説明

遠心分離機

【課題】
冷却装置を搭載した遠心分離機での結露水の駆動装置内部への浸入を防ぎ、駆動装置の信頼性を高める。
【解決手段】
ロータと、ロータを回転させる駆動装置と、駆動装置の駆動軸5を貫通させる貫通穴を有しロータを収納するボウルと、ボウルの貫通穴と駆動軸の間に嵌着される軸カバー13と、ボウルを冷却する冷却装置を有する遠心分離機において、軸カバー13の貫通穴を貫通させる開口隙間付近、即ち結露水が浸入してくる経路近傍の駆動軸5に、ロータの回転によって軸カバー13上を駆動軸5側に接近する水滴を吹き飛ばすための手段(5c)を設け、駆動軸5の回転力により水を吹き飛ばすような構造とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロータを冷却するための冷却装置を備えた遠心分離機に関し、特にチャンバ内で発生する結露水の防水構造を改良して駆動装置に浸入しないようにした遠心分離機に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機は、分離する試料(例えば、培養液や血液など)をチューブやボトルを介してロータに挿入し、ロータを高速に回転させることで試料の分離や精製を行う。設定されるロータの回転速度は用途によって異なり、用途に合わせて低速(数千回転程度)から高速(最高回転速度は150,000rpm)までの製品群が提供されている。用いられるロータは様々なタイプがあり、チューブ穴が固定角度式で高回転速度に対応できるアングルロータや、チューブを装填したバケットがロータの回転に伴って垂直状態から水平状態に揺動するスイングロータなどがある。また、超高回転速度で回転させて少量の試料に高遠心加速度をかけるロータや、低回転速度となるが大容量の試料を扱えるロータなど様々な大きさのものがある。これらのロータはその分離する試料にあわせて使用するため、ロータはモータ等の駆動手段の回転軸に着脱可能に構成され、ロータの交換が可能である。
【0003】
また、ロータは空気中で高速回転すると、空気との摩擦熱によってロータの温度は上昇する。分離する試料によっては、低温を保たなければならないものもあるため、ロータを運転中に冷却する遠心分離機がある。これらの遠心分離機では本体に冷却装置(蒸発機、圧縮機、凝縮機、膨張弁で構成される)を備えており、ボウル外周に巻かれている銅パイプに冷媒を流すことによってロータ室を冷却し、この冷却によってロータを冷却する。
【0004】
遠心分離の運転後に分離した試料を取り出すためにロータ室の開口部を閉鎖するドアを開けると、冷却されたロータまたはボウルに外部から暖かい空気が流入し、冷却されたボウルに触れることにより、ボウルの表面やロータの表面に結露が発生することがある。この結露水は、遠心分離運転−ドアの開放を複数回繰り返すことによってボウルの底に徐々に蓄積される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−111418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このとき、ユーザーが結露水の機外への排水を定期的に行えば問題は起きないで済む。しかしながら、定期的な排水では足りないような多くの結露水が溜まったり、結露水の排水自体がされなかった場合には結露水がチャンバ内の底部に溜まり、底部に溜まった水がロータの回転による発生される風によって駆動装置内部に浸入し、軸受を腐食させる恐れがある。現在市販されている遠心分離機においては、駆動装置内部への水の浸入を防止するための構造上の工夫が種々されている。ここで、図14、15を用いて従来の遠心分離機における水の浸入防止構造を説明する。
【0007】
図14は従来の遠心分離機の駆動装置の軸受付近の部分断面図である。駆動装置4は内部に図示しない電気モータを収容し、電気モータの回転軸と接続される駆動軸5が上方向に延びる。駆動軸5は複数の軸受12によって回転可能に保持される(尚、もう一つの軸受は図示していない)。軸受12は駆動装置4の上側カバー20により保持される。上側カバー20の上端付近の中央には、駆動軸5を貫通させるための貫通穴21が形成され、貫通穴21の径は駆動軸5と接触しない必要最小限の距離とすることにより、水の浸入を防ぐように構成している。上側カバー20の上側には、後述するシールラバーを固定するための軸カバー13が設けられる。
【0008】
