説明

遠赤外線用光学素子

【課題】 遠赤外線に対する光透過性を選択的に高めた結晶性シリコンを部材とする光学素子とその簡便な製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】 レンズ、板状体等の形状に加工された、結晶性シリコンからなる光学素子の表面に、触針法により測定される平均粗さ(Ra)が0.01〜0.5μmの凹凸を設けることにより、遠赤外線に対する高い光透過性を保ちつつ、一方、中赤外や近赤外の赤外線を散乱させて光透過性を減じ、遠赤外線に対して選択的な光透過性を有する高性能な光学素子とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠赤外線用のレンズや窓板、フィルター等の結晶性シリコンを部材とする光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、赤外線を利用した光学機器や光学素子の開発が進められている。特に遠赤外線の4〜15μmの波長域の光を利用した例えば焦電型赤外線センサーなどの光学機器の開発が盛んになってきている。これら光学機器や光学素子は、主に人体が発する赤外線(波長が約10.6μmの遠赤外線)を検出して、人体を検知する或いは人体に感応する機能を有する。
【0003】
これら光学機器や光学素子に用いられる赤外線透過材料は、遠赤外線の4〜15μmの波長域の光を透過する材料として、ゲルマニウム、亜鉛化セレン、カルコゲナイトガラス、単結晶シリコン、多結晶シリコン等がある。これら材料の中で、単結晶や多結晶の結晶性シリコンは、比較的安価な材料であり、遠赤外から中赤外、そして近赤外に及ぶ広い波長領域の赤外線に対して高い光透過性を有する。結晶性シリコンを部材とする赤外線光学素子は既に製品化され、例えば、結晶性シリコンの窓板が市販されている(非特許文献1)。
【0004】
一般に、特定の波長域の光を検知する或いは感知反応する光学機器や光学素子は、その特定波長領域の光に対する光学的な透明性が要求されるが、一方、その他の波長領域の光に対しては光学的に不透明である、選択的な光透過特性を有することが好ましい。
【0005】
遠赤外線の場合、中赤外から近赤外の低波長域の赤外線は、遠赤外線に比して波長が短いために光強度が強く、遠赤外線に対して迷光と成って遠赤外線のS/N比を低下させる。そこで、遠赤外線に対する光透過性を損なうことなく、中赤外や近赤外の波長領域の光線透過性を減じ、光学素子に遠赤外線に対する選択的な光透過性を付与する方法として、光学素子の表面に中赤外線や近赤外線に対する光反射膜を形成する方法が採用されている。しかし、光学素子の表面に反射膜を形成する方法は、膜厚を制御して反射膜を薄膜状に形成させるために精密な処理工程を必要とし、また、複雑な或いは曲面の多い形状の光学素子への適用は難しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】シグマ光機株式会社WEBカタログ、「赤外用窓板−シリコン」(http://www.sigma−koki.com/B/Windows/WindowsSilicon/OPSI/OPSI.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、人体を検知する或いは感知するなどの遠赤外線用の光学機器や光学素子において、遠赤外線に対する光透過性を損なうことなく、中赤外や近赤外の波長領域の光透過性を抑制して、遠赤外線に対する光透過性を選択的に高めた結晶性シリコンを部材とする光学素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、該目的を達成するため、鋭意、検討を進めた結果、前記結晶性シリコンからなる光学素子において、その表面に特定の微細な粗さの凹凸を設けることにより、遠赤外線に対する高い光透過性を保ちつつ、一方、中赤外や近赤外の赤外線を散乱させて光透過性を減じ、遠赤外線に対して選択的な光透過性を有する高性能な光学素子となり得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、結晶性シリコンからなり、触針法により測定される平均粗さ(Ra)が0.01〜0.5μmの凹凸を表面に有することを特徴とする遠赤外線用光学素である。
