説明

遮水壁施工装置

【課題】ロール状に巻いてある遮水シートロールの使用を前提として、簡単な構造で且つ深くまでロールを挿入することができて、深度の大きな遮水壁を構築可能な施工装置を提供する。
【解決手段】雌ジョイント2およびその上部のエクステンションロッド26を芯材とする遮水シートSのシートロール1を、リーダマストに昇降可能に支持させたロール貫入ポスト11に直立姿勢で支持させる。シートロール1は、下部の位置決めピン21付きのロール受けブラケット20のほか、回転可能にその把持が可能なグリッパ機構24と、回転不能にその把持が可能なグリッパ機構25とで選択的に支持するものとし、回転不能な状態で地中に貫入した上で、回転可能な状態に持ち替えて遮水シートSを展開した上で地中に残してくる構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に遮水シート(止水シート)を主要素とする鉛直な遮水壁を構築する際に使用される遮水壁施工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物等の最終処分場では、汚染物の流出を防止するために遮水壁をもって最終処分場を囲んで外部と仕切る必要がある。遮水壁構造としては、特に透水性の高い地盤や地耐力の低い地盤の場合、簡単且つ高い水密性を確保できる遮水シートを使用した遮水壁工法が従来から採用されている。
【0003】
例えば特許文献1に記載のものでは、遮水シートを主要素とする遮水壁を地中に鉛直に構築するにあたり、先ず地盤を溝状にほぐすとともに水を混合して溝内を泥水に置き換え、次いで泥水に置き換えられた溝内に一定幅の遮水シートを鉛直に挿入するとともに、隣接する遮水シート同士を継手部材を介して連結するようにしている。
【0004】
また、特許文献2に記載のものでは、上記と同様に泥水に置き換えられた溝内に遮水シートを挿入することを前提として、遮水シートを予めロール状に巻き付けてあるシートロールを上記溝内に鉛直に挿入した上で、シートロールから遮水シートを巻き戻しながら展開することで遮水壁を構築するようにしている。
【特許文献1】特公平4−33325号公報
【特許文献2】特開2002−38466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前者の技術では、溝内に鉛直姿勢にて挿入できる遮水シートの幅寸法に自ずと制約があることから、溝内への遮水シートの挿入作業と隣接する遮水シート同士の連結作業を何回も繰り返さなければならず、特に工数増加によるコストアップが余儀なくされる。
【0006】
他方、後者の技術では、予めロール状に巻き付けてあるシートロールから遮水シートを引き出すようにして溝内にて展開する方式であり、前者のものに比べてある程度の作業性改善効果が期待できる。ところが、遮水シートの引き出し,展開に先立ってシートロールを単独で且つ直接的に溝内に挿入する方式であるため、シートロールの座屈等を考慮するとシートロールの挿入深さひいては施工可能な遮水壁の深さに自ずと限界がある。その上、シートロール挿入位置から所定距離離れた位置に同時に引き込みポストを挿入するとともに、それらのシートロールと引き込みポストとの間に予めワイヤを張設しておき、ワイヤの引き取りによってシートロールから遮水シートを引き出しながら引き込みポスト側に引き寄せるべく展開する方式であるため、工数の増加とともに設備構成が複雑になるという問題がある。
【0007】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、遮水シートを予めロール状に巻いてあるシートロールの使用を前提とした上で、簡単な構造でありながらより深くまでシートロールを挿入することができて、結果として深度の大きな遮水壁を構築可能な遮水壁施工装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、芯材に遮水シートをロール状に巻き付けてなるシートロールを地中に貫入するとともに、遮水シートの一端を固定した上でその遮水シートをシートロールから巻き戻しつつ展開させて地中に遮水壁を構築するための装置であることを前提としている。
