説明

遠心分離装置

【課題】細胞収率の低下を防止するとともに、効率的に細胞群の洗浄を行うことができる遠心分離装置を提供する。
【解決手段】細胞懸濁液を収容し、回転軸11に支持された少なくとも1つの遠心容器30と、遠心容器30の底部を半径方向外方に向けて、遠心分離容器を回転軸11回りに回転させる第1の回転機構10と、遠心容器30を遠心容器30の中心軸線回りに回転させる第2の回転機構20とを備える遠心分離装置1を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞懸濁液を収容し、底部を半径方向外方に向けて回転させられる遠心分離容器と、遠心分離容器を回転させる回転駆動機構と、回転駆動機構による回転速度を周期的に変動させる制御部とを備える遠心分離装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記の遠心分離装置の遠心分離容器には、細胞懸濁液を収容する筒状の容器本体の底部近傍に配置され、回転速度の変動により容器本体に対して相対的に変位可能に設けられた可動体が備えられている。このような構成を有することで、遠心分離容器の回転速度を変動させることにより、容器本体内に配置されている可動体に作用する遠心力も変動するので、可動体が容器本体に対して相対的に移動させられる。その結果、容器の底部に遠心分離されたペレット状の細胞群が攪拌され、簡易的に細胞群を洗浄して不要成分を除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−115175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている遠心分離装置によれば、遠心分離容器の回転速度を変動させることで、可動体を振動させてペレット状の細胞を攪拌するので、細胞群に作用する遠心力が不十分になり、可動体で攪拌された細胞群が容器内に再浮揚してしまう可能性がある。これにより、細胞収率の低下を招き、また、再度遠心分離が必要となるため処理に要する時間が長くなるという不都合がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、細胞収率の低下を防止するとともに、効率的に細胞群の洗浄を行うことができる遠心分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、細胞懸濁液を収容し、回転軸に支持された少なくとも1つの遠心容器と、該遠心容器の底部を半径方向外方に向けて、前記遠心容器を前記回転軸の軸線回りに回転させる第1の回転機構と、前記遠心容器を前記遠心容器の中心軸線回りに回転させる第2の回転機構とを備える遠心分離装置を採用する。
【0008】
本発明によれば、遠心容器内に細胞懸濁液を収容して、第1の回転機構を作動させることで、遠心容器が底部を半径方向外方に向けて回転軸の軸線回りに回転させられる。これにより、比重の違いにより細胞懸濁液中の各成分が遠心分離され、遠心容器の底部最下層には比重の大きな細胞群が集められ、その上層には脂質や血漿等の上清が集められる。
【0009】
また、第2の回転機構を作動させることで、遠心容器が遠心容器の中心軸線回りに回転させられる。これにより、遠心容器内の細胞群に対して、第1の回転機構による半径方向外方(回転軸に直交する方向)の遠心力と、第2の回転機構による遠心容器の中心軸線に直交する方向(回転軸に沿う方向)の遠心力とが加えられる。すなわち、遠心容器内の細胞群には、互いに直交する2方向の遠心力が加えられ、これらの方向に押し付けられる。これにより、遠心容器内の細胞群を、遠心容器内において薄く引き延ばして、細胞群中に含まれる不純物を上清中に放出することができ、細胞群を再懸濁させることなく、細胞群を効率的に洗浄することができる。
【0010】
上記発明において、前記第2の回転機構が、前記第1の回転機構による回転駆動力を、前記第2の回転機構に伝達する伝達機構を備えることとしてもよい。
このようにすることで、伝達機構により、第1の回転機構による回転駆動力を第2の回転機構に伝達することができ、モータ等の回転駆動部を減らして装置を簡略化することができる。
【0011】
上記発明において、前記遠心容器が、細胞懸濁液を収容する内部容器と、該内部容器を収容し、前記内部容器を前記中心軸線回りに回転可能に支持する外部容器と、前記内部容器に固定され、前記外部容器の外径よりも大きな外径を有する円柱部材とを備え、前記伝達機構が、前記遠心容器の底部を半径方向外方に向けた状態で、前記円柱部材の側面に当接する当接部材を有することとしてもよい。
【0012】
