説明

酸化ストレス物質除去方法、酸化還元電位低下方法、濾材及び水

【課題】使用者が使用するとき、液体(例えば、水)から確実に酸素系ラジカル種等の酸化ストレス物質を除去するための方法を提供する。
【解決手段】本開示の酸化ストレス物質除去方法にあっては、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法及びMP法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上、好ましくは0.2cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を用いて、液体に含まれる酸化ストレス物質を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸化ストレス物質除去方法、酸化還元電位低下方法、濾材及び水に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アルカリイオン水や電解還元水、水素水等、還元的な性質を示す水が、人々の健康維持の観点から注目を集めている(例えば、特開2003−301288、特開2002−348208、特開2001−314877参照)。また、スーパーオキシドラジカル、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素、一重項酸素、過酸化脂質、一酸化窒素、二酸化窒素、オゾン等の広義の活性酸素種である酸素系ラジカル種といった酸化ストレス物質が、様々な疾患や老化の原因になることが、近年、医学会でも証明されてきている。そして、抗酸化性の食品や飲料を摂取したり、抗酸化性の化粧料を肌に作用させることにより、このような酸化ストレス物質を除去することは、種々の疾患や老化を防ぐ上で非常に有用であると云われている。尚、活性酸素に対処するために従来から用いられている抗酸化物質として、L−アスコルビン酸(ビタミンC)やα−トコフェロール(ビタミンE)等の有機分子を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−301288
【特許文献2】特開2002−348208
【特許文献3】特開2001−314877
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、還元的性質を有する天然のミネラルウォーター(例えば、大分県産の「日田天領水」等)の存在も近年注目を集めているが、工場での充填及び輸送による時間の経過によって、消費者の手元に届くまでに、還元的性質を有する水が酸化的な性質へ変化することも最近知られてきている。また、水以外の液体にあっても、液体中に存在する酸化ストレス物質の除去に対する強い要望がある。
【0005】
従って、本開示の目的は、使用者が使用するとき、液体(例えば、水)から確実に酸素系ラジカル種等の酸化ストレス物質を除去するための方法、改質された液体(例えば、水)を得る方法、これらの方法での使用に適した濾材、及び、これらの方法によって得られる水を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本開示の第1の態様に係る酸化ストレス物質除去方法は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を用いて、液体に含まれる酸化ストレス物質を除去する。
【0007】
上記の目的を達成するための本開示の第2の態様に係る酸化ストレス物質除去方法は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上、好ましくは0.2cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を用いて、液体に含まれる酸化ストレス物質を除去する。
【0008】
上記の目的を達成するための本開示の第3の態様に係る酸化ストレス物質除去方法は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合が全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料を用いて、液体に含まれる酸化ストレス物質を除去する。
【0009】
上記の目的を達成するための本開示の第4の態様に係る酸化ストレス物質除去方法は、 多孔質炭素材料、及び、該多孔質炭素材料に付着した機能性材料から成り、
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上である多孔質炭素材料複合体を用いて、液体に含まれる酸化ストレス物質を除去する。
【0010】
上記の目的を達成するための本開示の第1の態様に係る酸化還元電位低下方法は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を用いて、液体の酸化還元電位を低下させる。
【0011】
上記の目的を達成するための本開示の第2の態様に係る酸化還元電位低下方法は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上、好ましくは0.2cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を用いて、液体の酸化還元電位を低下させる。
【0012】
