態における運転状態マップの第2の例を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施形態における運転状態マップの第3の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は本実施形態における運転状態診断装置の全体構成を示すブロック図、図2は自動車の前後方向及び横方向を示す平面図、図3は本実施形態における逸脱度の算出方法を説明するためのグラフ、図4〜図6は本実施形態における運転状態マップの例を示す図である。
【0011】
本実施形態における運転状態診断装置1は、図1に示すように、縦方向信号生成装置10と、横方向信号生成装置20と、運転状態判定装置30と、を備えており、図2に示すように、自車輌100の前後方向(以下単に縦方向と称する。)と幅方向(以下単に横方向と称する。)の2つの方向に沿った運転操作又は車輌状態に基づいて、運転者の運転状態を診断する装置である。
【0012】
本実施形態では、図4に示すように、運転者の運転状態を「正常運転」、「スポーティ運転」、「急ぎ/イライラ運転」、及び「無謀運転」の4つに区分して診断する。
【0013】
ここで、「スポーティ運転」(Sporty Driving)とは、例えば、運転者が運転を楽しんでおり自動車を軽快に操作している状態である。一方、「急ぎ/イライラ運転」(急ぎ又はイライラ運転、Aggressive Driving)とは、例えば予定時刻までに目的地に到着できない等の理由で先を急いでいて、運転者が焦って運転していたり、或いは、例えば渋滞に巻き込まれる等して、運転者がイライラしながら運転している状態である。また、「無謀運転」(Reckless Driving)とは、脇見や眠気等によって集中力が欠如した状態での運転である。
【0014】
縦方向信号生成装置10は、本実施形態では、運転者によるアクセルペダルの踏込量を検出するアクセルペダルポジションセンサ11を有しており、このセンサ11の検出結果から縦方向信号を生成して、当該縦方向信号を運転状態判定装置30に送信する。具体的には、この縦方向信号生成装置10は、アクセルペダルポジションセンサ11が検出したアクセルペダルの踏込量を二階微分することで、縦方向信号を生成する。
【0015】
なお、この縦方向信号生成装置10は、アクセルペダルの踏込量から縦方向信号を生成することに限定されず、自車輌100の縦方向に沿った運転操作や、縦方向に沿った自車輌100の車輌状態から縦方向信号を生成してもよい。
【0016】
自車輌100の縦方向に沿った運転操作としては、上述のアクセルペダルの踏込量の他に、例えば、ブレーキペダルの操作等を例示することができる。この場合には、縦方向信号生成装置10は、運転者によるブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキペダルポジションセンサ12を有しており、当該センサ12が検出したブレーキペダルの踏込量を二階微分することで、縦方向信号を生成する。
【0017】
一方、縦方向の自車輌100の車輌状態としては、例えば、自車輌100の速度、自車輌100の縦方向に沿った加速度(以下単に縦加速度と称する。)、自車輌100と他車輌との車間距離(以下単に車間距離と称する。)等を例示することができる。
【0018】
縦方向の自車輌100の車輌状態として自車輌100の速度を採用する場合には、縦方向信号生成装置10は、自車輌100の速度を検出する車速センサ13を有しており、当該センサ13が検出した車速度を一階微分することで、縦方向信号を生成する。
【0019】
一方、縦方向の自車輌100の車輌状態として自車輌100の縦加速度を採用する場合には、縦方向信号生成装置10は、自車輌の縦加速度を検出する縦加速度センサ14を有しており、当該センサ14が検出した縦加速度を縦方向信号としてそのまま使用する。
【0020】
また、縦方向の自車輌100の車輌状態として車間距離を採用する場合には、縦方向信号生成装置10は、例えば、レーザレンジファインダやミリ波レーダ、ステレオカメラ等を用いて車間距離を検出する車間距離センサ15を有しており、当該センサ15が検出した車間距離を二階微分することで、縦方向信号を生成する。
【0021】
なお、既存のアクセルペダルポジションセンサ11、ブレーキペダルポジションセンサ12、車速センサ13、縦加速度センサ14、車間距離センサ15を用いて縦方向信号を生成することで、縦方向信号を生成するための専用の縦加速度センサが不要となる。
