説明

還元性水性組成物

【課題】還元性水性組成物において、空気中で放置された場合や保存中にその酸化還元電位(ORP)の経時変化が抑制された化粧料や食品分野の用途に適した組成物を提供する。
【解決手段】粘度が10〜1000dPa・sの範囲にある水を主成分とする水性組成物であって、水素ガスを溶解させることにより、前記水性組成物の酸化還元電位を−0.4〜0.0Vの範囲に調整してなる還元性水性組成物である。密閉容器に充填したこの組成物は45℃で30日の加速試験後のORPが−0.4〜0.0Vに保持されていた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水を主成分とする酸化還元電位が還元サイドにある保存安定性に優れた還元性水性組成物に関するもので、化粧料、医療や食品分野に適用される。
【背景技術】
【0002】
水の電気分解や水に水素ガスを溶解させて水の酸化還元電位(以下ORPと略す)を還元サイドにする技術が知られている。このような還元水は抗酸化作用があるために飲用すれば活性酸素と反応して生理的に健康に資すること、あるいは化粧水等のスキンケア用品に用いれば皮膚の老化を防止する作用があるなどが報告されている(特許文献1)。また、炭酸ガスを溶解させた還元水により、皮膚の老化防止と血行促進を同時に期待する技術も開示されている(特許文献2)。
【0003】
さらに、電解還元水を用いてゲル状の化粧料を提供する技術も開示されている(特許文献3、4)。そして特許文献5では水素ガスを溶解させた還元性化粧水のORPが空気中で短時間に酸化サイドに変化することが記載されている。
【特許文献1】特開2000−119161号公報
【特許文献2】特開2000−308891号公報
【特許文献3】特開2000−247892号公報
【特許文献4】特開2000−273033号公報
【特許文献5】特開2004−346053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は還元水を皮膚に適用した場合に老化防止作用等があることに着目して還元性水性組成物を調整して化粧料などの皮膚外用剤の開発を企画した。その場合、化粧水のORPは空気中で急激に酸化サイドに変化してしまうこと(特許文献5、実施例表3)や、電解還元水をガラス瓶に保存していても経時変化が大きい(特許文献3、試験例表1)などの欠点があり、化粧料として消費者に提供した場合に致命的な欠陥となることが明らかとなった。従がって、空気中で開放使用してもORPの変化が抑制され、しかも保存中にORPの経時変化が少ない保存安定性に優れた還元性水性組成物の開発を課題とした。
【0005】
さらに上記特許文献の多くでは還元水の調整方法として水の電気分解による電解法を用いている。この方法で得られる還元水はアルカリ性であり、化粧料などの皮膚外用剤として望ましい肌のPHに近い中性若しくは弱酸性にするには、得られた還元水にPH調整剤を添加するか若しくは陰極側から得られる還元水と陽極側から得られる酸性水を混合するなどの手間が必要であった。このような手間が必要のない中性若しくは弱酸性の還元性水性組成物の開発を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は水素ガスを水に溶解することで、水のORPがPHの変化を伴わずに還元サイドに変化することに着目した。さらに、このような還元水のORPの経時変化は水に溶解した水素ガスの逃散及び空気中の酸素の溶解が関係することを突き止めて本発明を完成させた。即ち、上記課題は粘度が10〜1000dPa・sの範囲にある水を主成分とする水性組成物であって、水素ガスを溶解させることにより、前記水性組成物の酸化還元電位を−0.4Vから0.0Vの範囲に調整してなる還元性水性組成物で解決される。
【0007】
そして、上記還元性水性組成物においてORPの経時変化として45℃の雰囲気に30日放置後もそのORPが−0.4から0Vの範囲に維持されているものが好ましい。これらの解決手段に於いて還元性水性組成物の粘度は好ましくは50〜500dPa・sである。また、このような還元性水性組成物が炭酸ガスを300ppm以上含有するものが好ましい。さらにこのような還元性水性組成物に各種化粧料や医療用に用いられている成分を含ませる事により皮膚外用剤とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明により空気中に放置した場合にORPの変化が小さい、中性ないしは弱酸性の還元性水性組成物の提供が可能となり、化粧料などとして皮膚に適用した場合にその効果が持続することが期待される。