説明

配向膜材料および液晶装置の製造方法

【課題】ディスクリネーション等の表示不良の発生を防止しつつ、真空成膜装置を用いることなく配向膜を形成することによりコストを削減することができる配向膜材料および液晶装置の製造方法を提供する。
【解決手段】配向膜材料が下記の式(1)により表される高分子を含むことを特徴とする。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、配向膜材料および液晶装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、プロジェクタ用の液晶装置の液晶配向方式として垂直配向方式が知られている。垂直配向方式の液晶装置では、垂直配向膜を形成する手法として、SiOやAl等の無機分子を高真空プロセスである斜方蒸着方式等により電極表面に積層させていく手法が用いられている。この方法はラビング処理が不要であり、選択電圧印加時に液晶分子を一方向に倒すためのプレチルトを発現し易いなどの特徴を有している。
【0003】
特許文献1では、斜方蒸着法で形成した無機配向膜上にアルキル基を含有するシランカップリング剤を表面処置することで、略垂直あるいは略水平に配向処理できることが開示されている。また、特許文献2および特許文献3では、異なる分子量の複数のシランカップリング剤、アルコールで無機配向膜を表面処理して、耐光性、耐湿性を向上させる方法が開示されている。特許文献4では、液晶及びポリマー混合物(PDLC)の配向膜としてシランカップリング剤により自己組織化膜を電極表面に直接形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−115417号公報
【特許文献2】特開2005−319277号公報
【特許文献3】特開2005−235192号公報
【特許文献4】特開平8−29759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の斜方蒸着方式では真空成膜装置を用いる必要がある。真空成膜装置は初期投資が大きく、従来の配向膜のように塗布する方式に比べて生産効率も低いという課題がある。
また、特許文献1〜3はSiOなどの無機配向膜をあらかじめ形成し、その配向膜上を表面処理することを前提としているため生産効率及びコストの面で優れているとは言い難い。
特許文献4では電圧印加時に液晶を一軸配向させる配向機能が十分ではなかった。つまり、一様な垂直配向となるため液晶分子が一方向に倒れず、ディスクリネーションが発生してしまうという課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、ディスクリネーション等の表示不良の発生を防止しつつ、真空成膜装置を用いることなく配向膜を形成することによりコストを削減することができる配向膜材料および液晶装置の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の配向膜材料は、一対の基板間に初期配向状態が垂直配向を呈する液晶層を挟持する液晶装置の配向膜材料であって、下記の式(1)により表される高分子を含むことを特徴とする。
【化1】

【0008】
なお、上記の式(1)においてRbは加水分解性基、例えばエトキシ基(―O―C)等のアルコキシ基である。
エトキシ基(―O―C)等のアルコキシ基は配向膜溶液を加熱、溶媒を揮発させる際に(―O―C)同士が重縮合により脱離、3次元架橋反応が進行してより剛直な構造の配向膜構造が形成される。
【0009】
また、本発明の配向膜材料は、前記式(1)のRaが、前記高分子を構成するRの10%以上かつ30%以下であることを特徴とする。
【0010】
Raの割合を、高分子を構成するRの10%以上かつ30%以下とすることで、配向膜の垂直配向性および信頼性を十分に確保することができる。
【0011】
また、本発明の配向膜材料は、前記Raは、下記の式(2)で表されるRapdまたは下記の式(3)で表されるRaprであり、前記Rapdの割合は前記Raの50%以上かつ80%以下であり、かつ前記Raprの割合は前記Raの20%以上かつ50%以下である、ことを特徴とする。
【化2】

