説明

過渡的インダクタンス計測方法及び装置

【課題】従来の手法では実現できない精度の良い過渡的なインダクタンスの時刻歴の演算が可能な過渡的インダクタンス計測方法及び装置を提供する。
【解決手段】交流信号発生器1が正弦波をコイル3及び抵抗器4に印加しているときに、コイル3にインダクタンス急減の契機を与える。第1及び第2の電圧制御型BPF6,7を通過した第1及び第2の電圧e(t),eR(t)は、第1及び第2のクリップ回路8,9によって正弦波からパルス波に変換されて位相比較器10に入力され、位相比較器10は両電圧の位相差φ(t)の時刻歴を電圧値の時刻歴として出力する。DSP11は、第1及び第2の電圧制御型BPF6,7を通過した第1及び第2の電圧e(t),eR(t)の時刻歴と、位相比較器10の出力電圧の時刻歴とに基づいてコイル3のインダクタンスL(t)の時刻歴を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルにインダクタンス急減の契機が与えられた場合の当該コイルの過渡的なインダクタンスの時刻歴を演算する過渡的インダクタンス計測方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
爆薬の爆発によってコイルのインダクタンスを強制的に急激に減少させることで電流増幅を行う爆薬発電機は、限られた実装容積で使える電流増幅器として有用である。爆薬発電機の設計上、コイルのインダクタンスの過渡変化を明らかにすることが重要である。なお、爆薬発電機の場合、コイルは数マイクロ秒から数ミリ秒の極超短時間に端面から急激に短絡し(インダクタンスが急激に減少し)、最終的にインダクタンスが0となる。
【0003】
従来、コイルのインダクタンスを計測する手法としては、インピーダンスアナライザ等の汎用計測器を用いてコイルのインピーダンスの周波数特性(数Hz〜数MHz)を計測し、コイルに要求される周波数範囲におけるインダクタンスを求める方法が一般的である。
【0004】
コイルにインダクタンス急減の契機が与えられた場合の当該コイルの過渡的なインダクタンスの時刻歴を直接的に演算する手法の好適な開示は現在のところ無いが、間接的な計測手法としては、コイルに流した電流の変化を非接触式の電流プローブを用いて計測し、インダクタンスを推定する手法が試みられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前者のインピーダンスアナライザ等による手法では、静的なインダクタンスは精度よく測定できるものの、変化の過程の過渡的なインダクタンスのデータを取得することは不可能である。また、後者の電流変位を計測することによってインダクタンスを推定する手法では、インダクタンスの計測精度が得られない。
【0006】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、上述した2つの手法では実現できない精度の良い過渡的なインダクタンスの時刻歴の演算が可能な、過渡的インダクタンス計測方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、過渡的インダクタンス計測方法である。この方法は、
交流信号発生器と、前記交流信号発生器の両端子間に直列接続されたコイル及び抵抗器とを用い、
前記交流信号発生器が前記コイル及び前記抵抗器に交流信号を印加しているときに、前記コイルにインダクタンス急減の契機を与えるステップと、
前記コイルにインダクタンス急減の契機が与えられてからの所定期間における、前記交流信号発生器の一方の出力端子及び前記コイルの接続点の電圧である第1の電圧並びに前記コイル及び前記抵抗器の接続点の電圧である第2の電圧の時刻歴を取得するステップと、
当該所定期間における前記第1及び第2の電圧の位相差の時刻歴を導出するステップと、
当該導出した位相差の時刻歴と、前記第1及び第2の電圧の前記時刻歴とに基づいて、当該所定期間における前記コイルのインダクタンスの時刻歴を演算するステップとを有する。
【0008】
第1の態様の方法において、
前記交流信号発生器は、周波数の異なる2波以上の正弦波を合成して前記コイル及び前記抵抗器に印加し、
前記取得するステップでは、前記第1及び第2の電圧の各周波数成分の時刻歴を取得し、
前記導出するステップでは、前記第1及び第2の電圧の各周波数成分の位相差の時刻歴を周波数ごとに導出し、