また、密閉した容器に充填して保存する事で長期間ORPを−0.4〜0.0Vの範囲に保持した還元性に優れた化粧料などの皮膚外用剤に適した水性組成物を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者は還元性水性組成物からのORPの急激な変化を防ぐためには、水性組成物からの水素ガスの逃散と空気中からの酸素の溶解を防ぐことが必要であると考えた。これらの気体の逃散や溶解速度は水性組成物中での気体の拡散速度に左右されるために、水性組成物の粘度を高くすれば気体の拡散速度は遅くなりORPの急激な変化を抑制できるものと考えた。この仮説を実証するために粘度の高いジェル状の還元性水性組成物と粘度の低い化粧水を調整して、空気中に放置して両者のORPの経時変化を調べた結果、明らかにジェル状物の方がORPの酸化サイドへの経時変化が小さいことが解った(実施例1、比較例1)。
【0010】
一方、還元性水性組成物からなる本発明の製品は消費者の手元に届き使用される時点でも、ORPとして−0.4〜0.0Vの還元性を有するものが好ましい。従がって調整直後からのORPの経時変化を評価して変化の少ない製品とする必要がある。本発明では経時変化の加速試験として調整直後の還元性水性組成物を容器に入れて密閉し45℃の恒温室に1ヶ月放置してそのORP変化を測定した。そして1ヶ月後のORPの上限が0.0V以下であれば、室温で長期間保存されていてもORPが−0.4〜0.0Vの還元性を維持できるものと判断した。
【0011】
このような還元性水性組成物を調整するために実施例1の知見を元に組成物の粘度を変更してORPの経時変化を調べた。その結果、水性組成物の粘度が10dPa・s以上、好ましくは50dPa・s以上でORPの経時変化が抑制できることを見出した。粘度は高いほど好ましいが皮膚外用剤としての使用を考慮するとその上限は1000dPa・s以下、好ましくは500dPa・s以下である。
【0012】
本発明では水を主成分とする水性組成物としては水を50wt%以上含む組成物のことであり、後述するごとく化粧料などの用途に適するように水以外の各種有効成分を含むものである。このような水性組成物を還元性にするために本発明では水素ガスを組成物に溶解させる。水素ガスの水への溶解度は非常に僅かであるが、この水へ溶解した水素がORPを著しく還元サイドに低下させる。
【0013】
本発明においてORPは標準水素電極基準とし、単位をV又はmVで表示する。数気圧の水素ガスを精製水に加圧して溶解すると0.35〜0.45VのORPを示す精製水は−0.4〜−0.2VのORPを示す還元水となる。上記特許文献3、4では電解法で得たこのようなORPの低い還元水を用いて化粧水やゲル状組成物などを調整することが記載されている。電解還元水と水素溶解還元水では細部で性質が異なると考えられるが、いずれの還元水もそのORPが変化しやすいため還元水と化粧料成分等を混合して溶解する段階でORPが変化する恐れがある。特に混合する水以外の成分に還元されやすい成分が含まれるとORPは酸化サイドに変化する。
【0014】
本発明の還元性水性組成物は水性組成物として調整された段階でORPが−0.4〜0.0Vの範囲を示すものである。また、保存中にもORPの経時変化が少なく消費者の手元で使用する段階においても、ほぼ同様の還元性を維持した組成物である。−0.4〜0.0VのORPは精製水に比べて約0.4V以上の大きな還元性を有するものであり、皮膚外用剤や食品用途に十分その還元性機能を発揮するものである。
【0015】
本発明で用いられる水を主成分とする水性組成物は50wt%未満の範囲で水以外の各種成分を含有する事が出来る。化粧品へ適用する場合、これらの成分としては保湿効果や美白効果をもたらす成分などが代表的に用いられる。保湿成分としてはグリセリン、1,3−ブタンジオール、などの多価アルコール、トレハロース、ラフィノースなどのオリゴ糖類、セリン、グルタミン酸、などのアミノ酸、尿素、ヒアルロン酸、コラーゲン、キチン、キトサン誘導体などが例示される。美白成分としてはアスコルビン酸、アスコルビン酸硫酸エステル塩、アスコルビン酸リン酸エステル塩などのアスコルビン酸誘導体、アルブチン、コウジ酸、コウジ酸モノブチレート、コウジ酸モノステアレートなどのコウジ酸誘導体などが例示される。
【0016】
