説明

遺伝子導入剤及びその製造方法

【課題】遺伝子導入効率がさらに向上した遺伝子導入剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】芳香族環を核としてカチオン性及び/又は非イオン性分岐鎖が放射状に伸延する分岐型重合体を有する遺伝子導入剤であって、該分岐鎖の末端がN,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団であり、該N,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団の窒素原子上の2つの置換基のうち少なくとも1つが炭素数3以上の疎水性置換基であり、複数の該分岐型重合体同士を架橋させた架橋体よりなる遺伝子導入剤。前記分岐型重合体を極性溶媒に溶解及び/又は分散させた状態で光照射することにより分岐型重合体同士を架橋させる遺伝子導入剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
安全性、品質安定性、製造コストに問題があるウイルスベクターに代わる遺伝子導入技術として、合成高分子ベクター、カチオン性脂質ベクターが研究開発されている。
【0003】
本出願人らは、合成高分子ベクターとしてベンゼンなど芳香族環を核としてカチオン性ポリマー鎖が放射状に伸延する分岐構造のベクターがDNAを高密度で凝縮させて小さな核酸複合体微粒子を形成させ、効率良く細胞へ遺伝子導入できることを発明した(下記特許文献1)。この複合体微粒子が細胞膜を透過するメカニズムとしては、カチオン性ポリマー鎖による陽電荷が細胞膜表面の陰電荷と静電的に結合しエンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれる作用に大きく依存していると考えられる。
【特許文献1】WO2004/092388
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、遺伝子導入効率がさらに向上した遺伝子導入剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の遺伝子導入剤は、芳香族環を核とし、それから放射状に伸延したカチオン性及び/又は非イオン性の複数の分岐鎖を有する分岐型重合体を有する遺伝子導入剤であって、該分岐鎖の末端がN,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団であり、該N,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団の窒素原子上の2つの置換基のうち少なくとも1つが炭素数3以上の疎水性置換基であり、複数の該分岐型重合体同士が架橋した架橋体よりなるものである。
【0006】
本発明において、前記N,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団の窒素原子上の2つの置換基がフェニル基であることが好ましい。
【0007】
前記分岐型重合体は、N,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体であることが好ましい。分岐型重合体同士は、このN,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団を架橋することにより架橋体を構成するようになる。
【0008】
このN,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団が結合しているものが好ましい。このN,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団は、分岐鎖の末端に位置しており、光照射又は加熱により、分岐型重合体同士を架橋させるものと考えられる。この場合、架橋点は分岐鎖の中間でも末端でも良く、また、ポリマーの主鎖、側鎖、主鎖末端のいずれでも良い。
【0009】
このビニル系モノマーは、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、及びこれらの誘導体からなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0010】
本発明では、分岐鎖は、ビニル系モノマーのホモポリマーであってもよく、2種以上のモノマーのランダム又はブロック共重合体であってもよい。共重合するモノマーとしては、N,N-ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピルアクリルアミド、及びN−イソプロピルアクリルアミドの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
なお、このN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のブロックは、温度感応性を有しており、所定温度よりも低い温度では親水性であり、水溶性であるため、遺伝子導入剤を水に溶解させて核酸と複合させることができ、この遺伝子導入剤は、所定温度よりも高い温度になると疎水性となる。
【0012】
本発明の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の遺伝子導入剤を製造する方法であって、前記分岐型重合体を極性溶媒に溶解及び/又は分散させた状態で光照射することにより分岐型重合体同士を架橋させることを特徴とするものである。
【0013】
この場合、前記極性溶媒は、水、低級アルコール、及びこれらの混合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の遺伝子導入剤は、ベンゼンなどの芳香族環を核としてカチオン性及び/又は非イオン性分岐鎖が放射状に伸延する分岐型重合体を有する遺伝子導入剤であって、該分岐鎖の末端がN,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団であり、該N,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団の窒素原子上の2つの置換基のうち少なくとも1つが炭素数3以上の疎水性置換基であり、複数の該分岐型重合体同士を架橋させた架橋体よりなる合成高分子ベクターである。この遺伝子導入剤は、その構造上の利点により、DNAなどの核酸を高密度に凝縮することができる。この遺伝子導入剤は、分岐型重合体が複数個架橋したものであるため、1個の分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤に比べてDNAなどの核酸をより広いネットワークで包蔵することができ、優れた遺伝子導入活性を示すようになる。なお、架橋に際し、1つの分岐型重合体の複数の分岐鎖同士も架橋することも考えられる。
