説明

運転監視方法および運転監視装置

【課題】乗り物の運転の危険、状態、または異常の予測方法を改善した運転監視方法を提供する。
【解決手段】乗り物の動的パラメータについての訓練データストリームを取得し、衝突の瞬間を示すデータを記録するステップと、訓練データストリーム中の衝突の瞬間を示すデータと重なる訓練データを最も危険であるとラベル付けするステップと、訓練データストリームのうち最も危険であるとしてラベル付けされた訓練データから最も離れている訓練データを最も安全であるとしてラベル付けするステップと、ラベル付けされている訓練データの危険度判定の尺度に対応する情報をラベル付けされていない訓練データに伝搬させるステップと、ラベル付けされている訓練データおよびラベル付けされていない訓練データを用いて危険レベル予測関数のパラメータを推定するステップと、実測データストリームに危険レベル予測関数を適用するステップと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度情報化移動装置に関し、特に、逐次データからの危険な運転パターンと安全な運転パターンとを抽出する運転監視方法および運転監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載可能な電子装置と乗り物内の情報処理装置とを融合して利用できるようになったことで、より知的認識可能な乗り物の開発が加速している。1つの可能性は、潜在的な危険を防止するために運転者の運転能力を自動的に監視することである。運転者の作業負担を計測する規約が政府機関と自動車業界との双方によって作成されてきたが、それらはコストがかかりすぎ、運転者にとっては取得が難しいとして批判されてきた。さらに、運転の危険の防止のための既存の一様な経験則は、個人の運転環境の変化を考慮していない。したがって、多くの国際的な自動車会社は、潜在的な運転の危険を防止するために、運転者の欲求不満を理解する技術を知的な輸送装置のための1つの主要な研究分野として挙げている。
【0003】
過去10年の間に、研究者らは、脳波、心拍、容積脈波、呼吸等の生理学的および生物的行動信号を探ることによって、運転者の覚醒レベルを認識しようと試みてきた。しかし、生理学的データの取得は運転者にとって煩わしさ(煩雑性)があり、これは、いくつかの電極、つまりセンサを運転者の体に取り付けなければならないためである。
【0004】
非煩雑性の運転監視装置を開発するために、監視対象となる特徴として、2つの集合が検討されてきた。第1の集合は、頭の姿勢、顔の向き、頭と目との移動軌跡等の運転者の疲労状態に関連する視覚的特徴であり、これらはカメラ、赤外線LED、または複数の視覚センサを使用して抽出される。残念ながら、これらの視覚的特徴は、人的および環境的な大きな変動と、現在のコンピュータ視覚技法の未熟さのせいで、いつも正確に得られるとは限らず、または高い信頼性で得られるとは限らない。
【0005】
非煩雑性の特徴の他方の集合である第2の集合は、横方向の位置、ハンドルの動き、加減速等、乗り物の複数の動的パラメータに関連している。これらのパラメータは、隠されたセンサから抽出可能であって、運転者の運転状態の強力な指標となるため、これらは、有望な特徴であって、安全運転のための運転監視装置の開発のための大きな潜在性を有している。
【0006】
運転者の危険を検出する処理は、異常検出問題としてモデル化することができる。運転の異常を検出する最も直接的な方法は、潜在的な運転の複数の危険を反映するように、一式の経験的規則が定義されており、1つまたは2つ以上の規則に対するあらゆる違反が異常として検出されるルールベースのアプローチを使用することである。しかし、全ての種類の運転状態および危険を網羅する規則の総合的な集合を定義することは、非常に困難か、ほぼ不可能な作業である。
【0007】
そのため、多くの研究者が、任意の運転状態を安全または危険な状態のいずれかに分類し、運転状態が危険と分類されたときには常に運転異常の検出を示すことができる統計的モデルを学習することを試みるために、2、3の例を挙げるとフィッシャーの線形判別分析、サポートベクターマシン、およびベイジアンネットワークなどの統計的なモデル化方法を応用してきた。分類の精度が良好なモデルを得るためには、安全な運転状態と危険な運転状態との十分なサンプルを有している大量の訓練データを作ることが重要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記モデル化方法を応用した分類に基づく方法には、固有の問題がある。第1に、危険な運転状態の十分なサンプルを集めることは非常に困難であるが、これは通常の運転者はほとんどの運転期間の間は安全な運転状態であるためである。そのため、極端に偏った肯定的なサンプルと否定的なサンプルとの訓練集合を得ることになる可能性が非常に高い。