前記演算するステップでは、前記コイルのインダクタンスの時刻歴を周波数ごとに演算するとよい。
【0009】
本発明の第2の態様は、過渡的インダクタンス計測装置である。この装置は、
交流信号発生器と、
前記交流信号発生器の両端子間に直列接続されたコイル及び抵抗器と、
前記交流信号発生器の一方の出力端子及び前記コイルの接続点の電圧である第1の電圧と、前記コイル及び前記抵抗器の接続点の電圧である第2の電圧との位相差を電圧値として出力することができる位相比較手段と、
前記第1の電圧と、前記第2の電圧と、前記位相比較手段の出力電圧とに基づいて、前記コイルのインダクタンスを演算する演算部とを備え、
前記位相比較手段は、前記コイルにインダクタンス急減の契機が与えられてからの所定期間における前記第1及び第2の電圧の時刻歴を取得して、当該所定期間における前記第1及び第2の電圧の位相差の時刻歴を電圧値の時刻歴として出力し、
前記演算部は、前記第1及び第2の電圧の前記時刻歴と、前記位相比較手段の出力電圧の前記時刻歴とに基づいて、当該所定期間における前記コイルのインダクタンスの時刻歴を演算する。
【0010】
第2の態様の装置において、
電圧制御型バンドパスフィルタと、
前記電圧制御型バンドパスフィルタに対して電圧制御信号を入力する電圧制御回路とをさらに備え、
前記交流信号発生器は、周波数の異なる2波以上の正弦波を合成して出力し、
前記電圧制御型バンドパスフィルタは、前記第1及び第2の電圧のうち前記電圧制御回路から入力された電圧制御信号に応じた特定周波数の成分を通過させ、
前記位相比較手段は、前記第1及び第2の電圧の前記特定周波数の成分の時刻歴を取得して、前記第1及び第2の電圧の前記特定周波数の成分の位相差の時刻歴を電圧値の時刻歴として出力し、
前記演算部は、前記特定周波数での前記コイルのインダクタンスの時刻歴を演算するとよい。
【0011】
この場合、
前記第1及び第2の電圧の時刻歴を記憶する記憶部をさらに備え、
前記位相比較手段は、前記第1及び第2の電圧の各周波数成分の時刻歴を取得して、前記第1及び第2の電圧の各周波数成分の位相差の時刻歴を電圧値の時刻歴として周波数ごとに出力し、
前記演算部は、前記コイルのインダクタンスの時刻歴を周波数ごとに演算するとよい。
【0012】
さらに、前記交流信号発生器の発生する2波以上の正弦波の周波数は、それぞれの正弦波の基本波の3次高調波成分までの信号が相互に重ならないとよい。
【0013】
第2の態様の装置において、前記コイルの内部抵抗は、前記抵抗器と比較して十分小さな抵抗値であるとよい。
【0014】
第2の態様の装置において、前記コイルは、円筒形の金属ライナーの周囲に密着するように巻線が施されたものであり、インダクタンス急減の契機が与えられてからごく短い時間で端面から短絡し、最終的にインダクタンスが0となるとよい。
【0015】
第2の態様の装置において、前記演算部は、前記第1及び第2の電圧の前記時刻歴と、前記位相比較手段の出力電圧の前記時刻歴とが入力されるDSP(Digital Signal Processor)を含み、前記DSPの内蔵プログラムにより前記コイルのインダクタンスの時刻歴を演算するとよい。
【0016】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現をシステム等の間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、交流信号発生器の両端子間にコイル及び抵抗器を直列接続しておき、前記交流信号発生器の一方の出力端子及び前記コイルの接続点の電圧である第1の電圧並びに前記コイル及び前記抵抗器の接続点の電圧である第2の電圧の時刻歴と、前記第1及び第2の電圧の位相差の時刻歴とに基づいて、前記コイルにインダクタンス急減の契機が与えられてからの所定期間における前記コイルのインダクタンスの時刻歴を演算するので、精度の良い過渡的なインダクタンスの時刻歴の演算が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る過渡的インダクタンス計測方法及び装置の回路構成ブロック図。
【図2】(A)は、図1に示した回路において瞬間的にコイル3の端面から短絡させた場合の、第1及び第2の電圧制御型BPF6,7通過前の第1及び第2の電圧e(t),eR(t)の時刻歴の一例を示すグラフ。(B)は、図1に示した回路において瞬間的にコイル3の端面から短絡させた場合の、第1及び第2の電圧制御型BPF6,7通過後の第1及び第2の電圧e(t),eR(t)の時刻歴の一例を示すグラフ。
