説明

配管溶接部の寿命評価方法

【課題】高強度フェライト鋼からなる配管に対しても適切にその寿命を評価することを目的とする。
【解決手段】円筒状に曲げ加工された配管母材の端部を長手方向に溶接して形成された配管溶接部の寿命評価方法であって、配管の評価部位における配管の周方向の断面形状を特定し、評価部位の表面を検査して評価部位の表面の寿命消費率を推定し、評価部位の内部を検査して内部の損傷状態を評価し、断面形状に基づいて、評価部位の表面の寿命消費率と評価部位の内部の損傷状態とから配管溶接部の寿命を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管溶接部の寿命評価方法であって、特に、火力発電や原子力発電設備におけるボイラチューブ等の高温部材に用いられた高強度フェライト鋼を用いた配管溶接部の寿命評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電や原子力発電設備において使用されるボイラチューブ等の高温部材やその溶接部分は、高温(クリープ温度域)かつ高圧下で外力を受けながら長時間に亘って使用されるため、クリープ損傷が進行してボイドが発生し、さらに発生したボイドの連結によって亀裂が生じ、最終的に破断に至る。設備運用中の高温部材の破断は、発電停止や死亡災害をもたらす虞があるため、火力発電や原子力発電設備においては、クリープ寿命を的確に予測して破断に至る前の最適な時期に高温部材の交換を行うことが、安全運転を確保する上で必要不可欠である。
【0003】
このような大型の構造物は、ボイラチューブのような小径管や大径配管が周方向に溶接されており、場合によっては、図7に示すように、母材31を丸めて端部を突合せ、この端部を長手方向に溶接されている。これらの溶接部32やその熱影響部(溶接熱影響部)では、クリープ損傷の進行が母材と比較して早く、従来から大径配管向けの材料として使用されている1Crや2CrなどCr含有量が低い低合金鋼の溶接熱影響部において、運用中の検査においてクリープ損傷が検出されることがある。
【0004】
ところで、このような大径配管の溶接部においては、クリープ損傷は管外表面や管内表面と比較して管内部(外表面直下)で最も大きいことが各種試験や解析によって知られている。また、素材中の不純元素にはクリープ損傷の進展のし易さに影響を与えるものもある。このため、低合金鋼溶接部のクリープ寿命を的確に評価するため、大径管溶接部に対して、配管母材の化学成分(リン、砒素、アンチモン、錫等)の分析の他、管外表面の損傷状況としてクリープ損傷調査(ボイド個数密度法や組織対比法などによるレプリカ組織観察)と管内部の非破壊検査(超音波探傷法による内部欠陥検査)とを行うことで総合的にその寿命評価を行っている。
【0005】
特開2002−31632号公報(特許文献1)には、配管の診断部位における表面のボイド面積率法による寿命診断と、配管の診断部位における内部の超音波法における寿命診断とを行うことで配管の表面と内部の損傷状態とを関連付けた評価を行い、寿命診断結果によって、対策を選定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−31632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年、ボイラチューブ用の母材や溶接材料として、9Crや12Cr等のCr含有量が高い材料(以下、「高強度フェライト鋼」という)が用いられるようになってきている。この高強度フェライト鋼は、図7に示すように、クリープ緩和が遅く、使用時間と共に徐々に変化するため、レプリカを用いた管外表面のクリープ損傷率が推定できても、内部の損傷分布予想が困難である。また、高強度フェライト鋼は、溶接部近傍における板厚方向の応力分布状況の変化の挙動が低合金鋼とは異なり、管が直管であって断面形状が真円である場合、ロングエルボやショートエルボのように曲げ加工がなされる等して断面形状が扁平形状である場合とでは、溶接部近傍に作用する応力が異なる。具体的には、図8に示すように、溶接部を長径に含む扁平形状1、及び溶接部を短径に含む扁平形状2など、配管の断面形状に応じて配管に作用する応力が変化する。