説明

遺伝子発現抑制剤および遺伝子発現促進剤並びにそれらの検出方法

【課題】ローヤルゼリーを含む遺伝子の発現抑制剤および発現促進剤並びにそれらの検出方法の提供。
【解決手段】ローヤルゼリーまたはその画分を含んでなる発現抑制剤は、配列番号1〜5からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現抑制作用を有し、ローヤルゼリーまたはその画分を含んでなる発現促進剤は配列番号6〜13からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現促進作用を有する。これらの遺伝子の発現抑制剤または発現促進剤は、抗炎症作用、角化異常蓄積抑制作用、創傷治癒促進作用、および/または保湿作用を有する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、遺伝子発現抑制剤および遺伝子発現促進剤並びにそれらの検出方法に関する。
【0002】
背景技術
現在、ローヤルゼリー(RJ)は、健康食品、医薬品、化粧品など世界中で広く利用されており、血管拡張、血圧降下、抗菌作用等の薬理作用、および栄養生理的作用が報告されている。
【0003】
これまでに、ローヤルゼリーのアルカリ可溶化分画から抽出されたコラーゲン産生促進活性を有する因子およびその作用機序が報告されている(Biosci. Biotechnol. Biochem. (2004) 68(4). 767-773(非特許文献1)。また、ローヤルゼリー蛋白質加水分解物の化粧品用途、特に、美白化粧料、スキンケア化粧料、抗老化化粧料、美肌化粧料シワ改善/シワ予防用化粧料が開示されている(特開2008−110927号公報(特許文献1))。
【0004】
しかしながら、ローヤルゼリーおよびローヤルゼリーの分画による抗炎症作用、創傷治癒促進作用、保湿作用、または角化異常蓄積抑制作用を有する遺伝子の発現抑制剤または発現促進剤並びにそれらの検出方法について本発明者らの知る限りでは報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−110927号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biosci. Biotechnol. Biochem. (2004) 68(4). 767-773
【発明の概要】
【0007】
本発明者は、今般、特定の遺伝子の発現抑制剤および発現促進剤並びにそれらの検出方法を見出した。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0008】
従って、本発明は、特定の遺伝子の発現抑制剤および発現促進剤並びにそれらの検出方法の提供をその目的としている。
【0009】
そして、本発明の第一の態様によれば、ローヤルゼリーを含んでなる配列番号1〜5からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現抑制剤である。
【0010】
また、本発明の別の態様によれば、ローヤルゼリーを含んでなる配列番号6〜13からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現促進剤である。
【0011】
さらに、本発明の別の態様によれば、細胞における遺伝子発現を抑制または促進する、ローヤルゼリー中の分画および/または化合物の検出方法であり、
(a)前記細胞をローヤルゼリー中の分画および/または化合物の存在下において培養する工程、そして
(b)前記工程(a)により得られる細胞において、遺伝子発現の抑制または促進を検出する工程
を含んでなり、
前記工程(b)において遺伝子発現の抑制が検出された場合には、その分画および/または化合物がその遺伝子発現を抑制するものとして検出され、前記工程(b)において遺伝子発現の促進が検出された場合には、その分画および/または化合物が遺伝子発現を促進するものとして検出される方法である。
【0012】
また、本発明の別の態様によれば、細胞における老化を抑制する、ローヤルゼリー中の分画および/または化合物の検出方法であり、
(c)非若年期由来細胞をローヤルゼリー中の分画および/または化合物の存在下または非存在下において培養する工程並びに若年期由来細胞をローヤルゼリー中の分画および/または化合物の非存在下において培養する工程、そして
(d)前記工程(c)により得られる細胞において、遺伝子発現の抑制または促進を検出する工程
を含んでなり、
前記工程(d)において、該ローヤルゼリー中の分画および/または化合物の非存在下の若年期由来細胞の遺伝子発現が、該非存在下の非若年期由来細胞の遺伝子発現と比較して抑制または促進されていた場合に、該存在下においての非若年期由来細胞の遺伝子発現強度が、該非存在下における若年期由来細胞の遺伝子発現強度と比較して同程度となる該ローヤルゼリー中の分画および/または化合物を検出でする方法である。
【0013】
