説明

部分異色繊維織編布帛

【課題】 ネップヤーンのように色彩領域の区切れ目がハッキリし、又、スペースダイのように異色の色彩領域が長く連続して大きく色分けされた模様を、部分異色糸によって織編布帛の表面に描出する。
【解決手段】 短繊維のスライバーによって構成され、糸条の長さ方向に2cm以上連続する毎に色彩が変化しており、その変化する色彩の区切れ目11において前後する一方の色彩領域Aの短繊維12Aと他方の色彩領域Bとの短繊維12Bとの二種類の短繊維が区切れ目11に混在し、その区切れ目11に混在する二種類の短繊維それぞれの色彩が、それぞれの短繊維の全長にわたって同色である部分異色を織編布帛に使用する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、部分異色糸を使用した織物や編物(以下、部分異色繊維織編布帛と言う。)、特に、部分異色糸をパイル糸に使用したタフテッドパイル布帛、パイル編物、パイル織物、タオル等の部分異色繊維パイル布帛に関するものである。
【0002】
【従来の技術】織物や編物(以下、織編布帛と言う。)に模様を描出する手段として、長さ方向にそって異色に色分けされた部分異色糸を織編布帛に使用する方法がある。部分異色糸としては、スペースダイ糸とネップヤーンが知られている。スペースダイ糸は、通常『スペースダイ』と称され、糸条に部分的に異色の染料を付与し染め分けてつくられる。ネップヤーンは、繊維が毛玉状に絡まった塊(ネップ)を、紡績工程の原綿に混合し、或いは、短繊維スライバーに間欠的に付着させ、或いは又、撚糸工程の糸条に間欠的に供給して部分的に絡み付かせてつくられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】スペースダイでは、色彩が変わる区切れ目が、その区切れ目に前後する2つの色彩領域の色彩の混合色となり、それらの色彩領域に色分けされてパイル面に描出される模様の形際は、色彩がハッキリせず不鮮明なものとなる。ネップヤーンは、その母体となる紡績糸と、それに絡み付いているネップが異色に染め分けられているので、異色部分の区切れ目がハッキリし、それをパイル糸に用いると、異色差がハッキリして清楚な印象を与える模様がパイル面に描出される。しかしネップヤーンでは、異色部分を構成するネップが短繊維スライバーや糸条に絡み付く程度の細かい繊維塊なので、そのネップが構成する色彩領域は短い。そして、パイル布帛では、その1個のパイルを形成するに必要なパイル糸の長さが概して2cm前後なので、ネップによる色彩領域は1個のパイルとして点状にしかパイル面に現われず、ネップヤーンによってパイル面に描出される模様は、霜降模様や杢模様と言った無地調の単純なものとなる。
【0004】
【発明の目的】そこで本発明は、ネップヤーンのように色彩領域の区切れ目がハッキリし、又、スペースダイのように異色の色彩領域が長く連続して大きく色分された模様をパイル面に描出することも出来る部分異色糸を得ることを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明に係る織編布帛を構成する部分異色糸は、短繊維のスライバーによって構成され、糸条の長さ方向に2cm以上連続する毎に色彩が変化しており、その変化する色彩の区切れ目11において前後する一方の色彩領域Aの短繊維12Aと他方の色彩領域Bの短繊維12Bとの二種類の短繊維が区切れ目11に混在し、その区切れ目11に混在する二種類の短繊維それぞれの色彩が、それぞれの短繊維の全長にわたって同色であることを第1の特徴とする。
【0006】本発明に係る部分異色糸の第2の特徴は、上記第1の特徴に加え、短繊維のスライバーを加撚し結束して部分異色糸を実撚紡績糸としたことにある。
【0007】本発明に係る部分異色糸の第3の特徴は、上記第1および第2の何れかの特徴に加え、短繊維のスライバーに、そのスライバーの総デニールの10分の1以下の太さの捲糸を捲き付けて結束(ラッピング)して部分異色糸を無撚結束紡績糸としたことにある。
