説明

配電線電圧変動補償装置

【課題】
本発明の目的は、配電線に接続される負荷の負荷変動状態に拘らず有効電力と無効電力を補償する電力品質補償装置による電圧変動補償を安定に行える配電線電圧変動補償装置を提供することにある。
【解決手段】
配電線1の電力品質補償手段9の接続位置よりも交流系統2側にタップ付変圧器4を設ける。負荷3の有効電力と無効電力を負荷電力検出器7で検出する。タップ位置調整器8は負荷3の有効電力と無効電力により負荷端までの電圧降下を求め、この電圧降下を補償するようにタップ付変圧器4のタップ位置を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は交流系統の電力を負荷に給電する配電線の電圧変動を補償する配電線電圧変動補償装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力自由化の進展に伴い風力発電、太陽光発電などの分散電源によって配電線の負荷に給電することが多くなると考えられる。分散電源により給電すると瞬時停電や負荷変動による配電線電圧の変動が大きくなる傾向にある。
【0003】
従来、配電線の電圧変動は無効電力補償装置とタップ付変圧器を組合わせて補償することが知られている。このことは、例えば、下記特許文献1に記載されている。ところが、瞬時停電等の電圧低下の大きな事故に対して負荷に電力を供給するためには無効電力補償に加えて有効電力補償を行う必要がある。
【0004】
このことを解決するために、有効電力補償と無効電力補償を行う電力品質補償装置が提案されている。電力品質補償装置は、交流を直流に変換する自励式変換器の直流側に平滑コンデンサと大容量の電力蓄積コンデンサを並列接続してエネルギー蓄積を行うもので、電力蓄積コンデンサの充放電に伴う直流電圧の変動を抑制し、自励式変換器の運転効率を高めるため平滑コンデンサと電力蓄積コンデンサの間に接続されたチョッパーによって平滑コンデンサの直流電圧を一定に保つ制御を行うようにしている。電力蓄積コンデンサの充電は瞬停事故に備えて交流系統の平常時に行っている。このような電力品質補償装置については、例えば、下記の非特許文献1に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−281669
【非特許文献1】平成15年電気学会産業電気電力応用研究会資料IEA−03 −28、2003年6月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有効電力補償と無効電力補償を行う電力品質補償装置は負荷変動による電圧変動補償をしている時に大きな電圧変動が発生すると電圧変動補償範囲を逸脱し電圧変動補償をできなくなるという事態が発生する虞がある。
【0007】
本発明の目的は、配電線に接続される負荷の負荷変動状態に拘らず有効電力と無効電力を補償する電力品質補償装置による電圧変動補償を安定に行える配電線電圧変動補償装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の特徴とするところは、配電線の電力品質補償手段の接続位置よりも交流系統側にタップ付変圧器を設け、負荷に給電される負荷電力を検出して負荷端までの電圧降下を求め、この電圧降下を補償するようにタップ付変圧器のタップ位置を調整するようにしたことにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明は配電線の電圧変動を電力品質補償装置により瞬時に補償し、その後に分単位でステップ状に動作するタップ付変圧器が電力品質補償装置で補償していた電圧変動を補償するようになるので、負荷変動によって電力品質補償装置の電圧変動補償範囲を逸脱する機会を著しく低減でき電力品質補償装置による電圧変動補償を安定に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
配電線は交流系統の電力を負荷に給電する。配電線には配電線電圧を制御するタップ付変圧器が設けられている。負荷に給電される負荷電力は負荷電力検出手段により検出される。タップ位置調整手段は負荷電力を入力し負荷の設定力率に基づき有効電力と無効電力を求め、この有効電力と無効電力による負荷端までの電圧降下を補償するようにタップ付変圧器のタップ位置を調整する。電力品質補償手段はタップ付変圧器よりも負荷側の配電線に接続され、配電線電圧が設定電圧になるように有効電力と無効電力を配電線に供給する。
【0011】
電力品質補償手段は、交流を直流に変換する自励式変換器と、自励式変換器の直流出力を平滑する平滑コンデンサと、平滑コンデンサと並列接続された電力蓄積コンデンサと、平滑コンデンサと電力蓄積コンデンサの間に接続され、電力蓄積コンデンサの充放電を行うチョッパとを具備している。
【実施例】
【0012】
図1に本発明の一実施例を示す。
【0013】