本発明の方法によれば、遺伝子発現抑制剤および遺伝子発現促進剤並びにそれらの検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、21歳ヒト女性線維芽細胞(21F)のHuman interleukin 1 receptor遺伝子の発現量を100とした場合の、「69F」、「RJ溶液」、「95℃10分間処置」、「Protease K処置」、「分子量3000以上」、および「分子量3000未満」の遺伝子の相対的発現量を表す。「69F」は69歳ヒト女性線維芽細胞(69F)の相対発現量を表し、「RJ溶液」は下記RJ溶液分画を加えた培地で培養した69Fの相対発現量を表し、「95℃10分間処置」は下記95℃10分間処置分画を加えた培地で培養した69Fの相対発現量を表し、「Protease K 処置」は下記Protease K処置分画を加えた培地で培養した69Fの相対発現量を表し、「分子量3000以上」は下記分子量3000以上分画を加えた培地で培養した69Fの相対発現量を表し、「分子量3000未満」は下記分子量3000未満分画を加えた培地で培養した69Fの相対発現量を表す。
【図2】図2は、図1と同様、21FのHuman Actin alpha遺伝子の発現量を100とした場合の、「69F」、「RJ溶液」、「95℃10分間処置」、「Protease K処置」、「分子量3000以上」、および「分子量3000未満」の遺伝子の相対的発現量を表す。
【図3】図3は、図1と同様、21FのHuman Na+/H+ exchanger遺伝子の発現量を100とした場合の、「69F」、「RJ溶液」、「95℃10分間処置」、「Protease K処置」、「分子量3000以上」、および「分子量3000未満」の遺伝子の相対的発現量を表す。
【図4】図4は、図1と同様、21FのHuman tumor necrosis factor遺伝子の発現量を100とした場合の、「69F」、「RJ溶液」、「95℃10分間処置」、「Protease K処置」、「分子量3000以上」、および「分子量3000未満」の遺伝子の相対的発現量を表す。
【図5】図5は、図1と同様、21FのHuman interleukin 3遺伝子の発現量を100とした場合の、「69F」、「RJ溶液」、「95℃10分間処置」、「Protease K処置」、「分子量3000以上」、および「分子量3000未満」の遺伝子の相対的発現量を表す。
【図6】図6は、図1と同様、21FのHuman keratin 2遺伝子の発現量を100とした場合の、「69F」、「RJ溶液」、「95℃10分間処置」、「Protease K処置」、「分子量3000以上」、および「分子量3000未満」の遺伝子の相対的発現量を表す。
【発明の具体的説明】
【0015】
遺伝子の発現促進剤および発現抑制剤
本発明による遺伝子発現抑制剤または遺伝子発現促進剤に含まれるローヤルゼリーおよびローヤルゼリー中の画分は、特に限定されず、いずれの種類のミツバチ由来のものであってもよい。
【0016】
本発明によるローヤルゼリーを含む遺伝子の発現抑制剤が抑制する遺伝子は、配列番号1〜5からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子であれば特に限定されないが、好ましくは配列番号1〜5からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列からなる遺伝子である。これらの遺伝子の発現を抑制することにより、抗炎症作用および/または角化異常蓄積抑制作用が発揮される。
【0017】
また、ローヤルゼリー中の分子量3000未満の画分は、配列番号1〜5からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現を抑制でき、好ましくは配列番号1〜5からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列からなる遺伝子の発現を抑制できる。これらの遺伝子の発現を抑制することにより、抗炎症作用および/または角化異常蓄積抑制作用が発揮される。
【0018】
さらに、熱処理に対して安定なローヤルゼリー中の画分は配列番号1および2からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現を抑制でき、好ましくは配列番号1および2からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列からなる遺伝子の発現を抑制できる。これらの遺伝子の発現を抑制することにより、抗炎症作用および/または角化異常蓄積抑制作用が発揮され、好ましくは抗炎症作用が発揮される。ここで、前記熱処理とは、60℃以上の熱を加えることをいい、好ましくは95℃以上の熱を加えることをいう。また、熱処理に対して安定とは、前記熱処理を行った場合にも変性しないことをいう。
【0019】