【0009】
その上で、自走能力を有する貫入母機のリーダマストに、シートロールを直立姿勢に保ちながら地中に貫入するためのロール貫入ポストを昇降可能に装着し、ロール貫入ポストには、シートロールの下端部を回転可能に支持する下部支持手段と、シートロールの上端部を支持する上部支持手段とを個別に設けたことを特徴とする。
【0010】
具体的には、請求項2に記載のように、上記下部支持手段は、ロール貫入マストから張り出し形成した受け部材上にて芯材を回転可能に軸受支持する機能を有している一方で、上部支持手段は、シートロールを回転可能に支持する回転許容型把持部とシートロールを回転不能に支持する回転不能型把持部とを備えていることがシートロールの安定的に支持する上で望ましい。
【0011】
より具体的には、下部支持手段は、請求項3に記載のように、芯材の下端と軸受部材とが凹凸係合して芯材を回転可能に軸受支持するものであるものとする。
【0012】
望ましくは、請求項4に記載のように、上部支持手段の回転許容型把持部は芯材を回転可能に軸受支持している軸受部材を把持する軸受部材把持手段をもって、回転不能型把持部は芯材を回転不能に直接把持する芯材把持手段をもってそれぞれ形成し、それらの回転許容型把持部と回転不能型把持部とを選択使用可能なものとする。
【0013】
そして、上部支持手段を形成している回転許容型把持部および回転不能型把持部は、請求項5に記載のように、アクチュエータ駆動のグリッパアームによりその把持動作および解放動作が可能となっていることが作動安定性の上で望ましい。
【0014】
なお、遮水壁を構築すべき地盤には、現位置にて原土を溝状に掘削してほぐす一方で水またはセメントミルク等を加えて混合撹拌して、いわゆる泥水状に流動化させておくことが望ましい。また、遮水シートとしては例えば厚さが数ミリ程度の高密度ポリエチレンシートを使用するものとする。
【0015】
シートロールは遮水シートを巻き付けたロール状のものであってもその長さは有限長であるので、地中にて展開した遮水シート同士を相互に連結するために、請求項9に記載のように、シートロールを形成している遮水シートの巻き取り方向の両端部には、凹凸嵌合が可能なジョイント部材を設けてあることが望ましい。
【0016】
また、請求項6に記載のように、リーダマストに対してロール貫入ポストが着脱可能となっていることが、リーダマストおよびロール貫入ポストの長さ調整等に際して望ましい。
【0017】
より望ましくは、請求項7に記載のように、ロール貫入ポストは、下部支持手段が装着された下部ポストおよび上部支持手段が装着された上部ポストと、それらの下部ポストと上部ポストの間に介在する単一または複数の中間ポストを着脱可能に連結したものとする。
【0018】
さらに、地中に貫入したシートロールの鉛直度を維持する上では、請求項8に記載のように、ロール貫入ポストにそれ自体の鉛直度を計測可能な傾斜計を装着することが望ましい。
【0019】
したがって、少なくとも請求項1に記載の発明では、シートロールを単独で地中に貫入するのではなく、シートロールをそのシートロールを支えている剛性の高いロール貫入ポストとともに地中に貫入するので、地中深くまでシートロールを貫入することが可能である。その際に、既設の遮水シートと連結する必要がある場合には、先に述べたジョイント部材同士の凹凸係合をもって相互に連結するものとする。
【0020】
シートロールをロール貫入ポストとともに地中に貫入したならば、遮水シートの巻き取り終端部を上記のジョイント部材同士の凹凸係合等をもって固定した上で、貫入母機の自走能力を使ってシートロールを地中にて移動させる。すると、シートロールからは遮水シートが自律的に徐々に巻き戻されるようにして引き出されて幕状に展開し、もって地中にて遮水シートを主要素とする遮水壁が構築されることになる。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載の発明によれば、遮水シートをロール状に巻き付けてなるシートロールを、それを支えるロール貫入ポストとともに地中に貫入するので、シートロールを地中深くまで貫入することが可能であり、遮水シートをもって構成される遮水壁の深度を一段と大きくすることが可能となる。
