説明

遠心分離装置

【課題】細胞群を効率的に洗浄して、不要成分が除去された細胞群を含む細胞懸濁液を回収するための装置の提供。
【解決手段】モータ2と、該モータ2の軸線から半径方向外方に延び、該モータ2により回転させられるアーム4と、該アーム4の先端に、該アーム4の長手軸に交差する揺動軸回りに揺動可能に支持され、細胞懸濁液を収容する遠心分離容器6と、揺動軸に設けられ、アーム4の回転によって発生する遠心力による遠心分離容器6の揺動を押し戻す方向に付勢力を発生させる弾性部材と、モータ2の駆動トルクをステップ状またはパルス状に変動させる制御部7とを備える遠心分離装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、脂肪組織を分解して脂肪由来細胞を単離させた細胞懸濁液を収容した遠心分離容器を、該遠心分離容器から離れた軸線回りに回転させることにより、細胞懸濁液内に含有されている成分を比重により分離する遠心分離装置が知られている(特許文献1参照。)。
遠心分離容器は、一端を閉塞された略円筒状に形成され、その閉塞端を半径方向外方に向けるように回転させられることにより、閉塞端に向けて比重の大きい成分が移動し、閉塞端側から比重の大きい順に並んで分離されるようになっている。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/012480号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、細胞懸濁液を遠心分離することにより遠心分離容器の底部に分離された細胞群は遠心力によって押し固められた固形のペレット状に形成されてしまうという不都合がある。すなわち、細胞群がペレット状に形成されてしまうと、遠心分離後の細胞群を吸引により遠心分離容器内から取り出すことが困難になる。また、遠心分離時に細胞群の中にタンパク質分解酵素や脂肪分のような不要成分が取り込まれたままペレット状に形成されてしまうことがあり、不要成分を除去することが困難となる。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、細胞群を効率的に洗浄して不要成分が除去された細胞群を含む細胞懸濁液を回収することができる遠心分離装置および遠心分離方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、モータと、該モータの軸線から半径方向外方に延び、該モータにより回転させられるアームと、該アームの先端に、該アームの長手軸に交差する揺動軸回りに揺動可能に支持され、細胞懸濁液を収容する遠心分離容器と、前記揺動軸に設けられ、前記アームの回転によって発生する遠心力による前記遠心分離容器の揺動を押し戻す方向に付勢力を発生させる弾性部材と、前記モータの駆動トルクをステップ状またはパルス状に変動させる制御部とを備える遠心分離装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、モータを駆動してアームを回転させると、アームの先端に配置された遠心分離容器に遠心力が作用し、遠心力によって遠心分離容器が揺動軸回りに揺動させられて、底面を半径方向外方に向けて回転させられる。これにより、遠心分離容器内に収容されている細胞懸濁液は、遠心力によって遠心分離され、比重の大きな細胞群が遠心分容器の底面に堆積される。
【0008】
この場合において、制御部がモータの駆動トルクをステップ状またはパルス状に変動させると、遠心分離容器が駆動トルクによって加振され、駆動トルクの静定後あるいは消滅後は、遠心力と弾性部材の付勢力とのバランスによって揺動軸回りに振動させられる。その結果、遠心分離容器とその内部に収容されている細胞懸濁液との間に相対的な移動が発生し、遠心分離容器内において細胞懸濁液が流動し、攪拌される。したがって、遠心分離によって遠心分離容器の底面にペレット状に凝集した細胞群を攪拌によりほぐすことができ、新たな洗浄液を供給して攪拌することにより、細胞群を効率的に洗浄して不要成分が除去された細胞群を含む細胞懸濁液を回収することができる。
【0009】
上記発明においては、前記アームと前記遠心分離容器との間に、該遠心分離容器を前記揺動軸回りに揺動可能に支持する支持部材を備え、該支持部材が、前記アームの長手軸回りに回転可能に支持されていてもよい。
