過酸化水素ガス発生装置及び過酸化水素ガスによる滅菌方法
【課題】チャンバー内を減圧することなく、チャンバー内の過酸化水素濃度を十分高い値に維持できる過酸化水素ガス発生装置及びこれを用いた滅菌方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る過酸化水素ガス発生装置100は、チャンバー110内において被処理物の滅菌に使用する過酸化水素ガスを発生させるためのものであり、原料の過酸化水素水溶液A1が供給される濃縮用容器22を有し過酸化水素の濃縮液A2を得る濃縮手段20と、濃縮液A2が供給される気化用容器52を有し濃縮液A2を気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得る気化手段50と、気化用容器52及びチャンバー110に連通するガス供給路L5並びにガス供給路L5に設けられた送風機62を有しガス供給路L5を通じてキャリアガスとともに混合ガスをチャンバー110に供給するガス供給手段60とを備える。
【解決手段】本発明に係る過酸化水素ガス発生装置100は、チャンバー110内において被処理物の滅菌に使用する過酸化水素ガスを発生させるためのものであり、原料の過酸化水素水溶液A1が供給される濃縮用容器22を有し過酸化水素の濃縮液A2を得る濃縮手段20と、濃縮液A2が供給される気化用容器52を有し濃縮液A2を気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得る気化手段50と、気化用容器52及びチャンバー110に連通するガス供給路L5並びにガス供給路L5に設けられた送風機62を有しガス供給路L5を通じてキャリアガスとともに混合ガスをチャンバー110に供給するガス供給手段60とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャンバー内において被処理物の滅菌に使用する過酸化水素ガスの発生装置及び過酸化水素ガスによる滅菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素(H2O2)による滅菌処理は、内視鏡、歯科材料、チャンバー内部、配管内部、冷凍乾燥器の滅菌などに適用されている。過酸化水素水溶液を気化させて過酸化水素ガスを滅菌剤として使用する方法が知られている(下記特許文献1〜5を参照)。具体的には、過酸化水素水溶液の液滴を加熱された表面へと供給して又は加熱した気流へと過酸化水素液を噴霧し、気化した過酸化水素を掃気して滅菌対象の表面へと導いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3915598号公報
【特許文献2】特許第3783337号公報
【特許文献3】特許第4088347号公報
【特許文献4】特許第4255637号公報
【特許文献5】特開2003−180802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高濃度の過酸化水素水溶液は輸送上の困難性のため、通常では過酸化水素濃度35質量%の水溶液が滅菌処理の原料として使用される。しかしながら、過酸化水素濃度35質量%の水溶液は、水の含有量が78mol%をも占めるため、これを気化させると多くの水蒸気を含む混合ガスが発生する。この過剰な水蒸気がチャンバー内で結露して水滴となって残り、チャンバー内の被処理物(特に電子機器)の故障を引き起こす問題がある。また、過酸化水素濃度35質量%の水溶液を原料に使用した場合、チャンバー内の過酸化水素ガス濃度を必要な値にまで上げ、この値を維持することが困難であった。
【0005】
すなわち、従来の装置にあっては、チャンバー内の過酸化水素ガス濃度を維持するため、チャンバー内を減圧する真空装置が必要であった。あるいは、過酸化水素ガスをチャンバー内に導入するためのキャリアガスを加熱するエアーヒーターが必要であった。また、従来の滅菌方法にあっては、滅菌が完了するまでチャンバー内の過酸化水素ガス濃度を維持するため、チャンバー内の乾燥処理を繰り返し行う必要があった。この乾燥処理によって失われた過酸化水素を補うため、その都度、過酸化水素ガスを追加するという操作が行われる。この場合、追加される過酸化水素ガスにも多量の水蒸気が含まれているため、ガス供給の間は常に乾燥処理を継続的又は断続的に実施する必要がある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、過酸化水素濃度35質量%の過酸化水素水溶液を原料として使用した場合であっても、チャンバー内を減圧することなく、チャンバー内の過酸化水素濃度を十分高い値に維持できる過酸化水素ガス発生装置及びこれを用いた滅菌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、チャンバー内において被処理物の滅菌に使用する過酸化水素ガスの発生装置であって、原料の過酸化水素水溶液が供給される濃縮用容器を有し、当該容器内の過酸化水素水溶液を濃縮して過酸化水素の濃縮液を得る濃縮手段と、濃縮用容器からの濃縮液が供給される気化用容器を有し、当該容器内の濃縮液を気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得る気化手段と、気化用容器及びチャンバーに連通するガス供給路並びにガス供給路に設けられた送風機を有し、ガス供給路を通じてキャリアガスとともに混合ガスをチャンバーに供給するガス供給手段とを備える過酸化水素ガス発生装置を提供する。
【0008】
本発明に係る過酸化水素ガス発生装置によれば、原料の過酸化水素水溶液(以下、場合により「原料液」という。)を濃縮し、濃縮液を気化させることで、過酸化水素濃度が高い混合ガスを安定的に発生させることができる。従って、水蒸気濃度が低い滅菌ガス(ドライガス)で滅菌処理をしたい場合に好適である。水蒸気濃度が高い滅菌ガス(ウェットガス)をチャンバーに供給した場合、過剰な水蒸気でチャンバー内に生じた残留水滴が被処理物(特に電子機器)に悪影響を及ぼすおそれがあるが、本発明によればこれを防止できる。なお、被処理物の種類によってはウェットガスを用いて滅菌処理を行う場合があるが、本発明は濃縮液の過酸化水素濃度を調整することでウェットガスを生じさせることもできる。
【0009】
また、本発明の過酸化水素ガス発生装置によれば、送風機によってチャンバー内に混合ガスを供給するため、チャンバーを減圧する必要がない。このため、チャンバーを耐真空構造にする必要がなく低コストでコンパクトな構成とすることができる。更に過酸化水素ガスの濃度が高く水蒸気濃度が低い混合ガスが安定的に得られるため、チャンバーに過酸化水素ガスを供給している間はチャンバー内の除湿を行わなくてもよいという利点がある。
【0010】
上記濃縮用容器は、上方から下方に延びており上端及び下端が閉じられた円筒状の本体部と、当該濃縮用容器内において本体部の内壁面に沿うように曲がり且つ当該濃縮用容器内の液面に対して斜め上方から空気を吹き付ける位置に先端が設けられた空気吹込み管と、本体部の上端に設けられたガス排出口と、当該濃縮用容器で得られた濃縮液を排出する濃縮液排出口とを有することが好ましい。かかる構成の濃縮用容器を使用することで、当該容器の気相部に竜巻状の気流を生じさせることができ、これにより原料の過酸化水素水溶液から十分に効率的且つ安定的に濃縮液を得ることができる。
【0011】
本発明の過酸化水素ガス発生装置は、上記の濃縮用容器及び気化用容器を兼用する一つの容器(加熱用容器)を備えたものであってもよい。すなわち、本発明は、チャンバー内において被処理物の滅菌に使用する過酸化水素ガスの発生装置であって、原料の過酸化水素水溶液が供給される加熱用容器を有し、当該容器内の過酸化水素水溶液を濃縮して過酸化水素の濃縮液を得るとともに、当該濃縮液を気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得る加熱手段と、加熱用容器及びチャンバーに連通するガス供給路並びにガス供給路に設けられた送風機とを有し、ガス供給路を通じてキャリアガスとともに混合ガスをチャンバーに供給するガス供給手段とを備える過酸化水素ガス発生装置を提供する。
【0012】
上記加熱用容器を備えた過酸化水素ガス発生装置によれば、本発明の上述の効果に加え、装置をより一層コンパクトなものとすることができる。
【0013】
上記加熱用容器は、上方から下方に延びており上端及び下端が閉じられた円筒状の本体部と、原料の過酸化水素水溶液から濃縮液を得る際に使用されるものであって、当該加熱用容器内において本体部の内壁面に沿うように曲がり且つ当該加熱用容器内の液面に対して斜め上方から空気を吹き付ける位置に先端が設けられた空気吹込み管と、本体部の上端に設けられたガス排出口とを有することが好ましい。かかる構成の加熱用容器を使用することで、当該容器の気相部に竜巻状の気流を生じさせることができ、これにより原料の過酸化水素水溶液から十分に効率的且つ安定的に濃縮液を得ることができる。
【0014】
本発明の過酸化水素ガス発生装置は、除湿剤が収容される収容部と、当該収容部及びチャンバーに連通する除湿用循環路とを有する除湿手段を更に備えることが好ましい。チャンバーに過酸化水素ガスを供給するに先立ち、この除湿手段によってチャンバー内を除湿することで、過酸化水素ガスをチャンバーに供給した際、チャンバー内における結露の発生をより確実に防止できるとともに、チャンバー内の過酸化水素ガス濃度をより長時間にわたって高いレベルに維持しやすくなる。
【0015】
更に本発明は、チャンバー内において被処理物を過酸化水素ガスによって滅菌する方法であって、原料の過酸化水素水溶液を加熱によって濃縮して過酸化水素の濃縮液を得る濃縮工程と、濃縮液を加熱によって気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得る気化工程と、チャンバーに連通するガス供給路に設けられた送風機によって当該ガス供給路を通じてキャリアガスとともに混合ガスをチャンバーに供給するガス供給工程とを備える滅菌方法を提供する。
【0016】
本発明に係る滅菌方法によれば、気化工程において過酸化水素濃度が高い混合ガスを安定的に発生させることができるため、この混合ガスをチャンバー内に供給することによって被処理物を高度に滅菌できる。また本発明の滅菌方法によれば、水蒸気濃度が低い混合ガスが得られるため、チャンバー内における結露の発生を十分に抑制できる。なお、水蒸気濃度が高い混合ガスを得たい場合にも濃縮液の濃縮度合いを適宜調整することで対応可能である。
【0017】
また、本発明の滅菌方法によれば、送風機によってチャンバーに混合ガスを供給するため、チャンバーを減圧する必要がない。さらに過酸化水素ガス濃度が高く水蒸気濃度が低い混合ガスが安定的に得られるため、チャンバーに混合ガスを供給している間はチャンバー内の除湿を行わなくてもよいという利点がある。
【0018】
上記濃縮工程において、円筒状の容器内に収容された原料の過酸化水素水溶液を加熱するとともに、当該容器内の液面に対して斜め上方から空気を吹き付けることが好ましい。これにより、当該容器の気相部に竜巻状の気流を生じさせることが好ましい。このような気流を気相部に生じさせることで、原料の過酸化水素水溶液を十分に効率的且つ安定的に濃縮液を得ることができる。
【0019】