【0009】
第2に、安全な運転状態と危険な運転状態との間に明確な境界線を引くための、広く合意されている基準がない。第3に、運転状態空間全体は、運転事故に対応している状態が多くの場所に散らばっており、安全状態と危険状態との間の任意の遷移は離散的ではなく連続的に発生する、実際には連続している空間である。安全状態を危険状態から客観的に分離する単純で明確な境界は運転状態空間内には存在しない。
【0010】
本発明は上述したような技術が有する問題点を解決するためになされたものであり、乗り物の運転の危険、状態、または異常の予測方法を改善した運転監視方法および運転監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の運転監視方法は、乗り物の運転の危険を予測するコンピュータに実行させる運転監視方法であって、
前記乗り物の動的パラメータについての複数の訓練データを含む訓練データストリームを取得するとともに、最も危険な状態である衝突の瞬間を示すデータを記録するステップと、
前記訓練データストリーム中の、前記衝突の瞬間を示すデータと重なる訓練データを最も危険であるとラベル付けする危険ラベル付けステップと、
危険度判定の所定の尺度を用いて、前記訓練データストリームのうち、最も危険であるとしてラベル付けされた訓練データから最も離れている訓練データを最も安全であるとしてラベル付けする安全ラベル付けステップと、
最も危険であるとしてラベル付けされた訓練データおよび最も安全であるとしてラベル付けされた訓練データからなる、ラベル付けされている訓練データの前記所定の尺度に対応する情報であるラベル付け情報を、前記訓練データストリーム内のラベル付けされていない訓練データに伝搬させる伝搬ステップと、
前記ラベル付けされている訓練データおよび前記ラベル付けされていない訓練データを用いて危険レベル予測関数のパラメータを推定する推定ステップと、
前記乗り物の運転の危険を予測するために、前記乗り物の動的パラメータについての実測データを含む実測データストリームに前記危険レベル予測関数を適用する予測ステップと、を有するものである。
【0012】
一方、本発明の運転監視装置は、乗り物の運転の危険を予測する運転監視装置であって、
前記乗り物の動的パラメータについての複数の訓練データを含む訓練データストリームと、最も危険な状態である衝突の瞬間を示すデータを入力するための入力部と、
前記訓練データストリーム中の、前記衝突の瞬間を示すデータと重なる訓練データを最も危険であるとラベル付けし、危険度判定の所定の尺度を用いて前記訓練データストリームのうち最も危険であるとしてラベル付けされた訓練データから最も離れている訓練データを最も安全であるとしてラベル付けし、最も危険であるとしてラベル付けされた訓練データおよび最も安全であるとしてラベル付けされた訓練データからなるラベル付けされている訓練データの前記所定の尺度に対応する情報であるラベル付け情報を、前記訓練データストリーム内のラベル付けされていない訓練データに伝搬させ、前記ラベル付けされている訓練データおよび前記ラベル付けされていない訓練データを用いて危険レベル予測関数のパラメータを推定し、前記乗り物の運転の危険を予測するために前記乗り物の動的パラメータについての実測データを含む実測データストリームに前記危険レベル予測関数を適用するプロセッサと、
前記実測データストリームに前記危険レベル予測関数を適用することで予測された、前記乗り物の運転危険度を出力する出力部と、
を有する構成である。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、最も危険な状態と最も安全な状態のデータに基づいて、その間の状態を予測する関数を求めることで、危険予測モデル作成の処理を単純化できるだけでなく、連続している運転状態空間のモデリングに最適である。また、乗り物の動的パラメータを使用しているため、煩雑性はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本実施形態では、乗り物の運転の危険を予測するためのコンピュータに実行させる方法と、その方法を実行する装置とについて説明する。
【0015】
