説明

酵母ベースのワクチンを生成するための方法

本発明は、中性pHレベルで酵母を培養する方法を提供する。中性pH条件下で培養された酵母は、ワクチン、予防薬および治療薬の開発など、生物学的目的に有用な望ましい特徴を示す。本発明はまた、本明細書に開示された方法を用いて増殖させた酵母を含む組成物およびキットも提供する。一局面において、本発明の方法で使用される培地は、酵母養
期間の少なくとも50%にわたって5.5〜8の間のpHレベルで維持されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この特許出願は、2008年2月2日に出願された米国第60/899,281号(これは、その全体が参考として本明細書に援用される)の優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、酵母培養物の収率および特定の特徴を改善するために中性pHで酵母培養物を増殖させる方法に関する。その方法はまた、これらの方法により生成された組成物にも関する。
【背景技術】
【0003】
ワクチンは、医療産業が利用できる最も費用効果の高い手段の1つである。しかし、病原体による感染、癌、遺伝子欠損およびその他免疫系障害による疾患を含む、様々な疾患に対する安全で効果的なワクチンおよびアジュバントの開発が急務であることに変わりはない。ワクチンに関する出版物、例えば、非特許文献1は、経口投与することができ、好ましくは人生の初期に数回のみ投与する必要がある、安全で耐熱性のワクチンが依然として必要であると述べている。また、複数の疾患から個人を保護することができる混合ワクチン、およびアジュバントを必要とせず、粘膜免疫を誘発することができるワクチンも好ましい。これまで、これらの基準のすべてを満たすワクチンは、あったとしてもほとんどない。
【0004】
組換えDNA技術により開発が可能になったサブユニットワクチンは、限られた免疫原性のみを示すためこれまで期待はずれであった。1つの例は、いくつかのHIV(ヒト免疫不全ウイルス)サブユニットワクチンの最近の臨床試験で、ワクチンの有効性が限られるだけでなく、免疫化された個人が後にHIVに曝露した場合、いくつかの場合で疾患進行の加速を示したため、臨床試験は中止された。例えば、非特許文献2および非特許文献3を参照されたい。サブユニットワクチン、ならびに死滅ウイルスワクチンおよび組換え生ウイルスワクチンの1つの欠点は、これらが強力な体液性免疫応答を刺激するように見える一方で、防御細胞性免疫を誘発しない点である。1994年の国際エイズ会議での主な結論は、これまで臨床でのワクチンが不足している、HIV感染性を予防または低減する細胞障害性T細胞媒介応答が依然として必要である、というものであった。さらに、これまで試験されたHIVワクチンは、一次HIV感染が生じる粘膜表面での免疫を誘発しなかった。
【0005】
さらに、米国で使用が認可された唯一のアジュバントは、アルミニウム塩の水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウムであり、どちらも細胞性免疫を刺激しない。さらに、アルミニウム塩製剤は、凍結または凍結乾燥することができず、このようなアジュバントはすべての抗原で効果があるわけではない。
【0006】
酵母細胞は、上述したHIVワクチン試験で試験されたもののいくつかを含む、サブユニットタンパク質ワクチンの生成に使用されてきた。酵母はまた、非特異的方法での免疫応答のプライミング(すなわち、食作用ならびに補体およびインターフェロン産生の刺激)を試みるため免疫化前に動物に給餌された。結果は曖昧であり、このようなプロトコルが防御細胞性免疫をもたらすことはなかった。例えば、非特許文献4および非特許文献5を参照されたい。
【0007】
ワクチンの他、多くの遺伝子および薬物療法は、最大の利点の可能性を確保するのに効率的および特異的な送達ビヒクルを必要とする。適切な送達ビヒクルがないことは、遺伝子療法の適用に対する大きな障害であり、多くの薬剤の治療可能性を制限するものである。例えば、最近の報告は、遺伝子療法適用のため現在臨床で試験されているアデノウイルスベクターが、望ましくない免疫および炎症反応を刺激すること、ならびに所望の方法で組み込まれているように見えないことを指摘している。例えば、非特許文献6およびこの中に引用された参考文献を参照されたい。
【0008】
酵母ワクチン技術に対する別の大きなハードルは、製造工程である。酵母細胞は長年研究所で培養されており、標準培養条件が確立されている。例えば、Methods of Enzymology、第194巻、Guthrieら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1990年)を参照されたい。標準操作手順は、一般に、pHレベルで測定して酸性である培地で酵母を培養することを含む。しかし、酸性培地での酵母の培養は、免疫調節またはワクチン作製のため酵母を抗原提示ビヒクルとして使用するのに最適ではない、様々な生物学的特性を示す酵母をもたらす可能性がある。故に、抗原提示ビヒクルであることにより適した特性を酵母が示すように、酵母を増殖する方法が必要である。本明細書に開示された本発明は、酵母は酸性培地で増殖することができる一方、酸性培地で増殖される場合に酵母が示す生物学的特性は、酵母が中性pHレベルにある培地で増殖される場合ほど望ましくないという発見に一部基づいている。
【0009】
本明細書に引用されたすべての特許、特許出願、および出版物の開示は、全目的でこの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Rabinovichら、Science(1994年)265、1401〜1404頁
【非特許文献2】Cohen、Science(1994年)264:1839頁
【非特許文献3】Cohen、Science(1994年)264:660頁
【非特許文献4】Fattal−Germanら、Dev. Biol. Stand.(1992年)77:115〜120頁
【非特許文献5】Bizziniら、FEMS Microbiol. Immunol.(1990年)2:155〜167頁
【非特許文献6】Engelhardtら、Human Gene Therapy(1994年)5:1217〜1229頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、培地で酵母を培養することにより酵母を増殖させるための方法であって、培地が酵母培養期間の少なくとも50%にわたって5.5〜8の間のpHレベルで維持される方法を提供する。本発明はまた、培地で酵母を培養することにより酵母を増殖させるための方法であって、培地が酵母培養期間の少なくとも50%にわたって5.5〜8の間のpHレベルで維持され、酵母密度が少なくとも0.5酵母単位/mLである方法も提供する。
【0012】
