説明

部分放電検出方法及び部分放電検出器具

【課題】路上機器の配電線系統切替用のモールド開閉器から過去に部分放電が発生したか否かを検出できる部分放電検出方法を提供すること
【解決手段】路上機器1の密閉ケース2に内蔵する配電線系統切替用のモールド開閉器4の部分放電検出方法であって、NOxが溶け込む液体20を密閉ケース2内に配備し、液体20中から硝酸濃度と亜硝酸濃度の少なくとも一方を分析して、部分放電の発生の有無を検出する部分放電検出方法。密閉ケース2内に付着した結露水から、硝酸濃度と亜硝酸濃度の少なくとも一方を分析して、部分放電の発生の有無を検出しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中配電線の系統切替用のモールド開閉器から部分放電が過去に発生したことを検出することのできる方法及び器具に関する。
【背景技術】
【0002】
配電線を地中に敷設してある箇所では、配電線の系統切替のため、路上機器が設置されている。路上機器は、密閉ケース内にモールド開閉器を複数まとめて収容してあり、密閉ケース及びモールド開閉器には水浸入防止用にパッキンが施されている。というのも、水分がモールド開閉器内部に浸入すると、部分放電が発生し、硝酸等の劣化促進物質が生成され、絶縁抵抗が低下し、最終的に絶縁破壊から停電に至るからである。水分がモールド開閉器内部に浸入する仕組みは、以下のように考えられている。梅雨期や、降雪地域の冬期には、密閉ケース内部に結露が発生する。また、モールド開閉器への通電量は変化するものであり、通電量の変化に伴ってモールド開閉器の温度変化が生じ、パッキンが劣化している場合には温度変化に伴う呼吸作用により結露の水分がモールド開閉器内部に浸入するのである。
【0003】
停電に至る絶縁低下を確実に防ぐためには、モールド開閉器を実際に開いて内部を点検し、劣化状況(電極や炭素の付着具合)に応じて部品を交換等すれば良いが、開くと停電が生じるので、部品を交換等しない場合にはたとえ点検のためとは言えどもモールド開閉器を開くことは避けたいのが現状である。
【0004】
そこで、モールド開閉器を開かなくても部分放電が発生していることを検出できる方法が、特許出願されている(特許文献1)。ところで、部分放電は間欠的に発生するものであり、過去に発生していても、現在(点検時に)も部分放電が発生しているとは限らないという特質がある。このうち上述した検出方法は、現在、発生している部分放電については検出できるが、過去に発生した部分放電については検出できない。
【特許文献1】特開2004−61358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
請求項1,2の発明は上記実情を考慮して開発されたもので、その目的は、過去に部分放電が発生したか否かを検出できる部分放電検出方法を提供することである。
【0006】
また、請求項3以下の発明の目的は、検出感度を向上すると共に、部分放電の発生の有無だけでなく、モールド開閉器の劣化状況を把握できる部分放電検出方法及び検出器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は、部分放電の際には硝酸及び亜硝酸が生成されることに着目し、これら成分を検出できれば過去に部分放電が発生したか否かを検出できると考えた。これら成分は、部分放電によって生じたNOxが水に溶け込むことによって生成される。そして、本来であれば水の浸入を防いでいる密閉ケース内に、液体を積極的に配備すれば、液体にNOxを溶け込ませ、液体中の硝酸や亜硝酸を分析することができると考えた。また、液体を配備しなくても、密閉ケース内に結露水が付着していれば、その結露水から硝酸や亜硝酸を分析することができると考えた。
【0008】
