説明

選択分離膜および選択分離膜の製造方法

【課題】蛋白質が高濃度に存在する血液の浄化膜や、懸濁成分が高濃度に存在する廃水および水道水の処理膜などの選択分離膜において、処理中の経時的な性能低下が少なく、かつ、一旦低下した性能を容易に回復することができる選択分離膜を提供する。
【解決手段】生理食塩水中の透水速度が純水中の透水速度より1.07倍以上増加する選択分離膜。血液などのイオン含む液により膜が膨潤し、膜面への蛋白質の吸着や堆積が抑え、経時的な透過性能の低下を抑制する。イオンを含まない溶液で洗浄することで、膜を収縮させ、膜構造を変化させることにより、吸着および堆積した蛋白質がはがれやすくし、低下した膜性能を回復させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定な分離特性を維持、回復できる分離膜を提供するものである。特に、蛋白が高濃度に存在する液の処理に用いる血液浄化膜や、懸濁成分が高濃度に存在する廃水および浄水処理膜などの選択分離膜による処理において、処理中の経時的な性能低下が少なく、かつ一旦低下した性能を容易に回復できる選択分離膜を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
選択分離膜は現在、廃水処理、海水淡水化、浄水処理、ガス分離、血液浄化用途など、幅広く用いられている。廃水処理や飲料水製造、あるいは血液処理などに用いられる選択分離膜において、処理液中に含まれる溶質、懸濁成分、不溶解成分が、膜面に吸着、沈着し堆積すると、膜細孔の目詰まり、膜表面のケーク層形成をもたらし、その結果、透水速度や溶質透過速度の低下など膜の性能が経時的に劣化する。
【0003】
そのため、このような用途に用いられる選択分離膜に対して、低下した性能を回復させるための手段が必要になる。例えば、廃水処理や飲料水製造に用いられる精密濾過膜(MF膜)や限外濾過膜(UF膜)は、定期的に逆洗作業(濾過と逆方向に水や気体を流して、膜表面に堆積したケーク層を破壊し、細孔に目詰まりした物質を除去する)や薬剤処理等で膜を洗浄する。血液処理膜の場合、例えば、使用後に血球成分や蛋白質が膜面に付着し性能が低下した血液透析器(ダイアライザー)を薬剤で洗浄し、膜性能を回復させ、再使用する事が米国などで広くおこなわれている。
【0004】
膜を製造する立場からも、膜性能の経時劣化を防ぐ観点から、膜素材の改良が行われている。例えば、血液中の蛋白質は疎水性表面に吸着しやすい事から、血液透析膜素材の親水化が積極的に行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、性能の耐経時劣化性、および低下した性能の回復性について、十分満足する選択分離膜は未だ得られていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
選択分離膜の耐経時劣化性、および低下した性能の回復性について、本発明者らは鋭意検討をおこなった結果、本発明に至った。すなわち、本発明は、
1)中空糸膜成型時、ポリマー溶液中のポリマー濃度を15重量%以上とし、電解質を1重量%以上含み、ポリマー溶液の口金部のドラフト比(凝固浴突入線速度/口金部吐出線速度)を5以上とし、かつ中空形成材として吐出する芯液のドラフト比を1.5以下とすることにより得られる選択分離膜であって、膜構造が実質的にマクロボイドが観測されない実質的に均一膜であって、且つ、膜厚が10〜50μmの範囲であり、生理食塩水中の透水速度(UFR(S))と純水中の透水速度(UFR(P))の比が、下記式を満足し、ポリアクリロニトリル系共重合体、ポリメチルメタクリレート、エチレンビニルアルコール共重合体から選ばれる高分子からなることを特徴とする選択分離膜である。
UFR(S)/UFR(P)≧ 1.07
2)膜断面を走査型電子顕微鏡により1000倍で観察したときに、直径が0.5μm以上の大きさのボイドやスポンジ構造に由来する空隙が観察されない均一構造を示すことを特徴とする選択分離膜である。