他の態様では、本発明は、少なくとも5.5のpHレベルを有する培地で酵母を培養することによる酵母の増殖を提供する。本発明はまた、培地で酵母を培養して酵母を増殖させるための方法であって、培地が5.5〜8の間のpHレベルで維持される方法を提供する。本発明の1つの態様では、酵母はSaccharomyces cerevisiaeである。本発明の態様では、培地はコハク酸塩またはコハク酸で緩衝されるか、または培地はさらにソイトン(soytone)を含有することができる。本発明の他の態様では、酵母は免疫応答を誘発する。本発明の他の態様では、酵母は抗原を発現し、いくつかの場合では抗原は異種抗原である。いくつかの場合では、異種抗原は酵母表面で発現される。
【0013】
本発明は、上記の任意の方法および関連する態様により培養された酵母を含む組成物を提供する。
【0014】
本発明は、抗原を発現する発現系を含有する酵母を培地で培養することにより抗原発現酵母を産生するための方法であって、培地のpHが少なくとも5.5である方法を提供する。本発明はまた、抗原を発現する発現系を含有する酵母を培養することにより抗原発現酵母を産生するための方法であって、培地が5.5〜8の間のpHレベルで維持される方法も提供する。1つの態様では、酵母はSaccharomyces cerevisiaeである。他の態様では、培地はコハク酸塩もしくはコハク酸で緩衝されるか、または培地はさらにソイトンを含有することができる。本発明の他の態様では、酵母は免疫応答を誘発する。本発明の他の態様では、酵母は抗原を発現し、いくつかの場合では抗原は異種抗原である。いくつかの場合では、異種抗原は酵母表面で発現される。いくつかの態様では、酵母が5.5未満のpHで増殖される場合より容易に異種抗原が他の細胞または作用物質との相互作用に到達可能である。
【0015】
本発明はまた、上記に開示された方法により培養された酵母を含む組成物も提供する。
【0016】
本発明はまた、抗原発現酵母を含む組成物を個体に投与することにより個体におけるTh1型応答を誘導する方法であって、酵母が、少なくとも5.5のpHレベルを有する培地で培養されている方法も提供する。
【0017】
本発明はまた、抗原発現酵母を含む組成物を個体に投与することにより個体におけるTh1型応答を誘導する方法であって、酵母が、5.5〜8の間のpHレベルで維持される培地で培養されている方法も提供する。1つの態様では、組成物は、中性pHで培養、維持または回収された酵母で負荷された樹状細胞を含む。別の態様では、酵母はSaccharomyces cerevisiaeである。他の態様では、培地はコハク酸塩もしくはコハク酸で緩衝されるか、または培地はさらにソイトンを含有することができる。本発明の他の態様では、酵母は免疫応答を誘発する。本発明の他の態様では、酵母は抗原を発現し、いくつかの場合では抗原は異種抗原である。いくつかの場合では、異種抗原は酵母表面で発現される。1つの態様では、Th1型応答はインターフェロン−ガンマ産生である。別の態様では、Th1型応答はIL−12産生である。
【0018】
本発明はまた、pHが少なくとも5.5である培地、および酵母を培養するための培地の使用に関する指示書を含む酵母を培養するためのキットも提供する。本発明はまた、5.5〜8の間のpHレベルで維持される培地、および酵母を培養するための培地の使用に関する指示書を含む酵母を培養するためのキットも提供する。他の態様では、培地はコハク酸塩もしくはコハク酸で緩衝されるか、または培地はさらにソイトンを含有することができる。1つの態様では、キットはさらに酵母を含む。いくつかの場合では、酵母は凍結または凍結乾燥されている。いくつかの場合では、酵母は、少なくともpH5.5の培地で培養されるか、または5.5〜8の間のpHレベルで維持される培地で培養されている。他の場合では、酵母は複製可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】細胞増殖および培養pHレベルに対する培地pHレベルの効果を示す図である。
【図2】細胞壁厚に対する培地pHレベルの効果を示す図である。
【図3】約6.5のpHで異なる緩衝剤を試験した結果を示す図である。75−15細胞の増殖および培養pHに対する効果を示す。
【図4】グルカナーゼによる溶解で測定した、細胞壁厚に対する様々な緩衝剤の効果を示す図である。培地は、コハク酸塩またはクエン酸塩のいずれかを用いて緩衝され、培地を約6.5のpHレベルに緩衝した。
【図5】増殖およびpHレベルに対する培地処方の効果について、様々な添加剤を試験した培地処方試験の結果を示す図である。
【図6】培地処方試験の一部である酵母細胞生存の結果を示す図である。酵母細胞表面のHAの表面発現を、フローサイトメトリーにより測定した。
【図7】様々な添加剤を試験した、細胞増殖およびpHプロフィールに関する培地処方試験の結果を示す図である。
【図8】インタクトな酵母から遊離可能な血球凝集素(HA)の免疫ブロットアッセイの結果を示す図である。酵母が中性で増殖する場合対酵母がより低いpH条件で増殖する場合のHA到達性の差を示す。免疫ブロットは、YEXおよびGI−8103からのDTT溶出液のウェスタンブロットである。
【図9】酵母細胞を添加した樹状細胞によるサイトカイン分泌に対する、中性および低いpHレベルでの酵母細胞の培養効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書に開示された本発明は、中性pH、少なくともpH5.5、またはpH5.5〜8の間、またはpH6〜8の間で酵母を増殖することが、より望ましい生物学的特徴を有する酵母をもたらすという発見に基づく。以下に詳述されるこれらの望ましい特徴のいくつかは、酵母細胞壁を柔軟に、および細胞壁消化酵素による消化対し感受性に保ちながら、増加した細胞密度で十分に増殖する能力、ならびに他の細胞および/または作用物質に抗原をより接近できるようにする方法での抗原の提示を含むが、これらに限定されない。
【0021】
一般的技法
