説明

過給機

【課題】ロータ軸を支持する軸受の損失を低減する。
【解決手段】コンプレッサインペラ4を軸方向の一端に備えたロータ軸3は、軸受ハウジング15に対してラジアル軸受19及びスラスト軸受20を介して回転可能に支持されている。スラスト軸受20は、ロータ軸3に固定される中間スラストリング23のコンプレッサインペラ4と反対側に、軸受ハウジング15の内壁に固定されるタービン側スラストリング22を備え、このタービン側スラストリング22と中間スラストリング23とですべり軸受を構成する。また、スラスト軸受20は、中間スラストリング23のコンプレッサインペラ4側に、軸受ハウジング15の内壁に固定されるコンプレッサ側スラストリング25を備え、このコンプレッサ側スラストリング25と中間スラストリング23との間に玉24を配置して玉軸受を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンから放出される排気エネルギを利用して、エンジンへ供給される空気を過給する過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
通常過給機においては、タービンインペラとコンプレッサインペラとを互いに連結してこれら各インペラを一体的に回転させるロータ軸を、ラジアル軸受及びスラスト軸受によりハウジングに対して回転可能に支持しており、その際スラスト軸受についてはすべり軸受を採用することが一般的になされている(例えば下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−220965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、過給機においては極めて高速回転することが知られており、したがってロータ軸を支持する軸受の高性能化が必須であり、そのために軸受損失をより低減することが要求されている。
【0005】
そこで、本発明は、ロータ軸を支持する軸受の損失を低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エンジンからの排気によってタービンインペラが回転し、このタービンインペラに対しロータ軸を介してコンプレッサインペラが一体的に回転することで、前記エンジンに供給される空気を過給する過給機であって、前記ロータ軸は、ハウジングに対し、ラジアル軸受及びスラスト軸受によりハウジングに対して回転可能に支持され、前記スラスト軸受は、前記コンプレッサインペラ側の軸受部にころがり軸受を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スラスト軸受は、ころがり軸受を適用しているコンプレッサ側の軸受部の軸受損失を、すべり軸受を適用した場合の軸受損失よりも低減させることができ、軸受全体としての軸受損失を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図2のスラスト軸受周辺を拡大した断面図である。
【図2】本発明の一実施形態を示す過給機の断面図である。
【図3】本発明の比較例を示す過給機の図1に対応する断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態を示す過給機の図1に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0010】
図2に示すように、本発明の一実施形態に係わる過給機1は、図示しない例えば自動車用のエンジンからの排気によってタービンインペラ2が回転し、このタービンインペラ2に対しロータ軸3を介してコンプレッサインペラ4が一体的に回転することで、上記したエンジンに供給される空気を過給する。
【0011】
タービンインペラ2は、タービンハウジング5内に回転可能に収容してあり、中心部のタービンホイール6の外周側にタービンブレード7を周方向に沿って複数設けてある。タービンホイール6のコンプレッサインペラ4側の端部中央に、前記したロータ軸3を一体的に接続してある。
【0012】
上記したタービンハウジング5は、その適宜位置に、エンジンからの排気を取り入れる排気取入口(図示省略)を形成してある。排気取入口は、エンジンの排気マニホールド(図示省略)に接続可能である。また、タービンハウジング5の内部には、上記した排気取入口に連通するタービンスクロール流路8を、タービンインペラ2を囲むように形成してある。さらに、タービンハウジング5におけるタービンインペラ2の軸方向外側(図2中で左側)には、タービンスクロール流路8内に流入した排気を外部に排出する排気出口9を形成してある。すなわち、タービンスクロール流路8と排気排出口9とは、タービンハウジング5内で互いに連通している。