このようにすることで、遠心分離容器に作用する遠心力によって、アームの長手軸回りの支持部材の回転と、揺動軸回りの遠心分離容器の揺動という異なる2軸回りの回転によって、遠心分離容器をより複雑に揺動させて、内部の細胞懸濁液をさらに効率的に攪拌することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記支持部材と前記アームとの間に前記長手軸回りの付勢力を発生させる他の弾性部材が配置されていてもよい。
このようにすることで、支持部材がアームの長手軸回りに回転する際にも、他の弾性部材の付勢力と遠心力とのバランスによって、遠心分離容器をより複雑に振動的に揺動させて、内部の細胞懸濁液をさらに効率的に攪拌することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、細胞群を効率的に洗浄して不要成分が除去された細胞群を含む細胞懸濁液を回収することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る遠心分離装置1について、図1〜図6を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離装置1は、図1に示されるように、モータ2と、鉛直方向に配置され、モータ2により回転駆動される回転軸3と、該回転軸3に固定され、半径方向外方に向かって延びる梁状のアーム4と、該アーム4の両端にアーム4の長手軸に直交する軸線(揺動軸)5a回りに揺動可能に支持された2つの保持部5と、該保持部5にそれぞれ着脱可能に支持される2つの遠心分離容器6と、モータ2を制御する制御部7とを備えている。なお、モータ2により直接回転軸3を回転させることとしたが、これに代えて、例えば、モータ2と回転軸3との間に変速機等の歯車機構を介在させてもよい。歯車機構は平歯車でもよいし傘歯車でもよい。傘歯車にすれば、モータを横置きすることが可能となり、装置全体の高さ寸法を低減することができる。また、ベルトプーリ機構等を用いてモータ2の回転駆動力を回転軸3に伝達してもよい。
【0013】
遠心分離容器6は、図2に示されるように、一端が開口し、他端がテーパ状に漸次先細になって閉塞されている略円筒状の容器本体6aと、該容器本体6aの開口部6bを閉塞する蓋体6cと、該蓋体6cの中央から容器本体6aの軸線に沿って延び、洗浄液を供給したり上清を吸引したりする配管6dと、最終生成物としての細胞群を含む細胞懸濁液を吸引する吸引管6eとを備えている。
【0014】
アーム4と保持部5との間には、図3に示されるように、アーム4に対して保持部5を揺動軸5a回りに揺動自在に支持するベアリング8と、アーム4に対する保持部5の揺動角度に応じた付勢力を発生する捩りバネ9とが配置されている。捩りバネ9は、遠心分離容器6が鉛直下方に底面を配置した図1の状態(初期位置、中立位置)、すなわち、アーム4の回転停止状態で中立位置に配置される一方、遠心分離容器6に遠心力が作用して底面が半径方向外方に向かうように揺動させられると、その揺動を押し戻す方向に付勢力を発生させるようになっている。
【0015】
制御部7は、モータ2を所定の回転速度で回転させる第1のモードと、図4に示されるように、駆動トルクをパルス状(またはステップ状)に変化させる第2のモードとにより、モータ2を回転駆動させることができるようになっている。すなわち、細胞懸濁液Aを遠心分離させる際には第1のモードによって所定の回転速度でモータ2を駆動して細胞に所定の遠心力を作用させ、細胞を比重によって分離する一方、遠心分離された細胞を洗浄液とともに攪拌する際には、第2のモードによってモータ2を駆動するようになっている。
【0016】
このように構成された本実施形態に係る遠心分離装置1の作用について説明する。
本実施形態に係る遠心分離装置1を用いて細胞懸濁液A内の細胞を遠心分離するには、図5に示されるように、まず、アーム4の両端に設けられた保持部5内に遠心分離容器6を保持させ、該遠心分離容器6内に細胞懸濁液Aを収容する(ステップS1)。この状態で、制御部7が第1のモードによりモータ2を回転駆動する(ステップS2)。第1のモードにおいては、予め定められた1以上の回転速度および回転時間でモータ2を回転駆動する。
