説明

遺伝子解析方法および遺伝子解析システム

【課題】RNA試料の品質を容易に確認できる遺伝子解析方法および遺伝子解析システムを提供する。
【解決手段】DNAマイクロアレイ3のサイト31には、特定の安定なRNA配列を検出するためのサイトと、特定の不安定なRNA配列を検出するためのサイトが含まれている。遺伝子解析に際して、演算制御部2において、安定なRNA種および不安定なRNA種の発現率の比をみることで、試料の品質をチェックすることができる。不安定なRNA種の発現率が低下していれば、試料が劣化した状態であることが判る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNAを測定対象とする遺伝子解析方法および遺伝子解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、RNAを測定対象とする一般的なキットあるいは装置では、事前に試料からRNAを抽出し、そのRNAを増幅しラベル付加を行ったうえで、安定なcDNA化したものを入力サンプルとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−295415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、RNA分解を促す物質RNAseは至る所にあり、塵、ほこりやハウスダスト、人の唾液など、一般の環境中には膨大なRNAseが存在する。このようにRNAは非常に脆く分解しやすい状況に置かれていて、取り扱いには熟練を要する。もしも入力サンプルを作成する段階でRNAの一部が崩壊していた場合、結果は入力誤差をそのまま重畳したものとなる。その結果、試料の品質に課題がある場合の測定誤差は、試料に由来するものか、あるいはシステムに由来するものなのか不明となる。
【0005】
システムとして解析結果の品質を担保するには、品質劣化を起こしている試料を排除するか、あるいは品質劣化の程度を判定してシステム内部で補償するしかない。
【0006】
しかし、従来のRNAを試料とする解析システムでは、試料の品質を確認する機能がない。とくにアプリケーション上、RNAの低発現量域での有意差が重要な意味を持つ場合が多く、それ故試料自体の品質が解析結果に及ぼす影響は甚大で、資料の品質を簡便に検証できる方法が要望されている。
【0007】
本発明の目的は、RNA試料の品質を容易に確認できる遺伝子解析方法および遺伝子解析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の遺伝子解析方法は、RNAを測定対象とする遺伝子解析方法において、RNAの検出部に、安定度が異なる複数種類のRNA配列の発現量を求めるための領域を設けるステップと、前記領域で検出される前記複数種類のRNA配列の発現量の比率に基づいて試料の劣化程度を判定するステップと、を備えることを特徴とする。
この遺伝子解析方法によれば、安定度が異なる複数種類のRNA配列の発現量の比率に基づいて試料の劣化程度を判定するので、試料の品質を容易に確認できる。
【0009】
前記領域において発現量が求められる前記RNA配列を、解析対象となるアプリケーションに応じて予め選択するステップを備えてもよい。
【0010】
本発明の遺伝子解析システムは、RNAを測定対象とする遺伝子解析システムにおいて、RNAの検出部に、安定度が異なる複数種類のRNA配列の発現量を求めるための領域を設け、前記領域で検出される前記複数種類のRNA配列の発現量の比率に基づいて試料の劣化程度を判定する判定手段を備えることを特徴とする。
この遺伝子解析システムによれば、安定度が異なる複数種類のRNA配列の発現量の比率に基づいて試料の劣化程度を判定するので、試料の品質を容易に確認できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の遺伝子解析方法によれば、安定度が異なる複数種類のRNA配列の発現量の比率に基づいて試料の劣化程度を判定するので、試料の品質を容易に確認できる。
【0012】
本発明の遺伝子解析システムは、RNAを測定対象とする遺伝子解析システムによれば、安定度が異なる複数種類のRNA配列の発現量の比率に基づいて試料の劣化程度を判定するので、試料の品質を容易に確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態の遺伝子解析システム等を示す図であり、(a)は一実施形態の遺伝子解析システムの構成を示すブロック図、(b)はDNAマクロアレイの構成を示す平面図。
【図2】遺伝子解析システムの動作手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明による遺伝子解析システムの一実施形態について説明する。
【0015】
図1(a)は本実施形態の遺伝子解析システムの構成を示すブロック図、図1(b)はDNAマクロアレイの構成を示す平面図である。
【0016】
図1(a)に示すように、本実施形態の遺伝子解析システムは、DNAマイクロアレイ3の画像を読み取る読取装置1と、読取装置1に接続された演算制御部2とからなる。
【0017】
図1(b)に示すように、DNAマイクロアレイ3には多数のサイト31が配列されており、各サイト31にはそれぞれのRNA配列に対応する(cDNAと相補的な配列を有する)DNAプローブが配置されている。
【0018】
DNAマイクロアレイ3のサイト31には、特定の安定なRNA配列を検出するためのサイトと、特定の不安定なRNA配列を検出するためのサイトが含まれている。
【0019】