本発明の実施は、特に指示のない限り、当業者によく知られた、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、核酸化学、および免疫学の従来技術を使用する。このような技術は、Methods of Enzymology、第194巻、Guthrieら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1990年);Biology and activities of yeasts、Skinnerら編、Academic Press(1980年);Methods in yeast genetics: a laboratory course manual、Roseら、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1990年);The Yeast Saccharomyces: Cell Cycle and Cell Biology、Pringleら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1997年);The Yeast Saccharomyces: Gene Expression、Jonesら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1993年);The Yeast Saccharomyces: Genome Dynamics, Protein Synthesis, and Energetics、Broachら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1992年);Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版(Sambrookら、1989年)およびMolecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版(SambrookおよびRussell、2001年)、(「Sambrook」として本明細書に一緒に言及されている);Current Protocols in Molecular Biology(F.M. Ausubelら編、1987年、2001年までの補遺を含む);PCR: The Polymerase Chain Reaction、(Mullisら編、1994年);HarlowおよびLane(1988年)Antibodies, A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Publications、New York;HarlowおよびLane(1999年)Using Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY(「HarlowおよびLane」として本明細書に一緒に言及されている)Beaucageら編、Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry、John Wiley & Sons, Inc.、New York(2000年)およびVaccines、S. PlotkinおよびW. Orenstein編、第3版(1999年)などの文献で十分に説明されている。
【0022】
定義
本明細書では、用語「中性pH」の一般的使用は、少なくとも5.5のpHレベルを指す。中性pHの範囲は、約pH5.5〜約pH8の間、好ましくは約pH6〜約8の間であり得る。当業者は、pH計で測定した場合、小さな変動(例えば、10分の1または100分の1)が生じ得、そのため、pHレベルを決定する場合はいつでもこのことを考慮すべきであることを理解されよう。
【0023】
本明細書では、「抗原」の一般的使用は、適応免疫系により認識され得る任意の分子を指す。1つの態様では、抗原は抗体に特異的に結合する分子である。分子は、タンパク質が自然発生もしくは合成的に得られたタンパク質(ペプチド、部分タンパク質、完全長タンパク質)のいずれかの部分、または細胞組成物(全細胞、細胞溶解物または破壊細胞)の一部、生物(全生物、溶解または破壊細胞)の一部、または糖質もしくはこの部分であり得る。抗原は、単独でまたは(破砕した酵母細胞のような)アジュバントなど別の化合物の使用により、抗原特異的体液性免疫応答を誘発することができる。別の態様では、抗原は、主要組織適合複合体(MHC)との関連においてTリンパ球(すなわちT細胞)により認識される。別の態様では、抗原は、抗原を投与した動物の細胞および組織内で遭遇する同一または類似の抗原に対し、寛容原(toleragen)として作用することができる。
【0024】
本発明の1つの態様では、免疫応答刺激を指す場合、「抗原」は「免疫原」であり得る。免疫原は、適応免疫応答、例えば、抗体産生誘導を誘発することができる分子である。免疫原は、いくつかの場合では、抗原へ将来曝露した際に該抗原を認識する抗体を産生するであろう記憶細胞を生成することができる。この分野のすべての当業者によく知られている通り、免疫原は、Tリンパ球によっても認識されることができるが、Tリンパ球に認識される免疫原の形態は、抗体が認識する免疫原の形態とは異なる。
【0025】
酵母の培養方法
本発明は、所望の抗原の高発現、細胞壁の柔軟性、および抗原の提示など、望ましい特徴をもたらす酵母の培養方法も提供する。
【0026】
これらの方法は、すべての酵母に対し幅広く適用できる。酵母は、3つのクラス、すなわち、Ascomycetes、BasidiomycetesおよびFungi Imperfectiの1つに属する単細胞微生物である。病原性酵母株、またはこの非病原性変異体を本発明により使用することができるが、1つの態様では、非病原性酵母株が使用される。非病原性酵母株の例には、Saccharomyces、Candida、Cryptococcus、Hansenula、Kluyverornyces、Pichia、Rhodotorula、SchizosaccharomycesおよびYarrowiaが含まれる。1つの態様では、Saccharomyces、Candida、Hansenula、PichiaおよびSchizosaccharomycesが使用される。さらに他の態様では、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces carlsbergensis、Candida albicans、Candida kefyr、Candida tropicalis、Cryptococcus laurentii、Cryptococcus neoformans、Hansenula anomala、Hansenula polymorpha、Kluyveromyces fragilis、Kluyveromyces lactis、Kluyveromyces marxianus var. lactis、Pichia pastoris、Rhodotorula rubra、Schizosaccharomyces pombe、および、Yarrowia lipolyticaが使用される。本発明は上記の種リストに限定されず、当業者は本明細書の教示をいずれのタイプの酵母にも適用できることが理解される。別の態様では、Saccharomyces cerevisiae(S. cerevisiae)が本発明の方法を実施するのに使用される。S. cerevisiaeは、分子操作の容易さ、および食品添加物としての使用に「一般に安全と認められる」すなわち「GRAS」である(GRAS、FDA提案規則62FR18938、1997年、4月17日)ため好ましい。
【0027】
pHレベルは、酵母の培養に重要である。当業者は、培養工程には、酵母培養の開始だけでなく、同様に培養の維持も含まれることを理解するであろう。酵母培養は、いずれのpHレベルでも開始することができるが、酵母培地は、時間とともにより酸性(すなわち、pH低下)になる傾向があるため、培養工程中はpHレベルをモニターすることを注意しなければならない。