【0022】
一方、横方向信号生成装置20は、本実施形態では、自車輌100のヨーレートを検出するヨーレートセンサ21を有しており、このセンサ21の検出結果から横方向信号を生成して、当該横方向信号を運転状態判定装置30に送信する。具体的には、この横信号生成装置20は、ヨーレートセンサ21が検出したヨーレートを一階微分することで、横方向信号を生成する。
【0023】
なお、この横方向信号生成装置20は、ヨーレートから横方向信号を生成することに限定されず、自車輌100の横方向に沿った運転操作や、横方向に沿った自車輌100の車輌状態から横方向信号を生成してもよい。
【0024】
自車輌100の横方向に沿った運動操作としては、例えば、ステアリングホイールの操作等を例示することができる。この場合には、横方向信号生成装置20は、運転者によるステアリングホイールの操作角を検出する操舵角センサ22を有しており、当該センサ22が検出した操舵角を二階微分することで、横方向信号を生成する。
【0025】
一方、横方向の自車輌100の車輌状態としては、上述のヨーレートの他に、例えば、自車輌100の横方向に沿った加速度(以下単に横加速度と称する。)、車線内での横方向における自車輌100の位置(以下単に車線内横位置と称する。)等を例示することができる。
【0026】
横方向の自車輌100の車輌状態として自車輌100の横加速度を採用する場合には、横信号生成装置20は、横加速度を検出する横加速度センサ23を有しており、当該センサ23が検出した横加速度を、横方向信号としてそのまま使用する。
【0027】
一方、横方向の自車輌100の車輌状態として車線内横位置を採用する場合には、横信号生成装置20は、車線内横位置を検出する車線内位置センサ24を有しており、当該センサ24が検出した車線内横位置を二階微分することで、横方向信号を生成する。なお、この車線内位置センサ24は、例えば、カメラ等を用いて、道路上で車線を規定する白線に対する自車輌100の相対的な距離を計測することで、車線内横位置を検出する。
【0028】
なお、既存のヨーレートセンサ21、操舵角センサ22、横加速度センサ23、車線内位置センサ24を用いて横方向信号を生成することで、横方向信号を生成するための専用の横加速度センサが不要となる。
【0029】
運転状態判定装置30は、分布記憶部31と、逸脱度算出部32と、判定部33と、報知部34と、を有している。
【0030】
分布記憶部31は、縦方向信号生成装置10から送信された縦方向信号の度数分布を記憶すると共に、横方向信号生成装置20から送信された横方向信号の度数分布を記憶して、縦方向及び横方向の2つの度数分布を逸脱度判定部32に送信することが可能となっている。
【0031】
具体的には、縦方向信号生成装置10によって生成されたアクセルペダルの踏込量の二階微分値が、この分布記憶部31に縦方向信号として所定時間毎(例えば10[msec]程度毎)に送信される。そして、分布記憶部31は、当該二階微分値を予め設定された範囲毎に分類してその度数をカウントすることで、縦方向信号分布を作成して記憶する。
【0032】
同様に、横方向信号生成装置20によって生成されたヨーレートの一階微分値が、この分布記憶部31に横方向信号として所定時間毎に送信される。そして、分布記憶部31は、当該一階微分値を予め設定された範囲毎に分類してその度数をカウントすることで、横方向信号分布を作成して記憶する。
【0033】
運転者の運転状態の診断に当たり、この分布記憶部31は、先ず、過去の少なくとも2以上のトリップにおいて、縦方向信号の度数分布と横方向信号の度数分布とを、既存信号分布としてそれぞれ記憶しておく。少なくとも2以上のトリップから既存信号分布を作成することで、正常運転以外の運転状態の影響を弱めることができ、運転状態の診断の精度が向上する。なお、1トリップは、車輌の始動し出発してから目的地に到着するまでの一連の走行である。
【0034】
そして、診断対象となるトリップでは、分布記憶部31は、現在のトリップにおける縦方向信号の度数分布と横信号の度数分布を、現信号分布としてそれぞれ記憶し、当該トリップが終了したら、上述の既存信号分布と共にこの現信号分布を逸脱度算出部32に送信する。
【0035】