【図3】図1に示した回路におけるDSP11の演算結果すなわちコイル3のインダクタンスL(t)の時刻歴の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態に係る過渡的インダクタンス計測方法及び装置の回路構成ブロック図である。本図に示された過渡的インダクタンス計測装置は、交流信号発生器1と、コイル3と、抵抗器4と、電圧制御回路5と、第1及び第2の電圧制御型バンドパスフィルタ6,7(以下、「バンドパスフィルタ」は「BPF」とも表記)と、第1及び第2のクリップ回路8,9と、位相比較器10と、演算部としてのDSP11と、第1及び第2の記憶部21,22とを備える。
【0021】
交流信号発生器1は、周波数の異なる2波以上の正弦波を合成して出力する。コイル3及び抵抗器4は、交流信号発生器1の両端子間に直列接続される。コイル3は、例えば円筒形の金属ライナー2(鉄やアルミ等からなる)の周囲に密着するように巻線が施されたものである。但し、巻線は絶縁被覆線等であり、当初は巻線の各ターン間及び巻線と金属ライナー2との間は絶縁が維持されている。以下、グランド(GND)を基準として、交流信号発生器1の一方の出力端子及びコイル3の接続点の電圧を「第1の電圧e(t)」、コイル3及び抵抗器4の接続点の電圧を「第2の電圧eR(t)」とする(t:時間。以下同じ)。
【0022】
交流信号発生器1の一方の出力端子及びコイル3の接続点は第1の電圧制御型BPF6の入力側及び第1の記憶部21の入力側に接続され、コイル3及び抵抗器4の接続点は第2の電圧制御型BPF7の入力側及び第2の記憶部22の入力側に接続される。また、第1の電圧制御型BPF6の入力側及び第1の記憶部21の出力側は相互に接続され、第2の電圧制御型BPF7の入力側及び第2の記憶部22の出力側も相互に接続される。第1及び第2の電圧制御型BPF6,7の通過帯域は、電圧制御回路5から入力される電圧制御信号Vcntによって定まる。すなわち、第1及び第2の電圧制御型BPF6,7は、第1及び第2の電圧e(t),eR(t)のうち電圧制御回路5から入力された電圧制御信号Vcntに応じた特定周波数の成分を通過させる。
【0023】
第1及び第2のクリップ回路8,9及び位相比較器10は、位相比較手段を構成する。すなわち、第1及び第2の電圧e(t),eR(t)のうち第1及び第2の電圧制御型BPF6,7を通過した前記特定周波数の成分(正弦波)は、第1及び第2のクリップ回路8,9によって正弦波からパルス波に変換されて位相比較器10に入力され、位相比較器10によって両者の位相差φ(t)が電圧値として得られる。なお、第1及び第2のクリップ回路8,9はそれぞれ正弦波をパルス波に変換する変換手段の例示であり、変換手段としてはコンパレータその他の公知の回路素子やその組合せを用いることができる。
【0024】
DSP11は、第1及び第2の電圧制御型BPF6,7を通過した第1及び第2の電圧e(t),eR(t)と、位相比較器10の出力電圧とが入力され、それらに基づいて内蔵プログラムによりコイル3のインダクタンスL(t)及び内部抵抗r(t)を演算する。なお、交流信号発生器1が振幅Vm、角周波数ωの正弦波Vm・sin(ωt)を発生しているとき、第1及び第2の電圧e(t),eR(t)のピーク値e,eR並びに両電圧の位相差φ(t)と、コイル3のインダクタンスL(t)及び内部抵抗r(t)と、抵抗器4の抵抗Rとの間には、下記
R/e = R/{(R+r(t))2+(ωL(t))2}1/2 …式1
φ(t) = tan-1{ωL(t)/(r(t)+R)} …式2
で示される関係があり、式1及び2を連立させて解くことでコイル3のインダクタンスL(t)及び内部抵抗r(t)が求められる。
【0025】
以下、図1に示される装置の動作すなわち過渡的インダクタンス計測の流れについて説明する。
【0026】
交流信号発生器1が周波数の異なる2波以上の正弦波を合成してコイル3及び抵抗器4に印加しているときに、例えばコイル3の一方の端面から爆薬の爆発によりコイル3にインダクタンス急減の契機を与える。この場合、金属ライナー2は一方の端面から膨張し、かつ高温となって、巻線を一方の端面側から順次短絡していく。コイル3にインダクタンス急減の契機が与えられてからコイル3が短絡するまでの期間における第1及び第2の電圧e(t),eR(t)は、第1及び第2の記憶部21,22に記憶されるとともに第1及び第2の電圧制御型BPF6,7に入力され、電圧制御回路5から入力された電圧制御信号Vcntに応じた特定周波数(前記2波以上の正弦波のうちの1波の周波数に対応)の成分が第1及び第2の電圧制御型BPF6,7を通過する。
