説明

還元難消化性デキストリンを含有する体脂肪調整剤

【課題】保健機能を付与又は強化した飲食品及び強い保健機能を広範囲の食品に付与する方法を提供すること。
【解決手段】本発明により、焙焼デキストリンを酵素消化し、次いで水素添加して得られる還元難消化性デキストリンを有効成分として含有する、保健機能を付与又は強化した飲食品を提供する。本発明はまた、1食当り、又は1日当り、難消化性成分換算で3g以上の還元難消化性デキストリンを飲食品に添加するか又は飲食品の少なくとも一部と置換することを特徴とする、飲食品に保健機能を付与又は強化する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難消化性デキストリンを水素添加し、カルボニル基を還元した還元難消化性デキストリンを食品に添加、または食品成分の一部あるいは全部と置換することにより食品に保健機能を付与又は強化する方法及び該方法によって得られる飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、日本においても食生活の欧米化および生活習慣の変化に伴い、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満などの生活習慣病が増加している。それらの疾病の予防を目的として特定保健用食品をはじめとするさまざまな健康食品の需要が高まっており、食品の生理機能があらためて注目を集めている。特に食物繊維は整腸作用、食後血糖上昇抑制作用を中心とする生理作用を有する事が知られており、食品の機能を高める素材としてよく利用されている。
食物繊維には水溶性と不溶性があり、それぞれ物性および生理作用が異なる。セルロース、ヘミセルロースなどの不溶性食物繊維は、大腸において資化され難く、水分を含んで糞便中に排泄されるため、便量の増加、消化管の通過時間短縮などの生理作用を有する。水溶性食物繊維は、水に溶解した際の粘度が高いペクチン、サイリウム、グアーガムなどと、水に溶解しても粘度がない難消化性デキストリンやポリデキストロースなどに分けられる。粘度の高い水溶性食物繊維は、消化管内でゲルを形成するため、拡散阻害による栄養素の吸収遅延を起こす。例えば、糖の吸収遅延は血糖値の上昇を抑制し、それに伴いインスリンの過剰分泌を抑制する効果を発現する。毎食後の血糖値及びインスリン分泌をコントロールすることにより、長期的には耐糖能の改善、脂質代謝の改善が期待される。さらに、脂質の吸収遅延は食後中性脂肪値の上昇を抑制し、脂質代謝に影響を及ぼす。また、消化管の通過時間の短縮、排便量の増加より胆汁酸の排泄が促進され、体内のステロールグループが減少し、血清中のコレステロールが低下するなどの効果も現れる。しかし、粘度の高い食物繊維を食品に有効量添加することは、その食品の味、食感、形状などに影響を及ぼすため困難であり、利用される食品が限られていた。
【0003】
一方、水溶性の低粘性食物繊維では、澱粉を原料として製造される難消化性デキストリン(食物繊維含有デキストリン)が知られている。特許文献1には、焙焼デキストリンにα−アミラーゼを作用させて難消化性デキストリンを製造する方法が記載されている。さらに、特許文献2には、焙焼デキストリンにα−アミラーゼにつづいて、グルコアミラーゼを作用させ、クロマト分画で食物繊維分を採取して食物繊維高含有デキストリンを製造する方法、クロマト分画前にトランスグルコシダーゼを作用させて食物繊維の含有率を高める方法などが記載されている。難消化性デキストリンは、食品に添加しやすい物性であるため広範囲の食品に食物繊維素材として利用されている。また、生理作用に関しては、整腸作用(特許文献3参照)、砂糖などの食品に添加することによる、食品に肥満、耐糖能障害の予防(特許文献4参照)、インスリン分泌の抑制(特許文献5参照)、血清脂質成分の低下作用(特許文献6参照)、高血圧低下作用(特許文献7参照)があり、特定保健用食品をはじめとする健康食品にも利用されている。
【0004】
