説明

部分競合型プローブを用いた標的塩基配列の検出方法

【課題】部分競合型プローブを用いて、高精度かつ高感度に標的塩基配列を検出する方法の提供。
【解決手段】塩基変異部位を有する標的塩基配列を検出する方法であって、標的塩基配列中の塩基変異部位を含有する部分配列を塩基変異含有配列とし、(a)核酸試料に検出型プローブと部分競合型プローブとを添加し、核酸試料中の標的塩基配列を有する標的核酸に、前記検出型プローブと前記部分競合型プローブとをハイブリダイズさせる工程と、(b)工程(a)の後、標的核酸中の塩基変異含有配列からなる部分とハイブリダイズした検出型プローブを検出する工程とを有し、検出型プローブの塩基配列は、標的塩基配列の塩基変異含有配列を含む部分領域と相補的であり、部分競合型プローブの塩基配列は、標的塩基配列の前記塩基変異含有配列を含み前記部分領域は異なる部分領域と、塩基変異部位以外において相補的であり、かつ塩基変異部位において非相補的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩基変異部位を有する標的塩基配列の検出方法に関する。具体的には、標的塩基配列の検出において、部分競合型プローブを用いて、高精度かつ高感度に標的塩基配列を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子工学において重要な基本的手段の一つとして、試料混合物中に存在する特定の塩基配列を有する核酸の検出がある。特定の塩基配列を有する核酸または遺伝子の存在を検出することで、着目する遺伝子の発現を解明して新規創薬が可能となったり、遺伝子組み換えを用いて目的の遺伝子が導入された細胞や個体を選択することが可能になったり、遺伝子診断により病気の原因となるヒトの遺伝子欠陥や変化を検出して、病気の発症前やその初期段階での診断や予測が可能となったりする。
【0003】
このように特定の塩基配列の核酸の検出は、遺伝子工学において広く使用されている基本的な手段であり、たとえば次のような方法が知られている。
検出を目的とする標的塩基配列を有する核酸試料に対して、標的塩基配列と相補的な塩基配列を有する核酸プローブを用意する。細胞等から抽出し、電気泳動を行った標的核酸をプロットし、該標的核酸と前記核酸プローブとをハイブリダイズする。該核酸プローブは、検出可能となるように、あらかじめラジオアイソトープ等により標識をしておき、核酸とハイブリダイズした核酸プローブをオートラジオグラフィーにより検出し、標的塩基配列を有する核酸の存在を確認する。この方法はサザンブロッテイング法と呼ばれ、種々の変形をなされつつ、今なお使用されている(たとえば、非特許文献1(494〜500貢)参照)。
【0004】
また、特に最近の遺伝子診断技術においては、DNAチップ(DNAマイクロアレイ)が特定の塩基配列を有する核酸の検出に使用されている。DNAチップの基板上には、多数の区画が存在し、区画のそれぞれに種々の塩基配列のDNAプローブが固定化され、アレイ状に配置されている。あらかじめ蛍光色素等により標識された被験者由来の核酸試料を、DNAチップに滴下して、ハイブリダイズする。核酸試料中、DNAプローブが有する塩基配列と相補性のある塩基配列を有する核酸は、ハイブリダイズによりDNAチップ上に固定化される。この固定化された核酸を蛍光色素により検出することで、遺伝子診断を行うことができる。この方法では、核酸の調整、競合的ハイブリダイズによる正規化等の種々の変形が行われている(たとえば、非特許文献1(533〜535貢)参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「細胞の分子生物学」第四版、中村桂子・松原謙一監訳、ニュートンプレス刊、2004年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように特定の塩基配列を有する核酸の検出において、特異的な認識を可能にする基本原理として、相補的な塩基配列を有する核酸プローブとのハイブリダイズが、永らく利用されてきている。しかしながら、ハイブリダイズによる特定の塩基配列を有する核酸の検出では、非相補的な塩基配列を有する核酸にもハイブリダイズする場合があり、検出精度は必ずしも十分でない。
また、ハイブリダイズによる検出は、ハイブリダイズにより形成される会合体の熱的安定性の差を利用しているものであり、相補的な塩基対形成によるハイブリダイズも、非相補的な塩基対形成を含むハイブリダイズも、その差は熱的安定性の違いに過ぎない。そのため、適切な検出条件は標的塩基配列によって異なり、さらに、適切な条件下でもなお、熱的安定性を変化させる条件は両者に均等に作用する。よって、ハイブリダイズの熱的安定性の差のみを、両者の区別の原理として使用する限りは、検出の特異性と感度のバランスで妥協して一定のノイズを甘受せざるをえない、という問題点がある。
【0007】
さらに近年では、新規創薬や遺伝子検査のために、一塩基置換した塩基配列を有する核酸の検出が求められている。特に、核酸の塩基変異を検出する技術には、医療診断分野での期待が大きい。そのためには、一塩基のみ相違する配列間を識別して検出しうる程度の特異性と、実用可能な感度(S/N比)とを両立させることが必要となる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、塩基変異部位を有する標的塩基配列を、部分競合型プローブを用いて、高精度かつ高感度に検出する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、標的塩基配列の検出において、簡便かつ効率的に検出できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、標的塩基配列と相補的な塩基配列を有する検出型プローブを用いた検出を、標的塩基配列と塩基変異部位において非相補的な塩基配列を有する部分競合型プローブの存在下で行うことにより、標的塩基配列の検出ノイズが低減され、より高精度かつ高感度に検出しうることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の特徴を有する標的塩基配列の検出方法を提供するものである。