本発明の滅菌方法は、混合ガスをチャンバーに供給する前にチャンバー内の湿度を低下させる除湿工程を更に備えることが好ましい。チャンバーに過酸化水素ガスを供給するに先立ち、チャンバー内を除湿することで、過酸化水素ガスをチャンバーに供給した際、チャンバー内における結露の発生をより確実に防止できるとともに、チャンバー内の過酸化水素ガス濃度をより長時間にわたって高いレベルに維持できる。
【0020】
本発明においては、輸送の容易性の観点から、原料の過酸化水素水溶液として過酸化水素濃度が35質量%以下のものを使用することが好ましい。
【0021】
本発明の効果をより一層十分且つ安定的に得る観点から、濃縮液は過酸化水素濃度が45〜85質量%であり、チャンバーに供給されるガスは過酸化水素濃度が250〜1100体積ppmであり且つ水蒸気濃度が1900〜8200体積ppmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、過酸化水素濃度35質量%の過酸化水素水溶液を原料として使用した場合であっても、チャンバー内を減圧することなく、チャンバー内の過酸化水素濃度を十分高い値に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る過酸化水素ガス発生装置の第1実施形態を示す構成図である。
【図2】(a)は濃縮用容器の内部構造を示す一部破断図であり、(b)は濃縮用容器のB−B線断面図である。
【図3】本発明に係る過酸化水素ガス発生装置の第2実施形態を示す構成図である。
【図4】実施例1における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【図5】実施例2における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【図6】実施例4における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【図7】実施例5における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【図8】実施例6における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【図9】実施例9における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【図10】実施例10における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【図11】比較例2における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【図12】比較例3における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0025】
<第1実施形態>
(過酸化水素ガス発生装置)
まず、図1を参照しながら、本発明の第1実施形態について説明する。図1に示す通り、本実施形態に係る過酸化水素ガス発生装置100は、チャンバー110内に収容された被処理物の滅菌処理に使用する過酸化水素ガスを発生させるためのものである。
【0026】
過酸化水素ガス発生装置100は、原料の過酸化水素水溶液A1を濃縮用容器22に供給するための原料供給手段10と、濃縮用容器22内の過酸化水素水溶液を濃縮して濃縮液A2を得る濃縮手段20と、濃縮液を得る過程で生じる排液及び排ガスを処理するための手段(排液処理手段30及び排ガス処理手段40)と、濃縮液A2を気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得る気化手段50と、過酸化水素ガスを含む混合ガスをチャンバー110に供給するガス供給手段60とを備える。
【0027】
原料供給手段10は、ラインL1を通じて原料の過酸化水素水溶液A1を濃縮用容器22に供給するためのものである。原料供給手段10は、原料の過酸化水素水溶液A1を収容する容器11、ラインL1、ラインL1の途中に設けられたチェックバルブV3及び供給バルブV2によって構成される。
【0028】
濃縮手段20は、濃縮用容器22を有し、濃縮用容器22内の過酸化水素水溶液A1を濃縮して濃縮液A2を得るためのものである。濃縮手段20は、濃縮用容器22、ヒータ21a、温度センサ(図示せず)、ヒータコントローラ21及びバキュームポンプ27によって構成される。濃縮液A2の濃縮度合い、すなわち過酸化水素濃度及び水蒸気濃度を適宜調整することで、発生させる混合ガスをドライな条件下の滅菌処理に適したもの、あるいはウェットな条件下の滅菌処理に適したものにすることができる。なお、濃縮用容器22は、耐熱性及び耐酸性を有するガラス製か、あるいはステンレスを材料にしたもので更に内表面がテフロン(登録商標)加工されたものが好ましい。またヒータ21aとしては、電気ヒータを使用でき、自己温度制御性ヒータ(PTCヒータ)を使用してもよい。
【0029】
図2は濃縮用容器22の内部構造を示す一部破断図である。同図に示す通り、濃縮用容器22は、上方から下方に延びており上端23a及び下端23bが閉じられた円筒状の本体部23と、本体部23の内壁面23Fに沿うように曲がり且つ濃縮用容器22内の液面Lに対して斜め上方から空気を吹き付ける位置に先端24aが設けられた空気吹込み管24と、本体部23の上端23aに設けられたガス排出口25と、濃縮用容器22の下部に設けられた濃縮液排出口26とを有する。
【0030】
空気吹込み管24の先端24aから液面に向けて空気を吹き付けることによって、濃縮用容器22の気相部に竜巻状の気流を生じる。この場合、このような気流を生じさせない場合と比較して濃縮に要する時間を1/2〜1/4程度に短縮できる。このような効果が奏される主因は、必ずしも明らかではないが内壁面23Fで結露した水に過酸化水素ガスが溶解し、過酸化水素を高濃度で含む液滴が液相部に流下するためと推察される。また、竜巻状の気流によって容器22内の水溶液が攪拌されることも短時間の濃縮に寄与するものと推察される。
【0031】
図1に示すように、バキュームポンプ27はガス排出口25に連通するラインL2に設けられている。バキュームポンプ27を作動させることで、ガス排出口25から水蒸気を多く含むガスを吸引して排出させ、他方、空気吹込み管24から容器22内に空気を供給することができる。このラインL2の濃縮用容器22とバキュームポンプ27の間に2段の水蒸気トラップ28a,28bが設けられている。水蒸気トラップ28bの気相部にはバキュームポンプ27に連通するラインL2が接続されている。ここでは、濃縮用容器22の下流側にバキュームポンプ27を設置する場合を例示したが、これの代わりに濃縮用容器22の上流側に送風機を設置してもよい。
【0032】
排液処理手段30は、水蒸気トラップ28a,28bで回収された排液を処理するためのものである。排液処理手段30は、排液処理触媒が収容された容器31及び排液を収容するタンク32によって構成される。排ガス処理手段40は、排ガス処理触媒によって排ガスを処理して大気へと放散するためのものであり、ラインL2のバキュームポンプ27の後段に設けられている。なお、水蒸気トラップ28bから排出されるガスの一部を上流側に返送し、空気吹込み管24を通じて再度、濃縮用容器22に導入できるようにしてもよい。この場合、例えば、ラインL2をバキュームポンプ27と排ガス処理手段40の間で分岐し、この分岐ラインの先端を空気吹込み管24に接続すればよい。
【0033】
気化手段50は、濃縮用容器22から移送される濃縮液を気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得るためのものであり、ラインL3を介して濃縮用容器22の後段に設けられている。なお、ラインL3の途中にはドレインバルブV30が設けられている。気化手段50は、気化用容器52、ヒータ51a、温度センサ(図示せず)及びヒータコントローラ51によって構成される。なお、気化用容器52は、耐熱性及び耐酸性を有するガラス製か、あるいはステンレスを材料にしたもので更に内表面がテフロン(登録商標)加工されたものが好ましい。またヒータ51aとしては、電気ヒータを使用でき、自己温度制御性ヒータ(PTCヒータ)を使用してもよい。
【0034】
ガス供給手段60は、過酸化水素ガスを含む混合ガスを空気(キャリアガス)とともにチャンバー110に供給するためのものである。ガス供給手段60は、気化用容器52及びチャンバー110に連通するガス循環ライン(ガス供給路)L5及びガス循環ラインL5に設けられた送風機62によって構成される。なお、ガス循環ラインL5の途中には、バルブV16,V26,V27,V18が設けられている。送風機62によってチャンバー110内に混合ガスを供給するため、本実施形態においてはチャンバー110を減圧する必要がないため、チャンバー110として耐真空構造でないものを使用できる。
【0035】
(滅菌方法)
過酸化水素ガス発生装置100を用いた滅菌方法について詳細に説明する。本実施形態に係る滅菌方法は、原料の過酸化水素水溶液A1を濃縮用容器22に供給する原料供給工程と、濃縮用容器22内の過酸化水素水溶液を濃縮して濃縮液A2を得る濃縮工程と、濃縮液を得る過程で生じる排液及び排ガスを処理する工程(排液処理工程及び排ガス処理工程)と、濃縮液を気化させて混合ガスを得る気化工程と、混合ガスをキャリアガスとともにチャンバー110に供給するガス供給工程とを備える。
【0036】
原料供給工程は、所定量の原料の過酸化水素水溶液A1を濃縮用容器22に供給する工程である。原料の過酸化水素水溶液A1としては、過酸化水素濃度がなるべく高いものが好ましいが、輸送上の容易性の観点から水溶液A1の過酸化水素濃度は35質量以下が好ましく、20〜35質量%であることがより好ましい。
【0037】
濃縮用容器22に収容させる水溶液A1の量は、バッチ処理によって滅菌を行う場合、水溶液A1の過酸化水素濃度、チャンバー110の容積、滅菌すべき菌の種類などに応じ、BI(Biological Indicator)テストの結果に基づいて設定することが好ましい。例えば、水溶液A1として過酸化水素濃度35質量%の水溶液を使用し、濃縮用容器22において水溶液A1の液量を1/3に濃縮した濃縮液A2を得る場合、BIテストを実施した結果、容積1.5m3のチャンバーに対して水溶液A1を30mL使用すればよいことが確認された。
【0038】
濃縮工程は、濃縮用容器22に供給された水溶液A1を濃縮して濃縮液A2を得る工程である。濃縮液A2の過酸化水素濃度は、濃縮液A2を気化させて得るべき混合ガス(過酸化水素ガス及び水蒸気を含有)の過酸化水素ガス濃度に応じて設定すればよく、これに基づいて濃縮時間を設定することが好ましい。濃縮液A2の過酸化水素濃度は、45〜85質量%であることが好ましく、70〜85質量%であることがより好ましい。この濃度が45質量%未満であると、濃縮液A2に含まれている水が70mol%を超えるため気化させた際、混合ガスの過酸化水素濃度が不安定になりやすく、他方、85質量%を越えると、濃縮液A2の粘度が高くなり流動性が不十分となりやすい。
【0039】