しかし、難消化性デキストリンは製造工程において高温で焙焼することによって着色し、精製工程で脱色を行うものの、完全に色を除去することは困難であり最終商品では淡黄色の粉末となる。そのため、水、透明な清涼飲料水、米飯など着色が問題となる食品に添加した際には色が付き、商品価値が下がるため、添加量が制限され、生理機能が期待できる有効量を添加することが困難であった。茶飲料、スープ、みそ汁など、既に着色度の強い食品に関しては、製造直後には問題はないが、経時的に褐変するため着色度が増し、商品の外観の安定性に欠けるという欠点がある。さらには他の甘味料と併用で利用した場合、pHが中性の食品の製造中に褐変が起こりやすく、また煮詰め時の焦げ付きも起こり易いという問題がある。
一方、特許文献8において、焙焼デキストリンを酸の存在下で加水分解して得られる難消化性水飴/又は粉飴が生理効果を有し、なおかつ煮詰めが可能で広範囲の食品に利用できる旨が記載されている。しかし、難消化性水飴/又は粉飴は糖類を多く含んでおり、甘味度が高いため、糖類を併用する食品においては添加可能であるが、糖類を添加しない食品や甘味を付与したくない食品には使用が不可能である。
【0005】
また、難消化性デキストリンで問題となる着色度および経時的な着色度の増加は、メイラード反応(褐変)であるため、それを改善する方法として、還元末端に水素添加することが知られている。還元末端が封鎖されるとアミノ酸と反応することができず、メイラード反応は起こらないからである。本技術は公知であり、実際に、デキストリンを水素添加した還元デキストリン(特許文献9参照)、難消化性水飴を水素添加した還元難消化性水飴(特許文献10参照)などが知られている。還元デキストリンは、水素添加することによって、カロリーが低下し、さらに消化吸収が緩やかになるが、他の糖質と同時に摂取した際に、他の糖質の消化吸収に影響を与えることはなく、それ以上の生理機能は確認されていない。また、難消化性水飴については非う蝕性機能が確認されているがそれ以外の生理機能は不明である。さらに、難消化性デキストリンを同様に水素添加して得られる還元難消化性デキストリンは、着色の経時変化がなく、味もすっきりしていることが知られているが、その保健機能については不明である(特許文献1及び特許文献2)。
そこで、前記の難消化性デキストリンが有する欠点を改善し、あらゆる食品に添加が可能であり、着色の問題がなく、さらに難消化性デキストリンが有する多岐にわたる生理機能と同程度あるいはそれ以上の生理機能を有する難消化性物質の開発および商品化が期待されている。
【0006】
【特許文献1】特開平2−145169号
【特許文献2】特開平2−154664号
【特許文献3】特許第2007645号
【特許文献4】特開平6−166622号
【特許文献5】特許第2007644号
【特許文献6】特許第2007646号
【特許文献7】特許第2019839号
【特許文献8】特開平11−116602号
【特許文献9】特開平5−214002号
【特許文献10】特開平10−150934号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、整腸作用、血糖値調整作用、耐糖能維持改善作用、血清脂質調整作用、体脂肪調整作用などの保健機能を有する飲食品を開発することである。さらに、飲食品に保健機能を付与又は強化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、焙焼デキストリンを酵素消化し、次いで水素添加して得られる還元難消化性デキストリンを飲食品の構成成分の少なくとも一部とすることによって、整腸作用、血清脂質調整作用、体脂肪調整作用、耐糖能維持改善作用又は血糖値調整作用等の保健機能を飲食品に付与することができることを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明の第一の発明は、焙焼デキストリンを酵素消化し、次いで水素添加して得られる還元難消化性デキストリンを有効成分として含有してなる、保健機能を付与又は強化した飲食品に関する。本発明の第二の発明は、保健機能が、整腸作用、食後血糖値上昇抑制作用、耐糖能低下抑制作用、体脂肪増加抑制作用及び血清脂質増加抑制作用から選択される少なくとも一つの作用である、第一の発明の保健機能を付与又は強化した飲食品に関する。また、本発明の第三の発明は、前記還元難消化性デキストリンを有効成分として含有する飲食品用整腸剤、飲食品用血糖値調整剤、飲食品用耐糖能維持改善剤、飲食品用体脂肪調整剤又は飲食品用血清脂質調整剤に関する。