説明

遠心分離機

【課題】
モータとロータの固定に緩みが生じたことを早期に検知できる遠心分離機を提供する。
【解決手段】
遠心分離機1において、所定の回転角度でモータ8を停止制御した際にロータ3に取り付けられた識別子12を検出できる位置にセンサ13を設置し、所定の回転角度でモータ8を停止制御した際にセンサ13が識別子4を検出できない場合に異常と判定してアラームを出力する。また、遠心運転中にロータ3に取り付けられた識別子12をセンサ13が検出した時のエンコーダ10によって検出したモータ8の回転角度を記憶する記憶装置11を設け、遠心運転中に検出された回転角度と予め記憶した回転角度を比較して、所定以上の乖離が認められた場合にこれを異常と判定してアラームを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロータを所望の回転角度で停止制御する遠心分離機に関し、特にロータとモータのシャフトとの固定に緩みが生じたか否かを精度良く検出することができる遠心分離機を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機を用いた試料の分離において、試料の搬入及び搬出を、遠心分離機の外部装置として設けられた自動搬入出装置を用いて自動で行うシステムが知られている。そのシステムにおいては、自動搬入出装置が遠心分離機への試料の搬入出だけでなく、遠心分離機のロータの回転開始指示等を発する。自動搬入出装置は、遠心分離機から運転の完了信号を受信すると、遠心分離機から試料の自動搬出を実行する。自動搬入出装置は通信線によって遠心分離機と接続され、双方向に通信を行う。あるいは遠心分離機と自動搬入出装置が一体であり、同一の制御部で制御するシステムも知られている。
【0003】
自動搬入出装置を用いて試料を遠心分離機に自動で搬入又は搬出する場合、自動搬入出装置の運搬機構によって試料が搬入又は搬出される位置に、バケット(試料受部)が停止するように遠心分離機のロータの回転角度を精度良く制御する必要がある。従来技術においては、モータの回転角度を検出可能なエンコーダを設け、モータに固定したロータが所定の位置に停止した際のモータの回転角度を記憶し、ロータを所望の位置に停止制御する場合には記憶したモータの回転角度を目標値としてモータの停止制御を行うようにしている。
【0004】
もしモータのシャフトとロータ間の固定が緩んで、シャフトに対するロータの取り付け角度が変化してしまうと、目標値通りにモータを停止制御してもロータを所望の回転角度に停止できず、試料の搬入又は搬出を行う自動搬入出装置の運搬機構が相対角度を持って位置することになり、運搬機構がロータやバケットと予期せぬ状態で接触してしまい、試料の搬入又は搬出ができない恐れがある。このため特許文献1の技術では、ロータの回転速度とモータの回転速度を別々に検出して比較することで、モータとロータ間の緩み発生を検出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−10734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で記載されている技術では、ロータの回転速度とモータの回転速度を別々に検出して両者を比較することによって、ロータとモータ間の緩みが生じた場合に異常として検知することが可能である。しかしながら、試料を搬入してからロータが整定状態になるまでにモータとロータ間の何らかの理由で取り付け角度が変わってしまった場合であって、その取り付け角度のズレがモータの回転中に変化しなければ、整定状態でのロータの回転速度とモータの回転速度が同一となり、一見すると何ら異常が無いように見える。その場合は、たとえモータを正確な位置に停止制御してもロータの停止位置は所望の回転角度からずれてしまうので、自動搬入出装置の運搬機構によるラック(試料の入った容器を保持する部材)の搬入又は搬出が正しくできない恐れがある。また、わずかな緩みにより少しずつロータとモータの角度がずれる場合は異常を検出することが難しい。
【0007】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、ロータとモータの回転軸との間の緩みを精度良く検出することができる遠心分離機を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、モータを所定の回転角度で停止制御した際に、ロータの取り付け状態が正常か否かを判定することができる遠心分離機を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、ロータの取り付け緩みを検出して自動搬入出装置にエラー信号を発することにより自動搬入出装置による適切な制御を可能とした遠心分離機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0011】
