説明

遺伝子導入活性を有する多孔体

【課題】生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度よりも高い温度では疎水性となる温度応答性を有した遺伝子導入剤含浸させた遺伝子導入活性を有する多孔体を提供する。
【解決手段】多孔質基材に遺伝子導入剤を含浸した遺伝子導入活性を有する多孔体であって、該遺伝子導入剤は、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性である。この遺伝子導入剤は、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体よりなるホモポリマーに対し、N−イソプロピルアクリルアミドをブロック重合させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入活性を有する多孔体に関する。
【背景技術】
【0002】
I. 多孔質の基材が医療用具として様々利用されている。
治療のためのカテーテルなどは、栄養分や、治療薬剤を体内に送る目的で使用されることがある。その際、皮下組織を切開した上で刺入を行って生体内に留置する必要がある。生体内への留置が長期間へ及ぶ場合、生体内と外界を隔て、生体内への細菌の進入や体液水分が外部へ出てしまうことを防止するために、カフ部材(スキンカフなどともいう)を利用して擬似的に刺入部をふさぐことが行われている。
このカフ部材として、特開2004−97267号には、多孔質のセグメント化ポリウレタンよりなるカフ部材が記載されている。
II. 近年、ヒト疾患の分子遺伝学的要因が明らかになるにつれ、遺伝子治療研究がますます重要視されている。遺伝子治療法は標的とする部位でのDNAの発現を目的としており、いかにDNAを標的部位に到達させるか、いかにDNAを標的部位に効率的に導入し、当該部位で機能的に発現させるかということが重要となる。外来DNAの導入のためのベクターとして、レトロウイルス、アデノウイルス又はヘルペスウイルスを含む多くのウイルスが、治療用遺伝子を運搬するように改変されて、遺伝子治療のヒトの臨床試験に使用されている。しかし感染及び免疫反応の危険性は依然として残されている。
【0003】
DNAを細胞中に運搬するための非ウイルス系ベクターとして、カチオン性のスター型ポリマーがWO2004/092388に記載されている。
【特許文献1】特開2004−97267号
【特許文献2】WO2004/092388
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多孔質体(例えば多孔質ウレタンフォーム)に組織が入り生着することで、多孔質体との癒着が強固になる。その場合、治療薬剤等は、別途投与するために、多孔質体と接する部位のみへ遺伝子を投与することはできない。
【0005】
上記WO2004/092388では、核酸と遺伝子導入剤との核酸複合体は、水溶液中に分散しているため、基材に付着させても、生体に投与されると流失してしまう。
【0006】
本発明は、優れた遺伝子導入活性を有する多孔体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の遺伝子導入活性を有する多孔体は、多孔質基材に遺伝子導入剤を含浸した遺伝子導入活性を有する多孔体であって、該遺伝子導入剤は、分岐鎖を有するポリマー材料よりなり、該ポリマー材料は、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性であることを特徴とするものである。なお、本発明でいうポリマーとはモノマーの2量体などのオリゴマーも包含するものとする。
【0008】
前記ポリマー材料は、少なくともカチオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体との共重合ブロックを有する重合体であることが好ましく、カチオン性モノマーと非イオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体との共重合体であっても良い。
【0009】
このカチオン性ポリマーブロックの分子量は、2,000〜500,000が好ましく、非イオン性ポリマーブロックの分子量は2,000〜500,000であることが好ましい。
【0010】
このブロック共重合体の分子量は、3,000〜600,000であることが好ましい。
【0011】
前記所定温度(T)は、25〜35℃の間の温度であることが好ましい。
【0012】
前記カチオン性ポリマーは、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体であることが好ましい。
【0013】
このN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が結合しているものが好ましい。
【0014】
このビニル系モノマーは、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明において多孔質基材に含浸される遺伝子導入剤は、上記所定温度よりも低い温度では親水性であり、水溶性であるため、これを水に溶解させて核酸と複合させ、多孔質基材に含浸させ、その後、所定温度よりも高い温度とすることにより、疎水性(水不溶性)となり、多孔質基材に付着する。
【0016】
生体に投与された場合、生体の体温によって遺伝子導入剤が水不溶性となるので、投与された部位に核酸複合体が長期にわたって定置されることになる。
この遺伝子導入剤は、有機溶媒を用いていないので、ハイブリッド材料よりなる基材など各種の多孔質基材に対しても適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[遺伝子導入剤]
本発明で多孔質基材に含浸させる遺伝子導入剤は、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性である、分岐鎖を有する温度感応性ポリマー材料よりなる。
【0018】
上記のポリマー材料としては、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーに対し温度感応性ポリマー鎖をブロック共重合させたものが好適である。