【0017】
遠心分離容器6を保持している保持部5は、アーム4の両端に揺動可能に取り付けられているので、モータ2の回転駆動により、回転軸3およびアーム4が回転させられると、アーム4に対して保持部5が揺動して容器本体6aの底部が半径方向外方に向かう姿勢に変化して回転させられる。これにより、図6に示すように、揺動方向である矢印θ方向で(アーム4の回転半径方向外方に)遠心分離容器6内の細胞懸濁液Aには容器本体6aの底部に向かう方向に遠心力Fが作用し、細胞懸濁液A内の細胞の比重に応じて、比重が大きい順に容器本体6aの底面側から順に堆積されていく。
【0018】
この第1のモードにおいては、モータ2が所定の回転速度で回転させられるので、遠心分離容器6は励振されず、遠心分離容器6とその内部の細胞懸濁液Aとは相対的に移動することなく一体的に揺動させられる。したがって、細胞群は攪拌されることなく明確な境界面によって上清から分離される。
【0019】
この後に、モータ2を一旦停止し、配管6dを介して上清を吸引する(ステップS3)。その後、配管6dを容器本体6a内に残った細胞群に対して洗浄液を供給する(ステップS4)。細胞群がペレット状に凝集していても、供給される洗浄液の流動エネルギによってある程度攪拌される。
【0020】
この状態で、制御部7は、第2のモードによってモータ2を回転駆動する(ステップS5)。
第2のモードにおいては、モータ2の駆動トルクがパルス状に変化させられるので、図6に示されるように、駆動トルクが発生している状態では、大きな遠心力Fが作用して遠心分離容器6は加振されて大きく揺動し、捩りバネ9に弾性エネルギが蓄えられる。この状態で、駆動トルクが消滅した場合には、捩りバネ9に蓄えられた弾性エネルギが放出される方向、すなわち、遠心分離容器6の揺動を押し戻す方向の付勢力Fが遠心力Fよりも支配的になって、揺動角度が小さくなる。
【0021】
保持部5はベアリング8によってアーム4に回転自在に支持されているので、その減衰係数は小さく抑えられており、駆動トルク消滅後の揺動動作は、図4に示されるように振動的となる。
この場合に、遠心分離容器6が揺動軸5a回りに振動的に揺動させられると、図7に示されるように、容器本体6aとその内部に収容されている細胞懸濁液Aとの間には相対的な移動が発生し、細胞懸濁液Aは容器本体6a内において流動させられる。
【0022】
その結果、容器本体6aの底面に堆積していた細胞群は、細胞懸濁液Aの流動によって攪拌される。したがって、細胞群がペレット状に凝集していても、効率的に攪拌してほぐすことができる。
【0023】
遠心分離により凝集した細胞群の中には、不要な組織片や消化液成分等が巻き込まれるようにして保持されてしまっている場合があるので、細胞群をほぐすように攪拌することにより、そのような不要な組織片や洗浄液成分を細胞群から解放して放出させることができる。
そして、再度第1のモードによりモータ2を回転駆動する(ステップS6)。これにより、不要な成分を放出した細胞群を遠心分離することができる。
【0024】
必要により、ステップS3〜S6を繰り返すことにより、細胞群内に含有される不要な成分の濃度を十分に低減した清浄な細胞群を得ることができる(ステップS7)。そして、容器本体6a内に得られた細胞群を回収する前に、もう一度、第2のモードによってモータ2を回転駆動する(ステップS8)。これにより、回収される細胞群がペレット状に凝集された状態から攪拌によりほぐされて洗浄液内に均一に分散した細胞懸濁液を生成することができる。
【0025】
このようにして生成された細胞懸濁液は、吸引管6eを介して吸引することにより、細胞群を容器本体6a内に残すことなく吸引回収することができる(ステップS9)。したがって、本実施形態に係る遠心分離装置1によれば、細胞の収率を向上することができるという利点がある。
【0026】
なお、本実施形態に係る遠心分離装置1においては、アーム4に対して保持部5をベアリング8によって揺動自在に支持することとしたが、ベアリング8の種類は問わず、ボールベアリングのみならず、含油軸受や摺動スリーブ等を採用してもよい。
【0027】