軸カバー13は略円盤状の形状であって上側カバー20にネジ等によって固定される非回転部材である。軸カバー13の外周縁には後述するシールラバーの開口部を嵌合させるための円周方向に連続する凹部13bが形成される。また、軸カバー13の平面部13aの最内周側には駆動軸5を貫通させるための穴22が形成されるが、この穴22の周囲は平面部13aから上側に円筒状に延びる上側円筒部13cが形成され、平面部13aから下側には上側円筒部13cと同じ径で下側円筒部13dが形成される。上側円筒部13cと下側円筒部13dの内周側の穴22は、駆動軸5と最小の間隔をもって位置し、駆動軸5の軸方向に所定の長さを有する微小空間を実現している。このように駆動軸5と軸カバー13の間隔を、水滴に比べて十分小さく構成したので、この空間内に水が浸入することを効果的に防止することができる。
【0009】
軸カバー13の上側であって、駆動軸5の太径部5bにはリング状のモータシールリング131が装着される。モータシールリング131は、例えばステンレス等の腐食しない金属製の部材であり、部材の貫通穴を駆動軸5の駆動部の細径部、傾斜部5aを通して圧入によって太径部5bに装着される。モータシール部材は、図14のような縦断面図で見ると断面が略L字状であり、外周端で下側に折り曲げられるような傘状に形成され、折り曲げ部分の内周壁は軸カバー13の上側円筒部13cの外周壁と微小の隙間を隔てるように構成される。また、折り曲げ部分の下側環状壁は軸カバー13の平面部13aと微小の隙間を隔てるように構成される。このようにロータ室16から軸受12に至る空間(通路)をできるだけ狭くし、その通路がつづら折れになるようにしてその抵抗で外部から軸受12付近への水分の浸入を防止する、いわゆるラビリンス構造を実現している。
【0010】
図15は、図14のモータシールリング131を斜め下側から見た斜視図である。モータシールリング131は金属の一体構造で製造され、中央に貫通穴132を有し、貫通穴132が駆動軸5の太径部5bに圧入される。貫通穴132の周りは、円環状のベース部133となっている。円環状のベース部133の半径方向幅の外周側約半分においてはベース部133から軸方向に延在する円筒部134が形成され、ベース部133と円筒部134は一体成形で製造される。円筒部134の内周壁134aの内径は、上側円筒部13c(図14参照)の外径よりも僅かながら大きく構成される。
【0011】
このように従来の遠心分離機では駆動装置内部への進入路を狭く複雑にするために駆動軸にモータシールリング131を設けているが、仮にモータシールリング131と軸カバー13との隙間に一旦水が浸入してしまうと、駆動軸5およびモータシールリング131が回転中でも水の表面張力により水が外に出て行かない事があり得る。そこで水の軸受12への浸入をより完璧に防止するには、水そのものが進入路の入口部分A(図14参照)や上側円筒部13c付近に到達しないように構成する方が有利である。
【0012】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、軸カバー付近から軸受付近に水が浸入することを防止できる遠心分離機を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、従来からの基本構造を変えることなく一つの部品を変えるだけで駆動装置の軸受の防水性能を大きく向上させた遠心分離機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0015】
本発明の一つの特徴によれば、分離する試料を保持するロータと、ロータを回転させる駆動装置と、駆動装置の駆動軸を貫通させる貫通穴を有しロータを収納するボウルと、ボウルの貫通穴と駆動軸の間に嵌着される軸カバーと、 ボウルを冷却する冷却装置を有する遠心分離機において、軸カバーの駆動軸を貫通させる開口付近の駆動軸に、ロータの回転によって軸カバー上を駆動軸側に接近する水滴を吹き飛ばすための手段を設けた。この水滴を吹き飛ばす手段は駆動軸に設けられた回転方向に対して非連続な凹部又は凸部である。軸カバーは、駆動装置の上部カバーと一体に構成したカバー手段としても良いし、別体に構成しても良い。
【0016】
本発明の他の特徴によれば、凹凸部は駆動軸と一体で成形された径方向に突出する突起であり、突起は駆動軸の円周方向において等間隔に複数配置される。また中心部に駆動軸を貫通させる穴が設けられたシールリング部材を駆動軸に装着し、シールリング部材に水滴を吹き飛ばすための手段を形成した。シールリング部材は、円環状のベース部と軸方向に延在する円筒部が一体成形で構成されると好ましい。