【0010】
また、上記遠赤外線用光学素子は、光学素子としての所定の形状に加工された結晶性シリコンの表面を鏡面加工した後、その表面を荒らす処理を行うという簡易な方法により製造することが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の遠赤外線用光学素子は、前記構成、即ち、結晶性シリコンよりなり、その表面に特定の凹凸を設けることによって、遠赤外線に対する高い光透過性を保持しつつ、遠赤外線に対して妨害となる中赤外や近赤外の波長領域における光透過性を抑えて、遠赤外線に対する選択的な光透過性を付与することが可能となる。その結果、特に遠赤外線に対して高感度な光学機器や光学素子が、簡便な製造方法によって製造可能と成り、人体を検知する或いは人体に感応する光学機器や光学素子を安価に提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の素子(実施例1)と、従来の素子(比較例1)及び表面粗さの大きな表面凹凸を有する素子の代表例(比較例3)の赤外線透過スペクトルを示す。図1中、赤外線透過スペクトル1は、実施例1、2は比較例1、そして、3は比較例3の、其々の光学素子の赤外線透過スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における光学素子用部材としての結晶性シリコンは、赤外線に対する高い光透過性が要求されるため、シリコン中の重金属類等の不純物による吸収や散乱を極力少なくして、光学的に高純度化する必要がある。即ち、本発明において、多結晶や単結晶の結晶性シリコンは、金属元素(金属元素以外のドーパント元素を含む)の含有量が、1×10−8質量%以下であることが好ましい。そして、かかる純度を有する結晶性シリコンを使用することによって、本発明の光学素子用部材は、遠赤外から近赤外の幅広い赤外線波長領域において高い光透過性を有する。
【0014】
上記高純度の結晶性シリコン、とりわけ多結晶シリコンは、例えば、精留や吸着処理して精製したモノシランや、ジクロロシラン、トリクロロシラン及び四塩化ケイ素のクロロシランの高純度シラン類を析出原料として、化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition:CVD法)や流動層法でシリコンを析出成長させることによって得ることができる。そして、上記多結晶シリコンを更に溶融凝固し、所定の形状に加工することによって光学素子を得ることができる。
【0015】
本発明において、光学素子用部材を構成する結晶性シリコンは、多結晶と単結晶の結晶性について、特に限定されるものではない。即ち、本発明の光学素子用部材の遠赤外線領域の光透過性に関しては、多結晶と単結晶の結晶性の違いによる差異が殆ど認められないことが、本発明者らの実験によって確認された。
【0016】
但し、結晶性シリコンは、多結晶と単結晶の共に、製法によっては作業環境中等からシリコン中に酸素不純物が混入して含み、酸素不純物による光吸収が遠赤外領域の約9μm付近に生じて遠赤外領域の光透過性が低下する。それ故、本発明において、多結晶と単結晶の結晶性の違いは問わず、酸素不純物量が少ない結晶性シリコンが好適である。即ち、本発明において結晶性シリコンの酸素含有量は、10ppma以下、好ましくは、5ppma以下、であることが好ましい。
【0017】
上記酸素不純物の混入は、特に、結晶性シリコンが溶融している状態で酸素と接触することによって起こる場合が多い。従って、後述の結晶性シリコンからなる光学素子の製造において、結晶性シリコンの溶融、凝固は、酸素を含まず、且つ、溶融シリコンに対して不活性なガス雰囲気下で行うことが好ましい。具体的な雰囲気ガスとしては、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。
【0018】
本発明において、遠赤外線用のレンズや窓材、フィルター等、所定の形状に加工された結晶性シリコンからなる光学素子よりなる光学素子は、高純度の結晶性シリコンのロッドやインゴットの塊状物或いはブロック状物を母材に、切断や切削、そして研磨等の機械加工をして製作される。
【0019】