【0022】
また、シートロールを一旦地中に貫入したならば、貫入母機の自走能力を使ってシートロールを横方向に移動させるだけで遮水シートを幕状に展開することができることから、施工装置の構造も簡単であり、施工のための工数も著しく少なくて済む利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
最初に、本発明の遮水壁施工装置の詳細を説明する前に施工方法の概略を説明する。
【0024】
ここでは、図1,2に示すすように所定幅の強靱な遮水シート(例えば、厚さが数ミリ程度の高密度ポリエチレンシート)Sを予めロール状に巻き付けたシートロール1を使用することを前提とし、遮水シート(以下、単に「シート」と言う。)Sの巻き取り始端部側にはジョイント部材として剛性があり且つ平面視にて略C字状をなす雌ジョイント2を、同じくシートSの巻き取り終端部側にはジョイント部材として丸棒状の雄ジョイント3をそれぞれその全幅にわたり予め固定してあり、雌ジョイント2を芯材として遮水シートSを巻き付けてある。なお、雌ジョイント2や雄ジョイント3とシートSとの結合は、例えば雌ジョイント2または雄ジョイント3を接着剤を併用しながらシートSの端部にて袋状に包み込んだ上で溶着部Swにて溶着してある。
【0025】
これらの雌ジョイント2と雄ジョイント3は、両者を同一軸線上に並べた上で相対移動させればいわゆる凹凸嵌合して、その状態では径方向に引張力を作用させただけでは容易に離脱しない構造となっている。そして、先にも述べたように、シートロール1は巻き取り始端部側の雌ジョイント2を芯材として用いて、巻き取り終端部側に雄ジョイント3を有する所定長さをシートSを巻き付けることで構成される。
【0026】
遮水壁を構築すべき地盤には、予め現位置にて原土を溝状に掘削してほぐす一方で水またはセメントミルク等を加えて混合撹拌して、いわゆる泥水状に流動化させておくことが望ましい。
【0027】
より具体的には、図3の平面図に示すように、遮水壁Wを構築すべき地盤には、現位置にて原土を溝状に掘削してほぐす一方で水またはセメントミルク等を加えて混合撹拌して、いわゆる泥水状に流動化させて溝状流動化層4を形成しておく。
【0028】
次いで、同図(A)に示すように、この溝状流動化層4の中であって且つ遮水壁Wの施工開始部(始端部)となるべき位置に上記雌ジョイント2と同構造の平面略C字状の剛性のあるアンカーポスト5を鉛直姿勢にて貫入して固定する。
【0029】
アンカーポスト5が移動しないように固定したならば、その近傍にシートロール1を鉛直姿勢にて貫入する。その際に、同図(B)に示すように、シートロール1を形成しているシートSの巻き取り終端部側の雄ジョイント3を上記アンカーポスト5に凹凸嵌合させ、シートロール1を貫入し終えたならば、同図(C)に示すようにシートロール1そのものを溝状流動化層4の長手方向に沿って移動させる。こうすることにより、シートロール1を形成しているシートSが引き出されるようにして徐々に巻き戻され、最終的には溝状流動化層4の中で幕状に展開する。つまり、溝状流動化層4の中には一端を雄ジョイント3とし、他端を雌ジョイント2とするシートSが延在するかたちとなる。
【0030】
こうして一本分のシートロール1の展開を終えたならば、同図(D)に示すように、既設のシートSに付帯している雌ジョイント2に対して二本目のシートロール1側の雄ジョイント3を凹凸嵌合させながら、その二本目のシートロール1を先の場合と同様に溝状流動化層4の中に貫入する。
【0031】
そして、同図(E)に示すように、その二本目のシートロール1を溝状流動化層4の中で移動させながらシートSとして展開し、以降は上記のような動作を繰り返すことで、一本のシートロール1分のシートSの長さを単位要素としてシートS,S‥が順次継ぎ足されて、溝状流動化層4の中に所定長さの遮水シート層が形成されることになる。特に、溝状流動化層4の中に予めセメントミルクを加えてある場合には、所定の養生期間を得ることにより、シートS,S‥が延在している溝状流動化層4そのものも固化することから、シートS,S‥を主要素としつつ実質的に三層のいわゆるサンドイッチ構造の遮水壁Wが構築されることになる。