【化3】

【0012】
このような構成とすることで、上記の配向膜材料により形成された配向膜の表面には少なくとも2種類の長さの異なるアルキル基が存在するようになる。
【0013】
また、本発明の液晶装置の製造方法は、一対の基板間に初期配向状態が垂直配向を呈する液晶層を挟持する液晶装置の製造方法であって、前記基板の前記液晶層側の面に請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の配向膜材料の溶液を塗布する工程と、前記溶液が塗布された前記基板を加熱して前記溶液の溶媒を揮発させることにより前記基板の表面に少なくとも2種類の鎖長の異なるアルキル鎖が存在する配向膜を形成する工程と、前記配向膜の表面をラビングすることにより前記配向膜表面の一部配向規制力を発現させる工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
このような製造方法にすることにより、少なくとも2種類の異なる長さのアルキル基が存在する配向膜を形成することができ、その表面をラビング処理することにより長いアルキル鎖の方は垂直配向性を維持したままで、短い方のアルキル鎖はラビング処理により一定方向に配向するようになる。したがって、ラビング処理した配向膜の表面には垂直配向性と水平配向性、それぞれの領域が存在するようになる。配向膜全体としては長いアルキル基の存在量が多いため電圧無印加状態では液晶層は垂直配向を呈す。しかし、電圧を印加した場合、垂直配向の中に部分的に存在するラビングされた水平配向領域に沿ってその領域上に存在する液晶が基板面の特定の方向に配向しはじめ、さらにその周囲の液晶に伝播していく。そのため、従来の垂直配向では液晶分子の倒れる方位が規制できず電圧印加時に画素電極端から発生する横電界の影響で液晶分子が画素内部で配向対立する、という表示不良が発生していたが、本発明ではこのような表示不良が発生することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る液晶装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】図1の一部(破線部分P)を拡大して模式的に示す拡大断面図である。
【図3】図1の一部(破線部分P)を拡大して模式的に示す斜視図である。
【図4】図1に示す液晶装置の製造工程を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各図面では、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や部材毎に縮尺を適宜変更している。本実施形態において説明する液晶装置は、スイッチング素子としてTFT(Thin-Film Transistor)素子を用いたアクティブマトリクス型の透過型液晶装置である。
図1は、液晶装置の構造を模式的に示す断面図である。
【0017】
図1に示すように、液晶装置100は液晶パネル50を備えている。
液晶パネル50は、回路基板10とこれに対向配置された対向基板20とを備えている。回路基板10と対向基板20との間には、液晶層58が挟持されている。液晶層58は、初期配向状態が垂直配向を呈する誘電率異方性が負の液晶材料を回路基板10と対向基板との間に封入することにより形成されている。
【0018】
回路基板10は、ガラス等の透光性材料からなる基板本体10Aを備えている。基板本体10Aの内面には、インジウム錫酸化物(以下、「ITO」と略す)等の透明導電性材料からなる矩形状の画素電極9が形成されている。回路基板10は、基板本体10Aの内面に画素電極9への通電制御を行うためのスイッチング素子であるTFT素子、画像信号が供給されるデータ線、走査線(いずれも図示略)等を備えている。また、基板本体10Aの内面に遮光膜が形成されている場合もある。
回路基板10の基板本体10Aの内面側には複数の画素電極9を覆うようにして第1の配向膜11が形成されている。
【0019】
ここで、回路基板10の基板本体10Aの上に配向膜材料の溶液を塗布する方法について説明する。図4(a)〜(d)は、配向膜の製造過程を示す工程図である。
図4(a)に示す配向膜材料の溶液Lの塗布方法としては、例えばインクジェット法等の液滴吐出法や、フレキソ印刷法等を用いることができる。
配向膜材料としては、下記の式(1)により表される高分子を含むものが用いられる。
【0020】
【化4】

【0021】
ここで、式(1)のRaは高分子を構成するRの10%以上かつ30%以下である。また、Raは下記の式(2)で表されるRapdまたは下記の式(3)で表されるRaprであり、Rapdの割合はRaの50%以上かつ80%以下であり、かつRaprの割合はRaの20%以上かつ50%以下である。
【0022】
【化5】