請求項1の発明は、路上機器の密閉ケースに内蔵する配電線系統切替用のモールド開閉器の部分放電検出方法であって、NOxが溶け込む液体を密閉ケース内に配備し、液体中から硝酸濃度と亜硝酸濃度の少なくとも一方を分析して、部分放電の発生の有無を検出することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、密閉ケース内に付着した結露水から、硝酸濃度と亜硝酸濃度の少なくとも一方を分析して、部分放電の発生の有無を検出することを特徴とする。
【0010】
また、部分放電が微小な場合や発生直後の場合には、液体に対するNOxの溶け込み量が少なく、部分放電の発生を見過ごすおそれもある。また、部分放電の発生の有無だけでなく、モールド開閉器の劣化状況を把握できることが望ましい。劣化状況を代表する値としては、部分放電電荷量の積分値が例示でき、これは密閉ケース内のNOx濃度と考えても良い。従って、NOx濃度を把握しやすくするには、液体中の硝酸及び亜硝酸の検出感度を向上させることが望ましい。
【0011】
NOxは空気よりも重いので、液体にNOxを溶け込みやすくするには、液体を密閉ケース内に配備する箇所を、NOx発生源である開閉器よりも下側にすることが望ましい。分析用の結露水を取る箇所も、同様の理由から開閉器よりも下側であることが望ましい。
【0012】
上記原理を利用したものが請求項3の発明である。即ち、密閉ケースはその内部を上下に仕切る仕切板を有し、仕切板の上にモールド開閉器を有するものであって、NOxが溶け込む液体を配備する箇所を、仕切板よりも下側にしてあることを特徴とする。
【0013】
液体を密閉ケース内に配備したとしても、ある程度の期間放置しておけば、蒸発気化して、配備当初よりも液量が減る。液量の減り具合は路上機器の設置条件やその他の条件によって影響を受ける。従って、液体の硝酸及び亜硝酸濃度を検出して、検出濃度からモールド開閉器の劣化状況を把握する場合、液量が当初よりも減っていれば、その分を加味して検出濃度を補正することが望ましい。できるだけ補正せずに検出濃度から劣化状況を把握するには、液体の配備当初から液量は維持されていることが、望ましい。また、液体に水を用いた場合、水にNOx(特にNO)は溶け込み難いので、溶け込み易くすることが望ましい。それには、請求項4の発明のようにする。即ち、上部に開口部を有する容器内に液体を収容し、水に塩化カルシウムを混合したものを液体に用い、酸化剤を内部に封入したパックで開口部を塞ぎ、パックを通じて気体が容器の内外に出入りすることを特徴とする部分放電検出器具である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、密閉ケース内の液体や結露水を利用するので、外気のNOxの影響を受けることなく、過去に部分放電が発生したか否かを検出できる。そして、過去の部分放電無しと検出された場合には、モールド開閉器の密閉が維持されているとして安心して使用できるし、部分放電有りと検出された場合には、路上機器内のモールド開閉器の密閉が不十分であったとして、モールド開閉器の密閉用部品を交換する等の処置を取ることが出来る。
【0015】
請求項2の発明のように結露水を利用する場合は、請求項1の発明とは違って液体を密閉ケース内に配備しなくてもよいので、簡便である。
【0016】
請求項3の発明であれば、部分放電の発生原因であるモールド開閉器よりも下側に、液体を配備してあるので、部分放電によって生成されたNOxが自然と下降していき、液体にNOxが溶け込み易くなり、検出感度を向上できる。また、検出感度の向上から、モールド開閉器の劣化状況も把握しやすくなる。
【0017】
請求項4の発明であれば、酸化剤によってNOがNO2となって水に溶け込み易くなるので、水中の硝酸及び亜硝酸の検出感度を向上でき、また、塩化カルシウムによって水の蒸発気化を抑制しているので、液量の減り具合と検出濃度との関係を補正する量を少なくでき、劣化状況を把握する精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
路上機器1は図1(イ)、(ロ)に示すように、密閉ケース2内を上下に仕切る仕切板3を備え、仕切板3の上にモールド開閉器4を複数(図では3つ)有し、密閉ケース2の底から配電線5を貫通し、その配電線5を仕切板3の下からモールド開閉器4に接続してある。そして、密閉ケース2の底にNOx吸収手段6、即ち部分放電検出器具を置いてある。