【0032】
図4は、上記のようなシートロール1の地中への貫入とその展開とを司る遮水壁施工装置の全体の概略構造を示しており、同図(A)はその側面図を、同図(B)は正面図をそれぞれ示している。
【0033】
この遮水壁施工装置は、自走能力を有するクローラタイプの杭打ち機を貫入母機(ベースマシン)6として構成されているものであり、ブーム7およびキャッチフォーク8にて直立姿勢(鉛直姿勢)に支持されたリーダマスト9には昇降ベース10が装着されていて、この昇降ベース10には例えば角柱状のロール貫入ポスト11が着脱可能に連結されている。そして、このロール貫入ポスト11は、貫入母機6自体の機能、すなわちリーダマスト9に沿って昇降ベース10を油圧(静圧)にて昇降動作させる機能により地中への圧入とその引き抜きが可能となっている。なお、図5の(A)は図4の(A)の状態からロール貫入ポスト11を地中に圧入した状態を、同図(B)は図4の(B)の状態から同じくロール貫入ポスト11を地中に圧入した状態をそれぞれ示している。
【0034】
図6は図4の(B)におけるロール貫入ポスト11の詳細を示しており、それぞれに角柱状をなす下部ポスト12と上部ポスト13およびそれらの間に介在する中間ポスト14をボルト・ナットによる結合部15をもって着脱可能に連結してあり、例えば中間ポスト14を長さの異なるものと交換するか、もしくはさらに別の中間ポスト14を加えることにより、ロール貫入ポスト11の全長の調整が可能となっている。
【0035】
図6のほか図7に示すように、ロール貫入ポスト11(上部ポスト13)の上端には取付フランジ16が溶接固定されていて、この取付フランジ16と取付ブラケット17を介してロール貫入ポスト11がリーダマスト9側の昇降ベース10に連結されている一方、ロール貫入ポスト11の下端部は図4,5に示すように同じくリーダマスト9側のスライド案内部17にスライド可能に案内支持されている。そして、このロール貫入ポスト11には、後述するように先に述べたシートロール1が直立姿勢にて並設するような形態で安定的に支持されることになる。
【0036】
また、図6のほか図7,8に示すように、ロール貫入ポスト11を形成している下部ポスト12には下部支持手段として下部把持機構18が装着されているほか、同じくロール貫入ポスト11を形成している上部ポスト13には上部支持手段として上部把持機構19が装着されている。
【0037】
下部把持機構18は、図8,9に示すように、下部ポスト12から水平方向に張り出すようにボルト・ナット結合した受け部材としての皿状のロール受けブラケット20に軸受部材としての位置決めピン21を上向きに形成したもので、シートロール1の芯材として機能する雌ジョイント2側の下端の底板22a付きのピン穴22と嵌合することにより少なくともシートロール1の下端を回転可能に軸受支持することが可能となっている。
【0038】
他方、上部把持機構19は、図6のほか図10に示すように、上部ポスト13にボルト・ナット結合された共通のベースプレート23に対し水平方向に張り出すように上下二段にわたってグリッパ機構24,25を配置したもので、これらのグリッパ機構24,25は共にロール貫入ポスト11に並設支持されることになるシートロール1の上部を把持する機能を有するものの、上側のグリッパ機構24はシートロール1を回転可能に軸受支持する回転許容型把持部として機能する一方、下側のグリッパ機構25はシートロール1を回転不能に軸受支持する回転不能型把持部として機能し、これらの上側および下側のグリッパ機構24,25は二者択一的にその選択使用が可能となっている。
【0039】
ここで、図1から明らかなように、シートロール1の下端では芯材として機能する雌ジョイント2を位置決めピン21にて直接支持しているものの、シートロール1の上端では芯材として機能する雌ジョイント2を直接支持することはせず、雌ジョイント2の上端にエクステンションロッド26を相対回転不能に且つ着脱可能に連結した上で、このエクステンションロッド26を把持部として間接的にグリッパ機構24または25にて支持するようにしてある。そして、エクステンションロッド26の上端部には軸受部材であるボールベアリングユニット27を配設してある。