このようにすることで、遠心容器の底部を半径方向外方に向けた状態で、外部容器の外径よりも大きな外径を有する円柱部材の側面に当接部材を当接することで、第1の回転機構を作動させた場合に、第1の回転機構による回転駆動力を第2の回転機構に伝達することができる。これにより、モータ等の回転駆動部を減らして装置を簡略化することができる。
【0013】
上記発明において、前記伝達機構が、前記当接部材を前記回転軸の軸線回りに回転させるモータを有することとしてもよい。
このようにすることで、モータにより当接部材を回転軸の軸線回りに回転させることで、遠心容器の中心軸線回りの回転速度を変化させることができる。これにより、半径方向外方(回転軸に直交する方向)の遠心力と、遠心容器の中心軸線に直交する方向(回転軸に沿う方向)の遠心力とのバランスを変化させて、遠心容器内の細胞群の状態を変化させることができ、効率的に細胞群中に含まれる不純物を上清中に放出させることができる。
【0014】
上記発明において、前記伝達機構が、前記当接部材を前記回転軸の軸線に沿う方向に移動させる移動手段を有することとしてもよい。
このようにすることで、当接部材を円柱部材に当接させるか否か、すなわち、遠心容器を中心軸線回りに回転させるか否かを制御することができる。これにより、半径方向外方(回転軸に直交する方向)の遠心力と、遠心容器の中心軸線に直交する方向(回転軸に沿う方向)の遠心力とのバランスを変化させて、遠心容器内の細胞群の状態を変化させることができ、効率的に細胞群中に含まれる不純物を上清中に放出させることができる。
【0015】
上記発明において、前記遠心容器の底部近傍に開口する管路と、該管路から前記遠心容器内の液体を吸引する吸引手段とを備えることとしてもよい。
このようにすることで、第1の回転機構および第2の回転機構を作動させることによって、互いに直交する2方向の遠心力が加えられて遠心容器内において細胞群が薄く引き延ばされた状態において、吸引手段を作動させ、管路により遠心容器の底部近傍から上清等を吸引することができる。これにより、細胞群を排出することなく、遠心容器内の上清のみを排出することができ、細胞群の洗浄性を向上することができる。
【0016】
上記発明において、前記遠心容器の内部に洗浄液を供給する洗浄液供給手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、洗浄液を遠心容器内に供給することで、細胞群を再懸濁させ、細胞群中に含まれる不純物を洗浄液中に放出させることができる。そして、この洗浄液を、第1の回転機構および第2の回転機構を作動させることによって遠心容器内において細胞群が薄く引き延ばされた状態において、吸引手段により管路を介して遠心容器の底部近傍から吸引することができる。これにより、細胞群に含まれる不純物を除去することができ、細胞群の純度を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、細胞収率の低下を防止するとともに、効率的に細胞群の洗浄を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る遠心分離装置の概略構成図である。
【図2】図1の遠心分離装置の部分拡大図である。
【図3】図1の遠心容器の上視図である。
【図4】図1の遠心容器の部分拡大図である。
【図5】図1の遠心分離装置の遠心回転時の状態を示す図である。
【図6】図1の遠心分離装置の遠心回転および自転時の状態を示す図である。
【図7】図1の遠心分離装置による遠心処理工程の状態を示す図である。
【図8】図1の遠心分離装置による洗浄工程の状態を示す図である。
【図9】図1の遠心分離装置による最終生成物回収工程の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る遠心分離装置について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る遠心分離装置1は、図1に示すように、回転軸11に支持された複数の遠心容器30と、遠心容器30を回転軸11の軸線L1回りに回転させる第1の回転機構10と、遠心容器30を遠心容器30の中心軸線回りに回転させる第2の回転機構20と、これらを制御する制御部5とを備えている。
【0020】
第1の回転機構10は、鉛直方向に配置された回転軸11と、回転軸11から半径方向外方に延びた複数のアーム12と、回転軸11に固定されたプ―リ13と、モータ14と、モータ14の回転駆動力をプ―リ13に伝達する伝達ベルト15と、回転軸11の軸線方向に移動可能に設けられた直動支持体16とを備えている。
【0021】