上記の目的を達成するための本開示の第3の態様に係る酸化還元電位低下方法は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合が全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料を用いて、液体の酸化還元電位を低下させる。
【0013】
上記の目的を達成するための本開示の第1の態様あるいは第2の態様に係る濾材は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上である多孔質炭素材料から成り、液体に浸漬されることで液体に含まれる酸化ストレス物質を除去し(第1の態様)、あるいは、液体に浸漬されることで液体の酸化還元電位を低下させる(第2の態様)。
【0014】
上記の目的を達成するための本開示の第3の態様あるいは第4の態様に係る濾材は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上、好ましくは0.2cm3/グラム以上である多孔質炭素材料から成り、液体に浸漬されることで液体に含まれる酸化ストレス物質を除去し(第3の態様)、あるいは、液体に浸漬されることで液体の酸化還元電位を低下させる(第4の態様)。
【0015】
上記の目的を達成するための本開示の第5の態様あるいは第6の態様に係る濾材は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合が全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料から成り、液体に浸漬されることで液体に含まれる酸化ストレス物質を除去し(第5の態様)、あるいは、液体に浸漬されることで液体の酸化還元電位を低下させる(第6の態様)。
【0016】
上記の目的を達成するための本開示の第7の態様に係る濾材は、
多孔質炭素材料、及び、該多孔質炭素材料に付着した機能性材料から成り、
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上である多孔質炭素材料複合体から成り、液体に浸漬されることで液体に含まれる酸化ストレス物質を除去する。
【0017】
上記の目的を達成するための本開示の第1の態様あるいは第2の態様に係る水は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上である多孔質炭素材料に浸漬されることで、酸化ストレス物質が除去された水であり(第1の態様)、あるいは、酸化還元電位が低下した水である(第2の態様)。
【0018】
上記の目的を達成するための本開示の第3の態様あるいは第4の態様に係る水は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上、好ましくは0.2cm3/グラム以上である多孔質炭素材料に浸漬されることで、酸化ストレス物質が除去された水であり(第3の態様)、あるいは、酸化還元電位が低下した水である(第4の態様)。
【0019】
上記の目的を達成するための本開示の第5の態様あるいは第6の態様に係る水は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合が全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料に浸漬されることで、酸化ストレス物質が除去された水であり(第5の態様)、あるいは、酸化還元電位が低下した水である(第6の態様)。
【0020】
上記の目的を達成するための本開示の第7の態様に係る水は、
多孔質炭素材料、及び、該多孔質炭素材料に付着した機能性材料から成り、
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上である多孔質炭素材料複合体に浸漬されることで、酸化ストレス物質が除去された水である。
【発明の効果】
【0021】
本開示の第1の態様〜第4の態様に係る酸化ストレス物質除去方法、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る酸化還元電位低下方法、本開示の第1の態様〜第7の態様に係る濾材、あるいは、本開示の第1の態様〜第7の態様に係る水にあっては、多孔質炭素材料あるいは多孔質炭素材料複合体の窒素BET法による比表面積、細孔の容積、細孔の分布が規定されているので、液体や水に含まれる酸化ストレス物質を確実に除去することができるし、液体や水の酸化還元電位を確実に低下させることができる。尚、一般に、酸化ストレス物質は、電子を受け取り易い(即ち、標準酸化還元電位が正方向に高い)ため、酸化ストレス物質が除去されると、より電子の受け取り易さが低下する(電子の与え易さが増加する)。即ち、酸化還元電位が負の方向に大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、実施例1の多孔質炭素材料及び比較例1の活性炭の添加量とpHの関係を調べたグラフである。
【図2】図2の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例1の多孔質炭素材料及び比較例1の活性炭の添加量と酸化還元電位の関係を調べたグラフ、及び、実施例1の多孔質炭素材料における酸化還元電位の時間変化を調べたグラフである。
【図3】図3の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例2の多孔質炭素材料及び比較例2の活性炭を用いた市販の天然水の濾過前後における水の酸化還元電位を測定した結果、及び、マイナス電荷量を測定した結果を示すグラフである。
