説明

酵素複合体

【課題】セルロース系バイオマスからバイオエタノールを作製する技術において、非結晶性セルロースを高効率に糖化すること。
【解決手段】非結晶性セルロースを分解する酵素と、タンパク質と吸着または結合する担体と、を備え、前記担体が磁性を有した酵素複合体であり、前記酵素が、エンドグルカナーゼ、セロビオハイドロラーゼ、βグルコシダーゼまたはそれらに類する酵素であり、また、それらの混合物であることを特徴とし、さらに、前記担体が、カーボンナノチューブ(CNT)であることを特徴とする酵素複合体であることで、セルロースからグルコースを産生する糖化効率を向上し、さらに磁石により吸引することで回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系バイオマス、特にシュレッダー紙からバイオエタノールを作製する際に使用する酵素であるセルラーゼの複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロース系バイオマスをバイオエタノールに変換するためには、セルロースをグルコース単位まで糖化する必要がある。
【0003】
しかし、セルロースは、グルコースがb-1,4結合していることにより、セルロース繊維間が水素結合で強く結合しており簡単には糖化できない、という問題があった。
【0004】
この問題に対して、一般的にはトリコデルマ・リーゼイ菌が産生するセルラーゼが存在する。
【0005】
セルラーゼを多く産生するトリコデルマ・リーゼイ菌を選択し、さらに糖化する活性を向上するために、特定の種類のセルラーゼを補充することで、セルラーゼの糖化活性を向上している。
【0006】
一方、現状では上記セルラーゼでは実用化できるほどの糖化活性が得られていないという問題があった。
【0007】
この問題に対して、遺伝子工学技術を利用し、骨格タンパク質によりセルラーゼを連結させた酵素複合体、セルロソーム、というタンパク質の構築により、糖化活性を向上する取組みがある(非特許文献1および2)。
【0008】
従来の酵素複合体としては、菌体であるサーモビフィダ・フスカやクロストリジウム・サーモセラムが産生するセルロソームがあった。
【0009】
セルロソームは、セルロースを糖化するための酵素活性部位と酵素活性部位を連結する骨格タンパク質部位から構成されている。
【0010】
前述の菌から、酵素活性部位および骨格タンパク質部位の遺伝子配列を抽出し、大腸菌等によりタンパク質を発現する。
【0011】
上記非特許文献1および2では、発現した酵素活性部位を2つまたは3つ、骨格タンパク質部位により連結させることで、糖化活性を向上させるセルロソームを構築していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4469959号公報
【特許文献2】特開平11−243951号公報
【特許文献3】特開2007−314387号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Syst Synth Biol (2010) 4:193-201
【非特許文献2】Biotechnol Lett (2009) 31:465-476
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、前記従来の酵素複合体では、実用化できる酵素活性を達成することができていない、活性評価するために遺伝子の抽出からタンパク質の作製までにコストおよび数週間以上の時間がかかる、セルロース糖化後、セルロソームを回収できないためバイオエタノール作製にかかる酵素コストが増加する、といった課題を有していた。
【0015】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、従来のセルラーゼを利用し簡便に糖化活性を向上でき、簡易的にセルラーゼを回収することが可能な酵素複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記従来の課題を解決するために、本発明の酵素複合体は、非結晶性セルロースを分解する酵素と、タンパク質と吸着または結合する担体と、を備え、前記担体が磁性を有し、セルロースの糖化を行う。
【0017】
本構成によって、セルロースを効率よく糖化し、さらに、担体が磁性を有することでセルラーゼの回収を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の酵素複合体によれば、セルロースを効率よく糖化することができ、さらにセルラーゼの回収を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1における酵素複合体の構成図
【図2】本発明の実施の形態2における酵素複合体の構成図
【図3】従来のセルラーゼのセルロース糖化メカニズムを示す図
【図4】従来のセルロソームの構成図
【図5】本発明の実施例における糖化活性の向上を示すグラフ
【図6】本発明の実施例における酵素複合体の磁石への吸引を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図3は、3つのセルラーゼが共同しながらセルロースをグルコースへ糖化するメカニズムを示す。
【0022】
例えば、aはエンドグルカナーゼであり、bはセロビオハイドロラーゼであり、cはbグルコシダーゼである。
【0023】
一般的にセルロースはグルコースが1,4−b結合することで直鎖的な結合を有し、それゆえセルロース鎖同士が水素結合により強固に結合している(結晶構造)。
【0024】
それゆえ、セルロースは水に不溶で、酵素などで糖化されにくい。
【0025】
しかし、セルロース鎖の一部は非結晶構造となっており、水分子が入り込める構造が存在する。
【0026】
エンドグルカナーゼはその非結晶構造へアタックし、セルロース鎖を切断する。
【0027】
次に、セロビオハイドロラーゼが切断されたセルロース鎖の末端からセルロース鎖をセロビオース単位に分解する。
【0028】
最後に、グルコシダーゼがセロビオースを分解することにより、グルコースが生成される。
【0029】
このように、セルロースは主に3種類のセルラーゼによってグルコースに糖化される。
【0030】
図4は、従来のセルロソームの構成を示した図である。
【0031】
骨格タンパク質105はコヘシンとドックリンというタンパク質から成り、リンカー107によりセルラーゼの酵素活性部位108、109および110と結合している。