【0023】
【化6】

【0024】
液体Lの塗布方法としてインクジェット法を用いる場合には、溶媒として、例えばヘキシレングリコール、ブチルセロソルブ、1-ブトキシ-2-プロパノール等を好適に用いることができる。液体Lの粘度は、例えば約6mPa・sから約8mPa・s程度に調整することが好ましい。
【0025】
液体Lの塗布方法としてフレキソ印刷法を用いる場合には、溶媒として、例えばヘキシレングリコール、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコール等を好適に用いることができる。液体Lの粘度は、例えば約12mPa・sから約14mPa・s程度に調整することが好ましい。これらを基板上に塗布した後、150〜200℃に加熱し、溶媒分を揮発させて配向膜を基板上に形成した。ここでいう揮発には溶媒分を常温よりも高い温度に加熱して気化させることを含む。
【0026】
対向基板20側は、ガラス等の透光性材料からなる基板本体20Aを備えている。基板本体20Aの内面には、ITO等の透明導電膜からなる対向電極21が形成されている。この対向電極21は画素領域毎に分割されておらず、基板本体20A上に全面ベタ状に形成されている。また、対向基板20は基板本体20Aの内面にカラーフィルタや遮光膜を備えている場合もある。
対向基板20の対向電極21の内面側には、対向電極21を覆うようにして第2の配向膜22が形成されている。配向膜22は、回路基板10の配向膜11と同様の方法により形成することができる。
【0027】
液晶層58は、回路基板10側の配向膜11と対向基板20側の配向膜22とにより挟持され、液晶分子52の初期配向状態(電圧無印加時の状態)が垂直配向を呈している。
【0028】
図2及び図3は、図1に示す配向膜11,22の一部(破線部分P)を拡大して示す部分拡大図である。
図2に示すように、配向膜11,22は、基板表面に存在するアルキル鎖長の異なる少なくとも2種類以上のアルキル鎖28A,28BおよびSiO主鎖から構成されている。
【0029】
ここで、「鎖長の異なるアルキル鎖」とは、炭素原子数が異なる複数のアルキル鎖である。本実施形態では、鎖長の異なる複数のアルキル鎖として、炭素原子数が多く直鎖が長鎖となる長鎖アルキル鎖28Aと、炭素原子数が少なく直鎖が短鎖となる短鎖アルキル鎖28Bとを有している。
【0030】
図3に示すように、対向電極21及び画素電極9の表面には、炭素原子数が10以上、好ましくは炭素原子数10〜20の長鎖アルキル鎖28Aで修飾されている領域と、炭素原子数が10より小さく、好ましくは炭素原子数2〜8の短鎖アルキル鎖28Bで修飾されている領域とが存在している。
【0031】
図2及び図3に示すように、長鎖アルキル鎖28Aは、各電極9,21上で基板本体10A,20Aの表面に対して略垂直な状態で結合している。そのため、長鎖アルキル鎖28Aが形成された領域は垂直配向能を有することになる。
【0032】
ところで、配向膜11,22を形成する際には、図4(a)に示すように基板本体10A,20A上に配向膜材料の溶液Lを塗布した後、基板本体10A,20Aを加熱して溶液Lの溶媒を揮発させる。すると、図4(b)に示すように、長鎖アルキル鎖28A及び短鎖アルキル鎖28Bからなる配向膜11,22が形成される。しかし、この段階では長鎖アルキル鎖28Aおよび短鎖アルキル鎖28Bはいずれも垂直な状態で配向している。
【0033】
したがって、本実施形態では基板本体10A,20Aを加熱して溶液Lの溶媒を揮発させた後、図4(c)に示すようにラビング布をローラに巻きつけたラビング処理装置15により配向膜11,22にラビング処理を行ことによって、図4(d)に示すように短鎖アルキル鎖28Bのみを基板本体10A,20Aの内面に対して傾斜させている。
【0034】
このようなラビング処理の結果、図2に示すように短鎖アルキル鎖28Bは各電極9,21上で基板本体10A,20Aの表面に対して傾いた状態とされる。その結果、短鎖アルキル鎖28Bが形成された領域がプレチルト(液晶分子52の配向方位規制力)を有することになる。なお、図2中における短鎖アルキル鎖28Bは、実際には基板本体10A,20Aの表面に対して一方向に傾斜している。この短鎖アルキル鎖28Bが形成された領域が、液晶分子52に所定のプレチルト角及び方位角を付与する領域となる。
【0035】
