説明

過給機の補修方法

【課題】過給機におけるロータ軸について、摩耗による交換頻度を抑え、運用コストを低減する過給機の補修方法を提供する。
【解決手段】過給機10のジャーナル部5a,5bの外径とラジアル軸受7a,7bの内径の差を算出し、ラジアル軸受7a,7bよりも内径が小さく、かつ、それぞれの内径が異なる複数の交換用ラジアル軸受を準備する。過給機10の使用によってジャーナル部5a,5bが摩耗した場合において、摩耗後のジャーナル部5a,5bの外径を測定し、摩耗後のジャーナル部5a,5bの外径とあらかじめ算出した差とを合計した値よりも小さく、かつ、合計した値に最も近い内径を有する交換用ラジアル軸受を選択する。摩耗後におけるジャーナル部5a,5bの外径とあらかじめ算出した差とを合計した値と交換用ラジアル軸受の内径が等しくなるように、摩耗後におけるジャーナル部5a,5bを研磨し、ラジアル軸受7a,7bを交換用ラジアル軸受7c,7dに交換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過給機を一定期間使用した場合、特に起動時と停止時に軸受の内周面とロータ軸が接触することによってそれぞれが徐々に摩耗し、ロータ軸の回転安定性を保てなくなる場合がある。この場合、ロータ軸や軸受を交換することで、過給機全体を引き続き運用することが可能である。
【0003】
この点において、下記の特許文献1においては、ジャーナル軸受に設けられた2つ以上のガス吐出孔を、シャフトとジャーナル軸受が接触してできる接触摩耗域よりも内側に設け、ジャーナル軸受が摩耗した後においてもガス吐出孔からのガス圧力低下を防ぐことによって、ジャーナル軸受の交換頻度を少なくすることを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−124976号公報、「静圧軸受」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1においては、ジャーナル軸受が摩耗した際においても、一定期間継続使用するための発明であるが、ロータ軸が摩耗した場合においては、回転安定性を回復するためにロータ軸の交換が行われていた。
【0006】
特にロータ軸は高価であり、ジャーナル部が摩耗した際において毎回ロータ軸を交換することは、経済的負担が大きいといった問題を有していた。
【0007】
本発明者は、上述の課題に着目して、本発明を創案した。即ち、本発明の目的は、過給機におけるロータ軸について、摩耗による交換頻度を抑え、運用コストを低減する過給機の補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明によると、軸受によって支持されたロータ軸を有する過給機の補修方法であって、
ロータ軸は、軸受によって支持されるジャーナル部を有し、
軸受は、ロータ軸のラジアル荷重を支持するためのラジアル軸受を有しており、
(A)過給機の使用前におけるジャーナル部の外径及びラジアル軸受の内径を測定し、
(B)ジャーナル部の外径とラジアル軸受の内径の差を算出し、
(C)ラジアル軸受よりも内径が小さく、かつ、それぞれの内径が異なる複数の交換用ラジアル軸受を準備し、
(D)過給機の使用によってジャーナル部が摩耗した場合において、摩耗後におけるジャーナル部の外径を測定し、
(E)摩耗後におけるジャーナル部の外径とあらかじめ算出した前記差とを合計した値よりも小さく、かつ、前記合計した値に最も近い内径を有する交換用ラジアル軸受を選択し、
(F)摩耗後におけるジャーナル部の外径とあらかじめ算出した前記差とを合計した値と交換用ラジアル軸受の内径が等しくなるように、摩耗後におけるジャーナル部を研磨し、
(G)ラジアル軸受と交換用ラジアル軸受とを交換する、ことを特徴とする過給機の補修方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、前記(F)において、研磨後におけるジャーナル部の外径がロータ軸におけるジャーナル部以外の部分の外径よりも大きい状態を維持している限り、前記交換を複数回行う。
【発明の効果】
【0010】
上述した本発明によると、ジャーナル部が摩耗した場合において、摩耗したジャーナル部の直径に合わせた内径を有する新たな軸受を設置することによって、摩耗による交換頻度を抑え、運用コストを低減することができる。

【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による過給機の全体構成図である。
【図2】本発明による過給機の軸受付近の拡大図である。