本実施形態では、既存信号分布を記憶するためのトリップの運転者と、運転状態を診断するトリップの運転者とが同一となっている。このように、同一の運転者の既存信号分布と現信号分布を記憶することで、その運転者個人の通常走行からの運転状態の変化を把握することが可能となる。なお、運転状態の診断が終了したら、現信号分布を既存信号分布に随時追加してもよいし、或いは、所定数のトリップの現信号分布で既存信号分布を上書きして更新してもよい。
【0036】
これに対し、分布記憶部31が、他の運転者によるトリップにおいて、縦方向信号の度数分布と横方向信号の度数分布とを、既存信号分布としてそれぞれ記憶してもよい。或いは、他の運転者による運転時の縦方向信号と横方向信号の度数分布のデータが、既存信号分布として外部から分布記憶部31に提供されてもよい。このように、既存信号分布として他の運転者のものを用いることで、複数の運転者間の運転状態を比較することが可能となり、例えば、診断対象の運転者の運転と、優良運転者の運転との相違を把握することが可能となる。なお、既存信号分布を作成する際の他の運転者は一人に限定されず、複数の優良運転者によって既存信号分布を作成してもよい。
【0037】
また、分布記憶部31は、ナビゲーション装置等から道路の種別、天候、時間帯、道路形状、車速帯等の走行環境情報を取得して、当該走行環境情報に応じて既存信号分布や現信号分布を作成してもよい。
【0038】
逸脱度算出部32は、分布記憶部31から送信された既存信号分布と現信号分布とから逸脱度を算出して、判定部33に当該逸脱度を送信する。
【0039】
具体的には、逸脱度算出部32は、図3に示すように、縦方向信号の既存信号分布の中央値と、縦方向信号の現信号分布の中央値との間の距離を、縦方向逸脱度として算出する。同様に、逸脱度算出部32は、特に図示しないが、横方向信号の既存信号分布の中央値と、横方向信号の現信号分布の中央値との間の距離を、横方向逸脱度として算出する。
【0040】
この際、分布記憶部31から同一運転者の既存信号分布と現信号分布とが送信された場合には、その既存信号分布と現信号分布とから逸脱度を算出することで、その運転者個人の通常走行からの逸脱の度合いを把握することができる。
【0041】
一方、分布記憶部31から相互に運転者が異なる既存信号分布と現信号分布が送信された場合には、その既存信号分布と現信号分布とから逸脱度を算出することで、複数の運転者間の運転を比較することができる。
【0042】
なお、中央値(メジアン)に代えて、度数分布の最頻値(モード)や平均値等を用いて、既存信号分布に対する現信号分布の逸脱度を算出してもよく、本発明における分布の中心には、当該分布の中央値、最頻値、及び平均値が含まれる。
【0043】
判定部33は、図4に示すような、縦方向逸脱度と横方向逸脱度とを運転状態に対応付けたマップを有しており、逸脱度算出部32によって算出された縦方向逸脱度と横方向逸脱度とに基づいて、このマップを参照することで、運転者の運転状態を判定する。なお、図4に示すマップは、複数の運転者のトリップをベースにして予め作成され判定部33に記憶されている。
【0044】
ここで、「スポーティ運転」では、運転者がハンドリング、ブレーキング、コーナリング等を軽快に操作しているので、「正常運転」と比較して、縦方向逸脱度及び横逸脱度のいずれもが大きくなる。
【0045】
これに対し、「急ぎ/イライラ運転」では、焦りやイライラに伴って、例えば、加速や減速が急になったり、車間距離を詰めたりするため、「正常運転」と比較して、縦方向逸脱度が大きくなるが、横方向逸脱度はあまり変化しない。
【0046】
また、「無謀運転」では、脇見や眠気等に伴うリスクを回避するために横方向の操作(例えば急なハンドリング操作等)が増加するので、「正常運転」と比較して、縦方向逸脱度はあまり変化しないが、横方向逸脱度が大きくなる。
【0047】
そこで、本実施形態では、図4のマップに示すように、判定部33は、図4中の点A(DLA, DTA)のように、縦方向逸脱度Dが第1の縦方向閾値THL1未満であり、且つ、横方向逸脱度Dも第1の横方向閾値THT1未満である場合(D<THL1且つD<THT1)には、運転者の運転状態が「正常運転」と判定する。
【0048】
これに対し、判定部33は、図4中の点B(DLB, DTB)のように、縦方向逸脱度Dが第2の縦方向閾値THL2以上であり、且つ、横方向逸脱度Dも第2の横方向閾値THT2以上である場合(D≧THL2且つD≧THT2)には、運転者の運転状態が「スポーティ運転」と判定する。