【0013】
一方、コンプレッサインペラ4は、コンプレッサハウジング10内に回転可能に収容してあり、中心部のコンプレッサホイール11の外周側にコンプレッサブレード12を周方向に沿って複数設けてある。
【0014】
上記したコンプレッサハウジング10におけるコンプレッサインペラ4の軸方向外側(図2中で右側)には、空気を吸入する空気吸入口13を形成してあり、この空気吸入口13はエアクリーナ(図示省略)に接続可能である。
【0015】
また、前記したタービンハウジング5とコンプレッサハウジング10との間には軸受ハウジング15を設けてある。この軸受ハウジング15とコンプレッサハウジング10との間におけるコンプレッサインペラ4の外周側(出口側)には、圧縮された空気を昇圧する環状のディフューザ流路16を形成してあり、このディフューザ流路16は空気吸入口13に連通している。
【0016】
さらに、コンプレッサハウジング10の外周側の内部には、コンプレッサスクロール流路17を、コンプレッサインペラ4を囲むように形成してあり、このコンプレッサスクロール流路17は、ディフューザ流路16に連通している。すなわち、コンプレッサスクロール流路17と空気吸入口13とは、ディフューザ流路16によって互いに連通している。
【0017】
そして、コンプレッサハウジング10の適宜位置には、圧縮された空気を吐出する空気吐出口(図示省略)を形成してあり、この空気吐出口は、コンプレッサスクロール流路17に連通してあって、エンジンの吸気マニホールド(図示省略)に接続可能である。
【0018】
前記したコンプレッサホイール11の中心部には、ロータ軸3の延長方向に貫通する貫通孔11aを形成してあり、この貫通孔11aにロータ軸3を挿入し、ロータ軸3の貫通孔11aから外部に突出した側の端部の雄ねじ部3aにナット18を締結固定している。
【0019】
ここで、ロータ軸3は、軸方向中心側の2箇所にてラジアル軸受19によりハウジングとしての軸受ハウジング15に対して回転可能に支持されるとともに、コンプレッサインペラ4の近傍部位にてスラスト軸受20により軸受ハウジング15に対して回転可能に支持されている。ラジアル軸受19は、フロート軸受で構成してあるが、浮動ブッシュ(カラー)の動きの一部を規制したセミフロート式あるいは、浮動ブッシュ(カラー)を自由に回転可能としたフルフロート式のどちらを使用してもよい。スラスト軸受20については後述する。
【0020】
また、軸受ハウジング15には、ラジアル軸受19及びスラスト軸受20に潤滑油を供給するための潤滑油通路21を形成してある。潤滑油通路21は、潤滑油供給源(図示省略)から潤滑油が供給されて流入する径方向通路21aと、径方向通路21aの内側の端部21a1に連通する軸方向通路21bと、を備えている。
【0021】
そして、径方向通路21aの軸方向両側に位置する部分の軸方向通路21bに、ラジアル軸受用潤滑油通路21c,21dの一端21c1,21d1を連通させ、このラジアル軸受用潤滑油通路21c,21dの径方向内側に延びる他端21c2,21d2をラジアル軸受19の外周部に形成してある環状通路21e,21fに連通させる。すなわち、外部から径方向通路21aに流入した潤滑油は、軸方向通路21bからラジアル軸受用潤滑油通路21c,21d及び環状通路21e,21fを経て、対応するそれぞれのラジアル軸受19に供給されて該ラジアル軸受19を潤滑する。
【0022】
また、左右2つのラジアル軸受19相互間の軸受ハウジング15の下部には、ロータ軸3と軸受ハウジング15との間の隙間と、軸受ハウジング15内に形成してある後述する空隙31とを連通する排出路15bを形成してある。したがって、ラジアル軸受19を潤滑した後の潤滑油は、排出路15bから空隙31にも排出されることになる。
【0023】
また、軸方向通路21bのラジアル軸受用潤滑油通路21d側の端部21b1は、前述したスラスト軸受20の側部に連通している。すなわち、外部から径方向通路21aに流入した潤滑油は、軸方向通路21bを経てスラスト軸受20に供給されて該スラスト軸受20を潤滑する。
【0024】
なお、上記した潤滑油通路21の径方向通路21a、軸方向通路21b及びラジアル軸受用潤滑油通路21c,21dは、ロータ軸3に対し鉛直方向上部に位置しているものとする。
【0025】
