説明

遠心分離容器および遠心分離装置

【課題】溶液および容器本体の性質や状態に依らず、遠心分離装置に装着された状態で精度良く安定して内部の溶液の量を検出することができる遠心分離容器およびこれを用いた遠心分離装置を提供する。
【解決手段】底部を半径方向外方に向けて所定の軸線回りに回転させられる容器本体1aと、該容器本体1aの端部に一端が接続され、少なくとも半径方向外方に伸縮可能な弾性部1bと、該弾性部1bの他端を閉塞する底面部1cとを備える遠心分離容器1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離容器および遠心分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生体から採取した生体組織から、酵素処理や遠心分離など複数の処理を経て生体組織由来細胞を分離し、これを再生医療などに用いる研究が行われている。すべての処理工程は無菌的に行われる必要があり、細胞を収容する容器を開放することができないため、あらかじめ容器内に挿入されたチューブを介して溶液の給排が行われる。
【0003】
このような遠心分離容器を使用する場合、同一の容器内で遠心分離による洗浄および濃縮が繰り返して行われるので、遠心分離容器を遠心分離装置に装着したままの状態で、内部の洗浄液や濃縮後の細胞濃縮液の量を正確に検出したいという要求がある。このような液量の検出方法として、遠心分離容器内を透過してきた透過光を複数の位置で光学センサにより検出し、透過光の光量や有無などに基づいて液面の位置を検出する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−082017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、透過光の光量は、遠心分離容器の色や材質、また、エマルションやゲルなどの状態や濃度によって変化する溶液の濁度に大きく依存する。また、透過光の光量は、液面の反射率や遠心分離容器に付着した汚れなど、その他の様々な外的要因に容易に影響されるため、毎回の測定条件の調整が難しく、液面位置を精度良く安定して検出することが困難である。
【0006】
また、安全性を確保するため、遠心分離時の遠心力に十分に耐えられるように、金属等の剛体によって遠心分離容器の全体を支持する設計が望まれる。しかし、この場合光を透過しない材料によって遠心分離容器が覆われてしまうため、遠心分離容器内を透過した透過光を複数の位置で検出する方法は構成上適さない。
【0007】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、溶液や容器本体の性質および状態に依らず、遠心分離装置に装着された状態で精度良く安定して内部の溶液の量を検出することができる遠心分離容器およびこれを用いた遠心分離装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の遠心分離容器は以下の手段を提供する。
すなわち、底部を半径方向外方に向けて所定の軸線回りに回転させられる容器本体と、該容器本体の端部に一端が接続され、少なくとも前記半径方向外方に伸縮可能な弾性部と、該弾性部の他端を閉塞する底面部とを備える遠心分離容器を提供する。
【0009】
本発明の遠心分離容器においては、底面部に容器本体やその収容物からの圧力がかかると、その圧力の大きさに応じた伸縮量で弾性部が伸縮して底面部の位置が変化する。
よって、本発明の遠心分離容器を、その内部に懸濁液を収容し底面部を半径方向外方に向けて保持したロータ等によって回転させ懸濁液を遠心分離すると、遠心力により底面部側へ移動させられた懸濁液が底面部を押圧して底面部の位置が変化させられる。このときに、底面部が押圧される力の大きさは、懸濁液の重量と遠心加速度によって決まる。したがって、本発明の遠心分離容器が回転させられる回転数が一定の場合、底面部の位置の変化を検出することにより、懸濁液の重量を検出することができる。
【0010】
すなわち、本発明の遠心分離容器によれば、上述したような遠心分離を行う遠心分離装置と組み合わせることにより、懸濁液の重量のみに応じて変化する位置に基づいて懸濁液の量を検出することができ、懸濁液および遠心分離容器の種類や状態など外的な要因に影響されることなく、内部に収容した懸濁液の量を安定して精度よく検出することができる。また、本発明の遠心分離容器を遠心分離装置に装着した状態で懸濁液の量を検出することができる。
【0011】
さらに、本発明の遠心分離容器によれば、底面部の重量をより重くし、また、弾性定数がより低い弾性材料を弾性部に用いることにより、懸濁液の単位重量当たりの弾性部の延伸量、つまり、底面部の変位を増加させることができる。これにより、上述したように遠心分離装置と組み合わせることにより、底面部の位置検出が容易になると同時に、その精度を向上させて懸濁液の量をより正確に検出することができる。