さらに上記成分以外に添加剤として化粧品に使用される公知の成分を添加することが出来る。これらの添加成分としてはオリーブオイル、セチルアルコール、ラノリン、ステアリルアルコールなどの柔軟化剤、ミネラル、各種栄養剤、アロエや甘草など薬草からの植物抽出成分、海藻抽出成分、ローズマリーエキス、カモミラエキス、ラベンダーエキスなどのハーブや香料類などが例示される。また、使用目的によってグリチルリチン酸のような抗炎剤を添加して薬効を期待することも出来る。
【0017】
粘度が10〜1000dPa・sの範囲の水性組成物を調整するためには水溶性の高分子材料を増粘剤として用いることが出来る。これらの高分子材料としてはポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸(塩)、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリ−N−ビニルアセトアミド、ポリ−N−ビニルイソブチルアミドなどの合成高分子、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、キサンタンガム、カラギーナン、ゼラチン、コラーゲン、プルラン、マンナン、デンプン、寒天などの天然高分子が例示される。
【0018】
特殊な添加成分として炭酸ガスが例示される。炭酸ガスは水に数百ppm以上溶解させる事が可能で、300ppm以上の高濃度の炭酸ガスを溶解した炭酸水は皮膚の血行を促進する効果があると言われている。従って、300ppm以上の炭酸ガスを溶解した本発明の還元性水性組成物はその還元特性と相乗して優れた皮膚の老化防止に効果が期待される。炭酸ガスの水への溶解は後述する水素ガスと同じ方法で溶解するのが好ましいが、炭酸塩と有機酸の反応で炭酸ガスを発生させて水性組成物に溶解させる事も可能である。
【0019】
次に本発明の還元性水性組成物の製造方法について述べる。最も好ましい方法は化粧品などに用いられている各種有効成分を水に溶解叉は分散させた水性組成物を調整してこの原液に水素ガスを溶解させる方法である。水素ガスの溶解は原液を加圧容器に入れて攪拌しながらガスを水素ボンベから容器に供給して行なうのが好ましい。その際、ガスの溶解度は低温の方が大きいため30℃以下、好ましくは25℃以下の原液温度で溶解するのが好ましい。供給水素ガスの圧力は高いほど短時間で溶解量は多くなるが、安全性の面から0.1〜0.5MPaの範囲が好ましい。
【0020】
この加圧容器内での水素ガス溶解方法は装置の攪拌能力が大であれば、数十dPa・s程度の粘度を有する原液に対しても用いる事ができる。しかしながら、化粧料パック剤のように粘度が100dPa・s以上の高粘度組成物では攪拌が困難になり普通の攪拌装置ではガスを容易に溶解する事が出来ない。高粘度組成物を攪拌するにはニーダーなどの回転数は低いが動力の強い混練混合装置の採用も可能であるが、装置が大型化することやガスの溶解に長時間を必要とする。
【0021】
このような場合には、増粘剤としてメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリ−N−ビニルアセトアミド、ポリ−N−ビニルイソブチルアミド、N−ビニルイソブチルアミドとN−ビニルアセトアミドの共重合体などのような熱ゲル化特性を示す高分子の物性を利用して通常の撹拌装置で目的を達成する事が出来る。
【0022】
即ち、熱ゲル化特性を示す高分子を用いてその熱ゲル化温度以上で高分子を水あるいは水性組成物に分散させ、組成物の温度を降下させながら30℃以下、好ましくは25℃以下の温度で水素ガスを溶解させる。この水素ガスの溶解温度では高分子は熱ゲル化温度未満にあってもまだ溶解せずに分散状態であるため、粘度は低く攪拌が効率よく進行しガスは容易に分散液に溶解する。水素ガスを溶解した後、さらに温度を降下させて分散した高分子を溶解させて増粘する。この方法により、増粘剤である高分子の分子量や濃度を選択することにより、10〜1000dPa・sの還元性水性組成物を調整することが出来る。
【0023】
水性組成物の成分がORPを酸化サイドに大きく変化させないことが予めわかっている場合は、ORPの低い水素溶解還元水を調整してこの還元水に各種の有効成分を溶解して還元性水性組成物を調整することも可能である。その場合、溶解に際して、還元水のORPが酸化サイドに変化しないようにN2ガスなどの酸素を含まない雰囲気中で溶解操作を行なう必要がある。
【0024】
炭酸ガスを300ppm以上溶解した還元性水性組成物を調整するためには、炭酸ガスを水素ガスの溶解と同じ方法で直接水性組成物へ溶解させる方法が好ましい。その場合、最初に水素ガスを溶解させORPを低下させ次に炭酸ガスを溶解させるか、その逆の方法が考えられる。また、予め水素ガスと炭酸ガスの混合ガスを調整してこの混合ガスを用いて水素と炭酸ガスを同時に溶解させる方法でも良い。いずれにせよ、ガス溶解時に気相中の各ガスの分圧に対応して水性組成物中のガスの溶解濃度が変化するので注意が必要である。