本発明の一つの特徴によれば、遠心分離される試料を収容するロータと、ロータを回転駆動するモータと、ロータの特定の回転位置を非接触で検出するセンサと、モータの回転角度を検出するエンコーダと、センサとエンコーダの出力信号を用いてモータの回転を制御する制御部を有する遠心分離機であって、制御部が所定の回転位置にモータを停止制御したときに、正常時にはセンサが必ず回転位置を検出できるように設計する。モータを停止した際にセンサが回転位置を検出できない場合、制御部は動作が異常であると判定し、アラームを発する。
【0012】
本発明の他の特徴によれば、ロータには特定の回転位置の識別子としてマグネットが取り付けられ、センサはマグネットの近接を検出する磁気センサで構成する。制御部は、モータを停止した際に磁気センサがマグネットの磁気を検出できない場合にアラームを発する。さらに、遠心分離機には、バケットに試料を搬入及び搬出する自動搬入出装置が接続され、制御部はアラームとして自動搬入出装置にエラー信号(エラーコード)を送信する。自動搬入出装置は、エラー信号を受信したら遠心分離機からの試料の自動搬入出を停止する。
【0013】
本発明のさらに他の特徴によれば、遠心分離される試料を収容するロータと、ロータを回転駆動するモータと、ロータの特定の回転位置を非接触で検出するセンサと、モータの回転角度を検出するエンコーダと、センサとエンコーダの出力信号を用いてモータの回転を制御する制御部を有する遠心分離機であって、制御部にはセンサが特定の回転位置を検出したときのエンコーダで検出した回転角度を記憶する記憶手段を設けた。制御部はモータの回転中に、センサが特定の回転位置を検出したときのエンコーダで検出した回転角度が記憶された回転角度(正常なモータ回転角度)に対して所定の値以上乖離したかどうかを監視し、乖離したときに動作が異常であると判定し、モータを停止させる。ロータの回転位置を検出するセンサとしては、ロータに取り付けたマグネットと、マグネットの近接を検出する磁気センサで構成すると好ましい。遠心分離機には、ロータに試料の搬入及び搬出を行う自動搬入出装置が接続され、制御部はモータを停止させた際に自動搬入出装置にエラー信号を送信する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、遠心分離機は、所定の回転位置でモータを停止制御した際に必ずセンサが回転位置を検出できるように制御し、モータを停止した際にセンサが回転位置を検出できない場合はアラームを発するので、ロータとモータの固定に緩みが生じてロータが所望の回転角度で停止しなかった場合の異常を検知できる。
【0015】
請求項2の発明によれば、ロータには特定の回転位置の識別子としてマグネットが取り付けられ、センサはマグネットの近接を検出する磁気センサであるので、使用する部品が安価で済む上に信頼性の高い回転位置検出機構を実現できる。
【0016】
請求項3の発明によれば、制御部はモータを停止した際に磁気センサがマグネットの磁気を検出できない場合にアラームを発すので、作業者は異常の発生を容易に知ることができ、適切な対応を迅速に行うことが可能となる。
【0017】
請求項4の発明によれば、遠心分離機には、ロータ(バケット)に試料を保持する容器を装着及び取り外しを行う自動搬入出装置が接続され、制御部はアラームとして自動搬入出装置にエラー信号を送信するので、自動搬入出装置に接続される遠心分離機において、自動搬入出装置側に異常の発生を適切に通知することができる。この機構は、自動搬入出装置側が1台以上の遠心分離機の制御を行うような構成においても有用であり、自動搬入出装置による遠心分離機の遠隔管理の信頼性を大きく向上させることができる。
【0018】
請求項5の発明によれば、エラー信号を受信した自動搬入出装置は、遠心分離機からの試料の自動搬出を停止させるので、試料の搬出時及び次の試料搬入時の自動搬入出装置とロータの予期せぬ状態での接触による装置の異常停止を未然に防ぐ事ができる。
【0019】
請求項6の発明によれば、モータの回転中にセンサが特定の回転位置を検出したときのエンコーダで検出した回転角度が、記憶された正常時の回転角度に対して所定の値以上乖離したときに異常と判定するので、遠心運転中にロータとモータの固定に緩みが生じた場合に迅速に検知できる。
【0020】