【0040】
上側のグリッパ機構24は、軸受部材であるボールベアリングユニット27を把持する軸受部材把持手段として機能するもので、図10のほか図11に示すように、ベースプレート23から水平方向に張り出す上下二段の固定側グリッパアーム28,28間に略鉤形状の単一の可動側グリッパアーム29をヒンジピン30にて回転可能に連結したもので、その可動側グリッパアーム29の一端とロール貫入ポスト11との間にはクレビス型のグリッパシリンダ(油圧シリンダ)31を配設してある。つまり、グリッパシリンダ31のシリンダチューブ32をロール貫入ポスト11に揺動可能に連結してあるとともに、そのピストンロッド33を可動側グリッパアーム29に連結してあることから、グリッパシリンダ31の伸縮作動に応じて可動側グリッパアーム29がスイング動作して、先に述べたエクステンションロッド26上のボールベアリングユニット27を把持したり、あるいは解放することになる。
【0041】
より詳しくは、図6から明らかなように、上側のグリッパ機構24の高さ位置はロール貫入ポスト11が支えることになるシートロール1のボールベアリングユニット27の位置、すなわちシートロール1の芯材として機能する雌ジョイント2に接続されることになるエクステンションロッド26上のボールベアリングユニット27の高さ位置と一致させてあり、しかも固定側グリッパアーム28にはボールベアリングユニット27の外周面に当接する受け面28aを形成してあることから、図11のように固定側グリッパアーム28と可動側グリッパアーム29とからなる上側のグリッパ機構24をもってボールベアリングユニット27の外周を把持することにより、シートロール1の上端を回転可能に軸受支持することができるようになっている。
【0042】
一方、下側のグリッパ機構25は雌ジョイント2とともに芯材の一部として機能するエクステンションロッド26を直接把持する芯材把持手段として機能するもので、図10のほか図12に示すように、ベースプレート23から水平方向に張り出す上下二段の固定側グリッパアーム34,34間に略鉤形状の単一の可動側グリッパアーム35をヒンジピン36にて回転可能に連結したもので、その可動側グリッパアーム35の一端とロール貫入ポスト11との間には上記と同様にクレビス型のグリッパシリンダ(油圧シリンダ)37を配設してある。したがって、グリッパシリンダ37の伸縮作動に応じて可動側グリッパアーム35がスイング動作して、先に述べたエクステンションロッド26のうちボールベアリングユニット27の直下位置、すなわちエクステンションロッド26そのものを直接把持したりあるいは解放することになる。
【0043】
より詳しくは、図6から明らかなように、下側のグリッパ機構25の高さ位置は、シートロール1の芯材として機能する雌ジョイント2に接続されることになるエクステンションロッド26上においてそのボールベアリングユニット27の高さ位置よりも下方位置に設定してあり、しかも固定側グリッパアーム34にはエクステンションロッド26の外周面に当接する受け面34aを形成してあることから、図12のように固定側グリッパアーム34と可動側グリッパアーム35とからなる上側のグリッパ機構25をもってエクステンションロッド26を直接把持することにより、シートロール1の上端を回転不能に拘束しつつ支持することができるようになっている。
【0044】
なお、これらの上下のグリッパ機構24,25は両者が同時に把持動作することはなく、いずれか一方が選択的に把持動作することになる。
【0045】
また、図6,9,10に示すように、ロール貫入ポスト11の上下二箇所には傾斜計38,39を配置してあり、例えば貫入母機6のキャビン内に設置したモニタ画面にてロール貫入ポスト11の鉛直度合いをリアルタイムで目視確認できるようにしてある。
【0046】