本実施形態における、半教師あり逐次学習方法を説明する。この学習方法は、乗り物の動的パラメータを使用して、各運転状態の危険レベルの計測のための予測方法で使用できる危険レベル予測モデル、または危険レベル予測関数f(x)を学習するものである。なお、本実施形態における、用語の「乗り物」は、陸、海、および空の乗り物を含むが、これらには限定されず、動力を有しているものを指す。
【0016】
運転状態全体について、上記逐次学習方法の一実施形態では、1)運転事故に対応している複数の状態は最も危険な状態であって、それらの状態に最も高い危険レベルが割り当てられており、2)任意の事故状態から最も遠い状態は最も安全な状態であって、最も低い危険レベルが割り当てられており、3)任意のその他の状態の危険レベルは、安全状態と事故状態への時空間的距離に比例していると仮定している。時空間的距離は、危険度判定の尺度の一例である。
【0017】
上記逐次学習方法は、上述の1)から3)の3つの仮定を満たす複数の訓練サンプルから危険レベルモデルを予測する。逐次学習方法では、訓練データ中で事故状態と安全状態(安全状態は事故状態への距離に基づいて自動的に見いだされる)とだけにラベル付けが必要であって、予め定められているコスト関数に関して最適なモデルを学習する。コスト関数には、ラベル付けされている運転状態とラベル付けされていない運転状態の両方が含まれているため、上記逐次学習方法は半教師あり学習と呼ばれる。
【0018】
分類ベースのアプローチに比べて、本実施形態の方法には、次のような、いくつかの利点がある。第1に、最も難しく、ラベル付け処理で大部分を占めてしまうことになる、非事故の危険な状態へのラベル付けをする必要がないため、訓練データの作成の処理を劇的に単純化できる。第2に、結果として得られるモデルは、分類アルゴリズムには一切基づいていないため、その能力の正確さは、肯定的な訓練サンプルと否定的な訓練サンプルとの間の不均衡によって重大な影響を受けることはない。第3に、結果として得られるモデルは、高い効率で予測できるように、明示的なパラメータ形式を有している。第4に、乗り物の動的パラメータを使用しており、それは有用であるが煩雑性はない。そして、最後に、本実施形態の方法の訓練方針は、複数の事故状態が非常にまばらに分散し、連続している運転状態空間のモデリングに対してより適切である。
【0019】
以下に、本実施形態の運転監視方法を詳しく説明する。
【0020】
本実施形態の運転監視方法は、ハードウェア、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせ、または他の適切な実行可能な実装において実行することが可能である。ソフトウェアに実装されている方法は、コンピュータ装置のプロセッサ、またはコンピュータ装置に接続されている1つまたは2つ以上の関連しているコンピュータまたはコンピュータ装置の1つまたは2つ以上のプロセッサによって実行することが可能である。
【0021】
図1は、本実施形態の運転監視装置の一構成例を示すブロック図である。図1に示すように、運転監視装置400は、入力装置410、プロセッサ420、および出力装置430を有している。図1では、プロセッサが1つの場合を示しているが、2つ以上あってもよい。
【0022】
入力装置410は、乗り物に設けられた乗り物センサで実測されたデータが外部から入力されると、そのデータをプロセッサ420に入力する。また、入力装置410は、衝突事故の瞬間のデータが入力されると、そのデータをプロセッサ420に入力する。さらに、入力装置410は、学習用のデータである訓練データが入力されると、その訓練データをプロセッサ420に入力する。
【0023】
プロセッサ420は、本実施形態の運転監視方法を実行するためにプログラムされた複数の命令を保存しているメモリ422と、プログラムにしたがって複数の命令を実行する中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)424とを有している。また、メモリ422には、入力装置410を介して入力されるデータが格納される。ただし、予測処理の対象となるデータストリームは、判定結果が出ると、メモリ422から消去される。逐次入力されるデータストリームを全て保存しておくとメモリ容量が膨大に必要になるからである。
【0024】
出力装置430は、ドライバ警報/警告装置、および/または、1つまたは2つ以上の乗り物制御装置で使用可能な形態で、危険レベルスコアを出力する。
【0025】
次に、本実施形態の運転監視装置400のプロセッサ420が実行する運転監視方法の動作手順を説明する。
【0026】