また、本発明の第四の発明は、1食当り、又は1日当り、難消化性成分換算で3g以上の上記還元難消化性デキストリンを食品に添加するか又は食品の少なくとも一部と置換することを特徴とする、飲食品に保健機能を付与又は強化する方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、食品の本来の性質、特徴を損なうことなく飲食品に保健機能を付与又は強化することができるので、極めて優れた健康食品を提供することができる。さらに、本発明によれば、各種の保健機能を有し、食品に添加した際に色を付与せず、経時的にも褐変することなく安定な白色粉末あるいは無色透明な水溶液を得ることのできる難消化性物質を含む飲食品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明における保健機能とは、本発明に使用する還元難消化性デキストリンを含む食品を摂取したときに、血糖値の調整作用、血清脂質調整作用、体脂肪調整作用、耐糖能維持改善作用及び整腸作用の少なくとも一つの作用を示すことをいう。本発明における血糖値調整作用とは、炭水化物を含む食品を摂取した時に、食後血糖値の上昇を抑制又は空腹時の高血糖値を低下させる作用のことをいう。血清脂質調整作用とは、長期摂取により血清コレステロール値及び血清中性脂肪値を上昇させる食品を反復摂取したときに、それらの上昇を抑制又は上昇した血清脂質を低下させる作用のことをいう。体脂肪調整作用とは、長期摂取により体脂肪値を上昇させる食品を反復摂取したときに、その上昇を抑制又は上昇した体脂肪値を低下させる作用のことをいう。耐糖能維持改善作用とは、長期摂取により耐糖能(血糖値を正常に維持する機能)を低下させる食品を反復摂取したときに、その低下を抑制又は低下した耐糖能を高める作用のことをいう。
【0011】
本発明に使用する還元難消化性デキストリンは、衛新第13号(栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について)に記載の食物繊維の分析方法である高速液体クロマトグラフ法(酵素−HPLC法)で測定した難消化性成分の含量が、固形分換算で好ましくは45重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは85〜95重量%である難消化性デキストリンを還元したものであり、一般的には焙焼デキストリンを酵素消化することにより、その消化性部分を除去して得られる難消化性デキストリンを、水素添加して還元することにより得ることができる。
還元難消化性デキストリンは、公知の手段によって製造することができ、例えば特開平2−154664号に記載の方法で製造することができる。すなわち、澱粉を加熱処理して焙焼デキストリンとし、これに酵素を作用させて加水分解し、次いで水素添加することにより還元して還元難消化性デキストリンを得ることができる。ここで、澱粉を加熱処理するとき酸の存在下で行うのが好ましい。得られた焙焼デキストリンを加水分解するのに、α−アミラーゼを単独で使用することもできるし、α−アミラーゼとグルコアミラーゼとを併用することもできる。両者を併用する場合、α−アミラーゼに次いでグルコアミラーゼを使用するのが好ましい。これらの酵素の他、β−アミラーゼを使用することもできる。β−アミラーゼは単独で使用することもできるし、他の酵素と併用することもできる。2種又は3種の酵素を併用するとき、最初にα−アミラーゼを使用し、次いでグルコアミラーゼ又はβ−アミラーゼを使用するのが好ましい。α−アミラーゼに次いでグルコアミラーゼを使用するのが最も好ましい。更に、難消化性成分を固形分あたり好ましくは45重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは85〜95重量%含有する難消化性デキストリンを好ましく分離精製することができる。得られる難消化性デキストリンの難消化性成分の数平均分子量は好ましくは1000〜3000、より好ましくは1300〜2500、最も好ましくは2000である。
本発明に使用される還元難消化性デキストリンの原料である澱粉としては特に限定されないが、例えばコーン、ワキシー・コーン、馬鈴薯、タピオカ、甘藷、サゴヤシ、小麦、大麦、米等の澱粉が使用できる。以下、上記方法について更に詳細に説明する。
【0012】