【0025】
例えば、最初に炭酸ガスを0.2MPaの圧力で水性組成物に平衡になるまで溶解して、次に0.1MPaの水素ガスを加圧供給して溶解させる場合、全圧を0.3MPaとする事で水性組成物の炭酸ガス濃度は最初の平衡濃度に維持される。このようにして炭酸ガス濃度が300ppm、好ましくは500ppm以上、2000ppm以下を含む還元性水性組成物を製造することが出来る。
【0026】
なお、炭酸ガスの皮膚血行促進効果を発現させるためには、炭酸ガスが遊離の炭酸ガスとして水性組成物に溶解している必要があり、水性組成物のPHを6以下、好ましくは5.5以下の弱酸性とする必要がある。水素溶解法による還元性付与は水性組成物のPHを変化させないため、炭酸溶解水性組成物にその効果を犠牲にすることなく還元性を付与する事が出来るので好ましい。上述の方法により炭酸ガスを300ppm以上溶解したORPが−0.4〜0.0Vの還元性を有し、しかもPHが6以下である還元性水性組成物を得ることが出来る。
【0027】
このようにして調整された還元性水性組成物は気体難透過性の素材で作られた容器に入れて密閉保存する事が好ましい。気体難透過性の素材としては、アルミや鉄などの金属材料、ガラス、高分子材料ではポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリロニトリル共重合体、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン共重合体などの気体透過率の低い材料が好ましい。アルミフイルムとPET、ポリエチレンやポリプロピレンフイルムからなる多層フイルム素材も好ましい材料である。
【0028】
容器の形態としては缶、瓶、チューブ状、袋状などが用いられるが、粘度が10dPa・s以上の本発明の還元性水性組成物の場合、容器を押圧して内容物が取り出せる柔軟性のある袋状やチューブ状の形態が好ましい。還元性水性組成物をこれらの容器に充填する際には、酸素の溶解に伴うORPの経時変化を抑制するために容器内の充填内容物以外の空間を出来るだけ少なくするか、若しくは空間内を脱気したり窒素ガスなどの酸素を含まない気体で満たすことが好ましい。また、容器を一旦開封すると内容物は空気と接触するために保存は避けるべきで、開封した内容物は使い切ることが望ましい。
【0029】
このようにして本発明の還元性水性組成物を化粧料として適用する場合、その粘度を10〜1000dPa・sに調整する事で、美容液、クリーム、パック剤などの製品を提供する事が出来る。また、各種ミネラルやアミノ酸などの栄養剤をデンプンや寒天などの増粘剤に溶解して飲料用組成物として提供することが出来る。
【0030】
以下に実施例並びに比較例で本発明をさらに詳しく説明する。なお、以下の例でORPの測定はORPメーター(Toko Chemical Laboratories)を用いて測定した。また、粘度の測定は回転粘度計(RION Viscotester)を用いて20℃で測定した。ジェル中の炭酸ガス濃度はジェルを水で10倍に稀釈してその水溶液の濃度をガスクロマトグラフ法で測定した。
【実施例1】
【0031】
以下の組成を有する顔面のパック剤に適したジェル状の還元性化粧料を調整した。
・パック剤の組成(wt%)
・グリセリン 5.0
・メチルセルロース 3.0
・セリン 1.0
・ラフィノース 1.0
・アスコルビン酸硫酸2Na 1.0
・キサンタンガム 0.3
・メチルパラベン 0.1
・精製水 残 余
【0032】
・調整方法
圧力計、ガス供給配管、排気配管、内溶液排出配管、原料投入口、攪拌装置などを具備した外部温冷水ジャケット付きの5Lタンクに全量3kgになるように精製水(水道水を活性炭、イオン交換樹脂、精密ろ過膜を通して精製した水)を2.66kg入れて攪拌した。原料投入口からセリン、ラフィノース、キサンタンガムを投入して精製水に溶解した。次いで、タンク外部ジャケットに温水を循環し、内溶液を65℃まで昇温させてからメチルセルロース(メトローズ4000、信越化学工業株式会社製)の粉末を投入した。
【0033】
さらにアスコルビン酸硫酸2Na、グリセリンに溶解させたメチルパラベンを投入しジャケット循環水の温度を下げて内溶液の温度を降下させた。内溶液の温度が約30℃付近になった時点で、タンクの排気配管を真空ポンプに接続して脱気を20分行なった。内溶液をさらに25℃まで冷却して、排気配管を遮断してガス供給配管に水素ボンベを接続して0.2MPaの水素ガスを1時間供給した。この間、メチルセルロースは溶解が進行せず、水に分散状態であるため内溶液の粘度は低く(数dPa・s程度)攪拌は容易に行なわれた。