図2は本実施形態の運転監視方法の動作手順を示すフローチャートである。図2に示すように、本実施形態の運転監視方法は、半教師あり逐次学習方法による学習処理10と、学習処理10のパラメータ推定結果から予測を行う予測処理20とを有する。図2に示す各ボックスは処理のステップを示すが、処理によっては順序が番号の通りでなくてもよい。例えば、ボックス101の前にボックス102の処理があってもよい。
【0027】
はじめに、学習処理10の手順について説明する。ボックス101に示すように、横方向位置(車線分離線に対するドライバの横方向レーン位置、右側が正(フィート))、ハンドルの動き、加速度、減速度、速度、近傍の物体への距離を含み、これらには限定されない、乗り物の動的パラメータに関して、連続して収集可能な乗り物の複数のセンサから複数の訓練データが入力される。これらのセンサによって生成された、複数のチャネルデータストリームを、異なる運転者による複数の運転セッションから収集する。様々な運転事故を複数のチャネルセンサデータストリーム内に含めることが可能で、そのため、ボックス102に示すように、複数のチャネルセンサデータストリーム内のこれらの衝突事故の複数の瞬間のデータをメモリ422に記録する。
【0028】
なお、データストリームとは、一般的には、時間的に変化する大量のデータの流れを意味する。本実施形態では、乗り物に設けられた乗り物センサで逐次検出されるデータがデータストリームに相当する。学習処理10では、データストリームを対象として、以下に説明する処理を逐次行うものであるが、少なくとも危険レベル予測モデルまたは危険レベル予測関数を求められるのであれば、データストリームを一定時間で区切り、一定量のデータを学習処理10で扱うデータの対象としてもよい。また、ここでは、複数のセンサから受信するデータを対象とする場合で説明するが、1つの動的パラメータについて1つのセンサから得られるデータを対象としてもよい。
【0029】
ボックス101で収集した訓練データに対するデータ分析を促進するために、ボックス103に示すように、全てのチャネルセンサデータストリームを固定長単位iに分割し、各単位iをN次元特徴ベクトルxiによって表す。
【0030】
続いて、訓練サンプル104において、ボックス102と103の処理から、ラベルなし訓練データ集合U(ボックス105内)およびラベル付き訓練データ集合L(ボックス106内)を含む訓練サンプルセット集合χを生成する。生成されたラベル付き訓練データ集合L(ボックス106)には、最も危険な単位iと最も安全な単位iとが含まれている。
【0031】
ボックス102内に記録されている上記データストリームの各事故の瞬間は既知であるため、ボックス103の処理で得られた、事故と重なる単位iを、事故単位(最も危険な単位i)として識別し、ボックス106内でその単位iを最高の危険レベルスコアpdにラベル付けする。一方、ボックス103の処理で取得した単位iのうち、複数の事故単位まで十分に長い時空間的距離がある単位iを、安全な単位(最も安全な単位i)として識別し、ボックス106でその単位iを最低の危険レベルスコアpsにラベル付けする。このようにして、簡単な経験則を使用して安全な単位を識別することができる。
【0032】
ボックス105で生成され、ラベル付けされていない訓練データ集合Uには、未知の危険レベルスコアを有する、残りの複数の単位iが含まれている。その結果、全部の訓練データ集合χは、χ=L∪Uと表すことができ、L={(x11),(x22),...,(x|L|,y|L|)}はラベル付けされている訓練データ集合であって、yi∈{ps,pd}、U={x|L|+1,x|L|+2,...,x|L|+|U|}はラベル付けされていない訓練データ集合であって、|L|<<|U|である。
【0033】
ボックス107では、訓練データ集合χ全体、つまりラベル付けされている訓練データ集合Lとラベル付けされていない訓練データ集合Uとを、各入力特徴ベクトルxを数値で表されている危険レベルスコアにマッピング可能な危険レベル予測モデルまたは関数f(x)の訓練および構築に使用することができるように、ボックス106のラベル付け訓練データ集合Lからのラベル付け情報を、ボックス105のラベル付けされていない訓練データ集合Uのラベル付けされていない長さ単位iに伝搬させる。ここでは、ラベル付け情報は、危険レベルスコアであり、危険度判定の尺度に対応する情報に相当する。
【0034】