【0019】
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
【0020】
N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環に該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジチオカルバミル酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジチオカルバミル酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとナトリウムN,N−ジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンである。
【0021】
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルキレンが好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン、中でも特にトルエンが好適である。
【0022】
このイニファターに重合させるモノマーとしては、ビニル系モノマー、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等、とりわけビニル系モノマーが好適であり、具体的には3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CH、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0023】
本発明の一態様では、イニファターに対し、まずカチオン性モノマーを重合させてカチオン性ホモポリマーを得、これにN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させる。
【0024】
イニファターと上記モノマーとを反応させるには、イニファター及びモノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対しモノマーが結合した反応生成物を生成させる。
【0025】
このモノマーの該原料溶液中の濃度は0.5M以上、例えば0.5〜2.5Mが好適である。
【0026】
イニファターの濃度は0.1〜100mM程度が好適である。
【0027】
照射する光の波長は300〜400nmが好適である。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜60分程度が好適であり、1μW/cm〜10mW/cm程度の低い照射強度で1分〜30分程度が特に好適である。
【0028】
なお、この光照射工程(第1の光照射工程)の後にさらに第2の光照射工程を行ってもよい。すなわち、この反応生成物を含む溶液をアルコール、好ましくは上記モノマーのアルコール溶液で希釈する。このアルコールとしてはメタノール又はエタノール、特にメタノールが好適である。アルコール溶液中のモノマー濃度としては、終濃度として、100mM〜5M程度が好適である。
【0029】
上記第1の光照射工程からの反応生成物含有液1体積部に対し、このアルコール溶液5〜500体積部を添加するのが好ましい。
【0030】
このようにアルコール溶液で希釈した希釈液を、第2の光照射工程に供し、上記反応生成物に対しさらに上記モノマーを重合させる。この際の照射光源としては240〜400nmの波長の光を含むものであればよく、例えば低圧水銀灯や高圧水銀灯などを用いることができる。光照射時間は10分〜120分程度が好適である。
【0031】
この光照射により、反応液中に目的とする分岐型重合体が生成するので、必要に応じ精製して分岐型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーを得る。
【0032】
このカチオン性ホモポリマーの分子量は分岐鎖の鎖数によるが、2,000〜500,000、特に2,000〜150,000、とりわけ2,000〜100,000程度が好ましい。
【0033】
このようにして生成した分岐型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーに対し、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させて目的とする温度感応性ポリマー材料とする。このN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマー鎖は、低温度では親水性、高温では疎水性となる温度依存性を有し、これにより上記ポリマー材料が上記温度応答性を具備するようになる。
【0034】
N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させるには、上記のようにして合成した分岐型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーをメタノール等の溶媒に溶解させ、これにN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体を混合し、光を照射して重合させればよい。この重合反応を開始する際の溶液中における分岐型ポリマーの濃度は0.01〜10重量%程度が好適であり、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体の濃度は0.3〜30重量%程度が好適である。光の照射条件は、光波長250〜400nm、照射時間1〜150分、照射強度100〜10,000μW/cm程度が好適である。
【0035】
本発明の別の一態様では、上記イニファターに対し、まずN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体を重合させてホモポリマーを形成し、その後、このホモポリマーに上記ビニル系モノマーなどのカチオン性モノマーをブロック共重合させるようにしてもよい。
【0036】
