説明

酢酸菌型セラミドの製造方法

【課題】酢酸菌において、セラミドを高含有化することにより、美肌効果などの生理作用が期待されている酢酸菌型セラミドを効率良く生産する方法を提供する。
【解決手段】培養終了後の酢酸菌を、pH2.0〜8.0、温度4〜70℃、3時間〜7日間保持することによって、酢酸菌中の酢酸菌型セラミドを従来の10〜30倍と高濃度で含有化させることができる酢酸菌型セラミドの増加方法を開発した。用いる酢酸菌はAcetobacter malorum NCI1683株(FERM BP−10595)、または、Gluconacetobacter hansenii NCI1468)株(FERM BP−10596)が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミドの製造方法に関する。具体的には、セラミドの一種であるN−2’−ヒドロキシパルミトイル−スフィンガニン(以下、酢酸菌型セラミドと称する場合もある)の酢酸菌体中の含有量を向上させることによる効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミドは、長鎖塩基であるスフィンゴシンのアミノ基に脂肪酸がアミド結合したものの総称であって、スフィンゴ脂質の一種であり、微生物や動植物に広く分布しており、ヒトにおいては特に皮膚器官の構成成分として特徴的に存在し、水分の損失及び皮膚の乾燥を防ぐなどの重要な役割を果たしている。
【0003】
なお、小麦、米、大豆等の植物由来のセラミドを経口摂取することにより、保湿、肌荒れ防止改善、シワ防止改善等の美肌効果があることが知られているが(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)、植物由来のセラミドは、ヒトなどの動物由来のセラミドとは化学構造が異なり、美肌効果が弱いなどの問題があった。
【0004】
一方、牛脳などの動物から抽出したセラミドは、ヒトのセラミド(以下、ヒト型セラミドと称する場合もある)と化学構造が似ており、美肌効果は強いのであるが、BSE問題などにより、牛脳などの動物由来のセラミドを経口摂取などによってヒトが利用することは敬遠される傾向があった。
【0005】
また、微生物由来のセラミドはその化学構造がヒト型セラミドに類似し、その高い効果が期待されているが、例えば、スフィンゴモナスなどの食経験のない微生物由来のセラミドは安全性に疑問が残り、経口摂取が敬遠されている。
【0006】
一方、原核生物の一種である酢酸菌は、伝統的に食酢の製造に利用されている安全性の高い微生物であり、酢酸菌型セラミドを含有することが確認されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0007】
この酢酸菌型セラミドは、動物由来のセラミドのスフィンゴイド塩基部分のスフィンゴシンの前駆体であるスフィンガニンと脂肪酸がアミド結合した構造を有しており、ヒト型セラミドに共通する構造を持っていて、ヒトの美肌効果などの生理活性が強いことが期待されている。
【0008】
以上のことから、伝統的に食酢の製造に利用されている安全性の高い酢酸菌を用い、高い付加価値を持った酢酸菌型セラミドを効率良く生産することが求められていた。
【0009】
しかし、例えば、食酢醸造に用いられる代表的な酢酸菌においては、セラミドの含有量は2〜4mg(3.5〜7μmol)/g乾燥菌体程度であると推定され(例えば、非特許文献3及び非特許文献4参照)、決して満足できるものではなかった。
【0010】
また、酢酸菌は増殖能力が低いので、酢酸菌の収量が少ないことも、酢酸菌を用いた酢酸菌型セラミドの製造効率が悪い原因のひとつであった。
【0011】
なお、これまでに酢酸菌型セラミドの酢酸菌中の含有量を増加させた改良例としては、酢酸菌をエタノール添加培地で培養した場合に、エタノールを添加しない培地で培養した場合に比べて、セラミド含有量が約2倍に増加することが開示されていたが(例えば、非特許文献5参照)、さらに、酢酸菌中の酢酸菌型セラミドの含有量を向上させ、また、酢酸菌の増殖を促進させて、酢酸菌型セラミドをより効率的に製造する方法を開発することが求められていた。
