説明

遺伝子発現の検出方法

本発明では、オリゴヌクレオチドプローブを生成する新規なアプローチと、これらのプローブを、アレイ又はビーズ上の被験オリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせることによって、遺伝子発現のプロファイリングに使用するアプローチを提供する。このアプローチでは、相補的なオリゴヌクレオチドプローブに、染料又はハプテン標識ddNTPと鋳型との混合物の溶液を使用して標識を行う。次に、この標識したオリゴヌクレオチドプローブを、固相担体上の被験オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに使用し、ハイブリダイゼーションの成否を、固相担体上の信号を利用して監視する。このアプローチでは、プローブの内容がシンプルにしたため、ハイブリダイゼーションの時間が大幅に短縮される。この方法は、少数の遺伝子、例えば、特定の疾病又は状態についての遺伝子のシグナチャーセットについて解析する場合に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子の発現を検出し、定量する方法、並びにこの方法の、遺伝子発現のプロファイリング及び疾病の診断への使用に関するものである。より詳細には、本発明は、標識オリゴヌクレオチドプローブの生成と、これらのプローブのビーズ又はアレイを用いた遺伝子発現解析への使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遺伝子発現用のオリゴヌクレオチドアレイの利用は、ますます増えている。予め合成したオリゴヌクレオチドをスポッティングしたり、インサイチューでフォトリソグラフィー手段などによって合成することにより、マスアレイを信頼性をもって製造し、こうしたアレイを用いて、遺伝子発現の研究を再現性をもって行うことができるようになったことは、マイクロアレイの研究コミュニティに熱狂的に迎えられた。遺伝子発現プロファイリングは、ゲノムの障害、例えば癌の分子診断を行うツールの地位を固めつつある。オリゴヌクレオチドアレイは、cDNAアレイを作成するという面倒な段階を実施する際に遭遇する困難、例えば、mRNAソースが必須で、RT−PCR反応を大量に平行して行わねばならず、クローニング及び配列確認も必要となるなど問題点の一部についても解消する。
【0003】
研究者がcDNAアレイ上での遺伝子発現の研究に用いる標識プロトコールには、何種類もあるが、こうしたプロトオールをオリゴアレイに用いても、十分な結果は得られない。以下に、マイクロアレイでの遺伝子発現実験で、研究者がプローブの生成に用いるいくつかの一般的な方法を挙げておく。1)野生型又は修飾逆転写酵素(オリゴdTプライマー及び/又はランダムプライマーのいずれかを使用)を使用した第一鎖cDNA合成の間に標識を行う。2)「改変エバーワイン(Eberwine)法」。この方法は、RNAの合成の間に標識を行うことによってRNAプローブを生成することに依拠した戦略であり、RNAが増幅されるという利点がある。この戦略は面倒で、複数の段階も必要とし、その段階では、適当なプロモーターを用いてRNAをDNAに転化して増幅を可能とせねばならない。また、この方法は、RT、RNAポリメラーゼ、DNAリガーゼ、RNase Hなど、4種以上の異なる酵素と、それ以外に添加剤を要する。また、増幅は指数的に進行するため、実験結果が損なわれる可能性がある。3)もう一つの広く受け入れられている方法では、第一鎖合成の後に、アリルアミノ修飾ヌクレオチドに、化学カップリング法で標識を行う。これらのcDNAアレイ用の標識法の利点としては、生成したプローブの多くの部分が、アレイ上で、広い領域(通常約500塩基以上)に対して一般に相補的であり、したがって、研究に十分使用できる信号が生成するということが挙げられる。
【0004】
しかし、上述の方法で生成したプローブでは、固相担体上で核酸の大型断片をハイブリダイズさせるうえでの熱力学的制限のために、オリゴアレイを用いた実験を行う前に、断片化の段階が必要である。こうしたプロセスは労力を要して煩雑であるばかりでなく、断片化によって、標識した合成プローブの多くの部分が、アレイに配列したオリゴでは対応する相補的な領域を欠くため、使用不能となる。したがって、こうした断片化したプローブから生成した信号は、何桁か減衰する可能性が高く、その結果、検出が困難となる。
【特許文献1】米国特許第6004755号明細書
【特許文献2】国際公開第1993/024655号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/052907号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2004/096997号パンフレット
【非特許文献1】SCHENA, M., et al .,“Parallel Human Genome Analysis: Microarray-Based Expression Monitoring of 1000 Genes”, Proceedings of the National Academy of Sciences of USA, National Academy of Sciences of USA, Washington, DC, US, volume 93, number 20, October 1996, page 10614-10619
【非特許文献2】WATAKABE, A., et al .,“Similarity and Variation in Gene Expression Among Human Cerebral Cortical Subregions Revealed by DNA Macroarrays: Technical Consideration of RNA Expression Profiling from Postmortem Samples”, Molecular Brain Research, volume 88, number 1-2, March 2001, page 74-82
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、オリゴヌクレオチドプローブを生成する新規なアプローチと、これらのプローブを、固相担体(アレイ又はビーズ)上の被験オリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせることによって、遺伝子発現のプロファイリングに使用するアプローチを提供する。このアプローチでは、(アレイ上のオリゴヌクレオチドに対して)相補的なオリゴヌクレオチドプローブに、染料又はハプテン標識ddNTPと鋳型との混合物の溶液を使用して標識を行う。次に、この標識オリゴヌクレオチドプローブを、固相担体上の被験オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに使用し、ハイブリダイゼーションの成否を、固相担体上の色を利用して監視する。このアプローチでは、プローブの内容がシンプルにたため、ハイブリダイゼーションの時間が大幅に短縮される。この方法は、少数の遺伝子、例えば、特定の疾病又は状態についての遺伝子のシグナチャーセットについて解析する場合に特に有用である。
【0006】