[1]塩基変異部位を有する標的塩基配列を検出する方法であって、
標的塩基配列中の塩基変異部位を含有する部分配列を、塩基変異含有配列とし、
(a)核酸試料に、検出型プローブと、部分競合型プローブとを添加し、
前記核酸試料中の標的塩基配列を有する標的核酸に、前記検出型プローブと、前記部分競合型プローブとをハイブリダイズさせる工程と、
(b)前記工程(a)の後、標的核酸中の塩基変異含有配列からなる部分とハイブリダイズした検出型プローブを検出する工程と、を有し、
前記検出型プローブの塩基配列は、標的塩基配列の塩基変異含有配列を含む部分領域と相補的であり、
前記部分競合型プローブの塩基配列は、標的塩基配列の前記塩基変異含有配列を含み前記部分領域は異なる部分領域と、塩基変異部位以外において相補的であり、かつ、塩基変異部位において非相補的であり、
さらに、下記の(1)または(2)のいずれか一方を充足することを特徴とする、標的塩基配列の検出方法。
(1)前記検出型プローブは、標的核酸と、前記塩基変異含有配列およびその5’端側においてハイブリダイズしうるものであり、前記部分競合型プローブは、標的核酸と、前記塩基変異含有配列およびその3’端側においてハイブリダイズしうるものであること。
(2)前記検出型プローブは、標的核酸と、前記塩基変異含有配列およびその3’端側においてハイブリダイズしうるものであり、前記部分競合型プローブは、標的核酸と、前記塩基変異含有配列およびその5’端側においてハイブリダイズしうるものであること。
[2]前記塩基変異部位が、前記塩基変異含有配列中のいずれの位置にあってもよいことを特徴とする前記[1]の標的塩基配列の検出方法。
[3]前記工程(b)において、標的核酸中の塩基変異含有配列からなる部分とハイブリダイズした検出型プローブを、標識物質を用いて検出することを特徴とする前記[1]または[2]の標的塩基配列の検出方法。
[4]前記標識物質が、蛍光色素であることを特徴とする前記[3]の標的塩基配列の検出方法。
[5]前記工程(b)において、標的核酸と検出型プローブと部分競合型プローブとがハイブリダイズした会合体中の、当該標的核酸中の塩基変異含有配列からなる部分とハイブリダイズした検出型プローブを検出することを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかの標的塩基配列の検出方法。
[6]前記工程(b)において、QP(Quenching Probe/Primer)法、または、FRET法を用いて、標的核酸中の塩基変異含有配列からなる部分とハイブリダイズした検出型プローブを検出することを特徴とする前記[4]または[5]の標的塩基配列の検出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の標的塩基配列の検出方法は、部分競合型プローブを用いて、部分的に競合させる方法であるため、標的核酸とプローブとの非相補的なハイブリダイズを低減し、より高精度かつ高感度に標的塩基配列を検出することができる。このため、本発明の標的塩基配列の検出方法は、一塩基多型等の塩基変異の検出に有用であり、医療診断分野等での利用が可能となる。
さらに、非相補的なハイブリダイズを、部分競合型プローブを添加するだけで、洗浄操作をすることなく抑制することが可能であるため、検出の簡便化および効率化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一塩基変異を有する核酸試料に、検出型プローブと部分競合型プローブとを添加し、標的核酸と両プローブとが存在する状態における会合体形成の模式図である。
【図2】一塩基変異を有する標的核酸における、標的塩基配列(第1型配列)を有する標的核酸(Target1)または第2型配列を有する核酸(Target2)と、検出型プローブ(Probe1)と、部分競合型プローブ(Probe2)とからなる会合体の模式図である。
【図3】挿入変異を有する標的核酸における、標的塩基配列(第1型配列)を有する標的核酸(Target1)または第2型配列を有する核酸(Target2)と、検出型プローブ(Probe1)と、部分競合型プローブ(Probe2)とからなる会合体の模式図である。
【図4】欠失変異を有する標的核酸における、標的塩基配列(第1型配列)を有する標的核酸(Target1)または第2型配列を有する核酸(Target2)と、検出型プローブ(Probe1)と、部分競合型プローブ(Probe2)とからなる会合体の模式図である。
【図5】反復配列変異を有する標的核酸における、標的塩基配列(第1型配列)を有する標的核酸(Target1)または第2型配列を有する核酸(Target2)と、検出型プローブ(Probe1)と、部分競合型プローブ(Probe2)とからなる会合体の模式図である。
【図6】一塩基変異を有する標的核酸における、標的塩基配列(第1型配列)を有する標的核酸(Target1)または第2型配列を有する核酸(Target2)と、検出型プローブ(Probe1)と、部分競合型プローブ(Probe2)とからなる会合体を、FRET法を用いて検出する際の模式図である。
【図7】実施例1において、検出型プローブ(変異型)を用いた場合の、温度変化にともなう検出結果を示した図である。
【図8】実施例2において、検出型プローブ(野生型)を用いた場合の、温度変化にともなう検出結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の標的塩基配列の検出方法は、塩基変異部位を有する標的塩基配列を検出する方法である。
【0014】
本発明において、塩基変異とは、同一の生物種、または同一の個体において、1以上の塩基配列に相違部位があることをいい、本発明においては、標的塩基配列中の当該相違部位を塩基変異部位という。塩基変異としては、たとえば、一塩基多型(SNP)、挿入変異、欠失変異、反復配列変異等が挙げられる。
また、本発明において、塩基変異検出部位とは、検出型プローブまたは部分競合型プローブの塩基配列中で、標的塩基配列中の塩基変異部位と、塩基対を形成する部位をいう。
【0015】
本発明において、標的塩基配列を検出するとは、核酸試料中に含まれている核酸の塩基配列が、標的塩基配列と同一の塩基配列であるか否かを検出することをいう。