濃縮用容器22内の水溶液A1の温度が70〜100℃程度になるようにヒータ21aの温度を調節するとともに、バキュームポンプ27を起動させて空気吹込み管24から容器22内に空気を導入して濃縮処理を開始する。空気吹込み管24から導入された空気は、容器22の気相部において竜巻状に流れ、この気流が水溶液A1の濃縮を促進させる。容器22内の水溶液の過酸化水素濃度が所定の値となった時点で加熱、空気の吹き込み等を停止し、濃縮作業を終了する。
【0040】
気化工程は、濃縮用容器22で得られた濃縮液A2を気化用容器52に移した後、濃縮液A2を気化させて混合ガスを発生させる工程である。気化用容器52の水溶液A2の温度が40〜60℃程度になるようにヒータ51aの温度を調節することが好ましい。
【0041】
排液処理工程は、濃縮液を得る過程で生じる排液を処理する工程である。水蒸気トラップ28a,28bに溜まった排水を容器31内の排液処理用触媒に通し、排水に中に含まれている可能性のある過酸化水素を水と酸素に分解する。分解処理後、排水をタンク32に移す。
【0042】
排ガス処理工程は、濃縮液を得る過程で生じる排ガスを処理する工程である。バキュームポンプ27から排出されるガスを排ガス処理用触媒に通し、排ガスに中に含まれている可能性のある過酸化水素を水と酸素に分解する。
【0043】
ガス供給工程は、気化用容器52で発生した混合ガスをチャンバー110に供給する工程である。ガス循環ラインL5の途中に設けられた送風機62を起動し、ガス循環ラインL5を通じて混合ガスをチャンバー110に供給し、被処理物の滅菌処理を実施する。この場合、ガス循環ラインL5及びチャンバー110内の空気がキャリアガスとなる。
【0044】
チャンバー110に供給されるガスは、過酸化水素濃度が250〜1100体積ppmであることが好ましく、600〜1000体積ppmであることがより好ましい。この濃度が250体積ppm未満であると、チャンバー110内における滅菌効率が不十分となりやすく、他方、1100体積ppmを越えると濃縮液単位量当りガス供給時間が短くなりより多くの原料供給量が必要となるとともに、濃縮工程および気化工程の運転コストもその分増大する傾向となる。また、当該ガスの水蒸気濃度は、1900〜8200体積ppmであることが好ましく、2000〜6000体積ppmであることがより好ましい。この濃度が1900体積ppm未満であるとチャンバー110内における滅菌効率が不十分となりやすく、他方、8200体積ppmを越えるとチャンバー110内の過酸化水素ガス濃度を目的の値にまで上昇させることが困難となりやすい。
【0045】
なお、本実施形態においては、上記の濃縮工程、気化工程及びガス供給工程を順次実施して滅菌をバッチ式によって行ってもよく、下記のように濃縮工程、気化工程及びガス供給工程を連続式によって行ってもよい。すなわち、上記実施形態においては、容器11から濃縮用容器22への原料の水溶液A1の供給量、及び濃縮用容器22から気化用容器52への濃縮液A2の供給量を制御することにより、混合ガスを連続的に発生させることができ、これを連続的にチャンバー110へ供給することができる。
【0046】
本実施形態に係る過酸化水素ガス発生装置100によれば、過酸化水素濃度35質量%の過酸化水素水溶液を原料として使用した場合であっても、チャンバー110内を減圧することなく、チャンバー110内の過酸化水素濃度を十分高い値に維持できる。このため、過酸化水素ガス発生装置100を用いた滅菌方法によれば、高濃度の過酸化水素ガスによって被処理物を高度に滅菌処理できる。また本実施形態に係る滅菌方法によれば、水蒸気濃度が低いガスがチャンバー110に供給されるため、チャンバー110内における結露の発生を十分に抑制できる。他方、水蒸気濃度が高いガスで滅菌処理を実施したい場合にも濃縮液の濃縮度合いを適宜調整することで対応可能である。
【0047】
<第2実施形態>
次に、図3を参照しながら、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態に係る過酸化水素ガス発生装置200は、上述の過酸化水素ガス発生装置100と以下の点において相違する。すなわち、上述の濃縮用容器22及び気化用容器52を兼用する一つの加熱用容器55(加熱手段)を備えたものである点、及び、装置100が具備しない構成(除湿手段70、除湿剤再生手段80及び残留液の回収手段90など)を更に具備するものである点である。以下、上記相違点に係る構成及びこれに関連する工程について主に説明する。
【0048】
図3に示す通り、過酸化水素ガス発生装置200は加熱用容器55を備える。水溶液A1の濃縮を行う際及び濃縮液A2の気化を行う際で加熱用容器55に接続されたラインを切り換えることで、加熱用容器55は濃縮用容器22及び気化用容器52の役割を担うことができるようになっている。
【0049】
より具体的には、水溶液A1の濃縮を行う際にあっては、加熱用容器55から排出される水蒸気がチャンバー110内に浸入することがないようにバルブV26,V27を閉じる。他方、水溶液A2の気化を行う際にあっては、バルブV8,V12,V2,V41を閉じ、バルブV26,V27を開ける。
【0050】
加熱用容器55で濃縮及び気化の両方を行う構成とすることで、装置200をより一層コンパクトなものとすることができる。また、濃縮工程後の熱を気化工程で利用できるため、消費エネルギーを削減できる。なお、加熱用容器55は、耐熱性及び耐酸性を有するガラス製か、あるいはステンレスを材料にしたもので更に内表面がテフロン(登録商標)加工されたものが好ましい。
【0051】
加熱用容器55は、水溶液A1の濃縮を短時間で行う観点から、図2に示す濃縮用容器22と同様の構成を有する。すなわち、加熱用容器55は、上方から下方に延びており上端及び下端が閉じられた円筒状の本体部と、本体部の内壁面に沿うように曲がり且つ加熱用容器55内の液面に対して斜め上方から空気を吹き付ける位置に先端が設けられた空気吹込み管56と、本体部の上端に設けられたガス排出口と、加熱用容器55の気相部に設けられた混合ガス排出口とを有する(図2参照)。
【0052】
除湿手段70は、チャンバー110内の湿度を事前に低くしておき、混合ガスを供給した際、チャンバー110内の水蒸気圧が飽和水蒸気圧より低く維持しやすいようにするためのものである。つまり、除湿手段70による除湿工程を事前に実施することで、チャンバー110内における結露の発生をより一層確実に防止できる。図3に示す通り、除湿手段70は、除湿剤が収容された容器72、この容器72及びチャンバー110に連通する除湿用循環ラインL12によって構成される。
【0053】
チャンバー110内の気体を送風機62で送風して除湿剤に通して循環させながら除湿する(除湿工程)。除湿剤としては、再生が可能なものが好ましく、例えば吸湿性のある市販のゼオライトが挙げられる。なお、除湿剤は配管中に収容させてもよく、具体的には除湿すべき気体がゼオライト上又はゼオライト間を流通するようにゼオライトを配管に設けてもよい。
【0054】
除湿剤再生手段80は、滅菌処理の終了後、水分を吸収した除湿剤に熱を加えた状態で窒素ガスを流すことによって除湿剤を再生させるためのものである。除湿剤再生手段80は、窒素源81、除湿剤を加熱するヒータ82a及びヒータコントローラ82等によって構成される。除湿工程を実施する場合、図3に示すバルブV18,V19,V26,V12,V41を閉じ、バルブV39,V21,V27,V8,V10を開ける。
【0055】
なお、水分を吸着した除湿剤を再生させるには除湿剤をヒータ82aで300〜370℃程度に加熱した状態で容器72に窒素ガスを供給すればよい。除湿剤に吸着した水は水蒸気となって窒素ガスとともに水蒸気トラップ28a,28bで回収できるようになっている。他方、水蒸気が分離された窒素ガスは排ガス処理手段40を通過後、大気に排出される。
【0056】
残留液の回収手段90は、滅菌処理の終了後、加熱用容器55内に濃縮液A2が残った場合、窒素源81からの窒素ガスで加熱用容器55の気相部を加圧し、残留液を容器11に回収するためのものである。この場合、図3に示すバルブV18,V19,V26,V12,V8を閉じ、バルブV39,V21,V27,V41を開ける。また、滅菌処理の終了後、チャンバー110内に残留する過酸化水素を分解する手段を設けてもよく、図3に示す過酸化水素分解手段75で過酸化水素を水と酸素とに分解し、発生した水を容器72内の除湿剤によって除去してもよい。
【0057】
以上、本発明の好適な第1及び第2実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、濃縮時間の短縮化の点から特に好ましい例として図2に示す構成の濃縮用容器22を例示したが、これに代えて原料の過酸化水素溶液A1の過酸化水素濃度を高めることができる装置(例えば、蒸留器)などを使用してもよい。
【0058】
また、第2実施形態は、第1実施形態の装置100が具備しない構成(除湿手段70、除湿剤再生手段80及び残留液の回収手段90など)を具備するものであるが、第1実施形態の装置100においてこれらの構成を採用してもよいし、第2実施形態の装置200をこれらの構成を具備しないものとしてもよい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
図1に示す過酸化水素ガス発生装置100と同様の構成の装置を作製し、この装置を使用して滅菌処理を行った。まず、原料の過酸化水素水溶液(過酸化水素濃度35質量%、市販品)が入った試薬瓶を準備し、この試薬瓶と濃縮用容器とを配管で接続した。なお、濃縮用容器として、図2に示す容器と同様の構成の円筒状の耐熱ガラス採取管(直径45mm、高さ145mm)を使用した。試薬瓶から濃縮用容器に原料液を30mL供給した。
【0061】
濃縮用容器の外表面に設けた電気ヒータの温度が130℃となるように調節し、原料液を加温した。濃縮に要する時間を短縮するため、容器内の液体を攪拌するとともに、バキュームポンプによってガス排出口からガスを吸引することによって空気吹込み管から容器内の液面に向けて空気を吹き付け、気相部に竜巻状の気流を生じさせた。バキュームポンプの吸引量は25L/分とした。このような濃縮処理を約45分にわたって実施した結果、過酸化水素濃度70質量%の水溶液(濃縮液1)が7mL得られた。
【0062】
上記のようにして得た濃縮液7mLを気化用容器内に移し、電気ヒータの温度が110℃となるように調節して濃縮液を加熱し、過酸化水素ガスと水蒸気を含む混合ガスを発生させた。なお、気化用容器として、耐熱ガラス製ビーカーを使用した。
【0063】
濃縮液の気化によって生じた混合ガスをチャンバー(容積1.5m3)に供給した。混合ガスのチャンバーへの供給はチャンバーを減圧することなく実施し、ファン(送風機)によって空気とともに混合ガスをチャンバー内へと導入した。なお、チャンバーに導入したガスは、循環路に導入することなく、チャンバーの開口から排出させた。気化用容器の出口においてガスを採取し、NIR近赤外分析計を用いて過酸化水素濃度及び水蒸気濃度を連続的に分析した。表1に過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の分析結果を示す。
【0064】
(実施例2)
濃縮処理の時間を約45分とする代わりに、約60分とすることによって過酸化水素濃度75質量%の水溶液(濃縮液2)を5mL得たことの他は、実施例1と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。表1に過酸化水素濃度の分析結果を示す。