本発明の一態様で提供する遺伝子発現の解析方法では、まず、1種以上の標識オリゴヌクレオチドプローブの形成を、(1)まず、1種以上の目的遺伝子中で、遺伝子特異的な標的領域の配列を、アルゴリズムによって選択し、(2)次に、選択した標的領域のそれぞれと相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドプローブを合成し、(3)上記オリゴヌクレオチドプローブを、目的のソース核酸と混合して、ハイブリダイズさせ、(4)ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドプローブの3′末端に、標識ジデオキシヌクレオチドを、ポリメラーゼ反応で付加し(プライマーの延長)、そして(5)オリゴヌクレオチドプローブを回収する段階を含む方法によって行う。この方法では、さらに、固相担体に結合した被験オリゴヌクレオチドであって、上記プローブオリゴヌクレオチドと相補的な配列を有する被験オリゴヌクレオチドを用意する。次に、この標識オリゴヌクレオチドプローブを、被験オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする。その後、上記固相担体上の被験オリゴにハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドプローブから標識を検出し、各目的遺伝子の発現レベルを決定する。
【0007】
本発明の別の態様で提供する遺伝子発現の解析方法では、まず、1種以上の標識オリゴヌクレオチドプローブの形成を、(1)まず、1種以上の目的遺伝子中で、遺伝子特異的な標的領域の配列を、アルゴリズムによって選択し、(2)次に、上記目的遺伝子のそれぞれの標的領域と配列が同一のセンスオリゴヌクレオチドプローブを合成し、(3)RNAソースから、第1鎖cDNAを生成し、上記オリゴヌクレオチドプローブを、第1鎖cDNAと混合して、オリゴヌクレオチドプローブと第1鎖cDNAとをハイブリダイズさせ、(4)ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドプローブの3′末端に、標識ジデオキシヌクレオチドを、ポリメラーゼ反応で付加し、そして(5)標識したオリゴヌクレオチドプローブを回収する段階を含む方法によって行う。この方法では、さらに、固相担体に結合した被験オリゴヌクレオチドであって、上記遺伝子配列に対してアンチセンスであり上記プローブオリゴヌクレオチドと相補的な配列を有する被験オリゴヌクレオチドを用意する。次に、この標識オリゴヌクレオチドプローブを、固相担体上の被験オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする。その後、上記固相担体上の被験オリゴにハイブリダイズし、標識を検出して、1種以上の目的遺伝子のそれぞれ発現レベルを決定する。
【0008】
これらの遺伝子発現の解析法は、生物のゲノム全体の遺伝子発現の測定に適用することができる。例えば、ゲノムのすべての遺伝子についてプローブオリゴヌクレオチドを設計して合成し、上述のような標識プローブを製造することができる。ゲノムのすべての遺伝子の発現レベルは、これらのオリゴヌクレオチドプローブを、生物の各遺伝子を代表する被験オリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイのスライドとハイブリダイズさせることによって調べることができる。オリゴヌクレオチドプローブの標識は、プライマーの延長によって行われるので、プローブの標識は、最初にRNAをcDNAに逆転写しなくても実施することができる。したがって、こうした方法は、細菌を始めとする原核生物のRNAの遺伝子発現プロファイリングにも極めて適している。というのも、こうしたRNAは、ポリA尾部を持っておらず、逆転写がさらに面倒だからである。こうした方法は、ホルマリンで固定されていたり、パラフィンに包埋されたサンプルから得られた断片化したRNAのプロファイリングにも極めて適している。
【0009】
ヒトの組織/細胞遺伝子発現レベルを測定するには、30000〜100000オリゴヌクレオチドのプローブが必要であり、固相担体上に、同じ数の相補的被験オリゴヌクレオチドが存在していることも必要である。遺伝子の発現を解析するこうした方法は、ゲノム内の遺伝子のサブセットの遺伝子発現を測定する際にも適用できる。この方法は、遺伝子の小型のシグナチャーセットについて発現パターン(シグナチャー)を識別することによって使用できるので、特に有用である。
【0010】
本発明の別の態様では、比較によって遺伝子の発現を解析する方法を提供する。この方法では、(i)1種以上の標識オリゴヌクレオチドプローブの形成を、まず、1種以上の目的遺伝子中で、遺伝子特異的な標的領域の配列を、アルゴリズムによって選択し、次に、選択した標的領域のそれぞれと相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドプローブを合成することによって行い、(ii)ソース核酸のサンプルのそれぞれに対して特有な標識又はハプテンによる上記1種以上のオリゴヌクレオチドプローブの標識を、まず、オリゴヌクレオチドプローブの一部を、上記ソース核酸の一種と混合して、ハイブリダイズさせ、次に、ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドプローブの3′末端に、標識ジデオキシヌクレオチドを、ポリメラーゼ反応で付加し、オリゴヌクレオチドプローブを回収し、さらに段階(ii)を繰り返して、目的とするソース核酸のそれぞれを、特有の標識で標識し、そして、標識したオリゴヌクレオチドプローブを一緒にすることによって行う。その後、固相担体に結合した被験オリゴヌクレオチドであって、上記プローブオリゴヌクレオチドと相補的な配列を有する被験オリゴヌクレオチドを用意する。その後、標識したオリゴヌクレオチドプローブを、固相担体上の被験オリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせる。ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドプローブから、特有の標識のそれぞれを検出して定量し、目的とするソース核酸サンプルの各遺伝子についての相対的な発現レベルを決定する。
【0011】
本発明の別の態様では、比較によって遺伝子の発現を解析する方法を提供する。この方法では、(i)1種以上の標識オリゴヌクレオチドプローブの形成を、まず、1種以上の目的遺伝子中で、遺伝子特異的な標的領域の配列を、アルゴリズムによって選択し、次に、目的遺伝子のそれぞれの標的領域と配列が同一であるセンスオリゴヌクレオチドプローブを合成することによって行い、(ii)ソースRNAのサンプルのそれぞれに対して特有な標識又はハプテンによる上記1種以上のオリゴヌクレオチドプローブの標識を、(1)まず、ソースRNAの1種から、第一鎖のcDNAを生成し、(2)オリゴヌクレオチドプローブの一部を、第一鎖cDNAと混合して、オリゴヌクレオチドプローブをcDNAとハイブリダイズさせ、(3)ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドプローブの3′末端に、標識ジデオキシヌクレオチドを、ポリメラーゼ反応で付加し、(4)オリゴヌクレオチドプローブを回収し、(5)上記段階を、目的とするソース核酸のそれぞれについて特有の標識を用いてさらに繰り返し、そして、(6)特有の標識を付したオリゴヌクレオチドプローブを一緒にすることによって行う。この方法は、固相担体に結合した被験オリゴヌクレオチドであって、上記プローブオリゴヌクレオチドと相補的な配列を有する被験オリゴヌクレオチドを用意する。その後、標識したオリゴヌクレオチドプローブを、固相担体上の被験オリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせる。次に、固相担体上のハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドプローブから、特有の標識のそれぞれを検出し、各遺伝子についての相対的な発現レベルを決定する。