【0049】
また、判定部33は、図4中の点C(DLC, DTC)のように、縦方向逸脱度Dが第2の縦方向閾値THL2以上であり、且つ、横方向逸脱度Dが第1の横方向閾値THT1未満である場合(D≧THL2且つD<THT1)には、運転者の運転状態が「急ぎ/イライラ運転」と判定する。
【0050】
また、判定部33は、図4中の点D(DLD, DTD)のように、縦方向逸脱度Dが第1の縦方向閾値THL1未満であり、且つ、横方向逸脱度Dが第2の横方向閾値THT2以上である場合(D<THL1且つD≧THT2)には、運転者の運転状態が「無謀運転」と判定する。
【0051】
一方、判定部33は、図4中の点E(DLE, DTE)のように、縦方向逸脱度Dが第1の縦方向閾値THL1より大きく且つ第2の縦方向閾値THL2未満であり、または、横方向逸脱度Dが第2の横方向閾値THT1より大きく且つ第2の横方向閾値THT2未満である場合(THL1<D<THL2またはTHT1<D<THT2)には、いずれの運転状態にも属しないため、運転状態を判定しなくてもよいし、「通常運転」、「スポーティ運転」、「急ぎ/イライラ運転」、「無謀運転」の境界からの距離が最小となる運転者の運転状態の傾向があると判定してもよい。例えば、図4中の点Eの場合には、「スポーティ運転」の境界からの距離が最小であるため、「スポーティ運転の傾向がある」と判定する。
【0052】
このように、本実施形態では、「スポーティ運転」と「急ぎ/イライラ運転」とでは横方向の運転操作や車輛状態(車輌挙動)が大きく相違する点に着目して、図4に示すような、縦方向逸脱度に加えて横方向逸脱度にも運転状態を対応付けた2軸のマップを用いる。このため、「スポーティ運転」と、運転として好ましくない「急ぎ/イライラ運転」とを区別するができ、普段からスポーティな走行をしている運転者に対しても、運転状態を正確に判定することが可能となる。
【0053】
なお、第1の横方向閾値THT1や第1の縦方向閾値THL1を可変としてもよい。
【0054】
また、上記の図4に示す例では、X−Y座標系のマップを用いて運転者の運転状態を判定したが、図5に示すような極座標系のマップを用いて運転者の運転状態を判定してもよい。
【0055】
この図5に示す例では、逸脱度を、逸脱量D=sD+tDと、逸脱方向D=tan−1(tD/sD)と、で表現する(但し、sDが0の場合には、Dは90度とする。)。この係数s,tは、逸脱量Dが0から1の実数となるように、縦方向逸脱度の最小値と最大値と、横方向逸脱度の最小値と最大値とに基づいて決定される正規化係数である。また、逸脱方向Dは、0度から90度の角度で表現される。
【0056】
本例では、逸脱度Dに対して閾値THP1,THP2が設定されていると共に、逸脱方向Dに対して閾値THQ0,THQ1,THQ2,THQ3,THQ4,THQ5が設定されており、これらの閾値によって、「正常運転」、「急ぎ/イライラ運転」、「スポーティ運転」、「無謀運転」の領域がそれぞれ設定されている。
【0057】
そして、判定部33は、縦方向逸脱度Dと横方向逸脱度Dから上記の逸脱量Dと逸脱方向Dを算出した後に、当該逸脱量D及び逸脱方向Dに基づいて運転者の運転状態を判定する。
【0058】
具体的には、図5の点A(sDLA,tDTA)のように、D<THP1である場合には、運転者の運転状態が「正常運転」と判定する。これに対し、図5の点C(sDLC,tDTC)のように、D>THP2、且つ、THQ0<D<THQ1である場合には、運転者の運転状態が「急ぎ/イライラ運転」であると判定する。
【0059】
また、図5の点B(sDLB,tDTB)のように、D>THP2、且つ、THQ2<D<THQ3である場合には、運転者の運転状態が「スポーティ運転」であると判定し、図5の点D(sDLD,tDTD)のように、D>THP2、且つ、THQ4<D<THQ5である場合には、運転者の運転状態が「無謀運転」であると判定する。
【0060】
一方、図5の点E(sDLE,tDTE)のように、THP1≦D≦THP2の範囲、及び、D>THP2且つTHQ1<D<THQ2,THQ3<D<THQ4の範囲は、いずれの運転状態にも属しないため、運転状態を判定しなくてもよいし、或いは、「通常運転」、「スポーティ運転」、「急ぎ/イライラ運転」、「無謀運転」の境界からの距離が最小となる運転者の運転状態の傾向があると判定してもよい。例えば、図5中の点Eの場合、「スポーティ運転」の境界からの距離が最小であるため、「スポーティ運転の傾向がある」と判定する。
