説明

酢酸ビニルの製造方法

【課題】 酢酸ビニル反応器中に供給される反応混合物を酢酸で飽和させた上で、酸素もしくは酸素含有ガスの存在下にエチレン及び酢酸から気相で酢酸ビニルを製造する方法の提供。
【解決手段】
本発明は、酢酸ビニル反応器に供給されるエチレン含有ガスを酢酸で飽和するにあたり、酢酸ビニルプロセスで回収された酢酸を、向流式ストリッピング部及び精留部を有する塔に導入し、かつその塔底からエチレン含有ガスを供給し、この際、塔底から抜いた液体を二つの部分流に分割し、そのうちの一つの部分流は、十分な酢酸飽和に必要な最小ポンプ循環を維持しながら塔にポンプ返送する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸ビニル反応器中に供給される反応混合物を酢酸で飽和させた上で、酸素もしくは酸素含有ガスの存在下にエチレン及び酢酸から気相で酢酸ビニルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高められた圧力及び高められた温度においてパラジウム含有固定床触媒上で、酢酸を、エチレン及び酸素もしくは酸素含有ガスと気相で反応させて酢酸ビニルに転化できることは公知である。パラジウムの他に金及びアルカリ酢酸塩を促進剤として含む担持型触媒が有効な触媒であることが分かっている。
【0003】
例えば、米国特許第4,048,096号は、先ず、担体材料を、パラジウム塩及び金塩からなる混合物を含む水溶液で含浸処理することを含む、パラジウム、金及び酢酸カリウムを含む触媒の製造方法を開示している。この際、含浸処理液の体積は、担体材料の孔体積に相当する。この含浸処理段階の後は、アルカリ化合物での処理、例えばメタケイ酸ナトリウム水溶液による処理が続き、それによって金属塩が水不溶性化合物に転化されそして担体材料上に固定される。その後、還元剤で処理することによって、パラジウム化合物及び金化合物を対応する金属に還元する。次いで、アルカリ金属酢酸塩水溶液による含浸処理及び最後に乾燥段階が続く。シェル型構造を有する触媒が得られる。
【0004】
米国特許第5,332,710号では、パラジウム塩及び金塩で含浸処理した担体を、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを含む水性固定液中に浸漬し、そして少なくとも30分間、その中で運動状態に置く。この際、固定溶液で完全に覆われた担体は、この固定溶液での処理の初めから、回転運動させる。
【0005】
酢酸ビニル反応器から流出する反応混合物は、酢酸ビニル、未転化の酢酸及びエチレン、少量の未転化の酸素並びに不活性物、例えば二酸化炭素及び窒素を含む。この反応混合物は、酢酸ビニル反応器の下流にある分離容器中で、未転化のエチレン及び一部の不活性物を含むガス状画分と、未転化の酢酸、酢酸ビニル、及び他の液化可能な反応副生成物を含む液状生成物画分に分離される。前記ガス状画分はプロセスに返送される。このガス状画分は循環ガスとも称される。前記液状生成物画分からは、公知の方法、例えば米国特許第3,551,299号に従い、酢酸ビニル及び揮発性副生成物、例えばアセトアルデヒド、酢酸メチル及び酢酸エチルが水との共沸蒸留によって分離され、他方、酢酸は蒸留残渣中に得られる。次いで、それ自体公知の方法、例えば米国特許第3,458,406号に従い、酢酸ビニルから酢酸メチル及び酢酸エチルが除去される。Ullmann’s encyclopaedia of industrial chemistry, 第5版, 1996, ボリューム27, 423〜426頁には、酢酸ビニル製造のための気相方法及び粗製酢酸ビニルの蒸留による仕上げ処理の概要が記載されている。
【0006】
作業を安全に行うためには、循環ガスの引火限界点を厳守することが非常に重要である。引火限界点は、本質的に、循環ガス中の酢酸含有量に依存し、そして酢酸で飽和された状態においてその引火限界点は、酢酸を含まない状態の場合よりも高い。それゆえ、酢酸ビニルの製造プロセスを安全に操業するためには、循環ガスを酢酸で十分に飽和させることが非常に重要である。
【0007】
循環ガスを酢酸で飽和するにあたっては、新鮮な酢酸か、または反応生成物の仕上げ処理の際に回収された酢酸のいずれかが用いられる。例えば、酢酸は、酢酸ビニルの分離の際の蒸留残渣から回収される。
【0008】