また、熱処理に対して不安定なローヤルゼリー中の画分は配列番号4の塩基配列を含む遺伝子の発現を抑制でき、好ましくは配列番号4の塩基配列からなる遺伝子の発現を抑制できる。これらの遺伝子の発現を抑制することにより、抗炎症作用および/または角化異常蓄積抑制作用が発揮され、好ましくは角化異常蓄積抑制作用が発揮される。ここで、前記熱処理とは、前述と同様の意味を表す。また、熱処理に対して不安定とは、前記熱処理を行った場合に変性することをいう。
【0020】
また、非ペプチド性のローヤルゼリー中の画分は、配列番号4の塩基配列を含む遺伝子の発現を抑制でき、好ましくは配列番号4の塩基配列からなる遺伝子の発現を抑制できる。これらの遺伝子の発現を抑制することにより、抗炎症作用および/または角化異常蓄積抑制作用が発揮され、好ましくは角化異常蓄積抑制作用が発揮される。非ペプチド性のローヤルゼリー中の画分とは、プロテアーゼ等により処理した場合でも、分解されないローヤルゼリー中の画分をいう。プロテアーゼによる処理は、プロテアーゼによる処理であれば、そのプロテアーゼの種類は限定されないが、好ましくはプロテアーゼKにより処理することが好ましい。
【0021】
また、ペプチド性のローヤルゼリー中の画分は、配列番号1または2からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現を抑制でき、好ましくは配列番号1または2からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列からなる遺伝子の発現を抑制できる。これらの遺伝子の発現を抑制することにより、抗炎症作用および/または角化異常蓄積抑制作用が発揮され、好ましくは抗炎症作用が発揮される。ペプチド性のローヤルゼリー中の画分とは、プロテアーゼ等により処理した場合に、分解されるローヤルゼリー中の画分をいう。
【0022】
さらに、本発明によるローヤルゼリーを含む遺伝子発現促進剤が促進する遺伝子は、配列番号6〜13からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子であれば特に限定されないが、好ましくは配列番号6〜13からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列からなる遺伝子である。これらの遺伝子の発現を促進することにより、創傷治癒促進作用および/または保湿作用が発揮される。
【0023】
また、ローヤルゼリー中の分子量3000未満の画分は、配列番号6〜13からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現を促進でき、好ましくは配列番号6〜13からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列からなる遺伝子の発現を促進できる。これらの遺伝子発現を促進することにより創傷治癒促進作用および/または保湿作用が発揮される。
【0024】
また、熱処理されたローヤルゼリーの画分は、配列番号6〜13からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現を促進でき、好ましくは、配列番号6〜13からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列からなる遺伝子の発現を促進できる。これらの遺伝子の発現を促進することにより創傷治癒促進作用および/または保湿作用が発揮される。ここで、熱処理とは、前述と同様の意味を表す。
【0025】
さらに、非ペプチド性のローヤルゼリー中の画分は、配列番号6〜13からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現を促進でき、好ましくは配列番号6〜13からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列からなる遺伝子の発現を促進できる。これらの遺伝子発現を促進することにより、創傷治癒促進作用および/または保湿作用が発揮される。非ペプチド性のローヤルゼリー中の画分とは、前述と同様の意味を表す。
【0026】
本発明による発現抑制剤または発現促進剤は、ローヤルゼリーまたはローヤルゼリーの各画分をそのまま用いてもよく、また他の賦形剤、結合剤等とともに、経口または非経口投与に適した剤形とされてよい。
【0027】
前記賦形剤としては、例えば乳糖、白糖、ブドウ糖、コーンスターチ、マンニトール、ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、またはリン酸水素カルシウム等を挙げることができる。
【0028】
本発明による発現抑制剤または発現促進剤の投与方法は、特に限定されないが、好ましくは経皮投与である。
【0029】
検出方法
本発明による検出方法は、細胞における遺伝子発現を抑制または促進する、ローヤルゼリー中の分画および/または化合物の検出方法であって、
(a)前記細胞をローヤルゼリー中の分画および/または化合物の存在下において培養する工程、そして
(b)前記工程(a)により得られる細胞において、遺伝子発現の抑制または促進を検出する工程