【0017】
本発明のさらに他の特徴によれば、水滴を吹き飛ばすための手段は、円筒部に形成された切り欠き、円筒部に複数形成され下端から軸方向に延びる非貫通穴、円筒部に形成された凹部、又は、円筒部から外周方向又は軸方向に突出する凸部等で実現できる。シールリング部材は、駆動軸の材質と同様にステンレス製とするのが好ましく、一体成形によって製造すると強度的にも好ましい。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、軸カバーの貫通穴を貫通させる開口隙間付近の駆動軸に、ロータの回転によって軸カバー上を駆動軸側に接近する水滴を吹き飛ばすための手段を設けたので、駆動装置内に浸入可能な隙間や経路に結露水が入り込まず、水の浸入による生ずる駆動装置の問題を無くすことができる。
【0019】
請求項2の発明によれば、水滴を吹き飛ばす手段は、駆動軸に設けられた回転方向に対して非連続な凹部又は凸部であるので、駆動軸の回転によって駆動装置内部に繋がる隙間に入ってこようとする結露水を吹き飛ばすことができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、凹凸部は駆動軸と一体で成形された径方向に突出する突起であり、突起は駆動軸の円周方向において等間隔に隔てて複数配置されるので、駆動軸の回転によって駆動装置内部に繋がる隙間に入ってこようとする結露水を吹き飛ばすことができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、中心部に駆動軸を貫通させる貫通穴が設けられたシールリング部材を駆動軸に装着し、シールリング部材に水滴を吹き飛ばすための手段を形成したので、従来の駆動軸には何ら改造を施すことなく、シールリング部材を変更するだけで駆動装置の防水性能を大きく向上させることができる。
【0022】
請求項5の発明によれば、シールリング部材は、円環状のベース部と軸方向に延在する円筒部が一体成形で構成されるので、簡単な形状の部材によってラビリンス構造を形成することができ、駆動装置の防水性能を向上させることができる。
【0023】
請求項6の発明によれば、水滴を吹き飛ばすための手段は、円筒部に形成された切り欠きであるので、機械加工が容易でありシールリング部材の製造コストの上昇を抑えることができる。
【0024】
請求項7の発明によれば、水滴を吹き飛ばすための手段は、円筒部に複数形成され下端から軸方向に延びる非貫通穴であるので、ラビリンス効果を低下させることが無く効果的に水滴を吹き飛ばす構成を実現できる。
【0025】
請求項8の発明によれば、水滴を吹き飛ばすための手段は、円筒部に形成された凹部であるので、機械加工が容易でありシールリング部材の製造コストの上昇を抑えることができる。
【0026】
請求項9の発明によれば、水滴を吹き飛ばすための手段は、円筒部から外周方向又は軸方向に突出する凸部であるので、ラビリンス効果を全く低下させることが無く、水滴を吹き飛ばす構成を実現できる。
【0027】
請求項10の発明によれば、シールリング部材は、ステンレスの一体成形によって製造されるので、強度的に優れて錆びることのない部材を安価に実現できる。
【0028】
請求項11の発明によれば、カバー手段の貫通穴を貫通させる開口隙間付近の駆動軸に、ロータの回転によってカバー手段上を駆動軸側に接近する水滴を吹き飛ばすための手段を設けたので、駆動装置内に浸入可能な隙間や経路に結露水が入り込まず、水の浸入による生ずる駆動装置の問題を無くすことができる。
【0029】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例に係る遠心分離機1の全体構成を示す断面図である。
【図2】図1の駆動軸5及び軸カバー13の斜視図である。
【図3】図1の駆動軸5及び軸カバー13付近の部分断面図である。
【図4】本発明の第2の実施例に係るモータシールリング31を装着した状態の駆動軸5付近の部分断面図である。
【図5】図4のモータシールリング31を斜め下側から見た斜視図である。
【図6】本発明の第3の実施例に係るモータシールリング41を装着した状態の駆動軸5付近の部分断面図である。
【図7】図6のモータシールリング41を斜め下側から見た斜視図である。