【0065】
(比較例1)
気化用容器に過酸化水素濃度70質量%の濃縮液7mLを供給する代わりに、過酸化水素濃度35質量%の原料液3mLを供給したことの他は、実施例1と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。表1に分析結果を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示す通り、実施例1,2においては、過酸化水素ガス濃度の最高値から100体積ppm(変動幅)低下するまでの時間がいずれも30分以上であり、過酸化水素濃度を安定的に維持することができた。また、水蒸気濃度の増加幅は350体積ppm以下であった。なお、水蒸気濃度の増加幅は、濃縮液の気化を開始前の水蒸気濃度の初期値から最高値を減じることによって算出される値を意味する。
【0068】
<実施例3〜8>
試薬瓶から濃縮用容器に供給する原料液の量を30mLとする代わりに、60mLとするとともに濃縮処理の時間を適宜調節したことの他は、実施例1と同様にして表2に示す濃縮液3〜6を得た。
【0069】
【表2】
【0070】
(実施例3〜5)
濃縮液1の代わりに、表2に示す量の濃縮液3〜5をそれぞれ使用するとともに、チャンバーに導入したガスを循環路に導入して循環ガスをキャリアガスとしたことの他は、実施例1と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。表3に分析結果を示す。
【0071】
【表3】
【0072】
表3に示す通り、実施例3〜5においては、過酸化水素ガス濃度の最高値から100体積ppm(変動幅)低下するまでの時間がいずれも70分以上であり、過酸化水素濃度を安定的に維持することができた。また、濃縮液の水蒸気濃度を調節することにより、水蒸気濃度の増加幅を制御できることが分る。
【0073】
(実施例6)
濃縮液3の代わりに、表2に示す濃縮液6を使用するとともに、濃縮液を気化させる際のヒータ温度を110℃とする代わりに、100℃としたことの他は、実施例3と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。表4に過酸化水素濃度の分析結果を示す。
【0074】
(実施例7)
濃縮液6を気化させる際のヒータ温度を100℃とする代わりに、120℃としたことの他は、実施例6と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。表4に過酸化水素濃度の分析結果を示す。
【0075】
(実施例8)
9mLの濃縮液6を使用する代わりに、計18mLの濃縮液6を使用したことの他は、実施例7と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。なお、気化を開始する段階で気化用容器に9mLの濃縮液6を入れ、気化を行っている途中で更に9mLの濃縮液6を気化用容器に供給した。表4に過酸化水素濃度の分析結果を示す。
【0076】
【表4】
【0077】
実施例6においては、過酸化水素濃度が800〜950体積ppmの範囲内で150体積ppmの変動幅を超える変動を伴わず安定的に60分にわたって過酸化水素濃度を維持することができた。実施例7においては、最高値から100体積ppm低下するまでの時間が20分と短縮したが、過酸化水素ガス濃度の最高値が1080体積ppmに到達した。これはヒータ温度を120℃に設定したことによるものと推察される。実施例8においては、気化工程中の気化容器内に濃縮液を追加することで、過酸化水素濃度が800体積ppmを超える時間をより長期化することができた。原料液の濃縮処理を連続して実施し濃縮液を気化用容器に連続的又は断続的に供給することで、過酸化水素ガスを含有量が高いガスを連続的に発生させることができる。
【0078】
上記の通り、濃縮処理の時間を変えて濃縮液を調製することで、滅菌ガスの過酸化水素ガス濃度を制御することができる。また気化用容器のヒータ温度を調整することで、滅菌ガスの過酸化水素濃度をより一層高くすることができるとともに、過酸化水素ガス濃度の変動を抑制できる。これにより、滅菌したいチャンバー内のさまざまな湿度、過酸化水素ガス濃度及び滅菌時間などの選択範囲が広がり、さまざまな滅菌条件への適応が可能となる。
【0079】
(実施例9)
図2に示す過酸化水素ガス発生装置200と同様の構成の装置を作製し、この装置を使用して滅菌処理を行った。まず、原料の過酸化水素水溶液(過酸化水素濃度35質量%、市販品)が入った試薬瓶を準備し、この試薬瓶と加熱用容器とを配管で接続した。なお、加熱用容器として、図2に示す容器と同様の構成の円筒状のステンレス容器(内径90mm、高さ110mm、内壁面:ふっ素樹脂によるコーティング加工)を使用した。試薬瓶から加熱用容器に原料液を27mL供給した。
【0080】
加熱用容器の外表面に設けた電気ヒータの温度が130℃となるように調節し、原料液を加温した。濃縮に要する時間を短縮するため、容器内の液体を攪拌するとともに、バキュームポンプによってガス排出口からガスを吸引することによって空気吹込み管から容器内の液面に向けて空気を吹き付け、気相部に竜巻状の気流を生じさせた。バキュームポンプの吸引量は25L/分とした。このような濃縮処理を約85分にわたって実施した結果、過酸化水素濃度75質量%の水溶液(濃縮液9)が4mL得られた。
【0081】
本実施例においては、加熱用容器内の濃縮液9を気化させて混合ガスを発生させる前に、チャンバー(容積1.5m3)内の除湿処理を実施した。除湿剤として吸水性ゼオライトを使用し、チャンバー内の相対湿度を15%にまで低下させた。
【0082】
除湿処理後、加熱用容器内の濃縮液を気化させて混合ガスをチャンバーに供給できるようにバルブ操作を行った。その後、表5に示す条件で濃縮液の気化を実施した。加熱用容器の出口においてガスを採取し、NIR近赤外分析計を用いて過酸化水素濃度及び水蒸気濃度を連続的に分析した。表5に分析結果を示す。
【0083】
(実施例10)
過酸化水素ガス濃度80質量%の濃縮液2mLを使用したこと、気化工程前におけるチャンバー内の除湿処理を実施しなかったこと及びヒータの温度設定を変更したことの他は、実施例9と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。表5に分析結果を示す。
【0084】
【表5】
【0085】
(比較例2)
過酸化水素濃度75質量%の濃縮液4mLを気化させる代わりに、過酸化水素濃度35質量%の原料液10mLを気化させたこと及びヒータの温度設定を変更したことの他は、実施例9と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。表5に分析結果を示す。
【0086】
(比較例3)
気化工程前におけるチャンバー内の除湿処理を実施しなかったこと及びヒータの温度設定を変更したことの他は、比較例2と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。表6に分析結果を示す。
【0087】
【表6】
【符号の説明】
【0088】
20…濃縮手段、22…濃縮用容器、23…濃縮用容器の本体部、23F…内壁面、23a…上端、23b…下端、24,56…空気吹込み管、24a…空気吹込み管の先端、25…ガス排出口、26…濃縮液排出口、30…排液処理手段、40…排ガス処理手段、50…気化手段、52…気化用容器、55…加熱用容器、60…ガス供給手段、62…送風機、70…除湿手段、100,200…過酸化水素ガス発生装置、110…チャンバー、A1…原料の過酸化水素水溶液、A2…濃縮液、L5…ガス循環ライン(ガス供給路)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャンバー内において被処理物の滅菌に使用する過酸化水素ガスの発生装置及び過酸化水素ガスによる滅菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素(H2O2)による滅菌処理は、内視鏡、歯科材料、チャンバー内部、配管内部、冷凍乾燥器の滅菌などに適用されている。過酸化水素水溶液を気化させて過酸化水素ガスを滅菌剤として使用する方法が知られている(下記特許文献1〜5を参照)。具体的には、過酸化水素水溶液の液滴を加熱された表面へと供給して又は加熱した気流へと過酸化水素液を噴霧し、気化した過酸化水素を掃気して滅菌対象の表面へと導いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3915598号公報
【特許文献2】特許第3783337号公報
【特許文献3】特許第4088347号公報
【特許文献4】特許第4255637号公報
【特許文献5】特開2003−180802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高濃度の過酸化水素水溶液は輸送上の困難性のため、通常では過酸化水素濃度35質量%の水溶液が滅菌処理の原料として使用される。しかしながら、過酸化水素濃度35質量%の水溶液は、水の含有量が78mol%をも占めるため、これを気化させると多くの水蒸気を含む混合ガスが発生する。この過剰な水蒸気がチャンバー内で結露して水滴となって残り、チャンバー内の被処理物(特に電子機器)の故障を引き起こす問題がある。また、過酸化水素濃度35質量%の水溶液を原料に使用した場合、チャンバー内の過酸化水素ガス濃度を必要な値にまで上げ、この値を維持することが困難であった。
【0005】
すなわち、従来の装置にあっては、チャンバー内の過酸化水素ガス濃度を維持するため、チャンバー内を減圧する真空装置が必要であった。あるいは、過酸化水素ガスをチャンバー内に導入するためのキャリアガスを加熱するエアーヒーターが必要であった。また、従来の滅菌方法にあっては、滅菌が完了するまでチャンバー内の過酸化水素ガス濃度を維持するため、チャンバー内の乾燥処理を繰り返し行う必要があった。この乾燥処理によって失われた過酸化水素を補うため、その都度、過酸化水素ガスを追加するという操作が行われる。この場合、追加される過酸化水素ガスにも多量の水蒸気が含まれているため、ガス供給の間は常に乾燥処理を継続的又は断続的に実施する必要がある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、過酸化水素濃度35質量%の過酸化水素水溶液を原料として使用した場合であっても、チャンバー内を減圧することなく、チャンバー内の過酸化水素濃度を十分高い値に維持できる過酸化水素ガス発生装置及びこれを用いた滅菌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、チャンバー内において被処理物の滅菌に使用する過酸化水素ガスの発生装置であって、原料の過酸化水素水溶液が供給される濃縮用容器を有し、当該容器内の過酸化水素水溶液を濃縮して過酸化水素の濃縮液を得る濃縮手段と、濃縮用容器からの濃縮液が供給される気化用容器を有し、当該容器内の濃縮液を気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得る気化手段と、気化用容器及びチャンバーに連通するガス供給路並びにガス供給路に設けられた送風機を有し、ガス供給路を通じてキャリアガスとともに混合ガスをチャンバーに供給するガス供給手段とを備える過酸化水素ガス発生装置を提供する。