【図3】本発明によるロータ軸が摩耗した場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0013】
図1は、本発明による過給機の全体構成図である。
過給機10は、タービンインペラ3、ロータ軸5、コンプレッサインペラ6、軸受7、及びベアリングハウジング9を備える。タービンインペラ3は、流体から圧力を受けることによりエネルギーが与えられて流体中で回転する。ロータ軸5には、タービンインペラ3が固定されており、ロータ軸5はタービンインペラ3と一体的に回転する。軸受7は、ロータ軸5の軸に対するラジアル方向(半径方向)にロータ軸5から荷重を受ける。またロータ軸5と平行なスラスト方向においては、スラスト軸受8が荷重を受ける。
【0014】
タービンインペラ3は、周方向に間隔をおいて設けられた複数の翼4を有し、エンジンからの排ガスにより回転駆動される。ロータ軸5の一端部には、タービンインペラ3が設けられ、ロータ軸5の他端部には、コンプレッサインペラ6が設けられている。コンプレッサインペラ6は、タービンインペラ3と一体的に回転することにより、吸入した空気を圧縮してエンジンへ送出する。
【0015】
ベアリングハウジング9は、軸受7を内部に収容する。
この例では、タービンインペラ3を内部に収容するタービンハウジングと、コンプレッサインペラ6を内部に収容するコンプレッサハウジングの図示を省略している。
【0016】
タービンハウジングは、タービンインペラ4を回転可能に囲み、かつ、ベアリングハウジング9に連結されている。このタービンハウジングは、内部に外部から排ガスが導入されるスクロール室と、スクロール室からタービンインペラ3まで排ガスを案内する環状に形成された流路を有する。
【0017】
ベアリングハウジング9は、ロータ軸5を軸受7によって回転可能に支持する。
【0018】
コンプレッサハウジングは、コンプレッサインペラ6を回転可能に囲み、かつ、ベアリングハウジング9に連結されている。このコンプレッサハウジングは、内部に圧縮空気が導入されるスクロール室と、コンプレッサインペラ6からスクロール室まで圧縮空気を案内する環状に形成された流路を有する。
【0019】
図2は、本発明による過給機の軸受付近の拡大図である。
この図において、5aは第1ジャーナル部、5bは第2ジャーナル部、7a,7bはラジアル軸受、8はスラスト軸受、8aはスラストカラー、8bはスラストベアリングである。
【0020】
第1ジャーナル部5a及び第2ジャーナル部5bは、ロータ軸5が回転する際において、ラジアル軸受7a,7bの内面と直接接触する部分である。
そのため、第1ジャーナル部5a及び第2ジャーナル部5bはロータ軸5における他の部分よりも径が大きく設定されている。
【0021】
ラジアル軸受7a,7bは、回転中のロータ軸5における回転軸のアンバランスや振動を抑制するための軸受である。
スラスト軸受8は、ロータ軸5のコンプレッサ方向のスラスト荷重を受ける。
なお、スラスト軸受8は、ロータ軸5と共に回転する円板状の1対のスラストカラー8aと、スラストカラー8aの間に把持されベアリングハウジング9に固定されたスラストベアリング8bとからなる。
【0022】
図3は、本発明によるロータ軸が摩耗した場合の説明図である。
図3(A)は、ロータ軸5とラジアル軸受7a,7bとの位置関係を表す図であり、図3(B)は、図3(A)の状態で一定期間使用した場合の図であり、図3(C)は、図3(B)の状態からラジアル軸受7aを交換した場合の図である。
【0023】
図3(A)は、ロータ軸5とラジアル軸受7a,7bについての図であり、この例においては、ロータ軸5の外径とラジアル軸受7a,7bの内径との間に半径差がe1あって、この部分には回転摩擦を抑えるための潤滑油が流れている。なおこの図では半径差e1を誇張して示している。
なお、この例においては、ロータ軸5は鉄系の金属で製造されており、軸受は銅合金等によって製造されている。
【0024】
図3(A)の状態で一定期間使用した場合、図3(B)に記載するようにロータ軸5及びラジアル軸受7aは摩耗するため、ロータ軸5の外径とラジアル軸受7a,7bの内径の半径差(e2)は徐々に大きくなっていく。
【0025】
そのため、図3(B)の状態になると、ロータ軸5の外径とラジアル軸受7a,7bの内径の半径差(e2)が大きくなりすぎるために、ロータ軸5の回転安定性を欠くことになる。
この状況において、ロータ軸5が、ラジアル軸受7a,7b等と比較して非常に高価であることを鑑み、摩耗し、研磨したロータ軸5の外径に合わせた交換用ラジアル軸受7c,7dを準備して交換を行う。