【図8】本発明の第4の実施例に係るモータシールリング51を装着した状態の駆動軸5付近の部分断面図である。
【図9】図8のモータシールリング51を斜め下側から見た斜視図である。
【図10】本発明の第5の実施例に係るモータシールリング61を装着した状態の駆動軸5付近の部分断面図である。
【図11】図10のモータシールリング61を斜め下側から見た斜視図である。
【図12】本発明の第6の実施例に係るモータシールリング71を装着した状態の駆動軸5付近の部分断面図である。
【図13】図12のモータシールリング71を斜め下側から見た斜視図である。
【図14】従来の遠心分離機の駆動装置の軸受付近の部分断面図である。
【図15】図14のモータシールリング131を斜め下側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0031】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の構成部分には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、上下左右の方向は図1に示す方向であるとして説明する。
【0032】
図1は本発明の実施例に係る遠心分離機1の縦断面図である。遠心分離機1は、箱形の板金やプラスチックなどで製作される筐体9の内部にロータ室16を形成するためのボウル6が設けられ、その内部はドア10によって開閉される。ボウル6はステンレスなど腐食に強い金属により製造され、上端側の開口部周縁にはゴム等の弾性材から成るドアパッキン15が設けられ、このドアパッキン15にドア10が密着することによって、ボウル6が密閉されロータ室16内の気密性が確保される。
【0033】
ロータ2は駆動装置4によって回転されるが、ロータ2が高速回転することでロータ室16内のロータ2の下部には、2点鎖線で書かれた矢印で示す空気の流れ19が生ずる。また、図示していないがロータ2の周囲や上部にも同様の空気の流れが発生しロータ2との間で摩擦を生じさせるので、ロータ2が高速に回れば回るほどロータ2は加熱されてしまう。そこでボウル6の外周側には冷凍配管7が巻かれボウル6を冷やすことでロータ室内、ひいてはロータ2を冷却するように構成される。冷凍配管7は、図示しない冷却装置に接続される。冷凍配管7の外周側には発泡材等から成る断熱部材8が配置され、冷凍配管7からの冷気を外部に逃さずに効率よくボウル6を冷却できるように構成される。ドア10は略長方形であり、長方形の一辺に設けられる図示しない蝶番により開閉可能に構成される。ドア10の内部にも断熱材(図示せず)が配置され、ロータ室16の断熱性を向上させている。遠心分離機1の運転中には、図示しない制御装置によって図示しない冷却装置が運転され、ロータ室16の内部は設定された所望の温度に保たれる。
【0034】
ロータ室16の内部には、分離する試料を保持するためのロータ2が駆動装置4の駆動軸5に設置される。ロータ2は、装着するチューブ3の種類、本数や、回転させる回転数などに応じて複数のものが利用できるように、ロータ2は駆動軸5に着脱可能に構成される。駆動装置4は例えば、ブラシレスDCモータ等の公知の電気モータであって、駆動軸5を5,000rpm〜30,000rpmくらいの高速にて回転させる。駆動装置4はロータ室16下部に回転振動を吸収するダンパ11を介して筐体9に取り付けられる。また駆動軸5は、ボウル6の下側中心付近に設けられた立ち上げ部6aの中央付近に設けられた開口部を貫通してロータ室16の内部にまで突出するように配置される。ロータ2は、制御装置によって制御される駆動装置4によって高速で回転される。
【0035】
ボウル6の底部に形成される立ち上げ部6aは、ボウル6の底部に溜まった水が中央の開口部付近に到達しないように防波堤の役割を果たすものであり、ボウル6と一体にプレス加工により一体成形で製造される。立ち上げ部6aの内周側は貫通穴が形成され、この貫通穴から駆動装置4の駆動軸5がロータ室の内部に突出する。駆動軸5の周りには軸カバー13が配置され、軸カバー13と立ち上げ部6aの貫通穴との間にはシールラバー17が装着される。このように軸カバー13とシールラバー17により駆動装置4の上部を覆うと共にロータ室16内の冷気がロータ室16外に流れ出さないようにしている。シールラバー17はゴム等の弾性材で構成され、シールラバー17の上部中心軸付近は、軸カバー13の外周縁に形成された凹部に装着されるための穴部が形成される。
【0036】
