説明

配管部材内壁からの微粒子発生の評価方法

【課題】高純度液体のユースポイントへの移送配管を組むことなく配管部材内壁からの微粒子発生傾向を推定することができる微粒子発生の評価方法を提供する。
【解決手段】(a)被測定配管の一部で、内径が2cm以上、10cm以下で、長さが内径の25倍以上、300cm以下の実質的に直線状部位を測定管とし、(b)測定管の一端部を閉じ、(c)測定管に、測定管内容積の70%以上、95%以下に相当する量の液体を封入し、(c)測定管のもう一方の端部を閉じ、(d)測定管を水平長手方向に往復振盪させ、(e)測定管から液体を取出し、(f)この液体中の微粒子数を計測する、の各段階を経て配管部材内壁からの微粒子発生傾向を評価する。振盪は、測定配管の長手片道方向に毎秒、内径の0.3倍以上、40cm以下の速度で水平に移動させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管部材内壁からの微粒子発生の評価方法、特に電子部品の製造、医薬品の製造等にかかわる高純度液体供給装置における配管部材内壁から高純度液体中への微粒子発生の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品の製造、医薬品の製造等においては、純水など高純度液体が多量に用いられている。特に、最近では電子部品の分野において微細化、高性能化が進み、そこに使用される高純度液体もさらに一段高い高純度化が進められている。
【0003】
純水など高純度液体は多くの場合、製造される場所から使用される場所(ユースポイント)に“移送”という手段がとられる。このとき、純水や高純度液体は汚染されることなく、経済的に且つ安全に移送される必要があり、微粒子の混入は致命的な問題となる。例えば、近年の半導体製造用の超純水は、純度を表す抵抗率が18.2MΩ・cm以上、パターン欠損など直接的なデバイス不良を引き起こす粒径0.03μm以上の微粒子数を1個/mL以下とするなどその要求度は一層厳しくなっている。
【0004】
純水を例にとると、水道水、工業用水、井水等を原水とし、ろ過、凝集沈殿、精密ろ過膜等による前処理が施され、イオン交換、脱気、紫外線照射、限外ろ過膜(UF)等の処理が行われて水中に残存する極微量のイオン、シリカ、有機物、微粒子等が除去された後に、ユースポイントに送られる。通常、純水装置では末端に限外濾過膜が使用され、この後で各ユースポイントに移送される。限外ろ過膜では生菌を含む微粒子が除去され、限外ろ過膜透過側には微粒子はほとんど存在しない。しかし、限外ろ過膜透過後の純水移送配管に起因する微粒子発生が観察され、特に半導体製造用の超純水となるとこの微粒子発生は無視できないものとなってきた。純水供給装置に使用される配管は設置前の外部空気雰囲気にあるとき、静電気により他の汚れ成分と一緒なって空気中の塵を引き寄せ配管内表面に固着させることから、純水供給装置として設置した後1週間以上、ある場合には1ヶ月以上の長期に亘り純水を流して配管内表面の微粒子等の汚れ成分を排出させる必要がある。
【0005】
純水供給装置の洗浄は、洗浄用に流した純水中の微粒子を純水供給装置の末端部で経時的に計測して、水中の微粒子数が所定の管理目標値に到達させるまで洗浄が続けられる。しかし、配管あるいは微粒子の性状により配管の洗浄に必要な期間は異なることから、純水供給装置の本格稼動開始の時期が確定できないという問題があった。このような配管から発生する微粒子(汚れ)を評価する方法はこれまでに報告されていない。
【0006】
液体中微粒子数の計測はよく知られており、例えば、レーザ散乱や音波を応用するパーティクルカウンタによる方法、微粒子を濾過膜上に捕集して拡大して計数する直接顕微鏡法があり、直接顕微鏡法においてはさらに光学顕微鏡による方法、電子顕微鏡による方法等がある〔例えば、非特許文献1参照〕。
【0007】
【非特許文献1】半導体基盤技術研究会編「超純水の科学」、株式会社リアライス社、平成2年9月11日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、高純度液体のユースポイントへの移送配管を組むことなく配管部材内壁からの微粒子発生傾向を推定することができる微粒子発生の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、本発明は配管部材内壁からの微粒子発生の評価方法に係り、(a)被測定配管の一部で、内径が2cm以上、10cm以下で、長さが内径の25倍以上、300cm以下の実質的に直線状部位を測定管とし、(b)測定管の一端部を閉じ、(c)測定管に、測定管内容積の70%以上、95%以下に相当する量の液体を封入し、(c)測定管のもう一方の端部を閉じ、(d)測定管を水平長手方向に往復振盪させ、(e)測定管から液体を取出し、(f)この液体中の微粒子数を計測する、の各段階を経て行われる。
【0010】
このときの振盪は、測定配管の長手片道方向に毎秒、内径の0.3倍以上、40cm以下の速度で水平に移動させることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法により、高純度液体の供給装置を組立てる前に配管内壁からの微粒子発生傾向を予測することで、移送配管の微粒子発生を抑制するための、配管の選択、最適な洗浄方法の選定、洗浄期間の推定を行えることができ、またそれにより高純度液体の供給装置立ち上げ期間の明確化、さらには期間短縮への情報が提供されるなど利点が得られる。この他、限外ろ過等微粒子除去設備以降について微粒子発生の観点から許容される配管長が求められる等、高純度液体の供給装置の設計にも利用できる