しかし、酢酸ビニルプロセスから回収された酢酸(これは、回収酢酸とも称される)を循環ガスの飽和に使用するのは困難である。なぜならば、前記回収酢酸中には、酢酸の他に、重合を起こす傾向のある高沸点化合物及び低揮発性の物質、例えばアセトキシビニルアセテートが存在するからである。これらの不純物の存在は、循環ガスの存在下に回収酢酸を蒸発させる飽和工程において、蒸発装置内の汚染及びそれの伝熱面の汚染を招くために、酢酸飽和の際の熱効率が低くなるという欠点を有する。
【0009】
循環される回収酢酸を再び酢酸ビニル反応器に導入する前に、これから高沸点反応副生成物を除去する方法は、ドイツ特許出願公開第23 59 286号から知られている。この方法では、先ず、酢酸蒸発器において、エチレン含有ガス、例えば循環ガスを、高められた温度下に回収酢酸と接触させることにより、酢酸で飽和されたガス流を作る。次いで、このガス流を向流式ストリッピング塔に底部から供給し、他方、精製すべき回収酢酸を前記ストリッピング塔に上端部から向流で導入する。好ましい態様の一つでは、前記塔のストリッピング部の上に、精留もしくは吸収部が設けられ、その頂部から比較的不純物量が少ない新鮮な酢酸が加えられる。この塔から得られる酢酸及びエチレンからなるガス状混合物は、回収酢酸に由来する高沸点反応副生成物は少量しか含まず、酢酸で飽和されており、そして酢酸ビニル反応器に供給することができる。新鮮なエチレンを、前記ストリッピング段階の前もしくは後にプロセスに加えることができる。
【0010】
前記公知の方法では、長い操業期間の間に汚染物が酢酸蒸発器中に堆積する。それゆえ、定期的に、酢酸蒸発器を清浄しなければならないし、またプラントの部品を予備ユニットに取り替えなければならない。このような清浄処置は、製造プロセスを中断させる結果となる。
【0011】
更に、酢酸で飽和された循環ガスが酢酸蒸発設備を通過する際に圧力の損失が生ずる。その結果、反応器の上流での圧力低下を甘受しなければならないが、酢酸ビニルの収量は反応器中の反応圧に大きく依存するために、これは酢酸ビニルの収率に不利に影響する。
【特許文献1】米国特許第4,048,096号
【特許文献2】米国特許第5,332,710号
【特許文献3】米国特許第3,551,299号
【特許文献4】米国特許第3,458,406号
【特許文献5】ドイツ特許出願公開第23 59 286号
【非特許文献1】Ullmann’s encyclopaedia of industrial chemistry, 第5版, 1996, ボリューム27, 423〜426頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
それゆえ、酢酸ビニルプロセスから回収された酢酸を使用して、酢酸ビニル反応器に供給されるエチレン含有ガスの十分な飽和を保証し、かつ上記の欠点を持たない方法への要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
それゆえ、本発明の対象は、酢酸ビニル反応器に供給されるエチレン含有ガスを酢酸で飽和するにあたり、酢酸ビニルプロセスで回収された酢酸を塔に導入し、そこで、その塔底を介して供給されたエチレン含有ガスを酢酸で飽和させる方法であって、前記塔が向流式ストリッピング部及び精留部を有し、そして回収酢酸は前記向流式ストリッピング部及び/または精留部に導入され、かつ新鮮な酢酸が前記精留部に導入され、及び塔から抜き出される液体は二つの部分流に分割され、そしてその一方の部分流は、酢酸による十分な飽和に必要な最小ポンプ循環を維持しながら、塔中にポンプ返送され、この際、前記部分流は、安全性に関連して監視されそして塔に導入される前に、少なくとも一つの他の熱交換器と並行に配置された熱交換器で加熱され、そして残りの他の部分流は排出されることを特徴とする前記方法である。
【0014】
本発明方法の特徴である最小ポンプ循環は、塔底部から流れ出る液体を取り出すための管路、及び二つの液体流を形成させるための分離器を含み、この際、前記液体流のうちの一つの流れは排出され、そして他の液体流は、ポンプ及び熱交換器を介して再び塔(これは飽和塔とも称する)に返送される。この際、前記熱交換器は、少なくとも一つの更に別の熱交換器と並列に配置されている。前記の最小ポンプ循環では、慣用の耐食性特殊鋼が使用される。
【0015】