を含んでなり、
前記工程(b)において遺伝子発現の抑制が検出された場合には、その分画および/または化合物をその遺伝子発現を抑制するものとして検出し、前記工程(b)において遺伝子発現の促進が検出された場合には、その分画および/または化合物の遺伝子発現を促進するものとして検出する方法である。
【0030】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記工程(b)が、前記工程(a)により得られる細胞における遺伝子発現の強度と、該ローヤルゼリーの分画および/または化合物の非存在下で培養された細胞における遺伝子発現の強度とを比較することを含んでなる検出方法である。
【0031】
さらに、本発明の別の態様によれば、細胞における老化を抑制する、ローヤルゼリー中の分画および/または化合物の検出方法であって、
(c)非若年期由来細胞をローヤルゼリー中の分画および/または化合物の存在下または非存在下において培養する工程、並びに若年期由来細胞をローヤルゼリー中の分画および/または化合物の非存在下において培養する工程、そして
(d)前記工程(c)により得られる細胞において、遺伝子発現の抑制または促進を検出する工程
を含んでなり、
前記工程(d)において、該ローヤルゼリー中の非存在下の若年期由来細胞の遺伝子発現が、該分画および/または化合物の非存在下の非若年期由来細胞の遺伝子発現と比較して抑制または促進されていた場合に、該分画および/または化合物の存在下においての非若年期由来細胞の遺伝子発現強度が、該分画および/または化合物の非存在下における若年期由来細胞の遺伝子発現強度と比較して同程度となる該ローヤルゼリー中の分画および/または化合物を検出することを特徴とする方法である。
【0032】
本発明の好ましい態様によれば、前記工程(a)および工程(c)において用いられる細胞は、特に限定されないが、哺乳類細胞であることが好ましい。このような哺乳類細胞としては、様々なものが当技術分野において知られており、例えば、マウス、ラット、ウサギ、サル、ヒト等由来の細胞が挙げられ、その中でもヒト由来の細胞が特に好ましい。また、細胞種は特に限定されないが、例えば、線維芽細胞、ケラチノサイト等の細胞が挙げられ、中でも線維芽細胞が好ましい。
【0033】
本発明の検出方法に用いられる若年期由来細胞とは、概ね各生物の平均寿命の1/2未満の週齢または年齢の個体から採取した細胞であるが、例えばヒトでは30歳以下の個体から採取した細胞を表し、好ましくは25歳以下の個体から採取した細胞を表す。また、非若年期由来細胞とは、概ね各生物の平均寿命の1/2以上の週齢または年齢の個体から採取した細胞であるが、例えばヒトでは31歳以上の個体から採取した細胞を表し、好ましくは40歳以上の個体から採取した細胞を表す。
【0034】
本発明の検出方法における培養は、当技術分野において周知の標準的な方法、例えば、ローヤルゼリーと、細胞とをインキュベートすることによって行うことができる。培養における培地、温度、時間、ローヤルゼリーの量、細胞の量、および添加物などは、当業者であれば適切に選択することができる。
【0035】
本発明の検出方法の遺伝子発現に用いられる遺伝子は、特に限定されないが、抗炎症作用、角化異常蓄積抑制作用、創傷治癒促進作用、および/または保湿作用を有するタンパク質をコードする遺伝子が好ましく、より好ましくは配列番号1〜13からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子であり、さらにより好ましくは配列番号1〜13からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列からなる遺伝子である。
【0036】
遺伝子の発現が同程度とは、ローヤルゼリー中の分画および/または化合物の非存在下の非若年期由来細胞の遺伝子発現強度と比較して、該存在下の非若年期由来細胞の遺伝子発現強度が、ローヤルゼリー中の分画および/または化合物の非存在下の若年期由来細胞の遺伝子発現に、わずかでも近づいた場合には「同程度」とする。好ましくは、該存在下の非若年期由来細胞の遺伝子相対発現量が、非存在下の若年期由来細胞の遺伝子相対発現量と比べて、±40%以内であることが好ましく、より好ましくは±30%以内であり、さらにより好ましくは±20%以内である。
【0037】
本発明の方法における工程(b)および工程(d)は、工程(a)および工程(c)により得られる細胞の遺伝子発現の抑制または促進を検出する方法であれば特に限定されないが、マイクロアレイおよび/またはリアルタイムPCRを用いて検出することが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
【0039】
DNAマイクロアレイ解析