例えば、多結晶の結晶性シリコンは、CVD法で析出成長させて製造されるが、これをそのまま加工しようとした場合、加工母材に歪や結晶欠陥を多く内含することが多く、加工作業時に割れや欠けが生じ、光学素子の加工収率が低下するおそれがある。そのため、上記CVD法で析出成長させて製造した多結晶シリコンは、一旦、溶融し、冷却して凝固させて溶融凝固体を得、かかる溶融凝固体を加工することが、歪や結晶欠陥が少なく、機械加工特性が良好であるため好ましい。
【0020】
上記結晶性シリコンの溶融凝固体の製造方法を具体的に例示すれば、CVD法で析出成長して製造される多結晶シリコンロッドを破砕した塊状のシリコン、或いは流動層を用いて製造される顆粒状の多結晶シリコンを、石英製等の坩堝等の容器に充填し、次いでシリコンの融点以上に加熱して溶融し、得られたシリコン融液をそのままの状態で、或いは別の坩堝等の容器に小分けして冷却凝固させ、多結晶性のシリコンの溶融凝固体として、前記切断や切削、そして研磨等の機械加工を行う方法が挙げられる。
【0021】
一方、単結晶の結晶性シリコンからなる光学素子を製造する方法としては、前記多結晶シリコンを溶融し、凝固させる際に種結晶を付けて結晶成長させて製造する公知の方法、例えば、FZ法(浮遊帯溶融法)やCZ法(チョクラルスキー法)等によって得られた単結晶シリコンのロッドに対して、切断や切削、そして研磨等の機械加工を行う方法が挙げられる。
【0022】
本発明の遠赤外線用光学素子は、結晶性シリコンからなる光学素子からなり、その表面に特定の凹凸を有することを特徴とする。
【0023】
本発明者らは、結晶性シリコンからなる光学素子の赤外線透過特性が、表面粗さパラメーターと定量的な強い相関性を示し、表面粗さが大きくなる程赤外線透過性は減じるが、近赤外線領域と遠赤外線領域においてその影響度合いが異なり、また、結晶性シリコンからなる光学素子の表面粗さが特定の範囲内において、結晶性シリコンからなる光学素子の遠赤外線領域の光透過性を大きく低下させる事なく、近赤外線領域の光透過性を選択的に減じることができることを見出した。
【0024】
上記結晶性シリコンからなる光学素子の表面とは、遠赤外線用光学素子としての所定の形状、例えば、レンズ、板状体等の形状において、赤外線等の光の入射面或いは透過面のいずれか一方の面、或いは、両面をいう。そして、本発明においては、かかる表面に後述する表面粗さ範囲の凹凸が設けられる。
【0025】
特に、遠赤外線用光学素子を構成する結晶性シリコンからなる光学素子が、光入射と光透過の両面に、後述の範囲の表面粗さの凹凸を有する場合は、入射面或いは透過面の一方にのみ該表面凹凸を有する場合に比して、遠赤外線領域の光透過性は若干低下するものの、中近赤外線領域の光透過率は更に減じて、赤外線領域における遠赤外線の光選択透過性が向上するため、本発明において好ましい態様であるといえる。
【0026】
本発明において、結晶性シリコンからなる光学素子の表面に形成される凹凸の程度(表面粗さ)は、触針法により測定される平均粗さ(Ra)が0.01〜0.5μm、好ましくは、003〜0.1μmであることが必要である。即ち、前記平均粗さ(Ra)が、0.01μmより小さい場合は、近赤外領域の赤外線透過率の減少の度合いが少なく、遠赤外線に対して選択的な光透過性を得ることができない。逆に、前記平均粗さ(Ra)が、0.5μmより大きい場合は、表面の散乱が大きくなりすぎ、全体の透過率が低下する。
【0027】
また、前記凹凸を、結晶性シリコンからなる光学素子の一方の面のみに形成する場合、他方の面は、鏡面加工しておくことが好ましく、この場合、かかる鏡面加工面の平均粗さ(Ra)は、0.005μm以下である。
【0028】
尚、前記触針法による平均粗さ(Ra)の範囲は、共焦点型光学系を搭載した走査型レーザー顕微鏡を使用して表面の凹凸状態を測定し、データ解析ソフトを用いて求められる算術平均粗さのRa値によれば、1〜5μmに相当する。
【0029】
本発明において、前記結晶性シリコンからなる光学素子の表面に前記凹凸を設ける方法は、特に制限されるものではないが、代表的な方法として、以下の方法が挙げられる。
【0030】
即ち、所定の形状に加工された結晶性シリコンからなる光学素子の表面を鏡面加工した後、その表面を荒らす処理を行う方法が挙げられる。