【0012】
これらの比較によって遺伝子の発現を解析する方法は、正常なサンプルと疾病のサンプル又は任意の2種の目的サンプルで遺伝子の発現を比較して、特定の疾病又は状態に関連した発現プロファイルを識別する際に用いることができる。これらの結果からは、ゲノム中の特定の遺伝子の発現パターンの変化に付随する疾病又は状態についての診断用シグナチャーを得ることができる。
【0013】
図面の簡単な説明
図1は、本発明の一形態の模式図である。図1Aは、マイクロベースのフォーマットで実施した形態、図1Bは、ビーズのフォーマットで実施した同様の形態である。これらの形態は、固相担体のフォーマットが異なる点のみが相違点である。
【0014】
図2は、本発明の形態による遺伝子発現解析の別のプローブ標識スキームを示す。オリゴヌクレオチドプローブの標識は、染料又はハプテンで標識したddCTP及び未標識のdATP、dGTP及びdTTPを用いて実施する。オリゴヌクレオチドプローブの標識は、Cの導入時に生じる。図2Aは、標識反応の前に、遺伝子特異的なオリゴを各遺伝子のmRNAにハイブリダイズさせたところを示す模式図である。図2Bは、標識反応後についての模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明では、相補的なオリゴヌクレオチドプローブ(アレイに配列したオリゴヌクレオチドに対して相補的なオリゴヌクレオチドプローブ)を、ポリメラーゼ反応によって、染料又はハプテン標識ddNTPと鋳型核酸との混合物の溶液で標識する段階を含むアプローチを使用した遺伝子の発現の検出方法について記載する。このアプローチは、標識するオリゴヌクレオチドプローブが、固相担体上ではなく、溶液中に存在しているという点で、アレイに配列したプライマーを延長する方法とは異なっており、この点は、極めて重要である。次に、標識ずみの延長したオリゴヌクレオチドプローブを、固相担体上の結合相手(被験オリゴヌクレオチド)とのハイブリダイゼーションに使用する。遺伝子発現のレベルを、標識が発する色の存在及び強度によって測定する。オリゴヌクレオチドプローブは、標識の段階でも、固相担体でのハイブリダイゼーションの段階でも、プローブの配列の起源である特定の遺伝子のみとハイブリダイズするよう選択する。オリゴヌクレオチドプローブは、好ましくは長さ約10〜約100ヌクレオチド、より好ましくは約20〜約60ヌクレオチド又は約20〜約30ヌクレオチドとする。標識後、ハイブリダイゼーションの段階の前に、鋳型核酸を、必要に応じて標識プローブから分解又は分離する。
【0016】
標識プローブがさらに必要となる場合もある。こうした場合には、変性とハイブリダイゼーションとポリメラーゼ反応を繰り返して、標識プローブをリニアに増やせばよい。標識には、標識ddNTPが使用されることも多いものの、プローブを、1種の標識ジデオキシヌクレオチドと3種の未標識デオキシヌクレオチドの存在下で、例えば、標識したddCTPと未標識のdATP、dGTP及びdTTPを使用して標識するのが有利な場合もある。標識ジデオキシヌクレオチドをヌクレオチドプローブの3‘末端への付加及び反応の繰り返しには、いくつかのポリメラーゼが使用できる。例えば、DNAポリメラーゼI(例えばT7 DNAポリメラーゼ)又は逆転写酵素は、いずれも、標識ジデオキシヌクレオチドを、プローブ/RNA鋳型複合体のオリゴヌクレオチドプローブの3′末端に導入する際に使用することができる。こうした反応には未変性酵素が有用であるものの、遺伝子組み換え酵素にも、各種の点有利なものがあり、利用が可能な場合がある。鋳型がDNA鋳型である場合には、標識反応にDNAポリメラーゼの大半が使用できる。
【0017】
染料又はハプテンで標識したヌクレオチドは、当業界で周知である。また、ヌクレオチドは、放射線アイソトープでも標識できる。染料又はハプテンの標識を検出する方法も、周知である。本出願の方法での検出には、検出が容易な任意の染料/ハプテン標識を使用できる。一般的な標識、例えばサイニン(Cynine)染料、IR染料、ローダミン染料、アレクサ(alexa)染料及びビオチン−ストレプトアビジン系を例として挙げることができる。Cy3及びCy5染料は2色の示差的遺伝子発現の研究で用いられる一般的な染料なので、Cy3又はCy5−ddNTPが、有力な候補となる。こうした方法を用いると、ローダミンクラスに3番目又は4番目の染料を容易に統合でき、柔軟な対応が可能となる。標識は、ヌクレオチド1つだけに限定されるので、染料−ヌクレオチド類似物に構造変化が生じても導入率が有意に限定されることはなく、この点は、導入の後に延長を行う他の方法では問題となる点である。
【0018】
標識によっては、検出可能な信号を直接生成可能であるが(例えば蛍光染料)、標識によっては、1以上のさらなる信号生成系の構成部分(例えばハプテン、例えばビオチン−ストレプトアビジン)との相互作用を通じて信号を生成するものもある。場合によっては、ハプテン系を使用することが好ましい。ビオチン−ストレプトアビジン系については、ddNTPは、通常、ビオチンで標識する。この場合、ビオチン標識オリゴヌクレオチドプローブを、固相担体上の被験オリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせた後、染料を結合させたストレプトアビジンを加え、ビオチンと相互作用させる。そして、ストレプトアビジンに担持された標識によって発せられた色を、走査又は撮影によって検出する。ハイブリダイズしたビオチン標識プローブの検出には、ストレプトアビジンの直接標識を使用することもできるが、信号の増幅は、酵素にもとづく信号増幅によって行うことも可能である。例えば、ストレプトアビジンは、抗体と複合させることができ、抗原を複合させた二次ビオチン分子によって信号を増幅させることができる。この場合、信号の検出には、染料で標識したストレプトアビジンを使用する。信号の増幅には、クアンタムドット(QuantumDot)−ストレプトアビジン複合体を使用することもできる。別の例としては西洋ワサビペルオキシダーゼを結合させたストレプトアビジンを挙げることができ、この場合には、化学発光によって検出することになる。
【0019】
標識プローブと相補的なオリゴヌクレオチドを、固相担体に固定する。担体の一種としてはビーズを挙げることができる。ビーズと染料標識を検出する方法としては、フローサイトメトリーを用いる方法を挙げることができる。フローサイトメトリーによるビーズと、ビーズに付随する染料標識の検出の詳細、並びに示差的遺伝子発現解析の利用については、米国特許出願第09/914603号に開示されており、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0020】