本発明の方法では、供給されたエチレン含有ガスの酢酸による十分な飽和を達成するために、塔に返送される部分流の最小ポンプ循環を保証しなければならない。安全性に関連した理由から、供給されたエチレン含有ガスを酢酸で確実に飽和させることは、その後、酢酸ビニル反応器に導入するためには非常に重要である。なぜならば、酢酸ビニル反応器に供給されるガス混合物の引火限界点はそれの酢酸含有量に依存し、酢酸含有量が増えると共に上昇するからである。飽和塔に供給されたエチレン含有ガスの確実な酢酸飽和を保証するためには、十分な最小ポンプ循環が必要であり、この最小ポンプ循環は安全性に関して監視される。
【0016】
前記の安全性に関連した監視は、流量を測定するための少なくとも二つの測定装置によって行われる。これらの測定装置は、各々、異なる測定機器技術に基づく。それゆえ、安全性に関する監視は、量的なパラメータ、すなわち測定装置の数、並びに質的パラメータ、すなわち使用する測定方法の原理によって特徴づけられる。流量を測定するための測定原理は、それ自体当業者には公知であり、例えばオリフィスプレート測定(Blendenmessung)、質量流量測定(Massendurchflussmessung)、渦動流量測定(Wirbel-durchflussmessung)、超音波測定または磁気誘導流量測定(MID)である。上記最小ポンプ循環における流量の監視は、各々異なる測定原理の少なくとも二つの測定装置に基づくために、測定装置の一つが故障した場合でさえも、酢酸ビニルプロセスの安全な操業がなお保証される。例えば、流量を測定する測定装置の一つが超音波法によるものとし、他の測定装置は渦動流量法に基づくものとすることができる。
【0017】
必要な最小ポンプ循環量は、各々の操業構成から導き出すことができ、通常は、飽和塔に導入される回収酢酸の量の少なくとも3倍、好ましくは少なくとも7倍量である。
【0018】
飽和塔に流入する前の液体を、飽和塔中での酢酸の蒸発に十分なエネルギーを供する程の温度にまで加熱するために、前記最小ポンプ循環には熱交換器が取り付けられる。
【0019】
それゆえ、飽和塔中での酢酸の蒸発への十分な伝熱を保証するためには、かなり多くの最小ポンプ循環流が必要である。
【0020】
最小ポンプ循環に組み込まれた前記熱交換器には、少なくとも一つの更に別の熱交換器が並行に取り付けられる。これらの熱交換器は、同時にまたは好ましくは交代で使用され、そして酢酸ビニル製造プロセス全体を中断させることなく、清浄する目的で各々別々に飽和プロセスから取り外すことができる。
【0021】
本発明の方法は、慣用の上流酢酸蒸発器を無しで済ませることができるために、酢酸蒸発器の汚染による問題は回避することができかつそれの除去に必要な操業の中断を避けることができる。本発明に従い最小ポンプ循環に並行に取り付けられそして各々別々に取り替え可能な熱交換器によって、飽和塔における飽和プロセスは連続的に操業することができる。
【0022】
また同様に、酢酸蒸発器に生ずる圧力損失はもはや起こらないために、酢酸ビニル反応器中でより高い圧力を維持することができ、これは、他方で、酢酸ビニル生成の選択性及びそれゆえ酢酸ビニルプラントの製造能力に有利に働く。
【0023】
塔底を介して飽和塔に導入されるエチレンは純粋なものか、または他のガス、例えば窒素で希釈されたものであることができる。しかし、好ましくは、酢酸ビニル反応器から生ずる反応混合物から得られ、そして酢酸ビニル反応器に再び循環される、エチレン含有ガス流が供給される。一般的に、この回収されたエチレン含有ガス流は、循環ガスとも称される。この循環ガスは、エチレンの他に、不活性物、例えば窒素もしくは二酸化炭素及び少量の酸素も含む。通常は、この循環ガスには、飽和塔への流入の前に、新鮮なエチレンが加えられる。
【0024】
飽和塔は、向流式ストリッピング部及び精留部からなる。
【0025】
本発明の方法の好ましい態様の一つでは、最小ポンプ循環流を、回収酢酸と混合する。次いで、この混合物を一つまたは二つ以上の熱交換器で加熱し、そして向流式ストリッピング部の頂部から加える。ここで、塔底から供給されたエチレン含有ガス混合物が向流で流れているので、前記ガス流に酢酸が負荷される。
【0026】
しかし、回収酢酸を、最小ポンプ循環流の供給位置とは別の位置において、向流式ストリッピング部または精留部のいずれかから飽和塔に加えることも可能である。回収酢酸を飽和塔の向流式ストリッピング部に加える場合には、回収酢酸を塔中にノズル噴射することが推奨される。