請求項7の発明によれば、ロータには特定の回転位置の識別子としてマグネットが取り付けられ、センサとしてマグネットの近接を検出する磁気センサを用いるので、使用する部品が安価で済む上に信頼性の高い回転位置検出機構を実現できる。
【0021】
請求項8の発明によれば、遠心分離機には、ロータに試料の搬入及び搬出を行う自動搬入出装置が接続され、制御部はアラームとして自動搬入出装置にエラー信号を送信するので、自動搬入出装置に接続される遠心分離機において、自動搬入出装置側に異常の発生を適切に通知することができる。また、ロータとモータの固定に緩みが生じた状態での試料の搬出又は搬入を行うことを未然に防止できる。
【0022】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例に係る遠心分離機1及び自動搬入出装置20のシステム構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施例に係る遠心分離機1の回転停止時の異常検出手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施例に係る自動搬入出装置20の動作手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第二の実施例に係る遠心分離機1の遠心運転中の異常検出を行うための準備手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第二の実施例に係る遠心分離機1の遠心運転中の異常検出手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第二の実施例に係る遠心分離機1の正常時における識別子検出時のモータ回転角度を示す図である。
【図7】本発明の第二の実施例に係る遠心分離機1の異常時における識別子検出時のモータ回転角度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0024】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。
【0025】
図1は、本発明の実施例に係る遠心分離機1の全体構成を示す図である。遠心分離機1は、筐体2の内部に、遠心分離する試料を収容するスイング式のロータ3と、ロータ3とシャフト14を固定されてロータ3を回転駆動するモータ8を備え、ロータ3には識別子12が取付けられ、ロータ3が所定の回転角度で停止したときに識別子12を検出できる位置にセンサ13を設置する。識別子12はロータ3の円周上の一箇所に設けるのが好ましく、その場合、センサ13が検出する回転角度は1周に1箇所である。識別子12を円周上の一箇所に設けるのが好ましいとする理由は、一箇所のセンサ13で複数箇所の識別子12を検出する場合、ロータ3の停止位置にズレが生じていてもセンサ13が本来検出するべき識別子12とは別な位置に取り付けられた識別子を検出した場合に異常と判定することが難しくなるためであり、複数のセンサを用いる、あるいは別な検出方法を用いる等の工夫により発明の目的を達成できれば、識別子12は一箇所に限らなくても良い。識別子12はマグネットで構成し、センサ13には安価なホールICで構成できるが、マグネットやホールIC以外の非接触で検出できる公知のセンサを用いても良い。
【0026】
モータ8の回転軸には回転速度および回転角度を検出するためのエンコーダ10が取り付けられ、エンコーダ10によって検出されたモータ8の回転角度をもとに制御装置9がモータ8の回転制御を行う。制御装置9にはセンサ13の出力信号が入力され、検出信号を用いて識別子12の検出信号を監視する。ロータ3とシャフト14の固定に緩みが生じなければ、モータ8が所定位置で停止する度にセンサ13は識別子12の近接を検出する。仮に、何らかの原因によってロータ3とシャフト14の固定が緩んで取り付け角度がずれてしまうと、モータ8が所定位置に停止してもセンサ13は識別子12の近接を検出しないことになる。本実施例では、制御装置9に記憶装置11を設け、センサ13が識別子12の近接を検出した時のモータ8の回転角度を記憶装置11に記憶するようにした。制御装置9は、制御装置9の内部または外部に設けた公知の記憶手段を用いることができ、例えばEEPROMのような不揮発性メモリを用いることができる。
【0027】