【非特許文献1】「フレグランス・ジャーナル(Fragrance Journal)」、23巻、p.81〜89、1995年
【非特許文献2】「バイオインダストリー(Bioindustry)」、19巻、p.16〜26、2002年
【非特許文献3】帯大研報、23巻、p.917〜925、1978年
【非特許文献4】岩手大学大学院連合農学研究科博士論文、後藤英嗣著、p.11〜41、2001年
【非特許文献5】脂質生化学研究、42巻、p.246−249、2000年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、酢酸菌において酢酸菌型セラミド含有量を向上させる方法を開発し、美肌効果などの生理作用が期待されている酢酸菌型セラミドを効率良く製造する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、酢酸菌を培養後、集菌した酢酸菌体を低pH及び高温状態に曝すことにより、酢酸菌中のセラミド含有量が顕著に増加することを見出し、さらに該処理中の最適環境条件を求め、また、用いる酢酸菌やその培養条件についても検討して、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は以下の各項に関する。
【0015】
(1)培養終了後の酢酸菌を、pH2.0〜8.0及び/又は温度4〜80℃で3時間〜7日間保持することを特徴とする酢酸菌中の酢酸菌型セラミド含有量の増加方法。
【0016】
(2)培養終了後の酢酸菌を、pH2.0〜4.5及び/又は温度30〜70℃で1日〜4日間保持することを特徴とする酢酸菌中の酢酸菌型セラミド含有量の増加方法。
【0017】
(3)酢酸を含有し、エタノールを0.3容量/容量%以下で含有する培地で培養した酢酸菌を用いることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の酢酸菌中の酢酸菌型セラミド含有量の増加方法。
【0018】
(4)酢酸菌として、アセトバクター・マローラムNCI1683(Acetobacter malorum NCI1683)株(FERM BP−10595)を用いることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の酢酸菌中の酢酸菌型セラミド含有量の増加方法。
【0019】
(5)酢酸菌として、グルコンアセトバクター・ハンゼニイNCI1468(Gluconacetobacter hansenii NCI1468)株(FERM BP−10596)を用いることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の酢酸菌中の酢酸菌型セラミド含有量の増加方法。
【0020】
(6)セラミド含有量が乾燥菌体1gあたり6mg以上、好ましくは7mg以上、更に好ましくは9mg以上、特に好ましくは11mg以上であって20mg以下であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の酢酸菌中の酢酸菌型セラミド含有量の増加方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、強い生理活性が期待されている酢酸菌型セラミドの酢酸菌中の含有量を増加させることが出来、さらに酢酸菌の収量を増加させることも出来て、その結果、酢酸菌型セラミドを従来以上に効率良く生産することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明で用いられる酢酸菌は、セラミドを生産する酢酸菌であれば特に限定はなく、例えば、グルコンアセトバクター属(Gluconacetobacter)、グルコノバクター属(Gluconobacter)、アセトバクター属(Acetobacter)、アサイア属(Asaia)またはアシドモナス属(Acidomonas)に属する酢酸菌が例示される。
【0024】