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、配管部材の微粒子発生の評価方法であり、特に配管部材からの微粒子発生が問題となる純水等高純度液体中への微粒子発生を対象にする。高純度液体を対象としたときには、装置配管や容器から移ってくる微粒子が問題となることから、本発明では装置に使用すると同種の配管から測定管を作成し、これを用いて短い時間で容易に配管部材からの微粒子発生傾向が評価できる方法を見出したものである。以下、測定のステップ順に説明する。
【0013】
先ず、被測定配管の実質的に直線状部位を切断して測定管とする。測定管は、一本の配管を特定長に切断したものでもよく、二本の短い配管を継ぎ手で延長し特定長としたものでもよい。二本の配管を継ぎ手で延長した形態は、表面が平滑でない配管切断面に付着する微粒子発生についても評価の対象にすることができることになる。
【0014】
測定管は、内径が2cm以上で10cm以下、好ましくは3cm以上で5cm以下であり、長さが内径の25倍以上で300cm以下、好ましくは70cm以上で120cm以下である。これら測定管の内径、長さの範囲は、本発明の目的である配管からの微粒子発生が再現性よく把握される範囲、すなわち、微粒子測定に必要な液体量が確保され、振盪により測定管からの微粒子の移動が可能であり、測定管内壁面積が蓋の内接面積の50倍以上となって測定管を封止する蓋からの微粒子の実質的な影響がなく、かつ測定作業実施上可能な範囲として定められたものである。従って、この範囲より小さくなると微粒子の移行が不十分になったり、あるいは測定精度が劣ったりする。またこの範囲を超えるとき測定は実施できるが実用的でないことがある。加えて測定管長さが短くなると、測定管両端部の蓋から発生する微粒子が無視できなくなるという不都合もある。
【0015】
測定管は、高純度液体の供給装置に使用される配管、あるいは使用を予定する配管であり、その配管材質は限定するものではないが、通常、塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、フッ素系樹脂等である。
【0016】
次いで、測定管の一端部を閉じ、この中に液体を入れてからもう一端を閉じる。このとき使用する測定管両末端に施す蓋は、測定管と同じ材料であるのが好ましいが、それが満たされないときは微粒子発生が少ないことを確認したもの、あるいはさらに別途高純度液体中で充分振盪されて微粒子発生を少なくしてから採用する。
【0017】
本発明に用いる高純度液体は、配管が高純度液体と接触したとき配管部材内壁からの微粒子発生傾向を評価するものであるから、高純度液体の供給装置に使用されると同じ種類の液体で、かつ微粒子数の少ないものから選ばれる。従って、測定においてもそれに見合った高純度液体、あるいは超高純度液体でなくてはならない。しかし、純水と超純水、あるいは高純度液体と超高純度液体は、それぞれ明確に区分けされるものではないので、以下、本発明では特に断りのない限り単に「液体」と記載するが、これは純水等の高純度液体、超純水等の超高純度液体を包括するものである。実施にあたっては高純度液体の供給装置の配管、あるいは使用される高純度液体により、任意の清澄度を有する液体が選ばれる。また、液体の種類は、通常、水や酸、アルカリ、界面活性剤等を含んだ水溶液、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、アミド系溶剤、炭化水素系溶剤等、常温で液体の各種有機溶剤あるいはこれらの混合物である。水の場合、0.05μm以上の粒子数が10個/mL以下の水を用いることが好ましい。
【0018】
測定管内に封じられる液体は、測定管内容積に対し70〜95容量%、好ましくは75〜85容量%に相当する量のとし、それ以外は空間として残すようにする。
【0019】
測定管に液体が封入された後、測定管を長手方向に往復振盪させる。すなわち、図1のように振盪器の上に液体が封入された測定管を固定して、測定管を往復振盪させる。測定管は、水平長手方向に振盪させるが、測定管の移動速度は、水平長手方向に片道毎秒、測定管の内径の0.3倍以上、40cm以下とする。このときの最低速度は、測定管の内径をDとしたとき片道毎秒0.3D以上となるが、測定管の液体封入率に応じて、95容量%の場合は片道毎秒0.3D以上、90容量%の場合は片道毎秒0.8D以上、85容量%の場合は片道毎秒1.5D以上、80容量%の場合は片道毎秒2.1D以上、75容量%の場合は片道毎秒2.8D以上、70容量%の場合は片道毎秒3.5D以上とすることが好ましい。移動速度の上限である片道毎秒40cm以下は、実用的な見地から選ばれたものである。
【0020】
振盪時における測定管の移動速度は、測定管がその水平長手方向に振盪されたとき内部の液体が測定管の内壁天井を含む全域に接触し、液体の慣性力より測定管内壁全面に付着する微粒子を剥離させる条件から求められたものである。すなわち、振盪速度を上記の範囲にすることで、測定管内に封じられた液体が振盪により測定管内壁全体に接し、かつ測定管内部に付着している微粒子をその全域に亘り剥がして液中に移動させることができる。