遠心分離機1の近傍には自動搬入出装置20が設けられる。自動搬入出装置20の運搬機構は、水平面移動アーム21と、水平面移動アーム21に取り付けられる昇降アーム22と、昇降アーム22の下に設けられるハンド23によって構成され、試料の入った容器を保持するラックをロータ3のバケット4に自動で搬入又は搬出する。尚、バケット4にラックを搬入又は搬出する際には、遠心分離機1の小型のドア6が自動で開閉される。この開閉のために遠心分離機の制御装置9から制御可能な開閉機構が設けられるが、その開閉機構は公知の技術を用いればよいので、本明細書ではその説明を省略している。また、小型のドア6に加えて、ロータ3をロータ室5の内部へ装着し、又は取り外すための大型のドアが設けられるが図示を省略している。自動搬入出装置20には、水平面移動アーム21、昇降アーム22、ハンド23等の操作を制御する制御装置25が設けられ、制御装置25は制御装置9と通信線27を介して接続され、制御装置9と制御装置25で双方向に情報のやりとりを行うことができる。尚、制御装置9と制御装置25を同一の制御装置としても良い。
【0028】
図2は、本発明の実施例に係る遠心分離機1の停止制御時の異常検出を示すフローチャートである。このフローチャートで示す手順の制御は、制御装置9に含まれる図示しないマイクロコンピュータがコンピュータプログラムを実行することによって実現できる。最初に処理が開始されると自動搬入出装置20によって試料の入った容器(試験管)が装着された図示されていないラックがロータ3のバケット4に自動搬入される(ステップ51)。ここで、自動搬入出装置20によって搬入される部分はラック単位であっても良いし、試料の入った容器単位であっても良いが、ロータ3による遠心分離回転が可能な状態になるように、自動搬入出装置20で搬入動作を完了させることが重要である。
【0029】
次にユーザ(作業者)は、遠心運転を継続する時間である遠心運転時間や、ロータ室5を冷却する際の制御温度等の遠心運転条件を設定して、運転の開始を指示する(ステップ52)。遠心分離機1には遠心運転条件等を入力する操作部(図1では記載を省略)があり、遠心運転時間は作業者(ユーザ)が操作部から設定可能である。尚、遠心運転条件等の設定では、遠心分離機1側から入力するのではなく、自動搬入出装置20の制御装置25から、或いは他の外部制御装置から通信線27等を介して遠心分離機1の制御装置9に送信することにより設定するようにしても良い。尚、図2のフローチャートでは自動搬入出装置での試料搬入後に遠心運転条件の設定を行う例を示したが、試料搬入前に予め設定しておいても良いし、前回設定から変更が無い場合は設定作業を省略することも可能である。
【0030】
遠心分離運転が開始されると、制御装置9は設定された時間の遠心分離運転を行い(ステップ53)、設定時間が経過するまで遠心分離運転を継続させる(ステップ54)。ステップ53における遠心分離運転の制御は、公知の方法を用いて行えば良いのでここでの詳細な説明は省略する。また、ステップ53における遠心分離運転は、常に同じ遠心分離条件で行う必要はなく、途中でロータ3の回転数を高くする或いは低くする等の変化をつけても良いが、これらの制御方法も公知であるので説明を省略する。
【0031】
遠心運転を開始してから設定時間が経過すると、制御装置9はモータ8の停止命令を実行し、エンコーダ10によって検出したモータ8の回転角度を監視しながら、予め記憶した目標の回転角度で停止するようにモータ8を制御する(ステップ55)。尚、モータ8の停止命令は、遠心分離運転中にユーザ(作業者)による操作部からの操作によっても実行可能である。次に、エンコーダ10で検出したモータ8の回転角度を制御装置9が監視し、モータ8が所定の回転角度で停止したことを確認したら(ステップ56)、制御装置9はセンサ13が識別子12の近接を検出しているか識別子検出信号によって確認する(ステップ57)。センサ13が識別子12の近接を検出している場合、制御装置9は通常動作の正常停止と判断し、制御装置9は通信線27を介して自動搬入出装置20の制御装置25に遠心分離運転の正常運転終了を示すコードを送出する(ステップ58)。正常運転終了コードを受信した自動搬入出装置20の制御装置25は、水平面移動アーム21、昇降アーム22、ハンド23等の操作を行い、バケット4にセットされているラックをバケット4から取り外して所定の位置まで運搬する(ステップ59)。
【0032】
ステップ57においてセンサ13が識別子12の近接を検出しないときは、制御装置9はその状態を異常と判定してアラームを出力する(ステップ60)。アラームの出力の仕方は種々考えられるが、図示しない操作部の表示画面上にて「ロータの取り付け状態を確認してください。」等の表示をすると共に、アラーム音を発するように構成すると良い。次に、制御装置9は、通信線27を介して自動搬入出装置20の制御装置25に対してエラーが発生したことを示すエラー信号(エラーコード)を送出する(ステップ61)。エラーコードを受信した自動搬入出装置20は、ラックの搬出動作を中止することができる。この場合は、ユーザが状態を目視しながら手でバケット4からラックを搬出することができる。