固相担体としては、顕微鏡のスライドなどのようなタイプも挙げられる。顕微鏡のスライドは、平坦な表面とすることも、ゲルポリマーでコーティングした表面とすることもできる。また、この表面には、複数の特徴的な微少形状物が、互いに間隔をおいた領域に配列されており、表面に凹凸が設けられていて、この凹凸のある表面によって、凹凸のない表面と比べて、表面積が増大している。結合させたオリゴヌクレオチドは、マイクロアレイのフォーマットで配列され、検出は、顕微鏡のスライド上のマイクロアレイを走査又は撮影することによって行う。
【0021】
この方法は、ゲノム内のすべての遺伝子の遺伝子発現について調べる場合にも、また、目的とする遺伝子のサブセットの遺伝子発現について調べる場合にも、使用することができる。ある遺伝子特異的なオリゴヌクレオチドを、プローブとして使用し、それと相補的なオリゴヌクレオチドを、固相担体上で使用する。したがって、大腸菌のゲノム全体の遺伝子発現について解析する場合には、互いに異なり、遺伝子特異的で、クロスハイブリダイズすることのないオリゴヌクレオチドのペアが、約4300ペア必要となる。同様に、酵母は、ゲノム全体で、オープンリーディングフレーム(遺伝子)が6250個あるので、互いに異なり、遺伝子特異的で、クロスハイブリダイズすることのないオリゴヌクレオチド6250ペアで、特異的にカバーすることができる。ヒトゲノム全体のすべての遺伝子をカバーするには、約50000ペアが必要である。ゲノムの選択的スプライシングについて解析する際には、各遺伝子について2ペア以上が必要となるので、さらに多くのオリゴヌクレオチドのペアが必要となる。
【0022】
この方法は、目的とする遺伝子の小型のサブセットの遺伝子発現を解析する際に使用するのが好ましい。このサブセットは、生物由来の任意の遺伝子セットとすることができ、特定の状態又は特徴についての遺伝子であって、その遺伝子の発現が、ヒトの特定の疾病又は状態、例えば癌、或いは特定の分子又は薬剤の代謝を示すような遺伝子のシグナチャーセットとすることが好ましい。特定の疾病又は状態を保持している疑いのある個人について、遺伝子によるこうしたシグナチャーセットの発現を測定し、その遺伝子のシグナチャーセットの発現レベルを、特定の疾病又は状態に関連づけられた所定の発現シグナチャーと比較することで、その疾病又は状態を診断することも可能になる。こうした方法は、モデル生物や動物の疾病の毒性ゲノム科学研究並びに前臨床研究での遺伝子プロファイリングにも有用である。
【0023】
この新規なアプローチには、他の標識プロトコールと比べて明瞭な利点がある。
【0024】
(1)ハイブリダイズした標識プローブから検出された信号は、遺伝子の発現レベルと直接比例している。これは、各標識オリゴヌクレオチドプローブが、ポリメラーゼ反応で導入された標識を1個しか担持していないためである。一方、従来法によって作成されたプローブは、改変エバーワイン法で作成されたものも含め、一般にサイズも大型で、含まれる標識の数にばらつきがある。こうした従来法を用いたのでは、検出された信号と実際の発現レベルとの間に、相関関係はほとんど確立できない。しかし、本発明のアプローチでは、途中で増幅を行うような場合であっても、生成したプローブは、依然として、サンプル中の遺伝子発現のレベルを、ほぼ反映しており、これは、増幅が指数的ではなく、リニアに進行するためである。
【0025】
(2)第一鎖cDNAの合成は、必要に応じて行えばよいので、本発明の方法は、ポリA尾部を欠いたサンプルを解析する際にも至適である。この点は、いくつかの状況で、極めて有用である。(i)ホルマリンで固定したサンプルや、パラフィンに包埋した臨床サンプルの多くで見られるように、質が低いサンプル、例えば部分的に分解したRNAのようなサンプルは、ポリA尾部を含んでいないことが多い。こうしたサンプルでは、従来の標識技術では必須の課程である全長の第一鎖cDNAに、オリゴdTプライマーを用いた第一鎖の合成を使用できない。本発明で説明するオリゴヌクレオチドプローブの利用は、こうした問題を解消するものであり、こうした状況でも、発現についての正確な情報が得られる。(ii)細菌から得られたmRNAは、ポリA尾部を含んでおらず、したがって、ポリdTプライマーを使用して第一鎖cDNAを合成することはできない。本発明の特定の形態では、標識反応の前に、プローブがmRNA鋳型に直接ハイブリダイズする。このため、mRNAについてポリA尾部が必要とされることがなく、細菌の遺伝子の解析を行ううえでは理想的である。(iii)第一鎖cDNAの合成が必須ではないため、本発明の方法は、プローブ配列が、遺伝子の5‘に近い側に位置している場合にも至適である。
【0026】
(3)逆転写は、mRNAの5′末端まで進むとは限らないので(酵素が落ちるため)、遺伝子の5′側の配列は、第一鎖cDNAのプールに十分反映されない。被験配列を、遺伝子の5′末端付近から選ぶ場合には、cDNA鋳型から生成したプローブを使用する発現の解析は、実際の遺伝子発現のレベルを正確には反映しえない。しかし、本発明の方法は、逆転写が必要ではないため、制限されない。
【0027】
(4)同じ理由で、本発明の形態は、スプライスバリアントの発現の検出に、多くのバリアントが、遺伝子の5′末端に近接しているらしいにもかかわらず適している。
【0028】
(5)本発明は、血液サンプル又は分析者にとって重要ではない遺伝子を高レベルで含有している任意のサンプルを解析するのに適している。血液サンプルを解析することは、侵襲性が低いので、臨床では多くの状況で好適である。しかし、血液由来のmRNAは、高レベル(70%以下)のグロビンmRNAを含んでいる。他の方法、例えば改変エバーワイン法では、生成したcDNAの大半(70%以下)が、グロビン由来となる。そのため、合成時に材料の多くが無駄となるばかりでなく、グロビンの発現は、分析では関連性がないため、標識サンプル中の有効なプローブの量が低減してしまう。本発明では、単に、プライマー伸張/標識の段階で、グロビン遺伝子に対して特異的なプローブを用いないことによって、こうした問題が防止され、その後グロビンを減らす必要性もなくなる。
【0029】
(6)本発明の方法を用いると、マイクロアレイ上のより大きなセットのうちの特定の遺伝子のセットの発現について調べることが可能となる。例えば、50000個の遺伝子アレイのうちの200個の遺伝子のみの発現レベルについて関心がある場合、これらの200個の遺伝子由来の遺伝子特異的なオリゴヌクレオチドプローブの使用を選ぶことができる。こうして、アレイ上で、目的とする遺伝子のみを調べることができ、他の遺伝子は対象とする必要がない。その結果、クロスハイブリダイゼーションによる信号のクロスコンタミネーションの確率が減る。
【0030】
(7)本発明の方法を用いると、プローブの準備の作業フローが大幅に短縮される。改変エバーワイン法と比較すると、改変エバーワイン法では、逆転写、第二鎖cDNAの合成、RNAの生成、ビオチンによる標識を行っており、複数の酵素が必要とされるばかりか、この段階に2日を要する。本発明のプローブ準備プロトコールでは、単一のプライマー延長反応のみが必要とされ、1時間もあれば容易に完了してしまう。
【0031】