【0027】
前記回収酢酸は、一般的に、水を約5重量%の割合で及び高沸点物、例えばエチレンジアセテートを1重量%までの割合で含む。100重量%に足りない分の残りは酢酸である。
【0028】
飽和塔において、向流式ストリッピング部の上には精留部が設けられる。この精留部の頂部に比較的純粋な酢酸が導入され、これに対して、酢酸で飽和されたエチレン含有ガスが向流する。このような手段によって、回収酢酸中に含まれ得る更に別の高沸点不純物がガス流から除去される。これによって、これらの高沸点不純物が、触媒が充填された酢酸ビニル反応器にまで同伴されることが避けられる。
【0029】
飽和塔は、通常は棚段塔として構成される。個々の棚段は、それ自体公知のように、液体と蒸気との良好な接触が得られるように設計される。場合によっては、充填塔や、底にガス分配器が取り付けられた個々の容器、例えば泡鐘トレイからなる系を飽和プロセスに使用することもできる。
【0030】
飽和塔の交流式ストリッピング部では、少なくとも1つのストリッピング棚、好ましくは少なくとも2つのストリッピング棚を設置するべきである。更に、少なくとも約5つ、好ましくは少なくとも約8つの精留棚を、上記ストリッピング棚の上の精留部に配置すると特に良好な結果が達成される。これによって、交流式ストリッピング部の上端から流れ出る蒸気中に含まれる高沸点物を、還流下に飽和塔中にすすぎ返すことができる。
【0031】
飽和塔の精留部は、次のように、すなわち、精留部の頂部を介して飽和塔から出るエチレン及び酢酸からなる蒸気状混合物と一緒に高沸点物が流出することをできるだけ避けるために、生じ得る同伴流体は最小の量となるように構築されることが特に有利である。例えば、同伴流体量ができるだけ少なくなるように構成及び配置された篩棚を、精留部に使用することが有利である。
【0032】
飽和塔の底部から流れ出る液体は、分離器において二つの部分流に分割される。そのうちの一つの部分流は最小ポンプ循環に再循環され、他方、他の部分流は飽和プロセスから排出される。一般的に、排出される部分流と最小ポンプ循環に再循環される部分流との重量比は1:10〜20、好ましくは1:13〜16である。排出された部分流は、高温薄膜蒸発器に供給することができる。ここで、酢酸が揮発性成分として回収されそして酢酸ビニルプロセスの他の箇所で回収された酢酸と組み合わされる。前記高温薄膜蒸発器で得られる高沸点物及び重合体は、プロセスから排出される。
【0033】
飽和塔における温度及び圧力は広い範囲で変えることができるが、圧力は、通常、酢酸ビニル反応器内とほぼ同じレベルに保たれ、加えて、飽和塔と、酢酸ビニル反応器の上流に配置されるプラント要素中とをガス混合物が流れ通るために必要な十分な圧力差が保たれる。
【0034】
本発明による飽和方法では、別個の酢酸蒸発器は使用しなくともよいために、飽和装置内において供給された循環ガスに観察される圧力低下は技術水準と比べて小さい。そのため、前記の十分な圧力差を維持するために必要なエネルギーはより少なくて済む。
【0035】
また同様に、飽和塔において酢酸が十分に蒸発する程度に最小ポンプ循環流中に存在する酢酸が加熱されるのに十分な熱エネルギーが、最小ポンプ循環と並行して配置される熱交換器によって供給される。それによって、飽和塔に供給されたエチレン含有ガスが望ましい温度において酢酸で飽和され、そして精留部を介して供給された新鮮な酢酸の少なくとも一部が、向流式ストリッピング部によって導かれたガス流中で気化される。
【0036】
最小ポンプ循環流中の流体の組成は、高沸点物を若干多い量で含む回収酢酸の組成に実質的に合致する。最小ポンプ循環流における高すぎる高沸点物含有量は、最小ポンプ循環中の熱交換器の伝熱表面があまりにもひどく汚染される危険性を減ずるために、避けるべきである。
【0037】
飽和塔の目的通りの操業の一つにおいては、新鮮な酢酸の形の酢酸、回収酢酸及び最小ポンプ循環流は、塔底から導入されるエチレン含有ガスの単位重量に対し、飽和塔から流出するエチレン含有ガス混合物がその飽和点において10〜30重量%の酢酸含有率を有するような量で供給される。
【0038】
本発明の飽和方法に従い供給される回収酢酸の量はほぼ一定に維持され、そして新鮮な酢酸は、少なくとも十分な洗浄作用が達成される程の量で、飽和塔の精留部に加えられる。しかし、この際、分離器を介して飽和プロセスから流出する液体量は、最小ポンプ循環流中及び飽和塔中に常に一定した液体量が存在するように、かつ飽和塔の頂部から酢酸ビニル反応器に導出された酢酸が常に埋め合わされるように、調整されることも保証されるべきである。