澱粉に対して鉱酸(例えば、塩酸、硝酸)、好ましくは塩酸を澱粉100重量部に対して、例えば1重量%の塩酸水溶液として3〜10重量%添加、加熱処理して、中間物質である焙焼デキストリンを得る。この加熱処理の前に澱粉と鉱酸の水溶液を均一に混合するために、適当なミキサー中で攪拌、熟成させてから、好ましくは100℃〜120℃程度で予備乾燥して混合物中の水分を5重量%程度まで減少させることが好ましい。加熱処理は従来技術の加酸焙焼デキストリン(白色デキストリン、黄色デキストリン)の加熱条件とは異なり、140℃〜200℃で0.2分〜120分、好ましくは20分〜120分が適当である。加熱処理の温度は高い方が目的生成物中の難消化性成分の含量が増加するが、180℃付近から着色物質が増加するので、より好ましくは150℃前後である。
加熱装置を選択することによって高温短時間の反応を行うことも可能であるので、例えばエクストルーダーのようにごく短時間に均一な反応を行うことができる装置を用いれば、効率的に加熱処理することができる。また、粉末状態での反応であるから大規模生産の場合は、加熱条件を変更する必要もあるので、加熱処理後の製品の品質を検討した上で、適宜加熱条件を変更することが望ましい。
【0013】
次いで焙焼デキストリンを水に溶解して20〜50重量%の濃度にして、水酸化ナトリウムなどの中和剤を用いて、pHを5.5〜6.5、好ましくは6.0に調整し、0.05〜0.2重量%の液化型α−アミラーゼを添加してα−アミラーゼの作用温度である80〜95℃で、通常1時間程度加水分解を行った後、温度を120℃まで上げα−アミラーゼの酵素作用を終了させる。この液化型α−アミラーゼとしては市販品がいずれも使用できるが、例えばターマミル120L(商品名:ノボザイムズジャパン社製)などがある。
必要により、次いで液温を60℃まで下げ、pHを4〜5、好ましくは4.5に調製し、0.05〜0.4重量%のグルコアミラーゼを添加して55〜60℃で4〜48時間加水分解を行い、難消化性成分以外の成分をぶどう糖に分解した後、温度を80℃まで上げグルコアミラーゼの酵素作用を終了させる。このグルコアミラーゼとしては市販品がいずれも使用できるが、例えばグルクザイムNL4.2(商品名:アマノエンザイム社製)などがある。以後は通常の活性炭脱色、ろ過、イオン交換樹脂による脱塩、脱色を行い、50重量%程度の濃度まで濃縮する。
【0014】
この液を強酸性陽イオン交換樹脂塔に通液してクロマト分離の方式で難消化性デキストリンとぶどう糖部分に分離して、難消化性成分を固形分あたり好ましくは45重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは85〜95重量%含有する難消化性デキストリンを得ることができる。
この場合強酸性陽イオン交換樹脂は市販一般のものが広く使用できる。その好ましい具体例としては、アンバーライトIR−116、アンバーライトIR−118、アンバーライトIR−120B、XT−1022E、XT−471F(商品名:オルガノ社製)、ダイヤイオンSK−1B、ダイヤイオンSK102、ダイヤイオンSK104、ダイヤイオンSK106、ダイヤイオンSK110、ダイヤイオンSK112、ダイヤイオンSK116、ダイヤイオンFR01(商品名:三菱化成社製)XFS−43281.00、XFS−43280.00、XSF−43279.00、XSF−43278.00(商品名:ダウケミカル日本社製)を例示することができる。そしてこれらの樹脂は通常使用前にアルカリ金属型又はアルカリ土類金属型として用いることが好ましい。流速はSV=0.1〜0.6の範囲が好ましい。この流速の範囲外では作業性や分離が悪くなる傾向がある。通液時の液の温度は20〜70℃が好ましく、これよりも低いと分離が悪くなり、液の粘度が上がって樹脂に障害を与えることがあり、これより高温になると液の褐変により品質が悪くなったり、樹脂の劣化の原因になることがある。
【0015】