【0012】
また、本発明は、前記所定の軸線回りに回転駆動させられ、懸濁液を収容可能な本発明の遠心分離容器の前記底面部を、前記所定の軸線に対し半径方向外方に向けて保持する保持部を有することにより、前記遠心分離容器を前記所定の軸線回りに回転させるロータと、該ロータの回転時に、前記底面部における、前記半径方向の位置を検出する位置検出部と、該位置検出部によって検出された位置に基づいて前記懸濁液の量を検出する液量検出部とを備える遠心分離装置を提供する。
【0013】
本発明の遠心分離装置によれば、懸濁液を収容した遠心分離容器を保持部により保持してロータが回転駆動させられると、懸濁液内の各成分にはその密度に応じた半径方向外方の遠心力が作用して底面部側へ移動させられ、懸濁液内の成分をその密度の差により分離することができる。
この場合に、遠心力の作用した懸濁液により、懸濁液の重量に応じて遠心分離容器の底面部が半径方向外方の方向へ移動させられ、位置検出部によって検出された底面部の位置の変化に基づいて液量検出部が懸濁液の量を検出する。
【0014】
このようにすることで、懸濁液および遠心分離容器本体の性質や状態に依ることなく、遠心分離容器を遠心分離装置に装着したままの状態で精度良く安定して懸濁液の量を検出することができる。
【0015】
上記発明においては、前記底面部が、外面に光を反射する反射部材を備え、前記位置検出部が、検出光を照射し前記反射部材において反射して戻る反射光を受光し、該反射光に基づいて前記位置を検出することとしてもよい。
このようにすることで、位置検出部を遠心分離容器の外部に設けて底面部の位置を非接触で検出する構成にし、遠心分離容器のみをディスポーザブルにして交換することが可能になる。
【0016】
また、上記発明においては、前記反射部材が、前記検出光が照射される照射範囲において最も高い反射率を有することとしてもよい。
このようにすることで、反射部材において反射された反射光と、反射部材以外の領域で反射された反射光とを強度により正確に区別し、反射光の検出の精度を向上させることができる。
【0017】
また、上記発明においては、前記保持部が、内部に前記遠心分離容器を収納し、前記底面部側に配置された一端が閉塞された容器であり、収納された前記遠心分離容器の前記底面部と前記位置検出部との間に配置される一部が透光性を有することとしてもよい。
このようにすることで、遠心分離容器が破損した場合でも内部の懸濁液が保持部の外部に漏えいすることを防ぎ、安全性を向上させることができる。また、検出光が通過する部分のみを透光性にすることで、遠心分離容器全体が覆われた構成であっても、保持部の強度を保持しながら検出光の光路を確保し、光を用いて懸濁液の量を検出することができる。
【0018】
また、上記発明においては、前記位置検出部が、前記ロータの回転と同期して前記底面部の位置を検出することとしてもよい。
このようにすることで、遠心分離容器が検出光の照射領域を通過するタイミングで位置検出部により反射光が検出される。これにより、位置検出部をロータの外部に配置して、同時に複数の遠心分離容器を遠心分離する場合でも、1つの位置検出部を用いて各遠心分離容器内の懸濁液の量を並行して検出することができる。
【0019】
また、このようにすることで、各遠心分離容器内の懸濁液の量の差がわかるので、これに基づいて各遠心分離容器内の懸濁液の量を調節することにより、ロータの重量のインバランスを補正することもできる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、溶液や容器本体の性質および状態に依らず、遠心分離装置に装着された状態で精度良く安定して内部の溶液の量を検出することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る遠心分離容器1および該遠心分離容器1を用いた遠心分離装置2について、図1〜図3を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離容器1は、図1(a)に示されるように、円筒状の容器本体1aと、該容器本体1aの一端に設けられた筒状の弾性部1bと、該弾性部1bを挟んでその開口を閉塞する底面部1cとを備えている。
【0022】
容器本体1aは、一端が先端に向かって先細になる円錐形状である。弾性部1bは、その先端に容器本体1aの長手方向に沿って接続されている。弾性部1bは、生体親和性の弾性材料、例えば、シリコーン等の樹脂製であり、長手方向に弾性伸縮する。また、底面部1cは柱状であり、その外端面には、遠心分離容器1および遠心分離装置2の他の構成部よりも高い反射率を有する反射板1dが設けられている。
【0023】