【0008】本発明に係る部分異色糸の第4の特徴は、上記第1、第2および第3の何れかの特徴に加え、短繊維のスライバーに、そのスライバーの総デニールの10分の1以下の太さの軸糸を引き揃え、巻糸によって短繊維のスライバーと軸糸を結束(ラッピング)したことにある。
【0009】本発明に部分異色繊維パイル布帛14は、3種類以上の色彩領域AとBとCに色分けされた上記第1、第2、第3および第4の何れかの特徴を有する部分異色糸Xと、そのパイル糸Xの中の何れか2種類の色彩領域AとBに色分けされた上記第1、第2、第3および第4の何れかの特徴を有する部分異色糸Yと、それらの部分異色糸XとYが共有する何れか1種類の色彩Aに着色された短繊維のスライバーによって構成された部分異色糸Zとの3種類の部分異色糸によってパイル面が構成されており、パイル面の左右両端部Lが上記の部分異色糸Zによって構成され、その左右両端部Lに続くパイル面の左右両側部Mが上記の部分異色糸Yによって構成されており、その左右両側部M・Mに挟まれるパイル面の中央部Nが上記の部分異色糸Xによって構成されており、これらの3種類の部分異色糸X・Y・Zが共有する色彩領域Aがパイル面の四方を囲む外枠Uを形成し、その中の2種類の部分異色糸X・Yの共有する色彩領域Bが上記の外枠Uに続くパイル面の内側に内枠Tを形成し、上記の2種類の部分異色糸Y・Zが有しない部分異色糸Xの色彩領域Cが内枠Tに囲まれるパイル面の中心部Sを形成していることを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明において“色彩領域”とは、同じ色彩でパイル糸の長さ方向に連続する部分を意味する。本発明の部分異色糸は、色彩領域の区切れ目11において前後する一方の色彩領域Aの短繊維12Aと他方の色彩領域Bの短繊維12Bとの二種類の短繊維が区切れ目11に混在し、且つ、その区切れ目11に混在する二種類の短繊維それぞれの色彩が、それぞれの短繊維の全長にわたって同色であることを特徴とするものであり、異色数種の糸条の端々を結んだり接着して繋ぎ合わせたものとは異なる。
【0011】そのように、色彩領域の区切れ目11において前後する一方の色彩領域Aの短繊維12Aと他方の色彩領域Bの短繊維12Bとの二種類の短繊維(12A・12B)を区切れ目11に混在させ、且つ、その区切れ目11に混在する二種類の短繊維(12A・12B)それぞれの色彩が全長にわたって同色になるようにするには、紡績工程の練条工程や粗紡工程を経たスライバー15を加撚、或いは、捲糸を捲き付けて結束してスピンドル16に巻き取る加撚工程において、そのスピンドル16にスライバー15を送り出す一対のフロントローラ17のスライバー供給側に、そのローラの軸芯方向に一定の間隔を開けて異色数種のスライバー15A・15B・15Cを配列する一方、その一対のフロントローラを構成する上側ローラ17Aか下側ローラ17Bか何れか一方の周面に、その回転方向に沿って複数条の畝18をリング状に付設し、それらの畝18と畝18の間をスライバー15が遊嵌し得る大きさの溝19とし、且つ、それらのスライバー15A・15B・15Cの配列間隔を畝18と畝18の間隔とは異なるものにし、その畝付きローラ17Bを軸芯方向に振動させるとよい。
【0012】そうすると、振動して何れかの畝(18B)がスライバー(15B)に触れるとき、その触れたスライバー(15B)は、その畝18Bの周面とその畝18Bに向き合う他のローラ17Aの周面との間に挟まれてスピンドル16へと送り出される。そして再び畝付きローラ17Bが振動し、他の何れかの畝18A(18C)が他のスライバー15A(15C)に触れるとき、その触れたスライバー15A(15C)が送り出される。その再び振動するとき、先に送り出されていたスライバー15Bが畝18Bから外れて溝19に嵌まり込み、先に送り出されていたスライバー15Bの送り出しが止まる。このスピンドル16に送り出されるスライバー(15B・15C)が入れ代わると、色彩の変わり目としての区切れ目11が出来る。