ロータ2には複数のチューブ3が着脱可能に装填され、上部はロータカバー18により閉鎖される。チューブ3を出し入れするためにはドア10を開閉する必要がある。遠心分離運転の終了後にはロータ室16の内部は外気よりも低温に冷却されていることが多いので、その場合はボウル6などが外気に晒され表面に結露が生じることがある。ボウル6の内壁に生じた結露は、重力により落下してボウル6の底に溜まる。このため、ボウル6の底面の一部には結露水を機外に排出させるためのドレン14が設けられる。ボウル6の底部に貯まる結露水は、ロータ2の回転に伴い発生する空気流によって円周方向に回転するので、ドレン14からドレンチューブ24を介して機外へ効果的に排出される。ドレンチューブ24は筐体9内を下方に延び、その端部には筐体9の外部へと延出する。尚、図1では図示していないが、ドレンチューブ24の先端にはキャップやコックが設けられ、遠心分離運転中はドレンチューブ24の開口が閉鎖される。
【0037】
ロータ2の回転中において、ロータ2の下部では矢印方向19に空気の流れが発生する。特に空気の流れ19は、ボウル6の底面付近では円周方向に周りながら外周側から内周側に流れるので、ロータ室16内に残留している結露水はこの空気流に導かれて移動する。しかしながら、ドレン14に導かれなかった結露水は、ドレン14の取付部よりも内周側に移動して立ち上げ部6aにまで到達する。ここでボウル6の底面に溜まった結露水が多くなりすぎると、結露水は立ち上げ部6aをも乗り越えてしまい、シールラバー17及び軸カバー13上を中心方向(駆動軸5方向)に向かって流れる場合もある。結露水が駆動軸5にまで到達してしまうと、場合によっては、軸カバー13の上側開口部と駆動軸5との隙間に入り込み、駆動装置4内にある軸受12に到達してしまい、軸受12を腐食させる可能性があり得る。そこで、本実施例では、このように駆動軸5に到達する結露水が軸受12にまで浸入することを、ほぼ完全に防ぐことができるように駆動軸5の周囲の形状に工夫を施した。
【0038】
図2は、図1の駆動軸5及び軸カバー13の斜視図である。軸カバー13は3つのネジ23によって駆動装置4の上側カバー20(後述の図13参照)に固定される。軸カバー13は略円盤状の形状であって、外周縁にはシールラバー17(図1参照)の開口部を嵌合させるための円周方向に連続する凹部13bが形成される。また、軸カバー13の平面部13aの最内周側には駆動軸5を貫通させるための穴が形成されるが、この穴は平面部13aから上側に円筒状に延びる上側円筒部13cの内周側に形成される。平面部13aに対して上側円筒部13cは若干上方に延びて段差状に形成されるので、これによって平面部13aに存在する結露水が駆動軸5に流れ込まないように防波堤の役目を果たす。
【0039】
ここで、駆動軸5の太径部5bの外周面の2箇所には、径方向に突出する2つの直方体状の突起5cが形成される。突起5cは駆動軸5と一体で形成されたもので、軸カバー13の上側円筒部13cの上側に設けられ、突起5cの下面と上側円筒部13cとの軸方向の隙間を十分に小さくする。駆動軸5の回転中には、上側円筒部13cと駆動軸5の隙間から駆動装置4方向に浸入しようとする水を、回転する突起5cで吹き飛ばすように構成したので、効果的な防水効果を期待できる。
【0040】
図3は図1の駆動軸5及び軸カバー13付近の部分断面図である。図3から理解できるように本実施例の駆動軸5には、従来の遠心分離機と違ってモータシール部材(図14の131参照)が装着されない。その代わりに、モータシール部材が装着されていた箇所に、円周方向に180度隔てて2つの突起5cが形成される。突起5cの太径部5bからの径方向突出量は、上側円筒部13cの外径とほぼ同じか、外径よりも大きくなるように設定すると良い。このように構成することにより、上側円筒部13cの上端付近に水滴が接近しても回転する突起5cによってロータ室16の外周方向にはね飛ばされる。よって水滴が軸カバー13と駆動軸5の間の隙間を介して軸受12に至ることをほぼ防止できる。
【0041】
尚、図1〜3に示した実施例では、駆動軸5に突起5cを形成するようにしたが、駆動軸5の突起5cが有る部分の径を部分的に太くして、そこに凹部を形成するようにしても良い。凹部の形成の仕方によっては突起5cを設けた場合と同様の水滴吹き飛ばし効果を奏することができる。
【実施例2】
【0042】