本実施形態に係る遠心分離装置2は、遠心分離容器1を保持するバケット(保持部)3が設けられたロータ4と、底面部1cの位置を検出する位置検出部5と、遠心分離容器1内の懸濁液Aの量を検出する液量検出部6とを備えている。
バケット3は、内壁が遠心分離容器1の形状に沿って筒状に成形され、両端が開口している。バケット3内部に収納された遠心分離容器1は、その底面部1cが開口から突出可能になっている。
【0024】
ロータ4は、鉛直軸線回りにモータ(図示略)によって回転駆動させられる直立した支柱4aと、該支柱4aに垂直に交差して固定された2本の平板状のアーム4bとを備えている。アーム4bは、支柱4aを径方向に挟み、平行に対向して配置されている。アーム4bの両端にはバケット3が1つずつ設けられ、2本のアーム4bに垂直な方向の軸線回りに揺動可能に支持されている。また、ロータ4は、遠心分離時に一定の回転速度で回転させられる。
【0025】
バケット3内に遠心分離容器1を収納してロータ4が回転駆動させられると、バケット3および遠心分離容器1は鉛直軸線回りに回転させられる。そして、バケット3および遠心分離容器1に半径方向外方の遠心力が作用して底面部1cが支柱4aと離間する方向へ揺動させられ、遠心分離容器1の長手方向が水平に保持させられた状態で回転させられる。
また、このときに、遠心分離容器1内の懸濁液Aが遠心力により底面部1c側へ移動させられて底面部1cを半径方向外方へ押圧すると、図1(b)に示されるように、弾性部1bが延伸して底面部1cが半径方向外方へ移動させられるようになっている。
【0026】
位置検出部5は、アーム4bの長手方向の延長線上に配置され、支柱4aの方向へ検出光Lを水平に出射する。また、位置検出部5は、ロータ4の回転と同期して動作し、各遠心分離容器1が位置検出部5の前方を通過するときに、反射板1dで反射された所定の大きさ以上の強度を有する反射光L´を検出するようになっている。そして、検出された反射光L´に基づいて反射板1dまでの距離を測定するようになっている。
また、液量検出部6は、位置検出部5によって検出された距離に基づいて、懸濁液Aの量を検出するようになっている。
【0027】
このように構成された遠心分離容器1および遠心分離装置2の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離容器1および遠心分離装置2を用いて遠心分離容器1内に収容された懸濁液Aを遠心分離するには、遠心分離容器1を各バケット3内に収納してロータ4を回転駆動させる。
【0028】
懸濁液A内の成分は密度の大きいものほど遠心力により半径方向外方に移動させられ、密度の差によって懸濁液Aを分離することができる。これと同時に、位置検出部5により、位置検出部5から各遠心分離容器1の底面部1cまでの距離が検出され、液量検出部6により各遠心分離容器1内の懸濁液Aの量が検出される。
【0029】
このように、本実施形態によれば、ロータ4を回転駆動させながら、懸濁液Aに作用する遠心力、つまり、懸濁液Aの重量に応じて変化する底面部1cの変位が検出され、これに基づいて懸濁液Aの量が検出される。すなわち、懸濁液Aの濁度や遠心分離容器1の色、材質、汚れの付着など、試料によって変わり得る外的な要因に影響されることなく、懸濁液Aの量を正確に安定して検出することができる。
【0030】
また、例えば、遠心分離容器1にあらかじめ挿入されたチューブ(図示しない)を介して液を給廃することで、ロータ4の回転中であっても懸濁液Aの量を検出しながら調節することが可能になる。また同時に、2つの遠心分離容器1内の懸濁液Aの量が異なる場合、その重量の差が分かるので、これに基づいてロータ4の重量バランスを適切に補正することができる。
【0031】
また、底面部1cの外面に反射板1dを設け、底面部1cで反射された反射光L´と底面部1c以外の部位で反射された反射光とを強度により区別して検出することにより、位置検出部5による反射光L´の検出の精度を向上させ、底面部1cの変位をより正確に検出することができる。
【0032】
また、底面部1cの重量をより重くし、弾性部1bに弾性定数の小さい材質を用いることにより、懸濁液Aの単位重量当たりの弾性部1bの延伸量、つまり、底面部1cの変位量が大きくなるので、底面部1cの長手方向の変位をより高い精度で検出し、懸濁液Aの量をより正確に検出することが可能になる。
【0033】
上記実施形態においては、図2(a),(b)に示されるように、バケット3の底部側の開口を透光性の底壁、例えば、カバーガラス等で塞いでもよい。
このようにすることで、検出光Lを遠心分離容器1の底面部1cまで透過させながら、遠心分離容器1が破損した場合でも懸濁液Aがバケット3内から漏洩することを防ぎ、遠心分離装置2の安全性を高めることができる。
【0034】
また、上記実施形態においては、位置検出部がアームの長手方向の延長線上に配置されることとしたが、これに代えて、図3に示されるように、ロータの回転時に底面部から鉛直方向に離れた位置に配置されてもよい。