【0019】
密閉ケース2は、前面が開放されたケース本体7に扉8を開閉可能に設けたもので、閉じた扉8とケース本体7の間にはパッキン9を介在しており、密閉ケース2内への水分の浸入を防いである。また、密閉ケース2内において仕切板3の上下は空気が出入り可能な連通部10を有するもので、仕切板3上のモールド開閉器4で発生した部分放電により生じたNOxが、連通部10を経て仕切板3の下方に導かれる。
【0020】
モールド開閉器4は図1(ロ)に示すように、開閉器部22を縦(図の左右方向)に3つ有するもので、各開閉器部22は図3の結線図に示すように3つの開閉器部22の導通を図る側の接点23と、配電線側の接点24とを開閉するものである。
【0021】
開閉器部22は図2(イ)、(ロ)に示すように、仕切板3に固定する固定部11と、固定部11に対して開閉可能に設けた蓋部12とからなり、固定部11に蓋部12を被せて内部を密閉するものである。固定部11は、絶縁樹脂製の有底筒型の下筒13を横に2列に並列し、下筒13内には配電線側の電極14を配置し、下筒13下部の周囲を取り囲むパッキン15を、仕切板3上に止めてある。一方、蓋部12は、横方向に並んだ2個の下筒13を覆う蓋本体16と、左右の下筒13を仕切る区画壁17と、区画壁17を蓋本体16の天井の横幅中央部に止める支持層18と、支持層18内に通すコ字状の短絡電極19と、からなる。このような開閉器部22が図1(ロ)に示すように縦方向に3つ並んでおり、3つの開閉器部22の蓋部12を連結金物25で一体化し、図示しない開閉用のレバー機構を用いて3つの蓋部12をまとめて開閉する。そして、蓋部12を閉めると、パッキン15を蓋本体16と区画壁17が押圧して内部が密閉されると共に、蓋部12のコ字状の短絡電極19に固定部11の左右の下筒13の電極14が嵌り合って系統が接続される。なお、系統を切り離す場合は、コ字状の電極が入っていない蓋部12を固定部11に被せる。
【0022】
NOx吸収手段(部分放電検出器具)6は、NOxを吸収できる液体20を容器21内に入れたもので、シャーレにトリエタノールアミンを入れ容器の開口部を透湿紙で密封したものが例示でき、NOx中の成分がトリエタノールアミンと反応して硝酸塩や亜硝酸塩となる。この場合に硝酸塩や亜硝酸塩を検出するには、専用の試験紙や、試験液(試薬)を使用する。そして、作業者が、シャーレ内の液体に試験紙等を漬け、その色を見て硝酸塩及び亜硝酸塩の濃度を分析する。部分放電が発生した場合と、発生していない場合では、明らかにその色が異なるので、これによって部分放電が過去に発生したことを検出できる。
【0023】
さらに、NOx吸収手段6の別の例として、容器内の上部には塩化カルシウム等の吸湿剤を保有し、吸湿剤で吸収しきれない水分を容器内の下部に溜めるもの、具体的な一例としては、東京都文京区を本社とするオカモト株式会社が製造販売する商品名、水とりぞうさん(登録商標)を用いても良い。この場合は、部分放電の原因となる密閉ケース内の空気中の水分除去の効果も併せて期待できる。
【0024】
NOx吸収手段6の他の例としては、図4に示すように酸化剤26を内部に封入したパック27で、容器21の上面の開口部28を塞いだものが挙げられる。また、容器21は、NOxと液体20との接触面積を増やすために、末広がりの円錐状の脚部29の上に漏斗状の器部30を連続した形状とした方が,NOx吸収効率が上がる。パック27は気体が通過する生地で作られた平べったい袋であって、その内部に酸化剤26を封入してある。生地としては、カイロ(鉄粉、塩等を紙状の生地に封入し酸化作用によって暖をとるもの)用の生地が例示できる。酸化剤としては、例えば二酸化マンガンが挙げられる。酸化剤を用いたのは、液体に水を用いた場合、NOxのうちNOは水に溶けにくいので、酸化させてNO2にして水に溶けやすくし、硝酸や亜硝酸を検出しやすくするためである。このため、酸化剤には、NOをNO2に酸化する酸化力を有しつつ、また、取扱いが容易なことが求められる。これに適する酸化剤の一例として前述の二酸化マンガンがある。同様の理由で図5に示すように、密閉ケース2内における、容器21の設置箇所よりも上側に、酸化剤を封入したパック27を設置しておけば、硝酸や亜硝酸を検出しやすくなる。設置の仕方としては、仕切板3の上に置いたり、密閉ケース2の内面に貼り付けることが例示できる。また、容器21内に入れる液体20の別例としては、水(純水)に塩化カルシウムを混ぜたものが挙げられる。塩化カルシウムによって水の蒸発を防いでいる。