【0015】
本発明の遺伝子導入剤の製造方法によれば、前記N,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団の窒素原子上の置換基が炭素数3以上の疎水性置換基であるため、極性溶媒中に溶解及び/又は分散したポリマー末端同士が疎水結合的に集合し、光照射によってラジカル開裂したジチオカルバミルメチル分子団同士の衝突確率を上げ、精度高く架橋処理を行うことができる。さらに、上記置換基がフェニル基の場合、近紫外領域の光で高率良くラジカルを発生するため、効率的に架橋することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の遺伝子導入剤は、芳香族環から放射状に伸延したカチオン性及び/又は非イオン性の複数の分岐鎖を有する分岐型重合体を有する遺伝子導入剤であって、該分岐鎖の末端がN,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団であり、該N,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団の窒素原子上の2つの置換基のうち少なくとも1つが炭素数3以上の疎水性置換基であるスター形分岐型重合体を架橋した架橋体よりなる。
【0017】
このスター形分岐型重合体としては、N,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体が好適である。このN,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団同士が結合することにより、スター形分岐型重合体同士が架橋する。この架橋に際し、同一のスター形分岐型重合体内の一部の分岐鎖同士も架橋することがある。
【0018】
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
【0019】
前記N,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団の窒素原子上の置換基の少なくとも1つは炭素数3以上の疎水性置換基である。疎水性置換基としては、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、n-オクチル基、4,4-ジクロロブチル基などのアルキル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基などのアリール基などが挙げられるが、中でもアリール基が好ましく、特にフェニル基が好ましい。
【0020】
本発明では、前記窒素原子上の2つの置換基のうち1つが上記疎水性置換基であればよいが、2つとも上記疎水性置換基であることが好ましい。2つの置換基が上記疎水性置換基である場合、2つの置換基が同じ置換基であってもよく、異なる置換基であってもよい。置換基の1つだけを上記疎水性置換基とし残りの1つを非疎水性置換基とする場合、非疎水性置換基としては、水素原子、エトキシメチル基、ヒドロキシメチル基等が挙げられるが、分岐鎖の末端であるN,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団が疎水性を失わなければ、どのような置換基を導入してもよい。
【0021】
N,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環に該N,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジフェニルジチオカルバミル酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジフェニルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジフェニルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジフェニルジチオカルバミル酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジフェニルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジフェニルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとナトリウムN,N−ジフェニルジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジフェニルジチオカルバミルメチル)ベンゼンである。
【0022】
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルキレンが好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン特にトルエンが好適である。
【0023】
このイニファターに重合させるモノマーとしては、ビニル系モノマー、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等、とりわけビニル系モノマーが好適であり、具体的には3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CH、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0024】
イニファターと上記モノマーとを反応させるには、イニファター及びモノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対しモノマーが結合した反応生成物を生成させる。
【0025】
このモノマーの該原料溶液中の濃度は0.5M以上、例えば0.5M〜2.5Mが好適である。
【0026】
イニファターの濃度は0.1〜100mM程度が好適である。
【0027】
照射する光の波長は300〜400nmが好適である。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜60分程度が好適であり、1μW/cm〜10mW/cm程度の低い照射強度で1分〜30分程度が特に好適である。
【0028】
なお、この光照射工程(第1の光照射工程)の後にさらに第2の光照射工程を行ってもよい。すなわち、この反応生成物を含む溶液をアルコール、好ましくは上記モノマーのアルコール溶液で希釈する。このアルコールとしてはメタノール又はエタノール、特にメタノールが好適である。アルコール溶液中のモノマー濃度としては、終濃度として、100mM〜5M程度が好適である。