【0027】
第1及び第2の電圧制御型BPF6,7を通過した第1及び第2の電圧e(t),eR(t)は、第1及び第2のクリップ回路8,9によって正弦波からパルス波に変換されて位相比較器10に入力される。位相比較器10は、入力された第1及び第2の電圧e(t),eR(t)の時刻歴に基づいて、コイル3にインダクタンス急減の契機が与えられてからコイル3が短絡するまでの期間における両電圧の位相差φ(t)の時刻歴を電圧値の時刻歴として出力する。DSP11は、第1及び第2の電圧制御型BPF6,7を通過した第1及び第2の電圧e(t),eR(t)の時刻歴と、位相比較器10の出力電圧の時刻歴とが入力され、それらに基づいて内蔵プログラム(例えば式1及び2の2元連立方程式をL(t)及びr(t)について解くプログラム)により当該期間におけるコイル3のインダクタンスL(t)及び内部抵抗r(t)の時刻歴を演算する。
【0028】
これにて、前記2波以上の正弦波のうちの1波の周波数の場合について、コイル3のインダクタンスL(t)及び内部抵抗r(t)の時刻歴が求められた。前記2波以上の正弦波のうちの他の1波の周波数の場合についてもコイル3のインダクタンスL(t)及び内部抵抗r(t)の時刻歴を求める場合、以下の手順を実行する。なお、コイル3の短絡動作は1回限りである(爆発後完全に短絡状態となる)から、第1及び第2の電圧e(t),eR(t)を第1及び第2の記憶部21,22に記憶しておくことが前提となる。
【0029】
電圧制御回路5から第1及び第2の電圧制御型BPF6,7に入力する電圧制御信号Vcntを変更する。すなわち、第1及び第2の電圧制御型BPF6,7の通過帯域を、前記2波以上の正弦波のうちの他の1波の周波数に対応するものに変更する。第1及び第2の電圧e(t),eR(t)を今度は第1及び第2の記憶部21,22から第1及び第2の電圧制御型BPF6,7に入力し、上記と同様にコイル3のインダクタンスL(t)及び内部抵抗r(t)の時刻歴を演算する。前記2波以上の正弦波の全ての周波数の場合についてコイル3のインダクタンスL(t)及び内部抵抗r(t)の時刻歴を求められたら計測は終了する。
【0030】
図2(A)は、図1に示した回路において瞬間的にコイル3の端面から短絡させた場合の、第1及び第2の電圧制御型BPF6,7通過前の第1及び第2の電圧e(t),eR(t)の時刻歴の一例を示すグラフである。このとき、抵抗器4の抵抗値は100Ω、交流信号発生器1の発生する正弦波は3波で周波数はそれぞれf=(ω/2π)=100kHz,370kHz,1MHzである。なお、コイル3の内部抵抗は、抵抗器4と比較して十分小さな抵抗値であるものとする。
【0031】
図2(B)は、図1に示した回路において瞬間的にコイル3の端面から短絡させた場合の、第1及び第2の電圧制御型BPF6,7通過後の第1及び第2の電圧e(t),eR(t)の時刻歴の一例を示すグラフである。このとき、電圧制御量としてf=100kHzに相当する制御電圧(電圧制御信号Vcnt)が電圧制御回路5から第1及び第2の電圧制御型BPF6,7に印加されている。また、第1及び第2の電圧制御型BPF6,7には、立ち上がりと立ち下がりの急峻さを考慮して、10次のバタワースフィルタを用いている。本図より、第1及び第2の電圧e(t),eR(t)の振幅差と位相差は、時間の経過に従って小さくなって最終的に無くなっている(つまりコイル3が短絡して同電圧になっている)ことがわかる。
【0032】
図3は、図1に示した回路におけるDSP11の演算結果すなわちコイル3のインダクタンスL(t)の時刻歴の一例を示すグラフである。図2(B)の場合と同様にf=100kHzに相当する電圧制御信号Vcntが電圧制御回路5から第1及び第2の電圧制御型BPF6,7に印加されており、約10μ秒刻みでインダクタンスの時刻歴が得られることがわかる。なお、電圧制御信号Vcntをf=1MHzに対応するものとすれば、10倍の細かさの時間刻みで時刻歴を計算することが可能である。
【0033】