上記構成を有することで、第1の回転機構10は、モータ14を回転させることで、その回転駆動力を伝達ベルト15およびプ―リ13を介して回転軸11に伝達し、回転軸11とアーム12とを一体的に回転軸11の軸線L1回りに回転させるようになっている。
【0022】
また、図2に示すように、直動支持体16は、回転軸11の軸線方向に移動可能なスライダー16aと、スライダー16aに固定され、スライダー16aを包含するハウジング16bとを備えている。回転軸11には軸線L1方向に複数の溝(図示略)が設けられるとともに、スライダー16aの内部には複数の鋼球(図示略)が設けられており、これら鋼球が回転軸11に設けられた溝上を転がるようになっている。すなわち、回転軸11とスライダー16aはボールスプラインを構成しており、スライダー16aおよびハウジング16b(すなわち直動支持体16)が回転軸11の軸線方向に移動できるようになっている。
【0023】
第2の回転機構20は、図1に示すように、第1の回転機構10の直動支持体16にベアリング22を介して固定された円筒形のハウジング21と、ハウジング21に固定されたプ―リ23と、モータ24と、モータ24の回転駆動力をプ―リ23に伝達する伝達ベルト25と、ハウジング21の上面に設けられた天板(当接部材)26とを備えている。
【0024】
上記構成を有することで、第2の回転機構20は、モータ24を回転させることで、その回転駆動力を伝達ベルト25およびプ―リ23を介してハウジング21に伝達し、ハウジング21と天板26とを一体的に回転軸11の軸線L1回りに回転させるようになっている。
【0025】
また、図2に示すように、ハウジング21は、直動支持体16の外側にベアリング22を介して固定されている。これにより、ハウジング21の内側において、モータ14の回転駆動力により回転軸11が軸線L1回りに回転できるようになっている。
【0026】
また、第2の回転機構20は、図1に示すように、回転軸11の軸線L1に直交する軸線回りに回転するモータ(移動手段)27と、モータ27の回転軸に接続されたカム28と、ハウジング21に固定され、カム28により回転軸11の軸線L1に沿う方向に付勢される被付勢部材29とを備えている。
【0027】
上記構成を有することで、第2の回転機構20は、モータ27を回転させることで、その回転軸に固定されたカム28を回転させ、被付勢部材29を回転軸11の軸線L1に沿う方向に付勢するようになっている。すなわち、モータ27を回転させることで、第2の回転機構20は、回転軸11の軸線方向に移動できるようになっている。
【0028】
遠心容器30は、細胞懸濁液を収容して遠心分離する容器であり、図1および図3に示すように、アーム12に回転自在なピン12aを介して連結されることで、アーム12により揺動自在に支持されている。
【0029】
ここで、細胞懸濁液は、例えば脂肪組織等の生体組織に消化酵素を加えて攪拌することで、脂肪組織を構成する脂肪由来細胞等(細胞群)が単離されて浮遊した懸濁液である。この細胞懸濁液は、図示しない消化容器で生成して遠心容器30内に供給することとしても良く、あるいは遠心容器30内で生成することとしてもよい。
【0030】
遠心容器30は、図4に示すように、細胞懸濁液を収容する内部容器31と、内部容器31を支持する内部バケット32と、内部バケット32の外側に配置された外部バケット(外部容器)33とを備えている。
【0031】
内部容器31は、細胞懸濁液を収容する容器であり、有底円筒状に形成され、上面に蓋31aが設けられて内部が密閉されるようになっている。また、内部容器31の内部には、洗浄液を供給するための管路37(図7参照)と、内部の液体を吸引するための管路38(図7参照)が、内部容器31の中心軸線L2に沿う方向にそれぞれ設けられている。
【0032】
管路37は、内部容器31の深さ方向の途中位置に開口しており、図示しないポンプ等の洗浄液供給手段に接続されている。これにより、管路37により内部容器31内に洗浄液を供給できるようになっている。
管路38は、内部容器31の底部近傍に開口しており、図示しないポンプ等の吸引手段に接続されている。これにより、管路38により内部容器31の底部近傍から上清等を排出できるようになっている。
【0033】
内部バケット32は、内部容器31の外側に配置され、内部容器31を支持(固定)するようになっている。内部バケット32には、外部バケット33の外径よりも大きな外径を有する円柱部材35が固定されている。
【0034】
外部バケット33は、内部バケット32の外側に配置され、内部バケット32をベアリング34を介して支持するようになっている。このような構成を有することで、内部バケット32およびその内部に収容された内部容器31は、内部容器31の中心軸線L2回りに回転できるようになっている。