DNAマイクロアレイ解析には、財団法人ヒューマンサイエンス振興財団より購入した69歳ヒト女性線維芽細胞(69F)と、21歳ヒト女性線維芽細胞(21F)とを用いた。前記二種の細胞を培養するための培地として、MEM培地(DSファーマバイオメディカル株式会社製)に非必須アミノ酸を1%(w/v)と、非動化した子ウシ血清(FBS)(MOREGATE)を10%(v/v)となるように加えた培地(m−MEM培地)を用いた。
【0040】
前記m−MEM培地において、69Fと、21Fとが2.5×10cells/10cm dishの濃度となるように調製して、COインキュベータを用い、5%CO、37℃にて培養した。6時間培養後、69Fを培養しているm−MEM培地をローヤルゼリー(RJ)((株)クヰンビーガーデン社製、中国浙江省産)添加m−MEM培地(1.0mg/mL)またはRJ無添加m−MEM培地に交換し、さらにCOインキュベータを用い、5%CO、37℃にて48時間培養した。培養後、前記69Fと21FとからRNeasy Mini Kit(キアゲン社製)を用いてRNAを抽出し、Whole Genome Oligo DNA マイクロアレイ(遺伝子数:4万4千)ヒト用(Agilent社製)を用い、One-Color Microarray-Based Gene Expression Analysis(Cy3-labeled)により、13種の遺伝子に関してDNAマイクロアレイ解析を行った。DNAマイクロアレイ解析の解析結果を下記表1に示す。
【表1】

【0041】
RJの成分分画の調製
RJ 3gを100mlの蒸留水に溶解した後、遠心分離(5000rpm、10分間、4℃)し、その上清(上清1)を以下の各工程で反応させ、RJの成分分画のRJ 溶液分画、95℃10分間処置分画、Protease K処置分画、分子量3000以上分画、および分子量3000未満分画を調製した。
・RJ 溶液分画:MEM培地により上記上清1を1.0mg/mlの濃度となるように調製した。
・95℃10分間処置分画:上記上清1を95℃、10分間過熱し、その後遠心分離(15000rpm、10分、4℃)した。その上清を、その濃度が1.0mg/ml となるようにMEM培地に添加した。
・Protease K処置分画:上記上清1にProtease K (和光純薬工業株式会社製)を1ug/mlの濃度となるように添加し、37℃で1回反応させ、その後遠心分離(15000rpm、10分間、4℃)し、その上清を、その濃度が1.0mg/ml となるようにMEM培地に添加した。
・分子量3000以上分画:上記上清1を分子量3000の限外ろ過膜が結合したチューブ(Amicon Ultra:日本ミリポア株式会社製)で遠心分離(15000rpm、30分間、4℃)し、その濃縮液を、その濃度が1.0mg/mlとなるようにMEM培地に添加した。
・分子量3000未満分画:上清1を分子量3000の限外ろ過膜が結合したチューブ(Amicon Ultra:MILLIPORE)で遠心分離(15000rpm、30分間、4℃)し、その通過液を、その濃度が1.0mg/mlとなるようにMEM培地に添加した。
【0042】
若年期由来細胞および老年期由来細胞の培養
財団法人ヒューマンサイエンス振興財団より購入した69歳ヒト女性線維芽細胞(69F)と21歳ヒト女性線維芽細胞(21F)とを用いた。前記二種の細胞を培養するための培地として、MEM培地(DSファーマバイオメディカル株式会社製)に非必須アミノ酸を1%(w/v)と、非動化した子ウシ血清(FBS)(MOREGATE)を10%(v/v)となるように加えた培地(m−MEM培地)を用いた。
【0043】
前記m−MEM培地において、69Fと21Fとが2.5×10cells/10cm dishの濃度となるように調製して、COインキュベータを用い、5%CO、37℃にて培養した。6時間培養後、69Fを培養しているm−MEM培地をRJ ((株)クヰンビーガーデン社製、中国浙江省産)添加m−MEM培地(1.0mg/mL)、上記成分分画(RJ 溶液分画、95℃10分間処置分画、Protease K処置分画、分子量3000以上分画、および分子量3000未満分画)添加培地m−MEM培地、またはRJ無添加m−MEM培地に交換した。さらに、上記細胞を、COインキュベータを用いて、5%CO、37℃にて48時間培養した。培養後、前記69Fと21FとからRNeasy Mini Kit(キアゲン社製)を用いてRNAを抽出した。
【0044】
RT-PCR
逆転写反応
上記RNAからのcDNAの合成は、PrimeScript RT reagent Kit(タカラバイオ株式会社製)を用いて行った。以下のような組成の溶液を調製した。一反応20μl当たり200ngのtotal RNAを添加し、逆転写反応(37℃、15分間、85℃、1分間)を行い、cDNAを合成した。
化合物名 添加量
5×PrimeScript Buffer 4.0μl
PrimeScript RT Enzyme MixI 1.0μl
Oligo dT Primer 1.0μl
Random 6 mers 1.0μl
total RNA (100ng/ul) 2.0μl
RNase Feed H2O 1μl
合計 20μl
【0045】