【0061】
また、上記の図4に示すマップに代えて、図6に示すマップを用いて運転者の運転状態を判定してもよい。
【0062】
この図6に示す例では、縦方向逸脱度Dと横方向逸脱度Dを係数s,tを用いて正規化した値sD,tD(以下、正規化値と称する。)を用いる。なお、この係数s,tは、逸脱量Dが0から1の実数となるように、縦方向逸脱度の最小値と最大値と、横方向逸脱度の最小値と最大値とに基づいて決定される正規化係数である。
【0063】
本例では、同図に示すように、「通常状態」、「急ぎ/イライラ運転」、「スポーティ運転」、「無謀運転」のそれぞれについて、複数の運転者のトリップをベースにして正規化値の分布(図3に示すような度数分布)を作成し、例えば、その各分布の最頻度値を中心O,O,O、Oとすると共に各分布の一定タイル値を半径R,R,R,Rとした領域がそれぞれ設定されている。
【0064】
そして、判定部33は、縦方向逸脱度Dと横方向逸脱度Dから上記の正規化値sD,tDを算出した後に、当該正規化値sD,tDに基づいて運転者の運転状態を判定する。
【0065】
具体的には、図6の点A(sDLA,tDTA)のように、中心Oから半径Rの円の内部に含まれる場合には、運転者の運転状態が「正常運転」と判定する。これに対し、図6の点B(sDLB,tDTB)に示すように、中心Oから半径Rの円の内部に含まれる場合には、運転者の運転状態が「スポーティ運転」と判定する。
【0066】
また、図6の点C(sDLC,tDTC)のように、中心Oから半径Rの円の内部に含まれる場合には、運転者の運転状態が「急ぎ/イライラ運転」と判定し、図6の点D(sDLD,tDTD)のように、中心Oから半径Rの円の内部に含まれる場合には、運転者の運転状態が「無謀運転」と判定する。
【0067】
一方、図6の点E(sDLE,tDTE)のように、いずれの円の内部にも含まれない場合には、運転状態を判定しなくてもよいし、或いは、「通常運転」、「スポーティ運転」、「急ぎ/イライラ運転」、「無謀運転」の中心や境界からの距離が最小となる運転状態の傾向があると判定してもよい。例えば、図6中の点Eの場合には、「スポーティ運転」の境界からの距離が最少であるため、「スポーティ運転の傾向がある」と判定する。
【0068】
図1に戻り、判定部33は、例えば1トリップが終了する毎に上記の要領で運転者の運転状態を判定し、当該判定結果を報知部34に送信する。報知部34は、当該判定結果に基づいて、運転者に対して診断結果を報告する。
【0069】
以上のように、本実施形態では、自車輌100の前後方向に沿ったアクセルペダルの踏込量を検出して生成された縦方向信号と、自車輌100の幅方向に沿ったヨーレートを検出して生成された横方向信号と、の2つの方向に信号に基づいて、運転者の運転状態を判定する。
【0070】
特に、本実施形態では、横方向逸脱度Dが第1の横方向閾値THT1以上である場合に、運転者の運転状態を「スポーティ運転」と判定し、横方向逸脱度Dが第1の横方向閾値THT1未満である場合に、運転者の運転状態が「急ぎ/イライラ運転」と判定する。
【0071】
このため、「スポーティ運転」と「急ぎ/イライラ運転」とを区別することが可能となり、普段からスポーティな走行をしている運転者に対しても、運転状態を正確に診断することができ、運転者の運転状態の診断の精度が向上する。
【0072】
本実施形態における縦方向信号生成装置10が本発明における第1の信号生成手段の一例に相当し、本実施形態における横方向信号生成装置20が本発明における第2の信号生成手段の一例に相当し、本実施形態における運転状態判定装置30が本発明における運転状態判定手段の一例に相当し、本実施形態における縦加速度センサ14が本発明における第1の加速度センサの一例に相当し、本実施形態における横加速度センサ23が本発明における第2の加速度センサの一例に相当する。
【0073】
また、本実施形態における縦方向信号が本発明における第1の信号の一例に相当し、本実施形態における横方向信号が本発明における第2の信号の一例に相当し、本実施形態における縦方向逸脱度が、本発明における第1の逸脱度の一例に相当し、本実施形態における横方向逸脱度が、本発明における第2の逸脱度の一例に相当する。
【0074】