【0026】
この方法を採用することによって、高価なロータ軸5についての交換頻度を抑えることができるために、運用コストを低減することができる。
【0027】
具体的には、以下の手順で行う。
(1)予め、現在のラジアル軸受7a,7bの内径よりも小さく、かつ、それぞれの内径が異なる交換用ラジアル軸受7c,7dを複数準備する。
(2)過給機10の使用前においてロータ軸5のジャーナル部5a,5bの外径及びラジアル軸受7a,7bを測定し、これらの差(D)を算出しておく。
(3)その後、過給機10の運用によって、ジャーナル部5a,5bが摩耗して外径が減少した場合において、摩耗後のジャーナル部5a,5bの外径を測定する。
(4)測定した摩耗後のジャーナル部5a,5bの外径と、(1)で予め算出しておいた差(D)を合計する。
(5)(4)で計算した合計値よりも小さく、かつ、合計値に近い内径を有する交換用ラジアル軸受7c,7dを選択する
(6)(4)で計算した合計値と(5)で選択した交換用ラジアル軸受7c,7dの内径が等しくなるように、ロータ軸5のジャーナル部5a,5bを研磨する。
(7)(5)で選択した交換用ラジアル軸受7c,7dを摩耗したラジアル軸受7a,7bと交換して設置する。
【0028】
また、上記したロータ軸5に合わせたラジアル軸受7a,7bの交換は、1回に限らず、ロータ軸5の性能を損なわない限り複数回行うことが可能である。
例えば、ロータ軸5の外径が摩耗によって数十〜数百μm小さくなるごとに上記交換を行うことができる。
なお、ロータ軸5全体における剛性の確保のために、ロータ軸5における第1ジャーナル部5a及び第2ジャーナル部5bの外形が、ロータ軸5における他の部分の外径よりも大きい状態を維持できる範囲で上記交換を行う必要がある。
【0029】
また、あらかじめラジアル軸受7a,7bよりも内径が小さく、かつ、内径の異なる交換用ラジアル軸受7c,7dを準備しておき、過給機10の運用中に摩耗状況を随時確認して、所定の閾値に達したときに交換を行うようにしてもよい。
所定の閾値は、例えば、摩耗したロータ軸5の外径と差(D)とを合計した値が、予め準備しておいた、複数の交換用ラジアル軸受7c,7dのいずれかの内径と合致した場合に、交換するようにしてもよい。
【0030】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、以下のように本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
3 タービンインペラ、4 翼、
5 ロータ軸、5a 第1ジャーナル部、5b 第2ジャーナル部、
6 コンプレッサインペラ、7 軸受、
7a,7b ラジアル軸受、7c,7d 交換用ラジアル軸受、
8 スラスト軸受、8a スラストカラー、8b スラストベアリング、
9 ベアリングハウジング、10 過給機


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受によって支持されたロータ軸を有する過給機の補修方法であって、
ロータ軸は、軸受によって支持されるジャーナル部を有し、
軸受は、ロータ軸のラジアル荷重を支持するためのラジアル軸受を有しており、
(A)過給機の使用前におけるジャーナル部の外径及びラジアル軸受の内径を測定し、
(B)ジャーナル部の外径とラジアル軸受の内径の差を算出し、
(C)ラジアル軸受よりも内径が小さく、かつ、それぞれの内径が異なる複数の交換用ラジアル軸受を準備し、
(D)過給機の使用によってジャーナル部が摩耗した場合において、摩耗後におけるジャーナル部の外径を測定し、
(E)摩耗後におけるジャーナル部の外径とあらかじめ算出した前記差とを合計した値よりも小さく、かつ、前記合計した値に最も近い内径を有する交換用ラジアル軸受を選択し、
(F)摩耗後におけるジャーナル部の外径とあらかじめ算出した前記差とを合計した値と交換用ラジアル軸受の内径が等しくなるように、摩耗後におけるジャーナル部を研磨し、
(G)ラジアル軸受と交換用ラジアル軸受とを交換する、ことを特徴とする過給機の補修方法。
【請求項2】
研磨後におけるジャーナル部の外径がロータ軸におけるジャーナル部以外の部分の外径よりも大きい状態を維持している限り、前記交換を複数回行う、ことを特徴とする請求項1に記載の過給機の補修方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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