【0016】
核酸試料中の核酸とは、DNAまたはRNAであれば特に限定されず、天然のものであっても合成されたものであってもよい。天然の核酸としては、たとえば、生物から回収されたゲノムDNA、mRNA、rRNA、hnRNA等がある。また、合成された核酸として、β−シアノエチルホスフォロアミダイト法、DNA固相合成法等の公知の化学的合成法により合成されたDNAや、PCR等の公知の核酸合成法により合成された核酸、逆転写反応により合成されたcDNA等がある。
本明細書中において、標的塩基配列を有する核酸を「標的核酸」という。
【0017】
核酸試料とは、核酸を含有する試料であれば、特に限定されるものではなく、動物、植物、微生物、培養細胞等から核酸を抽出したサンプルであることが好ましい。動物等からの核酸の抽出は、フェノール/クロロホルム法等の公知の手法により行うことができる。
なお、核酸試料中に含有される核酸が、二本鎖核酸である場合、あらかじめ一本鎖核酸にしておくことが好ましい。一本鎖核酸を用いることにより、後述する工程(a)において、該一本鎖核酸に、検出型プローブと部分競合型プローブとをハイブリダイズさせることができる。抽出された二本鎖核酸の一本鎖化は、熱エネルギーを加える等の公知の手法により行うことができる。
【0018】
標的塩基配列は、塩基変異部位を含有し、かつ、ハイブリダイゼーション法により検出が可能な程度に塩基配列が明らかになっているものであれば、特に限定されるものではない。
標的塩基配列が含有する塩基変異部位は、遺伝子多型等の先天的な変異の多型部位であってもよく、体細胞変異等の後天的な変異の変異部位であってもよい。
また、標的塩基配列は、1個の塩基変異部位のみを有していてもよく、2個以上の塩基変異部位を有していてもよい。
【0019】
本発明において、標的塩基配列中の、塩基変異部位を含有する部分配列を、「塩基変異含有配列」という。なお、標的塩基配列が2個以上の塩基変異部位を有する場合、塩基変異含有配列は、当該標的塩基配列の有する全ての塩基変異部位を包含する。
塩基変異含有配列の長さは、特に限定されるものではなく、標的塩基配列の種類、検出型プローブおよび部分競合型プローブの塩基配列等を考慮して適宜決定することができる。
なお、本発明において、塩基変異部位は、塩基変異含有配列中のいずれの位置にあってもよい。たとえば、塩基変異含有配列の5’ 末端であってもよく、塩基変異含有配列の3’末端であってもよく、塩基変異含有配列の中間部位であってもよい。
【0020】
本発明において、検出型プローブおよび部分競合型プローブは、ヌクレオチド、ヌクレオチドアナログ、およびこれらの修飾体からなる群より選択される1以上がリン酸ジエステル結合により連結したものである。
ここで、ヌクレオチドアナログとは、非天然のヌクレオチドであり、天然のヌクレオチドであるデオキシリボヌクレオチド(DNA)やリボヌクレオチド(RNA)と同様の機能を有するものをいう。すなわち、ヌクレオチドアナログは、ヌクレオチドと同様にリン酸ジエステル結合により鎖を形成することができ、かつ、ヌクレオチドアナログを用いて形成されたプライマーやプローブは、ヌクレオチドのみを用いて形成されたプライマーやプローブと同様に、PCRやハイブリダイズに用いることができる。このようなヌクレオチドアナログとして、例えば、PNA(ポリアミドヌクレオチド誘導体)、LNA(BNA)、ENA(2’−O,4’−C−Ethylene−bridged nucleic acids)、およびこれらの複合体等がある。ここで、PNAは、DNAやRNAのリン酸と5炭糖からなる主鎖をポリアミド鎖に置換したものである。また、LNA(BNA)は、リボヌクレオシドの2’部位の酸素原子と4’部位の炭素原子がメチレンを介して結合している2つの環状構造を持つ化合物である。
ここで、修飾体としては、たとえば、修飾デオキシリボヌクレオチド、修飾リボヌクレオチド、修飾ホスフェート−糖−骨格オリゴヌクレオチド、修飾PNA、修飾LNA(BNA)、修飾ENA等がある。ここで、ヌクレオチドやヌクレオチドアナログの修飾に用いられる物質は、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されるものではなく、ヌクレオチド等の修飾に通常用いられる物質を用いることができる。修飾ヌクレオチドや修飾ヌクレオチドアナログとして、たとえば、アミノ基、カルボキシビニル基、リン酸基、メチル基等の官能基により修飾されたヌクレオチド等、メチル基により2−O−メチル化修飾されたヌクレオチド等、ホスホロチオエート化修飾されたヌクレオチド等、蛍光物質等の後述する標識分子により修飾されたヌクレオチド等がある。
【0021】
検出型プローブは、当該検出型プローブの塩基配列が、標的塩基配列の塩基変異含有配列を含む部分領域と相補的であることを特徴とする。
検出型プローブの塩基配列は、以下の2つの部分配列に分けられる。
(I)標的塩基配列中の塩基変異含有配列と相補的である塩基配列(以下、「(I)配列」ということがある。)。
(II)標的塩基配列中の塩基変異含有配列以外の部分領域と、相補的である塩基配列(以下、「(II)配列」ということがある。)。
【0022】
部分競合型プローブは、当該部分競合型プローブの塩基配列が、標的塩基配列の前記塩基変異含有配列を含み、標的塩基配列中の検出型プローブが相補的な部分とは異なる部分領域と、塩基変異部位以外において相補的であり、かつ、塩基変異部位において非相補的であることを特徴とする。
部分競合型プローブの塩基配列は、以下の2つの部分配列に分けられる。
(I’)標的塩基配列中の塩基変異含有配列と、塩基変異部位以外において相補的であり、かつ、塩基変異部位において非相補的である配列(以下、「(I’)配列」ということがある。)。
(II’)標的塩基配列中の塩基変異含有配列以外の塩基配列と相補的である配列(以下、「(II’)配列」ということがある。)。
【0023】
さらに、検出型プローブおよび部分競合型プローブは、下記の(1)または(2)のいずれか一方を充足する。