このため、高強度フェライト鋼は、図9に示すように、配管の特に溶接部近傍の断面形状によってクリープ損傷の進行速度が異なる。これらの理由から、高強度フェライト鋼に対する寿命評価を行うに際しては、例えば、特開2002−31632号公報に開示された方法等の従来の寿命評価方法をそのまま適用しても正確な寿命評価をすることが出来ない。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、高強度フェライト鋼を用いた配管に対しても、適切にその寿命を評価することのできる配管溶接部の寿命評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、円筒状に曲げ加工された配管母材の端部を長手方向に溶接して形成された配管溶接部の寿命評価方法であって、前記配管の評価部位における前記配管の周方向の断面形状を特定し、前記評価部位の表面を検査して前記評価部位の表面の寿命消費率を推定し、前記評価部位の内部を検査して前記内部の損傷状態を探傷し、特定された前記断面形状、前記寿命消費率、及び、前記損傷状態に基づいて前記配管溶接部の寿命を評価することを特徴とする配管溶接部の寿命評価方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、円筒状に曲げ加工された配管母材の端部を長手方向に溶接して形成された配管の周方向の断面形状を特定し、これと併せて、評価部位の表面の寿命消費率及び評価部位の内部の損傷状態に基づいて、その寿命を評価する。高温、高圧下で使用される金属材料からなる配管は、管の扁平度及びその溶接部における形状が配管の板厚方向の作用応力の大きさや分布状況に影響を与え、最大損傷位置が変化することがわかってきた。
【0011】
円周方向に溶接された配管は、その溶接部に対する作用応力の分布状況の変化は小さく、最大損傷位置の変化は小さいが、長手方向に溶接された配管の場合には、配管母材の曲げ加工が適切に施されないと配管の扁平度及び溶接部近傍の形状が変化し、最大損傷位置が大きく変化する。従って、例えば、長手方向に溶接された配管は、円周方向に溶接された配管と比較して、管外表面のボイド生成量が同じであっても配管内部の損傷量が大きく、破断に至るまでの残時間が極端に短いことがある。このため、長手方向に溶接して形成された配管について評価部位を定め、この評価部位の形状を特定した上で、管外表面及び間内部の損傷を評価して、配管全体の寿命を評価する。このようにすることで、配管の形状にかかわらず、適切にその寿命を評価することができる。
【0012】
また、上記した配管溶接部の寿命評価方法において、前記評価部位の周方向の断面において同一円周上の複数箇所で外径を計測し、該外径に基づいて前記評価部位の前記溶接部近傍の断面形状を特定し、前記溶接部の断面形状が前記配管の外側に対して凸型である場合には、前記内部の損傷状態に基づいて配管溶接部の寿命を評価し、前記溶接部の断面形状が前記配管の外側に対して凹型である場合には、前記表面の寿命消費率及び前記内部の損傷状態に基づいて前記配管溶接部の寿命を評価することが好ましい。
【0013】
上記したように、高温、高圧下で使用される金属材料からなる配管は、管の扁平度及びその溶接部における形状が配管の板厚方向の作用応力の大きさや分布状況に影響を与える。特に、溶接部近傍の形状によって、板厚方向の応力分布が変化するため、溶接部近傍の形状を把握することが、配管溶接部の寿命評価にとって特に重要となる。このため、評価部位の周方向の断面において同一円周上の複数箇所で外径を計測し、外径に基づいて評価部位の溶接部近傍の断面形状を特定し、その形状に応じた評価を行う。具体的には、溶接部の断面形状が配管の外側に対して凸型である場合には、内部の損傷状態に基づいて配管溶接部の寿命を評価し、溶接部の断面形状が配管の外側に対して凹型である場合には、表面の寿命消費率及び内部の損傷状態に基づいて配管溶接部の寿命を評価する。このようにすることで、配管の形状にかかわらず、適切にその寿命を評価することができる。
【0014】
上記した配管溶接部の寿命評価方法において、前記断面形状に基づいて、前記評価部位に作用する応力値及び応力分布を算出し、算出された該応力値及び応力分布、前記寿命消費率、及び、前記損傷状態に基づいて前記配管溶接部の寿命を評価することが好ましい。