次に難消化性デキストリンを還元するが、この還元(水素添加)反応は澱粉糖類に一般的に行われる条件と同様であり、通常はラネーニッケル、ラネーコバルト、ニッケル硅藻土などの常用還元触媒を添加し、水素圧50〜130kg/cm2 、温度50〜150℃程度の常用条件下で水素添加を行う。この際の加熱は溶液中に水素を飽和状態となるまで充分に溶解させてから行うことが好ましく、これに反し水素の供給が不十分な場合には酸化・加水分解などの好ましくない副反応が生起することがある。この水素添加は温度、圧力などの反応条件によって多少の違いはあるが、通常2時間以内に終結する。以後は通常用いられる精製、例えば触媒分離後に再度活性炭脱色、ろ過、イオン交換樹脂による脱塩、脱色を行い、濃縮後噴霧乾燥などにより粉末とするかまたは仕上濃縮として70重量%程度まで濃縮して液状品とする。
【0016】
以下に還元難消化性デキストリンの具体的な製造法を参考例として説明する。なお、難消化性成分の定量及び数平均分子量の測定は下記の方法による。
<難消化性成分の定量方法>
難消化性デキストリン還元物中の難消化性成分の定量は、衛新第13号(栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について)に記載の食物繊維の分析方法である高速液体クロマトグラフ法(酵素−HPLC法)によって測定した。
<数平均分子量の測定>
以下の条件で高速液体クロマトグラフィーを行い、数平均分子量を測定した。
カラム:TSKgel G2500PWXL,G3000PWXL,G6000PWXL(東ソー社製)
検出器:示差屈折率計
カラム温度:80℃
流速:0.5ml/min
移動相:蒸留水
サンプル量:1重量%、100μl
分子量計算はマルチステーションGPC−8020(東ソー社製)を用いて、プルラン標準品(分子量既知)、およびマルトトリオース、グルコースより求めた検量線から、次式Mn=ΣHi/Σ(Hi/Mi)×QF(Mn:数平均分子量、Hi:ピーク高さ、Mi:プルランの分子量、QF:Qファクター(Mark−Houwink係数))により数平均分子量を求めた。
【0017】
〔参考例〕
市販のコーンスターチに500ppmの塩酸を添加し、フラッシュドライヤーで水分が約2〜3重量%になるまで予備乾燥し、次にロータリーキルンを用いて140〜145℃で約30分間焙焼して、焙焼デキストリンを得た。この焙焼デキストリンに水を加えて30重量%とし、水酸化ナトリウムを加えてpHを6に調整した後、ターマミル120L(ノボザイムズジャパン社製)を0.2重量%添加して、95℃で30分間加水分解を行った後、130℃で15分間保持して酵素反応を終了した。次いで、温度を60℃まで冷却して、pHを4.5に調整した後、グルクザイムNL4.2(アマノエンザイム社製)を0.3重量%添加して60℃で12時間加水分解を行った。80℃で30分間保持して酵素反応を終了した後、常法により脱塩、脱色を行い、50重量%まで濃縮した。この溶液をアルカリ金属型強酸性陽イオン交換樹脂であるXFS−43279.00(ダウケミカル日本社製)を充填したカラムにSV=0.25で通液し、次いで水を通液して難消化性デキストリンを分離した。この溶液を60重量%まで濃縮した後、還元用反応容器に入れ、触媒としてラネーニッケルR239(商品名:日興理化社製造)を添加し、水素ガスを100kg/cm2 の圧力に達するまで充填し、400〜600rpmで攪拌しながら130℃で3時間還元反応を行った。還元物をろ過して触媒を分離した後、活性炭による脱色ろ過、およびイオン交換樹脂による脱塩を行った後、濃縮後噴霧乾燥により粉末化して、難消化性成分92%、難消化性成分の数平均分子量が2000の還元難消化性デキストリンを得た。
【0018】
このようにして得られた還元難消化性デキストリンは糖鎖のカルボニル基が還元されて水酸基に変換されており、褐変しにくく、呈味性に優れている。しかも物理化学的安定性、食品としての安全性は、還元していない難消化性デキストリンと同等である。なお、松谷化学工業株式会社から販売されている粉末タイプの「ファイバーソル2H」(商品名)、および液状タイプの「ファイバーソル2HL」(商品名)は、本発明に使用する還元難消化性デキストリンとして使用することができる。これらの市販還元難消化性デキストリンはいずれも、α−アミラーゼで消化後、続いてグルコアミラーゼで消化することにより得たものであり、難消化性成分を固形分あたり約90重量%含有し、その数平均分子量はいずれも約2000である。