【図4】図4の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例3の多孔質炭素材料及び比較例3の活性炭を添加したときの、市販の天然水のpHと酸化還元電位の測定結果を示すグラフ、及び、実施例4の多孔質炭素材料及び比較例4の活性炭を市販の天然水に添加したときのGO指数を測定した結果を示す図である。
【図5】図5は、実施例5A、実施例5B、実施例5C及び比較例5Aの、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布の測定結果を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例5A、実施例5B、実施例5C、比較例5A、比較例5B、比較例5Cの試料の過酸化水素分解特性を分光法により評価した結果を示すグラフである。
【図7】図7の(A)〜(D)は、それぞれ、実施例6A、実施例6B、比較例6A、比較例6Bの試料において測定されたO.D.値を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例6A、実施例6B、比較例6A、比較例6Bの試料における試験で観察された細胞の光学顕微鏡像である。
【図9】図9は、実施例7A、実施例7B、比較例7A、比較例7Bの試料における試験で観察された表皮細胞の蛍光顕微鏡像である。
【図10】図10の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例8において、各試験群のマウスの体重を測定した結果を示すグラフ、及び、1日当たりの平均摂餌量を算出した結果を示すグラフである。
【図11】図11は、実施例8において測定されたTBARS量を示すグラフである。
【図12】図12の(A)及び(B)は、実施例10におけるボトルの模式的な一部断面図及び模式的な断面図である。
【図13】図13の(A)及び(B)は、実施例10におけるボトルの変形例の模式的な一部断面図及び一部を切り欠いた模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本開示を説明するが、本開示は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本開示の第1の態様〜第4の態様に係る酸化ストレス物質除去方法、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る酸化還元電位低下方法、本開示の第1の態様〜第7の態様に係る濾材、本開示の第1の態様〜第7の態様に係る水、全般に関する説明
2.実施例1(本開示の第1の態様〜第3の態様に係る酸化ストレス物質除去方法、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る酸化還元電位低下方法、本開示の第1の態様〜第6の態様に係る濾材、本開示の第1の態様〜第6の態様に係る水)
3.実施例2(実施例1の変形)
4.実施例3(実施例1の変形)
5.実施例4(実施例1の変形)
6.実施例5(実施例1の変形)
7.実施例6(実施例1の変形)
8.実施例7(実施例1の変形)
9.実施例8(実施例1の変形)
10.実施例9(本開示の第4の態様に係る酸化ストレス物質除去方法、本開示の第7の態様に係る濾材、本開示の第7の態様に係る水)
11.実施例10(実施例1〜実施例9の変形)、その他
【0024】
[本開示の第1の態様〜第4の態様に係る酸化ストレス物質除去方法、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る酸化還元電位低下方法、本開示の第1の態様〜第7の態様に係る濾材、本開示の第1の態様〜第7の態様に係る水、全般に関する説明]
本開示の第1の態様〜第4の態様に係る酸化ストレス物質除去方法、本開示の第1の態様、第3の態様、第5の態様あるいは第7の態様に係る濾材あるいは水においては、酸化ストレス物質として、ヒドロキシルラジカル、一重項酸素、スーパーオキシドラジカル、過酸化水素、過酸化脂質、一酸化窒素、二酸化窒素、オゾンを挙げることができる。ここで、液体あるいは水に含まれる酸化ストレス物質が除去されるとは、酸化ストレス物質(活性酸素種であるヒドロキシルラジカル、一重項酸素、スーパーオキシドラジカル、過酸化水素、過酸化脂質、一酸化窒素、二酸化窒素、オゾン)が存在している状態から、多孔質炭素材料あるいは機能性材料によって酸化ストレス物質が還元され、酸化ストレス物質が水分子若しくは酸素分子に変化した状態となることを意味する。
【0025】
本開示の第1の態様〜第3の態様に係る酸化還元電位低下方法、本開示の第2の態様、第4の態様あるいは第6の態様に係る濾材あるいは水にあっては、液体あるいは水の酸化還元電位を低下させるが、ここで、塩素や、トリハロメタン、酸化ストレス物質(活性酸素種であるヒドロキシルラジカル、一重項酸素、スーパーオキシドラジカル、過酸化水素、過酸化脂質、一酸化窒素、二酸化窒素、オゾン)が含まれることによる酸化状態から、これらの物質が除去され、ミネラル成分(多孔質炭素材料の表面及び内部に含まれる焼成・賦活過程で生成した残留灰分と考えられる)が溶出する状態となったとき、液体あるいは水の酸化還元電位が低下したとする。即ち、塩素やトリハロメタン、酸化ストレス物質は酸化還元電位が正に高いため(即ち、酸性度が大)のため、多孔質炭素材料による吸着又は還元反応による除去と、強アルカリ弱酸塩の溶出(炭酸カリウム等)とが、酸化還元電位の低下に寄与すると考えられる。液体あるいは水の酸化還元電位は、Ag/AgCl電極を参照極とした3極式の電位計を用いることで測定することができる。尚、低下した後の液体あるいは水の酸化還元電位は、250ミリボルト以下、好ましくは200ミリボルト以下、より好ましくは150ミリボルト以下であることが望ましい。
