説明

配位高分子の製造方法

【課題】ピラジンを含むピラードレイヤー構造を有する配位高分子の製造において、ピラジンの使用量を抑制しながら、収率よく配位高分子を得ること。
【解決手段】Cu2+イオン、下記化学式(1)のアニオンを部分構造として含むピラジン誘導体及びピラジンを、溶媒を含む反応液中で反応させて、前記Cu2+イオン、化学式(1)の配位子及び前記ピラジンを2:2:1のモル比で含む、ピラードレイヤー構造を有する配位高分子を生成させるステップを備える、配位高分子の製造方法。反応させる前記ピラジン誘導体の量が、溶媒の総量1Lに対して50mmol以上4000mmol以下であり、反応させる前記ピラジンの量が、前記ピラジン誘導体1molに対して0.45mol以上5mol以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は配位高分子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な構造の配位高分子が気体や溶媒などを可逆的にその空孔中に取り込むことが、報告されている。その中でも、Cu2+イオンと化学式(1)の配位子とから構成される二次元レイヤー構造がピラジンによって架橋されたピラードレイヤー構造を有する配位高分子(以下、場合により「配位高分子A」と略す。)は、気体の高効率な貯蔵に利用可能であることが報告されている(非特許文献1、非特許文献2、及び非特許文献3参照)。
【0003】
【化1】

【0004】
配位高分子Aの製造方法として、例えば、Cu2+イオンの塩、化学式(1)のピラジン誘導体の塩、及びピラジンを溶液中で混合してこれらを反応させる方法がある。
【非特許文献1】「Angew.Chem.Int.Ed.」、1999年、38巻、p.140−p.143
【非特許文献2】「Nature」、2005年、436巻、p.238−p.241
【非特許文献3】「J.Phys.Chem.B」、2005年、109巻、p.23378−p.23385
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ピラードレイヤー構造を有する配位高分子Aを選択的に生成させる方法としては、化学式(1)のピラジン誘導体の塩に対して12.5倍以上の大過剰のpyzを用いる方法が報告されているが(非特許文献1、非特許文献2、及び非特許文献3参照)、配位高分子Aの工業的製造方法としては必ずしも満足のいくものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、配位高分子を生成させる反応液における化学式(1)のアニオンを部分構造として含むピラジン誘導体の濃度を高めたときに、大過剰量のピラジンを必要とせずに配位高分子Aを良好な収率で効率よく製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明に係る製造方法は、Cu2+イオン、下記化学式(1)のアニオンを部分構造として含むピラジン誘導体及びピラジンを、溶媒を含む反応液中で反応させて、Cu2+イオン、下記化学式(1)の配位子及びピラジンを2:2:1のモル比で含む、ピラードレイヤー構造を有する配位高分子を生成させるステップを備える。反応させる、下記化学式(1)のアニオンを部分構造として含むピラジン誘導体の量は、溶媒の総量1Lに対して50mmol以上4000mmol以下であり、反応させるピラジンの量は、下記化学式(1)のアニオンを部分構造として含むピラジン誘導体1molに対して0.45mol以上5mol以下である。
【0008】
【化2】

【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ピラジンの使用量を抑制しながら、高い容積効率で配位高分子Aを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本実施形態に係る製造方法によれば、Cu2+イオン、化学式(1)の配位子(以下、場合により「pzdc」と略す。)及びピラジン(以下、場合により「pyz」と略す。)によって形成されたピラードレイヤー構造を有する配位高分子、即ち配位高分子Aが得られる。配位高分子Aは、Cu2+イオン、pzdc及びpyzを2:2:1のモル比で含み、pzdc及びpyzとCu2+イオンとが配位結合またはイオン結合を介して連続的に繋がることにより繰り返し構造を形成している金属錯体である。また、本明細書において、「ピラードレイヤー構造」とは、金属イオンと第一の配位子とで形成された二次元構造の層と、第一の配位子と同一または異なる第2の配位子とを含み、複数の二次元構造の層が第2の配位子を介して連結されている多層構造を意味する。本実施形態の場合、第一の配位子がpzdc、第二の配位子がpyzである。