【0013】その入れ代わる過程において、先に送り出されていたスライバー15Bは、それが完全に溝19に遊嵌するまでは、引続き送り出される。このため、そのスライバー15Bが完全に溝18に遊嵌するまでに他のスライバー15A(15C)が送り出されるように畝18や溝19の幅(間隔)を設定しておけば、先のスライバー15Aから後のスライバー15A(15C)へと途切れることがなく連続し、その完全に入れ代わるまでの間に出来る区切れ目11には、それらのスライバー15A・15Bの短繊維12A・12Bが混在することになる。スライバー15は、ガイド20を通ってフロントローラ17に供給するとよい。
【0014】この方法では、畝付きローラ17Bを軸芯方向に振動しているが、畝付きローラ17Bを振動させず、スライバー15を畝付きローラ17Bの軸芯方向に振動させてもよい。その場合は、各スライバー15A・15B・15Cを畝18の間隔に合わせて配列し、それぞれ個別に選択的に軸芯方向に移動し、畝19から外れ、溝18に遊嵌し、何れか1本のスライバー(15A・15B・15C)が、畝18に触れるようにしてもよい。この畝付きローラ17Bやガイド20(スライバー)の振動周期はコンピューターによって制禦することが出来、その振動周期に応じて各色彩領域A・B・Cの連続する長さを自由に設定することが出来る。
【0015】例えば図2に図示するように、3種類のパイル糸X・Y・Zが共有する色彩領域Aがパイル面の四方を囲む外枠Uを形成し、その中の2種類のパイル糸X・Yの共有する色彩領域Bが上記の外枠Uに続くパイル面の内側に内枠Tを形成し、上記の2種類のパイル糸Y・Zが有しないパイル糸Xの色彩領域Cが内枠Tに囲まれるパイル面の中心部Sを形成したボーダー柄をパイル面に描出する場合、外枠Uと内枠Tと中心部Sを構成する中央部Nのパイル糸Xでは、その色彩領域Aを中央部Nの外枠Uの長さ(幅)に応じた長さにし、色彩領域Bを中央部Nの内枠Tの長さ(幅)に応じた長さにし、色彩領域Cを中心部S(中央部N)の長さに応じた長さにする。又、外枠Uと内枠Tを構成する両側部Mのパイル糸Yでは、その色彩領域Aを両側部Mの外枠Uの長さに応じた長さにし、色彩領域Bを両側部Mの内枠Tの長さに応じた長さにする。そして外枠Uだけを構成する両端部Lのパイル糸Zには、色彩領域Aだけが連続する無地一色の糸条を使用する。
【0016】尚、図2において矢印21は、パイル糸が連続する方向、即ち、パイル織物(14)では経糸方向を示し、パイル編物(14)ではウエール方向を示し、タフテッドパイル布帛(14)ではステッチ方向を示す。尚又、本発明において“糸条の長さ方向に2cm以上連続する毎に色彩が変化する”とは、本発明の部分異色糸が上記のようにしてつくられるものであり、ネップによって色彩領域が短く出来るネップヤーンとは構成が異なることを意味し、同じ色彩でパイル糸の長さ方向に連続する“色彩領域”の長さを最低でも2cmにしなければならないと言うことを意味するものではない。
【0017】無撚結束紡績方式によって部分異色糸をつくる場合、フロントローラ17から送り出されるスライバー(15)が、捲糸によって結束されるまでの過程において、色彩領域A・B・Cの区切れ目11において破断しないようにするため、フロントローラ17から送り出されるスライバー(15)に軸糸を引き揃える。
【0018】
【発明の効果】本発明(請求項1〜請求項4)に係る部分異色糸では、色彩領域の変わる区切れ目11において前後する一方の色彩領域Aの短繊維12Aと他方の色彩領域Bの短繊維12Bとの二種類の短繊維が混在し、且つ、その区切れ目11に混在する二種類の短繊維それぞれの色彩が短繊維の全長にわたって同色になっているので、その色彩領域を短くして霜降模様や杢模様を描出する場合でも、その霜降模様や杢模様は、それをネップヤーンによって描出した織編布帛とスペースダイによって描出した織編布帛とでは全体の美観が異なって商品価値が異なるように、それらネップヤーンやスペースダイによって描出したものとは微妙に異なる。このため、本発明によると、新規な部分異色繊維織編布帛が得られる。