さらに詳細には、グルコンアセトバクター属(Gluconacetobacter)の酢酸菌としては、グルコンアセトバクター・ハンゼニイ(Gluconacetobacter hansenii)、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィカス(Gluconacetobacter diazotrophicus)、グルコンアセトバクター・インタメデイウス(Gluconacetobacter intermedius)、グルコンアセトバクター・サッカリ(Gluconacetobacter sacchari)、グルコンアセトバクター・ザイリナス(Gluconacetobacter xylinus)、グルコンアセトバクター・ヨーロッパエウス(Gluconacetobacter europaeus)、グルコンアセトバクター・オボエディエンス(Gluconacetobacter oboediens)などが例示される。
【0025】
また、グルコノバクター属(Gluconobacter)の酢酸菌としては、グルコノバクター・フラトウリ(Gluconobacter frateurii)、グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus)などが例示される。
【0026】
さらに、アセトバクター属(Acetobacter)の酢酸菌としては、アセトバクター・トロピカリス(Acetobacter tropicalis)、アセトバクター・インドネシエンシス(Acetobacter indonesiensis)、アセトバクター・シジギイ(Acetobacter syzygii)、アセトバクター・シビノンゲンシス(Acetobacter cibinongensis)、アセトバクター・オリエンタリス(Acetobacter orientalis)、アセトバクター・パスツリアヌス(Acetobacter pasteurianus)、アセトバクター・オルレアネンシス(Acetobacter orleanensis)、アセトバクター・ロバニエンシス(Acetobacter lovaniensis)、アセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)、アセトバクター・ポモラム(Acetobacter pomorum)、アセトバクター・マローラム(Acetobacter malorum)などが例示される。
【0027】
さらに、アサイア属(Asaia)の酢酸菌としては、アサイア・ボゴレンシス(Asaia bogorensis)、アサイア・シアメンシス(Asaia siamensis)などが例示される。
【0028】
また、アシドモナス属(Acidomonas)の酢酸菌としては、アシドモナス・メタノリカス(Acidomonas methanolicus)などが例示される。
【0029】
さらに、酢酸菌としては、上記のほか、食酢製造に用いられている酢酸菌や、自然界より分離されたもの、また既存の微生物保存機関に保存されていて分譲可能な保存菌株などが適宜利用可能である。
【0030】
なお、上記酢酸菌のうち、アセトバクター・マローラム(Acetobacter malorum)に属する酢酸菌は、増殖能力が高く、また酢酸菌型セラミド含有量も高く、さらに後述する酢酸含有培地での増殖が特に優れていることなどから、効率的な酢酸菌セラミドの製造に適しており、中でもアセトバクター・マローラムNCI1683(Acetobacter malorum NCI1683)株(FERM BP−10595)は、本発明において好適に用いられる。
【0031】
該アセトバクター・マローラムNCI1683(Acetobacter malorum NCI1683)株(FERM BP−10595)は、ロシアの発酵食品であるスメタナから分離された酢酸菌であり、ユビキノンタイプはQ9であって、16SrRNAの配列が完全に一致することなどから、アセトバクター・マローラム(Acetobacter malorum)(例えば、「インターナショナル ジャーナル・オブ・システマチック・アンド・エボリューショナリー・マイクロバイオロジー(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology)」、52巻、p.1551−1558、2002年参照)と同定された株であり、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に2006年4月7日付けで受託番号FERM BP−10595として寄託されている。