また、本実施形態における「縦方向信号の現信号分布」が、本発明における「第1の期間に生成された第1の信号の分布」の一例に相当し、本実施形態における「横方向信号の現信号分布」が、本発明における「第1の期間に生成された第2の信号の分布」の一例に相当し、本実施形態における「縦方向信号の既存信号分布」が、本発明における「第1の基準分布」の一例に相当し、本実施形態における「横方向信号の既存信号分布」が、本発明における「第2の基準分布」の一例に相当し、本実施形態における「過去の少なくとも2以上のトリップで記憶された縦信号の度数分布」が、本発明における「第2の期間に記憶された第1の信号の分布」の一例に相当し、本実施形態における「過去の少なくとも2以上のトリップで記憶された横信号の度数分布」が、本発明における「第2の期間に記憶された第2の信号の分布」の一例に相当する。
【0075】
なお、以上に説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0076】
1…運転状態診断装置
10…縦方向信号生成装置
11…アクセルペダルポジションセンサ
12…ブレーキペダルポジションセンサ
13…車速センサ
14…縦加速度センサ
15…車間距離センサ
20…横方向信号生成装置
21…ヨーレートセンサ
22…操舵角センサ
23…横加速度センサ
24…車線距離センサ
30…運転状態判定装置
31…分布記憶部
32…逸脱度算出部
33…判定部
34…報知部
100…自車輌

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輌を運転する運転者の運転状態を診断する運転状態診断装置であって、
前記車輌の前後方向に沿った運転操作又は車輌状態を検出して第1の信号を生成する第1の信号生成手段と、
前記車輌の幅方向に沿った運転操作又は車輌状態を検出して第2の信号を生成する第2の信号生成手段と、
前記第1の信号と前記第2の信号とに基づいて、前記運転者の運転状態を判定する運転状態判定手段と、を備えており、
前記運転状態は、スポーティ運転と、急ぎ/イライラ運転と、を少なくとも含むことを特徴とする運転状態診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の運転状態診断装置であって、
前記運転状態判定手段は、
前記第1の信号生成手段によって第1の期間に生成された前記第1の信号の分布と、前記第2の信号生成手段によって前記第1の期間に生成された前記第2の信号の分布と、を記憶する分布記憶部と、
前記第1の信号の分布を第1の基準分布と比較して第1の逸脱度を算出すると共に、前記第2の信号の分布を第2の基準分布と比較して第2の逸脱度を算出する逸脱度算出部と、
前記第1の逸脱度と前記第2の逸脱度に基づいて前記運転状態を判定する判定部と、を有しており、
前記判定部は、
前記第2の逸脱度が所定の閾値以上である場合に、前記運転者の運転状態がスポーティ運転であると判定し、
前記第2の逸脱度が前記閾値未満である場合に、前記運転者の運転状態が急ぎ/イライラ運転であると判定することを特徴とする運転状態診断装置。
【請求項3】
請求項1に記載の運転状態診断装置であって、
前記運転状態判定手段は、
前記第1の信号生成手段によって第1の期間に生成された前記第1の信号の分布と、前記第2の信号生成手段によって前記第1の期間に生成された前記第2の信号の分布と、を記憶する分布記憶部と、
前記第1の信号の分布を第1の基準分布と比較して第1の逸脱度を算出すると共に、前記第2の信号の分布を第2の基準分布と比較して第2の逸脱度を算出する逸脱度算出部と、
前記第1の逸脱度と前記第2の逸脱度を正規化し、第1の正規化逸脱度と第2の正規化逸脱度を用いて逸脱量と逸脱方向を算出し、前記逸脱量及び前記逸脱方向に基づいて前記運転状態を判定する判定部と、を有しており、
前記判定部は、
前記逸脱量が第1の閾値以上であり前記逸脱方向が第2の閾値以上にある場合に、前記運転者の運転状態がスポーティ運転であると判定し、
前記逸脱量が前記第1の閾値以上であり前記逸脱方向が前記第2の閾値未満である場合に、前記運転者の運転状態が急ぎ/イライラ運転であると判定することを特徴とする運転状態診断装置。
【請求項4】
請求項1に記載の運転状態診断装置であって、
前記運転状態判定手段は、
前記第1の信号生成手段によって第1の期間に生成された前記第1の信号の分布と、前記第2の信号生成手段によって前記第1の期間に生成された前記第2の信号の分布と、を記憶する分布記憶部と、