【0028】
本発明のいくつかの態様では、酵母は、少なくとも5.5のpHレベルの培地で増殖される。他の態様では、酵母は約5.5のpHレベルで増殖される。他の態様では、酵母は5.5〜8の間のpHレベルで増殖される。いくつかの場合では、酵母培養は5.5〜8の間のpHレベルで維持される。他の態様では、酵母は6〜8の間のpHレベルで増殖される。いくつかの場合では、酵母培養は6〜8の間のpHレベルで維持される。他の態様では、酵母は6.1〜8.1の間のpHレベルで増殖および/または維持される。他の態様では、酵母は6.2〜8.2の間のpHレベルで増殖および/または維持される。他の態様では、酵母は6.3〜8.3の間のpHレベルで増殖および/または維持される。他の態様では、酵母は6.4〜8.4の間のpHレベルで増殖および/または維持される。他の態様では、酵母は5.5〜8.5の間のpHレベルで増殖および/または維持される。他の態様では、酵母は6.5〜8.5の間のpHレベルで増殖および/または維持される。他の態様では、酵母は約5.6、5.7、5.8または5.9のpHレベルで増殖される。別の態様では、酵母は約6のpHレベルで増殖される。別の態様では、酵母は約6.5のpHレベルで増殖される。他の態様では、酵母は約6、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9または7.0のpHレベルで増殖される。他の態様では、酵母は約7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、または8.0のpHレベルで増殖される。他の態様では、酵母は8より上のレベルで増殖される。
【0029】
1つの態様では、酵母は、培地のpHレベルがpH5.5より下に下がらないように培養される。いくつかの場合では、pH5.5を下回る低下は5分を超えない。他の場合では、pH5.5を下回る低下は10分、好ましくは20、30、40、50または60分を超えない。他の場合では、pH5.5を下回る低下は1時間を超えない。別の態様では、酵母は、培地のpHレベルが5.0より下に下がらないように培養される。いくつかの場合では、pH5.0を下回る低下は5分を超えない。他の場合では、pH5.0を下回る低下は10分、好ましくは20、30、40、50または60分を超えない。他の場合では、pH5.0を下回る低下は1時間を超えない。このため、酵母が少なくともpH5.5以上の培地で増殖される時間が長いほど、以下に記載された望ましい特徴を有する酵母を得ることに関し、結果は良好となるであろう。
【0030】
1つの態様では、酵母細胞を増殖させるための中性pH方法の使用は、酵母培養期間の少なくとも50%にわたって、酵母細胞が中性pHで増殖されることを意味する。酵母培養期間の少なくとも60%、より好ましくは酵母培養期間の少なくとも70%、より好ましくは酵母培養期間の少なくとも80%、および最も好ましくは酵母培養期間の少なくとも90%にわたって、酵母が中性pHで増殖されることがより好ましい。
【0031】
別の態様では、中性pHでの酵母の増殖には、中性pHで少なくとも5分間、好ましくは中性pHで少なくとも15分間、より好ましくは中性pHで少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも2時間、さらにより好ましくは、少なくとも3時間以上酵母細胞を培養することが含まれる。
【0032】
先述の通り、酵母は増殖および複製するため、細胞密度が増大し、培地の酸性レベルが上昇する。このため、酵母密度が増加しているときに、酵母は少なくとも5.5のpHレベルで培養および/または少なくともpH5.5で維持されることが推奨される。1つの態様では、酵母密度が0.5酵母単位(YU)/ml以上であるとき、酵母はpH5.5〜8の間で増殖および/または維持される。他の態様では、酵母密度が少なくとも0.6YU/ml以上、好ましくは0.7YU/ml以上、0.8YU/ml以上、0.9YU/ml以上、または1YU/ml以上である場合、酵母はpH5.5〜8の間で増殖および/または維持される。別の態様では、酵母密度が0.5YU/ml以上である場合、酵母はpH6〜8の間で増殖および/または維持される。他の態様では、酵母密度が少なくとも0.6YU/ml以上、好ましくは0.7YU/ml以上、0.8YU/ml以上、0.9YU/ml以上、または1YU/ml以上である場合、酵母はpH6〜8の間で増殖および/または維持される。
【0033】
いくつかの態様では、酵母培養が中性pHレベルにあるのは、回収時であることが好ましい。いくつかの場合では、回収時の酵母培養は6〜8の間のpHレベルにあるであろう。他の場合では、回収時の酵母培養は5.5〜8の間のpHレベルにあるであろう。
【0034】
培地は、任意の手段により少なくとも5.5のpHレベルにすることができる。1つの態様では、コハク酸(および任意の関連形態、例えば、アニオンコハク酸塩)が培地を緩衝するのに使用される。実施例にさらに詳述されている通り、培地を少なくともpH5.5に緩衝するためのコハク酸塩の使用は、酵母が約2〜2時間半の倍加時間を有することが可能になる。コハク酸塩は、市販の供給源(例えば、Sigma Chemicals社)から入手できる。他の態様では、クエン酸塩は、培地を少なくともpH5.5にするのに使用することができる。当業者は、酵母を生存させ続けながら、培地を少なくともpH5.5にするのに使用することができる他の緩衝剤を容易に決定することができるであろう。溶液を安定したpHレベルに保つ緩衝剤の概念は、当技術分野でよく知られており、このため、本明細書では詳細に論じない。本発明により増殖された酵母は、医薬製剤(例えば、ワクチン)に使用されるならば、GMPグレードの材料が使用されることが推奨される。
【0035】
さらに、培地を改善するのに他の補助剤を培地に添加することができる。培地に添加するのに特に役立つ他の補助剤にはソイトンが含まれる。ソイトンは、市販の供給源(例えば、BD Difco社)から容易に入手できる。実施例および図面に示される通り、培地へのソイトンの添加は、中性pHでの増殖のため密度の増加を支持する。さらに、ソイトンの添加は、目的とする抗原、インフルエンザウイルスの血球凝集素(HA)の発現を支持する。
【0036】
他の添加剤は、異種遺伝子の発現誘導など、他の目的で酵母培養に添加することができる。いくつかの態様では、血球凝集素発現の発現を誘導するのに銅が使用される。しかし、銅の使用は、中性pHで増殖される酵母で発現される誘導性遺伝子の調節には、中性pHでは理想的ではないため、銅以外の添加剤が推奨される。
【0037】
酵母培養に対する中性pHの効果