次に、このように構成された遮水壁施工装置による遮水シートの施工手順について説明する。
【0047】
図3に示したしたように、シートロー1の貫入に先立って、遮水壁Wを構築すべき地盤には、現位置にて原土を溝状に掘削してほぐす一方で水またはセメントミルク等を加えて混合撹拌して、いわゆる泥水状に流動化させて溝状流動化層4を予め形成しておくことは先に述べた。
【0048】
最初に、遮水壁Wの施工開始部(始端部)となるべき位置の近傍まで貫入母機6を移動させて図13の状態とする。すなわち、図4のようなロール貫入ポスト11の未貫入状態において、そのロール貫入ポスト11に対し図6のようにシートロール1をセットする。より詳しくは、図1に示すシートロール1の芯材として機能する雌ジョイント2の上端にエクステンションロッド26を相対回転不能に且つ着脱可能に接続した上で、雌ジョイント2の下端のピン穴22を図9に示す下部把持機構18であるロール受けブラケット20上の位置決めピン21に嵌合させる一方、シートロール1の上端部側ではエクステンションロッド26を図12に示すように上部把持機構19である下側のグリッパ機構25にて直接把持する。ただし、この時には同じく上部把持機構19を構成している上側のグリッパ機構24は解放状態として把持機構としては機能しないようにしておく。
【0049】
以上をもって、シートロール1はロール貫入ポスト11に沿って並列且つ直立姿勢となるように支持されて、実質的に水平なロール受けブラケット20上で自立姿勢に保たれている。
【0050】
次いで、図3の(A)および図13に示すように、溝状流動化層4の中であって且つ遮水壁Wの施工開始部(始端部)となるべき位置に雌ジョイント2と同形状のアンカーポスト5を貫入して固定する。そして、図3の(B)および図14に示すように、このアンカーポスト5に対しロール貫入ポスト11側に支持されているシートロール1の巻き取り終端部側の雄ジョイント3(図1参照)を嵌合させて、貫入母機6本来の圧入機能を使ってロール貫入ポスト11をシートロール1とともに徐々に貫入する。シートロール1の貫入過程ではその貫入抵抗をロール貫入ポスト11の下端のロール受けブラケット18が受ける一方で、シートロール1は図12に示した下側のグリッパ機構25によって回転不能に拘束されているので、貫入抵抗等によってシートロール1からシートSが巻き戻されて弛みを生ずるようなことはない。
【0051】
シートロール1が所定深度まで貫入されたならば以降の貫入動作を停止し、その深度位置にシートロール1を保持する。さらに、上部把持機構19を形成している上下のグリッパ機構24,25によるシートロール1の持ち替えを行い、図11に示した上側のグリッパ機構24を把持動作させて固定側および可動側のグリッパアーム28,29にてエクステンションロッド26上のボールベアリングユニット27を把持し、代わってそれまでエクステンションロッド26を把持していた図12の下側のグリッパ機構25を解放動作させる。これにより、シートロール1はそれまでの下側のグリッパ機構25による拘束から解除され、代わってロール受けブラケット18による軸受支持のほか上側のグリッパ機構24とボールベアリングユニット27とによる軸受支持によって回転可能に支持されることになる。
【0052】
この後、貫入母機6を自走させて、シートロール1をロール貫入ポスト11とともに溝状流動化層4の長手方向に沿って移動させる。すると、図3の(C)および図14に示すように、シートロール1を形成しているシートSが引き出されるようにして徐々に巻き戻され、最終的には溝状流動化層4の中で幕状に展開する。つまり、溝状流動化層4の中には一端を雄ジョイント3とし、他端を雌ジョイント2とするシートSが延在するかたちとなる。なお、シートSの延在状態は溝状流動化層4の流動化物の圧力によって保持される。また、上記のようなシートロール1の貫入もしくは展開過程においては、適宜傾斜計38,39のモニタ画面を見ながらロール貫入ポスト11の鉛直度合いを監視し、その度合いに応じて鉛直となるようにオペレータが修正する。
【0053】