【0012】
本実施形態に係る製造方法は、Cu2+イオン、上記化学式(1)のアニオンを部分構造として含むピラジン誘導体(以下、場合により「ピラジン誘導体」と略す。)及びpyzを溶媒中で反応させて配位高分子Aを生成させるステップを備える。
【0013】
Cu2+イオンは、通常、Cu2+イオン源となるCu2+の塩として反応に使用され、具体的なCu2+イオンの塩としては、例えば、弗化物、塩化物、臭化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、テトラフェニルホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキサフルオロケイ酸塩、これらの水和物、又はそれらの組み合わせが挙げられる。Cu2+イオンの塩は、入手性がよく、かつカウンターアニオンの配位力が目的とする反応の妨げにならない程度に低いことが好ましい。好ましい具体例として、硝酸銅、硫酸銅、過塩素酸銅及びそれらの水和物がある。
【0014】
配位高分子Aの製造に用いられるピラジン誘導体は、ピラジン−2,3−ジカルボン酸(以下、場合により「pzdcH」と略す。)、又はその塩(以下、場合により「pzdcA」と略す。)である。
【0015】
pzdcAは、化学式(1)のアニオンと、アルカリ金属イオン、NH、NHの水素原子が炭化水素基で置換されたアンモニウムイオン及びPHの水素原子が炭化水素基で置換されたホスホニウムイオンから選ばれるカウンターカチオンとから構成される塩であることが好ましい。pzdcAを構成するカウンターカチオンの具体例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオン又はこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中でも、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びテトラブチルアンモニウムイオンが好ましい。
【0016】
pzdcAは、pzdcHとカウンターカチオンの水酸化物との反応、またはpzdcAとは異なるカウンターカチオンを有するピラジン−2,3−ジカルボン酸塩のイオン交換によってpzdcAを生成させるステップを経て得ることができる。通常、pzdcAを生成させる反応は、上記のどちらの方法の場合でも、水等の溶媒中で実施される。このため、配位高分子の製造に用いる溶媒中でpzdcAを生成させることで、pzdcAを単離することなくそのまま配位高分子Aの製造に用いることが可能である。
【0017】
Cu2+イオンの塩、ピラジン誘導体及びpyzの反応は、これら原料を溶媒中で混合して得られる反応液中で進行させることができる。配位高分子Aを特に効率よく製造するためには、i)Cu2+イオンの塩及びpyzを含む溶液と、ピラジン誘導体を含む溶液とを混合する方法、又は、ii)ピラジン誘導体及びpyzを含む溶液と、Cu2+イオンの塩を含む溶液とを混合する方法、によりCu2+イオンの塩、ピラジン誘導体及びpyzを溶媒中で反応させることが好ましい。上記のi)の方法において、ピラジン誘導体を加える前に、Cu2+イオンの塩及びpyzを含む混合溶液から青色の沈澱が生じることがあるが、その場合でも、続いてピラジン誘導体の溶液を滴下することによってこの沈澱は減少し、同時に配位高分子Aが生じる反応が進行する。したがってこの方法も配位高分子Aを製造する方法として何ら問題はない。
【0018】
上記i)又はii)の方法において、pyzを含む方の溶液に対してもう一方の溶液を反応液全体に分散させるように加えることが好ましい。具体的には、反応液を十分に攪拌しながら、滴下などの方法でpyzを含まない方の溶液を少量ずつ加える方法が挙げられる。
【0019】
反応に用いる溶媒は、水でもよいし、水を主成分として含む混合溶媒であってもよい。混合溶媒において水と組み合わせて用いられる溶媒は、好ましくはメタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル及びN,N−ジメチルホルムアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性溶媒である。
【0020】