酵母の培養における中性pHの使用は、免疫調節および/または免疫応答誘発のためのビヒクルとして酵母を使用するのに望ましい特徴である、いくつかの生物学的効果を促進する。1つの態様では、中性pHでの酵母の培養は、倍加時間に何らのマイナス効果を与えることなく(例えば、倍加時間の減速)、酵母の良好な増殖を可能にする。酵母は、細胞壁の柔軟性を失うことなく高密度まで増殖し続けることができる。
【0038】
別の態様では、少なくとも5.5のpH、またはpH5.5〜8の間などの中性pHの使用は、柔軟な細胞壁を有する酵母および/またはすべての回収密度で細胞壁消化酵素(例えば、グルカナーゼ)に感受性を有する酵母の産生を可能にする。このため、本発明は、従来のアッセイで測定した細胞壁の柔軟性(例えば、グルカナーゼに対する感受性)を有する酵母の方法および組成物を提供する。事前実験は、酵母が、0.5YU(酵母単位)/mlの回収密度で、細胞壁消化酵素による消化に対する感受性を喪失することを立証した。このため、1つの利点は、0.5YU/mlでの標準的な増殖培地で培養された酵母により行われる比較を、任意の密度での中性pH増殖との比較に使用できることである。柔軟な細胞壁を有する酵母は、酵母を宿す細胞におけるサイトカイン(例えば、INF−ガンマ)分泌を促進するなど、独特の免疫応答を示すことができるため、この特性は望ましい。当業者が中性pHの方法を使用すると考えられる別の理由は、細胞壁に位置する抗原への到達性を高められる点である。これは、フローサイトメトリーなどの標準技術で測定した、発現タンパク質の免疫原性の増大および抗体検出に有用である。
【0039】
中性pHで培養された酵母で観察されるさらに別の望ましい特徴は、免疫調節の目的で有益な方法での抗原発現である。1つの態様では、酵母は抗原発現のためのビヒクルとして使用される(例えば、米国特許第5,830,463号および第7,083,787号を参照されたい)。抗原は、天然酵母抗原、あるいは酵母により発現される異種抗原であってよい。いくつかの態様では、抗原発現のための酵母は、様々な疾患および病気(例えば、感染症または癌)と闘うワクチン、予防薬、および治療薬の開発に役立つ。中性pHの方法を用いて、当業者は、抗原が他の細胞(例えば、免疫共刺激性機能または免疫制御のため)または他の作用物質(例えば、検出用抗体)により到達可能な抗原提示酵母を産生することができる。さらに、インフルエンザHA抗原などのいくつかの抗原に中性pHを使用することは、ジチオスレイトール(DTT)による処理により、ジスルフィド結合したHAの遊離を可能にする。これは、HA発現酵母が、pHがpH5より下に低下する培地で培養される場合には不可能なことである。いくつかの場合では、これは、わずかな時間でもpHがpH5より下に低下する場合に生じる。他の場合では、これは、1もしくは数分または1もしくは複数時間、pHがpH5より下に低下する場合に生じる。
【0040】
中性pHの方法に従い培養された酵母が示す別の望ましい特徴は、酵母に曝露した細胞からのTh1型サイトカインの分泌である。Th1型サイトカインの例には、インターフェロン−ガンマ、IL−12、およびIL−2が含まれるが、これらに限定されない。実施例にさらに詳述されている通り、中性pHプロトコルに従い増殖された酵母で負荷された樹状細胞は、低い(酸性)pH培地で増殖された酵母に比べて、インターフェロン−ガンマ分泌および発現レベルが上昇する。中性pH培養方法を用いる場合、IL−12分泌レベルの低下はなかった。このため、当業者は、免疫調節の目的、例えば、増大したTh1型応答から恩恵を受けると考えられる、疾患または障害に苦しんでいる個体においてTh1型応答を誘導するために、本明細書に開示された中性pHの方法を使用することができる。
【0041】
中性pHの方法を用いて増殖された酵母組成物
本発明はまた、本明細書に開示された中性pHの方法を用いて増殖された酵母を含む組成物も企図する。1つの態様では、組成物は、この表面もしくは内部のいずれか、または両方で天然抗原を発現する酵母を含む。この組成物は、アジュバントとしての投与など、様々な目的に有用であり得る。別の態様では、組成物は、この表面もしくは内部のいずれか、または両方で異種抗原を発現する酵母を含む。この組成物は、免疫調節を必要としている個体における免疫調節およびワクチン開発など、様々な目的に有用であり得る。
【0042】
これらの組成物はまた、医薬的に許容可能な賦形剤および/または担体を含むこともできる。医薬的に許容可能な担体には、滅菌水性または非水性の溶液、懸濁液、および乳濁液が含まれ得る。非水性溶剤の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルである。水性担体には、生理食塩水および緩衝媒体を含む、水、アルコール/水性溶液、乳濁液または懸濁液が含まれる。非経口ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸化リンゲル油または固定油が含まれる。静脈内ビヒクルには、液体および栄養補液、電解質補液(リンゲルデキストロースを基にしたものなど)などが含まれる。例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガスなどのような防腐剤および他の添加剤も存在することができる。医薬的に許容可能な賦形剤を有する、中性pH条件下で増殖された酵母を含む組成物製剤は、一般に当業者には日常的である。
【0043】
本発明のキット
本発明は、中性pH条件下で酵母を培養するための培地成分を含むキットを企図する。1つの態様では、キットは、培地を少なくとも5.5のpHにするのに使用できるコハク酸塩またはコハク酸を含有する培地成分、およびこれを使用するための一連の指示書を含む。別の態様では、キットはさらに追加成分としてソイトンを含む。別の態様では、キットはさらに酵母細胞を含む。酵母細胞は、本明細書に開示されたプロトコルにより培養を開始するため凍結することができる。別の態様では、酵母細胞は、キットの一部として包装するため凍結される前に、本明細書に開示された方法で既に培養されていてよい。別の態様では、酵母細胞は凍結乾燥することができ、場合によりキットに含めることができる。別の態様では、キットは、本明細書に開示された方法により調製された、複製可能である酵母を含む。
【0044】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を説明するのに提供される。これらは、どんな形であれ本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
酵母培地処方
様々なタイプの培地を、酵母を培養するのに使用およびpHレベルが中性になるように調整することができる。使用することができる培地の例を以下に提供するが、本発明は、これらの培地成分または培地プロトコルの使用に限定されないことを理解されたい。
【0046】
1つの標準的な培地処方は、以下のようなULDM培地である。
【0047】
【化1】