3)中空糸膜成型時、ポリマー溶液中のポリマー濃度を15重量%以上とし、電解質を1重量%以上含み、ポリマー溶液の口金部のドラフト比(凝固浴突入線速度/口金部吐出線速度)を5以上とし、かつ中空形成材として吐出する芯液のドラフト比を1.5以下とすることを特徴とする選択分離膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の選択分離膜は、処理中の経時的な性能低下が少なく、かつ、一旦低下した性能を容易に回復することができる。従って、蛋白質が高濃度に存在する液の処理に用いる血液浄化膜や、懸濁成分が高濃度に存在する廃水および水道水処理膜などの選択分離膜等として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
透水速度とは、被処理液(純水中または生理食塩水)を選択分離膜で濾過処理した際に、単位時間、単位圧力、単位膜面積当たりに濾過される被処理液体積を表す。一般に、透水速度は、被処理液の粘度に依存する。37℃における純水の粘度は0.70cP、生理食塩水の粘度は0.71cPであり、生理食塩水の粘度は約1%純水より高い値を持つので、食塩に対して排除性を持たない一般的な膜の場合、生理食塩水中の透水速度は、純水中の透水速度より低い値になる。しかしながら、本発明者らが検討を行ったところ、ある種の膜では驚くべきことに生理食塩水中の透水速度が純水中の透水速度より高い値を持ち、かつその比が1.07以上の膜は、安定な分離特性を維持し、かつ、一旦低下した膜の性能を容易に回復できることを見出した。
【0009】
この現象の機構については、明確ではないが、選択分離膜を形成する分子鎖中にある正および負の荷電があり静電引力によって収縮を保っている選択分離膜の場合、イオンを含む生理食塩水中では、電荷を持ったイオンのため膜分子中の荷電が打ち消され、収縮が緩和されて膜が膨潤し、細孔径が増大し、その結果、純水よりも生理食塩水中の透水速度が増加するものと考えられる。
【0010】
このような生理食塩水中で透水速度が増加する選択分離膜を、血液透析などの血液浄化膜に用いると、血液はイオン含むので膜が膨潤し、膜面への蛋白質の吸着や堆積が抑えられ、経時的な性能低下が少ない利点を有する。さらに、イオンを含まない溶液で洗浄することで、膜を収縮させ、膜構造を変化させることにより、吸着および堆積した蛋白質がはがれやすくなり、低下した膜性能を容易に回復させることができる。
【0011】
本発明の選択膜は、排水処理や水道水製造などのイオンをほとんど含まない被処理液に用いた場合においても、被処理液中の不純物や溶質の目詰まりおよびケーク層形成で低下した性能を、イオン強度が強い水溶液を流す事で、膜を膨潤させ、目詰まりやケーク層を解消させる事ができる点で有用である。イオン強度の強い水溶液とは、例えば食塩水などを挙げる事ができる。食塩水は、そのまま廃棄しても環境汚染などの点で、現在一般に使われている洗剤や薬液よりも安全である。
【0012】
本発明において、生理食塩水中の透水速度と純水中の透水速度の比は1.07以上である。これは、血液のようなイオンを含む被処理液中で膜構造を変化させ、蛋白質や血球成分の吸着や堆積などによる膜の経時的性能低下を防ぎ、膜の経時的性能維持と、低下した膜性能を回復させるためである。生理食塩水中の透水速度と純水中の透水速度の比が1.07より小さいと、膜構造変化が小さく、前述のような効果が得られない。もちろん、膜構造が全く変化しない場合、透水速度は被処理液の粘度に依存するので、従来技術の膜においては生理食塩水中と純水中の透水速度の比は約0.99である。生理食塩水中の透水速度と純水中の透水速度の比が1.07以上の範囲においては、より大きな透水速度の比であれば、膜構造変化が大きく、より大きな効果が得られるので、1.10以上が好ましく、1.15以上であれば更に好ましい。
【0013】
本発明においては、生理食塩水中の透水速度と純水中の透水速度の変化が可逆的であることが好ましい。可逆的に変化すれば、使用後の膜性能回復を繰り返し実施することで、何回でも膜を再使用することが出来、その結果、膜モジュールのランニングコストを低下できる。
【0014】