【0021】
本発明において使用される振盪器の代表的な例では、振幅は1〜4cm、好ましくは2〜3cmであり、振動の周期は、0.3〜2.0秒、好ましくは0.9〜1.2秒であり、振盪時間は、測定管の汚れの程度、振盪条件等により大きく異なるが通常、好ましくは15時間以上、さらに好ましくは20〜24時間である。また、時間の経過とともに試料液体中の微粒子数を数点測定し、その増加傾向をみることは配管からの微粒子移行の時間的推移をみる上で有用である。以上の測定を行う温度は、想定する高純度液体供給装置が使用される温度であり、通常室温である。
【0022】
振盪の後、測定管から液体を取出し、液体中の微粒子数を計測する。測定前後での液体中の微粒子数を比較することにより測定管からの微粒子発生傾向がわかる。ここで測定される液体中の微粒子数は、測定管の寸法(内径、長さ)、測定管中の液体充填量、振盪、の条件等により変るが、本発明の範囲内の任意の条件に固定することで測定値にバラツキが少なく、液体の流動で発生する十分な微粒子発生量(微粒子数)を得ることができ、測定に用いた配管の微粒子発生傾向を知ることができる。従って、各種材料を用いてこれらの条件を揃えて測定すれば、各種材料間で微粒子発生特性を比較でき、最適な材料を選択できる。
【0023】
水中の微粒子数の計測は従来公知の方法で行われ、例えば、レーザ散乱や音波を応用するパーティクルカウンタによる方法、微粒子を濾過膜上に捕集して光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡で拡大して計数する直接顕微鏡法がある。パーティクルカウンタによる方法等気泡が微粒子の測定上のノイズとなる場合には、振盪が終わった後の測定管を垂直にして、充分な時間、通常5時間以上静置して脱泡させてから測定するのがよい。
【0024】
本発明における測定管への液体封入、振盪、微粒子計測の一連の作業は、対象とする測定管以外からの微粒子混入は避けなければならず、従って、クリーンルーム内、好ましくはクラス“6”以上の清浄度をもつクリーンルーム内で行う。
【実施例】
【0025】
測定対象とする配管から5本の測定管を作り、同一条件で前処理(洗浄)した後、クラス“6”のクリーンルーム中でそれぞれに超純水を封じ、室温にて振盪器〔アズワン(株)製、「SRR−2」(型番)〕を用いて所定の振盪を行った。振盪後、各測定管中の液体を取出し、光散乱式液中微粒子検出法〔測定器;RION(株)製、「検出器;KS−17」(型番)〕で0.05μm以上の粒子径の粒子数を測定した。測定管、超純水の量、振盪条件、および粒子数測定結果を表1、表2に示す。尚、粒子数測定結果には、5本の測定管それぞれの微粒子数についての平均値及び、その標準偏差、変動係数を示してある。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
No.1では、No.2、No.3と同じ内径であるが振盪速度が遅く、封入水が管内全面に接液しなかったため配管からの封入水への微粒子の移動が充分ではない。No.4〜6では、No.1〜3より小さい内径の測定管を用いている。No.5では測定管への充填量が多過ぎ、封入水が流動しないため同じ内径で規定条件を満たしているNo.6の結果と比較するとせん断力不足により配管からの微粒子の移動が不充分で微粒子数が少なかった。No.4では管長が短いため、封入量が少なく、かつ相対的に測定管端部の蓋の接液面が大きくなるため、測定管端部の蓋からの粒子発生の影響が大きく出て測定のバラツキが大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
高純度液体の供給装置を組立てる前に配管からの微粒子発生傾向を予め把握することができることで、移送配管の微粒子発生を抑制するための、配管の選択、最適な洗浄方法の選定、あるいは洗浄期間の推定をすることができるようになり、さらには高純度液体の供給装置立ち上げ期間を明確化して工程短縮化への情報を提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】測定管を振盪器上に設置した状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0031】
1:測定管
2:測定管端の閉鎖部
3:振盪器
4:振盪器上の測定管固定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)被測定配管の一部で、内径が2cm以上、10cm以下で、長さが内径の25倍以上、300cm以下の実質的に直線状部位を測定管とし、(b)前記測定管の一端部を閉じ、(c)前記測定管に測定管内容積の70%以上、95%以下に相当する量の液体を封入し、(c)前記測定管のもう一方の端部を閉じ、(d)前記測定管を水平長手方向に往復振盪させ、(e)前記測定管から前記液体を取出し、(f)前記液体中の微粒子数を計測する、の各段階を経て行われることを特徴とする配管部材内壁からの微粒子発生の評価方法。
【請求項2】
前記振盪が、前記測定配管の長手片道方向に毎秒、内径の0.3倍以上、40cm以下の速度で水平に移動させることを特徴とする請求項1に記載の配管部材内壁からの微粒子発生の評価方法。

【図1】
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