【0039】
塔頂を介して飽和塔から留出されそして酢酸で飽和されたエチレン含有ガスは、酢酸ビニル反応器に流入させる前に、操業パラメータ内においてプラントの仕事量に必要な量の酸素と混合される。
【発明の実施の形態】
【0040】
添付の図面には、例として、本発明方法の態様を図示する。
【0041】
図1に概図した工程では、管路2を介して酢酸ビニル反応器1を出たガス流は、先ず、向流式熱交換器3中で冷却され、そして分離器4において液相と気相に分離される。粗製酢酸ビニルを含む前記液相は、管路5を介して蒸留塔6に供され、そしてその塔頂から管路7を介して酢酸ビニルが引き抜かれる。この酢酸ビニルは、次いで、更に別の公知の精製方法(図1中図示なし)によって仕上げ処理される。蒸留塔6の底部からは、高沸点不純物を含む回収酢酸が、管路8を介して飽和塔11に供給される。
【0042】
分離器4の頂部からのガス流は、管路9を介して抜き出され、管路10を介して供給された新鮮なエチレンと混合され、そして向流式熱交換器3で加熱される。この際、酢酸ビニル反応器1を出たガス混合物が、管路9aを介して再循環されるこのガス流を加熱する。管路9aを介して再循環されるこのエチレン含有ガス流は、底部から飽和塔11に導入される。管路8を介して導かれる回収酢酸は、管路17aを介して導かれる最小ポンプ循環流と、管路8aを介して組み合わされ、熱交換器12において加熱され、そして管路8cを介して、飽和塔11の交流式ストリッピング部11aの頂部に供給される。この際、前記回収酢酸は、上昇する前記エチレン含有ガス流に対し向流し、そして気化される。
【0043】
本発明方法の更に別の態様では、管路8からの前記回収酢酸は、その全てをもしくはその一部を、管路8b及び/または管路8b’(破線で図示)を介して、最小ポンプ循環とは別の供給位置から飽和塔に加えることができる。本発明方法のこの態様では、通常は、前記回収酢酸は、精留部に加えられる。回収酢酸を向流式ストリッピング部11aに供給する場合には、回収酢酸を、向流式ストリッピング部11a中にノズル噴射することが推奨される。
【0044】
向流式ストリッピング部11aの上には精留部11bが接続される。この精留部11aの頂部から管路13を介して新鮮な酢酸が加えられ、そしてそこで、更に別の高沸点不純物が、酢酸で飽和されたエチレン含有上昇ガス流から洗い出される。管路14を介して流出する酢酸で飽和されたガスは、管路15を介して導かれる酸素と混合され、次いで管路14aを介して酢酸ビニル反応器に供給される。
【0045】
飽和塔11の底部から抜き出される液体は、管路16を介して分離器17に供給され、そこで、液体部分流が分離され、そしてポンプ18によって、管路17aを介して管路8aにポンプ輸送される。管路8cにおいて、管路17aと8aからの物質流が組み合わされ、熱交換器12で加熱され、次いで飽和塔11の向流式ストリッピング部11aの頂部に加えられる。
【0046】
本発明の他の態様の一つでは、前記回収酢酸を、管路8b及び/または8b’のみを介して飽和塔11に供給することによって、管路17aを介して導かれる最小ポンプ循環流のみを、熱交換器12に通した後に、管路8cを介して飽和塔に加える。
【0047】
最小ポンプ循環の安全面からの監視のためには、流量を測定するための少なくとも二つの装置19を最小ポンプ循環中に取り付ける。これらの装置は、各々異なる測定機器技術に基づくものである。
【0048】
分離器17において得られる他の液体部分流は、管路17bを介して排出され、そして例えば薄膜蒸発器20に供給され、そして酢酸を含む頂部流出物21は、管路8を介して導かれる回収酢酸を組み合わされる。他方、高沸点残渣は、管路22を介してプロセスから排出される。
【0049】
更に、最小ポンプ循環には、少なくとも一つの更に別の並行に配置された熱交換器12aが取り付けられる(破線で図示)。熱交換器は、好ましくは、交代で使用され、そして清浄の目的で別々に取り外すことができる。そのため、飽和プロセスを中断する必要がない。
【0050】