【0019】本発明(請求項5)に係るパイル布帛14では、色彩領域A・B・Cの長さが製織過程で加わるテンションによって若干変化するので、製織過程の長さ方向における内枠Tと外枠Uの境目22や中心部Sと内枠Tの境目23では、区切れ目に前後する色彩領域が複雑に入り混じったリアス式海岸線状になるが、製織過程の幅方向におけるそれらの境目24・25では、異種類の異色のパイル糸によって色分けされた一直線になり、その縦横の境目22・23と境目24・25の外観上の相異によって、パイル面全体が変化に富み立体感を帯びたものとなる。このように本発明によると新規な部分異色繊維パイル布帛が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る部分異色糸の正面図であり、その一部断面を円で囲んで拡大して図示している。
【図2】本発明に係る部分異色繊維パイル布帛の平面図である。
【符号の説明】
11 区切れ目
12 短繊維
13 パイル糸
14 パイル布帛
15 スライバー
16 スピンドル
17 フロントローラ
18 畝
19 溝
20 ガイド
21 パイル糸の連続方向
22 境目
23 境目
24 境目
25 境目
A 色彩領域
B 色彩領域
C 色彩領域
L 端部
M 側部
N 中央部
S 中心部
T 内枠
U 外枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】 短繊維のスライバーによって構成され、糸条の長さ方向に2cm以上連続する毎に色彩が変化しており、その変化する色彩の区切れ目(11)において前後する一方の色彩領域(A)の短繊維(12A)と他方の色彩領域(B)との短繊維(12B)との二種類の短繊維が区切れ目(11)に混在し、その区切れ目(11)に混在する二種類の短繊維それぞれの色彩が、それぞれの短繊維の全長にわたって同色である部分異色糸によって模様が描出されていることを特徴とする部分異色繊維織編布帛。
【請求項2】 前掲請求項1に記載の部分異色糸が、短繊維のスライバーを加撚し結束した実撚紡績糸であること、を特徴とする前掲請求項1に記載の部分異色繊維織編布帛。
【請求項3】 前掲請求項1に記載の部分異色糸が、短繊維のスライバーに、そのスライバーの総デニールの10分の1以下の太さの捲糸を捲き付けて結束(ラッピング)した無撚結束紡績糸であること、を特徴とする前掲請求項1に記載の部分異色繊維織編布帛。
【請求項4】 前掲請求項3に記載の短繊維のスライバーに、そのスライバーの総デニールの10分の1以下の太さの軸糸が引き揃えられており、巻糸によって短繊維のスライバーと軸糸が結束(ラッピング)されていること、を特徴とする前掲請求項3に記載の部分異色繊維織編布帛。
【請求項5】 3種類以上の色彩領域(AとBとC)に色分けされた前掲請求項1に記載の部分異色糸Xと、その部分異色糸Xの中の何れか2種類の色彩領域(AとB)に色分けされた前掲請求項1に記載された部分異色糸Yと、それらの部分異色糸X・Yが共有する何れか1種類の色彩領域(A)に同色の短繊維のスライバーによって構成された部分異色糸Zとの3種類の糸条がパイル糸に使用されており、、パイル面の左右両端部(L)が上記の部分異色糸Zによって構成され、その左右両端部Lに続く部分異色面の左右両側部Mが上記の部分異色糸Yによって構成されており、その左右両側部(M・M)に挟まれるパイル面の中央部(N)が上記の部分異色糸Xによって構成されており、これらの3種類の部分異色糸X・Y・Zが共有する色彩領域(A)がパイル面の四方を囲む外枠Uを形成し、その中の2種類の部分異色糸X・Yの共有する色彩領域(B)が上記の外枠(U)に続くパイル面の内側に内枠(T)を形成し、上記の2種類の部分異色糸Y・Zが有しない部分異色糸Xの色彩領域(C)が内枠(T)に囲まれるパイル面の中心部(S)を形成していること、を特徴とする部分異色繊維パイル布帛。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【公開番号】特開2000−17542(P2000−17542A)
【公開日】平成12年1月18日(2000.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−192412
【出願日】平成10年6月22日(1998.6.22)
【出願人】(000171399)根来産業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】