【0029】
上記第1の光照射工程からの反応生成物含有液1体積部に対し、このアルコール溶液5〜500体積部を添加するのが好ましい。
【0030】
このようにアルコール溶液で希釈した希釈液を、第2の光照射工程に供し、上記反応生成物に対しさらに上記モノマーを重合させる。この際の照射光源としては240〜400nmの波長の光を含むものであればよく、例えば低圧水銀灯や高圧水銀灯などを用いることができる。光照射時間は10分〜120分程度が好適である。
【0031】
この光照射により、反応液中に目的とする分岐型重合体が生成するので、必要に応じ精製して分岐型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーを得る。
【0032】
この分岐型重合体の分子量は分岐鎖の鎖数によるが、2,000〜500,000、特に2,000〜150,000、とりわけ2,000〜100,000程度が好ましい。
【0033】
本発明では、この分岐鎖は、上記ホモポリマーであってもよく、さらに異なる重合体とのブロック共重合体又はランダム共重合体であってもよい。例えば、上記ホモポリマーに対し、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレートなどを導入してもよい。また、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させて温度感応性ポリマーブロックを導入してもよい。なお、先にN,N−ジメチルアクリルアミド又はN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマーよりなる分岐鎖を有した分岐型重合体を形成し、その後、各分岐鎖の先端側にカチオン性ポリマーブロックを導入するようにしてもよい。
【0034】
このN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマー鎖は、低温度では親水性、高温では疎水性となる温度依存性を有する。なお、これにより遺伝子導入剤が上記温度応答性を具備するようになる。
【0035】
カチオン性ポリマーブロックにN,N−ジメチルアクリルアミドあるいはN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させるには、上記のようにして合成したスター形分岐型重合体を好ましくはアルコール例えばメタノール等の溶媒に溶解させ、これにN,N−ジメチルアクリルアミド又はN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体を混合し、光を照射して重合させればよい。この重合反応を開始する際の溶液中における分岐型ポリマーの濃度は0.01〜10重量%程度が好適であり、N,N−ジメチルアクリルアミド又はN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体の濃度は0.3〜30重量%程度が好適である。光の照射条件は、光波長250〜400nm、照射時間1〜150分、照射強度100〜10,000μW/cm程度が好適である。
【0036】
このスター形分岐型重合体の分子量は3,000〜600,000、特に3,000〜150,000であることが好ましい。
【0037】
上記のように合成したスター形分岐型重合体を架橋させることにより、目的とする遺伝子導入剤が合成される。
【0038】
本発明において、前記分岐型重合体を極性溶媒に溶解及び/又は分散させた状態で光照射することにより分岐型重合体の分岐鎖同士を架橋させる。ここでいう分岐鎖同士とは、
複数の分岐型重合体の分岐鎖同士の架橋(所謂、分子間の架橋)及び同一分子中の分岐鎖同士の架橋(所謂、分子内架橋)並びに分子間と分子内の混合架橋を意味する。
【0039】
この場合の極性溶媒としては、水、低級アルコール、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種を併用してもよい。
【0040】
極性溶媒に溶解及び/又は分散させる際の分岐型重合体の形状としては、粉末状、ゲル状等が挙げられる。
粉末状を採用した場合、分岐型重合体は極性溶媒に速やかに溶解する。
【0041】
この架橋反応を開始させる際の溶液の濃度は、1〜20%程度が好ましい。極端に濃度が低いとジチオカルバミル分子団同士の衝突確率が低くなり、極端に濃度が高いとランダムに架橋が起こる確率が高くなる。
【0042】
光の照射条件は、光波長300〜400nm、照射時間1〜240分、照射強度0.1〜10mW/cm、照射時の溶液温度は15〜50℃程度が好適である。
【0043】
この架橋反応により、分岐型重合体が2〜10個、特に2〜5個程度架橋して架橋体を構成する。この架橋反応では、分岐型重合体の分岐鎖のN,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団のチオ基が開いて分岐鎖同士が架橋するものと推察される。
【0044】
上記の通り、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させた遺伝子導入剤は、約30℃よりも高い温度で疎水性であり、約30℃よりも低い温度で親水性である。従って、30℃よりも低い温度で核酸と遺伝子導入剤の水溶液とを混合して遺伝子導入剤に核酸を複合させることができる。
【0045】
約30℃よりも高い温度では、核酸を複合した遺伝子導入剤は、温度感応性核酸よりなる疎水性部分を有し、水不溶性となる。
【0046】
このようにして生成した遺伝子導入剤(ベクター)が核酸を核酸含有複合体として包囲することによって、生体内の酵素による核酸の失活、分解を抑制することができる。
【0047】
上記遺伝子導入剤と核酸とを複合させるには、遺伝子導入剤の濃度1〜1000μg/mL程度の溶液に対し、核酸を添加し、混合すればよい。核酸に対して遺伝子導入剤を過剰量添加し、遺伝子導入剤中のカチオン性ポリマーを核酸に対し飽和状態に核酸含有複合体として複合化させるのが好ましい。
【0048】
核酸の好ましい例としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子),p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子,IL−2遺伝子,IL−4遺伝子,HLA−B7/IL−2遺伝子,HLA−B7/B2M遺伝子,IL−7遺伝子,GM−CSF遺伝子,IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100,MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が癌治療に利用できる。