【0008】
本発明に係る過酸化水素ガス発生装置によれば、原料の過酸化水素水溶液(以下、場合により「原料液」という。)を濃縮し、濃縮液を気化させることで、過酸化水素濃度が高い混合ガスを安定的に発生させることができる。従って、水蒸気濃度が低い滅菌ガス(ドライガス)で滅菌処理をしたい場合に好適である。水蒸気濃度が高い滅菌ガス(ウェットガス)をチャンバーに供給した場合、過剰な水蒸気でチャンバー内に生じた残留水滴が被処理物(特に電子機器)に悪影響を及ぼすおそれがあるが、本発明によればこれを防止できる。なお、被処理物の種類によってはウェットガスを用いて滅菌処理を行う場合があるが、本発明は濃縮液の過酸化水素濃度を調整することでウェットガスを生じさせることもできる。
【0009】
また、本発明の過酸化水素ガス発生装置によれば、送風機によってチャンバー内に混合ガスを供給するため、チャンバーを減圧する必要がない。このため、チャンバーを耐真空構造にする必要がなく低コストでコンパクトな構成とすることができる。更に過酸化水素ガスの濃度が高く水蒸気濃度が低い混合ガスが安定的に得られるため、チャンバーに過酸化水素ガスを供給している間はチャンバー内の除湿を行わなくてもよいという利点がある。
【0010】
上記濃縮用容器は、上方から下方に延びており上端及び下端が閉じられた円筒状の本体部と、当該濃縮用容器内において本体部の内壁面に沿うように曲がり且つ当該濃縮用容器内の液面に対して斜め上方から空気を吹き付ける位置に先端が設けられた空気吹込み管と、本体部の上端に設けられたガス排出口と、当該濃縮用容器で得られた濃縮液を排出する濃縮液排出口とを有することが好ましい。かかる構成の濃縮用容器を使用することで、当該容器の気相部に竜巻状の気流を生じさせることができ、これにより原料の過酸化水素水溶液から十分に効率的且つ安定的に濃縮液を得ることができる。
【0011】
本発明の過酸化水素ガス発生装置は、上記の濃縮用容器及び気化用容器を兼用する一つの容器(加熱用容器)を備えたものであってもよい。すなわち、本発明は、チャンバー内において被処理物の滅菌に使用する過酸化水素ガスの発生装置であって、原料の過酸化水素水溶液が供給される加熱用容器を有し、当該容器内の過酸化水素水溶液を濃縮して過酸化水素の濃縮液を得るとともに、当該濃縮液を気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得る加熱手段と、加熱用容器及びチャンバーに連通するガス供給路並びにガス供給路に設けられた送風機とを有し、ガス供給路を通じてキャリアガスとともに混合ガスをチャンバーに供給するガス供給手段とを備える過酸化水素ガス発生装置を提供する。
【0012】
上記加熱用容器を備えた過酸化水素ガス発生装置によれば、本発明の上述の効果に加え、装置をより一層コンパクトなものとすることができる。
【0013】
上記加熱用容器は、上方から下方に延びており上端及び下端が閉じられた円筒状の本体部と、原料の過酸化水素水溶液から濃縮液を得る際に使用されるものであって、当該加熱用容器内において本体部の内壁面に沿うように曲がり且つ当該加熱用容器内の液面に対して斜め上方から空気を吹き付ける位置に先端が設けられた空気吹込み管と、本体部の上端に設けられたガス排出口とを有することが好ましい。かかる構成の加熱用容器を使用することで、当該容器の気相部に竜巻状の気流を生じさせることができ、これにより原料の過酸化水素水溶液から十分に効率的且つ安定的に濃縮液を得ることができる。
【0014】
本発明の過酸化水素ガス発生装置は、除湿剤が収容される収容部と、当該収容部及びチャンバーに連通する除湿用循環路とを有する除湿手段を更に備えることが好ましい。チャンバーに過酸化水素ガスを供給するに先立ち、この除湿手段によってチャンバー内を除湿することで、過酸化水素ガスをチャンバーに供給した際、チャンバー内における結露の発生をより確実に防止できるとともに、チャンバー内の過酸化水素ガス濃度をより長時間にわたって高いレベルに維持しやすくなる。
【0015】
更に本発明は、チャンバー内において被処理物を過酸化水素ガスによって滅菌する方法であって、原料の過酸化水素水溶液を加熱によって濃縮して過酸化水素の濃縮液を得る濃縮工程と、濃縮液を加熱によって気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得る気化工程と、チャンバーに連通するガス供給路に設けられた送風機によって当該ガス供給路を通じてキャリアガスとともに混合ガスをチャンバーに供給するガス供給工程とを備える滅菌方法を提供する。
【0016】
本発明に係る滅菌方法によれば、気化工程において過酸化水素濃度が高い混合ガスを安定的に発生させることができるため、この混合ガスをチャンバー内に供給することによって被処理物を高度に滅菌できる。また本発明の滅菌方法によれば、水蒸気濃度が低い混合ガスが得られるため、チャンバー内における結露の発生を十分に抑制できる。なお、水蒸気濃度が高い混合ガスを得たい場合にも濃縮液の濃縮度合いを適宜調整することで対応可能である。
【0017】
また、本発明の滅菌方法によれば、送風機によってチャンバーに混合ガスを供給するため、チャンバーを減圧する必要がない。さらに過酸化水素ガス濃度が高く水蒸気濃度が低い混合ガスが安定的に得られるため、チャンバーに混合ガスを供給している間はチャンバー内の除湿を行わなくてもよいという利点がある。
【0018】
上記濃縮工程において、円筒状の容器内に収容された原料の過酸化水素水溶液を加熱するとともに、当該容器内の液面に対して斜め上方から空気を吹き付けることが好ましい。これにより、当該容器の気相部に竜巻状の気流を生じさせることが好ましい。このような気流を気相部に生じさせることで、原料の過酸化水素水溶液を十分に効率的且つ安定的に濃縮液を得ることができる。
【0019】
本発明の滅菌方法は、混合ガスをチャンバーに供給する前にチャンバー内の湿度を低下させる除湿工程を更に備えることが好ましい。チャンバーに過酸化水素ガスを供給するに先立ち、チャンバー内を除湿することで、過酸化水素ガスをチャンバーに供給した際、チャンバー内における結露の発生をより確実に防止できるとともに、チャンバー内の過酸化水素ガス濃度をより長時間にわたって高いレベルに維持できる。
【0020】
本発明においては、輸送の容易性の観点から、原料の過酸化水素水溶液として過酸化水素濃度が35質量%以下のものを使用することが好ましい。
【0021】
本発明の効果をより一層十分且つ安定的に得る観点から、濃縮液は過酸化水素濃度が45〜85質量%であり、チャンバーに供給されるガスは過酸化水素濃度が250〜1100体積ppmであり且つ水蒸気濃度が1900〜8200体積ppmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、過酸化水素濃度35質量%の過酸化水素水溶液を原料として使用した場合であっても、チャンバー内を減圧することなく、チャンバー内の過酸化水素濃度を十分高い値に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る過酸化水素ガス発生装置の第1実施形態を示す構成図である。
【図2】(a)は濃縮用容器の内部構造を示す一部破断図であり、(b)は濃縮用容器のB−B線断面図である。
【図3】本発明に係る過酸化水素ガス発生装置の第2実施形態を示す構成図である。
【図4】実施例1における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【図5】実施例2における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【図6】実施例4における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【図7】実施例5における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【図8】実施例6における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【図9】実施例9における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【図10】実施例10における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【図11】比較例2における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【図12】比較例3における過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0025】
<第1実施形態>
(過酸化水素ガス発生装置)
まず、図1を参照しながら、本発明の第1実施形態について説明する。図1に示す通り、本実施形態に係る過酸化水素ガス発生装置100は、チャンバー110内に収容された被処理物の滅菌処理に使用する過酸化水素ガスを発生させるためのものである。
【0026】
過酸化水素ガス発生装置100は、原料の過酸化水素水溶液A1を濃縮用容器22に供給するための原料供給手段10と、濃縮用容器22内の過酸化水素水溶液を濃縮して濃縮液A2を得る濃縮手段20と、濃縮液を得る過程で生じる排液及び排ガスを処理するための手段(排液処理手段30及び排ガス処理手段40)と、濃縮液A2を気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得る気化手段50と、過酸化水素ガスを含む混合ガスをチャンバー110に供給するガス供給手段60とを備える。
【0027】
原料供給手段10は、ラインL1を通じて原料の過酸化水素水溶液A1を濃縮用容器22に供給するためのものである。原料供給手段10は、原料の過酸化水素水溶液A1を収容する容器11、ラインL1、ラインL1の途中に設けられたチェックバルブV3及び供給バルブV2によって構成される。
【0028】
濃縮手段20は、濃縮用容器22を有し、濃縮用容器22内の過酸化水素水溶液A1を濃縮して濃縮液A2を得るためのものである。濃縮手段20は、濃縮用容器22、ヒータ21a、温度センサ(図示せず)、ヒータコントローラ21及びバキュームポンプ27によって構成される。濃縮液A2の濃縮度合い、すなわち過酸化水素濃度及び水蒸気濃度を適宜調整することで、発生させる混合ガスをドライな条件下の滅菌処理に適したもの、あるいはウェットな条件下の滅菌処理に適したものにすることができる。なお、濃縮用容器22は、耐熱性及び耐酸性を有するガラス製か、あるいはステンレスを材料にしたもので更に内表面がテフロン(登録商標)加工されたものが好ましい。またヒータ21aとしては、電気ヒータを使用でき、自己温度制御性ヒータ(PTCヒータ)を使用してもよい。
【0029】
図2は濃縮用容器22の内部構造を示す一部破断図である。同図に示す通り、濃縮用容器22は、上方から下方に延びており上端23a及び下端23bが閉じられた円筒状の本体部23と、本体部23の内壁面23Fに沿うように曲がり且つ濃縮用容器22内の液面Lに対して斜め上方から空気を吹き付ける位置に先端24aが設けられた空気吹込み管24と、本体部23の上端23aに設けられたガス排出口25と、濃縮用容器22の下部に設けられた濃縮液排出口26とを有する。