本発明のさらに別の一態様では、モノマーとして、カチオン性モノマーと、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体と、非イオン性モノマーとを用いる。イニファターに対する重合の順序は、任意である。即ち、1つの分岐鎖を構成するカチオン性ポリマーブロック、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマーブロック、非イオン性ポリマーブロックの配列順序は任意である。
【0037】
非イオン性モノマーとしては、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールアルキルエステル(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドンなどを用いることができる。非イオン性ポリマーブロックの分子量は、2,000〜500,000が好適である。
【0038】
このブロック共重合体(ポリマー材料)の分子量は3,000〜600,000、特に3,000〜150,000であることが好ましい。
【0039】
このブロック共重合体よりなる遺伝子導入剤は、約30℃よりも高い温度で水不溶性であり、約30℃よりも低い温度で水溶性である。
【0040】
従って、約30℃よりも低い温度例えば10〜25℃程度の、核酸を複合した遺伝子導入剤の水溶液(濃度は好ましくは、3〜150mg/mL程度)を多孔質基材に含浸させた後、この多孔質基材を生体に埋設すると、生体の体温によって昇温し、遺伝子導入剤が水不溶性となる。そのため、多孔質基材に含浸された核酸複合遺伝子導入剤が生体内の埋設部位に長期にわたって定置されることになり、その部位の周囲に局部的に長期にわたって核酸が供給されることになる。
【0041】
このようにして生成したカチオン性ポリマーブロックを有したポリマーよりなる遺伝子導入剤(ベクター)が核酸を核酸含有複合体として包囲することによって、生体内の酵素による核酸の失活、分解を抑制することができる。
【0042】
遺伝子導入剤と核酸とを複合させるには、この遺伝子導入剤の濃度1〜1000μg/mL程度の分散液に対し、常温にて核酸を添加し、混合すればよい。核酸に対してカチオン性ポリマーを過剰量添加し、カチオン性ポリマーを核酸に対し飽和状態に核酸含有複合体として複合化させるのが好ましい。
【0043】
[核酸]
核酸の好ましい例としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子),p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子,IL−2遺伝子,IL−4遺伝子,HLA−B7/IL−2遺伝子,HLA−B7/B2M遺伝子,IL−7遺伝子,GM−CSF遺伝子,IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100,MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が癌治療に利用できる。
【0044】
また、VEGF遺伝子,HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス,c−mybアンチセンス,cdc2キナーゼアンチセンス,PCNAアンチセンス,E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が血管治療に利用できる。また、上記のようなDNAの導入、遺伝子発現のみならず、細胞内のmRNAを破壊するRNA干渉をsiRNAの導入で行うことも可能である。かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
【0045】
核酸含有複合体の粒径は50〜400nm程度が好適である。これよりも小さいと、核酸含有複合体内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれがある。
【0046】
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。
【0047】
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【0048】
[多孔質基材]
多孔質基材は、発泡合成樹脂以外の多孔質合成樹脂であってもよい。例えば、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる、連通性のある三次元網状構造を有し、平均孔径が50〜1,000μm特に100〜500μm程度、見掛け密度が0.01〜0.5g/cmの多孔性三次元網状構造であってもよい。
【0049】
このような多孔性三次元網状構造部を構成する熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにそれらの誘導体の1種又は2種以上が例示できるが、好ましくはポリウレタン樹脂であり、中でもセグメント化ポリウレタン樹脂が好適である。
【0050】
セグメント化ポリウレタン樹脂は、ポリオール、ジイソシアネート及び鎖延長剤の3成分から合成され、いわゆるハードセグメント部分とソフトセグメント部分を分子内に有するブロックポリマー構造によるエラストマー特性を有するため、このようなセグメント化ポリウレタン樹脂を使用した場合に得られる弾性特性は、患者やカニューレが動いた場合に心臓組織と多孔質体の界面に生じる応力を減衰させる効果が期待できる。
【0051】
熱可塑性ポリウレタン樹脂よりなる多孔性三次元網状構造体を製造するには、まず、ポリウレタン樹脂と、孔形成剤としての後述の水溶性高分子化合物と、ポリウレタン樹脂の良溶媒である有機溶媒とを混合してポリマードープを製造する。具体的には、ポリウレタン樹脂を有機溶媒に混合して均一溶液とした後、この溶液中に水溶性高分子化合物を混合分散させる。有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、テトラヒドロフランなどがあるが、熱可塑性ポリウレタン樹脂を溶解することができればこの限りではなく、また、有機溶媒を減量するか又は使用せずに熱の作用でポリウレタン樹脂を融解し、ここに孔形成剤を混合することも可能である。