【0032】
セルロース結合モジュール106は、セルロースの表面に結合するタンパク質である。
【0033】
セルロソームは、セルロース結合モジュール106によりセルロース表面へ結合し、酵素活性部位108、109および110がセルロースをごく近場にてグルコースへ糖化する。
【0034】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における酵素複合体の構成図である。
【0035】
図1において、セルラーゼ101、102および103は、エンドグルカナーゼ、セロビオハイドロラーゼ、およびβグルコシダーゼまたはそれらに類するセルラーゼのいずれかである。
【0036】
カーボンナノチューブ104は、単層または複層が存在するが、好ましくは単層である。
【0037】
カーボンナノチューブ104は、CNTと略されることもある。
【0038】
CNT104は、単層または複層であるが、好ましくは単層であることがよい。
【0039】
前記セルラーゼ101、102および103が混在した溶液とCNT104を混合し、物理的に吸着させる。
【0040】
物理的な吸着により、セルラーゼ101、102および103はランダムにCNT104上に吸着する。
【0041】
セルラーゼ101、102および103がCNT104上にランダムに吸着することにより、図3に示すごとくセルラーゼが共同してセルロースをグルコースに糖化する作用がCNT104上にて連続的に行われ、糖化効率が向上することになる。
【0042】
かかる構成によればセルラーゼ101、102および103がランダムにCNT104上に吸着することにより、セルロース鎖と極めて近い反応場にて接触することとなり、セルロース鎖を連続的にグルコースまで糖化することができるため、糖化効率を向上することができる。
【0043】
なお、本実施の形態において、CNT104とセルラーゼ101、102および103は物理的吸着としたが、CNT104へ化学的な修飾を施し、セルラーゼを固定化しても良い。
【0044】
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態1の酵素複合体の別の形態を示す図である。
【0045】
図2において、図1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0046】
実施の形態1においては、セルラーゼ101、102および103が混在した溶液とCNT104を混合し、複合体を形成したが、図2のように、セルラーゼ101、102および103を各々CNT104と混合し複合体を形成した後、混在させてもよい。
【0047】
(実施例)
セルラーゼ101,102および103の混合溶液として、セルラーゼ(シグマアルドリッチ社製、品番C8546)を用いた。
【0048】
CNT104として、単層カーボンナノチューブ(KHケミカル社製)およびラテックスビーズ(Duke Scientific Corporation)を用いた。
【0049】
反応溶液として、pH5.0のクエン酸バッファーを用いた。
【0050】
セルロースとして、AvicelPH−101(シグマアルドリッチ社製)を用いた。
【0051】
濃度が2mg/mLおよび体積パーセントで20%となるように、セルラーゼおよびCNTを調製し、室温において一晩揺動混合しながら、セルラーゼとCNTを吸着させた。
【0052】
セルロースを2g/mLとなるように調整し、セルラーゼ・CNT混合溶液を等量ずつ(500uL:500uL)混合し、37度において1時間糖化反応した。
【0053】
反応溶液に含まれるセルラーゼを失活するため、98度にて15分間、反応溶液を熱処理した。
【0054】
反応溶液の上澄みを回収するため、反応溶液を1.5mLチューブに入れ、12,500rpmで10分間遠心した。
【0055】
さらに、上澄みを0.2umフィルターへ通し、通った上澄みを用いて含まれるグルコース量を測定した。
【0056】
グルコース量の測定には、グルコースアッセイキット(フナコシ社)を用い、プロトコールに従って行った。
【0057】
図5に、測定結果を示した。
【0058】
ラテックスビーズでは、コントロール(cont.)と同程度のグルコース生産量であるのに対し、CNTでは最大で2.4倍量のグルコースが産生されていることがわかった。
【0059】
図6に、CNTとセルラーゼの複合体と磁石(ネオジウム)の相互作用を示した。
【0060】
セルラーゼが吸着したCNTが、ネオジウム磁石へ吸引されている様子が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明にかかる酵素複合体は、担体にランダムに結合した3つ、もしくはそれ以上のセルラーゼを有し、さらに担体が磁性を有することで磁石による回収を可能とし、セルロース系バイオマスからバイオエタノールを生産する等においてコスト削減の手段として有用である。セルロースを含むゴミの削減等の用途にも応用できる。
【符号の説明】
【0062】
101 セルラーゼの1種
102 セルラーゼの1種
103 セルラーゼの1種
104 カーボンナノチューブ
105 骨格タンパク質
106 セルロースバインディングモジュール
107 リンカー
108 ある種のセルラーゼの触媒活性部位
109 ある種のセルラーゼの触媒活性部位
110 ある種のセルラーゼの触媒活性部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非結晶性セルロースを分解する酵素と、
タンパク質と吸着または結合する担体と、
を備え、
前記担体が磁性を有した酵素複合体。
【請求項2】
前記酵素が、エンドグルカナーゼ、セロビオハイドロラーゼ、βグルコシダーゼまたはそれらに類する酵素であり、また、それらの混合物であることを特徴とする請求項1の酵素複合体。
【請求項3】
前記担体が、カーボンナノチューブ(CNT)であることを特徴とする請求項1の酵素複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−85501(P2013−85501A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227528(P2011−227528)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】