【0030】
空気吹込み管24の先端24aから液面に向けて空気を吹き付けることによって、濃縮用容器22の気相部に竜巻状の気流を生じる。この場合、このような気流を生じさせない場合と比較して濃縮に要する時間を1/2〜1/4程度に短縮できる。このような効果が奏される主因は、必ずしも明らかではないが内壁面23Fで結露した水に過酸化水素ガスが溶解し、過酸化水素を高濃度で含む液滴が液相部に流下するためと推察される。また、竜巻状の気流によって容器22内の水溶液が攪拌されることも短時間の濃縮に寄与するものと推察される。
【0031】
図1に示すように、バキュームポンプ27はガス排出口25に連通するラインL2に設けられている。バキュームポンプ27を作動させることで、ガス排出口25から水蒸気を多く含むガスを吸引して排出させ、他方、空気吹込み管24から容器22内に空気を供給することができる。このラインL2の濃縮用容器22とバキュームポンプ27の間に2段の水蒸気トラップ28a,28bが設けられている。水蒸気トラップ28bの気相部にはバキュームポンプ27に連通するラインL2が接続されている。ここでは、濃縮用容器22の下流側にバキュームポンプ27を設置する場合を例示したが、これの代わりに濃縮用容器22の上流側に送風機を設置してもよい。
【0032】
排液処理手段30は、水蒸気トラップ28a,28bで回収された排液を処理するためのものである。排液処理手段30は、排液処理触媒が収容された容器31及び排液を収容するタンク32によって構成される。排ガス処理手段40は、排ガス処理触媒によって排ガスを処理して大気へと放散するためのものであり、ラインL2のバキュームポンプ27の後段に設けられている。なお、水蒸気トラップ28bから排出されるガスの一部を上流側に返送し、空気吹込み管24を通じて再度、濃縮用容器22に導入できるようにしてもよい。この場合、例えば、ラインL2をバキュームポンプ27と排ガス処理手段40の間で分岐し、この分岐ラインの先端を空気吹込み管24に接続すればよい。
【0033】
気化手段50は、濃縮用容器22から移送される濃縮液を気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得るためのものであり、ラインL3を介して濃縮用容器22の後段に設けられている。なお、ラインL3の途中にはドレインバルブV30が設けられている。気化手段50は、気化用容器52、ヒータ51a、温度センサ(図示せず)及びヒータコントローラ51によって構成される。なお、気化用容器52は、耐熱性及び耐酸性を有するガラス製か、あるいはステンレスを材料にしたもので更に内表面がテフロン(登録商標)加工されたものが好ましい。またヒータ51aとしては、電気ヒータを使用でき、自己温度制御性ヒータ(PTCヒータ)を使用してもよい。
【0034】
ガス供給手段60は、過酸化水素ガスを含む混合ガスを空気(キャリアガス)とともにチャンバー110に供給するためのものである。ガス供給手段60は、気化用容器52及びチャンバー110に連通するガス循環ライン(ガス供給路)L5及びガス循環ラインL5に設けられた送風機62によって構成される。なお、ガス循環ラインL5の途中には、バルブV16,V26,V27,V18が設けられている。送風機62によってチャンバー110内に混合ガスを供給するため、本実施形態においてはチャンバー110を減圧する必要がないため、チャンバー110として耐真空構造でないものを使用できる。
【0035】
(滅菌方法)
過酸化水素ガス発生装置100を用いた滅菌方法について詳細に説明する。本実施形態に係る滅菌方法は、原料の過酸化水素水溶液A1を濃縮用容器22に供給する原料供給工程と、濃縮用容器22内の過酸化水素水溶液を濃縮して濃縮液A2を得る濃縮工程と、濃縮液を得る過程で生じる排液及び排ガスを処理する工程(排液処理工程及び排ガス処理工程)と、濃縮液を気化させて混合ガスを得る気化工程と、混合ガスをキャリアガスとともにチャンバー110に供給するガス供給工程とを備える。
【0036】
原料供給工程は、所定量の原料の過酸化水素水溶液A1を濃縮用容器22に供給する工程である。原料の過酸化水素水溶液A1としては、過酸化水素濃度がなるべく高いものが好ましいが、輸送上の容易性の観点から水溶液A1の過酸化水素濃度は35質量以下が好ましく、20〜35質量%であることがより好ましい。
【0037】
濃縮用容器22に収容させる水溶液A1の量は、バッチ処理によって滅菌を行う場合、水溶液A1の過酸化水素濃度、チャンバー110の容積、滅菌すべき菌の種類などに応じ、BI(Biological Indicator)テストの結果に基づいて設定することが好ましい。例えば、水溶液A1として過酸化水素濃度35質量%の水溶液を使用し、濃縮用容器22において水溶液A1の液量を1/3に濃縮した濃縮液A2を得る場合、BIテストを実施した結果、容積1.5m3のチャンバーに対して水溶液A1を30mL使用すればよいことが確認された。
【0038】
濃縮工程は、濃縮用容器22に供給された水溶液A1を濃縮して濃縮液A2を得る工程である。濃縮液A2の過酸化水素濃度は、濃縮液A2を気化させて得るべき混合ガス(過酸化水素ガス及び水蒸気を含有)の過酸化水素ガス濃度に応じて設定すればよく、これに基づいて濃縮時間を設定することが好ましい。濃縮液A2の過酸化水素濃度は、45〜85質量%であることが好ましく、70〜85質量%であることがより好ましい。この濃度が45質量%未満であると、濃縮液A2に含まれている水が70mol%を超えるため気化させた際、混合ガスの過酸化水素濃度が不安定になりやすく、他方、85質量%を越えると、濃縮液A2の粘度が高くなり流動性が不十分となりやすい。
【0039】
濃縮用容器22内の水溶液A1の温度が70〜100℃程度になるようにヒータ21aの温度を調節するとともに、バキュームポンプ27を起動させて空気吹込み管24から容器22内に空気を導入して濃縮処理を開始する。空気吹込み管24から導入された空気は、容器22の気相部において竜巻状に流れ、この気流が水溶液A1の濃縮を促進させる。容器22内の水溶液の過酸化水素濃度が所定の値となった時点で加熱、空気の吹き込み等を停止し、濃縮作業を終了する。
【0040】
気化工程は、濃縮用容器22で得られた濃縮液A2を気化用容器52に移した後、濃縮液A2を気化させて混合ガスを発生させる工程である。気化用容器52の水溶液A2の温度が40〜60℃程度になるようにヒータ51aの温度を調節することが好ましい。
【0041】
排液処理工程は、濃縮液を得る過程で生じる排液を処理する工程である。水蒸気トラップ28a,28bに溜まった排水を容器31内の排液処理用触媒に通し、排水に中に含まれている可能性のある過酸化水素を水と酸素に分解する。分解処理後、排水をタンク32に移す。
【0042】
排ガス処理工程は、濃縮液を得る過程で生じる排ガスを処理する工程である。バキュームポンプ27から排出されるガスを排ガス処理用触媒に通し、排ガスに中に含まれている可能性のある過酸化水素を水と酸素に分解する。
【0043】
ガス供給工程は、気化用容器52で発生した混合ガスをチャンバー110に供給する工程である。ガス循環ラインL5の途中に設けられた送風機62を起動し、ガス循環ラインL5を通じて混合ガスをチャンバー110に供給し、被処理物の滅菌処理を実施する。この場合、ガス循環ラインL5及びチャンバー110内の空気がキャリアガスとなる。
【0044】
チャンバー110に供給されるガスは、過酸化水素濃度が250〜1100体積ppmであることが好ましく、600〜1000体積ppmであることがより好ましい。この濃度が250体積ppm未満であると、チャンバー110内における滅菌効率が不十分となりやすく、他方、1100体積ppmを越えると濃縮液単位量当りガス供給時間が短くなりより多くの原料供給量が必要となるとともに、濃縮工程および気化工程の運転コストもその分増大する傾向となる。また、当該ガスの水蒸気濃度は、1900〜8200体積ppmであることが好ましく、2000〜6000体積ppmであることがより好ましい。この濃度が1900体積ppm未満であるとチャンバー110内における滅菌効率が不十分となりやすく、他方、8200体積ppmを越えるとチャンバー110内の過酸化水素ガス濃度を目的の値にまで上昇させることが困難となりやすい。
【0045】
なお、本実施形態においては、上記の濃縮工程、気化工程及びガス供給工程を順次実施して滅菌をバッチ式によって行ってもよく、下記のように濃縮工程、気化工程及びガス供給工程を連続式によって行ってもよい。すなわち、上記実施形態においては、容器11から濃縮用容器22への原料の水溶液A1の供給量、及び濃縮用容器22から気化用容器52への濃縮液A2の供給量を制御することにより、混合ガスを連続的に発生させることができ、これを連続的にチャンバー110へ供給することができる。
【0046】
本実施形態に係る過酸化水素ガス発生装置100によれば、過酸化水素濃度35質量%の過酸化水素水溶液を原料として使用した場合であっても、チャンバー110内を減圧することなく、チャンバー110内の過酸化水素濃度を十分高い値に維持できる。このため、過酸化水素ガス発生装置100を用いた滅菌方法によれば、高濃度の過酸化水素ガスによって被処理物を高度に滅菌処理できる。また本実施形態に係る滅菌方法によれば、水蒸気濃度が低いガスがチャンバー110に供給されるため、チャンバー110内における結露の発生を十分に抑制できる。他方、水蒸気濃度が高いガスで滅菌処理を実施したい場合にも濃縮液の濃縮度合いを適宜調整することで対応可能である。
【0047】
<第2実施形態>
次に、図3を参照しながら、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態に係る過酸化水素ガス発生装置200は、上述の過酸化水素ガス発生装置100と以下の点において相違する。すなわち、上述の濃縮用容器22及び気化用容器52を兼用する一つの加熱用容器55(加熱手段)を備えたものである点、及び、装置100が具備しない構成(除湿手段70、除湿剤再生手段80及び残留液の回収手段90など)を更に具備するものである点である。以下、上記相違点に係る構成及びこれに関連する工程について主に説明する。
【0048】
図3に示す通り、過酸化水素ガス発生装置200は加熱用容器55を備える。水溶液A1の濃縮を行う際及び濃縮液A2の気化を行う際で加熱用容器55に接続されたラインを切り換えることで、加熱用容器55は濃縮用容器22及び気化用容器52の役割を担うことができるようになっている。
【0049】
より具体的には、水溶液A1の濃縮を行う際にあっては、加熱用容器55から排出される水蒸気がチャンバー110内に浸入することがないようにバルブV26,V27を閉じる。他方、水溶液A2の気化を行う際にあっては、バルブV8,V12,V2,V41を閉じ、バルブV26,V27を開ける。
【0050】
加熱用容器55で濃縮及び気化の両方を行う構成とすることで、装置200をより一層コンパクトなものとすることができる。また、濃縮工程後の熱を気化工程で利用できるため、消費エネルギーを削減できる。なお、加熱用容器55は、耐熱性及び耐酸性を有するガラス製か、あるいはステンレスを材料にしたもので更に内表面がテフロン(登録商標)加工されたものが好ましい。