この場合、バケット3の弾性部1bと隣接する部分は透光性の材質、例えば、ガラスからなり、反射板1dは底面部1cの側壁に設けられている。また、位置検出部5は、検出光Lを鉛直方向に出射し、反射光L´の有無を検出する。
【0035】
このようにすることで、懸濁液Aの量が少ないときは弾性部1bの延伸量が小さく、図3(a)に示されるように、底面部1cが検出光Lの位置まで届かないので反射光L´が検出されないが、懸濁液Aが所定の量より多いときは、図3(b)に示されるように、底面部1cが検出光Lの位置まで到達して反射光L´が検出される。これにより、懸濁液Aが所定の量を超えたか否かを検出することができる。
【0036】
また、上記実施形態においては、位置検出部がロータの回転と同期して反射光を検出することとしたが、これに代えて、連続して反射光を検出することとしてもよい。
この場合、位置検出部5により検出された反射光L´は、ロータ4が半回転するごとに強度がピークを有する波形で検出され、各ピークのときの反射光L´に基づいて距離が測定される。
【0037】
また、上記実施形態において、容器本体の形状は筒状であることとしたが、この筒状とは、三角筒状、四角筒状、多角形筒状、円筒状、楕円筒状などの全てを含むものであり、特定の形状の筒形状に限定されるものではない。さらに、本発明における容器本体の形状は筒状に限定されるものではなく、底部を半径方向外方に向けて所定の軸線回りに回転させることにより収容物の遠心分離ができるような形状であればよい。例えば、円錐状、三角錘状、四角錘状であってもよい。
【0038】
また、上記実施形態においては、弾性部の形状も筒状であることとしたが、これに限定されず、例えば、中空形状になっていて、圧力に応じた伸縮量で伸縮されるものであればよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態に係る遠心分離容器および遠心分離装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の遠心分離容器の変形例を示し、(a)懸濁液が少ないとき、(b)懸濁液が多いときの弾性部および底面部の動作を説明する図である。
【図3】図1の遠心分離容器の変形例を示し、(a)懸濁液が少ないとき、(b)懸濁液が多いときの弾性部および底面部の動作を説明する図である。
【符号の説明】
【0040】
1 遠心分離容器
1a 容器本体
1b 弾性部
1c 底面部
1d 反射板(反射部材)
2 遠心分離装置
3 バケット(保持部)
4 ロータ
4a 支柱
4b アーム
5 位置検出部
6 液量検出部
A 懸濁液
L 検出光
L´ 反射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部を半径方向外方に向けて所定の軸線回りに回転させられる容器本体と、
該容器本体の端部に一端が接続され、少なくとも前記半径方向外方に伸縮可能な弾性部と、
該弾性部の他端を閉塞する底面部とを備える遠心分離容器。
【請求項2】
前記所定の軸線回りに回転駆動させられ、懸濁液を収容する請求項1に記載の遠心分離容器を、前記底面部を前記所定の軸線に対し半径方向外方に向けて保持する保持部を有することにより、前記遠心分離容器を前記所定の軸線回りに回転させるロータと、
該ロータの回転時に、前記底面部における、前記半径方向の位置を検出する位置検出部と、
該位置検出部によって検出された位置に基づいて前記懸濁液の量を検出する液量検出部とを備える遠心分離装置。
【請求項3】
前記底面部が、外面に光を反射する反射部材を備え、
前記位置検出部が、検出光を照射し前記反射部材において反射して戻る反射光を受光し、該反射光に基づいて前記位置を検出する請求項2に記載の遠心分離装置。
【請求項4】
前記反射部材が、前記検出光が照射される照射範囲において最も高い反射率を有する請求項3に記載の遠心分離装置。
【請求項5】
前記保持部が、内部に前記遠心分離容器を収納し、前記底面部側に配置された一端が閉塞された容器であり、収納された前記遠心分離容器の前記底面部と前記位置検出部との間に配置される一部が透光性を有する請求項3または請求項4に記載の遠心分離装置。
【請求項6】
前記位置検出部が、前記ロータの回転と同期して前記底面部の位置を検出する請求項3から請求項5のいずれかに記載の遠心分離装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−99583(P2010−99583A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272867(P2008−272867)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】