(8)本発明の方法では、平衡状態に達するのに必要なハイブリダイゼーションの時間も短縮される。これには3つの理由がある。(1)ハイブリダイゼーションの前に、未標識オリゴヌクレオチドプローブを、標識オリゴヌクレオチドプローブから分離することをしない。すなわち、目的とする各遺伝子についての等モル比のオリゴヌクレオチドプローブが、いくつかの標識プローブといくつかの未標識プローブを含め、ハイブリダイゼーションの段階でも存在することになる。ハイブリダイゼーションの速度は、低レベルで発現された遺伝子について発現されたコピーの数によって限定されない。(2)(発現された全遺伝子から得たプローブでなく)目的とする遺伝子由来のプローブを用いてハイブリダイゼーションを実施するため、ハイブリダイゼーション反応の複雑さが大幅に低減される。その結果、反応の完了に要するハイブリダイゼーションの時間が短縮される。こうしたことは、少数の遺伝子セット、例えば、通常は数百個に満たない遺伝子が関与するような特定の疾病又は状態のシグナチャーについて遺伝子の発現を検出する場合に使用すると、特に顕著である。こうした理由から、ハイブリダイゼーション反応が有意にスピードアップする。(3)オリゴヌクレオチドプローブは、デザインフェーズで、均一なハイブリダイゼーションが進行するよう選択される。その結果、プローブと被験オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションがさらにスピードアップする。
【0032】
(9)本発明の方法を用いると、高価な染料−ヌクレオチド類似体や他の反応関連製品を有効に利用できる。上述したように、すべての標識分子が、プローブの役目をはたし、無駄となる標識分子がない。これは、分析する被験オリゴヌクレオチドに対して相補的な配列を欠いているために染料で標識した断片のサブセットが無駄になる従来の方法とは異なり、長いcDNAプローブが断片化することがないからである。
【0033】
(10)利点は、他にもある。そうした利点の一つとしては、表面で生じるのがハイブリダイゼーションのみであることから、表面での酵素の化学的性質にかかわる問題が解消される点を挙げることができる。また、反応のために4種のddNTPすべてを加える必要がなく、4種のうちの1種で十分な場合もある。その場合でも、プローブは、一般に、もとのオリゴヌクレオチドプローブより15塩基を超えて長くなることはなく、依然として使用に適したプローブである。
【0034】
本発明の一形態では、まず、1種以上のオリゴヌクレオチドプローブの形成を、まず、1種以上の目的遺伝子中で、遺伝子特異的な標的領域の配列を、アルゴリズムによって選択し、次に、選択した標的領域のそれぞれと相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドプローブを合成し、上記オリゴヌクレオチドプローブを、目的のソース核酸と混合して、ハイブリダイズさせ、ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドプローブの3′末端に、標識ジデオキシヌクレオチドを、ポリメラーゼ反応で付加し、そしてオリゴヌクレオチドプローブを回収する段階を含む方法によって行う。同時に、固相担体に結合した被験オリゴヌクレオチドであって、上記プローブオリゴヌクレオチドと相補的な配列を有する被験オリゴヌクレオチドを用意する。次に、標識プローブオリゴヌクレオチドを被験オリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせ、固相担体上のハイブリダイズさせたプローブオリゴヌクレオチドの標識を検出して、1種以上の目的遺伝子のそれぞれについて発現レベルを決定する。
【0035】
上記形態では、目的とするソース核酸は、全RNA、mRNA又は変性cDNAとすることができ、理想的には、ハイブリダイゼーション段階の前に、ソース核酸を標識オリゴヌクレオチドプローブから分解するなどして分離しておく。ソース核酸が全RNA又はmRNAである場合には、信号の増幅は、標識ddNTPを容易に組み込みうる能力を備えた熱に対して安定なポリメラーゼ、例えば組み換え又は天然のT7 DNAポリメラーゼ、DNA ポリメラーゼI又はRNase活性のない逆転写酵素を使用することによってたやすく実現することができる。これらの酵素は、RNA鋳型を用いた単一のヌクレオチド付加に対して極めて良好な逆転写酵素活性を示す。さらに、RNase H活性がそのままの野生型の逆転写酵素は、標識の最初のラウンド後に鋳型RNAを損壊するので、リニアな増幅を生じない標識にのみ適切である。反応を繰り返すと、標識プローブ生成物がリニアに増幅し、生じた生成物は、出発材料のコピー数と直接比例するはずである。この点は、この方法の主要な利点の一つである。
【0036】
スライド又はビーズ表面上の配列したオリゴヌクレオチドを延長する必要がないので、相補的なオリゴヌクレオチドをスライド上に固定する際に、3′−5′と5′−3′の両方のモードで固相に化学的に結合させることができる。したがって、アレイに配列したオリゴヌクレオチドの3′末端を、固定することができる。被験オリゴヌクレオチドの3′又は5′末端の向きや接触のしかたは限定されない。
【0037】
図1は、本発明の一形態による遺伝子発現解析の例を示す。図1(a)は、マイクロアレイのフォーマットとして実施した形態を示す。図1(b)は、ビーズのフォーマットで実施した同じ形態を示す。ちがいは、固相担体のフォーマットが異なるという点だけである。まず、第一段階として、反応チューブ、鋳型RNA(mRNA又は全RNA)、相補的プローブ(オリゴヌクレオチドプローブ)、適当なポリメラーゼ、ddNTP、例えばCy3又はCy5−ddNTPsを溶液中で混合する。オリゴヌクレオチドプローブを、ポリメラーゼで、1塩基延長し、標識したオリゴヌクレオチドプローブは、標識ddNTP由来の標識を保持している。標識オリゴヌクレオチドプローブがさらに必要な場合には、反応を何度か繰り返し、標識プローブをリニアに増幅する。第二段階として、鋳型RNAを取り除く。これは、アルカリ又はRNase AによるRNAの加水分解又はアフィニティ分離によって行うことができる。第三段階として、標識したオリゴヌクレオチドプローブを使用して、スライド又はビーズ上のアレイ状に配列した被験オリゴヌクレオチドをハイブリダイズする。被験オリゴヌクレオチドプローブは、mRNAと同様のセンスである。最後に、スライドを走査又は撮影して、標識を検出し、信号の強度を記録する。特定の位置から何らかの正の信号が検出されれば、スポッティングされた被験オリゴヌクレオチドによって表される特定の遺伝子が発現されているということになり、信号の強度は、遺伝子の発現レベルを直接的に示すものである。この方法では、表面での酵素の化学的性質をめぐる問題が解消され、スライド/ビーズでのDNAハイブリダイゼーションの反応速度論的な制限も減る。また、プローブを断片化する必要もない。
【0038】