【0035】
上記構成を有する遠心分離装置1の動作について以下に説明する。
図5に示すように、モータ14により回転軸11を回転駆動させると、複数の遠心容器30が、回転軸11の軸線L1回りに一体的に回転させられる。そして、遠心力により、遠心容器30の底部が回転軸11から離間する方向へ揺動し、底部を半径方向外方に向けて回転させられる。
【0036】
そして、図6に示すように、モータ27を回転させることで、その回転軸に固定されたカム28を回転させ、被付勢部材29を回転軸11の軸線L1に沿う方向に付勢する。これにより、第2の回転機構20が回転軸11の軸線方向に移動し、天板26が、底部を半径方向外方に向けて回転させられている遠心容器30の円柱部材35の側面に当接される。これにより、天板26上を円柱部材35が転がり、これに伴い、円柱部材35に固定された内部バケット32(およびその内部に収容された内部容器31)が、内部容器31の中心軸線L2回りに回転させられる。すなわち、天板26は、第1の回転機構10(モータ14)による回転駆動力を、第2の回転機構20に伝達する伝達機構として機能する。
【0037】
また、第2の回転機構20は、モータ24を回転させることで、その回転駆動力を伝達ベルト25およびプ―リ23を介してハウジング21に伝達し、ハウジング21に固定された天板26を回転軸11の軸線L1回りに回転させることができる。すなわち、モータ24により天板26を回転軸11の軸線L1回りに回転させることで、遠心容器30の中心軸線L2回りの回転速度を変化させることができる。具体的には、モータ24をモータ14と同じ回転方向に回転させた場合には、遠心容器30の中心軸線L2回りの回転速度を低くすることができ、モータ24をモータ14と逆の回転方向に回転させた場合には、遠心容器30の中心軸線L2回りの回転速度を高くすることができる。
【0038】
上記のように動作する遠心分離装置1を用いた細胞懸濁液の濃縮および洗浄方法について以下に説明する。
まず、図7(a)に示すように、管路37から遠心容器30内に細胞懸濁液Aを供給する。そして、図5に示すように、モータ14により回転軸11を軸線L1回りに回転駆動させ(例えば、遠心加速度400G、5分)、遠心力により、遠心容器30の底部が半径方向外方に向くように回転させる。これにより、図7(b)に示すように、遠心容器30内の細胞懸濁液Aは、比重の違いによりその成分が遠心分離される。具体的には、遠心容器30の底部最下層には比重の大きな細胞群Bが集められ、その上層には脂質や血漿等の上清Cが集められる。
【0039】
次に、図6に示すように、モータ27によりカム28を回転させて、第2の回転機構20を回転軸11の軸線L1に沿う方向に移動させ、天板26を遠心容器30の円柱部材35の側面に当接させる。そして、モータ14およびモータ24の回転速度を制御して、所望の速度で遠心容器30を軸線L1回りに回転駆動させるとともに(例えば、遠心加速度130G、5分)、遠心容器30を中心軸線L2回りに回転駆動させる(例えば、遠心加速度130G、5分)。
【0040】
これにより、図7(c)に示すように、遠心容器30内の細胞群Bに対して、第1の回転機構10による半径方向外方(回転軸11の軸線L1に直交する方向)の遠心力と、第2の回転機構20による遠心容器30の中心軸線L2に直交する方向(回転軸11の軸線L1に沿う方向)の遠心力とが加えられる。すなわち、遠心容器30内の細胞群Bには、互いに直交する2方向の遠心力が加えられ、これらの方向に押し付けられる。これにより、遠心容器30内の細胞群Bを、遠心容器30内において薄く引き延ばして、細胞群B中に含まれる不純物を上清C中に放出させる。
【0041】
この状態において、図7(d)に示すように、図示しないポンプ等の吸引装置を用いて、管路38から遠心容器30内の上清Cを排出する。この際、細胞群Bは、遠心容器30の内壁面に押し付けられているため、細胞群Bを排出することなく、上清Cのみを遠心容器30から排出することができる。
【0042】
次に、図8(a)に示すように、管路37から遠心容器30内に洗浄液Dを供給する。そして、モータ27を回転させて、第2の回転機構20を回転軸11の軸線L1に沿う方向に移動させ、図5に示すように、天板26を遠心容器30の円柱部材35の側面から離間させる。これにより、図8(b)に示すように、遠心容器30の中心軸線L2回りの回転を停止させる。この状態では、遠心容器30内の細胞群Bには、第1の回転機構10による半径方向外方(回転軸11の軸線L1に直交する方向)の遠心力しかかからないため、細胞群Bの形が変化する。このように細胞群Bの形を変化させることで、細胞群B中に含まれる不純物を洗浄液D中に放出させる。