図1において、配電線1に接続されている負荷3は交流系統(変電所)2から電力を給電される。配電線1には配電線電圧を制御するタップ付変圧器(SVR)4が設けられている。タップ付変圧器4の1次側(交流系統側)に変成器5と変流器6が設けられている。変成器5で検出した配電線電圧(負荷電圧)と変流器6で検出した負荷電流は負荷電力検出器7に入力される。
【0014】
負荷電力検出器7は負荷電圧と負荷電流により負荷3に給電される負荷の有効電力と無効電力を検出しタップ位置調整器8に加える。タップ位置調整器8は有効電力と無効電力を入力し負荷(負荷端)3までの電圧降下を補償するようにタップ付変圧器4のタップ位置を調整する。
【0015】
電力品質補償装置(PQC)9はタップ付変圧器4よりも負荷側の配電線1に接続され、配電線電圧が設定電圧Vsになるように有効電力と無効電力を配電線1に供給する。なお、図1には配電線1の抵抗をR、リアクタンスをXとして示している。
【0016】
図2に電力品質補償装置9の一例構成を示す。交流を直流に変換する自励式変換器10の交流側は変換用変圧器11を介して配電線1に接続される。自励式変換器10の直流側には直流出力を平滑する平滑コンデンサ12と電力蓄積コンデンサ13が並列接続されている。平滑コンデンサ12と電力蓄積コンデンサ13の間には電力蓄積コンデンサ13の充放電を行うチョッパ14が接続されている。
【0017】
自励式変換器10は変換器制御装置15によりパルス幅変調制御(PWM制御)される。変換器制御装置15は配電線電圧の電圧設定値Vsと配電線1の基準位相信号θoを与えられ、有効分と無効分の非干渉ベクトル演算を行って自励式変換器10をPWM制御する。自励式変換器10としては電圧型自励式変換器が用いられ、また、電力蓄積コンデンサ13としては高速で高効率な充放電を行える電気二重層コンデンサが用いられる。
【0018】
なお、図2はチョッパ14の制御装置の図示を省略している。
【0019】
次に動作を説明する。
【0020】
電力品質補償装置9は配電線1の電圧変動を次のようにして補償する。
【0021】
送電線や配電線の負荷変化に伴う電圧降下ΔVaは近似的に式1で表される。
ΔVa≒X・ΔQ+R・ΔP …(式1)
ΔP、ΔQ:負荷3の有効電力と無効電力の変化分
一般に送電線ではX>>Rであるため、ΔVa≒X・ΔQ と近似できる。しかし、配電線1はX≒Rであり、配電線1の抵抗Rによる電圧降下を無視できなくなる。
【0022】
無効電力補償装置は無効電力変化分ΔQを補償して電圧低下を補償する。しかし、配電線3は抵抗RとリアクタンスXが略等しくなっており、無効電力変化分ΔQのみの補償では有効電力変化分ΔPによる電圧低下を補償できなくなる。このことは、負荷変化ではなく交流系統2の事故等による電圧低下を無効電力補償装置で補償しようとしても、電圧低下が大きくなると補償できなくなることと同様である。なぜなら、無効電力補償装置は無効電力による電圧低下のみを補償するものであり、系統事故時等の電圧補償には負荷3に有効電力も供給しないと電圧が確立できないからである。
【0023】
電力品質補償装置9は無効電力補償に加えて有効電力補償を行っているので、無効電力変化による電圧変化に加えて有効電力変化に伴う配電線1の電圧低下を補償することができる。また、交流系統2の事故による瞬停や停電に対しても負荷3に有効電力と無効電力の両方を補償できるので、電圧変動補償を行い負荷3への電力供給を行える。
【0024】
このようにして電力品質補償装置9が配電線1の電圧変動補償を行っているときにタップ付変圧器4は次のようにして電圧変動を補償する。
【0025】
負荷電力検出器7は変成器5で検出した配電線1の瞬時交流電圧Eu、Ev、Ewと変流器6で検出した瞬時交流電流Iu、Iv、Iwにより負荷3の有効電力Pと無効電力Qを求める。有効電力Pは式2で求められる。
P=Eu・Iu+Ev・Iv+Ew・Iw …(式2)
【0026】
無効電力Qは式2の交流電圧Eu、Ev、Ewと交流電流Iu、Iv、Iwの電気角で90°遅れた交流電圧と交流電流によって有効電力Pと同様に求められる。
【0027】
負荷電力検出器7で検出した有効電力Pと無効電力Qはタップ位置調整器8に加えられる。タップ位置調整器8は入力した有効電力Pと無効電力Qを用いて負荷3の端子までの配電線1の電圧降下ΔVbを式3で求める。
ΔVb=R・P+X・Q …(式3)
【0028】
タップ位置調整器8は有効電力Pと無効電力Qによる負荷(負荷端)3までの電圧降下ΔVbを補償するようにタップ付変圧器4のタップ位置を調整する。タップ付変圧器4のタップ位置調整は1分〜2分程度の分単位でステップ状に行われる
このように、負荷端3の電圧低下ΔVbをタップ付変圧器4のタップ位置を調整することによって補償する。即ち、配電線1に流れる負荷電力PLを検出して求めた電圧降下ΔVbをタップ付変圧器4のタップ位置を調整することによって補償する。
【0029】