本発明の選択分離膜の構造は、特に限定されるものではないが、実質的にマクロボイドが観測されない実質的に均一な膜であることが好ましい。膜の内表面あるいは外表面に緻密なスキン層を持ち中間部にボイドを含有する支持層を持つ構造では、スキン層の構造変化が起きにくいためか本発明の効果が得られにくい。また、選択分離膜にマクロボイドが存在すると、膜構成分子間の距離が大きく、膜構成分子間の静電引力による膜収縮が働きにくくなるためか本発明の効果が得られにくい。ここで、実質的にマクロボイドが観察されない実質的に均一な膜とは、膜断面を走査型電子顕微鏡により1000倍で観察したときに、直径が0.5μm以上の大きさのボイドやスポンジ構造に由来する空隙が観察されない均一構造を示す。素材によっては、さらに高倍率(5000倍以上)の観察によって直径が0.5μm未満のボイドや空隙が観察される。ボイドや空隙の直径が0.5μm未満の場合は、存在しても、生理食塩水中の透水速度と純水中の透水速度の比を1.07以上にすることが可能である。一方、実質的に均一な膜であるにもかかわらず、製膜時の欠陥(例えば異物や気泡の混入)により、0.5μm以上の大きさのボイドや空隙が観察され、該欠陥が膜全体の極一部分の場合は、該比1.07以上を達成することが可能である。従って、このような欠陥による選択分離膜の極一部分に存在するマクロボイドなら観察されても構わない。
【0015】
本発明の選択分離膜の膜厚は、10〜50μmの範囲であると膜構造の変化を起こしやすく好ましい。膜厚が50μmより大きい場合は、膜構造が強固になりすぎ、膜構造の荷電による静電引力による膜収縮が起こりにくくなるため本発明の効果が得られにくいと考えられる。一方、選択膜の膜厚が10μmより小さい場合は、膜構造中の電荷の分布が狭く、純水中と生理食塩水中の透水速度の差が生じにくくなるためと考えられる。
【0016】
本発明において選択分離膜の素材は、特に限定されるものではなく、再生セルロース、セルロースアセテート、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコールなどが挙げられるが、特に、分子内に陰性あるいは陽性荷電を持つポリアクリロニトリル系重合体、あるいは分子内に極性を持つポリメチルメタクリレートやエチレンビニルアルコール共重合体が、好適に使用できる。
【0017】
本発明の分離膜の製法は特に限定されるものではなく、中空糸膜や平膜などの形で製造され得るが、特に中空糸膜の場合、以下の条件を満足することにより、好適に得ることが出来る。
・中空糸膜形成ポリマー溶液中に塩化リチウム、塩化ナトリウムなど溶液中で解離度の高い電解質を1重量%以上含むこと。
・中空糸膜成型時、ポリマー溶液の口金部のドラフト比(凝固浴突入線速度/口金部吐出線速度)を5以上とし、かつ中空形成材として吐出する芯液のドラフト比を、1.5以下とすること。
・ポリマー溶液中のポリマー濃度を15重量%以上とすること。
以上の3点により、本発明の選択分離膜が好適に得られる。
【0018】
ここで、口金部吐出線速度とは、ポリマー溶液あるいは芯液の吐出量を、口金吐出部面積で割ったものである。凝固浴突入線速度は、実際に測定することは出来ないので、口金から吐出された中空糸の導かれる最初のローラー速度を指す。また、チューブインオリフィス型口金の場合、ポリマー溶液の吐出部面積は、スリット外側とスリット内側の間隙面積である。チューブインオリフィス型口金には、芯液を吐出するための孔があるが、吐出された芯液は直ちに、スリット内側まで拡張するため、芯液の口金吐出部面積とは、スリット内側面積である。
【0019】
詳細な機構は不明であるが、ポリマー溶液中に電解質を含有させることにより、溶液中のポリマー分子同士の静電反発が抑制でき、更に、口金部のポリマー溶液のドラフト比を5以上にし、かつ芯液のドラフト比を1.5以下とし、ポリマー溶液中のポリマー濃度を15重量%以上とすると、中空糸成型時に、ポリマー分子同士の絡み合いを強く持たせる効果があるものと考えられる。
【実施例】
【0020】
以下に本発明について実施例を用いて具体的に説明する。
【0021】
(実施例1)
(中空糸およびモジュールの作製)
ポリアクリロニトリル系共重合体(分子量170,000:アクリロニトリル90重量%、メタリルスルホン酸10重量%の共重合体)を21重量%、塩化リチウム2重量%になるように、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)/ジメチルアセトアミド(DMAc)/トリエチレングリコール(TEG)=45/45/10重量比の組成の混合溶媒に溶解させ、中空糸膜形成ポリマー溶液を得た。これをスリット内径200μm、スリット外径800μm、芯液吐出径100μmのチューブインオリフィス型口金から2.0cc/分の割合で吐出した。このチューブインオリフィス型ノズルのポリマー溶液吐出部断面積は4.7×10−72で、芯液吐出部断面積は、3.1×10−82である。