【0025】
NOx吸収手段6を用いずに密閉ケース2内に付着した結露水から硝酸や亜硝酸を検出するには、結露水を専用の試験紙や、試験液(試薬)に漬けて検出する。
【0026】
なお、硝酸や亜硝酸濃度を遠隔地で確認できる自動確認システムを構築すれば、部分放電が過去に発生したことを確認でき、その確認した場合のみ路上機器1のモールド開閉器4を点検等すれば、無駄な点検を省け、効率が良くなる。自動確認システムの一例としては、電源を確保できる箇所において密閉ケース内に測定器を設置し、その電源を利用して測定器を作動させて硝酸や亜硝酸濃度を自動的に測定し、その測定結果を直接、通信媒体を用いて遠隔地の監視箇所のホストコンピュータに送信し、ホストコンピュータで検出結果の濃度が一定レベルを超えるか否かを判断するシステムが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(イ)、(ロ)図は、本発明の部分放電検出方法を示す正面方向の断面図、側面方向の断面図である。
【図2】(イ)、(ロ)図は、モールド開閉器の蓋部の閉状態、開状態を示す断面図である。
【図3】モールド開閉器の結線図である。
【図4】部分放電検出器具を部分的に切り欠いて示す斜視図である。
【図5】酸化剤を封入したパックの使用例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 路上機器
2 密閉ケース
3 仕切板
4 モールド開閉器
20 液体
21 容器
26 酸化剤
27 パック
28 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
路上機器(1)の密閉ケース(2)に内蔵する配電線系統切替用のモールド開閉器(4)の部分放電検出方法であって、
NOxが溶け込む液体(20)を密閉ケース(2)内に配備し、液体(20)中から硝酸濃度と亜硝酸濃度の少なくとも一方を分析して、部分放電の発生の有無を検出する部分放電検出方法。
【請求項2】
路上機器(1)の密閉ケース(2)に内蔵する配電線系統切替用のモールド開閉器(4)の部分放電検出方法であって、
密閉ケース(2)内に付着した結露水から、硝酸濃度と亜硝酸濃度の少なくとも一方を分析して、部分放電の発生の有無を検出する部分放電検出方法。
【請求項3】
密閉ケース(2)はその内部を上下に仕切る仕切板(3)を有し、仕切板(3)の上にモールド開閉器(4)を有するものであって、
NOxが溶け込む液体(20)を配備する箇所を、仕切板(3)よりも下側にしてあることを特徴とする請求項1記載の部分放電検出方法。
【請求項4】
上部に開口部(28)を有する容器(21)内に液体(20)を収容し、水に塩化カルシウムを混合したものを液体(20)に用い、酸化剤(26)を内部に封入したパック(27)で開口部(28)を塞ぎ、パック(27)を通じて気体が容器(21)の内外に出入りすることを特徴とする部分放電検出器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−180685(P2006−180685A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259189(P2005−259189)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000242644)北陸電力株式会社 (112)
【Fターム(参考)】