理想的には、危険レベル予測モデルまたは関数f(x)は、通常の運転状態に対しては低い値の危険レベルスコアを生成し、危険な運転状態に対しては高い値の危険レベルスコアを生成できなければならない。上記理想的な危険レベル予測モデルまたは関数f(x)に近づくように危険レベル予測モデルまたは関数f(x)を学習させるために、逐次学習方法では、f(x)が以下の2つの原則を満たすように規定した。(1)ラベル付けされている特徴ベクトルxi∈Lについては、予測されている危険レベルスコアf(xi)はyiにできるだけ近くなければならないこと、(2)互いに近傍にある全ての特徴ベクトルxj、xk∈χについては、予測される危険レベルスコアf(xj)とf(xk)との差はxjとxkとの時空間的距離に比例していなければならないこと、である。モデルf(x)はラベル付けされている訓練データ集合Lとラベル付けされていない訓練データ集合Uとの両方から導かれているため、この逐次学習方法は「半教師あり」に属すると考えられる。本実施形態の方法は、訓練データの生成処理を劇的に単純化することになるが、これは、各特徴ベクトルxにラベル付けする必要がないためである。
【0035】
さらに、データ区間を別個の安全クラスと危険クラスとに分類するために隠れマルコフモデル(HMM)、条件付き確率場(CRF)等を適用可能な逐次分類アプローチとは対照的に、本実施形態の方法は、各特徴ベクトルに対して数値で表された危険レベルスコアを予測するモデルを作り出す。そのようなアプローチは、運転状態空間全体が離散的ではなく連続している場合の、運転の異常の検出問題のモデル化により適している。
【0036】
図3は、ラベル付けされている訓練データ集合Lからラベル付けされていない訓練データ集合Uへラベル付け情報を伝搬させる第1の方法を模式的に示している。図3に示しているように、ラベル付けされている訓練データ集合Lの複数の危険な単位iと複数の安全な単位iとのそれぞれの危険レベルを示す値(スコア)は、隣接している両単位iの間の類似性(つまり、隣接している両特徴ベクトル間の類似性)にしたがって、ラベル付けされていない訓練データ集合Uに伝搬する。この第1の方法は、類似性伝搬によるものである。
【0037】
図4は、ラベル付けされている訓練データ集合Lからラベル付けされていない訓練データ集合Uへラベル付け情報を伝搬させる第2の方法を模式的に示している。図4に示しているように、ラベル付けされている訓練データ集合Lの複数の危険な単位iと複数の安全な単位iとの危険レベルの値(スコア)は、隣接している両単位iの間の予め定められている減衰率にしたがって、ラベル付けされていない訓練データ集合Uに伝搬する。この第2の方法は、自己回帰伝搬によるものである。
【0038】
再び図2を参照すると、ボックス107の伝搬処理後、ボックス108に示すように、ボックス104の訓練データ集合χ全体(ラベル付けされている訓練データ集合Lとラベル付けされていない訓練データ集合U)を、危険レベル予測モデルまたは関数f(x)のパラメータの推定のために使用する。パラメータ推定は、コスト関数を2次形式に構成し、危険レベル予測モデルまたは関数f(x)のパラメータ形式を選択し、2次コスト関数を最小化することによって危険レベル予測モデルまたは関数f(x)の複数のパラメータを予測することによって実行することができる。
【0039】
さらに、図2を参照すると、学習処理10で学習された危険レベル予測モデルまたは関数f(x)を、乗り物の複数のセンサによって計測された、乗り物の複数の動的パラメータのデータを使用して各運転状態の危険レベルを計測する予測処理20に、適用することが可能となる。以下に、より具体的に予測処理20を説明する。
【0040】
ボックス201において、運転者が乗り物(訓練データを得るために使用したのと同じ乗り物または他の乗り物)を操作すると、複数のデータが乗り物の複数のセンサから運転監視装置400に入力される。これらの入力されるデータには、運転者が乗り物を操作したときの、横方向の位置、ハンドルの動き、加速度、減速度、速度、および近傍の物体への距離のデータが含まれるが、入力されるデータはこれらの情報に限定されない。なお、訓練データの場合と同様に、動的パラメータおよびセンサはそれぞれ少なくとも1つあればよい。また、逐次実測されるデータを含むデータストリームは、本発明の実測データストリームに相当する。
【0041】
ボックス202に示すように、全てのセンサデータストリームを固定長単位iに分割し、各単位iをN次元特徴ベクトルxiに表す。
【0042】
ボックス203に示すように、各単位iに対して危険レベルスコアを生成するために、学習された危険レベル予測モデルまたは関数f(x)を、ボックス202で得られたラベル付けされていない複数の単位iに適用する。そして、学習された危険レベル予測モデルまたは関数f(x)を適用することで得られた危険レベルスコアを出力する(ボックス204)。
【0043】