なお、使用したDSP11は、汎用品であってA/D(アナログデジタル変換器)を内蔵し、第1及び第2の電圧e(t),eR(t)並びに両電圧の位相差φ(t)の3入力をスイッチングにより切り替えることによりデジタル信号に変換し、それらを内蔵メモリに記録する。位相差φ(t)については、位相比較器10から電圧値として入力されるため、DSP11で当該電圧値をA/D変換し、さらに電圧−位相変換することで位相差φ(t)の時刻歴として内蔵メモリに記録する。
【0034】
本実施の形態によれば、下記の効果を奏することができる。
【0035】
(1) 第1及び第2の電圧e(t),eR(t)の時刻歴と、両電圧の位相差に対応する電圧値の時刻歴とに基づいて、コイル3にインダクタンス急減の契機が与えられてからのコイル3が短絡するまでの期間におけるコイル3のインダクタンスの時刻歴を演算するので、第1及び第2の電圧e(t),eR(t)の振幅と位相差の時刻歴を基に数値解析的に精度の良い過渡的なインダクタンスの時刻歴の演算が可能となる。
【0036】
(2) 周波数の異なる2波以上の正弦波を合成してコイル3及び抵抗器4に印加しており、コイル3のインダクタンスの時刻歴を周波数ごとに演算できるため、単一周波数での演算の場合よりもさらに高精度の演算が期待できる。ここで、複数の周波数について演算する意義は次のとおりである。すなわち、高周波になるほど細かい時間刻みでインダクタンスの時刻歴を演算できる点で好ましいのであるが、高周波になるほどコイル3のインピーダンスが大きくなって第1及び第2の電圧e(t),eR(t)の振幅差が大きくなって精度が悪化する場合もある。このため、コイル3のインダクタンスの時刻歴を周波数ごとに演算することで、演算の高精度化を図ることができる。
【0037】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0038】
実施の形態ではDSP11を用いた信号処理でコイル3のインダクタンスL(t)及び内部抵抗r(t)の時刻歴を演算したが、変形例では、第1及び第2の電圧e(t),eR(t)並びに両電圧の位相差φ(t)に相当する電圧値をメモリ等に記録しておき、オフラインで時刻歴を取得して汎用のパソコン等で上記式1及び2の2元連立方程式を解いても同様にコイル3のインダクタンスL(t)及び内部抵抗r(t)の時刻歴を演算可能である。つまり、DSP11が存在しない場合においても本発明の過渡的インダクタンス計測装置は成立する。
【0039】
実施の形態では交流信号発生器が2波以上の正弦波を合成して出力する場合を説明したが、単一周波数での演算のみでよい場合は交流信号発生器は1波の正弦波を出力するだけでよい。この場合、第1及び第2の電圧制御型BPF6,7は不要である。なお、交流信号発生器が2波以上の正弦波を合成して出力する場合、それぞれの正弦波の基本波の3次高調波成分までの信号が相互に重ならないとよい。その理由は、電圧制御型BPF6,7で周波数ごとに分離する際に電圧制御型BPF6,7へのいずれの入力周波数に対応する出力波形なのかを容易に判別できるようにするためである。
【符号の説明】
【0040】
1 交流信号発生器
3 コイル
4 抵抗器
5 電圧制御回路
6 第1の電圧制御型バンドパスフィルタ
7 第2の電圧制御型バンドパスフィルタ
8 第1のクリップ回路
9 第2のクリップ回路
10 位相比較器
11 DSP
21 第1の記憶部
22 第2の記憶部
第1の電圧 e(t)
第2の電圧 eR(t)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流信号発生器と、前記交流信号発生器の両端子間に直列接続されたコイル及び抵抗器とを用い、
前記交流信号発生器が前記コイル及び前記抵抗器に交流信号を印加しているときに、前記コイルにインダクタンス急減の契機を与えるステップと、
前記コイルにインダクタンス急減の契機が与えられてからの所定期間における、前記交流信号発生器の一方の出力端子及び前記コイルの接続点の電圧である第1の電圧並びに前記コイル及び前記抵抗器の接続点の電圧である第2の電圧の時刻歴を取得するステップと、
当該所定期間における前記第1及び第2の電圧の位相差の時刻歴を導出するステップと、