【0033】
図3は、遠心分離機1から制御信号を受信した際の自動搬入出装置20の動作手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、自動搬入出装置20の制御装置25に含まれる図示しないマイクロコンピュータがコンピュータプログラムを実行することによってソフトウェア制御により実現することができる。
【0034】
遠心分離機1から自動搬入出装置20に送られる制御コードは、遠心分離機1の状態を示すコード、自動搬入出装置20から遠心分離機1に対する制御命令に対する応答を示すコード等、種々のコードが含まれる。遠心分離機1から自動搬入出装置20に制御コードが送られるタイミングは任意であるが、ここでは図2のステップ58、60にて遠心分離機1から自動搬入出装置20に制御コードが送られた場合の動作の例として説明する。
【0035】
まず、自動搬入出装置20は通信線27を介して遠心分離機1から送出された制御コードを受信する(ステップ71)。次に、自動搬入出装置20の制御装置25は、その制御コードが図2のステップ60で送出されたエラーコードであるか否かを判定する(ステップ72)。エラーコードで無くて、遠心分離の正常終了コードが含まれる場合は、試料の自動搬出動作を行う(ステップ73)。ステップ72において、制御コードがエラーコードである場合は、モータ8を停止した際にセンサ13がロータ3の識別子12を検出できない状態(図2のステップ60)であるので、自動搬入出装置20は自動搬出動作を中止し(ステップ75)、自動搬入出装置20側の表示装置(図示せず)に、異常が発生して動作を中止したことを示すアラーム表示を行い(ステップ76)、処理を終了する。また、ステップ74において自動搬出の際に正常終了しなかった場合も、アラーム表示を行って処理を終了する(ステップ76)。
【0036】
本実施例においてはロータ3とモータ8の固定に緩みが生じてロータが所望の回転角度で停止しなかった場合に、遠心分離機1は異常を検知できるだけでなく、自動搬入出装置20にエラーコードとして送信するので、エラーの発生通知を受けた自動搬入出装置20は自動搬出動作をただちに中止することができる。また、エラーの発生時には、遠心分離機1又は/及び自動搬入出装置20の表示装置にアラーム表示がされるので、ユーザは事後の適切な対応を行うことができる。
【0037】
以上、図2のフローチャートで示した手順では、遠心分離運転を行ってロータ3の回転が停止した際に停止状態が正常であるか否かを検出している。しかしながら、遠心分離運転開始前の停止時に図2のステップ56〜60の手順を実行して、自動搬入出装置20による試料の搬入に先だって回転位置が正常であるか否かを検出するようにしても良い。このように、遠心分離運転の開始前と開始後の双方の状態において、図2のステップ56〜60の手順を実行することにより信頼性が高い遠心分離機を実現することができる。
【実施例2】
【0038】
次に、図4〜図7を用いて、本発明の第二の実施例に係る遠心分離機1の遠心運転中の異常検出方法について説明する。図4は本発明の第二の実施例に係る遠心分離機1の遠心運転中の異常検出を行うための準備手順を示すフローチャートである。図4の手順では正常状態におけるセンサ13が識別子12の近接を検出した時のエンコーダ10によって検出されたモータ8の回転角度Xを記憶装置11に予め記憶させるものである。
【0039】
まず、図示しない操作部からの操作等によってティーチング開始の命令が実行されると制御装置9はティーチングモードに移行する。ティーチングモードは、例えば、製造工場内で遠心分離機1が組み上がった時、遠心分離機1を顧客に納入した時、又は納入後のメンテナンス時であってロータ、センサ、制御装置等の着脱や交換時に製造者またはサービスマンが行う。ティーチングモードに移行すると、制御装置9はモータ8を回転させる(ステップ81)。この際、ロータ3に取り付けられた識別子12がセンサ13に近接すると、センサ13は識別子検出信号を発し、制御装置9に識別子12の検出が伝達される(ステップ82)。制御装置9はエンコーダ10が検出したモータ8の回転角度とセンサ13からの識別子検出信号を監視し、正常状態における識別子検出時の回転角度Xを記憶装置11に記憶させる(ステップ83)。ここで、回転角度Xについて図6を用いて説明する。
【0040】