【0015】
断面形状を把握し、評価部位に作用する応力値及び応力分布を算出した上で、寿命評価を行うことで、より精度良く寿命評価を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明によれば、高強度フェライト鋼からなる配管であっても、その形状にかかわらず、適切にその寿命を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の配管溶接部の寿命評価方法の評価対象である配管の周方向断面図である。
【図2】本発明の配管溶接部の寿命評価方法のフローチャートである。
【図3】図表1は、本発明の配管溶接部の寿命評価方法による評価結果に応じた対策を示す図表であり、図表2は、評価部位の溶接部近傍の断面形状が凹型の場合の対策選定基準を示した図表であり、図表3は、評価部位の溶接部近傍の断面形状が凸型の場合の対策選定基準を示した図表である。
【図4】評価部位の溶接部近傍の断面形状が凹型または凸型であるかの判定に関する説明図である。
【図5】本発明の配管溶接部の寿命評価方法を実施するに際し、配管の形状を評価するための参考図である。
【図6】TOFD法にかかる説明図である。
【図7】低合金鋼の応力分布と高強度フェライト鋼の応力分布にかかる説明図である。
【図8】配管の断面形状が真円、溶接部を長径に含む扁平形状1及び溶接部を短径に含む扁平形状2である場合に、夫々にかかる最大主応力と時間の関係を示す説明図である。
【図9】配管の断面形状が真円、溶接部を長径に含む扁平形状1及び溶接部を短径に含む扁平形状2である場合に、夫々のクリープ損傷の生成量と時間の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る配管溶接部の寿命評価方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、寿命評価の対象となる配管の周方向の断面図の例を示している。図1に示すように、配管10は、配管母材11が円筒状に曲げ加工され、配管母材の端部12を9Cr−1Mo鋼等の高強度フェライト鋼からなる溶接材料を用いて長手方向に溶接(溶接部13)して形成されたものであり、評価対象の配管には、ショートエルボやロングエルボのように曲げ加工がなされたものが含まれる。
【0020】
図2は、本実施形態に係る配管溶接部の寿命評価方法のフローチャートであり、図3は、寿命評価の評価指針及び、評価指針に基づいて選定される対策を示す図表である。配管溶接部の寿命評価は、図2のフローチャートに従って行われ、まずステップS11で、配管の評価部位を選定するための検討及び調査を行う。具体的には、評価対象の配管が用いられた発電設備等の運転実績(運転時間、運転履歴等)、配管の使用条件(運転温度、圧力等)、使用材料(例えば、9Cr−1Mo鋼や12Cr鋼等)、寿命消費率、発生応力(応力分布、応力値)等を調査する。次のステップS12では、ステップS11における調査結果を考慮して評価部位を選定・決定する。
【0021】
次のステップS13では、ステップS12で選定された評価部位に対して、評価部位の周方向断面形状の評価、内部の損傷状態の検査及び外表面の寿命消費率の推定を行う。
【0022】
1.周方向断面形状の評価
配管の評価部位の周方向断面形状(以下、「周方向断面」を「断面」といい、「周方向断面形状」を「断面形状」という)を評価するにあたり、評価部位の外径及び管厚の寸法を計測する。評価対象の配管は、鋼板にプレス加工等によって曲げ加工が施され長手方向に溶接されたものであることから、曲げ加工や溶接の精度を考慮すると配管の断面形状は真円にはならない。また、配管全体に曲げ加工がなされ、配管がロングエルボやショートエルボといったエルボ形状である場合には、その断面形状はより複雑になる。このため、評価部位の同一断面において、同一円周上の複数箇所で計測した外径は、計測箇所によってその外径値が異なる。従って、配管の評価部位における溶接部近傍の断面形状を判定するには、具体的には、評価部位の同一断面の同一円周上において、少なくとも2箇所以上の外径を計測する必要がある。
【0023】