前述のごとく、本発明者らは、還元難消化性デキストリンを添加した飲食品又は飲食品の一部を還元難消化性デキストリンで置換した飲食品が、生活習慣病の予防に寄与する様々な保健機能を発揮することを見出した。これらの機能は、飲食品中の還元難消化性デキストリン含量が、難消化性成分として一食当りあるいは一回の摂取当り好ましくは3g以上、より好ましくは4g以上であることにより良好に発揮することができる。飲食物の種類や形態、年齢、性別、体重等の条件により異なるが、一日当たりの還元難消化性デキストリンの摂取量が3g以上、より好ましくは4g以上となるように摂取するのが好ましい。
【0019】
対象となる食品に特に制限はなく、固体又は液体の清涼飲料、酒類、菓子類、油菓子類、農産加工品、冷菓、ベーカリー類、麺類、乳製品、パスタ類、チルドデザート類、調味料、レトルトパウチないし缶詰類、肉加工品、冷凍加工品、水産加工品、佃煮、米菓、スナック食品、ファーストフードを例示することができる。また、還元難消化性デキストリンを含む飲料水も本発明に含まれる。これらは飲食品として摂取すれば本発明の機能を発揮する。さらに、本発明の還元難消化性デキストリンを直接飲食品と共に摂取することによっても本発明の機能を発揮することができる。
本発明の有効成分として、焙焼デキストリンをα−アミラーゼ及びグルコアミラーゼ消化で酵素消化し、次いで水素添加して得られる、難消化性成分の含有量が固形分換算で85〜95重量%であり、難消化性成分の数平均分子量が2000である還元難消化性デキストリンを使用するのが特に好ましい。本発明では、このようにして得られる還元難消化性デキストリンを飲食品に添加して、既述の機能を飲食品に付与した機能性食品を得ることができる。本発明ではまた、該有効成分を、飲食品用整腸剤;飲食品用血糖値調整剤、特に飲食品用食後血糖値上昇抑制剤;飲食品用耐糖能維持改善剤;飲食品用体脂肪調整剤又は飲食品用血清脂質調整剤として利用するのが好ましい。このうち、飲食品用体脂肪調整剤が最も好ましい。
これらの機能は公知の方法によって評価することができる。以下それらについて、実験例により説明する。
【0020】
〔実験例1〕
食後血糖上昇抑制作用
健常成人男女10名を対象に、食事負荷試験を行った。まず、4時間以上絶食した被験者の試験開始前血糖値を、自己血糖測定装置(デキスターZII:バイエル メディカル社製)を用いて測定した。その後、負荷食として親子丼211g(江崎グリコ(株)製、商品名:DONBURI亭 京都親子丼、栄養成分:エネルギー150キロカロリー、たんぱく質13.8g、脂質4.8g、炭水化物13.2g、ナトリウム1402mg)および米飯300g(佐藤食品工業(株)製、商品名:サトウのごはん、栄養成分:エネルギー453キロカロリー、たんぱく質6.9g、脂質1.8g、炭水化物102g、ナトリウム9mg)、しば漬8g((株)新進製、栄養成分:エネルギー4キロカロリー、たんぱく質0.2g、脂質0.1g、炭水化物0.6g、ナトリウム0.152mg)を被検物質と共に10分前後で摂取させ、摂取後30、60、120分後に血糖値を測定した。被験物質は(1)茶飲料(コントロール)、(2)コントロールに還元難消化性デキストリンを難消化性成分として5g添加した茶飲料(還元難消化性デキストリン)、(3)コントロールに還元していない難消化性デキストリンを難消化性成分として5g添加した茶飲料(難消化性デキストリン)の3種類とした。摂取の順序はランダムにし、被験者にとって区別がつかないようにしてクロスオーバーで摂取試験を実施した。実験結果はすべて平均値±標準偏差で示し、また有意差検定はコントロールに対して対応のあるt−検定をそれぞれ行い、両側検定で有意水準を危険率5%とした。
その結果、いずれの被験物質摂取においても食後30分後に血糖値が最も高くなり、その後低下するパターンであったが、コントロール摂取の平均30分値166.4mg/dLに対して、還元難消化性デキストリン摂取の平均30分値は153.2mg/dL、難消化性デキストリン添加茶飲料摂取の平均30分値は155.1mg/dLであり、それぞれコントロール摂取と比較して有意な低値を示し、食後血糖上昇抑制効果が確認できた(図1)。
【0021】
〔実験例2〕
整腸作用、耐糖能維持改善作用、体脂肪調整作用、血清脂質(血清総コレステロール、血清中性脂肪)調整作用