【0052】
孔形成剤としての水溶性高分子化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースなどが挙げられるが、熱可塑性樹脂と均質に分散してポリマードープを形成するものであればこの限りではない。また、熱可塑性樹脂の種類によっては、水溶性高分子化合物でなく、フタル酸エステル、パラフィンなどの親油性化合物や塩化リチウム、炭酸カルシウムなどの無機塩類を使用することも可能である。また、高分子用の結晶核剤などを利用して凝固時の二次粒子の生成、即ち、多孔体の骨格形成を助長することも可能である。
【0053】
熱可塑性ポリウレタン樹脂、有機溶媒及び水溶性高分子化合物などより製造されたポリマードープは、次いで熱可塑性ポリウレタン樹脂の貧溶媒を含有する凝固浴中に浸漬し、凝固浴中に有機溶媒及び水溶性高分子化合物を抽出除去する。このように有機溶媒及び水溶性高分子化合物の一部又は全部を除去することにより、ポリウレタン樹脂からなる多孔性三次元網状構造材料を得ることができる。ここで用いる貧溶媒としては、水、低級アルコール、低炭素数のケトン類などが例示できる。凝固したポリウレタン樹脂は、最終的には、水などで洗浄して残留する有機溶媒や孔形成剤を除去すれば良い。
【0054】
[本発明の多孔体の使用方法]
遺伝子導入剤を含浸した多孔質基材よりなる本発明の遺伝子導入活性を有する多孔体は、例えば生体に対し刺入または筋に設けた穴や切開部に挿入されるようにして埋入される。そのため、遺伝子導入材は直径0.1〜5.0mm特に0.5〜2.0mm、長さ1〜50mm特に2〜20mm程度の細棒ないしは針状とされるのが好ましい。この細棒ないし針は、長さ方向の全体において等径であってもよく、テーパ形など非等径であってもよい。
【0055】
本発明の遺伝子導入活性を有する多孔体は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、当該複合体に含められる核酸の種類によって異なるが、末梢動脈疾患、冠動脈疾患、動脈拡張術後再狭窄等の病変を生じる循環器領域での疾患に加え、癌(悪性黒色腫、脳腫瘍、転移性悪性腫瘍、乳癌等)、感染症(HIV等)、単一遺伝病(嚢胞性線維症、慢性肉芽腫、α1−アンチトリプシン欠損症、Gaucher病等)等が挙げられる。
【実施例】
【0056】
実施例1
<温度感応性ブロック共重合体よりなる遺伝子導入剤の合成>
i)イニファターの合成
下記反応式に従って、1,2,4,5−テトラキス(N−Nジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
【0057】
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)1.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミル酸ナトリウム4.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下で室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、減圧乾燥後、クロロホルム200mLへ溶解し、150mLの水を加えて抽出分離し、臭化ナトリウムを除去した。この操作を3回繰り返した後、クロロホルム層を硫酸マグネシウムで24時間乾燥させて、濾過後、n−ヘキサンを加え、再結晶を行って精製し、白色の1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。高速液体クロマトグラフィーにより、原料ピークが消失し、精製物が単一物質であることを確認した。
【0058】
H NMR(in CDCl)の測定結果はδ1.26−1.31ppm(t,24H,CHCH),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CHCH),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)となった。
【0059】
【化1】

【0060】
ii)光重合による4分岐型スター型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーの合成
下記反応式に従い、次のようにして、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAmと記載することがある。)よりなるカチオン性ホモポリマーの合成を行った。
【0061】
即ち、上記i)により合成した1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを約20mLのトルエンへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(3−N,N−DMAPAAm)7.9gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。石英セル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後に、200W高圧水銀灯で紫外光を40分間照射した。照射強度は照度計(UVR−1,TOPCON,Tokyo,Japan)を使用して1mW/cm(250nm)に調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させて精製し、少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター型ホモポリマー1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(pDMAPAAm)よりなるカチオン性ポリマーを得た(重合率40%)。分子量はGPCにより52,000と測定された。
【0062】
H NMR(in DO)の測定結果は、δ1.5−1.8ppm(br,2H,−CHCHCH−),δ2.1−2.2ppm(br,6H,N−CH),δ2.2−2.4ppm(br,2H,CH−N),δ3.0−3.4ppm(br,2H,NH−CH),δ7.4−7.8ppm(br,1H,−NH−)となった。