【0032】
また、上記酢酸菌のうちグルコンアセトバクター・ハンゼニイ(Gluconacetobacter hansenii)に属する酢酸菌についても、アセトバクター・マローラム(Acetobacter malorum)と同様に、増殖能力が高く、また酢酸菌型セラミド含有量も高く、さらに後述する酢酸含有培地での増殖が特に優れていることなどから、効率的な酢酸菌セラミドの製造に適しており、中でもグルコンアセトバクター・ハンゼニイNCI1468(Gluconacetobacter hansenii NCI1468)株(FERM BP−10596)は、本発明において好適に用いられる。
【0033】
該グルコンアセトバクター・ハンゼニイNCI1468(Gluconacetobacter hansenii NCI1468)株(FERM BP−10596)は、ナタデココから分離された酢酸菌であり、ユビキノンタイプはQ10であって、16SrRNAの配列が完全に一致することなどから、グルコンアセトバクター・ハンゼニイ(Gluconacetobacter hansenii)と同定された株であり、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に2006年4月7日付けで受託番号FERM BP−10596として寄託されている。
【0034】
本発明においては、これらの酢酸菌を培養し、集菌した後、低pH、高温処理して、顕著に酢酸菌中の酢酸菌型セラミドの含有量を向上させることが可能となる。
【0035】
酢酸菌の培養方法については、特に制限がなく、従来から実施されている方法が採用可能である。
【0036】
すなわち、培地としては炭素源、窒素源、無機物などを含有するものが用いられ、さらに必要に応じて、酢酸菌が生育に要求する微量栄養源を適当量含有させたものであれば、合成培地でも天然培地でも良い。例えば、炭素源としてはグルコースやシュークロースをはじめとする各種炭水化物などが挙げられる。また、窒素源としてはペプトン、発酵菌体分解物などの天然窒素源を用いることができる。
【0037】
培地のpHは通常pH2.5〜7の範囲とするのが適しており、さらにpH2.7〜6.5の範囲が好ましく、pHは各種酸、各種塩基、緩衝液等を用いて調整することができる。
【0038】
さらに、上記培地に、エタノールを添加した培地を用いて培養することも可能であり、エタノールの添加量としては、0.5〜8容量/容量%程度が一般的である。
【0039】
また、本発明では、上記培地に酢酸を添加し酢酸が資化されるようにした培地がさらに好適に用いられる。この場合、酢酸の資化が起きる条件としては、該培地にエタノールを殆ど含有させないように留意すべきであり、例えば、エタノールの濃度としては、0.3容量/容量%以下程度がよく、さらに望ましくは0.1容量/容量%以下とするのがよい。また、酢酸は酢酸塩の形態で添加するのが望ましく、酢酸(塩)の濃度としては、使用する酢酸菌に合わせて、適宜、選択すればよいが、0.5〜8重量/容量程度が選択される。
【0040】
酢酸菌の培養方法としては、静置培養法、振とう培養法、通気攪拌培養法等の従来から酢酸菌の培養に利用されている方法が採用可能であり、好気的条件下で酢酸菌を培養し、培養温度は通常30℃前後で行なうのが良い。
【0041】
培養終了後に、培養液から酢酸菌体を集菌する方法については特に限定はなく、従来から行われている遠心分離法や濾過膜を用いた濃縮法などが例示される。
【0042】
本発明においては、上記の方法で培養した培養液から集菌して回収した酢酸菌を、溶液中に懸濁し、低pH、高温処理することによって酢酸菌中のセラミド含有量を顕著に向上させることができる。
【0043】
酢酸菌を懸濁するための溶液としては、水、緩衝液、培養液など任意のものが利用可能である。なお、酢酸菌を懸濁するための溶液のpHを2.0〜8.0にすることによって、酢酸菌中の酢酸菌型セラミドの含有量をさらに顕著に増加させることができるので好ましい。pHを2.0未満とすると、酢酸菌中の酢酸菌型セラミド含有量を高める効果が弱くなり、好ましくない。また、pHを8より高めても同様であり、好ましくない。さらに好適なpHは2.0〜4.5である。特に好ましくはpH2〜3である。酢酸菌を懸濁するための溶液のpHをこのような領域に調整するには、pHを低下させることのできる各種の酸や塩類などを用いればよく、例えば、有機酸である酢酸やクエン酸、無機酸である塩酸や硫酸などや、これらの塩類が例示される。