図6は遠心分離機1の正常時における識別子検出時のモータ回転角度を示す図である。図6において横軸はモータ8の回転角度であり、この角度はエンコーダ10によって検出される回転角度と等しい。これはエンコーダ10の構成要素がモータ8のシャフト14に取り付けられるためである。図6の状態では、識別子検出時の回転角度Xが約50度の場合を示している。本実施例の構成においては、ロータ3が0度の位置(矢印101)から1回転して再び0度の位置(矢印102)に到達するまでに、識別子の検出が一回だけ(Xのみ)である。
【0041】
再び図4のフローチャートに戻る。ステップ83において、図6で示した識別子検出時の回転角度Xを記憶装置11に記憶したらティーチング終了となる。尚、ステップ82による検出は、一回転だけの検出でなく、複数回転させて回転角度のデータを複数取得して算出するようにすればより精度が高まる。
【0042】
次に、遠心運転中における異常検出処理の手順について図5のフローチャートで説明する。図5は、まず、自動搬入出装置20により試料の搬入が完了すると、制御装置9は遠心運転を開始する。遠心運転を開始すると、制御装置9はモータ8を加速して設定された回転速度で回転させる(ステップ91)。モータ8が回転すると、ロータ3に取り付けられた識別子12がセンサ13に近接する毎にセンサ13は識別子検出信号を発して制御装置9に出力する。この出力信号を用いて制御装置9はモータ8の回転位置を検出する(ステップ92)。ここで、自然数nを用いてn番目の識別子検出と表現する。制御装置9はエンコーダ10が検出したモータ8の回転角度とセンサ13からの識別子検出信号を監視し、n番目の識別子検出時における回転角度Xを記憶装置11に記憶する(ステップ93)。
【0043】
次に制御装置9は、図6で説明したティーチングによって予め記憶装置11に記憶しておいた正常状態における識別子検出時の回転角度Xとn番目の識別子検出時における回転角度Xを比較し、両者の差の絶対値が所定の乖離許容値A未満か否かを確認する(ステップ94)。ここで、n番目の識別子検出時における回転角度Xが、正常状態での識別子検出時における回転角度Xとの差の絶対値が乖離許容値A未満の場合は、ステップ91に戻り制御装置9はモータ回転を続行する(ステップ91)。回転角度Xと回転角度Xとの差の絶対値が乖離許容値A以上の場合は、制御装置9はモータ8の強制的な減速を開始させて(ステップ95)、エラーが発生した事を示すアラームを出力する(ステップ96)
【0044】
通常、ロータ3とモータ8の固定に緩みが生じてその相対的な位置がずれることはほとんど考えられない。しかしながら、万が一そのような状況が生じてしまったとしても、本実施例の構成では回転角度Xと回転角度Xを比較して監視することによって、ロータ3の回転中に迅速に異常状態を検知することができる。また、異常状態を検知した場合には、通常あり得ないような状態であることから、自動搬入出装置20によるその後の制御をストップさせてユーザによって事後の対応が可能なように、モータ8の強制的な減速を開始し(ステップ95)、音や画面表示によってアラームを出力するようにした(ステップ96)。さらに、エラーが生じたことを示すエラーコードを自動搬入出装置20に送信して、処理を終了する(ステップ97)。エラーコードを受信した自動搬入出装置20側の処理は、図3で示す手順を実行すればよく、エラーが発生したら自動搬入出装置20の動作を停止させることができる。
【0045】
ここで、図7を用いて、ロータの回転角度のズレを検出する状態を説明する。図7は遠心分離機1の異常時における識別子検出時のモータ回転角度を示す図である。ロータ3が回転を開始すると、回転角が約50度の位置にてセンサ13が識別子12の近接を検出する。回転1回目の回転角度がXである。ここで、何らかの理由によってロータ3とモータ8の円周方向の相対的な位置がずれた場合は、n番目の回転角度Xn+1のように、正常状態での回転角度X(図中点線で示す位置)との差が生じてくる。図中で、回転角度Xではこの差が、許容できる誤差の範囲が乖離許容値A内におさまっている。しかしながら、(n+1)番目の識別子検出時における回転角度Xn+1は、正常状態での識別子検出時における回転角度Xとの差の絶対値が乖離許容値A以上となるため、制御装置9はこの状態を異常と判定し、アラームを出力する。尚、図7では説明のために乖離許容値Aの範囲を大きく図示しているが、実際には自動搬入出装置による試料の搬入又は搬出位置や遠心分離機1のロータ3停止位置等を考慮し、試料の搬入又は搬出時の自動搬入出装置と試料の予期せぬ状態での接触による装置の異常停止を防ぐことが可能な値に設定する。
【0046】
以上のように、第二の実施例では遠心運転中にも、ロータに取り付けられた識別子をセンサが検出した時のモータの回転角度Xと、正常状態での識別子検出時における回転角度Xを比較することによって、所定以上の乖離が認められた場合にこれを異常と判定してアラームを出力するので、ロータのがたつきなどの異常状態を即座に検出することができる。