(1)前記検出型プローブは、標的核酸と、前記塩基変異含有配列およびその5’端側においてハイブリダイズしうるものであり、前記部分競合型プローブは、標的核酸と、前記塩基変異含有配列およびその3’端側においてハイブリダイズしうるものであること。このとき、(I)配列からなる部分および(I’)配列からなる部分は、それぞれ標的核酸と塩基変異含有領域においてハイブリダイズし、(II)配列からなる部分は、標的核酸と塩基変異含有配列の5’端側からなる部分においてハイブリダイズし、(II’)配列からなる部分は、標的核酸と塩基変異含有配列の3’端側からなる部分においてハイブリダイズする。
(2)前記検出型プローブは、標的核酸と、前記塩基変異含有配列およびその3’端側においてハイブリダイズしうるものであり、前記部分競合型プローブは、標的核酸と、前記塩基変異含有配列およびその5’端側においてハイブリダイズしうるものであること。このとき、(I)配列からなる部分および(I’)配列からなる部分は、それぞれ標的核酸と塩基変異含有領域においてハイブリダイズし、(II)配列からなる部分は、標的核酸と塩基変異含有配列の3’端側からなる部分においてハイブリダイズし、(II’)配列からなる部分は、標的核酸と塩基変異含有配列の5’端側からなる部分においてハイブリダイズする。
【0024】
図1は、核酸試料に、検出型プローブと部分競合型プローブとを添加し、標的核酸と両プローブとが存在する状態における会合体形成の模式図である。
標的核酸は、塩基変異含有配列以外の領域において、検出型プローブの(II)配列からなる部分、および部分競合型プローブの(II’)配列からなる部分とハイブリダイズし、3者で会合体を形成する。そして、標的核酸は、塩基変異含有配列において、検出型プローブの(I)配列からなる部分のみならず、部分競合型プローブの(I’)配列からなる部分ともハイブリダイズしうる。よって、核酸試料中には、塩基変異含有配列において標的核酸と検出型プローブとがハイブリダイズしている会合体(B)と、塩基変異含有配列において標的核酸と部分競合型プローブとがハイブリダイズしている会合体(C)とが存在し、図1に示す動的な平衡状態をとる。
本発明では、検出型プローブは、(I)配列中の塩基変異検出部位において、標的核酸と完全に相補的な塩基配列を有し、部分競合型プローブは、(I’)配列中の塩基変異検出部位において、標的核酸と完全に相補的な塩基配列を有しない。そのため、標的核酸の塩基変異含有配列において、検出型プローブと標的核酸との会合体は、部分競合型プローブと標的核酸との会合体よりも、高い熱的安定性を有する。したがって、3者が単独で存在している状態(A)からは、会合体(C)よりも、会合体(B)の方が優先的に形成される。同様に、一度形成された会合体(C)から会合体(B)へ優先的に移行する。
本発明の標的塩基配列の検出方法は、検出型プローブと部分競合型プローブとを用いて、標的核酸に対して、検出型プローブと部分競合型プローブとを競合的にハイブリダイズさせ、図1に示すような動的平衡状態を形成し、優先的に会合体(B)のような塩基変異部位に検出型プローブがハイブリダイズする会合体を形成させるため、標的塩基配列の検出精度が向上すると推定される。
【0025】
本発明において、形成された会合体の熱的安定性が相対的に高いため、検出型プローブが、塩基変異含有配列において標的核酸にハイブリダイズしやすく、また安定的であるため解離しづらいことを、「優先的にハイブリダイズする」という。会合体の熱的安定性は、Tm値等で表され、常法により測定することができる。
【0026】
検出型プローブの長さ、および部分競合型プローブの長さは、標的核酸と検出型プローブとをハイブリダイズさせる反応条件で、標的核酸と部分競合型プローブとのハイブリダイズが可能であり、図1の3者会合体が形成しうるものであれば、特に限定されるものではない。
また、部分競合型プローブの(II’)配列からなる部分の長さは、標的核酸と検出型プローブとをハイブリダイズさせる反応条件で、(II’)配列からなる部分のみで、標的核酸と好適にハイブリダイズできるように調整されていることが好ましい。
【0027】
(I’)配列中の塩基変異検出部位の塩基配列は、標的塩基配列と完全に相補的な塩基配列以外であればよく、たとえば、塩基変異部位が2塩基以上からなる場合には、少なくとも1塩基が非相補的であればよい。
【0028】
本発明の標的塩基配列の検出方法は、上記のように塩基変異を有する標的塩基配列の検出において高い精度を有するため、特に遺伝子多型のタイピングに好適に用いることができる。ここで、標的塩基配列が遺伝子変異の一の遺伝子型(以下、「第1型配列」ということがある。)である場合に、(I’)配列中の塩基変異検出部位の塩基配列は、標的塩基配列とは異なる遺伝子型(以下、「第2型配列」ということがある。)の塩基変異部位と相補的であることが好ましい。(I’)配列中の塩基変異検出部位の塩基配列が、他の遺伝子型と相補的であることにより、核酸試料の有する遺伝子型が、検出型プローブと同じであるか、部分競合型プローブと同じであるかを判断することもでき、検出精度がより向上する。
【0029】
すなわち、「第2型配列」とは、標的塩基配列と、塩基変異部位においてのみ異なる塩基配列を有する配列である。たとえば、検出対象である塩基変異が、野生型と変異型の2種類を有する遺伝子多型である場合には、野生型または変異型のいずれか一方の塩基配列を、標的塩基配列(第1型配列)とし、他方の塩基配列を第2型配列とする。一方、がん等においてみられるような正常型と変異型の2種類を有する遺伝子変異である場合には、正常型または変異型のいずれか一方の塩基配列を、標的塩基配列(第1型配列)とし、他方の塩基配列を第2型配列とする。
なお、塩基変異が3種類以上の遺伝子型からなる場合には、任意の異なる2種の遺伝子型の配列を、それぞれ、標的塩基配列(第1型配列)または第2型配列としてよい。
【0030】
本発明の標的塩基配列の検出方法は、(a)核酸試料に、検出型プローブと、部分競合型プローブとを添加し、前記核酸試料中の標的塩基配列を有する標的核酸に、前記検出型プローブと、前記部分競合型プローブとをハイブリダイズさせる工程と、(b)前記工程(a)の後、標的核酸中の塩基変異含有配列からなる部分とハイブリダイズした検出型プローブを検出する工程と、を有する。
以下、各工程について説明する。
【0031】