別の標準的な培地処方は、以下のようなUL2培地である。
【0048】
【化2】

別の標準的な培地処方は、以下のようなUL3培地である。
【0049】
【化3】

別の標準的な培地処方は、以下のようなUL4培地である。
【0050】
【化4】

別の標準的な培地処方は、以下のようなUDM培地である。
【0051】
【化5】

【0052】
【化6】

別の標準的な培地処方は、以下のようなU2培地である。
【0053】
【化7】

別の標準的な培地処方は、以下のようなU3培地である。
【0054】
【化8】

【0055】
【化9】

別の標準的な培地処方は、以下のようなU4培地である。
【0056】
【化10】

標準的な培地処方は、追加のアミノ酸を補充することができる。以下のプロトコルは例示的な培地処方である。
【0057】
ULDMaa培地処方は以下の通りである。
【0058】
【化11】

【0059】
【化12】

UL2aa培地処方は以下の通りである。
【0060】
【化13】

UL3aa培地処方は以下の通りである。
【0061】
【化14】

UDMaa培地処方は以下の通りである。
【0062】
【化15】

【0063】
【化16】

U2aa培地処方は以下の通りである。
【0064】
【化17】

U3aa培地処方は以下の通りである。
【0065】
【化18】

【0066】
【化19】

別の態様では、コハク酸塩含有緩衝培地を使用する。コハク酸塩含有酵母培地は以下である。pH6.9に調整したUDMS培地処方は以下の通りである。
【0067】
【化20】

pH6.9に調整したU2S培地処方は以下の通りである。
【0068】
【化21】

【0069】
【化22】

pH6.9に調整したU3S培地処方は以下の通りである。
【0070】
【化23】

pH6.9に調整したU4S培地処方は以下の通りである。
【0071】
【化24】

(実施例2)
細胞増殖および培養pHに対する培地pHの効果
図1に示した通り、細胞増殖および培養pHに対する培地pHの効果を試験した。細胞は、Bis−Tris緩衝液、pH7.2またはリン酸緩衝液、pH7.2を補充したU2培地で増殖させた。対照培養物は、培地に緩衝液を添加せずにU2培地で増殖させた。対照として特筆される条件(培地pH5.5と同じ)または培地pH7.2としては、これらの対照物の増殖培地は、酵母を摂取する前に塩基(NaOH)によりpH5.5またはpH7.2のいずれかに調整した。培養物を30℃でインキュベートし、細胞数および培養pHを最大16時間モニターした。結果は、様々なpHレベルでの緩衝液が、酵母の増殖速度に影響したことを示す。図1に示した通り、倍加時間は2.8〜4.5時間の範囲であった。非緩衝pH7培地におけるpHは、2.0YU/mLで約5.5であった。これは、pHを中性レベルに保つためにいくつかの形態の緩衝剤が必要であることを示すものである。
【0072】
(実施例3)
細胞壁厚に対する培地pHの効果
培地pHの効果を試験して、細胞壁厚に何らかの効果を有するかどうかを判定した。増殖培地および条件は実施例1と同じであった。培養物は、0.5〜2.0YU/mLの範囲の密度で回収した。図2の凡例では、培養物を回収した密度がダッシュマークの後ろの数字で記されている。例えば、対照−0.6とは、細胞をpH5.5で非緩衝培地で増殖し、次いで、細胞が0.6YU/mL密度に達したときに回収したことを意味する。フラスコ1〜3の条件(例えば1〜0.5、2〜2.0または3〜1.0)は、図の下に記載されており、回収時の細胞密度は凡例に記されている。使用した溶解アッセイプロトコルは以下の通りであった:(1)洗浄した細胞10YUを1mLのTris−BMEで再懸濁した;(2)「時間0」の試料を採取し、600nmでODを測定する;(3)グルカナーゼ20Uを添加する;(4)30℃で回転させる;(5)10分ごとに、試料を採取しODを測定する。
【0073】
図2に観察され得る通り、対照培養(培地pH約5.5)は、細胞密度が増加するにつれて溶解効率が低下することを示す。フラスコ2は、緩衝剤なしによるpH7.2での培地の効果を示す。フラスコ2は、Bis−Tris緩衝液によるpH7.2での培地の効果を示す。フラスコ3は、リン酸緩衝液によるpH7.2での培地の効果を示す。
【0074】
故に、結果は、約pH5.5以上で緩衝した酵母の増殖が、すべての回収密度で、細胞壁を柔軟に、および細胞壁消化酵素による消化(例えば、リチカーゼ/グルカナーゼによるスフェロプラストの作製)に対し感受性に保つことを示している。反対に、多くの酵母研究所で一般に使用される標準工程では、感受性は回収密度>0.5YU/mLで失われた。比較を容易にするため、標準的な増殖培地による0.5YU/mLが、任意の密度での中性pH増殖との比較に多く使用される。
【0075】
(実施例4)
75−15細胞の構築
TK75−15で表される融合タンパク質は、TEF2プロモーターに誘導されるAga2配列を用いて細胞壁にインフルエンザHAタンパク質を発現するように設計した。このコンストラクトでは、Aga2配列にHA配列C末端が対応するタンパク質を構築した。このタンパク質は、Aga1p(この場合では、CUP1プロモーターに誘導される)も発現する細胞で発現した場合、酵母細胞の外側の細胞壁、およびサイトゾルに局在する。インフルエンザHA抗原を含む融合タンパク質は、NからC末端のフレームで融合される以下の配列要素を有する単一のポリペプチドである(融合タンパク質のアミノ酸配列は、本明細書に配列番号1で表される):1)天然の18アミノ酸ER標的シグナル配列(配列番号1の位置1〜18)を含む、完全長のS. cerevisiae Aga2タンパク質配列(配列番号1の位置1〜87);2)HA本体からAga2を隔てるスペーサー(位置88および89);3)シグナル配列(配列番号1の位置90〜600)を欠く、およびHAの36C末端残基を欠き、それによってC末端膜アンカーおよび細胞質尾部が排除された、インフルエンザHAタンパク質;4)ヒスチジンタグからHAタンパク質本体を隔てるトリグリシンスペーサー(配列番号1の位置601〜603);および5)C末端ヘキサヒスチジンタグ(配列番号1の位置604〜609)。配列番号1の融合タンパク質をコードする核酸配列は、本明細書に配列番号2で表される。この融合タンパク質およびこれを発現するタルモゲン(Tarmogen)は、75−15と呼ぶことができる。
【0076】
使用したタンパク質配列は次の通りである(配列番号1)
【0077】
【化25】