次に、スラスト軸受20について説明する。スラスト軸受20は、タービンインペラ2側からコンプレッサインペラ4側に軸方向に沿って、タービン側リングとしてのタービン側スラストリング22、回転リングとしての中間スラストリング23、転動体としての玉24、コンプレッサ側リングとしてのコンプレッサ側スラストリング25を、順に配置している。玉24は、例えば鋼製(鋼球)あるいはセラミックス製とする。
【0026】
これらタービン側スラストリング22、中間スラストリング23及びコンプレッサ側スラストリング25は、いずれも中心部にロータ軸3が挿入される貫通孔を備えた大略板状のリング状に形成された軸受部材である。
【0027】
ここで、ロータ軸3は、軸受ハウジング15内に位置するジャーナル部3bに対して小径となる、前記した雄ねじ部3aを備えた小径部3cを備えている。すなわち、ジャーナル部3bは、小径部3cに対して大径部となり、このジャーナル部3bの小径部3c側の端部には、ロータ軸3の軸方向に対して直角な面となる突き当て面3dを備えている。
【0028】
この突き当て面3dに、スラスト軸受20における中間スラストリング23の内周側端部の側面をほぼ接触する状態として、中間スラストリング23を小径部3cに嵌入固定する。つまり、中間スラストリング23はロータ軸3と一体的に回転する。
【0029】
そして、この中間スラストリング23と、コンプレッサインペラ4におけるコンプレッサホイール11の内周側の軸方向に対向する端面11bとの間には、大略円筒形状の油切り部材26を介装している。したがって、前述した図2に示してあるナット18を締結することで、コンプレッサインペラ4は、ロータ軸3におけるジャーナル部3bの突き当て面3dとの間で、中間スラストリング23及び油切り部材26を挟持固定した状態で、ロータ軸3に締結固定されることになる。
【0030】
油切り部材26は、外周部に径方向外側に突出する環状の突起26aを備え、スラスト軸受20側の潤滑油のコンプレッサインペラ4側への流出を抑える。油切り部材26の突起26aのコンプレッサインペラ4側には、コンプレッサインペラ4とスラスト軸受20とを隔てる隔壁27の内周側端部が回転可能となるようほぼ接触もしくは近接しており、隔壁27はその外周側端部を軸受ハウジング15の内壁に固定している。
【0031】
一方、上記ジャーナル部3bの突き当て面3dに対応する位置の軸受ハウジング15のコンプレッサインペラ4側には、環状の凹部15aを形成してあり、この凹部15aは、コンプレッサインペラ4側が開口している。
【0032】
そして、この凹部15aに、スラスト軸受20のタービン側スラストリング22を固定している。この際、タービン側スラストリング22は、その内周面をジャーナル部3bの突き当て面3d近傍の外周面に対して相対回転可能に対向させるとともに、中間スラストリング23の側面に対しては、その側面を相対回転可能に接触可能としている。また、中間スラストリング23は、その外周側が凹部15a内に位置している。
【0033】
スラスト軸受20の玉24は、円周方向に沿って複数設けられ、これら複数の玉24は、金属あるいは樹脂からなる環状の保持器28によって保持された状態で、中間スラストリング23とコンプレッサ側スラストリング25との間で転動(回転)可能である。中間スラストリング23には、外周側端部に環状の凹部23aを形成する一方、コンプレッサ側スラストリング25には、内周側端部に環状の凹部25aを形成している。そして、これら互いに対向する位置にある凹部23aと凹部25aとの間に玉24を収容する。
【0034】
なお、コンプレッサ側スラストリング25は、図2に示すように、外周側を軸受ハウジング15の内壁の固定してある。
【0035】
コンプレッサ側スラストリング25は、上記凹部25aを形成した側の玉24より外周側に、環状の潤滑油収容凹部29を形成してあり、潤滑油収容凹部29には、前記した潤滑油通路21における軸方向通路21bの端部21b1が連通している。この潤滑油収容凹部29の空間と、玉24を収容している凹部23aと凹部25aとの間の空間とで、転動体を収容する領域を構成している。
【0036】
また、潤滑油収容凹部29の鉛直方向下部におけるコンプレッサ側スラストリング25の中間スラストリング23側には、潤滑油収容凹部29内の潤滑油を外部に排出する潤滑油排出通路30を、潤滑油収容凹部29の下部に上端部が連通するよう形成している。
【0037】
軸受ハウジング15のロータ軸3に対して鉛直方向下部には空隙31を形成してあり、この空隙31に潤滑油排出通路30の下端を連通させ、空隙31は下端に開口部31aを備えている。また、空隙31は、タービンインペラ2とラジアル軸受19との間のジャーナル部3bの外周面に開口する環状通路31bを備えている。