まず、工程(a)において、核酸試料に、検出型プローブと、部分競合型プローブとを添加し、前記核酸試料中の標的塩基配列を有する標的核酸に、前記検出型プローブと、前記部分競合型プローブとをハイブリダイズさせる。
【0032】
標的核酸と、検出型プローブと、部分競合型プローブとのハイブリダイズの反応条件は、特に限定されるものではなく、検出型プローブおよび部分競合型プローブのTm値等を考慮した上で、通常の温度、pH、塩濃度、緩衝液等の条件下で行うことができる。
また、ハイブリダイズ反応時は、緩衝作用のある塩を含む反応溶液の中で行われることが好ましい。該反応溶液のpHは、pH6.5〜8.5の範囲であることが好ましく、pH6.7〜7.7の範囲であることがより好ましく、該反応溶液の塩濃度は、5〜250mMの範囲であることが好ましく、10〜100mMの範囲であることがより好ましい。緩衝作用のある塩としては、カコジル酸塩、リン酸塩、トリス塩等が挙げられる。また、反応溶液がアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の塩を含むことが好ましく、塩化ナトリウムおよび/または塩化マグネシウムを含むことがより好ましい。
【0033】
次に、工程(b)において、前記工程(a)の後、標的核酸中の塩基変異含有配列からなる部分とハイブリダイズした検出型プローブを検出する。
【0034】
標的核酸中の塩基変異含有配列からなる部分とハイブリダイズした検出型プローブを検出する方法(以下、「会合体検出方法」ということがある。)は、特に限定されるものではなく、会合体の検出に通常使用される方法を用いて行うことができる。
本発明の会合体検出方法は、標識物質を用いたものであることが好ましい。標識物質としては、標的核酸と、検出型プローブおよび部分競合型プローブとのハイブリダイズを妨げないものであれば特に限定されるものではなく、核酸の標識に通常使用される標識物質を用いることができる。このような標識物質として、たとえば、色素等が挙げられる。
本発明の標識物質は、色素であることが好ましく、蛍光色素であることがより好ましい。
なお、各標識物質のプローブへの標識は、有機合成方法等の、通常オリゴヌクレオチドの標識に用いられる方法を用いることにより行うことができる。
【0035】
蛍光色素を用いた会合体検出方法の好適な方法としては、QP(Quenching Probe/Primer)法を用いた検出、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET;Fluorescence Resonance Energy Transfer)法を用いた検出方法が挙げられる。
【0036】
QP法は、ある種の蛍光色素に、グアニン塩基が空間的に近接することにより、蛍光が消光することを利用した検出方法である。
本発明の検出型プローブを、グアニン塩基との近接により消光する蛍光色素で標識することにより、検出型プローブと、標的核酸または部分競合型プローブとの近接の有無を検出することができる。該グアニン塩基を有するのは、標的核酸であっても、部分競合型プローブであってもよく、標的核酸であることが好ましい。このとき、検出型プローブは、図1の会合体(B)が形成された場合に消光するように設計されることが好ましい。
【0037】
前記グアニン塩基との近接により消光する蛍光色素としては、QP法に通常使用される蛍光色素を用いて行うことができ、たとえば、BODIPY FL(商品名、インビトロジェン社製)、PACFIC BLUE(商品名、インビトロジェン社製)、CR6G(商品名、インビトロジェン社製)、TAMRA(商品名、インビトロジェン社製)等が挙げられる。
【0038】
QP法を用いた会合体検出方法の好適な例として、以下のものが挙げられる。
標的塩基配列において、内部にグアニン塩基を有するように塩基変異含有配列を設定し、かつ、検出型プローブは、該標的核酸のグアニン塩基と相補的となる部位に、蛍光色素により標識されたシトシン塩基を有するように、あらかじめ設計する。検出型プローブ、部分競合型プローブ、および標的核酸を用いてハイブリダイズを行い、標的核酸と、検出型プローブとがハイブリダイズした場合は、標識された検出型プローブの蛍光色素と、標的核酸中のグアニン塩基が近接し、蛍光色素の消光が起こる。一方、標的核酸と、部分競合型プローブとがハイブリダイズした場合は、蛍光色素とグアニン塩基は近接せず、蛍光色素の消光は起こらない。
このように、標的核酸と検出型プローブとの近接により、標的核酸中の塩基変異含有配列からなる部分とハイブリダイズした検出型プローブを検出する場合、標的核酸と部分競合型プローブとのハイブリダイズは、検出には必ずしも必要ではない。
【0039】
FRET法は、異なる2種の蛍光色素をドナーおよびアクセプターとして用い、ドナーとアクセプターとが空間的に近接して生じる蛍光共鳴エネルギー転移により、蛍光が消光または発光することを利用した検出方法である。
本発明の検出型プローブを、ドナーまたはアクセプターのいずれか一方で標識し、標的核酸または部分競合型プローブを他方で標識することにより、検出型プローブと、標的核酸または部分競合型プローブとの近接の有無を検出することができる。このとき、両プローブは、図1の会合体(B)が形成された場合に、蛍光共鳴エネルギー転移が生じるように設計されることが好ましい。
【0040】
ドナーやアクセプターとして機能しうる蛍光色素は、FRET法を行う場合に通常用いられている蛍光色素を適宜使用することができる。たとえば、ドナーとしては、Alexa Fluor(登録商標)488(商品名、インビトロジェン社製)、ATTO 488(商品名、ATTO-TEC GmbH社製)、FAM(商品名、Carboxyfluoresceine)、Hilyte Flour(登録商標)488(商品名、ASI社製)等が挙げられ、アクセプターとしてはAlexa Fluor(登録商標)594(商品名、インビトロジェン社製)、ROX(商品名、Carboxy-X-rhodamine)、BOBO−3(商品名、インビトロジェン社製)、HEX(商品名、インビトロジェン社製)、TAMRA(商品名、インビトロジェン社製)、Hilyte Flour(登録商標)555(商品名、ASI社製)等が挙げられる。
【0041】