出力された危険レベルスコアは、運転者に対して本人が安全な状態または危険な状態で運転していることを視覚的および/または聴覚的に警報または警告するための、乗り物内に設けられている警報/警告装置に適用される(このような方法を、警報/警告装置に限らず、何らかの他の装置に実行させてもよい)。
【0044】
運転者に対して警報または警告する構成に加えて、または、その代わりに、事故を回避するための乗り物の操作、例えば、乗り物の制動、加速および方向変更などの操作の全体または一部を自動的に行うためのアンチスキッド装置、トラクションコントロール装置、クルーズコントロール装置、緊急ブレーキ装置などの1つまたは2つ以上の乗り物制御装置に、危険レベルスコアを適用してもよい。乗り物制御装置の一例として、コンピュータによって操作の一部または全部が制御されるコンピュータ制御装置がある。
【0045】
以上の説明から、当業者であれば、本明細書で開示している方法の実行のために任意の適切なコンピュータ装置を使用できることがわかるであろう。コンピュータ装置は、メモリ媒体からの命令を実行する少なくとも1つのプロセッサを有しているメインフレームコンピュータ装置、ワークステーション、パーソナルコンピュータ装置、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)、または他の装置を含むが、これらの装置に限定されない。
【0046】
コンピュータ装置は、本明細書に記述されている方法に関連している操作を表示する表示装置つまりモニタと、1つまたは2つ以上のコンピュータプログラムつまりソフトウェアコンポーネントが保存されている1つまたは2つ以上のメモリ媒体とをさらに有していてもよい。例えば、本明細書で説明した方法を実施するために実行可能な1つまたは2つ以上のソフトウェアプログラムをメモリ媒体に保存することができる。1つまたは2つ以上の媒体には、CD−ROM、フロッピーディスク、テープ装置、DRAM、SRAM、EDO RAM、およびランバスRAMなどのランダムアクセスメモリ、ハードドライブ、光学ストレージ装置、およびこれらの組み合わせなどがあるが、これらの装置には限定されない不揮発性メモリが含まれるがこれらには限定されない。さらに、メモリ媒体は、インターネットなどのネットワークを通してコンピュータ装置に接続している1つまたは2つ以上の関連しているコンピュータまたはコンピュータ装置内に全部または一部が配置されていてもよい。
【0047】
本発明の典型的な図面と特定の実施形態を説明し、図に示したが、本発明の範囲は説明した特定の実施形態には限定されないことは当然である。したがって、実施形態は限定的ではなく例示的であると見なすべきであり、これらの実施形態において、特許請求の範囲において記述されている本発明の範囲とそれらの構造的および機能的に等価なものから逸脱することなく当業者によって変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施形態の運転監視方法を実行する安全運転の監視装置の一構成例を示すブロック図である。
【図2】本実施形態の運転監視方法の動作手順を示すフローチャートである。
【図3】ラベル付けされている訓練データ集合からラベル付けされていない訓練データ集合へとラベル付け情報を伝搬させる第1の方法を模式的に示す図である。
【図4】ラベル付けされている訓練データ集合からラベル付けされていない訓練データ集合へとラベル付け情報を伝搬させる第2の方法を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0049】
400 運転監視装置
410 入力装置
420 プロセッサ
422 メモリ
424 CPU
430 出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り物の運転の危険を予測するコンピュータに実行させる運転監視方法であって、
前記乗り物の動的パラメータについての複数の訓練データを含む訓練データストリームを取得するとともに、最も危険な状態である衝突の瞬間を示すデータを記録するステップと、
前記訓練データストリーム中の、前記衝突の瞬間を示すデータと重なる訓練データを最も危険であるとラベル付けする危険ラベル付けステップと、
危険度判定の所定の尺度を用いて、前記訓練データストリームのうち、最も危険であるとしてラベル付けされた訓練データから最も離れている訓練データを最も安全であるとしてラベル付けする安全ラベル付けステップと、