【0038】
このようにして構成されるスラスト軸受20は、中間スラストリング23と、コンプレッサ側スラストリング25と、保持器28に保持された状態の玉24とを、1つの軸受ユニットとして、ロータ軸3及び軸受ハウジング15に組み付ける。
【0039】
このように構成された過給機では、エンジンからの排気がタービンハウジング5の排気取入口からタービンスクロール流路8に流入することで、タービンインペラ2が回転し、これに伴い、ロータ軸3及びコンプレッサインペラ4が回転する。コンプレッサインペラ4の回転により、コンプレッサハウジング10の空気吸入口13から空気を吸入して圧縮する。そして、この圧縮した空気を、ディフューザ流路16及びコンプレッサスクロール流路17を経由して空気吐出口から吐出することで、エンジンに供給される空気を過給する。
【0040】
この際ロータ軸3は、ラジアル軸受19がロータ軸3の直径方向の荷重を受ける一方、スラスト軸受20がロータ軸3の軸方向の荷重を受けつつ回転する。ここで、スラスト軸受20については、ロータ軸3がタービン側(図1,図2中で左方向)へ向けて負荷を受けたときに、中間スラストリング23がタービン側スラストリング22に対して摺動しつつすべり軸受を構成して軸受効果を発揮する一方、ロータ軸3がコンプレッサ側(図1中で右方向)へ向けて負荷を受けたときに、中間スラストリング23がコンプレッサ側スラストリング25及び玉29とで、ころがり軸受としての玉軸受を構成して軸受効果を発揮する。
【0041】
すなわち、中間スラストリング23は、タービン側ですべり軸受の軸受部材の一部として機能するととともに、コンプレッサ側では玉軸受の軸受部材の一部として機能する。このような中間スラストリング23を備えるスラスト軸受20は、タービン側の軸受部にすべり軸受を備ており、コンプレッサ側の軸受部に玉軸受(ころがり軸受)を備えている。
【0042】
このとき、潤滑油通路21の径方向通路21aには潤滑油が流入しており、この潤滑油は、径方向通路21aから軸方向通路21bに流れ込む。軸方向通路21bに流れ込んだ潤滑油の一部は、ラジアル軸受用潤滑油通路21c,21dを経て一対のラジアル軸受19の外周部に供給されてこれら各ラジアル軸受19を潤滑する。また、軸方向通路21bに流れ込んだ潤滑油の他の一部は、軸方向通路21bの端部21b1からスラスト軸受20の潤滑油収容凹部29に供給されてスラスト軸受20を潤滑する。
【0043】
ラジアル軸受19に供給された潤滑油は、潤滑後に、一部が、軸受ハウジング15の空隙31の環状部31bに流出するとともに、タービン側スラストリング22と中間スラストリング23との微小な隙間を通して潤滑油収容凹部29側に流出する。排出路15b及び環状部31bに流出した潤滑油は、空隙31の下端の開口部31aから外部に排出され、潤滑油収容凹部29側に流出した潤滑油は、コンプレッサ側スラストリング25の潤滑油排出通路30を経由して、空隙31の下端の開口部31aから外部に排出される。
【0044】
また、軸方向通路21bからスラスト軸受20の潤滑油収容凹部29に直接流れ込んだ潤滑油も、コンプレッサ側スラストリング25の潤滑油排出通路30を経由して、空隙31の下端の開口部31aから外部に排出される。
【0045】
ここで、スラスト軸受20に流れ込む潤滑油のうち、タービン側の軸受部となる中間スラストリング23とタービン側スラストリング22との間に入り込む潤滑油は、ラジアル軸受19を潤滑した後のものである。これに対してスラスト軸受20に流れ込む潤滑油のうち、コンプレッサ側の軸受部となる中間スラストリング23とコンプレッサ側スラストリング25との間の潤滑油収容凹部29に入り込む大部分の潤滑油は、軸方向通路21bから直接入り込むものである。
【0046】
この際、コンプレッサ側の軸受部の潤滑油収容凹部29に軸方向通路21bから直接入り込む潤滑油の温度は、タービン側の軸受部にラジアル軸受19を潤滑した後に入り込む潤滑油の温度よりも低くなる。潤滑油は温度が低いと粘性が高くなるので、潤滑効果が低くなり、それに伴い軸受損失も高くなる。すなわち、スラスト軸受20においては、タービン側よりもコンプレッサ側の軸受部における軸受損失の割合が高くなる傾向にあり、タービン側よりもコンプレッサ側の軸受部の潤滑環境が劣っていることになる。
【0047】