【0063】
【化2】

【0064】
iii)カチオン性ホモポリマーへのN−イソプロピルアクリルアミドのブロック共重合によるポリマー材料(4分岐型pDMAPAAm−b−pNIPAM)の合成
下記反応式に従い、次のようにして、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−ブロック−ポリ−(N−イソプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAm−b−pNIPAMと記すことがある。)の合成を行った。
【0065】
即ち、上記ii)で合成した4分岐型pDMAPAAmホモポリマーを1リットルフラスコへ移し、約800mLのジエチルエーテルを投入して再沈殿させ、デカンテーションによりジエチルエーテルを除去した。ここへ約50mLのトルエンを加えポリマー成分を溶解し、再度ジエイチルエーテルを投入してポリマー成分を再沈殿した。この操作を3回繰り返した。ポリマー成分を約20mLのメタノールへ溶解し、ここへN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)0.1gを混合して全量をメタノールで60mLに調整した。ii)と同様の条件で光照射重合を行って、メタノール/ジエチルエーテル系で精製を行って4分岐型pDMAPAAmとポリN−イソプロピルアクリルアミド(pNIPAM)とのブロックポリマーよりなるポリマー材料pDMAPAAm−b−pNIPAMを得た。分子量はGPCにより68,000と測定された。
以上により、遺伝子導入剤が得られた。
【0066】
【化3】

【0067】
<遺伝子導入剤と核酸との複合による含浸液の調製>
調製は環境温度20〜25℃に制御されたクリーンベンチ内で行った。ここでの調製に使用した緩衝溶液、生理食塩水などすべての溶液も20〜25℃に温調した。DNAはホタルルシフェラーゼをコードするプラスミド(プロメガ社、pGL3コントロールベクター)を使用した。
DNAを濃度0.033μg/μLのTEバッファー溶液とし、遺伝子導入剤としての4分岐型pDMAPAAm−b−NIPAMブロックポリマーは生理食塩水に溶解し、その濃度を0.05μg/μL、0.15μg/μL、0.25μg/μL、0.50μg/μLまたは0.75μg/μLに調整した。DNA溶液900μLと各濃度の4分岐型pDMAPAAm−b−NIPAMブロックポリマー溶液をそれぞれ600μLずつを混合して含浸液を調製した。
【0068】
<多孔質基材への含浸>
特開2004−97267の実施例1の方法によって製造した多孔質ポリウレタン(形状及び大きさは1mm径、長さ20mm)にこの含浸液を含浸させた。含浸量は約1mL/cmとした。
【0069】
これを37℃にて30分間インキュベートしたところ34℃以上の温水に対しては遺伝子導入剤が溶離しないが、30℃以下の冷水に対しては遺伝子導入剤が溶出することが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材に遺伝子導入剤を含浸した遺伝子導入活性を有する多孔体であって、
該遺伝子導入剤は、分岐鎖を有するポリマー材料よりなり、
該ポリマー材料は、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性であることを特徴とする遺伝子導入活性を有する多孔体。
【請求項2】
請求項1において、前記ポリマー材料は、少なくともカチオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体との共重合ブロックを有する重合体であることを特徴とする遺伝子導入活性を有する多孔体。
【請求項3】
請求項2において、カチオン性ポリマーブロックの分子量が2,000〜500,000であることを特徴とする遺伝子導入活性を有する多孔体。
【請求項4】
請求項2又は3において、前記ポリマー材料は、カチオン性モノマーと非イオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体とのブロック共重合体であることを特徴とする遺伝子導入活性を有する多孔体。
【請求項5】
請求項4において、非イオン性ポリマーブロックの分子量が2,000〜500,000であることを特徴とする遺伝子導入活性を有する多孔体。
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれか1項において、該ブロック共重合体の分子量が3,000〜600,000であることを特徴とする遺伝子導入活性を有する多孔体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記所定温度(T)は、25〜35℃の間の温度であることを特徴とする遺伝子導入活性を有する多孔体。
【請求項8】
請求項2ないし7のいずれか1項において、前記ブロック共重合体は、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体であることを特徴とする遺伝子導入活性を有する多孔体。
【請求項9】
請求項8において、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が結合していることを特徴とする遺伝子導入活性を有する多孔体。
【請求項10】
請求項8又は9において、カチオン性モノマーがビニル系モノマーであることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項11】
請求項10において、ビニル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする遺伝子導入活性を有する多孔体。

【公開番号】特開2008−195686(P2008−195686A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34897(P2007−34897)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】