生後3週齢のSprague-Dawley系雄性ラット(Jcl.SD:日本クレア)18匹をショ糖64.75%、カゼイン25%、コーン油5%、ミネラル混合物(MM-2)4%、ビタミン混合物(Haeper)1%、塩化コリン0.2%およびビタミンE0.05%からなる合成粉末飼料(以下高ショ糖食と略す)で2週間予備飼育後、各群6匹で3群に分け、I 群は高ショ糖食(以下高ショ糖食群)、IIおよびIII群は高ショ糖食95%に還元難消化性デキストリン及び難消化性デキストリンをそれぞれ5%添加(以下還元難消化性デキストリン群および難消化性デキストリン群)した飼料を8週間与えた。また、3週齢より長期飼育用の固形飼料(CE-2:日本クレア)で2週間予備飼育後、そのまま固形飼料を8週間給餌した正常食群(6匹)を正常対照とした。
【0022】
8週間の飼育期間終了後、還元難消化性デキストリンの整腸作用、耐糖能維持改善作用、体脂肪調整作用、血清脂質(血清総コレステロール、血清中性脂肪)調整作用を評価するため、すべてのラットに対して以下の計測を行った。
(1)2日間に排泄された糞便をすべて採取し、2日間の排便量を測定した。
(2)耐糖能を評価するため、16時間以上絶食した後、kg体重当りマルトデキストリン0.75gを水溶液として経口投与する経口糖負荷試験を行った。投与前、投与30分、60分および120分後に無麻酔下で尾静脈より血液を採取し、自己血糖測定装置(デキスターZII:バイエル メディカル社製)を用いて血糖値を測定した。
(3)エーテル麻酔下で腹部大動脈より脱血屠殺し、精巣周囲の脂肪、腸管周囲の脂肪、腹腔内の脂肪を計測した。
(4)解剖時に腹部大動脈より採取した血液を遠心分離し、血清中の総コレステロール値および中性脂肪値を測定した。
【0023】
高ショ糖食は、飼料中に食物繊維を含まないため、便の量が減り(平均便量0.9g)、正常食群の平均便量9.2gと比較して有意な減少が認められた。還元難消化性デキストリン群の平均便量は2.8gであり、正常食の便量には劣るものの、高ショ糖食群と比較すると高値を示し、整腸作用が期待できた(図2)。
さらに、高ショ糖食は食物繊維を含まず、単純糖質であるショ糖を主成分とするため、長期間摂取すると耐糖能が悪化し、血清脂質の上昇、体脂肪の蓄積が認められ、食生活の乱れを原因とする生活習慣病に近い病態となることが報告されている。本実験においても高ショ糖食群は正常食群と比較して顕著な耐糖能の悪化、血清脂質値の上昇、体脂肪の蓄積が認められている。
【0024】
図3に各群の糖質負荷後の血糖曲線を示す。正常食群の血糖曲線(30分値144.8mg/dL、60分値142.1mg/dL、120分値103.9mg/dL)に対して高ショ糖食群の血糖曲線(30分値184.3mg/dL、60分値165.9mg/dL、120分値117.1mg/dL)はいずれの測定値も有意に高く、顕著な耐糖能の悪化が認められた。一方、還元難消化性デキストリン群の血糖値は30値147.3mg/dL、60分値149.8mg/dL、120分値109.4mg/dLであり、いずれの時間においても高ショ糖食群と比較して有意に低く、耐糖能の悪化が是正されており、正常食群の耐糖能と差が認められなかった。
図4に血清総コレステロール値(図4a)及び中性脂肪値(図4b)の結果を示す。血清脂質値についても高ショ糖食群の血清脂質値(総コレステロール値:91.3mg/dL、中性脂肪値:144.3mg/dL)は正常食群の血清脂質値(総コレステロール値:62.4mg/dL、中性脂肪値:63.1mg/dL)と比較して有意に上昇した。しかし、還元難消化性デキストリン群の血清脂質値は(総コレステロール値:68.6mg/dL、中性脂肪値:86.7mg/dL)高ショ糖食よりも有意に低値であり、正常食と有意な差が認められなかった。
体脂肪に及ぼす影響については、精巣周囲(図5a)、腸管周囲(図5b)、腹腔内(図5c)の3箇所の脂肪量を計測した結果、いずれの箇所においても正常食群と比較して高ショ糖食群は有意に高値を示し、体脂肪の蓄積が認められた。一方、還元難消化性デキストリン群はいずれの箇所においても高ショ糖食と比較して有意な低値を示し、体脂肪の蓄積を抑制する効果が認められた。
次に、保健機能を付与又は強化した食品の配合の実施例を示す。なお、還元難消化性デキストリンとして、実施例2〜11ではファイバーソル2Hを使用し、実施例1及び12ではファイバーソル2HLを使用した。
【実施例1】
【0025】
表1の処方に従って炭酸飲料(5食分)を製造した。
【0026】
【表1】