一方、長鎖アルキル鎖28Aが形成された領域は、ラビング処理の影響を受けることなく垂直配向能を維持する。すなわち、各配向膜11,22は、電圧無印加時には、長鎖アルキル鎖28Aが形成された領域によって液晶分子52を垂直配向させる。そして、電圧印加時には、短鎖アルキル鎖28Bが形成された領域が、長鎖アルキル鎖28Aが形成された領域(垂直配向領域)の液晶分子52が倒れる方向ガイドとして機能する。
各配向膜11,22において、長鎖アルキル鎖28Aと短鎖アルキル鎖28Bの鎖長は、上記したような各配向機能(垂直配向能、プレチルト)を得るべく適宜設定する。
【0036】
図1に示すように、基板本体10A,20Aの外面側には一対の偏光板61,62が設けられ、その偏光軸は液晶方位角0°に対してそれぞれ略45°および略135°をなしている。また、偏光板61の図示下方側には、不図示の光源ユニットが配置されている。
【0037】
以上の構成を備えた液晶装置100は、電圧無印加時において、液晶層58の液晶分子52は全体的に垂直配向となる。しかし、液晶層58内には、配向膜11,22の短鎖アルキル鎖28Bが形成された領域の作用によって略水平配向またはプレチルトを有する液晶分子52が一部存在する。そのため、電圧印加時には、画素電極9の端部に発生する横電界による配向規制力を抑えて、各配向膜11,22のプレチルト方向に従って、液晶分子52を均一に倒すことができる。
【0038】
本実施形態の液晶装置100は、配向膜11,22を鎖長の異なるアルキル鎖28A,28Bによって構成し、基板面に垂直に延在する長鎖アルキル鎖28Aに対して傾斜した短鎖アルキル鎖28Bを混在させている。これにより、配向膜11,22は一部の領域に垂直配向能を有している。そのため、各配向膜11,22は、水平配向性を有しつつ全体的に垂直配向性を示す。
したがって、電圧無印加時には垂直配向性を示しながら、電圧印加時には画素電極9に発生する横電界の影響を抑えて一方向に液晶分子が倒れて配向するようになり、高透過率を達成することができる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の配向膜材料及び液晶装置100の製造方法によれば、液晶装置100のディスクリネーション等の表示不良の発生を防止しつつ、真空成膜装置を用いることなく配向膜11,22を形成し、液晶装置100の製造コストを削減することができる。
尚、この発明は上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 回路基板(基板)、11 配向膜、20 対向基板(基板)、22 配向膜、28A 長鎖アルキル鎖(アルキル鎖)、28B 短鎖アルキル鎖(アルキル鎖)、58 液晶層、100 液晶装置、L 溶液(配向膜材料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板間に初期配向状態が垂直配向を呈する液晶層を挟持する液晶装置の配向膜材料であって、
下記の式(1)により表される高分子を含むことを特徴とする配向膜材料。
【化1】

【請求項2】
前記式(1)のRaが、前記高分子を構成するRの10%以上かつ30%以下であることを特徴とする請求項1記載の配向膜材料。
【請求項3】
前記Raは、下記の式(2)で表されるRapdまたは下記の式(3)で表されるRaprであり、
前記Rapdの割合は前記Raの50%以上かつ80%以下であり、
かつ前記Raprの割合は前記Raの20%以上かつ50%以下である、
ことを特徴とする請求項2記載の配向膜材料。
【化2】

【化3】

【請求項4】
一対の基板間に初期配向状態が垂直配向を呈する液晶層を挟持する液晶装置の製造方法であって、
前記基板の前記液晶層側の面に請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の配向膜材料の溶液を塗布する工程と、
前記溶液が塗布された前記基板を加熱して前記溶液の溶媒を揮発させることにより前記基板の表面に少なくとも2種類の鎖長の異なるアルキル鎖が存在する配向膜を形成する工程と、
前記配向膜の表面をラビングすることにより前記配向膜表面の一部に配向規制力を発現させる工程と、
を有することを特徴とする液晶装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−181748(P2010−181748A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26617(P2009−26617)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】