【0049】
また、VEGF遺伝子,HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス,c−mybアンチセンス,cdc2キナーゼアンチセンス,PCNAアンチセンス,E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が血管治療に利用できる。かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
【0050】
核酸複合体の粒径は50〜400nm程度が好適である。この粒径は、例えばレーザを用いた動的光散乱法によって測定される。粒径がこれよりも小さいと、核酸複合体内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれ、あるいは腎臓にて濾過排出されるおそれがある。また、これよりも大きいと、細胞に導入されにくくなるおそれがある。
【0051】
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。
【0052】
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【0053】
本発明において、核酸を導入する対象として望ましい「細胞」としては、当該核酸の機能発現が求められるものであり、このような細胞としては、例えば使用する核酸(すなわちその機能)に応じて種々選択され、例えば心筋細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞、骨髄細胞、骨細胞、血球幹細胞、血球細胞等が挙げられる。また、単球、樹状細胞、マクロファージ、組織球、クッパー細胞、破骨細胞、滑膜A細胞、小膠細胞、ランゲルハンス細胞、類上皮細胞、多核巨細胞等、消化管上皮細胞・尿細管上皮細胞などである。
【0054】
本発明の核酸複合体は培養試験に用いるほか、任意の方法で生体に投与することができる。
【0055】
生体への投与方法としては静脈内又は動脈内への注入が特に好ましいが、筋肉内、脂肪組織内、皮下、皮内、リンパ管内、リンパ節内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等)内、骨髄内への投与の他に病変組織内に直接投与することも可能である。
【0056】
この核酸複合体を有効成分とする医薬は、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することが可能である。これら担体は公知のものが使用できる。
【0057】
また、この核酸複合体を有効成分とする医薬は、含まれる核酸の種類が異なる2種以上の核酸含有複合体を含めたものも包含される。このような複数の治療目的を併せ持つ医薬は、多様化する遺伝子治療の分野で特に有用である。
【0058】
投与量としては、動物、特にヒトに投与される用量は目的の核酸、投与方法および治療される特定部位等、種々の要因によって変化する。しかしながら、その投与量は治療的応答をもたらすに十分であるべきである。
【0059】
この核酸複合体は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、当該複合体に含められる核酸の種類によって異なるが、末梢動脈疾患、冠動脈疾患、動脈拡張術後再狭窄等の病変を生じる循環器領域での疾患に加え、癌(悪性黒色腫、脳腫瘍、転移性悪性腫瘍、乳癌等)、感染症(HIV等)、単一遺伝病(嚢胞性線維症、慢性肉芽腫、α1−アンチトリプシン欠損症、Gaucher病等)等が挙げられる。
【実施例】
【0060】
実施例1
[4分岐型遺伝子導入剤の合成]
i)イニファターの合成
下記反応式に従って、1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジフェニルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
【0061】
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)5.0gとN,N−ジフェニルジチオカルバミル酸ナトリウム30.0gをエタノール300mL中へ加え、遮光下で室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、3リットルのメタノールへ分散させて30分間攪拌した後に濾過した。この操作を3回繰り返し、臭化ナトリウムと余剰のN,N−ジフェニルジチオカルバミル酸ナトリウムを除去した。減圧下でメタノールを揮発させた後に200mLのトルエンへ溶解して濾過し、約100mLのメタノールを混合して再結晶を行って精製した。淡黄色の1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジフェニルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの結晶を得た(収率85%)。高速液体クロマトグラフィーにより、原料ピークが消失し、精製物が単一物質であることを確認した。
【0062】
【化1】

【0063】
ii)光重合によるスター形4分岐型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーの合成
1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジフェニルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAmと記載することがある。)よりなるカチオン性ホモポリマーの合成を行った。
【0064】
即ち、上記i)により合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジフェニルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのクロロホルムへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(以下、3−N,N−DMAPAAmと記載することがある。)9.0gを加えて混合し、全量をクロロホルムで50mLに調整した。2mm厚の軟質ガラスセル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後に、300Wキセノン光源光照射装置(朝日分光、MAX−301)で紫外光を40分間照射した。照射強度は照度計(ウシオ電機、UIT−150、UVD−405)を使用して2.5mW/cmに調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させて精製し、少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター型ホモポリマー(pDMAPAAm)よりなるカチオン性ポリマーを得た(重合率30%)。分子量はGPCにより50,000(分散=1.3)と測定された。