たとえば、一塩基変異を有する標的核酸において、標的塩基配列(第1型配列)の塩基変異含有配列が5’−gtac−3’であり、第2型配列の塩基変異含有配列が5’−gtgc−3’である場合、検出型プローブの塩基変異含有配列は5’−gtac−3’となる。部分競合型プローブの塩基変異含有配列としては、標的塩基配列(第1型配列)の塩基変異部位の塩基配列と非相補的であり、塩基変異検出部位の長さが検出プローブの該部位の長さと同一である5’−gcac−3’、5’−gaac−3’ 、5’−ggac−3’ が好ましく、第2型配列の塩基変異部位の塩基配列と相補的である5’−gcac−3’がより好ましい。
たとえば挿入変異を有する標的核酸において、標的塩基配列(第1型配列)である変異型の塩基変異含有配列が5’−gtac−3’であり、第2型配列である正常型の塩基変異含有配列が5’−gtc−3’である場合、検出型プローブの塩基変異含有配列は5’−gtac−3’となる。部分競合型プローブの塩基変異含有配列としては、第2型配列の塩基変異部位の塩基配列と相補的である5’−gac−3’が好ましい。
たとえば欠失変異を有する標的核酸において、標的塩基配列(第1型配列)である変異型の塩基変異含有配列が5’−gtc−3’であり、第2型配列である正常型の塩基変異含有配列が5’−gtgc−3’である場合、検出型プローブの塩基変異含有配列は5’−gac−3’となる。部分競合型プローブの塩基変異含有配列としては、第2型配列の塩基変異部位の塩基配列と相補的である5’−gcac−3’が好ましい。
また、たとえば反復配列変異を有する標的核酸において、標的塩基配列(第1型配列)である変異型の塩基変異含有配列が5’−atatat−3’であり、第2型配列である正常型の塩基変異含有配列が5’−atat−3’である場合、検出型プローブの塩基変異含有配列は5’−atatat−3’となる。部分競合型プローブの塩基変異含有配列としては、第2型配列の塩基変異部位の塩基配列と相補的である5’−atat−3’が好ましい。
【0042】
図2は、一塩基変異を有する標的核酸における、標的塩基配列(第1型配列)を有する標的核酸(Target1)または第2型配列を有する核酸(Target2)と、検出型プローブ(Probe1)と、部分競合型プローブ(Probe2)とからなる会合体の模式図である。
なお、本図では、検出型プローブ(Probe1)がその一端に標識物質として蛍光物質を有し、該蛍光物質により検出を行う方法を採用しているが、本発明の検出方法はこの方法に限られるものではない。図2中、○または□で囲まれた部位が、塩基変異部位または塩基変異検出部位である。標的核酸(Target1)中、塩基が記載されている領域が塩基変異含有配列からなる部分である。
【0043】
ここで、検出型プローブ(Probe1)の塩基配列は、標的塩基配列(第1型配列)と相補的であり、部分競合型プローブ(Probe2)の塩基配列は、第2型配列と相補的である。該検出型プローブ(Probe1)と、該部分競合型プローブ(Probe2)とからなる標的塩基配列核酸検出用プローブセットは、あらかじめ調製された塩基配列の相補性に従い、標的塩基配列(第1型配列)を有する標的核酸(Target1)上または第2型配列を有する核酸(Target2)上で、近接して整列する。
図2の上図に示すように、標的核酸が標的塩基配列(第1型配列)を有する場合、近接して整列した前記プローブセットのうち、標的核酸中の塩基変異含有配列と相補的な塩基配列を有する検出型プローブ(Probe1)が優先的にハイブリダイズする。標的塩基配列(第1型配列)を有する標的核酸(Target1)とハイブリダイズした検出型プローブ(Probe1)は、当該検出型プローブが有する蛍光物質により検出される。
また、図2の下図に示すように、核酸が第2型配列を有する場合、近接して整列した前記プローブセットのうち、核酸中の塩基変異含有配列と相補的な塩基配列を有する部分競合型プローブ(Probe2)が優先的にハイブリダイズする。これにより、検出型プローブ(Probe1)が、第2型配列を有する核酸(Target2)とミスハイブリダイズし、誤って検出されることを防ぐことができる。
ここで、「ミスハイブリダイズ」とは、2種の核酸がハイブリダイズして会合体を形成した際に、該会合体内に非相補的な塩基対を含むことをいう。
【0044】
検出型プローブ(Probe1)に標識された蛍光色素等の消光または発光が検出された場合には、該標的核酸中に、該検出型プローブ(Probe1)の塩基配列と相補的な標的塩基配列(第1型配列)を有する標的核酸(Target1)が存在することがわかる。また、消光または発光が検出されなかった場合には、該標的核酸中に、該検出型プローブ(Probe1)の塩基配列と相補的な標的塩基配列(第1型配列)が存在していないことがわかる。
【0045】
本発明では、図2に示すように、検出型プローブと、部分競合型プローブとを、標的核酸中の塩基変異含有配列において競合させることで、ミスハイブリダイズによる検出ノイズを低減し、検出の高精度化および高感度化を可能にしている。そして、本発明は、部分競合型プローブを反応溶液に添加するだけで、ミスハイブリダイズを効果的に抑制することができ、簡便かつ効率的である。
【0046】
図3〜5は、それぞれ、挿入変異、欠失変異、反復配列変異を有する標的核酸における、標的塩基配列を有する標的核酸(Target1)または第2型配列を有する核酸(Target2)と、検出型プローブ(Probe1)と、部分競合型プローブ(Probe2)とからなる会合体の模式図である。図中の説明等については、図2と同様である。
また、図3に示すように、挿入変異を有する標的塩基配列の場合、標的塩基配列の塩基変異部位は、第2型配列の塩基変異部位に塩基が挿入されているものであり、図4に示すように、欠失変異を有する標的塩基配列の場合、標的塩基配列の塩基変異部位は、第2型配列の塩基変異部位から塩基が欠失しているものである。
【0047】
FRET法を用いた会合体検出方法の好適な例として、図6に示すものが挙げられる。