対応する核酸配列は次の通りである(配列番号2)
【0078】
【化26】

【0079】
【化27】

(実施例5)
75−15細胞増殖および培養pHに対する異なる緩衝剤(pH6.5培地)の効果
細胞増殖に対する効果および培養pHに対する効果を判定するため、異なる緩衝剤を75−15細胞で試験した。これらの緩衝剤を図3に示す。これらの緩衝剤には、コハク酸塩、クエン酸塩、および炭酸塩が含まれる。いずれの緩衝剤も沈殿形成をもたらすことはなかった。使用した緩衝剤のすべてのが、標準的な増殖培地に十分に溶解した。すべての試験培養物のpHを、酵母培養物の摂取前にpH6.5に調整した。培養物を、次いで、振盪フラスコで30℃で最大15時間増殖させた。細胞を炭酸塩緩衝剤で増殖させた場合には、最少の増殖が見られた、または増殖は見られなかった。図3に見られる通り、異なる緩衝剤の使用は、増殖速度に影響した。増殖は、中性pH(少なくともpH5.5)で速かった。特に、コハク酸塩緩衝剤を有する培地は、倍加時間に関して最良であった(約2.5時間の倍加時間)。反対に、酵母細胞をpH5.5未満(より酸性条件)で増殖させた場合、倍加時間は約3.5時間で減速した。クエン酸塩は同様の倍加時間であった(約3.5時間)。0.05Mでのクエン酸塩は、0.02Mでのコハク酸塩より緩衝能力が増大した。これらの実験では、発現誘導のため培養物すべてに0.35mMの銅を入れた。
【0080】
(実施例6)
細胞溶解に対する様々な緩衝剤の効果
図4は、コハク酸塩およびクエン酸塩など、様々な緩衝剤で行った実験結果を示す。培養物は、実施例1に記載された通りに増殖させた。グルカナーゼにより溶解される酵母の能力を、上記の溶解アッセイプロトコルを用いて測定した。対照培養(培地pH約5.2)での酵母は、細胞密度が増加するにつれ(図2に関する上述の通り、ダッシュの後ろの数字で示される細胞密度)、グルカナーゼによる溶解効率の低下を示した。しかし、コハク酸塩およびクエン酸塩緩衝培地のいずれについても、回収時の細胞密度は、上述した溶解アッセイにおいて細胞壁消化酵素により溶解される酵母の能力に何ら効果を与えなかった。コハク酸塩およびクエン酸塩緩衝培地での酵母は、増加する細胞密度(例えば、0.5YU/ml、0.9YU/mlおよび2.1または2.2YU/ml)での溶解に依然として感受性であった。
【0081】
(実施例7)
培地処方試験
酵母培地に添加される他の剤の寄与を試験し、結果を5に示す。U2またはU4は、基本的な培地組成物を指す。タンパク質発現は、銅誘導性CUPIプロモーターの調節下にあるため、HAタンパク質を発現するのに誘導される酵母細胞用の培地に、0.35mMの銅を添加する。ソイトン(図5のSoy)は、大豆のペプシン消化により得られる栄養素の市販の複合体混合物である。ソイトンの添加は、最速の増殖および最高収量(30YU/mL)をもたらした。0.08Mのコハク酸の使用は、より良好な緩衝能力を示した。細胞は、30℃で、x軸に示した時間の間増殖させた。
【0082】
図6は、細胞の生存の判定にGuava Technologiesを使用した培地処方試験の結果を示す。銅誘導性Aga2−HAを発現する酵母株75−15を、振盪フラスコで30℃で増殖させた。銅を培養物に添加した場合、Aga2−HAタンパク質が発現され、細胞表面に現れる。該タンパク質は、表面にHAを示す酵母細胞の数を表している(%陽性シグナル)。細胞の生存は、他の方法(例えば、血球計またはトリパンブルー)を用いて判定することもできる。最も高いシグナルは、(細胞が増殖速度を減速する傾向にある細胞密度を超える)細胞密度8YU/mLですら、U2で観察された。ソイトンを用いた培養物は、高密度がタンパク質の減少を示し、細胞密度の明らかな効果を示した。U4の使用は、全般に低いシグナルをもたらした。細胞壁、および表面発現タンパク質を検出するHA特異的抗体の能力にpHが与える効果から、これらの結果も検出の容易性を証明するものである。
【0083】
異なるソイトン濃度を用いて、追加の実験を行った。図7はこの結果を示す。0.5g/lおよび1g/lソイトンの間に、増殖またはpHの差は観察されなかった。U4−YNB培地ではU2培地よりも速い増殖が観察された。
【0084】
(実施例8)
酵母が中性pH条件で増殖される場合のHA到達性の差
検出用抗体などの他の作用物質からの相互作用に対する特定抗原の到達性を、様々な培地pHレベルにより評価した。図8は、酵母細胞をpH5未満で増殖させた場合、および同様に酵母を6を超えるpHで増殖させた場合に、インタクトな酵母から遊離可能なインフルエンザ血球凝集素(HA)の免疫ブロットアッセイを示す。中性pHで増殖させた酵母は、表面に提示されたHAを、HAを発現する細胞数および細胞あたりのHA量のいずれにおいても、フローサイトメトリー染色で判定される抗体検出によりずっと利用しやすいものにする。さらに、中性pHで増殖させた酵母は、ジチオスレイトール(ジスルフィド還元剤)による処理により、ジスルフィド結合したHAを遊離する操作がより簡単であった。
【0085】
(実施例9)
サイトカイン産生に対する中性pHの効果
pHが、pH5.5より上であった、またはpH5.5より上で維持されなかった培地で増殖させたYVEC酵母(異種抗原を発現していない)を添加した、樹状細胞(DC)を用いて、中性pHで酵母を培養することがサイトカイン産生に与える効果を実験した。マウス骨髄由来樹状細胞に、DCあたり10酵母を、RPM1培地で48時間、37℃で一緒にインキュベートして添加した。次いで、上清を、分泌されたサイトカインについて分析した。図9はこれらの実験結果を示す。下のパネルは、中性pH(すなわち、少なくとも5.5以上)で増殖される酵母で負荷された樹状細胞からのIFN−ガンマ分泌は著しく増加すること、酵母がpHを5.5未満に低下させた培地で培養される場合には、著しい増加は見られないことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母を増殖させるための方法であって、培地で該酵母を培養することを含み、該培地が、該酵母が培養中にある時間の少なくとも50%にわたって5.5〜8の間のpHレベルで維持される、方法。
【請求項2】
酵母を増殖させるための方法であって、培地で該酵母を培養することを含み、前記培地が5.5〜8の間のpHレベルで維持され、該酵母の密度が少なくとも0.5酵母単位/mLである、方法。
【請求項3】
酵母が培養中にある時間の少なくとも50%にわたって、少なくとも5.5のpHレベルを有する培地で該酵母を培養することによる、酵母を増殖させるための方法。
【請求項4】