評価部位における断面同一円周上の2箇所の外径を計測して形状を判定する場合は、例えば、図4に示すように、この円周の仮想中心と長手方向の溶接部付近とを通る外径Daと、この外径からずれた任意の位置での外径Dbを計測し、これら2つの計測値を比較する。なお、必要に応じて、例えば図1に示すように、配管10の外径を所定の角度毎に(例えば、5°ピッチ)全周に亘って計測し、図5に示すように、その結果を実測値として設計値からの誤差を評価することで、断面形状を評価してもよい。
【0024】
2.内部の検査
評価部位の内部の検査、すなわち、内部の損傷状態を調査するために、超音波探傷法のうち、例えば、斜角探傷法やTOFD(Time of Flight Diffraction Technique)法、Phased Array法を用いることが出来る。以下、本実施形態においては、TOFD法により内部の損傷状態の調査を行うこととして説明する。
【0025】
TOFD法による超音波探傷
TOFD法は、図6に示すように、同一の超音波特性を持つ2つの縦波斜角探触子をそれぞれ送信探触子21と受信探触子22として、配管10の外表面の周方向に沿った溶接部13を挟む位置に、配管10の内部に生じた傷24を挟んで等距離に載置し、送信探触子21により配管内に超音波25を発信させ、受信探触子22により傷24からの回折波26を受信させて検出することにより配管内の傷の有無を検出する方法である。
【0026】
具体的には、送信探触子21により配管内に超音波25を発信させ、受信探触子22により傷24からの回折波26を受信させて検出した結果、傷24を検出しない場合には、受信される信号は配管の表面を伝播する表面透過波27と底面反射波28のみであるが、傷を検出した場合には、表面透過波27と底面反射波28との間に更に傷先端の回折波26が得られる。そして、送信探触子21と受信探触子22との距離Dが一定であることから、各々の伝播時間を読み取ることにより、傷の板厚方向の位置、高さ及び長さなどを幾何学的に求める。
【0027】
3.外表面の検査
外表面の寿命評価をするために、外表面の損傷状態を調査する。調査としては、例えば、クリープボイドの生成量に着目し、管外表面の金属組織のレプリカを採取し、このレプリカを観察する非破壊的手法を用いることができる。非破壊的手法には、ボイド面積率法、Aパラメータ法及びボイド個数密度法などがあり、これらの何れの方法も本実施形態の外表面の損傷状態調査に用いることが可能であるが、以下、本実施形態においては、ボイド個数密度法を例として説明する。
【0028】
(1)レプリカの採取
溶接部13の表面をプラスチック膜に転写する方法により、この溶接部13の表面のレプリカを採取する。例えば、表面に粗研磨、細研磨を順次施し、該表面を鏡面に仕上げ、この鏡面の検査対象部分をエッチングにより選択除去し、このエッチングした部分にレプリカ用プラスチック膜を押貼し、このエッチングした面の凹凸をプラスチック膜に転写する。
【0029】
(2)レプリカの観察及び寿命消費率の推定
光学顕微鏡を用いてレプリカを観察し、クリープ損傷による空孔(クリープボイド)の有無及びその分布状態を調べる。ここでは、傷がクリープ損傷によるものか否かを大まかに判定する。次いで、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてクリープボイドの有無及びその分布状態を精密に観察する。例えば、クリープボイドの生成数を計測し、この計測値に基づきクリープボイド個数密度を求め、予め求められた寿命評価線図(クリープボイド個数密度とクリープ損傷度(寿命消費率)との関係を示すグラフ)からクリープ損傷度、すなわち、外表面の寿命消費率を推定する。
【0030】
次のステップS14では、評価対象の配管の評価部位における周方向の溶接部近傍の形状が凸型であるか凹型であるかを判定する。上記したように、評価対象の配管は、鋼板にプレス加工等によって曲げ加工が施され長手方向に溶接されたものであることから、曲げ加工や溶接の精度を考慮すると配管の断面形状は真円にはならない。このため、配管の評価部位における周方向の溶接部近傍の断面形状を判定するには、具体的には、評価部位の断面において同一円周上の少なくとも2箇所以上の外径を把握する必要がある。
【0031】