芯液は、NMP/DMAc/TEG=45/45/10の85重量%水溶液を1.6cc/分の割合で吐出した。この時の、ポリマー溶液吐出線速度は、4.3m/分であり、芯液吐出線速度は50.9m/分であった。これをエアギャップ2cmでNMP/DMAc/TEG=45/45/10の40重量%水溶液の凝固液からなる40℃の凝固浴に導き、凝固浴外部の速度50m/分のローラーに導いた。この時のポリマー溶液口金部のドラフト比は、11.6(=50÷4.3)であり、芯液ドラフト比は、0.98(=50÷50.9)であった。その後、水洗してから巻取り、50重量%のグリセリン水溶液に浸漬した後、乾燥して中空糸膜を得た。得られた中空糸膜は、内径200μm、膜厚40μmで、マクロボイドの観察されない均一な膜であった。
得られた中空糸膜10800本を束ねて、有効膜面積1.5m2のモジュールを作製した。
【0022】
(透水速度の測定)
透水速度の測定は、ダイアライザー性能評価基準(日本人工臓器学会、昭和57年9月)のC法(STOP法)に準拠して行った。
透水速度(UFR)は以下の式で表される。
UFR=QF/A/TMP
上記の式において、QFは濾過流量(mL/時)、Aは膜面積(m2)、TMPは膜間圧力差(mmHg)を示す。但し、膜間圧力差(TMP)は、以下の式で求めた。
TMP=(PBi+PBo)/2
PBiはダイアライザーの血液ないし原液の入口側圧力、PBoはダイアライザーの血液ないし原液の出口側圧力を示す。
TMPを4点変更し、その際の濾過流量(QF)を測定した。QFとTMPの関係をプロットし、傾きから透水速度を求めた。温度は37±1℃とした。
純水中の透水速度(UFR(P))は、純水としてイオン交換水を用いて未使用の中空糸膜モジュールについて測定した。生理食塩水中の透水速度(UFR(S))は、UFR(P)測定後に、イオン交換水に食塩を0.9重量%溶解した生理食塩水を用いて測定した。
実施例1で作製した中空糸膜モジュールの純水中の透水速度(UFR(P))は、180mL/時/m2/mmHgであり、生理食塩水中の透水速度(UFR(S))は、215mL/時/m2/mmHg、UFR(S)/UFR(P)比は1.19であった。
【0023】
(透水速度の可逆性の評価)
上記のUFR(P)とUFR(S)を測定した後、もう一度、上記の方法で純水中の透水速度UFR(P)を測定した。2回目のUFR(P)の測定値は180mL/時/m2/mmHgであり、透水速度は可逆的に最初の測定値に戻っていた。
【0024】
(牛血液を用いた透水速度の経時劣化性と回復性の評価)
牛血液(ヘマトクリット30%、総タンパク質濃度6.5g/dL)を用い、温度37±1℃、血液側流量200mL/分、濾過流量40mL/分で、120分間、血液濾過実験を行った。血液濾過開始から15分後の膜間圧力差TMP(15)と120分後における膜間圧力差TMP(120)から、下式に示すC%の値を求めた。
C%=TMP(120)×100/TMP(15)
中空糸膜モジュールが経時劣化しない場合は、C%の値は100%である。C%の値が大きくなるほど経時劣化が大きいことを示す。
実施例1の中空糸膜モジュールについて血液濾過開始後15分後のTMP(15)は47mmHg、120分後のTMP(120)は52mmHg、C%は111%であった。
血液濾過実験終了後、ダイアライザーを回路から外し、透析液側から血液側に向け、イオン交換水を500mL/分の割合で10分間通して逆洗した。逆洗後の純水の透水速度を求めたところ、UFR(P)は172mL/時/m2/mmHgであり、血液処理前に比べ95.5%の回復率であった。
【0025】
(比較例1)
ポリアクリロニトリル系共重合体(分子量170,000:アクリロニトリル90重量%、メタリルスルホン酸10重量%の共重合体)を21重量%になるように、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)/ジメチルアセトアミド(DMAc)/トリエチレングリコール(TEG)=45/45/10重量比の組成の混合溶媒に溶解させ、中空糸膜形成ポリマー溶液を得た。これをスリット内径250μm、スリット外径400μm、芯液吐出径150μmのチューブインオリフィス型口金から2.0cc/分の割合で吐出した。