図2は、本発明の形態による遺伝子発現解析を行う際に、プローブを標識する別のスキームを示した図である。プローブオリゴヌクレオチドの標識は、標識したddCTPと、未標識のdATP、dGTP及びdTTPを用いて実施する。プローブオリゴヌクレオチドの標識は、Cが導入されたときに生じる。図2Aに、4種の異なる遺伝子を、3′-5′の向きで示す。遺伝子特異的なオリゴヌクレオチドプローブを、各遺伝子の下側に示す。図2Bは、プライマーの延長反応を何度も繰り返して(反復)、プライマーを延長した結果を示す。図に示すように、延長は、標識ddCTPの導入で停止する。配列のコンテキストに応じて、遺伝子によっては、選択したオリゴヌクレオチドプローブを位置させると、プローブの長さがn+1、n+2などとなるが、生成したプローブの大半で、n+15を超えることは少ないはずである。それにもかかわらず、こうしたプローブは、スライド/ビーズ上の被験として理想的な長さのプローブである。
【0039】
別の形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドプローブではなく、センスオリゴヌクレオチドプローブを使用する。この形態では、RNAソースから第一鎖cDNAを生成し、この第一鎖cDNAをオリゴヌクレオチドプローブと混合して、ハイブリダイゼーションと、ポリメラーゼを用いたcDNAによるオリゴヌクレオチドプローブの延長を行う。固相担体上の被験オリゴヌクレオチドは、プローブオリゴヌクレオチドの配列と相補的で、したがって、遺伝子配列に対してアンチセンスとなっている。
【0040】
原則として、こうした方法を用いた示差的な遺伝子発現解析については、2通りの異なる標識プロセスを、2種の異なるサンプルについて、2種の異なる標識を用いて実施することができる。2種を超えるサンプルについての比較分析も、使用する標識が、それぞれ異なるのであれば、実施可能である。示差的な遺伝子発現が望ましい場合は、異なるタイプの細胞又は異なる処理又は試験から得たサンプル核酸と対照とを用いた平行反応を、異なる染料又はハプテン標識ヌクレオチド(例えばCy3とCy5−ddNTP又はCy3とCy5−ddCTPプラスdATP、dTTP、dGTP)を用いる以外は同じ原則を使用することによって実現する。
【0041】
以下では、2つのソースから得た目的核酸についての比較発現解析に含まれる基本的な段階について説明する。複数のサンプルの解析は、同じ解析で別のサンプルを含めて解析することによっても、各サンプルを単一の標準サンプルと、1つずつ比較することによっても実施可能である。こうした比較は、特定の状態又は疾病について診断プロファイル又はシグナチャーを生成する際に有用である。多くの場合、この方法は、正常な対照由来の一方のソース核酸と、特定の疾病、実験処理又は状態由来のもう一方のソース核酸とを用いる。特定の疾病又は状態に付随する遺伝子発現シグナチャーは、多くのサンプルについて比較遺伝子発現解析を繰り返し、その後、各遺伝子について相対的な発現レベルをアルゴリズムによって解析することによって得られる。
【0042】
例を挙げると、2種のソースから得た目的核酸の比較発現解析の基本的な段階としては、まず、複数のオリゴヌクレオチドプローブを、各種の標識で標識する。一方のサンプルについては、dATP、dTTP、dGTP、Cy3−ddCTP及び熱に対して安定な逆転写酵素(又はRNA鋳型に依存したDNA合成活性をもつ任意のポリメラーゼ)の存在下で、限定されたプライマー延長/停止を行い、さらにこの段階を反復すると、RNA鋳型から、Cy3で標識したオリゴヌクレオチドプローブが得られる。第二のサンプルについては、同様のプロセスで、Cy5で標識したオリゴヌクレオチドプローブが生成する。ここでは例としてddCTPを使用しているものの、4種のヌクレオチドのいずれも、ターミネータの役目を果たすことができる(ただし、そのdNTPバージョンは、他の3種のdNTPを含む混合物から排除しておくべきである。)染料又はハプテンで標識したddNTPも使用できる。使用するポリメラーゼは、TtsFYとすることができ、必要に応じて、反復時には、グリセロール又は他の用安定剤を含有させることもできる。高温でRNAが分解するおそれがある場合には、別の方法として、まず、オリゴdTプライマーとスーパースクリプト(Superscript)IIを使用した全長の第一鎖cDNAの合成を行う。次に、この鋳型鎖を使用して、TSI又は任意の熱に対して安定なFY DNA pol Iを用いて、上述のアプローチを用いた限定されたプライマー延長/停止を行い、さらにこの段階を反復すると、さらに標識オリゴヌクレオチドプローブを生成することができる。
【0043】
次に、上記で生成したCy3及びCy5で標識したオリゴヌクレオチドプローブを混合し、オリゴヌクレオチドアレイ又はビーズ上の試験結合相手とのハイブリダイゼーションに使用する。プローブは、アレイ又はビーズ上のそれぞれの相補的な被験オリゴヌクレオチドのみと結合するはずである。ハイブリダイゼーションが終了したら、Cy3とCy5の信号を検出して定量化し、2つのサンプル由来の各遺伝子の発現レベルを判定する。
【0044】
この戦略の主要な利点としては、生成したプローブが、明るくて短く、増幅が指数的でなくリニアに進行するので、遺伝子の発現レベルを忠実に表していることを挙げることができる。また、この戦略を用いると、高価な染料−ヌクレオチド類似体を最大限かつ有効に利用できる。すなわち、従来の方法では、長いcDNA又はRNAのプローブが断片化し、その結果、固相担体上に相補的な配列がないために断片の一部が無駄になっていたのとは異なり、すべての標識分子が、プローブの役目を果たし、無駄になるものがない。さらに、ハイブリダイゼーションの前に、未標識のオリゴヌクレオチドプローブを標識ずみのオリゴヌクレオチドプローブから分離しておくことも不要である。また、ハイブリダイゼーション反応に関与するプローブの濃度は、標識プローブの量は、遺伝子の発現レベルに差があるために異なるにもかかわらず、いずれも同じである。このため、ハイブリダイゼーションの効率とスピードが上がり、また、ハイブリダイゼーションの間は、各遺伝子由来のプローブは同一濃度であるため、より一層の規格化をはかることができる。
【0045】
遺伝子発現解析用のキットも提供する。そうしたキットの一つは、目的とする各遺伝子用の遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブと、固相担体、例えばマイクロアレイスライド又はビーズに担持した被験オリゴヌクレオチドとを含むものである。こうしたキットは、標識ジデオキシヌクレオチド及びDNAポリメラーゼI又は逆転写酵素を含むものとすることもできる。遺伝子発現解析法は、ヒトの疾病又は状態の診断に有用である。したがって、発現プロファイル(シグナチャー)と関連のあるヒトの疾病又は状態のそれぞれに対するキットも提供するものである。
【0046】
標識の後、未標識プローブを除去するのが好ましい場合には、標識反応で、α−ホスホロチオCy3又はCy5−ddCTPを、Cy3及びCy5−ddCTPのかわりに用いることができる。このアプローチを用いると、標識の後に、未標識のプローブを選択的に除去することが、単純な手段、例えば、Exo Iを用いた処理によって可能となる。Exo Iについては、未標識プローブを消化して除去することができる一方、延長済みのプローブについては、末端ヌクレオチドがホスホロチオエート結合で保護されているため、そのまま残ることが知られている。このアプローチを用いると、標識プローブと未標識プローブとが拮抗してハイブリダイズする際に標的部位となる可能性のある部位が飽和してしまうといった事態が防止される。また、このアプローチは、比較ハイブリダイゼーションの間にも有用であり、これは、複数の標識反応でプローブがたまるために未標識プローブの濃度の方が高くなるためである。