前記第1の信号の分布を第1の基準分布と比較して第1の逸脱度を算出すると共に、前記第2の信号の分布を第2の基準分布と比較して第2の逸脱度を算出する逸脱度算出部と、
前記第1の逸脱度と前記第2の逸脱度を正規化し、当該正規化された前記第1の逸脱度及び前記第2の逸脱度に基づいて前記運転状態を判定する判定部と、を有しており、
前記判定部は、
正規化された前記第1の逸脱度及び前記第2の逸脱度が第1の領域に属する場合に、前記運転者の運転状態がスポーティ運転であると判定し、
正規化された前記第1の逸脱度及び前記第2の逸脱度が第2の領域に属する場合に、前記運転者の運転状態が急ぎ/イライラ運転であると判定することを特徴とする運転状態診断装置。
【請求項5】
請求項2〜4の何れかに記載の運転状態診断装置であって、
前記第1の基準分布は、第1の期間よりも前の第2の期間に前記分布記憶部に記憶された前記第1の信号の分布であり、
前記第2の基準分布は、前記第2の期間に前記分布記憶部に記憶された前記第2の信号の分布であることを特徴とする運転状態診断装置。
【請求項6】
請求項2〜4の何れかに記載の運転状態診断装置であって、
前記第1の基準分布は、他の運転者による運転時の前記第1の信号の分布であり、
前記第2の基準分布は、前記他の運転者による運転時の前記第2の信号の分布であることを特徴とする運転状態診断装置。
【請求項7】
請求項2〜6の何れかに記載の運転状態診断装置であって、
前記逸脱量算出手段は、
前記第1の信号の分布の中心と、前記第1の基準分布の中心との距離を演算することで前記第1の逸脱度を算出すると共に、
前記第2の信号の分布の中心と、前記第2の基準分布の中心との距離を演算することで前記第2の逸脱度を算出することを特徴とする運動状態診断装置。
【請求項8】
請求項2〜7の何れかに記載の運転状態診断装置であって、
前記判定部は、前記第1の逸脱度と前記第2の逸脱度を前記運転状態に対応付けたマップを参照することで、前記運転状態を判定することを特徴とする運転状態診断装置。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の運転状態診断装置であって、
前記第1の信号生成手段は、
アクセルペダルの踏込量を検出するアクセルペダルポジションセンサ、
ブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキペダルポジションセンサ、
車輌の前後方向における他車輌に対する前記車輌の距離を検出する車間距離センサ、
前記車輌の速度を検出する車速センサ、又は、
前記車輌の前後方向に沿った加速度を検出する第1の加速度センサを有することを特徴とする運転状態診断装置。
【請求項10】
請求項9に記載の運転状態診断装置であって、
前記第1の信号生成手段は、
前記アクセルポジションセンサ、前記ブレーキポジションセンサ、若しくは前記車間距離センサによる検出結果を二階微分することで前記第1の信号を生成し、
前記車速センサによる検出結果を一階微分することで前記第1の信号を生成し、又は、
前記第1の加速度センサによる検出結果を前記第1の信号として用いることを特徴とする運転状態診断装置。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載の運転状態診断装置であって、
前記第2の信号生成手段は、
前記車輌の操舵角を検出する操舵角センサ、
前記車輌のヨーレートを検出するヨーレートセンサ、
車線内における前記車輌の横方向に沿った位置を検出する車線内位置センサ、又は、
前記車輌の幅方向に沿った加速度を検出する第2の加速度センサを有することを特徴とする運転状態診断装置。
【請求項12】
請求項11に記載の運転状態診断装置であって、
前記第2の信号生成手段は、
前記操舵角センサ、又は前記車線内位置センサによる検出結果を二階微分することで前記第2の信号を生成し、
前記ヨーレートセンサによる検出結果を一階微分することで前記第2の信号を生成し、又は、
前記第2の加速度センサによる検出結果を前記第2の信号として用いることを特徴とする運転状態診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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