【0044】
処理方法としては、特に限定はなく、例えば、振とう又は通気、攪拌などを行わずに放置する状態が例示され、処理の期間としては3時間〜7日が好ましい。処理の期間を1日未満とすると、酢酸菌中の酢酸菌型セラミド含有量を高める効果が弱くなり、好ましくない。また、7日よりも長く処理の期間をとっても同様であり、好ましくない。さらに好適なのは1日〜4日である。
【0045】
さらに、処理する際の温度については、酢酸菌型セラミド含有量を高める効果が得られる温度であれば特に制限はなく、例えば4℃〜80℃の温度範囲が例示される。好ましい温度範囲としては、4℃〜70℃が例示される。なお、これらの温度範囲において、30℃よりも低い温度では、酢酸菌型セラミドの含有量を増加させる効果が弱くなり、好ましくなく、80℃以上の高温にすると、菌体重量が減少するため好ましくない。したがって、好ましい温度範囲は30℃〜80℃、特に40℃〜70℃であり、とりわけ60℃〜70℃が好ましい。
【0046】
上記の要領で静置処理を行って、酢酸菌型セラミドの含有量を高められた酢酸菌は、必要に応じて洗浄、乾燥などの処理を行った後、そのまま、あるいは破砕処理などの加工処理を行った後、種々に利用することが可能である。
【0047】
さらに、必要に応じて、酢酸菌型セラミドを上記酢酸菌から抽出精製して利用することも可能である。なお、上記の抽出精製方法としては、公知の脂質抽出方法を実施することが可能であり、特に制限はない。
【0048】
例えば、上記培養によって得られた酢酸菌を集菌し、その後、エタノール、アセトン、酢酸エチル等の極性溶媒を用いて酢酸菌型セラミドを抽出し、有機溶媒中で再結晶させる方法などがある。
【0049】
なお、本発明でのセラミドの定量方法としては、脂質抽出物をピリジン、塩化ベンゾイル存在下で反応させてベンゾイル基を導入し、高速液体クロマトグラフィーにて紫外線波長230nm下で検出する方法や脂質抽出物を高速液体クロマトグラフィーにて光散乱検出器を用いて検出する方法などが挙げられる。
【0050】
本発明によれば、菌体中のセラミド含有量を大幅に増加させることができ、セラミド含有量が、乾燥菌体1gあたり、6〜18.59mgの酢酸菌を得ることが実証されている。具体的には、7mg以上、9mg以上、11mg以上、13mg以上、14mg以上、15mg以上、18mg以上のものが実際に得られており、上限についても19mg以上、例えば20mgのものも充分に期待することができる。
【0051】
このようにして調製された酢酸菌型セラミドは、肌機能改善などの強い生理作用が期待できる組成物として利用可能である。
【実施例】
【0052】
以下の実施例及び試験例により、本発明をさらに詳細に説明する。
【0053】
(実施例1) 低pH処理によるセラミド高含有化
アセトバクター・マローラムNCI1683(Acetobacter malorum NCI1683)株(FERM BP−10595)を、5mlのYPG液体培地(グルコース3重量/容量%、ポリペプトン0.3重量/容量%、酵母エキス0.5重量/容量%、pH6.5)に植菌し、30℃で48時間、120rpmにて振とう培養して前々培養を行った。
【0054】
その後、前々培養液を5mlのYPG液体培地に2%植菌し、30℃で24時間、120rpmにて振とう培養して前培養を行った。
【0055】
調製した上記前培養液を、1リッターのYPG液体培地に、酢酸ナトリウムを最終濃度0.8重量/容量%になるように添加した培地(1N塩酸にてpHを6.5に調整した20重量/容量%酢酸ナトリウム水溶液を、酢酸ナトリウムが最終濃度で0.8重量/容量%となるように、添加して調製した。)の入った2リッター容ジャーファーメンターに1%植菌して、通気量を0.5リッター/分、回転数500rpmにて、28℃で48時間、通気攪拌培養し、培養終了後の培養液1リッターを得た。ここで得られた培養液を8,000gで5分間遠心分離して酢酸菌体を回収し、6分の1容量の培養上清(pH4.2)で再懸濁して6倍菌体濃縮液を調製した。