評価部位の同一円周上の2箇所の外径を計測して形状を判定する場合は、ステップS13で計測した、評価部位の円周の仮想中心と長手方向の溶接部付近とを通る外径Daと、この外径からずれた任意の位置での外径Dbとを比較することで行う(図6参照)。比較の結果、図6においては、外径Da<外径Dbである場合にはその評価部位の断面は、溶接配管の外側に対して凹型と判定され、外径Da>外径Dbである場合には、その評価部位の断面は、溶接配管の外側に対して凸型と判定される。判定の結果、溶接部近傍の形状が凸型であると判断された場合には、ステップS15に進み、凹型であると判断された場合にはステップS16に進む。
【0032】
ステップS15では、先のステップS14で溶接部近傍の断面形状が溶接配管の外側に対して凸型と判断された場合には、寿命末期まで管外表面に損傷が現れない蓋然性が高いことから、評価部位の内部損傷の状態を評価の指針として寿命評価を行い、評価結果に基づいて図3の図表1に示す対策I〜IVの中から、配管に対して必要な対策を選定する。すなわち、内部損傷の状態を検査したTOFD法による検査結果に基づいて、例えば、図3の図表2に示すように、傷の高さと予め定めた所定の閾値であるαとの比較において講ずべき対策を選定し、決定する。
【0033】
具体的には、傷の高さが閾値α以上である場合には、外表面に目立ったクリープボイドが発生していなくとも、評価部位の内部に多くのクリープボイド、亀裂、欠陥が相当数現れていることが予測されるため、配管の交換等の早急な措置が必要であるとして対策Iを講じる必要があると判断する。また、傷の高さが閾値α未満である場合には、評価部位の内部に多くのクリープボイド、亀裂、欠陥が生じているものの早急に配管の交換をすべきかについては更なる検討が必要であるとして対策IIを講じると判断する。さらに、傷がない場合には、配管を直ちに交換する必要はなく、所定期間が経過した後に再度寿命を評価すればよいため、次の寿命評価の時期を検討すべきとして対策IVを講じると判断する。
【0034】
一方、先のステップS14で溶接部近傍の断面形状が溶接配管の外側に対して凹型と判断された場合には、評価部位の外表面の損傷状態と内部損傷状態とを評価の指針として寿命評価を行い、評価結果に基づいて図3の図表1に示す対策I〜IVの中から、配管に対して必要な対策を選定する。すなわち、図3の図表3に示すように、外表面の損傷状態を検査した非破壊的手法であるボイド個数密度法による検査結果に基づいて、例えば、検査の結果推定された寿命消費率と予め定めた閾値φ1及びφ2との比較、及び、内部損傷の状態を検査したTOFD法による検査結果に基づいて、例えば、傷の高さと予め定められた所定の閾値であるαとの比較から講ずべき対策を選定し、決定する。
【0035】
具体的には、検査結果である外表面の寿命評価率Dが、予め定めた閾値φ1以上である場合には、閾値φ1を超える多くのクリープボイドが生じており、その損傷度が高いことから、TOFD法による検査結果にかかわらず、配管の交換等の早急な措置が必要であるとして対策Iを講じる必要があると判断する。
【0036】
次に、寿命評価率Dが閾値φ2より大きく、閾値φ1以下である場合には、TOFD法による検査結果に応じてその対策を選定する。すなわち、傷の高さが閾値α以上である場合には、仮に外表面に目立ったクリープボイドが発生していなくとも、評価部位の内部に多くのクリープボイド、亀裂、欠陥が相当数現れていることが予測されるため、配管の交換等の早急な措置が必要であるとして対策Iを講じる必要があると判断する。また、傷の高さが閾値α未満である場合には、評価部位の内部に多くのクリープボイド、亀裂、欠陥が生じているものの早急に配管の交換をすべきかについては更なる検討が必要であるとして対策IIを講じると判断する。さらに、傷がない場合には、クリープボイド、亀裂、欠陥の状況を考慮して、他種の検査を行う必要があるか否か、また、次回の寿命評価の時期等について検討すべきとの対策IIIを講じると判断する。
【0037】
さらに、寿命評価率Dが閾値φ2未満である場合にも、TOFD法による検査結果に応じてその対策を選定する。すなわち、傷の高さが閾値α以上である場合には、仮に外表面に目立ったクリープボイドが発生していなくとも、評価部位の内部に亀裂、欠陥が相当数現れていることが予測される。しかしながら、これらの傷や亀裂等はクリープボイドでなく、例えば、ブローホールのように溶接材料内に残存したガスに起因する製造時の欠陥である可能性があるため、早急に配管の交換をすべきかについては更なる検討が必要であるとして対策IIを講じると判断する。