【0047】
本明細書では、本発明の特定の好ましい形態について記載したが、こうした形態については、本発明の意図する範囲を逸脱することなく、変更を加えることができることについても理解されたい。本発明の真の範囲は、添付する請求の範囲に記載してある。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1A】マイクロベースのフォーマットで実施する本発明の一形態の模式図。
【図1B】ビーズのフォーマットで実施する本発明の一形態の模式図。
【図2】本発明の形態による遺伝子発現解析の別のプローブ標識スキームを示す。オリゴヌクレオチドプローブの標識は、染料又はハプテンで標識したddCTP及び未標識のdATP、dGTP及びdTTPを用いて実施する。オリゴヌクレオチドプローブの標識は、Cの導入時に生じる。図2Aは、標識反応の前に、遺伝子特異的なオリゴを各遺伝子のmRNAにハイブリダイズさせたところを示す模式図である。図2Bは、標識反応後についての模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子の発現を解析する方法であって、
(i)1種以上のオリゴヌクレオチドプローブの生成を、
(a)1種以上の目的遺伝子中で、遺伝子特異的な標的領域の配列を、アルゴリズムによって選択し、
(b)選択した標的領域のそれぞれと相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドプローブを合成し、
(c)上記オリゴヌクレオチドプローブを、目的のソース核酸と混合して、ハイブリダイズさせ、
(d)ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドプローブの3′末端に、標識ジデオキシヌクレオチドを、ポリメラーゼ反応で付加し、そして
(e)上記オリゴヌクレオチドプローブを回収する
段階を含む方法によって行い、
(ii)固相担体に結合した被験オリゴヌクレオチドであって、上記プローブオリゴヌクレオチドと相補的な配列を有する被験オリゴヌクレオチドを用意し、
(iii)上記段階(i)で生成したプローブオリゴヌクレオチドを、上記被験オリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせ、そして
(iv)上記固相担体上のハイブリダイズしたプローブオリゴヌクレオチドから標識を検出して、上記1種以上の目的遺伝子のそれぞれについて発現レベルを決定する
段階を含む遺伝子発現の解析方法。
【請求項2】
遺伝子の発現を解析する方法であって、
(i)1種以上のオリゴヌクレオチドプローブの生成を、
(a)1種以上の目的遺伝子中で、遺伝子特異的な標的領域の配列を、アルゴリズムによって選択し、
(b)上記1種以上の目的遺伝子のそれぞれの標的領域と配列が同一のセンスオリゴヌクレオチドプローブを合成し、
(c)RNAソースから、第1鎖cDNAを生成し、
(d)上記オリゴヌクレオチドプローブを、上記cDNAと混合して、上記オリゴヌクレオチドプローブとcDNAの相補鎖とをハイブリダイズさせ、
(e)ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドプローブの3′末端に、標識ジデオキシヌクレオチドを、ポリメラーゼ反応で付加し、そして
(f)上記オリゴヌクレオチドプローブを回収する
段階を含む方法によって行い、
(ii)固相担体に結合した被験オリゴヌクレオチドであって、上記プローブオリゴヌクレオチドと相補的な配列を有する被験オリゴヌクレオチドを用意し、
(iii)上記段階(i)で生成したプローブオリゴヌクレオチドを、上記被験オリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせ、そして
(iv)上記固相担体上のハイブリダイズしたプローブオリゴヌクレオチドから標識を検出して、上記1種以上の目的遺伝子のそれぞれについて発現レベルを決定する
段階を含む遺伝子発現の解析方法。
【請求項3】
上記標的領域の配列の長さが約10〜約100ヌクレオチドである請求項1又は請求項2記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項4】
上記標的領域の配列の長さが約20〜約60ヌクレオチドである請求項1又は請求項2記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項5】
上記標的領域の配列の長さが約20〜約30ヌクレオチドである請求項1又は請求項2記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項6】
目的とするソース核酸が、全RNA、mRNA及び変性cDNAからなる群から選択される、請求項1記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項7】
目的とするソース核酸が、全RNA及びmRNAからなる群から選択される、請求項2記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項8】
上記全RNA又はmRNAを、ポリメラーゼ反応中又はポリメラーゼ反応後に分解する請求項6又は請求項7記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項9】
さらなるオリゴヌクレオチドプローブを、変性、ハイブリダイゼーション及びポリメラーゼ反応を繰り返すことによって標識する請求項1又は請求項2記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項10】
上記付加段階を、4種の標識ddNTPすべての存在下で実施する
請求項1又は請求項2記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項11】
上記付加段階を、1種の標識ジデオキシヌクレオチド及び3種の未標識デオキシヌクレオチドの存在下で実施する請求項1又は請求項2記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項12】
上記付加段階を、標識ddCTPと、未標識のdATP、dGTP及びdTTPの存在下で実施する請求項1又は請求項2記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項13】
上記標識ジデオキシヌクレオチドが、ハプテン標識を含む請求項1又は請求項2記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項14】
上記標識ジデオキシヌクレオチドが、蛍光染料標識を含む請求項1又は請求項2記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項15】
上記標識ジデオキシヌクレオチドが、サイニン(Cynine)、アレクサ(alexa)、インフラレッド(Infra Red)及びローダミン染料からなる群から選択される染料標識を含む請求項1又は請求項2記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項16】
上記固相担体がビーズである請求項1又は請求項2記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項17】