そこで、本実施形態では、潤滑油の粘性が高いことに起因して軸受損失が高くなる傾向にあるコンプレッサ側の軸受部に、すべり軸受ではなく、中間スラストリング23、コンプレッサ側スラストリング25及び玉24を備える玉軸受を採用している。このため、コンプレッサ側の軸受部においては、タービン側の軸受部のようなすべり軸受を採用する場合に比較して、潤滑油の粘性が高くても軸受損失を低減することができ、軸受部全体(ラジアル軸受19及びスラスト軸受20)での軸受損失が低減する。
【0048】
これにより、過給機として高回転、高圧力比に対応した負荷能力の高いスラスト軸受20を、機械的損失(軸受損失)を低く抑えることで実現することができる。
【0049】
特に、ラジアル軸受19が、軸受部全体に対する軸受損失の割合がセミフロート式に比較して低いフルフロート式の場合には、その分スラスト軸受20の軸受損失の割合が高くなるので、上記した軸受損失の低減効果は、フルフロート式のラジアル軸受19を採用した場合に顕著となる。
【0050】
図3は、図1に示す本実施形態に対する比較例を示すもので、図1のコンプレッサ側の軸受部を玉軸受で構成したスラスト軸受20に代えて、コンプレッサ側の軸受部をタービン側と同様にすべり軸受で構成したスラスト軸受20Aを採用している。すなわち、このスラスト軸受20Aは、図1と同様のタービン側スラストリング22と、図1の中間スラストリング23に対応する中間スラストリング23Aと、図1のコンプレッサ側スラストリング25に対応するコンプレッサ側スラストリング25Aと、を備えている。コンプレッサ側スラストリング25Aには、潤滑油が流れる貫通孔25Aaを設けてある。
【0051】
ここで、図3の比較例での軸受部全体(一対のラジアル軸受19及びスラスト軸受20A)の軸受損失を100%とした場合、図1の本実施形態での軸受部全体(一対のラジアル軸受19及びスラスト軸受20)の軸受損失は、ラジアル軸受19がフルフロート式で約85%まで低減でき、セミフロート式で約90%まで低減できる。つまり、スラスト軸受20に本実施形態のように玉軸受を採用することで、図3の比較例に対して軸受損失が、フルフロート式では約15%低減でき、セミフロート式では約10%低減できることになる。
【0052】
なお、ラジアル軸受19がフルフロート式では、軸受損失が、図1,図3共に、ラジアル軸受19で全体の約46%、スラスト軸受20,20Aのタービン側スラストリング22と中間スラストリング23,23Aとの間のすべり軸受で約14%となっている。一方、このとき図3の比較例でのスラスト軸受20Aのコンプレッサ側スラストリング25Aと中間スラストリング23Aとの間のすべり軸受の軸受損失が約40%(40%+14%+46%=100%)であるのに対し、図1における本実施形態のスラスト軸受20の玉軸受での軸受損失は、約25%(25%+14%+46%=85%)である。つまり、前述したように図1に示す本実施形態の軸受構造における軸受損失が、図3の比較例の軸受構造における軸受損失に対して約15%低減していることになる。
【0053】
同様にして、ラジアル軸受19がセミフロート式では、軸受損失が、図1,図3共に、ラジアル軸受19で全体の約51%、スラスト軸受20,20Aのタービン側スラストリング22と中間スラストリング23,23Aとの間のすべり軸受で約15%となっている。一方、このとき図3の比較例でのスラスト軸受20Aのコンプレッサ側スラストリング25Aと中間スラストリング23Aとの間のすべり軸受の軸受損失が約34%(34%+15%+51%=100%)であるのに対し、図1における本実施形態のスラスト軸受20の玉軸受での軸受損失は、約24%(24%+15%+51%=90%)である。つまり、前述したように図1に示す本実施形態の軸受構造における軸受損失が、図3の比較例の軸受構造における軸受損失に対して約10%低減していることになる。
【0054】
また、本実施形態では、スラスト軸受20は、ロータ軸3と一体的に回転する中間スラストリング23と、この中間スラストリング23のタービンインペラ2側に位置して中間スラストリング23に対して相対回転可能なタービン側スラストリング22と、中間スラストリング23のコンプレッサインペラ4側に位置して中間スラストリング23に対して相対回転可能なコンプレッサ側スラストリング25と、をそれぞれ備え、中間スラストリング23とコンプレッサ側スラストリング25との間に玉軸受を構成する玉24を設けている。
【0055】
このため、中間スラストリング23は、タービン側ですべり軸受として機能するととともに、コンプレッサ側では玉軸受として機能しつつ、図3の比較例における中間スラストリング23Aの役目も果たすので、比較例とほぼ同等のスペースに玉軸受を適用することができる。