【0038】
また、傷の高さが閾値α未満である場合には、評価部位の内部に多くの亀裂、欠陥が生じているものの、これらの亀裂や欠陥が、製造時の欠陥である可能性があるため、亀裂、欠陥の状況を考慮して、他種の検査を行う必要があるか否か、また、次回の寿命評価の時期等について検討すべきとの対策IIIを講じると判断する。そして、傷がない場合には、配管を直ちに交換する必要はなく、所定期間が経過した後に再度寿命を評価すればよいため、次の寿命評価の時期を検討すべきとして対策IVを講じると判断する。
【0039】
なお、例えば、ステップS13及びステップS14での断面形状の判定において、判定結果の断面形状が、例えば、極端に扁平形状の場合などは、配管10の外径を所定の角度毎に(例えば、5°ピッチ)全周に亘って計測し、この結果に基づいて、応力の分布状況及び作用応力の値を解析によって求め、上記評価基準に加えることでより詳細に寿命を評価することが好ましい。
【0040】
このように、配管の断面形状を測定して溶接部13の寿命評価を行うので、溶接部に作用する応力の違いによって異なる損傷の発生時期、進展の速度も考慮することができ、高強度フェライト鋼であっても精度よくその寿命を評価することが可能となる。
【0041】
なお、本実施形態においては講ずべき対策を4段階に区分したが、これに限られることはなく、発電設備等の運転状況や損傷性状等を具体的に検討し、本発明の高強度フェライト鋼の寿命評価方法を適用する配管に適した対策を決定することができる。
【0042】
また、上述のように、本発明の高強度フェライト鋼の寿命評価方法は、評価部位や配管母材の化学成分(リン、砒素、アンチモン、錫等)を分析しなくても寿命評価が可能であり、評価ステップを簡便にすることが出来るという効果もある。
【符号の説明】
【0043】
10 配管
11 配管母材
12 端部
13 溶接部
21 送信探触子
22 受信探触子
24 傷
25 超音波
26 回折波
27 表面透過波
28 底面反射波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に曲げ加工された配管母材の端部を長手方向に溶接して形成された配管溶接部の寿命評価方法であって、
前記配管の評価部位における前記配管の周方向の断面形状を特定し、
前記評価部位の表面を検査して前記評価部位の表面の寿命消費率を推定し、
前記評価部位の内部を検査して前記内部の損傷状態を探傷し、
特定された前記断面形状、前記寿命消費率、及び、前記損傷状態に基づいて前記配管溶接部の寿命を評価することを特徴とする配管溶接部の寿命評価方法。
【請求項2】
前記評価部位の周方向の断面において同一円周上の複数箇所で外径を計測し、該外径に基づいて前記評価部位の前記溶接部近傍の断面形状を特定し、
前記溶接部の断面形状が前記配管の外側に対して凸型である場合には、前記内部の損傷状態に基づいて配管溶接部の寿命を評価し、
前記溶接部の断面形状が前記配管の外側に対して凹型である場合には、前記表面の寿命消費率及び前記内部の損傷状態に基づいて前記配管溶接部の寿命を評価することを特徴とする請求項1記載の配管溶接部の寿命評価方法。
【請求項3】
前記断面形状に基づいて、前記評価部位に作用する応力値及び応力分布を算出し、
算出された該応力値及び応力分布、前記寿命消費率、及び、前記損傷状態に基づいて前記配管溶接部の寿命を評価することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の配管溶接部の寿命評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−236941(P2010−236941A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83364(P2009−83364)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】