上記固相担体が、マイクロアレイのスライドであり、上記被験オリゴヌクレオチドが、マイクロアレイのフォーマットで配列されている請求項1又は請求項2記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項18】
検出された標識の信号が、各遺伝子の発現レベルと比例している請求項1又は請求項2記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項19】
上記検出段階が、ストレプトアビジン接合体を使用した信号増幅段階をさらに含む請求項1又は請求項2記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項20】
上記ハプテンの標識が、ビオチンの標識である請求項13記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項21】
上記1種以上の目的遺伝子が、ヒトの疾病又は状態を示唆する遺伝子のシグナチャーセットであり、上記ソース核酸が、その疾病又は状態を保持している疑いのある個人から得たものである請求項1又は請求項2記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項22】
上記遺伝子のシグナチャーセットの発現レベルを、特定の疾病又は状態と関連づけられた所定の発現のシグナチャーと比較し、その疾病又は状態を診断する段階をさらに含む請求項21記載の遺伝子発現の解析方法。
【請求項23】
比較によって遺伝子の発現を解析する方法であって、
(i)1種以上のオリゴヌクレオチドプローブの生成を、
(a)1種以上の目的遺伝子中で、遺伝子特異的な標的領域の配列を、アルゴリズムによって選択し、
(b)上記選択した標的領域のそれぞれに相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドプローブを合成する
段階を含む方法によって行い、
(ii)上記分析対象ソース核酸のそれぞれに対して特有な染料による上記1種以上のオリゴヌクレオチドプローブの標識を、
(a)上記オリゴヌクレオチドプローブの一部を、上記ソース核酸の一種と混合して、ハイブリダイズさせ、
(b)ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドプローブの3′末端に、標識ジデオキシヌクレオチドを、ポリメラーゼ反応で付加し、
(c)上記オリゴヌクレオチドプローブを回収し、
(d)段階(ii)(a)〜(ii)(c)を、目的とするソース核酸のそれぞれについて、特有の標識を用いてさらに繰り返し、そして
(e)上記オリゴヌクレオチドプローブの各部を一緒にする
段階を含む方法によって行い、
(iii)固相担体に結合した被験オリゴヌクレオチドであって、上記プローブオリゴヌクレオチドと相補的な配列を有する被験オリゴヌクレオチドを用意し、
(iv)上記段階(ii)で生成した標識プローブオリゴヌクレオチドを、固相担体上の上記被験オリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせ、そして
(v)上記ハイブリダイズしたプローブオリゴヌクレオチドから、上記特有の標識のそれぞれを検出し、そして
(vi)目的とするソース核酸の各遺伝子についての相対的な発現レベルを決定する
段階を含む比較による遺伝子発現の解析方法。
【請求項24】
比較によって遺伝子の発現を解析する方法であって、
(i)1種以上のオリゴヌクレオチドプローブの生成を、
(a)1種以上の目的遺伝子中で、遺伝子特異的な標的領域の配列を、アルゴリズムによって選択し、
(b)1種以上の目的遺伝子のそれぞれの上記標的領域と配列が同一であるセンスオリゴヌクレオチドプローブを合成する
段階を含む方法によって行い、
(ii)上記分析対象ソースRNAのそれぞれに対して特有な染料による上記1種以上のオリゴヌクレオチドプローブの標識を、
(a)上記ソースRNAの1種から、第一鎖のcDNAを生成し、
(b)上記オリゴヌクレオチドプローブの一部を、上記cDNAと混合して、オリゴヌクレオチドプローブをcDNAとハイブリダイズさせ、
(c)ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドプローブの3′末端に、標識ジデオキシヌクレオチドを、ポリメラーゼ反応で付加し、
(e)上記オリゴヌクレオチドプローブを回収し、
(e)段階(ii)(a)〜(ii)(c)を、目的とするソース核酸のそれぞれについて、特有の標識を用いてさらに繰り返し、そして
(f)上記オリゴヌクレオチドプローブの各部を一緒にする
段階を含む方法によって行い、
(iii)固相担体に結合した被験オリゴヌクレオチドであって、上記プローブオリゴヌクレオチドと相補的な配列を有する被験オリゴヌクレオチドを用意し、
(iv)上記段階(ii)で生成したプローブオリゴヌクレオチドを、固相担体上の上記被験オリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせ、そして
(v)固相担体上の上記ハイブリダイズしたプローブオリゴヌクレオチドから、上記特有の標識のそれぞれを検出し、そして
(vi)目的とするソース核酸の各遺伝子についての相対的な発現レベルを決定する
段階を含む比較による遺伝子発現の解析方法。
【請求項25】
ソース核酸の1種が、正常な対照より得たものであり、他のソース核酸が、特定の疾病又は状態に由来するものである請求項23又は請求項24記載の比較による遺伝子発現の解析方法。
【請求項26】
生物の遺伝子発現のシグナチャーを識別するにあたり
請求項25の比較による遺伝子発現解析を繰り返し、
各遺伝子についての上記相対的な発現レベルをアルゴリズムによって解析して、上記疾病又は状態と関連した遺伝子のシグナチャーセットを識別する
段階を含む方法。
【請求項27】
特定の疾病又は状態を診断する方法であって、
(i)請求項1の方法で、診断対象である個人についての遺伝子発現プロファイルを得、そして
(ii)上記で得た遺伝子発現プロファイルを、所定の対照のプロファイルと比較し、統計学的に合致したプロファイルによって、上記疾病又は状態を診断する
段階を含む方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−501005(P2009−501005A)
【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519532(P2008−519532)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/025233
【国際公開番号】WO2007/005482
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(598041463)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・コーポレイション (43)
【住所又は居所原語表記】800 Centennial Avenue, P.O.Box 1327,Piscataway,New Jersey 08855−1327,United States of America
【Fターム(参考)】