【0065】
H NMR(in DO)の測定結果は、δ1.5−1.8ppm(br,2H,−CHCHCH−),δ2.1−2.2ppm(br,6H,N−CH),δ2.2−2.4ppm(br,2H,CH−N),δ3.0−3.4ppm(br,2H,NH−CH),δ7.4−7.8ppm(br,1H,−NH−)となった。
【0066】
【化2】

【0067】
iii)4分岐型pDMAPAAmホモポリマーの光架橋
合成したスター形4分岐型pDMAPAAmホモポリマー凍結乾燥品を水へ溶解し、濃度1mg/mL〜100mg/mLの水溶液を調製した。溶液を軟質ガラス製の50mLバイアル瓶(厚み2mm)へ移し、ここへ2.5mW/cmの近紫外線を30分間照射した。光照射終了後、各水溶液を0.2μmシリンジフィルターで濾過し、液体窒素で凍結させ、そのまま凍結乾燥を行った。得られた粉末の分子量を測定した。濃度が高くなるに従って分子量の増大が確認された。結果を図1に示す。
【0068】
比較例1
実施例1の工程i)においてN,N−ジフェニルジチオカルバミル酸ナトリウム30.0gをN,N−ジエチルジチオカルバミル酸ナトリウム34.0gとした以外は同様にしてイニファター(1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン)を合成し、続いて実施例1の工程ii)の方法に従ってカチオン性ホモポリマーを合成した。分子量は約50,000(分散=1.3)で、NMRのピーク位置、積分比などの分析値は実施例1と同じ(NMRにて積算回数を3万回程度まで上げれば、ポリマー末端のジチオカルバメート基中の2つのフェニル基(実施例1)とエチル基(比較例1)の差が確認される)4分岐型カチオン性ホモポリマーが合成された。続いて実施例3の工程iii)と同様に水溶液にて光架橋を行うと、濃度1mg/mL〜10mg/mLの範囲内で分子量に変化は確認されなかった。しかしながら、水溶液濃度を50mg/mLまで上げると一気に架橋反応が起こり、あらゆる溶媒に不溶性のゲルが形成された。反応が爆発的に起こった結果であると考えられる。結果を図2に示す。
【0069】
[考察]
実施例1では、分岐鎖のリビング末端であるジフェニルジチオカルバメート分子団の疎水性が強く、水溶液中で4分岐型ポリマーの末端同士は集合して凝集していると考えられる。ポリマー末端同士が凝集する、すなわちラジカル活性種同士が接近している状態で光照射を行うことで高分子鎖末端同士の結合が優先的に起こり、低濃度でも分子間の光架橋が行えることが分かった。
これに対し、比較例1では、架橋反応がほとんど起こらないか一気に進行して暴走することが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例の結果を示すグラフである。
【図2】比較例の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族環を核とし、それから放射状に伸延したカチオン性及び/又は非イオン性の複数の分岐鎖を有する分岐型重合体を有する遺伝子導入剤であって、
該分岐鎖の末端がN,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団であり、
該N,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団の窒素原子上の2つの置換基のうち少なくとも1つが炭素数3以上の疎水性置換基であり、
複数の該分岐鎖同士が架橋した架橋体よりなる遺伝子導入剤。
【請求項2】
請求項1において、前記置換基がフェニル基であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記分岐型重合体は、N,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体であり、
該分岐型重合体の分岐鎖同士が架橋していることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項4】
請求項3において、前記N,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団が結合していることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項5】
請求項3又は4において、ビニル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項6】
請求項3ないし5のいずれか1項において、分岐型重合体の分岐鎖のN,N−2置換ジチオカルバミルメチル分子団が架橋点として寄与していることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項7】
請求項3ないし6のいずれか1項において、該分岐鎖はビニル系モノマーのホモポリマーよりなることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項8】
請求項3ないし6のいずれか1項において、前記分岐鎖は、前記ビニル系モノマーと、異なるモノマーとのランダム又はブロック共重合体であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項9】
請求項8において、前記異なるモノマーは、N,N-ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の遺伝子導入剤を製造する方法であって、
前記分岐型重合体を極性溶媒に溶解及び/又は分散させた状態で光照射することにより分岐型重合体同士を架橋させることを特徴とする遺伝導入剤の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、該極性溶媒が水、低級アルコール、及びこれらの混合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−91266(P2009−91266A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261039(P2007−261039)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】