【0043】
次に、再度、図6に示すように、モータ27によりカム28を回転させて、第2の回転機構20を回転軸11の軸線L1に沿う方向に移動させ、天板26を遠心容器30の円柱部材35の側面に当接させる。そして、遠心容器30を軸線L1回りに回転駆動させるとともに(例えば、遠心加速度130G、5分)、遠心容器30を中心軸線L2回りに回転駆動させる(例えば、遠心加速度130G、5分)。
【0044】
これにより、図8(c)に示すように、遠心容器30内の細胞群Bには、互いに直交する2方向の遠心力が加えられ、これらの方向に押し付けられる。これにより、遠心容器30内の細胞群Bを、遠心容器30内において薄く引き延ばして、細胞群B中に含まれる不純物を洗浄液D中に放出させる。
【0045】
この状態において、図8(d)に示すように、図示しないポンプ等の吸引装置を用いて、管路38から遠心容器30内の洗浄液Dを排出する。この際、細胞群Bは、遠心容器30の内壁面に押し付けられているため、細胞群Bを排出することなく、洗浄液Dのみを遠心容器30から排出することができる。
上記の図8(a)〜図8(d)に示す動作を繰り返すことで、細胞群Bに含まれる不純物を除去することができる。
【0046】
次に、図9(a)に示すように、管路37から遠心容器30内に少量の洗浄液Dを供給する。そして、モータ27を回転させて、第2の回転機構20を回転軸11の軸線L1に沿う方向に移動させ、図5に示すように、天板26を遠心容器30の円柱部材35の側面から離間させる。これにより、図9(b)に示すように、遠心容器30の中心軸線L2回りの回転を停止し、遠心容器30を軸線L1回りに回転駆動させることで(例えば、遠心加速度130G)、細胞群Bを洗浄液D中に再懸濁させる(再懸濁液E)。
【0047】
そして、図1に示すように、モータ14を停止して、遠心容器30の軸線L1回りの回転を停止させた後、図9(c)に示すように、図示しないポンプ等の吸引装置を用いて、管路38から遠心容器30内の細胞群B(再懸濁液E)を取り出す。
【0048】
以上のように、本実施形態に係る遠心分離装置1によれば、遠心容器30内に細胞懸濁液Aを収容して、第1の回転機構10(モータ14)を作動させることで、遠心容器30が、底部を半径方向外方に向けて回転軸11の軸線L1回りに回転させられる。これにより、比重の違いにより細胞懸濁液A中の各成分が遠心分離され、遠心容器30の底部最下層には比重の大きな細胞群Bが集められ、その上層には脂質や血漿等の上清Cが集められる。
【0049】
また、第2の回転機構20を作動させることで、遠心容器30が遠心容器30の中心軸線L2回りに回転させられる。これにより、遠心容器30内の細胞群Bに対して、第1の回転機構10による半径方向外方(回転軸11に直交する方向)の遠心力と、第2の回転機構20による遠心容器30の中心軸線L2に直交する方向(回転軸11に沿う方向)の遠心力とが加えられる。すなわち、遠心容器30内の細胞群Bには、互いに直交する2方向の遠心力が加えられ、これらの方向に押し付けられる。これにより、遠心容器30内の細胞群Bを、遠心容器30内において薄く引き延ばして、細胞群B中に含まれる不純物を上清C(洗浄液D)中に放出することができ、細胞群Bを再懸濁させることなく、細胞群Bを効率的に洗浄することができる。
【0050】
また、遠心容器30の底部を半径方向外方に向けた状態で、モータ27を回転させて天板26を遠心容器30の円柱部材35の側面に当接することで、第1の回転機構10(モータ14)を作動させた場合に、第1の回転機構10(モータ14)による回転駆動力を第2の回転機構20に伝達することができる。これにより、モータ等の回転駆動部を減らして装置を簡略化することができる。
【0051】
また、モータ24により天板26を回転軸11の軸線L1回りに回転させることで、遠心容器30の中心軸線L2回りの回転速度を変化させることができる。これにより、半径方向外方(回転軸11に直交する方向)の遠心力と、遠心容器30の中心軸線L2に直交する方向(回転軸11に沿う方向)の遠心力とのバランスを変化させて、遠心容器30内の細胞群Bの状態を変化させることができ、効率的に細胞群B中に含まれる不純物を上清C(洗浄液D)中に放出させることができる。
【0052】