上述のi)又はii)の方法のように、各原料の溶液を予め調製してからそれらを混合する場合、それぞれの溶液の溶媒がそのまま反応液の溶媒の一部又は全部として用いられる。それぞれの溶液の溶媒は同一でも異なっていてもよい。
【0021】
ここで、本明細書においては、配位高分子Aを生成させる反応に用いたピラジン誘導体の量(mmol)を、配位高分子Aを生成させる反応に用いた溶媒の体積(L)の合計で除した値を「溶媒体積効率」と表記する。ピラジン誘導体として、pzdcHから合成したpzdcAを用いる場合、pzdcAの量に代えてpzdcHの仕込み量を反応に用いた溶媒の体積で除した値を溶媒体積効率とみなす。また、溶媒体積効率の算出に用いられる溶媒の体積は、反応に用いられた溶媒の総量である。例えば、複数種の溶媒が用いられた場合はそれらの体積の合計、複数の溶液を混合して反応液を調製した場合はそれぞれの溶液に含まれていた溶媒の体積の合計に基づいて溶媒体積効率が算出される。
【0022】
本実施形態において、溶媒体積効率は50mmol/L以上である。溶媒体積効率が50mmol以上であることにより、pyz使用量のピラジン誘導体使用量に対する比率を低く抑えたとしても、高い収率で配位高分子Aを生成させることが可能になる。溶媒体積効率は好ましくは100mmol以上である。
【0023】
溶媒体積効率は好ましくは4000mmol/L以下、より好ましくは2000mmol/L以下、さらに好ましくは1000mmol/L以下、より一層好ましくは750mmol以下である。
【0024】
反応に用いるpyzの量はピラジン誘導体1molに対し0.45mol以上5mol以下であることが好ましい。原料費を抑え、かつ不純物の副生を更に抑えるためには、pyzの量は0.45mol以上2mol以下であることがより好ましく、0.5molより多く1.5mol以下であることがさらに好ましい。
【0025】
Cu2+イオンの量は、ピラジン誘導体1molに対し、好ましくは0.9mol以上1.1mol以下であり、さらに好ましくは0.98mol以上1.02mol以下である。
【0026】
高い気体吸着性能を発揮する配位高分子Aを得るためには結晶成長を促すことが重要である。係る観点から、配位高分子Aを生成させる反応の反応温度は好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上である。また、過度に高温で反応を行うとpyzの必要量が増加する傾向がある。そのため、反応温度は80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。
【0027】
生成した配位高分子Aは、通常、反応液中に沈殿物として析出する。反応液中に析出した配位高分子Aを反応液からろ過等の方法により取り出し、これを必要により洗浄してから乾燥するステップを経て、粉末状の配位高分子Aが得られる。洗浄はメタノール等の揮発性の高い溶媒を用いて行われる。乾燥は、例えば120℃で減圧乾燥する方法で行われる。乾燥後の配位高分子Aの質量に基づいて、その収量及び収率が求められる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
比較例1(配位高分子Aの製造、粉末X線回折測定)
pyz1001mg及び硝酸銅・3水和物242mgを20mLの水に溶かした。そこに、pzdcH168mg及び水酸化ナトリウム80mgを20mLの水を溶媒として反応させることにより調製したピラジン−2,3−ジカルボン酸ナトリウム塩の溶液を、室温(20〜25℃)で30分以上かけて加えた。さらに反応液を2時間攪拌した後、析出した沈澱物をろ過により捕集しメタノールで洗浄した。洗浄後の沈殿物を120℃で4h減圧乾燥した後に秤量したところ、沈殿物(生成物)の量は264mgであった。
【0030】
続いて粉末X線回折装置(リガク社製、商品名:RINT2500)を用いて室温で粉末X線回折測定を実施し、得られた生成物が配位高分子Aであること、即ち、Cu2+、pzdc、及びピラジンを2:2:1の比で含む配位高分子であって、Cu2+とpzdcとからなるレイヤーがピラジンで架橋されたピラードレイヤー構造が形成されていることが確かめられた。収率は98%と算出された。
【0031】
参考例1〜4、(配位高分子Aの製造、粉末X線回折測定)
各原料および溶媒の仕込み量を変更する以外は、比較例1と同じ手順で配位高分子Aの製造、及び粉末X線回折測定を行った。変更した条件と生成物の質量との関係を表1にまとめて示す。参考例1、参考例2、の生成物は配位高分子Aであったが、参考例3と参考例4の生成物は配位高分子A以外の化合物を多量に含有していた。参考例1〜4の結果から溶媒体積効率が低いと、pyzの使用量を小さくしたときに配位高分子Aの収率が低下することがわかった。