【0056】
この6倍菌体濃縮液を15mlのファルコンチューブに5mlづつ分注し、6N塩酸、又は、6N水酸化ナトリウム溶液を添加して、夫々、最終pHが2〜8の各pHとなるように調整した。また、上記のpH調整を行わない試験区のpHは4.2であった。そして、これらのファルコンチューブを40℃で保温しつつ、4日間静置した。
【0057】
その後、菌体懸濁液を遠心して集菌後、さらに10mlの脱イオン水で再懸濁、集菌することにより、菌体を洗浄して、凍結乾燥した。
【0058】
凍結乾燥終了後、酢酸菌体量(g)を測定した。
【0059】
さらに、凍結乾燥して得られた酢酸菌体を、それぞれ10mg計りとって、公知のブライ・デイヤー(Bligh−dyer)法に従い、クロロホルム:メタノール:水=1:2:0.8の組成の有機溶媒にて全脂質の抽出を行った。
【0060】
その後、有機溶媒を吸引して濃縮乾固して得られた全脂質に、0.4Nの水酸化カリウム溶液を加えて弱アルカリ分解を行い、回収したアルカリ安定脂質を無水ピリジン及び塩化ベンゾイル存在下にて70℃で10分反応させ、スフィンゴ脂質やホパノイド化合物を含んだベンゾイル誘導体を精製した。
【0061】
このベンゾイル誘導体を高速液体クロマトグラフィーにて紫外吸光230nmの波長を検出した。この際、別途にグルコンアセトバクター・ザイリナスNBRC15237(Gluconacetobacter xylinus NBRC15237)株から精製した、N−2’−ヒドロキシパルミトイル−スフィンガニン(酢酸菌型セラミド)精製品を用いて作成した標準曲線を用いて、酢酸菌型セラミドを定量した。
【0062】
得られた酢酸菌型セラミドの定量値をもとに、1g乾燥酢酸菌体あたりの酢酸菌型セラミドの含有量を算出して、処理の効果を比較した。
【0063】
尚、高速液体クロマトグラフィーの移動相にはヘキサン:イソプロパノール=100:1の溶媒を用い、流速は1ml/分とした。
【0064】
表1には、培地1リッター当りの乾燥酢酸菌体量(g/リッター)、乾燥酢酸菌体1g当りの酢酸菌型セラミド含有量(mg/g)、及び、培地1リッター当りの酢酸菌型セラミド生産量(mg/リッター)を求めた結果を示した。(表1:pHの効果)
【0065】
なお、上記の静置処理を行わずに、直ちに凍結乾燥した後、上記と同様にして、培地1リッター当りの乾燥酢酸菌体量(g/リッター)、乾燥酢酸菌体1g当りの酢酸菌型セラミド含有量(mg/g)、及び、培地1リッター当りの酢酸菌型セラミド生産量(mg/リッター)を求めたものを「処理前」とした。
【0066】
【表1】

【0067】
表1の結果から、酢酸菌懸濁液のpHを2.0〜8.0のいずれの値に調整した場合においても、処理前と比較して、セラミド含有量が4倍以上に増加し、それに相関してセラミド生産量が増加した。
【0068】
さらに、pHを4.5以下に低下させた場合には、pH8.0の場合と比較して、セラミド含有量が4倍以上に増加し、それに相関してセラミド生産量も顕著に増加することが確認された。
【0069】
以上の結果から、pHは2.0〜8.0が良く、さらに好ましいpHは2.0〜4.5、特に好ましくは2.0〜3.0であることが確認できた。
【0070】
(実施例2) 酢酸の効果
実施例1と同様にして、アセトバクター・マローラムNCI1683(Acetobacter malorum NCI1683)株(FERM BP−10595)を、YPG培地に酢酸ナトリウムを最終濃度0.8%になるように加えた培地で48時間培養し、ここで得られた培養液を8,000gで5分間遠心分離して酢酸菌体を回収し、6分の1容量の培養上清で再懸濁して6倍菌体濃縮液を調製した。
【0071】
その後、99.5%酢酸を用いて、最終濃度が5%となるように添加し、以下、40℃で、4日間静置した。尚、最終濃度を5%となるように酢酸を添加した場合、菌体濃縮液のpHは3.5となった。
【0072】
実施例1と同様にして、菌体を集菌、洗浄を行い、凍結乾燥を行い、培地1リッター当りの乾燥酢酸菌体量(g/リッター)、乾燥酢酸菌体1g当りの酢酸菌型セラミド含有量(mg/g)、及び、培地1リッター当りの酢酸菌型セラミド生産量(mg/リッター)を求め、表2に結果を示した。(表2:酢酸の効果)