電力品質補償装置9はタップ付変圧器4によって補償し切れなかった電圧低下分を補償する。したがって、電力品質補償装置9はタップ付変圧器4と協調して電圧変動を補償することによって電圧変動補償出力を小さく保つことができ、大きな電圧変動が発生しても能力一杯に補償することができる。タップ付変圧器4のタップ切替え動作は分単位であり、それより短い周期の電圧変動は電力品質補償装置9で補償されることになる。
【0030】
また、電力品質補償装置9の有効電力は負荷3の有効電力変動を抑制するように、例えば配電線1の潮流を負荷変動に拘らず一定に保つように直流電力蓄積コンデンサ13に充放電動作を行わせる。
【0031】
このようにして配電線の電圧変動補償を行うのであるが、配電線の電圧変動を電力品質補償装置により瞬時に補償し、その後に分単位でステップ状に動作するタップ付変圧器が電力品質補償装置で補償していた電圧変動を補償するようになるので、負荷変動によって電力品質補償装置の電圧変動補償範囲を逸脱する機会を著しく低減でき電力品質補償装置による電圧変動補償を安定に行うことができる。
【0032】
このことを図1を参照して説明する。電力品質補償装置(PQC)9は配電線1の有効電力と無効電力の変化を補償することによって電圧変動や電圧低下を補償する。一方、タップ付変圧器(SVR)4は配電線1の電圧変動や電圧低下を検出してタップ位置を調整する。両者は負荷端3の電圧を設定電圧に保つように動作する。
【0033】
PQC9の応答時間はms単位であり、SVR4は遮断器の切替動作を伴うので、分単位となる。従って、負荷端3の電圧を制御する場合、分単位以上の緩やかな電圧変動をSVR4で補償し、ms単位の比較的早い変動をPQC9で補償すると、PQC9のみで緩やかな変動と高速な変動、両方を補償するよりも、大きな変動を補償することができる。
【0034】
図3(a)は負荷変動による電圧変動を示し、電圧変動の大きい時刻t2以降ではPQC9の電圧変動補償範囲を超えて電圧補償できなくなる。図3(b)は図3(a)の負荷変動における緩やかな電圧変動を検出し、時刻t1でSVR4のタップ位置を調整している。図3(c)はSVR4のタップ位置制御を行い、補償し切れなかった応答の早い変動をPQC9で補償する場合を示している。図3(c)から明らかなように、SVR4と協調した制御を行うことによりPQC9の電圧変動補償範囲を超えることなく電圧補償を行える。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例を示す構成図である。
【図2】電力品質補償装置の一例を示す構成図である。
【図3】本発明を説明するための波形図である。
【符号の説明】
【0036】
1…配電線、2…交流系統、3…負荷、4…タップ付変圧器、5…変成器、6…変流器、7…負荷電力検出器、8…タップ位置調整器、9…電力品質補償装置、10…自励式変換器、11…変換用変圧器、12…平滑コンデンサ、13…電力蓄積コンデンサ、14…チョッパ、15…変換器制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流系統の電力を負荷に給電する配電線と、前記配電線に設けられたタップ付変圧器と、前記負荷に給電される負荷電力を検出する負荷電力検出手段と、前記負荷電力を入力し前記負荷端までの電圧降下を求め、この電圧降下を補償するように前記タップ付変圧器のタップ位置を調整するタップ位置調整手段と、前記タップ付変圧器よりも前記負荷側の配電線に接続され、前記配電線電圧が設定電圧になるように有効電力と無効電力を前記配電線に供給する電力品質補償手段とを具備することを特徴とする配電線電圧変動補償装置。
【請求項2】
交流系統の電力を負荷に給電する配電線と、前記配電線に設けられ配電線電圧を制御するタップ付変圧器と、前記負荷の有効電力と無効電力を検出する負荷電力検出手段と、前記負荷電力検出手段で検出した負荷の有効電力と無効電力を入力して、この有効電力と無効電力による前記負荷端までの電圧降下を補償するように前記タップ付変圧器のタップ位置を調整するタップ位置調整手段と、前記タップ付変圧器よりも前記負荷側の配電線に接続され、前記配電線電圧が設定電圧になるように有効電力と無効電力を前記配電線に供給する電力品質補償手段とを具備することを特徴とする配電線電圧変動補償装置。
【請求項3】
請求項1、2のいずれか1項において、前記電力品質補償手段は、交流を直流に変換する自励式変換器と、前記自励式変換器の直流出力を平滑する平滑コンデンサと、前記平滑コンデンサと並列接続された電力蓄積コンデンサと、前記平滑コンデンサと前記電力蓄積コンデンサの間に接続され、前記電力蓄積コンデンサの充放電を行うチョッパとを具備することを特徴とする配電線電圧変動補償装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−14445(P2006−14445A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185891(P2004−185891)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】