こうして一本分のシートロール1の展開を終えたならば、それまでの上側のグリッパ機構24によるボールベアリングユニット27の把持を解除し、展開したばかりのシートSの端部に付帯している雌ジョイント2から例えば作業者がエクステンションロッド26を取り外す。なお、取り外したエクステンションロッド26は再利用する。
【0054】
その状態で、図9に示すように、ロール貫入ポスト11の下端に付帯しているロール受けブラケット18上の位置決めピン21と、雌ジョイント2の下端のピン穴22との嵌合状態を解除し得るストロークだけロール貫入ポスト11を下降させるとともに、雌ジョイント2からロール貫入ポスト11を引き離す方向に所定量だけ(平面視にて雌ジョイント2の位置からロール受けブラケット18が外れるまで)貫入母機6とともにロール貫入ポスト11を移動させた上で、図15に示すようにロール貫入ポスト11を地上に引き抜く。これより、それまでの位置決めピン21とピン穴22との嵌合状態が解除されて、雌ジョイント2はロール貫入ポスト11から切り離されて溝状流動化層4に残されることになる。
【0055】
こうして、ロール貫入ポスト11が元の位置まで引き上げられたならば、先の場合と同様に、図3の(D)に示すように新しいシートロール1をロール貫入ポスト11にセットし直して、二本目のシートロール1の貫入に移行する。この際には、既設の雌ジョイント2に対してシートロール1側の雄ジョイント3を嵌合させながらシートロール1をロール貫入ポスト11とともに溝状流動化層4の中に貫入し、以降は上記と同様に二本目のシートロール1からのシートSの引き出し・展開を行う(図3の(E)参照)。これ以後は、三本目および四本目のシートロール1について上記のような一連の貫入および展開の動作を繰り返し、その都度展開したシートS,S同士の結合を行って、溝状流動化層4の中に長尺な遮水シート層を形成する。
【0056】
この後、溝状流動化層4の中に予めセメントミルクを加えてある場合には、所定に養生期間を得ることにより、シートSが延在している溝状流動化層4そのものも固化することから、シートSを主要素としつつ実質的に三層のいわゆるサンドイッチ構造の遮水壁Wが構築されることになる。
【0057】
ここで、図9の下部把持機構18の構造として、図9に示した底板22aを廃止し、代わって図16に示すように、シートロール1の下端のフランジ板40とロール受けブラケット20との間に滑り軸受部材41を介装するようにしてもよい。
【0058】
このように本実施の形態の施工装置によれば、従来のものと比べて簡単な構造でありながら、より深度の大きな遮水壁Wを構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態で使用されるシートロールの分解斜視図。
【図2】図1に示すシートロールの平面説明図。
【図3】図1のシートロールを使用した遮水壁の施工手順を示す概略説明図。
【図4】本発明の好ましい実施の形態として施工装置の概略構造を示す図で、(A)は側面説明図、(B)は正面説明図。
【図5】図4の状態からロール貫入ポストを地中に貫入した状態を示す図で、(A)は側面説明図、(B)は正面説明図。
【図6】図4に示すロール貫入ポストの拡大説明図。
【図7】図6のA方向拡大矢視図。
【図8】図6のB−B線に沿う拡大断面図。
【図9】図6の下部拡大断面図。
【図10】図6の上部拡大説明図。
【図11】図10に示す上側のグリッパ機構の平面説明図。
【図12】図10に示す下側のグリッパ機構の平面説明図。
【図13】貫入母機の動きを中心とした施工手順の説明図。
【図14】図13に続く施工手順の説明図。
【図15】図14に続く施工手順の説明図。
【図16】図9の変形例を示す図で、図6の下部拡大断面図。
【符号の説明】
【0060】
1…シートロール
2…芯材としての雌ジョイント(ジョイント部材)
3…雄ジョイント(ジョイント部材)
4…溝状流動化層
5…アンカーポスト
6…貫入母機(杭打ち機)
9…リーダマスト
10…昇降ベース
11…ロール貫入ポスト
12…下部ポスト
13上部ポスト
14…中間ポスト
18…下部把持機構(下部支持手段)
19…上部把持機構(上部支持手段)
20…ロール受けブラケット(受け部材)
21…軸受部材としての位置決めピン