【0047】
以上、本発明を示す実施例に基づき説明したが、本発明は上述の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、本実施例では自動搬入出装置20を接続された遠心分離機1の例で説明したが、自動搬入出装置20を接続されていないで試料の搬入又は搬出を手動で行う遠心分離機であっても本発明は適用可能である。また、遠心分離機からエラーの発生を報告する外部装置は、自動搬入出装置20だけでなく、ホストコンピュータやサーバー等の制御装置であっても良い。
【符号の説明】
【0048】
1 遠心分離機 2 筐体 3 ロータ 4 バケット
5 ロータ室 6 ドア 8 モータ 9 制御装置
10 エンコーダ 11 記憶装置 12 識別子
13 センサ 14 シャフト 20 自動搬入出装置
21 水平面移動アーム 22 昇降アーム 23 ハンド
25 制御装置 27 通信線
記憶手段に予め記憶させた識別子検出時の正常なモータ回転角度
n番目の識別子検出時におけるモータ回転角度(但し、nは自然数)
n+1 (n+1)番目の識別子検出時におけるモータ回転角度(但し、nは自然数)
A XとXの乖離許容値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心分離される試料を収容するロータと、
前記ロータを回転駆動するモータと、
前記ロータの特定の回転位置を非接触で検出するセンサと、
前記モータの回転角度を検出するエンコーダと、
前記センサと前記エンコーダの出力信号を用いて前記モータの回転を制御する制御部を有する遠心分離機であって、
前記制御部は、
前記センサが回転位置を検出できる回転角度に前記モータを停止するように制御し、
前記モータを停止した際に前記センサが回転位置を検出できない場合はアラームを発することを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
前記ロータには特定の回転位置の識別子としてマグネットが取り付けられ、
前記センサは前記マグネットの近接を検出する磁気センサであることを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項3】
前記制御部は、前記モータを停止した際に前記磁気センサが前記マグネットの磁気を検出できない場合にアラームを発することを特徴とする請求項2に記載の遠心分離機。
【請求項4】
前記遠心分離機には、前記ロータに試料を保持する容器を装着及び取り外しを行う自動搬入出装置が接続され、
前記制御部は、アラームとして前記自動搬入出装置にエラー信号を送信することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の遠心分離機。
【請求項5】
前記自動搬入出装置は、エラー信号を受信したら前記遠心分離機からの試料の自動取り外しを停止することを特徴とする請求項4に記載の遠心分離機。
【請求項6】
遠心分離される試料を収容するロータと、
前記ロータを回転駆動するモータと、
前記ロータの特定の回転位置を非接触で検出するセンサと、
前記モータの回転角度を検出するエンコーダと、
前記センサと前記エンコーダの出力信号を用いて前記モータの回転を制御する制御部を有する遠心分離機であって、
前記制御部は、
前記センサが特定の回転位置を検出したときの前記エンコーダで検出した回転角度を記憶し、
前記モータの回転中に、前記センサが特定の回転位置を検出したときの前記エンコーダで検出した回転角度が、記憶された回転角度に対して所定の値以上乖離したときに前記モータを停止することを特徴とする遠心分離機。
【請求項7】
前記ロータには特定の回転位置の識別子としてマグネットが取り付けられ、
前記センサは前記マグネットの近接を検出する磁気センサであることを特徴とする請求項6に記載の遠心分離機。
【請求項8】
前記遠心分離機には、前記ロータに試料を保持する容器を装着及び取り外しを行う自動搬入出装置が接続され、
前記制御部は、前記モータを停止させた際に前記自動搬入出装置にエラー信号を送信することを特徴とする請求項7に記載の遠心分離機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−200630(P2012−200630A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65380(P2011−65380)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】