【実施例2】
【0027】
表2の処方に従ってゼリー(2食分)を製造した。



【0028】
【表2】

【実施例3】
【0029】
表3の処方に従い、粉末寒天に加水、加熱溶解した後、砂糖、還元難消化性デキストリンを加えて溶解、沸騰させ、赤生あんを加えて所定量まで煮詰め、100g分を分注して冷却凝固させて水羊羹(1食分)を製造した。
【0030】
【表3】

【実施例4】
【0031】
表4の処方に従い、常法によりクッキー(5〜10食分)を製造した。
【0032】
【表4】

【実施例5】
【0033】
表5の処方に従い、卵白のみでホイップした後、残りの成分を加えて混合して生地を作り、180℃のオーブンで50分焼き上げてカステラ(2〜3食分)を製造した。
【0034】
【表5】

【実施例6】
【0035】
表6の処方に従い、ビターチョコレートとカカオバターを溶解してレシチン以外の成分を練り込み、ローラーミルでリファイニングを行った後、レシチンを添加してテンパリングを行ってチョコレート(2〜3食分)を製造した。
【0036】
【表6】

【実施例7】
【0037】
表7の処方に従って、全材料を混合、撹拌して充分泡立てた後、ケーキ型に入れて、180℃で30分焼き上げてスポンジケーキ(2〜3食分)を製造した。
【0038】
【表7】

【実施例8】
【0039】
表8の処方に従い、全卵に砂糖と還元難消化性デキストリンを溶解した後、牛乳とフレーバーを加えて撹拌し、160℃で30分焼き上げてプリン(1〜2食分)を製造した。
【0040】
【表8】

【実施例9】
【0041】
表9の処方に従い、全量を混合し、80℃で加熱溶解し、ホモジナイズした後24時間エイジングし、−40℃に冷却してアイスクリーム(1食分)を製造した。




【0042】
【表9】

【実施例10】
【0043】
表10の処方に従い、全原料を混合し、生イチゴをすりつぶしながらホーロー鍋で82℃で煮詰めてイチゴジャム(5食分)を製造した。
【0044】
【表10】

【実施例11】
【0045】
表11の処方に従い、炊飯米を調製した。炊飯前重量は295.5gであったが、炊飯後に264.59gとなり、炊飯米180g(一食分)当りの還元難消化性デキストリン含量は5.094重量%となる。
【0046】
【表11】

【実施例12】
【0047】
表12の処方に従い、甘味料(4〜5食分)を調製した。
【0048】
【表12】

【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、健常人を対象に、摂食時に還元難消化性デキストリンを摂取した場合と摂取しない場合の食後血糖値の変化を比較したグラフである。
【図2】図2は、還元難消化性デキストリンを含む高ショ糖食で8週間飼育したラットの排便量(2日間)を、高ショ糖食のみ、あるいは正常食と比較したグラフである。
【図3】図3は、還元難消化性デキストリンを含む高ショ糖食で8週間飼育した後、16時間絶食したラットの糖負荷後の血糖値を、還元難消化性デキストリンを含まない高ショ糖食あるいは正常食で飼育した場合と比較したグラフである。
【図4】図4は、還元難消化性デキストリンを含む高ショ糖食で8週間飼育したラットの血清総コレステロール値(図4a)及び血清中性脂肪値(図4b)を、還元難消化性デキストリンを含まない高ショ糖食あるいは正常食で飼育した場合と比較したグラフである。
【図5】図5は、還元難消化性デキストリンを含む高ショ糖食で8週間飼育したラットの精巣周囲(図5a)、腸管周囲(図5b)及び腹腔内(図5c)の脂肪量を、還元難消化性デキストリンを含まない高ショ糖食あるいは正常食で飼育した場合と比較したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙焼デキストリンを酵素消化し、次いで水素添加して得られる還元難消化性デキストリンを有効成分として含有する体脂肪調整剤。
【請求項2】
前記還元難消化性デキストリンを、一食当り、難消化性成分換算で3g以上の量で含有する請求項1記載の体脂肪調整剤。
【請求項3】
酵素消化が、α−アミラーゼ消化又はα−アミラーゼ及びグルコアミラーゼ消化である請求項1又は2記載の体脂肪調整剤。
【請求項4】
還元難消化性デキストリンの重量を基準として、難消化性成分の含有量が固形分換算で45重量%以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の体脂肪調整剤。
【請求項5】
還元難消化性デキストリンの難消化性成分の数平均分子量が1000〜3000である請求項1〜4のいずれか1項に記載の体脂肪調整剤。
【請求項6】
焙焼デキストリンを酵素消化し、次いで水素添加して得られる還元難消化性デキストリンを有効成分として含有する耐糖能維持改善剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−291136(P2007−291136A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198946(P2007−198946)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【分割の表示】特願2004−110159(P2004−110159)の分割
【原出願日】平成16年4月2日(2004.4.2)
【出願人】(000188227)松谷化学工業株式会社 (102)
【Fターム(参考)】