図6は、一塩基変異を有する標的核酸における、標的塩基配列を有する標的核酸(Target1)または第2型配列を有する核酸(Target2)と、検出型プローブ(Probe1)と、部分競合型プローブ(Probe2)とからなる会合体を、FRET法を用いて検出した場合の模式図である。図6中、○または□で囲まれた部位が、塩基変異部位または塩基変異検出部位である。標的核酸(Target1)中、塩基が記載されている領域が塩基変異含有配列からなる部分である。
検出型プローブ(Probe1)および部分競合型プローブ(Probe2)は、標的核酸中の塩基変異含有配列からなる部分と検出型プローブ(Probe1)とがハイブリダイズした際に近接するようにあらかじめ設計されている。これらのプローブおよび核酸を用いてハイブリダイズを行うと、図6の上図に示すように、標的核酸(Target1)と、検出型プローブ(Probe1)とがハイブリダイズした場合は、これらの蛍光色素が近接し、ドナーの蛍光色素の消光およびアクセプターの蛍光色素の発光が起こる。一方、図6の下図に示すように、第2型配列を有する核酸(Target2)と、部分競合型プローブ(Probe2)とがハイブリダイズした場合は、これらの蛍光色素は近接せず、ドナーの蛍光色素の消光およびアクセプターの蛍光色素の発光は起こらない。
このように、検出型プローブと部分競合型プローブとの近接により、標的核酸中の塩基変異含有配列からなる部分とハイブリダイズした検出型プローブを検出する場合、標的核酸と検出型プローブと部分競合型プローブとがハイブリダイズした会合体中の、当該標的核酸中の塩基変異含有配列からなる部分とハイブリダイズした検出型プローブを検出することになる。よって、この場合、標的核酸は、検出型プローブとのみならず、部分競合型プローブともハイブリダイズし、3者で会合体を形成している必要がある。
【0048】
本発明において、標的核酸中の塩基変異含有配列からなる部分とハイブリダイズした検出型プローブを、QP法等の蛍光色素を用いて検出する際には、蛍光強度補正用の色素を反応液に添加して用いることが好ましい。
補正用の色素としては、検出される波長が、前記会合体の検出に用いる蛍光色素の波長とクロスしないものであれば、特に限定されるものではなく、通常使用される蛍光色素を使用することができる。たとえば、Alexa Fluor(登録商標)488(商品名、インビトロジェン社製)、ATTO 488(商品名、ATTO-TEC GmbH社製)、Alexa Fluor(登録商標)594(商品名、インビトロジェン社製)、HEX(商品名、インビトロジェン社製)、TAMRA(商品名、インビトロジェン社製)等が挙げられる。
【0049】
上記会合体検出方法を用いることにより、標的塩基配列が検出されたか否か、つまり、核酸試料中に標的核酸が含まれていたか否かを判断する際には、測定された検出型プローブ量に基づき、標的核酸の有無のみならず、半定量的に核酸試料中の標的塩基配列を検出できる。
【0050】
本発明において、上記会合体の検出方法の結果を用いて、標的塩基配列を判断する際には、検出精度を向上させるため検量線を用いることが好ましい。検量線は、塩基変異部位の塩基配列および濃度が既知である核酸を核酸試料に代えて用いることにより、作製することができる。また、検量線に代えて、適当な閾値を設定することによっても、標的塩基配列を検出することができる。
また、QP法等の蛍光標識を用いて、会合体を検出する場合には、温度変化による蛍光強度の変化を測定し、塩基配列既知の核酸(コントロール)と比較することによっても、核酸試料中の標的塩基配列を検出することができる。
【0051】
このように、本発明は、適当な閾値や、検量線を用いることにより、半定量的に標的塩基配列を検出できるため、ヒト等の生物から採取された核酸を用いることにより、当該生物の遺伝子が標的塩基配列の遺伝子型のホモ接合体なのか、ヘテロ接合体なのかをも判別することができる。
【0052】
また、本発明をDNAチップへと応用する場合、通常のハイブリダイズによる検出法等と比較して、温度等のハイブリダイズ条件の選択の自由度が大きく、管理等が容易であるという利点を有し、より広範な用途でのDNAチップの使用が可能となる。たとえば、基板上に多数の検体を配置し、当該基板に対して、検出型プローブと部分競合型プローブとをハイブリダイズさせることにより、多数の検体中の標的塩基配列を一度の操作で簡便に検出することができる。その他、基板上に多数の検出型プローブと部分競合型プローブを混合したものを配置し、当該基板に対して、検体をハイブリダイズさせることにより、検体中の多数の標的塩基配列を検出することもできる。
【0053】
その他、上記の本発明の標的塩基配列の検出方法に用いられるプローブをキット化することもできる。たとえば、特定の塩基変異を検出するために用いられる検出型プローブおよび部分競合型プローブを一のキットとすることができる。また、該キットには、他の検出用試薬を含めてもよい。このようなキットを用いることにより、迅速かつ簡便に、塩基変異を識別することが可能となる。
【実施例】
【0054】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1:変異型の検出]
本実施例において用いられるオリゴヌクレオチドは、日本バイオサービス社またはオペロンバイオテクノロジー社より購入したものを使用した。
表1に示す、一塩基変異を有する標的オリゴヌクレオチドであるTarget1(wT49;野生型)およびTarget2(mT49;変異型)、部分競合型プローブであるProbe3(wL27)、および検出型プローブであるProbe4(mR27)を用いて、標的遺伝子配列の変異型の検出を行った。
検出型プローブProbe4は、Target2(変異型)と相補的なプローブであり、該プローブの5’末端のシトシン塩基を、BODIPY FL(商品名、インビトロジェン社製)で標識した。部分競合型プローブProbe3は、Target1(野生型)と相補的なプローブである。