【0031】
先ず、結晶性シリコンからなる光学素子の表面を鏡面加工する方法は、公知の方法が特に制限なく採用される。例えば、極めて小さいダイヤモンド砥粒を含有するスラリーなどによる研磨が一般的である。かかる鏡面加工により、平均粗さ(Ra)は、0.005μm以下となる。
【0032】
次いで、鏡面加工された結晶性シリコンからなる光学素子の表面に前記凹凸を設ける方法は、その表面を荒らす処理であれば、特に制限されないが、代表的な方法を例示すれば、結晶性シリコンとの化学反応性を利用した表面エッチング法、結晶性シリコンより硬度の高い微粉材料による研削法等が挙げられる。
【0033】
上記表面エッチング法は、シリコンと反応する薬剤や反応性ガスよりなる処理剤を用いて被処理材表面、即ち、結晶性シリコンからなる光学素子の鏡面加工面を部分的に溶解する或いは分解する方法であり、使用する処理剤に応じて、液相或いは気相で処理を行うことができる。上記処理剤としては、酸性薬剤ではフッ硝酸が、アルカリ性薬剤ではKOHやNaOHの水溶液やアルコール溶液等の薬剤や、SiFとOとの混合ガス等の反応性ガスが挙げられる。これらの処理剤について、濃度、接触時間、処理温度などを適宜調整することにより、結晶性シリコンからなる光学素子表面に目的とする凹凸を形成する。
【0034】
また、研削法として、具体的には、カーボランダム等の、結晶性シリコンより硬度が高く、前記凹凸が形成可能な粒度を有する砥粒を用いたサンドペーパーやスラリーによる研削、上記砥粒をキャリアガスにより吹き付ける、いわゆる、サンドブラスト法、更には、前記砥粒と結晶性シリコンからなる光学素子とを混合攪拌する方法等が挙げられる。
【0035】
結晶性シリコンからなる光学素子の表面に凹凸を設けるための上述した方法の有効性は、実施例において具体的に示すが、結晶性シリコンの表面に設けた表面凹凸(粗さ)の均一性や、作業の繰り返しによる表面凹凸の再現性、そして、処理工程の簡便さや生産性等において、結晶性シリコンとの化学反応性を利用した表面エッチング法が、本発明においては好適である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例においてより詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
尚、実施例及び比較例において、表面粗さは、触針式表面形状測定器(株式会社アルバック製、装置名:Dektak 6M)により測定した。
【0038】
また、赤外線透過率は、フーリエ変換型赤外分光装置(FT−IR)を用い、FT−IRの参照側を空気にして測定側光路に結晶シリコンの試験片を置き、遠赤外領域を含む波長域2〜20μmの赤外線透過スペクトルを測定した。得られた赤外線透過スペクトルから遠赤外線波長域の代表波長として6.25μm、近赤外線領域の代表波長として2.5μmの各波長における赤外線透過率(%)を求めた。
【0039】
赤外線波長領域における光選択透過性は、その指標として波長の6.25μmにおける光透過率に対する波長の2.5μmにおける光透過率の比で表した。この値が小さい程、光選択透過性は高い。
【0040】
また、以下の実施例及び比較例において、結晶性シリコンからなる光学素子(試験片)は、結晶性シリコンのロッドやブロック或いは塊状物を切り出して、厚み2mm/15mm□の板状物に加工しその表面(両面)を鏡面研磨加工して平均粗さ(Ra)を0.005μm以下にした後、最終的に厚みを1.5mmに調整して得た。
【0041】
所定のエッチング処理の後、結晶性シリコンの試験片を処理液から取り出し、純水で十分に洗浄して風乾した後、表面粗さ(算術平均粗さ、Ra値)と赤外線透過率を測定した。
【0042】
実施例1
CVD法においてベルジャー型の析出装置を用い、析出装置の底盤に立てた多結晶シリコン製の芯線に通電して加熱し、析出装置の底盤に設置したガス供給口から高純度のトリクロロシランと水素の混合ガスを連続供給して、芯線温度を1,000〜1,100℃に制御して芯線上に多結晶シリコンを析出成長させ、直径凡そ100mm位のロッド状物で得た。この多結晶シリコンの純度は、1×10−9%以下(酸素含有量:ND)であった。
【0043】