次に、図4及び図5を用いて本発明の第2の実施例に係る防水構造について説明する。ここで第1の実施例と異なるのは、従来の遠心分離機と同じように駆動軸5にモータシールリング31が取り付けられることである。図4の断面図で見る限りは、図14に示したモータシールリング131と全く同じ形状であるかのように見える(これは断面位置の影響が大きい)。しかしながらモータシールリング31の構造は図14で示したモータシールリング131とは異なる。
【0043】
図5はモータシールリング31の下側から見た斜視図である。モータシールリング31は、例えばステンレス等の金属によって構成された略円環状のベース部33に、2つの直方体状の突起34が形成されたものである。突起34は、円周方向に約180度離れた2箇所に設けられ、突起34はベース部33の径方向幅の外側約半分の位置に取り付けられる。本実施例では、強度的な好ましさから突起34はベース部33と一体構造で製造した。しかしながら別体部材で構成しても良い。
【0044】
モータシールリング31は、中心の貫通穴32に駆動軸5を貫通させるようにして取り付けられるが、この取り付けは、圧入、ヤキバメ、接着などの公知の方法によって固定できる。以上のように構成することにより、駆動軸5が回転した際の突起34の軌跡が、上側円筒部13cの外周面と微小距離を隔てて離れるように構成されるので、この間から浸入しようとする水を効果的に吹き飛ばす効果を得ることができる。
【0045】
尚、第2の実施例では突起34を円周方向の2箇所に設けたが、この配置だけに限定されずに、1つだけまたは3つ以上形成するようにしても良い。但し、モータシールリング31は駆動軸5と共に回転する部材であるから、突起34の配置する位置は回転中心に対して回転対称になるよう配置することが重要である。突起34の形状は、本実施例では直方体状にしたが、必ずしもこれだけに限られず、上側円筒部13cと駆動軸5の隙間から入り込もうとする水を、直接又は間接的にはじき飛ばすことができるならば、その他の任意の形状であっても良い。ここで「水を直接はじき飛ばす」とは、突起34が水に触れることによってはじき飛ばすことを指し、「水を間接的にはじき飛ばす」とは、突起34によって生成される空気流によって水がはじき飛ばされるということを指す(突起34と水は非接触)。
【実施例3】
【0046】
次に、図6及び図7を用いて本発明の第3の実施例に係る防水構造について説明する。図6は本発明の第3の実施例に係るモータシールリング41を装着した状態の駆動軸5付近の部分断面図である。第3の実施例では、駆動軸5に図14に示した従来の遠心分離機と同じように、モータシールリング41が取り付けられる。モータシールリング41の基本構造は、図14で示したモータシールリング131とほとんど同じであるが、円周方向の2箇所に切り欠き部45を設けたことに特徴がある。
【0047】
図7は本発明の第3の実施例に係るモータシールリング41の下側から見た斜視図である。モータシールリング41は、ステンレス等の金属の一体構造で製造され、中央の貫通穴42が駆動軸5の太径部5bに圧入される。モータシールリング41は円環状のベース部43から径方向幅の外周側約半分が下方向に延びるように円筒部44が形成される。円筒部44の内周壁44aは、対向する上側円筒部13cの外周面と微小距離を隔てるようなサイズに設定される。円筒部44の円周方向の2箇所には切り欠き部45が形成される。このように切り欠き部45を構成することによって、モータシールリング41と軸カバー13との間に効果的なラビリンス構造を達成しつつ、切り欠き部45によって引き起こされる風によってモータシールリング41の外周部に付着した水や接近した水を吹き飛ばすことができる。
【実施例4】
【0048】
次に、図8及び図9を用いて本発明の第4の実施例に係る防水構造について説明する。図8のモータシールリング51を装着した状態の駆動軸5付近の部分断面図である。第4の実施例では、駆動軸5に図14に示した従来の遠心分離機と同じように、モータシールリング51が取り付けられる。モータシールリング51の基本構造は、図14で示したモータシールリング131とほとんど同じであるが、円周方向の複数箇所に下から上方向への非貫通穴55を設けたことに特徴がある。
【0049】