まず、Target2のみからなる変異型ホモ接合体核酸試料(mT)、Target2とTarget1とを1:1の割合で混和してなる変異型/野生型へテロ接合体核酸試料(wT+mT)、およびTarget1のみからなる野生型ホモ接合体核酸試料(wT)を準備した。次いで、検出型プローブおよび部分競合型プローブ(最終濃度各1pmol/μL)に、上記核酸試料のいずれか1種(ホモ接合体は最終濃度2pmol/μL、ヘテロ接合体は最終濃度各1pmol/μL)と、4種のデオキシヌクレオチド三リン酸(最終濃度各250μM)と、蛍光強度補正用蛍光色素Alexa Fluor(登録商標)594(商品名、インビトロジェン社製、最終濃度1pmol/μL)と、反応バッファー10×PCR buffer(100mM Tris−HCl、500mM KCl、15mM MgCl)と、2.5mM dNTP Mixtureとを添加し、反応溶液量が40μLとなるように純水でメスアップし、混和した。また、ネガティブコントロールとして、サンプルの代わりに純水を添加したものを用意した。
次に、該サンプルを、リアルタイムPCR用の検出容器に装填し、QP法を用いて検出を行った。前述のとおり、QP法ではハイブリダイズした場合に、蛍光が消光する。具体的には、35〜95℃でサンプルを昇温し、温度変化に対する蛍光強度をF1(BODIPY検出用、520nm)、およびF2(補正用蛍光色素検出用、640nm)のフィルタを用いて測定した。検出型プローブの蛍光強度(F1)を、補正用蛍光色素の蛍光強度(F2)で補正した結果を、図7に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
[実施例2:野生型の検出]
部分競合型プローブとして表1に示すProbe1(mL27)を、検出型プローブとして表1に示すProbe2(wR27)を用いた以外は、実施例1と同様にして、標的遺伝子配列の野生型の検出を行った。検出型プローブProbe2は、Target1(野生型)と相補的なプローブであり、該プローブの5’末端のシトシン塩基を、BODIPY FL(商品名、インビトロジェン社製)で標識した。部分競合型プローブProbe1は、Target2(変異型)と相補的なプローブである。
検出型プローブの蛍光強度(F1)を、補正用蛍光色素の蛍光強度(F2)で補正した結果を、図8に示す。
【0058】
図7、図8の結果から、検出型プローブと核酸試料との塩基変異種が一致する場合には、検出型プローブと核酸試料の有する核酸とが優先的に結合するため、蛍光強度が小さくなり、かつ検出型プローブと試料との解離温度が高くなるが、一致しない場合には、蛍光強度が高くなり、解離温度が低くなった。また、検出型プローブと核酸試料の有する核酸との塩基変異種が半分のみ一致する場合では、一致する場合と一致しない場合との中間の蛍光強度および解離温度を示した。
上記の結果から、本発明の標的塩基配列の検出方法を用いて、複数種類の塩基変異を有する核酸の標的塩基配列の検出を行うことが可能であり、ジェノタイピングに有用であることが示された。
また、上記の結果は、従来のハイブリダイゼーション法による標的塩基配列の検出方法と比較して、高精度かつ高感度であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の標的塩基配列の検出方法は、創薬、遺伝子検査、医療診断等の分野で、好適に利用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基変異部位を有する標的塩基配列を検出する方法であって、
標的塩基配列中の塩基変異部位を含有する部分配列を、塩基変異含有配列とし、
(a)核酸試料に、検出型プローブと、部分競合型プローブとを添加し、
前記核酸試料中の標的塩基配列を有する標的核酸に、前記検出型プローブと、前記部分競合型プローブとをハイブリダイズさせる工程と、
(b)前記工程(a)の後、標的核酸中の塩基変異含有配列からなる部分とハイブリダイズした検出型プローブを検出する工程と、を有し、
前記検出型プローブの塩基配列は、標的塩基配列の塩基変異含有配列を含む部分領域と相補的であり、
前記部分競合型プローブの塩基配列は、標的塩基配列の前記塩基変異含有配列を含み前記部分領域は異なる部分領域と、塩基変異部位以外において相補的であり、かつ、塩基変異部位において非相補的であり、
さらに、下記の(1)または(2)のいずれか一方を充足することを特徴とする、標的塩基配列の検出方法。
(1)前記検出型プローブは、標的核酸と、前記塩基変異含有配列およびその5’端側においてハイブリダイズしうるものであり、前記部分競合型プローブは、標的核酸と、前記塩基変異含有配列およびその3’端側においてハイブリダイズしうるものであること。
(2)前記検出型プローブは、標的核酸と、前記塩基変異含有配列およびその3’端側においてハイブリダイズしうるものであり、前記部分競合型プローブは、標的核酸と、前記塩基変異含有配列およびその5’端側においてハイブリダイズしうるものであること。
【請求項2】
前記塩基変異部位が、前記塩基変異含有配列中のいずれの位置にあってもよいことを特徴とする請求項1記載の標的塩基配列の検出方法。
【請求項3】
前記工程(b)において、標的核酸中の塩基変異含有配列からなる部分とハイブリダイズした検出型プローブを、標識物質を用いて検出することを特徴とする請求項1または2記載の標的塩基配列の検出方法。
【請求項4】
前記標識物質が、蛍光色素であることを特徴とする請求項3記載の標的塩基配列の検出方法。
【請求項5】
前記工程(b)において、標的核酸と検出型プローブと部分競合型プローブとがハイブリダイズした会合体中の、当該標的核酸中の塩基変異含有配列からなる部分とハイブリダイズした検出型プローブを検出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の標的塩基配列の検出方法。
【請求項6】
前記工程(b)において、QP(Quenching Probe/Primer)法、または、FRET法を用いて、標的核酸中の塩基変異含有配列からなる部分とハイブリダイズした検出型プローブを検出することを特徴とする請求項4または5記載の標的塩基配列の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−273660(P2010−273660A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132207(P2009−132207)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】