この多結晶シリコンロッドから前記方法により加工した試験片を、フッ硝酸液(HF/HNO=1/10重量比)に30秒間、浸漬して両表面をエッチング処理した。エッチング処理後の表面の平均粗さ(Ra)と赤外線透過率を測定した。結果を表1に示す。図1に、FT−IRで測定した赤外線透過スペクトルを示す。赤外線透過スペクトルから明らかなように、6.25μm付近の遠赤外線領域の波長における透過率は約50%と高く、且つ、2.5μm付近の近赤外線領域の波長における透過率は、40%弱に低下した。
【0044】
実施例2
実施例1に記載のCVD法で製造した多結晶シリコンに代わりFZ法で製造した単結晶シリコンを使用し、また、表面エッチング液としてフッ酸に代わり5%KOH水溶液を用い、試験片を該5%KOH水溶液に1時間浸漬処理した以外は、同様にして実験を行った。結果を表1に示す。
【0045】
実施例3
実施例2に記載のFZ法で製造した単結晶シリコンについて、その試験片を5%KOH水溶液のアルカリ液に浸漬する代わりに、その片側の面のみを#2000精研磨して表面に凹凸を設けた。結果を表1に示す。
【0046】
実施例4
実施例1に記載のCVD法で製造した多結晶のシリコンロッドを破砕して塊状物とし、その表面をフッ硝酸で洗浄した後、石英製のその内面を窒化ケイ素で表面処理した坩堝に充填し、高周波加熱炉内に設置して真空引きし、アルゴンガスで十分に置換し、アルゴンガス雰囲気下で、1,500℃に加熱して多結晶シリコンを溶融した。次いで、1,500℃において4時間保持した後、1,450℃に降温し、それ以後は1,400℃までは0.5℃/hr、1,100までは25℃/hr、そして、400℃までは200℃/hrの各降温速度で温度制御して徐々に冷却し、多結晶シリコンの溶融凝固体(酸素含有量:3ppma)を得た。
【0047】
この多結晶シリコンの溶融凝固体から前記と同様に試験片に加工し、同じくフッ硝酸液(HF/HNO=1/10重量比)に30秒間、浸漬して表面をエッチング処理した。結果を表1に示す。
【0048】
比較例1
実施例1に記載のCVD法で製造した多結晶性シリコンについて、切り出した試験片を酸エッチング処理しないで、鏡面研磨した状態で表面粗さや赤外線透過率を測定した。近赤外線領域の光透過率は、遠赤外線領域のそれと殆ど変わらず高い透明性を示し、光選択透過性が悪い。結果を表1に示す。図1に、FT−IRで測定した赤外線透過スペクトルを示す。赤外線透過スペクトル2から明らかなように、6μm前後の波長に比して、それ以下の波長において透過率は短波長方向へ逓減しているが、ほぼ一定である。
【0049】
比較例2
実施例2に記載のFZ法で製造した単結晶シリコンについて、試験片をアルカリによる表面エッチング処理しないで、鏡面研磨した状態で表面粗さと赤外線透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
比較例3
実施例1に記載のCVD法で製造した多結晶シリコンについて、表面エッチング液としてフッ酸に代わり5%KOH水溶液を用い、試験片を5%KOH水溶液に3時間、浸漬処理した。表面の平均粗さ(Ra)は0.805μmを示し、光選択透過性は0.35と高いが、遠赤外線波長領域の光透過率が20%と表面エッチング処理前のそれに対して半減した。結果を表1に示す。
【0051】
また、図1に、FT−IRで測定した赤外線透過スペクトルを示す。赤外線透過スペクトル3から明らかなように、約6μmの波長における透過率は低い。
【0052】
比較例4
実施例2に記載のFZ法で製造した単結晶シリコンについて、切り出した試験片に対して、砥粒として炭化ケイ素(#280)を用いてその片側の面のみをサンドブラスト処理した。サンドブラスト処理した表面の平均粗さ(Ra)は1.21で、遠赤外領域の光透過率は3%以下であった。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性シリコンからなり、触針法により測定される平均粗さ(Ra)が0.01〜0.5μmの凹凸を表面に有することを特徴とする遠赤外線用光学素子。
【請求項2】
前記結晶性シリコンの酸素含有量が、10ppma以下である、請求項1記載の遠赤外線用光学素子。

【図1】
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