また、図8に示されるように、アーム4と保持部5との間に支持部材10を配置し、支持部材10および保持部5をアーム4の長手軸10a回りにベアリング11によって揺動自在に支持し、かつ、両者間に長手軸4a回りの付勢力を発生させる捩りバネ(他の弾性部材)12を配置することにしてもよい。このようにすることで、遠心分離容器6の揺動をより複雑に行わせることができ、容器本体6a内において細胞懸濁液Aを複雑に流動させて効率的な攪拌を行うことが可能となる。
【0028】
上記実施形態においては、遠心分離容器6をアーム4の両端にそれぞれ設けた構成を例示したが、遠心分離容器6は1個または3個以上であってもよい。遠心分離容器6を1個にした場合には、回転バランスを調整するためにアーム4の他端に細胞懸濁液Aを収容した遠心分離容器6の重さに相当する重さの錘を設けることにすればよい。遠心分離容器6を3個以上とする場合には、例えば、遠心分離容器6の数と同じ数のアームを設け、アームどうしを均等角度で配置することにより回転バランスがよい。
【0029】
遠心分離装置1は、揺動軸5aを介して遠心分離容器6を揺動させる構成を有しているので、上記のように、例えば、各遠心分離容器6を均等角度で配置すると、その回転バランスを一層良好にすることができる。特に、パルス状の駆動トルクが付与される第2のモードでの運転時における装置全体での振動の発生を有効に低減することができる。言い換えると、上記実施形態では一方向に延びたアーム4の両端に遠心分離容器6を配置しているので、良好な回転バランスが担保されており、遠心分離容器6が揺動・振動させられた際の装置全体の揺れや振動の発生を有効に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る遠心分離装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の遠心分離装置に備えられる細胞懸濁液を収容した状態の遠心分離容器を示す縦断面図である。
【図3】図1の遠心分離装置のアームと保持部との取付構造を示す部分的に破断した平面図である。
【図4】図1の遠心分離装置の第2のモードによるモータの駆動トルク、回転速度および遠心分離容器の揺動角度の時間変化を示すグラフである。
【図5】図1の遠心分離装置による遠心分離方法を説明するフローチャートである。
【図6】図1の遠心分離装置における遠心分離容器に加わる力を説明する全体構成図である。
【図7】図6の遠心分離装置における遠心分離容器の動作と、内部の細胞懸濁液の動作を説明する図である。
【図8】図1の遠心分離装置のアームと保持部との取付構造の変形例を示す部分的に破断した平面図である。
【符号の説明】
【0031】
A 細胞懸濁液
遠心力
付勢力
1 遠心分離装置
2 モータ
4 アーム
5 保持部
5a 揺動軸
6 遠心分離容器
7 制御部
9 捩りバネ(弾性部材)
10 支持部材
10a 長手軸
12 捩りバネ(他の弾性部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
該モータの軸線から半径方向外方に延び、該モータにより回転させられるアームと、
該アームの先端に、該アームの長手軸に交差する揺動軸回りに揺動可能に支持され、細胞懸濁液を収容する遠心分離容器と、
前記揺動軸に設けられ、前記アームの回転によって発生する遠心力による前記遠心分離容器の揺動を押し戻す方向に付勢力を発生させる弾性部材と、
前記モータの駆動トルクをステップ状またはパルス状に変動させる制御部とを備える遠心分離装置。
【請求項2】
前記アームと前記遠心分離容器との間に、該遠心分離容器を前記揺動軸回りに揺動可能に支持する支持部材を備え、
該支持部材が、前記アームの長手軸回りに回転可能に支持されている請求項1に記載の遠心分離装置。
【請求項3】
前記支持部材と前記アームとの間に前記長手軸回りの付勢力を発生させる他の弾性部材が配置されている請求項2に記載の遠心分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−115143(P2010−115143A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290184(P2008−290184)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】