【0034】
・内溶液の容器充填とジェル化
この還元性水性組成物を容器に充填するために三辺を熱融着シールしたシール内縁の寸法が48x148mmのアルミラミネート袋(PET/アルミ/PET/ポリプロピレンからなる4層ラミネートフイルム)を用意した。
【0035】
5Lタンク内の内溶液を内溶液排出管より、タンク内の水素ガスの背圧を利用してアルミラミネート袋の開口部から約25gの液を注入して、真空・熱融着装置(業務用バキュームシーラー、シャープ株式会社製)で吸引・脱気しながら熱融着を行なって開口部を密閉シールした。密閉後の各サンプルは約5℃の冷蔵庫に入れて冷却しメチルセルロースの溶解を完結させた。この、溶解完結後のサンプルのPHは5.90で粘度を測定すると150dPa・sでいわゆるジェル状態であった。
【0036】
・ORPの空気中での経時変化測定
上記のジェル化したパック剤と下記比較例1で調整した化粧水を25℃の恒温室で温調した。これらの化粧料が皮膚表面へ塗布されて使用されることを想定して、一定面積のシャーレ上に化粧料の厚みが2mmになるよう化粧料を秤量してシャーレ表面全体に広げて25℃の恒温室に放置した。空気中への放置時間と共にORPは急激に変化したがその結果を図1に示した。粘度の高いパック剤の方が化粧水に比べて、5分以降の経時変化が小さいことが解った。
【0037】
比較例1として実施例1のパック剤組成物の内で増粘剤として用いた水溶性高分子であるメチルセルロースとキサンタンガムを除いた組成物で還元性化粧水を調整した。調整方法は上記パック剤と同様に行い、アルミラミネート袋への充填密閉方法も同様に行なった。この化粧水のPHは5.93で粘度を測定すると1.4mPa・sであった。
【実施例2】
【0038】
以下の組成を有する顔面のパック剤に適したジェル状の還元性化粧料を調整した。
・パック剤の組成(wt%)
・メチルセルロース 3.0
・グリセリン 2.5
・グルコシルトレハロース 1.2
・トレハロース 1.0
・セリン 1.0
・ラフィノース 1.0
・アスコルビン酸硫酸2Na 1.0
・加水分解水添デンプン 0.8
・キサンタンガム 0.3
・天然ヒノキチオール 0.01
・精製水 残 余
【0039】
実施例1と同様の方法で全量3kgのスケールで調整した。実施例1と異なる点は最初に精製水に攪拌しながらグルコシルトレハロース、トレハロース、セリン、ラフィノース、加水分解水添デンプン、キサンタンガムを添加して溶解させたこと、また、グリセリンに溶解させた天然ヒノキチオールを内容物の温度を65℃から降温させて50℃近辺になった時点で添加したこと、さらに、水素ガスの溶解は0.2MPaで2時間行なったことである。実施例1と同様にしてアルミラミネート袋に約25g充填して吸引・脱気して密閉シールし5℃の冷蔵庫に保管してジェル化させた。このパック剤のPHは5.85、粘度は160dPa・sであった。
【0040】
長期保存に伴うパック剤並びに下記比較例2で調整した化粧水のORP経時変化を調べるために、加速試験として45℃の恒温室にそれぞれ複数の試料を放置して数日ごとに試料の袋を開封してORPを測定した。結果を図2に示した。化粧水のORPは初期には−0.24Vであったが経時と共に酸化サイドに変化して30日後には+0.025Vまで変化したが、パック剤は経時と共にORPは初期値より若干低下して30日後では−0.25Vであった。
【0041】
比較例2として実施例2のパック剤組成で増粘剤であるメチルセルロースとキサンタンガムを除いた組成で実施例2の調整方法を繰り返して粘度の低い化粧水を調整した。実施例2と同様にして化粧水をアルミラミネート袋に約25g充填して吸引・脱気して密閉シールした。この化粧水のPHは5.88であり粘度は1.4mPa・sであった。
【実施例3】
【0042】
本実施例では還元性水性組成物の粘度とORPの経時変化を調べるために実施例1のパック剤組成において増粘剤のメチルセルロースを2.3wt%に変更した還元性組成物を調整した。調整方法は実施例1とほぼ同じ方法であるが、水素ガスの溶解を0.2MPaで2時間行なった。得られた還元性組成物を実施例1と同様にしてアルミラミネート袋に充填して吸引・脱気を行い密閉シールし、5℃の冷蔵庫に放置してメチルセルロースを溶解し増粘させた。この組成物のPHは5.90、粘度は50dPa・sであった。この組成物A及び下記実施例4で調整した組成物Bを実施例2と同様にして45℃の恒温室に30日間放置してORPの経時変化を測定した。ORPの経時変化を表1に纏めて示した。