最も危険であるとしてラベル付けされた訓練データおよび最も安全であるとしてラベル付けされた訓練データからなる、ラベル付けされている訓練データの前記所定の尺度に対応する情報であるラベル付け情報を、前記訓練データストリーム内のラベル付けされていない訓練データに伝搬させる伝搬ステップと、
前記ラベル付けされている訓練データおよび前記ラベル付けされていない訓練データを用いて危険レベル予測関数のパラメータを推定する推定ステップと、
前記乗り物の運転の危険を予測するために、前記乗り物の動的パラメータについての実測データを含む実測データストリームに前記危険レベル予測関数を適用する予測ステップと、
を有する運転監視方法。
【請求項2】
前記危険ラベル付けステップおよび前記安全ラベル付けステップの前に、前記訓練データストリームを、前記訓練データに対応して複数の単位に分割するステップをさらに有する、請求項1に記載の運転監視方法。
【請求項3】
前記複数の単位のそれぞれは次元ベクトルを表している、請求項2に記載の運転監視方法。
【請求項4】
前記推定ステップは、コスト関数を2次形式に構成するステップを有する、請求項1に記載の運転監視方法。
【請求項5】
前記推定ステップは、パラメータ形式を前記危険レベル関数に適用するステップをさらに有する、請求項4に記載の運転監視方法。
【請求項6】
前記推定ステップは、前記コスト関数を最小にするステップをさらに有する、請求項4または5に記載の運転監視方法。
【請求項7】
前記推定ステップは、パラメータ形式を前記危険レベル関数に適用するステップをさらに有する、請求項1に記載の運転監視方法。
【請求項8】
前記伝搬ステップは類似性伝搬によって行われる、請求項1に記載の運転監視方法。
【請求項9】
前記伝搬ステップは自己回帰伝搬によって行われる、請求項1に記載の運転監視方法。
【請求項10】
前記訓練データストリームと前記衝突の瞬間を示すデータは、少なくとも1つの乗り物センサから得られる、請求項1に記載の運転監視方法。
【請求項11】
前記実測データストリームは、前記訓練データストリームの取得元となる乗り物に対応する前記少なくとも1つの乗り物センサから得られる、請求項10に記載の運転監視方法。
【請求項12】
前記実測データストリームは、少なくとも1つの乗り物センサから得られる、請求項1に記載の運転監視方法。
【請求項13】
前記予測ステップにより前記乗り物の運転が危険と判定されると、該乗り物の運転者に対して警報を行うステップをさらに有する、請求項1に記載の運転監視方法。
【請求項14】
前記予測ステップにより前記乗り物の運転が危険と判定されると、判定結果により前記乗り物のコンピュータ制御装置を連動させるステップをさらに有する、請求項1に記載の運転監視方法。
【請求項15】
乗り物の運転の危険を予測する運転監視装置であって、
前記乗り物の動的パラメータについての複数の訓練データを含む訓練データストリームと、最も危険な状態である衝突の瞬間を示すデータを入力するための入力部と、
前記訓練データストリーム中の、前記衝突の瞬間を示すデータと重なる訓練データを最も危険であるとラベル付けし、危険度判定の所定の尺度を用いて前記訓練データストリームのうち最も危険であるとしてラベル付けされた訓練データから最も離れている訓練データを最も安全であるとしてラベル付けし、最も危険であるとしてラベル付けされた訓練データおよび最も安全であるとしてラベル付けされた訓練データからなるラベル付けされている訓練データの前記所定の尺度に対応する情報であるラベル付け情報を、前記訓練データストリーム内のラベル付けされていない訓練データに伝搬させ、前記ラベル付けされている訓練データおよび前記ラベル付けされていない訓練データを用いて危険レベル予測関数のパラメータを推定し、前記乗り物の運転の危険を予測するために前記乗り物の動的パラメータについての実測データを含む実測データストリームに前記危険レベル予測関数を適用するプロセッサと、
前記実測データストリームに前記危険レベル予測関数を適用することで予測された、前記乗り物の運転危険度を出力する出力部と、
を有する運転監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−176288(P2009−176288A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316830(P2008−316830)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(504080663)エヌイーシー ラボラトリーズ アメリカ インク (68)
【氏名又は名称原語表記】NEC Laboratories America, Inc.
【Fターム(参考)】