図9は本発明の第4の実施例に係るモータシールリング51の下側から見た斜視図である。モータシールリング51は、ステンレス等の金属の一体構造で製造され、中央の貫通穴52が駆動軸5の太径部5bに圧入される。モータシールリング51は円環状のベース部53から外周側が下方向に延びる傘状となるように円筒部54が形成される。円筒部54の内周壁54aは、対向する上側円筒部13cと微小距離を隔てるようなサイズに形成される。円筒部54の円周方向の複数箇所には非貫通穴55が形成される。非貫通穴55は、円周方向に等間隔で8箇所設けられ、円筒部54の下端面から上方に向かって、軸方向と平行になるように形成される。非貫通穴55の深さは、穴の先端がベース部53の下面とほぼ同じ位置程度にして、上側に貫通しないように構成される。尚、穴を軸方向に対して円周方向あるいは径方向に傾けるように構成しても良い。このように非貫通穴55を形成することによって、モータシールリング51と軸カバー13との間に効果的なラビリンス構造を達成しつつ、非貫通穴55によって引き起こされる風によってモータシールリング51の外周部に接近した水を吹き飛ばすことができる。
【実施例5】
【0050】
次に、図10及び図11を用いて本発明の第5の実施例に係る防水構造について説明する。図10はモータシールリング61を装着した状態の駆動軸5付近の部分断面図である。第5の実施例では、駆動軸5に図14に示した従来の遠心分離機と同じように、モータシールリング61が取り付けられる。モータシールリング61の基本構造は、図14で示したモータシールリング131とほとんど同じであるが、円周方向の複数箇所に外周壁から内周側に窪む凹部65を設けたことに特徴がある。
【0051】
図11は本発明の第4の実施例に係るモータシールリング61の下側から見た斜視図である。モータシールリング61は、ステンレス等の金属の一体構造で製造され、中央の貫通穴62が駆動軸5の太径部5bに圧入される。モータシールリング61は円環状のベース部63から外周側が下方向に延びる傘状となるように円筒部64が形成される。円筒部64の内周壁64aは、対向する上側円筒部13cと微小距離を隔てるようなサイズに形成される。円筒部64の外周面及び下端面の2箇所には凹部65が形成されるが、円筒部64の内周壁64aには凹部65が及ばないので、ラビリンス構造をほとんど損なわれない。凹部65の軸方向又は径方向の深さや円周方向の幅は適宜設定すれば良い。また、凹部65は円周方向に斜めに形成しても良い。以上のような構成により、凹部65によって引き起こされる風によってモータシールリング61の外周部に接近した水を吹き飛ばすことができる。
【実施例6】
【0052】
次に、図12及び図13を用いて本発明の第6の実施例に係る防水構造について説明する。図12はモータシールリング71を装着した状態の駆動軸5付近の部分断面図である。第5の実施例では、駆動軸5に図14に示した従来の遠心分離機と同じように、モータシールリング71が取り付けられる。モータシールリング71の基本構造は、図14で示したモータシールリング131とほとんど同じであるが、モータシールリング71の外周面に外周面から径方向外側に突出する突出部75を設けたことに特徴がある。
【0053】
図13は本発明の第6の実施例に係るモータシールリング71の下側から見た斜視図である。モータシールリング71は、ステンレス等の金属の一体構造で製造され、中央の貫通穴72が駆動軸5の太径部5bに圧入される。モータシールリング71は円環状のベース部73から外周側が下方向に延びる傘状となるように円筒部74が形成される。円筒部74の内周壁74aは、対向する上側円筒部13cと微小距離を隔てるようなサイズに形成される。円筒部64の外周面74bの2箇所には直方体状の突出部75が形成される。突出部75の径方向の突出長や円周方向の幅は適宜設定すれば良い。以上のような構成により、突出部75によって水滴が直接又は間接的に吹き飛ばすことができ、駆動装置の防水性能を向上させることができる。
【0054】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば上述の実施例では、モータシールリングをステンレス製としたが、ステンレス以外の金属製であっても良いし、合成樹脂等の錆びない部材にて形成しても良い。また、モータシールリングの形状は、凸部や凹部の形状によって近づいてくる水滴を直接又は間接的に吹き飛ばすことができるならば、上述の実施例で示した以外の形状であっても良い。さらに、上述の実施例では、上側カバー20と軸カバー13を別部品としたが、一つのカバー手段として一体の部品で構成してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 遠心分離機 2 ロータ 3 チューブ 4 駆動装置