酢酸ビニル反応の安全な操業のためには、反応ガスが酢酸で十分に飽和されることが保証されなければならない。これは、安全性に関して監視された最小ポンプ循環を維持することによって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明方法による飽和プロセスの概略図。
【符号の説明】
【0052】
1 酢酸ビニル反応器
3 熱交換器
4 分離器
6 蒸留塔
11 飽和塔
11b 精留部
11a ストリッピング部
12,12a 熱交換器
17 分離器
18 ポンプ
19 流量測定装置
20 薄膜蒸発器
その他 管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニル反応器に供給されるエチレン含有ガスを酢酸で飽和するにあたり、酢酸ビニルプロセスで回収された酢酸を塔に導入し、そこで、その塔底から供給されたエチレン含有ガスを酢酸で飽和させる方法であって、前記塔が向流式ストリッピング部及び精留部を有し、前記回収酢酸は、前記向流式ストリッピング部及び/または精留部に導入されかつ新鮮な酢酸が精留部に導入され、及び塔から抜かれる液体は二つの部分流に分割され、そのうちの一つの部分流は、酢酸による十分な飽和に必要な最小ポンプ循環を維持しながら、塔にポンプ返送され、この際、この部分流は安全性に関連して監視されかつ塔に流入する前に熱交換器で加熱され、かつこの熱交換器には、少なくとも一つの更に別の熱交換器が並行に配置されており、他方で、残りの他の部分流は排出される、ことを特徴とする前記方法。
【請求項2】
熱交換器が交代で使用されることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項3】
最小ポンプ循環流量が、導入される回収酢酸の量の少なくとも3倍、好ましくは少なくとも7倍であることを特徴とする、請求項1または2の方法。
【請求項4】
最小ポンプ循環流が、向流式ストリッピング部の上部から導入されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの方法。
【請求項5】
最小ポンプ循環流が、向流式ストリッピング部の頂部から導入されることを特徴とする、請求項4の方法。
【請求項6】
最小ポンプ循環流が、塔に供給される前に、回収酢酸の全量もしくはその一部と合流されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つの方法。
【請求項7】
新鮮な酢酸が、精留部の上部、好ましくは頂部から加えられることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つの方法。
【請求項8】
塔が、棚段塔、充填塔または泡鐘塔として設計されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つの方法。
【請求項9】
向流式ストリッピング部には少なくとも一つの、好ましくは少なくとも二つのストリッピング棚が配置されること、及び精留部には、少なくとも5つ、好ましくは少なくとも8つの精留棚が配置されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一つの方法。
【請求項10】
排出される部分流と、最小ポンプ循環に再循環される部分流との重量比が1:10〜20、好ましくは1:13〜16であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一つの方法。
【請求項11】
新鮮な酢酸の形の酢酸、回収酢酸及び最小ポンプ循環流が、供給されるエチレン含有ガスの単位重量に対し、塔から流出するエチレン含有ガス混合物がそれの飽和点において10〜30重量%の酢酸含有率を有するような量で供給されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一つの方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−131632(P2006−131632A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317957(P2005−317957)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(398010667)セラニーズ・ケミカルズ・ヨーロッパ・ゲゼルシヤフト・ミト・ベシユレンクテル・ハフツング (11)
【Fターム(参考)】