【0056】
また、本実施形態では、コンプレッサ側スラストリング25の中間スラストリング23側に設けた潤滑油収容凹部29に、スラスト軸受20に供給される潤滑油を外部に排出する潤滑油排出通路30を連通させている。これにより、スラスト軸受20を潤滑した後の潤滑油を、潤滑油排出通路30を経て外部に効率よく排出することができる。
【0057】
このように、スラスト軸受20を潤滑した潤滑油は、潤滑油収容凹部29から潤滑油排出通路30を経て外部に排出しやすいので、スラスト軸受20からコンプレッサインペラ4側への潤滑油の流出を抑制することができる。
【0058】
また、スラスト軸受20に潤滑油収容凹部29を設けることで、潤滑油収容凹部29を設けない場合に比較して、玉24を収容する領域内の容積が大きくなるので、該領域内の圧力を低く抑えることができ、潤滑油収容凹部29に入り込んだ潤滑油のコンプレッサインペラ4側への流出を抑制することができる。
【0059】
なお、図1,図2に示した実施形態では、潤滑油通路21の軸方向通路21bをスラスト軸受20の潤滑油収容凹部29に連通させているが、図4に示すように、軸方向通路21bをスラスト軸受20の潤滑油収容凹部29に連通させなくてもよい。すなわち、この例では、潤滑油収容凹部29には、軸方向通路21bから潤滑油が直接流れ込むことはなく、タービン側スラストリング22と中間スラストリング23との微小な隙間から潤滑油収容凹部29に潤滑油が流れ込むことになる。
【0060】
上記図4の例においても、コンプレッサ側スラストリング25と中間スラストリング23との間の軸受部は、タービン側スラストリング22と中間スラストリング23との間の軸受部に対し、潤滑油通路21からの潤滑油の直接的な供給がないので、潤滑環境が劣ることになり、したがってスラスト軸受20のコンプレッサ側の軸受部を玉軸受とすることで、同コンプレッサ側の軸受部をすべり軸受とする場合に比較して、コンプレッサ側の軸受部の軸受損失を低減することができる。
【0061】
また、上記した実施形態では、スラスト軸受20の中間スラストリング23をロータ軸3に取り付ける一方、タービン側及びコンプレッサ側の各スラストリング22及び25を軸受ハウジング15に取り付けているが、これとは逆に、中間スラストリング23を軸受ハウジング15に取り付ける一方、タービン側及びコンプレッサ側の各スラストリング22及び25をロータ軸3に取り付けてもよい。
【符号の説明】
【0062】
2 タービンインペラ
3 ロータ軸
4 コンプレッサインペラ
19 ラジアル軸受
20 スラスト軸受
21 潤滑油通路
22 スラスト軸受のタービン側スラストリング(タービン側リング)
23 スラスト軸受の中間スラストリング(回転リング)
24 スラスト軸受の玉(転動体)
25 スラスト軸受のコンプレッサ側スラストリング(コンプレッサ側リング)
29 潤滑油収容凹部(転動体を収容する領域)
30 潤滑油排出通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの排気によってタービンインペラが回転し、このタービンインペラに対しロータ軸を介してコンプレッサインペラが一体的に回転することで、前記エンジンに供給される空気を過給する過給機であって、前記ロータ軸は、ハウジングに対し、ラジアル軸受及びスラスト軸受によりハウジングに対して回転可能に支持され、前記スラスト軸受は、前記コンプレッサインペラ側の軸受部にころがり軸受を備えていることを特徴とする過給機。
【請求項2】
前記スラスト軸受は、前記ロータ軸と前記ハウジングとのいずれか一方に設けた回転リングと、この回転リングの前記タービンインペラ側に位置して、前記ロータ軸と前記ハウジングとのいずれか他方に設けたタービン側リングと、前記回転リングの前記コンプレッサインペラ側に位置して、前記ロータ軸と前記ハウジングとのいずれか他方に設けたコンプレッサ側リングと、をそれぞれ備え、前記回転リングと前記コンプレッサ側リングとの間に、前記ころがり軸受を構成する転動体を設けたことを特徴とする請求項1に記載の過給機。
【請求項3】
前記コンプレッサ側リングと前記回転リングとの間の前記転動体を収容する領域に、前記スラスト軸受に供給される潤滑油を外部に排出する潤滑油排出通路を連通させたことを特徴とする請求項2に記載の過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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