なお、上記の静置処理を行わずに、直ちに凍結乾燥した後、実施例1と同様にして、培地1リッター当りの乾燥酢酸菌体量(g/リッター)、乾燥酢酸菌体1g当りの酢酸菌型セラミド含有量(mg/g)、及び、培地1リッター当りの酢酸菌型セラミド生産量(mg/リッター)を求めたものを「処理前」とした。
【0073】
【表2】

【0074】
表2の結果から、酢酸を添加してpHを低下させることにより、処理前と比較してセラミド含有量が25倍と顕著に増加することが確認できた。このことから、セラミド含有量増加のためのpH低下に用いることが可能な酸は塩酸に限定されないことが確認された。
【0075】
(実施例3) 高温処理によるセラミド高含有化
実施例1と同様にして、アセトバクター・マローラムNCI1683(Acetobacter malorum NCI1683)株(FERM BP−10595)を、YPG培地に酢酸ナトリウムを最終濃度0.8%になるように加えた培地で48時間培養し、ここで得られた培養液を8,000gで5分間遠心分離して酢酸菌体を回収し、6分の1容量の培養上清で再懸濁して6倍菌体濃縮液を調製した。
【0076】
その後、実施例2と同様にして6N塩酸により上記6倍菌体濃縮液をpH3に調整し、表3に示す各温度のインキュベーターの中に4日間静置した。
【0077】
実施例1記載の方法に従って、高温処理後のサンプルについて、菌体を集菌、洗浄を行い、回収した菌体について凍結乾燥を行なって、培地1リッター当りの乾燥酢酸菌体量(g/リッター)、乾燥酢酸菌体1g当りの酢酸菌型セラミド含有量(mg/g)、及び、培地1リッター当りの酢酸菌型セラミド生産量(mg/リッター)を求め、表3に結果を示した。(表3:温度の影響)
【0078】
なお、上記の静置処理を行わずに、直ちに凍結乾燥した後、実施例1と同様にして、培地1リッター当りの乾燥酢酸菌体量(g/リッター)、乾燥酢酸菌体1g当りの酢酸菌型セラミド含有量(mg/g)、及び、培地1リッター当りの酢酸菌型セラミド生産量(mg/リッター)を求めたものを「処理前」とした。
【0079】
【表3】

【0080】
表3の結果から、酢酸菌懸濁液の温度を4℃〜70℃のいずれの値に調整した場合においても、処理前と比較して、セラミド含有量が3倍以上に増加し、それに相関してセラミド生産量も増加した。
【0081】
さらに、温度を30℃以上に調整することにより、温度4℃の場合と比較して、セラミド含量が8倍以上と顕著に増加し、それに相関してセラミド生産量も顕著に増加することが確認された。
【0082】
以上の結果から、好ましい温度としては、30〜70℃であることが認められ、60〜70℃では18mg以上にまで含有量が増加した。
【0083】
(実施例4) 処理時間の効果
試験例1と同様にして、アセトバクター・マローラムNCI1683(Acetobacter malorum NCI1683)株(FERM BP−10595)を、YPG培地に酢酸ナトリウムを最終濃度0.8%になるように加えた培地で48時間培養し、ここで得られた培養液を8,000gで5分間遠心分離して酢酸菌体を回収し、6分の1容量の培養上清で再懸濁して6倍菌体濃縮液を調製した。
その後、試験例2と同様にして6N塩酸により上記6倍菌体濃縮液をpH3に調整し、40℃でインキュベーターの中に表4に示す間静置した。
【0084】
実施例1記載の方法に従って、高温処理後のサンプルについて、菌体を集菌、洗浄を行い、回収した菌体について凍結乾燥を行なって、その後、実施例1と同様にして、菌体を集菌、洗浄を行い、凍結乾燥を行い、培地1リッター当りの乾燥酢酸菌体量(g/リッター)、乾燥酢酸菌体1g当りの酢酸菌型セラミド含有量(mg/g)、及び、培地1リッター当りの酢酸菌型セラミド生産量(mg/リッター)を求め、表4に結果を示した。(表4:処理時間の影響)
【0085】
なお、上記の静置処理を行わずに、直ちに凍結乾燥した後、実施例1と同様にして、培地1リッター当りの乾燥酢酸菌体量(g/リッター)、乾燥酢酸菌体1g当りの酢酸菌型セラミド含有量(mg/g)、及び、培地1リッター当りの酢酸菌型セラミド生産量(mg/リッター)を求めたものを「処理前」とした。
【0086】
【表4】

【0087】