【0043】
【表1】

【実施例4】
【0044】
実施例3と同様の目的で実施例1において増粘剤のメチルセルロースを1.8wt%に変更した還元性組成物を調整した。調整方法並びに袋への充填方法は全て実施例3と同様に行なった。得られた組成物のPHは5.90で粘度は15dPa・sであった。
【実施例5】
【0045】
実施例2と同じ組成を有する炭酸ガスを溶解した還元性パック剤を以下の方法で調整した。実施例2と同様にしてパック剤成分を溶解したメチルセルロース分散液を調整し脱気して25℃までタンク内の内容物を冷却した。次いでガス供給配管を炭酸ガスボンベに接続して0.2MPaの炭酸ガスをタンクに供給して2時間内容物を攪拌して炭酸ガスを溶解させた。次いでガス供給配管を遮断してタンク内圧力を炭酸ガス0.2MPaに維持した状態で、ガス供給配管を水素ガスボンベに接続した。水素ガスをタンクに加圧してタンク内全圧を0.3MPaに維持して2時間水素ガスを内容物に溶解させた。この間、メチルセルロースの溶解は進行せず内容物は粘度が低い状態であり、攪拌は容易に実施された。
【0046】
水素ガスの溶解後、排気配管から排気してタンク内全圧を0.02MPaに維持して1夜25℃で放置した。この間、内容物は過剰の溶解炭酸ガスで発泡するが、1夜の放置で脱泡が進行した。次いで、タンク内に内容物を攪拌しながら25℃で0.2MPaの水素ガスを1時間加圧した。このようにして調整した水性組成物を実施例1と同様にしてアルミラミネート袋に約25g充填して吸引・脱気して密閉シールし、5℃の冷蔵庫で保存してジェル化させた。このパック剤のPHは4.89、粘度は160dPa・s、炭酸ガス濃度は900ppmであった。 複数個のパック剤並びに下記比較例3で調整した化粧水を実施例2と同様に45℃の恒温室に放置して30日に渡ってORPの経時変化を調べた。結果を表2に纏めて示した。
【0047】
【表2】

【0048】

比較例3として実施例5と同じパック剤組成で増粘剤であるメチルセルロースとキサンタンガムを除いた組成物で実施例5の調整方法を繰り返して粘度の低い炭酸ガス溶解の還元性化粧水を調整した。この化粧水のPHは4.85、粘度は1.4mPa・s,炭酸ガス濃度は950ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の還元性水性組成物はORPが−0.4〜0.0Vの優れた還元性を有するもので、しかもその経時変化が少ないため、消費者が使用する段階でもこの性能が維持されているものである。従って化粧品や医療、健康食品などの産業分野に適用されて皮膚の老化防止や健康促進に役立つ事が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】化粧水とジェル状パック剤を空気中に放置したときのORPの変化を示したものである。(実施例1、比較例1)
【図2】化粧水とジェル状パック剤を密閉した袋に充填して45℃の恒温室に放置した時のORPの経時変化を示したものである。(実施例2、比較例2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度が10〜1000dPa・sの範囲にある水を主成分とする水性組成物であって、水素ガスを溶解させることにより、前記水性組成物の酸化還元電位を−0.4Vから0.0Vの範囲に調整してなる還元性水性組成物。
【請求項2】
密閉容器に充填された還元性水性組成物を45℃の雰囲気で30日放置後の前記組成物の酸化還元電位が−0.4Vから0.0Vの範囲にある請求項1.の還元性水性組成物。
【請求項3】
粘度が50〜500dPa・sの範囲にあることを特徴とする請求項1及び2記載の還元性水性組成物。
【請求項4】
300ppm以上の炭酸ガスが溶解されてなる請求項1から3の還元性水性組成物。
【請求項5】
還元性水性組成物が皮膚外用剤である請求項1から4の還元性水性組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−77035(P2007−77035A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263783(P2005−263783)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(300052051)株式会社ヒロマイト (5)
【Fターム(参考)】