これらマーカー遺伝子となるRNA配列は、人の血液から抽出された種々の配列のRNAに対して人工的に熱を加えることによる分解操作を施し、その中で非常に安定なRNA種と、より不安定なRNA種とを見つけることで選択される。
【0020】
遺伝子解析に際して、それらの安定なRNA種および不安定なRNA種の発現量の比をみることで、試料の品質をチェックすることができる。不安定なRNA種の発現量が低下していれば、試料が劣化した状態であることが判る。
【0021】
マーカー遺伝子として用いることができるRNA配列は、アプリケーションにより異なる。マーカー遺伝子は測定対象となる試料に常に含まれており、その発現量が一定しているRNA配列が選択される。例えば、血液、肝臓などの組織の相違、あるいは、がんの有無等、診断内容に応じて、適切なマーカー遺伝子は異なる。このため、アプリケーションごとに予め適切なマーカー遺伝子を選択し、DNAマイクロチップを作成する必要がある。また、ヒト疾患の場合では、疾患対象により健常者と患者との間でマーカーとなりうる遺伝子が異なる場合もある。
【0022】
また、試料によって保存条件や保存期間が異なるため、その品質をチェックするのに適した条件での分解操作によってRNA配列の安定度を判定することが望ましい。
【0023】
図2は本実施形態の遺伝子解析システムの動作手順を示すフローチャートである。この動作手順は演算制御部2の制御に従って実行される。
【0024】
図2のステップS1では、読取装置1によりDNAマイクロアレイ3の画像を読み取る。次に、ステップS2では、読み取られた画像に基づき、演算制御部2において、マーカー遺伝子として用いられる安定なRNA配列および不安定なRNA配列の発現量の比率(不安定なRNA配列の発現量/安定なRNA配列の発現量)を算出する。
【0025】
次に、ステップS3では、演算制御部2において、ステップS2で算出された比率が予め定められた閾値よりも小さいか否か判断する。判断が肯定されればステップS4へ進み、判断が否定されればステップS5へ進む。
【0026】
ステップS4では、演算制御部2において、試料が劣化している旨を通知し、処理を終了する。
【0027】
一方、ステップS5では、演算制御部2において、読み取られたDNAマイクロアレイ3の画像に基づいた遺伝子解析を実行し、DNAマイクロアレイ3各サイト31に対応するRNAの発現量を算出して処理を終了する。
【0028】
このように、本実施形態の遺伝子解析システムでは、マーカー遺伝子として用いられる安定なRNA配列および不安定なRNA配列の発現量の比率を算出することで、RNA試料の劣化の程度が判り、有効な遺伝子解析が可能か否かを判断できる。
【0029】
マーカー遺伝子として多数のRNA配列の組み合わせ(不安定なRNAと、安定なRNAの組み合わせ)を用いてもよい。例えば、個々の組み合わせにおける発現量の比率に重み付けした上でこれらを足し合わせた値を、試料の劣化程度を示す指標とすることもできる。
【0030】
また、上記実施形態では、試料の品質劣化の程度に応じて、遺伝子解析の有効性を判断しているが、さらに、マーカー遺伝子の発現量比率に基づいて、遺伝子解析の結果に補償を加えるようにしてもよい。例えば、試料の品質劣化が比較的小さく、遺伝子解析の有効性は認められるが品質劣化による遺伝子解析への影響が無視できない場合には、その品質劣化の程度に応じて解析結果を補償することができる。この場合、不安定なことが判明しているRNAについては、その不安定性に応じた補正量だけ、その発現量を増加させる補償が行われればよい。
【0031】
また、上記実施形態では、ヒト由来の細胞に対する例を示したが、ヒト由来以外の細胞についても同様の方法を適用できる。
【0032】
本発明は、RNAによる診断に限定されず、RNA研究操作における簡易プロセスチェック、DNAマイクロアレイによるテンプレートサンプルの品質チェック、実験室の環境管理、その他の用途に広く適用できる。
【0033】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、RNAを測定対象とする遺伝子解析方法および遺伝子解析システムに対し、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
2 演算制御部(判定手段)
3 DNAマイクロアレイ
31 サイト(領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNAを測定対象とする遺伝子解析方法において、
RNAの検出部に、安定度が異なる複数種類のRNA配列の発現量を求めるための領域を設けるステップと、
前記領域で検出される前記複数種類のRNA配列の発現量の比率に基づいて試料の劣化程度を判定するステップと、
を備えることを特徴とする遺伝子解析方法。
【請求項2】
前記領域において発現量が求められる前記RNA配列を、解析対象となるアプリケーションに応じて予め選択するステップを備えることを特徴とする請求項1に記載の遺伝子解析方法。
【請求項3】
RNAを測定対象とする遺伝子解析システムにおいて、
RNAの検出部に、安定度が異なる複数種類のRNA配列の発現量を求めるための領域を設け、
前記領域で検出される前記複数種類のRNA配列の発現量の比率に基づいて試料の劣化程度を判定する判定手段を備えることを特徴とする遺伝子解析システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−193832(P2010−193832A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44610(P2009−44610)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】