リアルタイム(RT)-PCR反応
RT-PCRに用いたプライマーは以下のとおりである。
Human Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (GAPDH):
・GCACCGTCAAGGCTGAGAAC (Forward)(配列番号14)
・TGGTGAAGACGCCAGTGGA (Reverse) (配列番号15)
Human interleukin 1 receptor (IL1R)
・ AAGGAAGCCTCCTCCACGTT(Forward) (配列番号16)
・ CATCCATATTCCCCCCAAAA(Reverse) (配列番号17)
Human Actin alpha (Actin)
・ CACTGAGCGTGGCTACTCCTT (Forward) (配列番号18)
・ CGCCATCTCGTTCTCGAAGT(Reverse) (配列番号19)
Human aquaporin 9 (アクアポリン)
・ TCCTCCCTGGGACTGAACAG(Forward) (配列番号20)
・ AGGGCCCACTACAGGAATCC(Reverse) (配列番号21)
Human Na+/H+ exchanger (Na+/H+ exchanger)
・ AGCATGGATGCCCAAAGCTA(Forward) (配列番号22)
・ ATCCTTCGCATATGGTTCCAA(Reverse) (配列番号23)
Human tumor necrosis factor (TNF2)
・ TCTCGAACCCCGAGTGACA(Forward) (配列番号24)
・ GGCCCGGCGGTTCA(Reverse) (配列番号25)
Human interleukin 3 (IL-3)
・ GGGTTAACTGCTCTAACATGATCGA(Forward) (配列番号26)
・ GAAGTCCAGCAAAGGCAAAGG(Reverse) (配列番号27)
Human keratin 2 (keratin)
・ CGAGCTGAACCGCGTGAT(Forward) (配列番号28)
・ CTTGTTCCTGGCATCCTTGAG(Reverse) (配列番号29)
【0046】
逆転写反応で合成したcDNAを滅菌MilliQ水で5倍希釈を5段階行い、希釈溶液のRT-PCRを実施した。各サンプルについて検量線を作成し、細胞中のmRNA量を定量化した。RT-PCR用の96穴プレート(Applied Biosystems社製)に下記の組成の溶液(SYBR Premix Ex Taq: タカラバイオ株式会社製)を18μl/wellで分注した。その後、各2μl/wellのcDNA希釈液を入れ、ピペッティングで混合した。cDNAを鋳型として、以下のPCR条件にてABI PRISM 7500 (Applied Biosystems社製) を用いてRT-PCRを行い、肝細胞中の目的因子のmRNA発現量を定量した。結果を図1〜6に表す。
【0047】
<反応液> 1反応 (45反応分)
SYBR Premix Ex Taq 10μl 450μl
Primer Forward 50 μM 0.08μl 3.6μl
Primer Reverse 50 μM 0.08μl 3.6μl
DyeII 0.40μl 18μl
滅菌MilliQ水 7.44μl 334.8μl
合計量 18μl 810μl
【0048】
PCR条件
95℃で10秒間反応後、95℃で5秒間(熱変性)反応させ、60℃で35秒間(40サイクル)(アニーリングおよび伸長反応)反応させた後、95℃で15秒間、そして60℃で60秒間反応後、95℃で15秒間反応させた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローヤルゼリーを含んでなる、配列番号1〜5からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現抑制剤。
【請求項2】
分子量3000未満のローヤルゼリー中の画分を含んでなる、配列番号1〜5からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現抑制剤。
【請求項3】
熱処理に対して安定なローヤルゼリー中の画分を含んでなる、配列番号1および2からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現抑制剤。
【請求項4】
熱処理に対して不安定なローヤルゼリー中の画分を含んでなる、配列番号4の塩基配列を含む遺伝子の発現抑制剤。
【請求項5】
非ペプチド性のローヤルゼリー中の画分を含んでなる、配列番号4の塩基配列を含む遺伝子の発現抑制剤。
【請求項6】
ペプチド性のローヤルゼリー中の画分を含んでなる、配列番号1および2からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現抑制剤。
【請求項7】