【0051】
加熱用容器55は、水溶液A1の濃縮を短時間で行う観点から、図2に示す濃縮用容器22と同様の構成を有する。すなわち、加熱用容器55は、上方から下方に延びており上端及び下端が閉じられた円筒状の本体部と、本体部の内壁面に沿うように曲がり且つ加熱用容器55内の液面に対して斜め上方から空気を吹き付ける位置に先端が設けられた空気吹込み管56と、本体部の上端に設けられたガス排出口と、加熱用容器55の気相部に設けられた混合ガス排出口とを有する(図2参照)。
【0052】
除湿手段70は、チャンバー110内の湿度を事前に低くしておき、混合ガスを供給した際、チャンバー110内の水蒸気圧が飽和水蒸気圧より低く維持しやすいようにするためのものである。つまり、除湿手段70による除湿工程を事前に実施することで、チャンバー110内における結露の発生をより一層確実に防止できる。図3に示す通り、除湿手段70は、除湿剤が収容された容器72、この容器72及びチャンバー110に連通する除湿用循環ラインL12によって構成される。
【0053】
チャンバー110内の気体を送風機62で送風して除湿剤に通して循環させながら除湿する(除湿工程)。除湿剤としては、再生が可能なものが好ましく、例えば吸湿性のある市販のゼオライトが挙げられる。なお、除湿剤は配管中に収容させてもよく、具体的には除湿すべき気体がゼオライト上又はゼオライト間を流通するようにゼオライトを配管に設けてもよい。
【0054】
除湿剤再生手段80は、滅菌処理の終了後、水分を吸収した除湿剤に熱を加えた状態で窒素ガスを流すことによって除湿剤を再生させるためのものである。除湿剤再生手段80は、窒素源81、除湿剤を加熱するヒータ82a及びヒータコントローラ82等によって構成される。除湿工程を実施する場合、図3に示すバルブV18,V19,V26,V12,V41を閉じ、バルブV39,V21,V27,V8,V10を開ける。
【0055】
なお、水分を吸着した除湿剤を再生させるには除湿剤をヒータ82aで300〜370℃程度に加熱した状態で容器72に窒素ガスを供給すればよい。除湿剤に吸着した水は水蒸気となって窒素ガスとともに水蒸気トラップ28a,28bで回収できるようになっている。他方、水蒸気が分離された窒素ガスは排ガス処理手段40を通過後、大気に排出される。
【0056】
残留液の回収手段90は、滅菌処理の終了後、加熱用容器55内に濃縮液A2が残った場合、窒素源81からの窒素ガスで加熱用容器55の気相部を加圧し、残留液を容器11に回収するためのものである。この場合、図3に示すバルブV18,V19,V26,V12,V8を閉じ、バルブV39,V21,V27,V41を開ける。また、滅菌処理の終了後、チャンバー110内に残留する過酸化水素を分解する手段を設けてもよく、図3に示す過酸化水素分解手段75で過酸化水素を水と酸素とに分解し、発生した水を容器72内の除湿剤によって除去してもよい。
【0057】
以上、本発明の好適な第1及び第2実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、濃縮時間の短縮化の点から特に好ましい例として図2に示す構成の濃縮用容器22を例示したが、これに代えて原料の過酸化水素溶液A1の過酸化水素濃度を高めることができる装置(例えば、蒸留器)などを使用してもよい。
【0058】
また、第2実施形態は、第1実施形態の装置100が具備しない構成(除湿手段70、除湿剤再生手段80及び残留液の回収手段90など)を具備するものであるが、第1実施形態の装置100においてこれらの構成を採用してもよいし、第2実施形態の装置200をこれらの構成を具備しないものとしてもよい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
図1に示す過酸化水素ガス発生装置100と同様の構成の装置を作製し、この装置を使用して滅菌処理を行った。まず、原料の過酸化水素水溶液(過酸化水素濃度35質量%、市販品)が入った試薬瓶を準備し、この試薬瓶と濃縮用容器とを配管で接続した。なお、濃縮用容器として、図2に示す容器と同様の構成の円筒状の耐熱ガラス採取管(直径45mm、高さ145mm)を使用した。試薬瓶から濃縮用容器に原料液を30mL供給した。
【0061】
濃縮用容器の外表面に設けた電気ヒータの温度が130℃となるように調節し、原料液を加温した。濃縮に要する時間を短縮するため、容器内の液体を攪拌するとともに、バキュームポンプによってガス排出口からガスを吸引することによって空気吹込み管から容器内の液面に向けて空気を吹き付け、気相部に竜巻状の気流を生じさせた。バキュームポンプの吸引量は25L/分とした。このような濃縮処理を約45分にわたって実施した結果、過酸化水素濃度70質量%の水溶液(濃縮液1)が7mL得られた。
【0062】
上記のようにして得た濃縮液7mLを気化用容器内に移し、電気ヒータの温度が110℃となるように調節して濃縮液を加熱し、過酸化水素ガスと水蒸気を含む混合ガスを発生させた。なお、気化用容器として、耐熱ガラス製ビーカーを使用した。
【0063】
濃縮液の気化によって生じた混合ガスをチャンバー(容積1.5m3)に供給した。混合ガスのチャンバーへの供給はチャンバーを減圧することなく実施し、ファン(送風機)によって空気とともに混合ガスをチャンバー内へと導入した。なお、チャンバーに導入したガスは、循環路に導入することなく、チャンバーの開口から排出させた。気化用容器の出口においてガスを採取し、NIR近赤外分析計を用いて過酸化水素濃度及び水蒸気濃度を連続的に分析した。表1に過酸化水素濃度及び水蒸気濃度の分析結果を示す。
【0064】
(実施例2)
濃縮処理の時間を約45分とする代わりに、約60分とすることによって過酸化水素濃度75質量%の水溶液(濃縮液2)を5mL得たことの他は、実施例1と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。表1に過酸化水素濃度の分析結果を示す。
【0065】
(比較例1)
気化用容器に過酸化水素濃度70質量%の濃縮液7mLを供給する代わりに、過酸化水素濃度35質量%の原料液3mLを供給したことの他は、実施例1と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。表1に分析結果を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示す通り、実施例1,2においては、過酸化水素ガス濃度の最高値から100体積ppm(変動幅)低下するまでの時間がいずれも30分以上であり、過酸化水素濃度を安定的に維持することができた。また、水蒸気濃度の増加幅は350体積ppm以下であった。なお、水蒸気濃度の増加幅は、濃縮液の気化を開始前の水蒸気濃度の初期値から最高値を減じることによって算出される値を意味する。
【0068】
<実施例3〜8>
試薬瓶から濃縮用容器に供給する原料液の量を30mLとする代わりに、60mLとするとともに濃縮処理の時間を適宜調節したことの他は、実施例1と同様にして表2に示す濃縮液3〜6を得た。
【0069】
【表2】
【0070】
(実施例3〜5)
濃縮液1の代わりに、表2に示す量の濃縮液3〜5をそれぞれ使用するとともに、チャンバーに導入したガスを循環路に導入して循環ガスをキャリアガスとしたことの他は、実施例1と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。表3に分析結果を示す。
【0071】
【表3】
【0072】
表3に示す通り、実施例3〜5においては、過酸化水素ガス濃度の最高値から100体積ppm(変動幅)低下するまでの時間がいずれも70分以上であり、過酸化水素濃度を安定的に維持することができた。また、濃縮液の水蒸気濃度を調節することにより、水蒸気濃度の増加幅を制御できることが分る。
【0073】
(実施例6)
濃縮液3の代わりに、表2に示す濃縮液6を使用するとともに、濃縮液を気化させる際のヒータ温度を110℃とする代わりに、100℃としたことの他は、実施例3と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。表4に過酸化水素濃度の分析結果を示す。
【0074】
(実施例7)
濃縮液6を気化させる際のヒータ温度を100℃とする代わりに、120℃としたことの他は、実施例6と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。表4に過酸化水素濃度の分析結果を示す。
【0075】
(実施例8)
9mLの濃縮液6を使用する代わりに、計18mLの濃縮液6を使用したことの他は、実施例7と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。なお、気化を開始する段階で気化用容器に9mLの濃縮液6を入れ、気化を行っている途中で更に9mLの濃縮液6を気化用容器に供給した。表4に過酸化水素濃度の分析結果を示す。
【0076】
【表4】
【0077】
実施例6においては、過酸化水素濃度が800〜950体積ppmの範囲内で150体積ppmの変動幅を超える変動を伴わず安定的に60分にわたって過酸化水素濃度を維持することができた。実施例7においては、最高値から100体積ppm低下するまでの時間が20分と短縮したが、過酸化水素ガス濃度の最高値が1080体積ppmに到達した。これはヒータ温度を120℃に設定したことによるものと推察される。実施例8においては、気化工程中の気化容器内に濃縮液を追加することで、過酸化水素濃度が800体積ppmを超える時間をより長期化することができた。原料液の濃縮処理を連続して実施し濃縮液を気化用容器に連続的又は断続的に供給することで、過酸化水素ガスを含有量が高いガスを連続的に発生させることができる。
【0078】
上記の通り、濃縮処理の時間を変えて濃縮液を調製することで、滅菌ガスの過酸化水素ガス濃度を制御することができる。また気化用容器のヒータ温度を調整することで、滅菌ガスの過酸化水素濃度をより一層高くすることができるとともに、過酸化水素ガス濃度の変動を抑制できる。これにより、滅菌したいチャンバー内のさまざまな湿度、過酸化水素ガス濃度及び滅菌時間などの選択範囲が広がり、さまざまな滅菌条件への適応が可能となる。
【0079】
(実施例9)
図2に示す過酸化水素ガス発生装置200と同様の構成の装置を作製し、この装置を使用して滅菌処理を行った。まず、原料の過酸化水素水溶液(過酸化水素濃度35質量%、市販品)が入った試薬瓶を準備し、この試薬瓶と加熱用容器とを配管で接続した。なお、加熱用容器として、図2に示す容器と同様の構成の円筒状のステンレス容器(内径90mm、高さ110mm、内壁面:ふっ素樹脂によるコーティング加工)を使用した。試薬瓶から加熱用容器に原料液を27mL供給した。
【0080】
加熱用容器の外表面に設けた電気ヒータの温度が130℃となるように調節し、原料液を加温した。濃縮に要する時間を短縮するため、容器内の液体を攪拌するとともに、バキュームポンプによってガス排出口からガスを吸引することによって空気吹込み管から容器内の液面に向けて空気を吹き付け、気相部に竜巻状の気流を生じさせた。バキュームポンプの吸引量は25L/分とした。このような濃縮処理を約85分にわたって実施した結果、過酸化水素濃度75質量%の水溶液(濃縮液9)が4mL得られた。
【0081】