このチューブインオリフィス型ノズルのポリマー溶液吐出部断面積は7.7×10−82で、芯液吐出部断面積は、4.9×10−82である。芯液は、NMP/DMAc/TEG=45/45/10の85重量%水溶液を1.6cc/分の割合で吐出した。この時のポリマー溶液吐出線速度は、26.1m/分であり、芯液吐出線速度は32.6m/分であった。これをエアギャップ2cmでNMP/DMAc/TEG=45/45/10の40重量%水溶液の凝固液からなる40℃の凝固浴に導き、凝固浴外部の速度50m/分のローラーに導いた。この時のポリマー溶液口金部のドラフト比は、1.92(=50÷26.1)、芯液のドラフト比は、1.53(=50÷32.6)であった。その後、水洗してから巻取り、50重量%のグリセリン水溶液に浸漬した後、乾燥して中空糸膜を得た。得られた中空糸膜は、内径200μm、膜厚40μmで、マクロボイドの観察されない均一な膜であった。
得られた中空糸膜10800本を束ねて、有効膜面積1.5m2のモジュールを作製した。
【0026】
得られた中空糸膜モジュールを実施例1と同様に評価した結果、UFR(P)は205mL/分、UFR(S)は203mL/分、UFR(S)/UFR(P)比は0.99であった。UFR(S)/UFR(P)比は、被処理液の粘度に依存した変化であり、膜構造は変化していないと考えられた。2回目に測定したUFR(P)は205mL/時/m2/mmHgであった。
血液濾過実験では、TMP(15)は52mmHgで、TMP(120)は90mmHgであり、C%は173%であった。実施例1に比べ、初期から高いTMP値を持ち、またC%も大きい値であり、血液中の成分による膜の性能低下および経時劣化が激しいことがわかる。
実施例1と同様に逆洗した後に測定した純水中の透水速度(UFR(P))は131mL/時/m2/mmHgであり、血液処理前に比較した回復率は63.9%であり、実施例1に比べ、中空糸膜の性能の回復率が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の選択分離膜は、処理中の経時的な性能低下が少なく、かつ、一旦低下した性能を容易に回復することができる。従って、蛋白質が高濃度に存在する液の処理に用いる血液浄化膜や、懸濁成分が高濃度に存在する廃水および水道水処理膜などの選択分離膜等として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜成型時、ポリマー溶液中のポリマー濃度を15重量%以上とし、電解質を1重量%以上含み、ポリマー溶液の口金部のドラフト比(凝固浴突入線速度/口金部吐出線速度)を5以上とし、かつ中空形成材として吐出する芯液のドラフト比を1.5以下とすることにより得られる選択分離膜であって、膜構造が実質的にマクロボイドが観測されない実質的に均一膜であって、且つ、膜厚が10〜50μmの範囲であり、生理食塩水中の透水速度(UFR(S))と純水中の透水速度(UFR(P))の比が、下記式を満足し、ポリアクリロニトリル系共重合体、ポリメチルメタクリレート、エチレンビニルアルコール共重合体から選ばれる高分子からなることを特徴とする選択分離膜。
UFR(S)/UFR(P)≧ 1.07
【請求項2】
膜断面を走査型電子顕微鏡により1000倍で観察したときに、直径が0.5μm以上の大きさのボイドやスポンジ構造に由来する空隙が観察されない均一構造を示すことを特徴とする請求項2に記載の選択分離膜。
【請求項3】
中空糸膜成型時、ポリマー溶液中のポリマー濃度を15重量%以上とし、電解質を1重量%以上含み、ポリマー溶液の口金部のドラフト比(凝固浴突入線速度/口金部吐出線速度)を5以上とし、かつ中空形成材として吐出する芯液のドラフト比を1.5以下とすることを特徴とする選択分離膜の製造方法。


【公開番号】特開2008−137004(P2008−137004A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321746(P2007−321746)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【分割の表示】特願2001−230259(P2001−230259)の分割
【原出願日】平成13年7月30日(2001.7.30)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】