また、モータ27により天板26を回転軸11の軸線L1に沿う方向に移動させることで、天板26を円柱部材35に当接させるか否か、すなわち、遠心容器30を中心軸線L2回りに回転させるか否かを制御することができる。これにより、半径方向外方(回転軸11に直交する方向)の遠心力と、遠心容器30の中心軸線L2に直交する方向(回転軸11に沿う方向)の遠心力とのバランスを変化させて、遠心容器30内の細胞群Bの状態を変化させることができ、効率的に細胞群B中に含まれる不純物を上清C(洗浄液D)中に放出させることができる。
【0053】
なお、従来の遠心分離装置によれば、細胞を洗浄する工程において遠心容器内の廃液を排出する際には、細胞群ペレットを排出しないように、常に一定の廃液を遠心容器内に残留させる必要があった。そのため、細胞群の洗浄を効率的に行うことができないという不都合があった。しかしながら、本実施形態に係る遠心分離装置1によれば、第1の回転機構10(モータ14)および第2の回転機構20を作動させることによって、細胞群Bが遠心容器30の内壁面に押し付けられているため、遠心容器30の底部近傍に開口する管路38から遠心容器30内の上清Cのみを排出することができ、細胞群Bの洗浄性を向上することができる。
【0054】
また、管路37から洗浄液Dを遠心容器30内に供給することで、細胞群Bを再懸濁させ、細胞群B中に含まれる不純物を洗浄液D中に放出させることができる。そして、この洗浄液Dを、遠心容器30内において細胞群Bが薄く引き延ばされた状態において、吸引手段により管路を介して遠心容器の底部近傍から吸引することができる。これにより、細胞群Bに含まれる不純物を除去することができ、細胞群Bの純度を高めることができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、本実施形態において、遠心容器30がアーム12により揺動可能に支持されていることとして説明したが、遠心容器30が底部を半径方向外方に向けて固定されていてもよい。
【0056】
また、本実施形態において、モータ27により被付勢部材29を付勢して第2の回転機構20を軸線L1に沿う方向に移動させたが、例えばラックアンドピニオンやシリンダ等の直線移動機構により第2の回転機構20を軸線L1に沿う方向に移動させることとしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
L1 軸線
L2 中心軸線
1 遠心分離装置
5 制御部
10 第1の回転機構
11 回転軸
12 アーム
14 モータ
16 直動支持体
20 第2の回転機構
21 ハウジング
24 モータ
26 天板(当接部材)
27 モータ(移動手段)
29 被付勢部材
30 遠心容器
31 内部容器
32 内部バケット
33 外部バケット(外部容器)
35 円柱部材
37 管路
38 管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞懸濁液を収容し、回転軸に支持された少なくとも1つの遠心容器と、
該遠心容器の底部を半径方向外方に向けて、前記遠心容器を前記回転軸の軸線回りに回転させる第1の回転機構と、
前記遠心容器を前記遠心容器の中心軸線回りに回転させる第2の回転機構とを備える遠心分離装置。
【請求項2】
前記第2の回転機構が、前記第1の回転機構による回転駆動力を、前記第2の回転機構に伝達する伝達機構を備える請求項1に記載の遠心分離装置。
【請求項3】
前記遠心容器が、
細胞懸濁液を収容する内部容器と、
該内部容器を収容し、前記内部容器を前記中心軸線回りに回転可能に支持する外部容器と、
前記内部容器に固定され、前記外部容器の外径よりも大きな外径を有する円柱部材とを備え、
前記伝達機構が、前記遠心容器の底部を半径方向外方に向けた状態で、前記円柱部材の側面に当接する当接部材を有する請求項2に記載の遠心分離装置。
【請求項4】
前記伝達機構が、前記当接部材を前記回転軸の軸線回りに回転させるモータを有する請求項3に記載の遠心分離装置。
【請求項5】
前記伝達機構が、前記当接部材を前記回転軸の軸線に沿う方向に移動させる移動手段を有する請求項3に記載の遠心分離装置。
【請求項6】
前記遠心容器の底部近傍に開口する管路と、
該管路から前記遠心容器内の液体を吸引する吸引手段とを備える請求項1に記載の遠心分離装置。
【請求項7】
前記遠心容器の内部に洗浄液を供給する洗浄液供給手段を備える請求項6に記載の遠心分離装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−60924(P2012−60924A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206998(P2010−206998)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】