本実施例においては、加熱用容器内の濃縮液9を気化させて混合ガスを発生させる前に、チャンバー(容積1.5m3)内の除湿処理を実施した。除湿剤として吸水性ゼオライトを使用し、チャンバー内の相対湿度を15%にまで低下させた。
【0082】
除湿処理後、加熱用容器内の濃縮液を気化させて混合ガスをチャンバーに供給できるようにバルブ操作を行った。その後、表5に示す条件で濃縮液の気化を実施した。加熱用容器の出口においてガスを採取し、NIR近赤外分析計を用いて過酸化水素濃度及び水蒸気濃度を連続的に分析した。表5に分析結果を示す。
【0083】
(実施例10)
過酸化水素ガス濃度80質量%の濃縮液2mLを使用したこと、気化工程前におけるチャンバー内の除湿処理を実施しなかったこと及びヒータの温度設定を変更したことの他は、実施例9と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。表5に分析結果を示す。
【0084】
【表5】
【0085】
(比較例2)
過酸化水素濃度75質量%の濃縮液4mLを気化させる代わりに、過酸化水素濃度35質量%の原料液10mLを気化させたこと及びヒータの温度設定を変更したことの他は、実施例9と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。表5に分析結果を示す。
【0086】
(比較例3)
気化工程前におけるチャンバー内の除湿処理を実施しなかったこと及びヒータの温度設定を変更したことの他は、比較例2と同様にして混合ガスの発生、チャンバーへの供給及び濃度分析を行った。表6に分析結果を示す。
【0087】
【表6】
【符号の説明】
【0088】
20…濃縮手段、22…濃縮用容器、23…濃縮用容器の本体部、23F…内壁面、23a…上端、23b…下端、24,56…空気吹込み管、24a…空気吹込み管の先端、25…ガス排出口、26…濃縮液排出口、30…排液処理手段、40…排ガス処理手段、50…気化手段、52…気化用容器、55…加熱用容器、60…ガス供給手段、62…送風機、70…除湿手段、100,200…過酸化水素ガス発生装置、110…チャンバー、A1…原料の過酸化水素水溶液、A2…濃縮液、L5…ガス循環ライン(ガス供給路)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内において被処理物の滅菌に使用する過酸化水素ガスの発生装置であって、
原料の過酸化水素水溶液が供給される濃縮用容器を有し、当該容器内の前記過酸化水素水溶液を濃縮して過酸化水素の濃縮液を得る濃縮手段と、
前記濃縮用容器からの前記濃縮液が供給される気化用容器を有し、当該容器内の前記濃縮液を気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得る気化手段と、
前記気化用容器及び前記チャンバーに連通するガス供給路と、前記ガス供給路に設けられた送風機とを有し、前記ガス供給路を通じてキャリアガスとともに前記混合ガスを前記チャンバーに供給するガス供給手段と、
を備える過酸化水素ガス発生装置。
【請求項2】
前記濃縮用容器は、上方から下方に延びており上端及び下端が閉じられた円筒状の本体部と、当該濃縮用容器内において前記本体部の内壁面に沿うように曲がり且つ当該濃縮用容器内の液面に対して斜め上方から空気を吹き付ける位置に先端が設けられた空気吹込み管と、前記本体部の上端に設けられたガス排出口と、当該濃縮用容器で得られた濃縮液を排出する濃縮液排出口とを有する、請求項1に記載の過酸化水素ガス発生装置。
【請求項3】
チャンバー内において被処理物の滅菌に使用する過酸化水素ガスの発生装置であって、
原料の過酸化水素水溶液が供給される加熱用容器を有し、当該容器内の前記過酸化水素水溶液を濃縮して過酸化水素の濃縮液を得るとともに、当該濃縮液を気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得る加熱手段と、
前記加熱用容器及び前記チャンバーに連通するガス供給路と、前記ガス供給路に設けられた送風機とを有し、前記ガス供給路を通じてキャリアガスとともに前記混合ガスを前記チャンバーに供給するガス供給手段と、
を備える過酸化水素ガス発生装置。
【請求項4】
前記加熱用容器は、上方から下方に延びており上端及び下端が閉じられた円筒状の本体部と、前記原料の過酸化水素水溶液から前記濃縮液を得る際に使用されるものであって、当該加熱用容器内において前記本体部の内壁面に沿うように曲がり且つ当該加熱用容器内の液面に対して斜め上方から空気を吹き付ける位置に先端が設けられた空気吹込み管と、前記本体部の上端に設けられたガス排出口とを有する、請求項3に記載の過酸化水素ガス発生装置。
【請求項5】
除湿剤が収容される収容部と、当該収容部及び前記チャンバーに連通する除湿用循環路とを有する除湿手段を更に備える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の過酸化水素ガス発生装置。
【請求項6】
チャンバー内において被処理物を過酸化水素ガスによって滅菌する方法であって、
原料の過酸化水素水溶液を濃縮して過酸化水素の濃縮液を得る濃縮工程と、
前記濃縮液を気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得る気化工程と、
前記チャンバーに連通するガス供給路に設けられた送風機によって当該ガス供給路を通じてキャリアガスとともに前記混合ガスを前記チャンバーに供給するガス供給工程と、
を備える滅菌方法。
【請求項7】
前記濃縮工程において、円筒状の容器内に収容された原料の過酸化水素水溶液を加熱するとともに、当該容器内の液面に対して斜め上方から空気を吹き付ける、請求項6に記載の滅菌方法。
【請求項8】
前記混合ガスを前記チャンバーに供給する前に前記チャンバー内の湿度を低下させる除湿工程を更に備える、請求項6又は7に記載の滅菌方法。
【請求項9】
前記原料の過酸化水素水溶液は、過酸化水素濃度が35質量%以下である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の滅菌方法。
【請求項10】
前記濃縮液は過酸化水素濃度が45〜85質量%であり、前記チャンバーに供給されるガスは過酸化水素濃度が250〜1100体積ppmであり且つ水蒸気濃度が1900〜8200体積ppmである、請求項6〜9のいずれか一項に記載の滅菌方法。
【請求項1】
チャンバー内において被処理物の滅菌に使用する過酸化水素ガスの発生装置であって、
原料の過酸化水素水溶液が供給される濃縮用容器を有し、当該容器内の前記過酸化水素水溶液を濃縮して過酸化水素の濃縮液を得る濃縮手段と、
前記濃縮用容器からの前記濃縮液が供給される気化用容器を有し、当該容器内の前記濃縮液を気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得る気化手段と、
前記気化用容器及び前記チャンバーに連通するガス供給路と、前記ガス供給路に設けられた送風機とを有し、前記ガス供給路を通じてキャリアガスとともに前記混合ガスを前記チャンバーに供給するガス供給手段と、
を備える過酸化水素ガス発生装置。
【請求項2】
前記濃縮用容器は、上方から下方に延びており上端及び下端が閉じられた円筒状の本体部と、当該濃縮用容器内において前記本体部の内壁面に沿うように曲がり且つ当該濃縮用容器内の液面に対して斜め上方から空気を吹き付ける位置に先端が設けられた空気吹込み管と、前記本体部の上端に設けられたガス排出口と、当該濃縮用容器で得られた濃縮液を排出する濃縮液排出口とを有する、請求項1に記載の過酸化水素ガス発生装置。
【請求項3】
チャンバー内において被処理物の滅菌に使用する過酸化水素ガスの発生装置であって、
原料の過酸化水素水溶液が供給される加熱用容器を有し、当該容器内の前記過酸化水素水溶液を濃縮して過酸化水素の濃縮液を得るとともに、当該濃縮液を気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得る加熱手段と、
前記加熱用容器及び前記チャンバーに連通するガス供給路と、前記ガス供給路に設けられた送風機とを有し、前記ガス供給路を通じてキャリアガスとともに前記混合ガスを前記チャンバーに供給するガス供給手段と、
を備える過酸化水素ガス発生装置。
【請求項4】
前記加熱用容器は、上方から下方に延びており上端及び下端が閉じられた円筒状の本体部と、前記原料の過酸化水素水溶液から前記濃縮液を得る際に使用されるものであって、当該加熱用容器内において前記本体部の内壁面に沿うように曲がり且つ当該加熱用容器内の液面に対して斜め上方から空気を吹き付ける位置に先端が設けられた空気吹込み管と、前記本体部の上端に設けられたガス排出口とを有する、請求項3に記載の過酸化水素ガス発生装置。
【請求項5】
除湿剤が収容される収容部と、当該収容部及び前記チャンバーに連通する除湿用循環路とを有する除湿手段を更に備える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の過酸化水素ガス発生装置。
【請求項6】
チャンバー内において被処理物を過酸化水素ガスによって滅菌する方法であって、
原料の過酸化水素水溶液を濃縮して過酸化水素の濃縮液を得る濃縮工程と、
前記濃縮液を気化させて過酸化水素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを得る気化工程と、
前記チャンバーに連通するガス供給路に設けられた送風機によって当該ガス供給路を通じてキャリアガスとともに前記混合ガスを前記チャンバーに供給するガス供給工程と、
を備える滅菌方法。
【請求項7】
前記濃縮工程において、円筒状の容器内に収容された原料の過酸化水素水溶液を加熱するとともに、当該容器内の液面に対して斜め上方から空気を吹き付ける、請求項6に記載の滅菌方法。
【請求項8】
前記混合ガスを前記チャンバーに供給する前に前記チャンバー内の湿度を低下させる除湿工程を更に備える、請求項6又は7に記載の滅菌方法。
【請求項9】
前記原料の過酸化水素水溶液は、過酸化水素濃度が35質量%以下である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の滅菌方法。
【請求項10】
前記濃縮液は過酸化水素濃度が45〜85質量%であり、前記チャンバーに供給されるガスは過酸化水素濃度が250〜1100体積ppmであり且つ水蒸気濃度が1900〜8200体積ppmである、請求項6〜9のいずれか一項に記載の滅菌方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−125788(P2011−125788A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286671(P2009−286671)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000226219)日揮ユニバーサル株式会社 (12)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000226219)日揮ユニバーサル株式会社 (12)
【Fターム(参考)】
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