【0032】
実施例1(配位高分子Aの製造、粉末X線回折測定)
各原料および溶媒の仕込み量を変更する以外は、比較例1と同じ手順で配位高分子Aの製造、及び粉末X線回折測定を行った。変更した条件と生成物の質量との関係を表1にまとめて示す。実施例1の生成物は配位高分子Aであることが確かめられた。
【0033】
実施例2(配位高分子Aの製造、粉末X線回折測定)
pzdcH841mg及び水酸化ナトリウム400mgを20mLの水を溶媒として反応させることでピラジン−2,3−ジカルボン酸のナトリウム塩の溶液を調製した。これにpyz2002mgを加え、溶解させた。そこに、硝酸銅・3水和物1208mgを20mLの水に溶かして調製した溶液を、室温(20〜25℃)で30分以上かけて加えた。2時間攪拌した後、析出した沈澱物をろ過により捕集し、メタノールで洗浄した。洗浄後の沈殿物を120℃で4h減圧乾燥した後に秤量したところ、沈殿物(生成物)の量は1342mgであった。続いて粉末X線回折測定を行い、得られた生成物は配位高分子Aであることが確かめられた。収率は100%と算出された。
【0034】
実施例3〜10(配位高分子Aの製造・粉末X線回折測定)
各原料および溶媒の仕込み量を変更し、実施例2と同じ手順で配位高分子Aの製造、及び粉末X線回折測定を行った。変更した条件と生成物の重量の関係を表1にまとめて示す。いずれの条件で製造した生成物も、配位高分子Aであることが確かめられた。
【0035】
比較例1、参考例3、4、実施例1、4、7、10でそれぞれ得られた生成物の粉末X線回折パターンを図1〜7に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
以上の実験結果から、本発明によれば、pyzの使用量を抑制しながら、pyzを含むピラードレイヤー構造を有する配位高分子を十分に高い収率で製造可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】比較例1で得られた生成物の粉末X線回折パターンである。
【図2】参考例3で得られた生成物の粉末X線回折パターンである。
【図3】参考例4で得られた生成物の粉末X線回折パターンである。
【図4】実施例1で得られた生成物の粉末X線回折パターンである。
【図5】実施例4で得られた生成物の粉末X線回折パターンである。
【図6】実施例7で得られた生成物の粉末X線回折パターンである。
【図7】実施例10で得られた生成物の粉末X線回折パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu2+イオン、下記化学式(1)のアニオンを部分構造として含むピラジン誘導体及びピラジンを、溶媒を含む反応液中で反応させて、前記Cu2+イオン、化学式(1)の配位子及び前記ピラジンを2:2:1のモル比で含む、ピラードレイヤー構造を有する配位高分子を生成させるステップを備え、反応させる前記ピラジン誘導体の量が、前記溶媒の総量1Lに対して50mmol以上4000mmol以下であり、反応させる前記ピラジンの量が、前記ピラジン誘導体1molに対して0.45mol以上5mol以下である、配位高分子の製造方法。
【化1】

【請求項2】
反応させる前記ピラジン誘導体の量が、前記溶媒の総量1Lに対して100mmol以上2000mmol以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
反応させる前記ピラジン誘導体の量が、前記溶媒の総量1Lに対して100mmol以上1000mmol以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
反応させる前記ピラジンの量が、前記ピラジン誘導体1molに対して0.45mol以上2mol以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒が、水、又は水を含む混合溶媒である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−121079(P2010−121079A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297822(P2008−297822)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】