22…ピン穴
24…軸受部材把持手段としての上側のグリッパ機構(回転許容型把持部)
25…芯材把持手段としての下側のグリッパ機構(回転不能型把持部)
26…エクステンションロッド
27…ボールベアリングユニット(軸受部材)
28…固定側グリッパアーム
29…可動側グリッパアーム
31…グリッパシリンダ(アクチュエータ)
34…固定側グリッパアーム
35…可動側グリッパアーム
37…グリッパシリンダ(アクチュエータ)
38…傾斜計
39…傾斜計
S…遮水シート
W…遮水壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材に遮水シートをロール状に巻き付けてなるシートロールを地中に貫入するとともに、遮水シートの一端を固定した上でその遮水シートをシートロールから巻き戻しつつ展開させて地中に遮水壁を構築するための装置であって、
自走能力を有する貫入母機のリーダマストに、シートロールを直立姿勢に保ちながら地中に貫入するためのロール貫入ポストを昇降可能に装着し、
ロール貫入ポストには、シートロールの下端部を回転可能に支持する下部支持手段と、シートロールの上端部を支持する上部支持手段とを個別に設けたことを特徴とする遮水壁施工装置。
【請求項2】
下部支持手段は、ロール貫入マストから張り出し形成した受け部材上にて芯材を回転可能に軸受支持する機能を有している一方で、
上部支持手段は、シートロールを回転可能に支持する回転許容型把持部とシートロールを回転不能に支持する回転不能型把持部とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の遮水壁施工装置。
【請求項3】
下部支持手段は、芯材の下端と軸受部材とが凹凸係合して芯材を回転可能に軸受支持するものであることを特徴とする請求項2に記載の遮水壁施工装置。
【請求項4】
上部支持手段の回転許容型把持部は芯材を回転可能に軸受支持している軸受部材を把持する軸受部材把持手段をもって、回転不能型把持部は芯材を回転不能に直接把持する芯材把持手段をもってそれぞれ形成し、
それらの回転許容型把持部と回転不能型把持部とを選択使用可能としたことを特徴とする請求項2または3に記載の遮水壁施工装置。
【請求項5】
上部支持手段を形成している回転許容型把持部および回転不能型把持部は、アクチュエータ駆動のグリッパアームによりその把持動作および解放動作が可能となっていることを特徴とする請求項4に記載の遮水壁施工装置。
【請求項6】
リーダマストに対してロール貫入ポストが着脱可能となっていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の遮水壁施工装置。
【請求項7】
ロール貫入ポストは、下部支持手段が装着された下部ポストおよび上部支持手段が装着された上部ポストと、それらの下部ポストと上部ポストの間に介在する単一または複数の中間ポストを着脱可能に連結したものであることを特徴とする請求項6に記載の遮水壁施工装置。
【請求項8】
ロール貫入ポストにそれ自体の鉛直度を計測可能な傾斜計を装着したことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の遮水壁施工装置。
【請求項9】
シートロールを形成している遮水シートの巻き取り方向の両端部には、凹凸嵌合が可能なジョイント部材を設けてあることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の遮水壁施工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−291487(P2006−291487A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110479(P2005−110479)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000204192)太陽工業株式会社 (174)
【出願人】(000140694)株式会社加藤建設 (50)
【Fターム(参考)】