前記培地が5.5〜8の間のpHレベルで維持される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記酵母がSaccharomyces cerevisiaeである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記培地がコハク酸塩またはコハク酸で緩衝される、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記培地がさらにソイトンを含有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
個体に投与された場合に前記酵母が免疫応答を誘発する、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記酵母が異種抗原を発現する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記異種抗原が前記酵母の表面で発現される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1、2、または3に記載の方法のいずれか1つにより培養された酵母を含む組成物。
【請求項12】
抗原を発現する発現系を含有する酵母を培地で培養することにより抗原発現酵母を産生するための方法であって、該培地のpHが少なくとも5.5である、方法。
【請求項13】
抗原を発現する発現系を含有する酵母を培養することにより抗原発現酵母を産生するための方法であって、該培地が5.5〜8の間のpHレベルで維持される、方法。
【請求項14】
前記酵母がSaccharomyces cerevisiaeである、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記培地がコハク酸塩またはコハク酸で緩衝される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記培地がさらにソイトンを含有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
個体に投与された場合に前記酵母が免疫応答を誘発する、請求項12または13に記載の方法。
【請求項18】
前記酵母が異種抗原を発現する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記異種抗原が前記酵母の表面で発現される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記酵母が5.5未満のpHで増殖する場合より容易に前記異種抗原が他の細胞または作用物質との相互作用に到達可能である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
請求項12または13に記載の方法のいずれか1つにより培養された酵母を含む組成物。
【請求項22】
抗原発現酵母を含む組成物を個体に投与することにより該個体におけるTh1型応答を誘導する方法であって、該酵母が、少なくとも5.5のpHレベルを有する培地で培養されている、方法。
【請求項23】
抗原発現酵母を含む組成物を個体に投与することにより該個体におけるTh1型応答を誘導する方法であって、該酵母が、5.5〜8の間のpHレベルで維持される培地で培養されている、方法。
【請求項24】
前記組成物が、中性pHで培養、維持または回収された酵母で負荷された樹状細胞を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記酵母がSaccharomyces cerevisiaeである、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記培地がコハク酸塩またはコハク酸で緩衝される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記培地がさらにソイトンを含有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
個体に投与された場合に前記酵母が免疫応答を誘発する、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記酵母が異種抗原を発現する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記異種抗原が前記酵母の表面で発現される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記Th1型応答がインターフェロン−ガンマ産生である、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
前記Th1型応答がIL−12産生である、請求項23に記載の方法。
【請求項33】
pHが少なくとも5.5である培地、および酵母を培養するための該培地の使用に関する指示書を含む、酵母を培養するためのキット。
【請求項34】
5.5〜8の間のpHレベルで維持される培地、および酵母を培養するための該培地の使用に関する指示書を含む、酵母を培養するためのキット。
【請求項35】
前記培地がコハク酸塩またはコハク酸で緩衝される、請求項34に記載のキット。
【請求項36】
前記培地がさらにソイトンを含有する、請求項34に記載のキット。
【請求項37】
さらに酵母を含む、請求項34に記載のキット。
【請求項38】
前記酵母が凍結または凍結乾燥されている、請求項37に記載のキット。
【請求項39】
前記酵母が、少なくともpH5.5の培地で培養されるか、または5.5〜8の間のpHレベルで維持される培地で培養されている、請求項37に記載のキット。
【請求項40】
前記酵母が複製可能である、請求項37に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−517537(P2010−517537A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548478(P2009−548478)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【国際出願番号】PCT/US2008/052843
【国際公開番号】WO2008/097863
【国際公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(508010905)グローブイミューン, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】