抗炎症作用および/または角化異常蓄積抑制作用を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の遺伝子発現抑制剤。
【請求項8】
ローヤルゼリーを含んでなる、配列番号6〜13からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現促進剤。
【請求項9】
分子量3000未満のローヤルゼリー中の画分を含んでなる、配列番号6〜13からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現促進剤。
【請求項10】
熱処理に対して安定なローヤルゼリー中の画分を含んでなる、配列番号6〜13からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現促進剤。
【請求項11】
非ペプチド性のローヤルゼリー中の画分を含んでなる、配列番号6〜13からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子の発現促進剤。
【請求項12】
創傷治癒促進作用および/または保湿作用を有する、請求項8〜11のいずれか一項に記載の遺伝子の発現促進剤。
【請求項13】
投与方法が経皮投与である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の遺伝子発現抑制剤。
【請求項14】
投与方法が経皮投与である、請求項8〜12のいずれか一項に記載の遺伝子発現促進剤。
【請求項15】
細胞における遺伝子発現を抑制または促進する、ローヤルゼリー中の分画および/または化合物の検出方法であって、
(a)前記細胞をローヤルゼリー中の分画および/または化合物の存在下において培養する工程、そして
(b)前記工程(a)により得られる細胞において、遺伝子発現の抑制または促進を検出する工程
を含んでなり、
前記工程(b)において遺伝子発現の抑制が検出された場合には、その分画および/または化合物をその遺伝子発現を抑制するものとして検出し、前記工程(b)において遺伝子発現の促進が検出された場合には、その分画および/または化合物の遺伝子発現を促進するものとして検出する、方法。
【請求項16】
前記工程(b)が、前記工程(a)により得られる細胞における遺伝子発現の強度と、該ローヤルゼリーの分画および/または化合物の非存在下で培養された細胞における遺伝子発現の強度とを比較することを含んでなる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
細胞における老化を抑制する、ローヤルゼリー中の分画および/または化合物の検出方法であって、
(c)非若年期由来細胞をローヤルゼリー中の分画および/または化合物の存在下または非存在下において培養する工程、並びに若年期由来細胞をローヤルゼリー中の分画および/または化合物の非存在下において培養する工程、そして
(d)前記工程(c)により得られる細胞において、遺伝子発現の抑制または促進を検出する工程
を含んでなり、
前記工程(d)において、該ローヤルゼリー中の非存在下の若年期由来細胞の遺伝子発現が、該分画および/または化合物の非存在下の非若年期由来細胞の遺伝子発現と比較して抑制または促進されていた場合に、該分画および/または化合物の存在下においての非若年期由来細胞の遺伝子発現強度が、該分画および/または化合物の非存在下における若年期由来細胞の遺伝子発現強度と比較して同程度となる該ローヤルゼリー中の分画および/または化合物を検出することを特徴とする、方法。
【請求項18】
前記細胞が哺乳類細胞である、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記哺乳類細胞がヒト由来の細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記遺伝子が、抗炎症作用、角化異常蓄積抑制作用、創傷治癒促進作用、および/または保湿作用を有するタンパク質をコードする遺伝子である、請求項15〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記遺伝子が配列番号1〜13からなる群から選択される少なくとも一つの塩基配列を含む遺伝子である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記工程(b)または前記工程(d)が、マイクロアレイおよび/またはリアルタイムPCRを用いて検出するものである、請求項15〜21のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−90112(P2010−90112A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201984(P2009−201984)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(391020171)株式会社クヰンビーガーデン (2)
【Fターム(参考)】