5 駆動軸 5a 傾斜部 5b 太径部 5c 突起
6 ボウル 6a (ボウルの)立ち上げ部 7 冷凍配管
8 断熱部材 9 筐体 10 ドア 11 ダンパ
12 軸受 13 軸カバー 13a 平面部
13b 凹部 13c 上側円筒部 13d 下側円筒部
14 ドレン 15 ドアパッキン 16 ロータ室
17 シールラバー 18 ロータカバー 19 空気の流れ方向
20 上側カバー 21 貫通穴 22 穴 23 ネジ
24 ドレンチューブ 31 モータシールリング
32 貫通穴 33 ベース部 34 突起
41 モータシールリング 42 貫通穴 43 ベース部
44 円筒部 44a 内周壁 45 切り欠き部
51 モータシールリング 52 貫通穴 53 ベース部
54 円筒部 54a 内周壁 55 非貫通穴
61 モータシールリング 62 貫通穴 63 ベース部
64 円筒部 64a 内周壁 65 凹部
71 モータシールリング 72 貫通穴 73 ベース部
74 円筒部 74a 内周壁 74b 外周面
75 突出部
131 モータシールリング 132 貫通穴 133 ベース部
134 円筒部 134a 内周壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離する試料を保持するロータと、
前記ロータを回転させる駆動装置と、
前記駆動装置の駆動軸を貫通させる貫通穴を有し前記ロータを収納するボウルと、
前記ボウルの貫通穴と前記駆動軸の間に嵌着される軸カバーと、
前記ボウルを冷却する冷却装置を有する遠心分離機において、
前記軸カバーの前記駆動軸を貫通させる開口付近の前記駆動軸に、前記ロータの回転によって前記軸カバー上を前記駆動軸側に接近する水滴を吹き飛ばすための手段を設けたことを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
前記水滴を吹き飛ばす手段は、前記駆動軸に設けられた回転方向に対して非連続な凹部又は凸部であることを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項3】
前記凸部は前記駆動軸と一体で成形された径方向に突出する突起であり、前記突起は前記駆動軸の円周方向において等間隔に複数配置されることを特徴とする請求項2に記載の遠心分離機。
【請求項4】
中心部に前記駆動軸を貫通させる穴が設けられたシールリング部材を前記駆動軸に装着し、
前記シールリング部材に水滴を吹き飛ばすための手段を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の遠心分離機。
【請求項5】
前記シールリング部材は、円環状のベース部と軸方向に延在する円筒部が一体成形で構成されることを特徴とする請求項4に記載の遠心分離機。
【請求項6】
前記水滴を吹き飛ばすための手段は、前記円筒部に形成された切り欠きであることを特徴とする請求項5に記載の遠心分離機。
【請求項7】
前記水滴を吹き飛ばすための手段は、前記円筒部に複数形成され下端から軸方向に延びる非貫通穴であることを特徴とする請求項5に記載の遠心分離機。
【請求項8】
前記水滴を吹き飛ばすための手段は、前記円筒部に形成された凹部であることを特徴とする請求項5に記載の遠心分離機。
【請求項9】
前記水滴を吹き飛ばすための手段は、前記円筒部から外周方向又は軸方向に突出する凸部であることを特徴とする請求項5に記載の遠心分離機。
【請求項10】
前記シールリング部材は、ステンレスの一体成形によって製造されることを特徴とする請求項4から9のいずれか一項に記載の遠心分離機。
【請求項11】
分離する試料を保持するロータと、
前記ロータを回転させる駆動装置と、
前記駆動装置の駆動軸を貫通させる貫通穴を有し前記ロータを収納するボウルと、
前記駆動装置の上部に設けられ前記駆動軸を貫通させる貫通穴を有するカバー手段と、
前記ボウルを冷却する冷却装置を有する遠心分離機において、
前記カバー手段の前記駆動軸を貫通させる開口付近の前記駆動軸に、前記ロータの回転によって前記カバー手段上を前記駆動軸側に接近する水滴を吹き飛ばすための手段を設けたことを特徴とする遠心分離機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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