当該導出した位相差の時刻歴と、前記第1及び第2の電圧の前記時刻歴とに基づいて、当該所定期間における前記コイルのインダクタンスの時刻歴を演算するステップとを有する、過渡的インダクタンス計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記交流信号発生器は、周波数の異なる2波以上の正弦波を合成して前記コイル及び前記抵抗器に印加し、
前記取得するステップでは、前記第1及び第2の電圧の各周波数成分の時刻歴を取得し、
前記導出するステップでは、前記第1及び第2の電圧の各周波数成分の位相差の時刻歴を周波数ごとに導出し、
前記演算するステップでは、前記コイルのインダクタンスの時刻歴を周波数ごとに演算する、過渡的インダクタンス計測方法。
【請求項3】
交流信号発生器と、
前記交流信号発生器の両端子間に直列接続されたコイル及び抵抗器と、
前記交流信号発生器の一方の出力端子及び前記コイルの接続点の電圧である第1の電圧と、前記コイル及び前記抵抗器の接続点の電圧である第2の電圧との位相差を電圧値として出力することができる位相比較手段と、
前記第1の電圧と、前記第2の電圧と、前記位相比較手段の出力電圧とに基づいて、前記コイルのインダクタンスを演算する演算部とを備え、
前記位相比較手段は、前記コイルにインダクタンス急減の契機が与えられてからの所定期間における前記第1及び第2の電圧の時刻歴を取得して、当該所定期間における前記第1及び第2の電圧の位相差の時刻歴を電圧値の時刻歴として出力し、
前記演算部は、前記第1及び第2の電圧の前記時刻歴と、前記位相比較手段の出力電圧の前記時刻歴とに基づいて、当該所定期間における前記コイルのインダクタンスの時刻歴を演算する、過渡的インダクタンス計測装置。
【請求項4】
請求項3に記載の装置において、
電圧制御型バンドパスフィルタと、
前記電圧制御型バンドパスフィルタに対して電圧制御信号を入力する電圧制御回路とをさらに備え、
前記交流信号発生器は、周波数の異なる2波以上の正弦波を合成して出力し、
前記電圧制御型バンドパスフィルタは、前記第1及び第2の電圧のうち前記電圧制御回路から入力された電圧制御信号に応じた特定周波数の成分を通過させ、
前記位相比較手段は、前記第1及び第2の電圧の前記特定周波数の成分の時刻歴を取得して、前記第1及び第2の電圧の前記特定周波数の成分の位相差の時刻歴を電圧値の時刻歴として出力し、
前記演算部は、前記特定周波数での前記コイルのインダクタンスの時刻歴を演算する、過渡的インダクタンス計測装置。
【請求項5】
請求項4に記載の装置において、
前記第1及び第2の電圧の時刻歴を記憶する記憶部をさらに備え、
前記位相比較手段は、前記第1及び第2の電圧の各周波数成分の時刻歴を取得して、前記第1及び第2の電圧の各周波数成分の位相差の時刻歴を電圧値の時刻歴として周波数ごとに出力し、
前記演算部は、前記コイルのインダクタンスの時刻歴を周波数ごとに演算する、過渡的インダクタンス計測装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の装置において、前記交流信号発生器の発生する2波以上の正弦波の周波数は、それぞれの正弦波の基本波の3次高調波成分までの信号が相互に重ならない、過渡的インダクタンス計測装置。
【請求項7】
請求項3から6のいずれかに記載の装置において、前記コイルの内部抵抗は、前記抵抗器と比較して十分小さな抵抗値である、過渡的インダクタンス計測装置。
【請求項8】
請求項3から7のいずれかに記載の装置において、前記コイルは、円筒形の金属ライナーの周囲に密着するように巻線が施されたものであり、インダクタンス急減の契機が与えられてからごく短い時間で端面から短絡し、最終的にインダクタンスが0となる、過渡的インダクタンス計測装置。
【請求項9】
請求項3から8のいずれかに記載の装置において、前記演算部は、前記第1及び第2の電圧の前記時刻歴と、前記位相比較手段の出力電圧の前記時刻歴とが入力されるDSP(Digital Signal Processor)を含み、前記DSPの内蔵プログラムにより前記コイルのインダクタンスの時刻歴を演算する、過渡的インダクタンス計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−145158(P2011−145158A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5884(P2010−5884)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【Fターム(参考)】