表4の結果から、処理時間を3時間以上とすることによって、処理前と比較して、酢酸菌中のセラミド含有量が3倍以上に増加し、それに伴いセラミド生産量も増加した。さらに、1日以上処理することにより、3時間処理した場合と比較して、セラミド含量が6倍以上増加し、セラミド生産量も顕著に増加することが確認できた。
【0088】
一方、7日以上処理しても、顕著なセラミド含有量の増加は確認出来なかった。
【0089】
以上の結果から、処理時間としては、3時間〜7日が好ましいこと、さらに好ましくは、1日〜4日であることが確認された。
【0090】
(実施例5) グルコンアセトバクター属菌株でのセラミド生産試験
実施例1と同様にして、グルコンアセトバクター・ハンゼニイNCI1468(Gluconacetobacter hansenii NCI1468)株(FERM BP−10596)を、YPG培地に酢酸ナトリウムを最終濃度0.8%になるように加えた培地で48時間培養し、ここで得られた培養液を8,000gで5分間遠心分離して酢酸菌体を回収し、6分の1容量の培養上清で再懸濁して6倍菌体濃縮液を調製した。
【0091】
その後、99.5%酢酸を用いて、最終濃度が5%となるように添加し、以下、37℃で、2日間静置した。
【0092】
実施例1記載の方法に従って、静置処理後のサンプルについて、菌体を集菌、洗浄を行い、回収した菌体について凍結乾燥を行なって、培地1リッター当りの乾燥酢酸菌体量(g/リッター)、乾燥酢酸菌体1g当りの酢酸菌型セラミド含有量(mg/g)、及び、培地1リッター当りの酢酸菌型セラミド生産量(mg/リッター)を求め、処理前のものと比較した結果を表5に示した。(表5:グルコンアセトバクター属でのセラミド生産試験)
【0093】
【表5】

【0094】
表5の結果から、アセトバクター属の酢酸菌だけでなく、グルコンアセトバクター属の酢酸菌においても、本方法によりセラミド含有量が増大することが確認でき、それに伴いセラミド生産量も顕著に増加した。このことから、いずれの酢酸菌においても、本方法を用いることが可能であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養終了後の酢酸菌を、pH2.0〜8.0及び/又は温度4〜80℃で3時間〜7日間保持することを特徴とする酢酸菌中の酢酸菌型セラミド含有量の増加方法。
【請求項2】
培養終了後の酢酸菌を、pH2.0〜4.5及び/又は温度30〜70℃で1日〜4日間保持することを特徴とする酢酸菌中の酢酸菌型セラミド含有量の増加方法。
【請求項3】
酢酸を含有し、エタノールを0.3容量/容量%以下で含有する培地で培養した酢酸菌を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の酢酸菌中の酢酸菌型セラミド含有量の増加方法。
【請求項4】
酢酸菌として、アセトバクター・マローラムNCI1683(Acetobacter malorum NCI1683)株(FERM BP−10595)を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の酢酸菌中の酢酸菌型セラミド含有量の増加方法。
【請求項5】
酢酸菌として、グルコンアセトバクター・ハンゼニイNCI1468(Gluconacetobacter hansenii NCI1468)株(FERM BP−10596)を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の酢酸菌中の酢酸菌型セラミド含有量の増加方法。
【請求項6】
セラミド含有量が乾燥菌体1gあたり7〜18.59mg、好ましくは9〜18.59mg更に好ましくは11〜18.59mgであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の酢酸菌中の酢酸菌型セラミド含有量の増加方法。

【公開番号】特開2007−306882(P2007−306882A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141323(P2006−141323)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【Fターム(参考)】