【0026】
尚、本開示の第1の態様〜第4の態様に係る酸化ストレス物質除去方法、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る酸化還元電位低下方法、本開示の第1の態様〜第7の態様に係る濾材、本開示の第1の態様〜第7の態様に係る水において、例えば、炭化及び賦活過程で生成した炭酸塩の少量の溶出に起因して、また、賦活度合いを大きくすることによる灰分の増加によって、また、多孔質炭素材料表面に存在するマイナスの極性官能基(=Oや−COO-)による水分子からのプロトン引き抜き(H2O→H++OH-)に基づく水酸化物イオンの誘発によって、液体あるいは水をアルカリ性とすることもできるし、pHの値を増加させることもできる。また、多孔質炭素材料の表面にカルボキシ基(硝酸処理により達成可能)やスルホン基(濃硫酸により達成可能)を生成させることで、酸性とすることもできるし、pHの値を減少させることもできる。あるいは又、液体あるいは水に水素等の還元剤を含ませることもできる。また、多孔質炭素材料の微細構造を通過させることにより、水の構造(クラスター)を変化させることができる。
【0027】
本開示の第1の態様〜第4の態様に係る酸化ストレス物質除去方法、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る酸化還元電位低下方法、あるいは、本開示の第1の態様〜第7の態様に係る濾材において、液体として水を挙げることができるが、これに限定するものではなく、例えば、化粧水、汗や油脂、口紅等の汚れ成分を除去するクレンジング剤を挙げることもできる。また、本開示の第1の態様〜第7の態様に係る水には、飲料水だけでなく、例えば、化粧水、汗や油脂、口紅等の汚れ成分を除去するクレンジング剤が包含される。本開示の多孔質炭素材料等を用いるとは、液体を本開示の多孔質炭素材料等に接触させることを意味する。本開示の多孔質炭素材料等を液体に浸漬することで、あるいは、液体を本開示の多孔質炭素材料等に通過させることで、あるいは、液体中に放置することで、液体に含まれる酸化ストレス物質を除去する液体処理方法とすることができるし、あるいは又、本開示の多孔質炭素材料等を液体に浸漬することで、あるいは、液体を本開示の多孔質炭素材料等に通過させることで、あるいは、液体中に放置することで、液体の酸化還元電位を低下させる液体処理方法とすることができる。
【0028】
本開示の第1の態様〜第4の態様に係る酸化ストレス物質除去方法における多孔質炭素材料あるいは多孔質炭素材料複合体、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る酸化還元電位低下方法における多孔質炭素材料、本開示の第1の態様〜第7の態様に係る濾材における多孔質炭素材料あるいは多孔質炭素材料複合体、あるいは又、本開示の第1の態様〜第7の態様に係る水を得るための多孔質炭素材料あるいは多孔質炭素材料複合体(以下、これらの多孔質炭素材料及び多孔質炭素材料複合体を総称して、『本開示の多孔質炭素材料等』と呼ぶ場合がある)の使用形態として、カラムやカートリッジに充填された状態での使用、透水性を有する袋に納められた状態での使用、シート状での使用、バインダー(結着剤)等を用いて所望の形状に賦形した状態での使用、粉状での使用を例示することができる。場合によっては、多孔質炭素材料あるいは多孔質炭素材料複合体の表面を親水処理又は疎水処理して使用することができる。
【0029】
本開示の多孔質炭素材料等を組み込むのに適した装置、具体的には、例えば、浄水器(以下、『本開示における浄水器』と呼ぶ場合がある)にあっては、濾過膜(例えば、0.4μm〜0.01μmの穴の開いた中空糸膜や平膜)を更に有する構成(本開示の多孔質炭素材料等と濾過膜の併用)とすることができるし、逆浸透膜(RO)を更に有する構成(本開示の多孔質炭素材料等と逆浸透膜の併用)とすることができるし、セラミックス製の濾材(微細な穴を有するセラミックス製の濾材)を更に有する構成(本開示の多孔質炭素材料等とセラミックス製の濾材の併用)とすることができるし、イオン交換樹脂を更に有する構成(本開示の多孔質炭素材料等とイオン交換樹脂の併用)とすることもできる。
【0030】
本開示における浄水器の種類として、連続式浄水器、回分式浄水器、逆浸透膜浄水器を挙げることができるし、あるいは又、水道の蛇口の先端部に浄水器本体を直接取り付ける蛇口直結型、据え置き型(トップシンク型あるいは卓上型とも呼ばれる)、水栓に浄水器が組み込まれた水栓一体化型、キッチンのシンク内に設置するアンダーシンク型(ビルトイン型)、ポットや水差し等の容器内に浄水器を組み込んだポット型(ピッチャー型)、水道メーター以降の水道配管に直接取り付けるセントラル型、携帯型、ストロー型を挙げることができる。本開示における浄水器の構成、構造は、従来の浄水器と同じ構成、構造とすることができる。本開示における浄水器において、本開示の多孔質炭素材料等は、例えば、カートリッジに納めて使用することができ、カートリッジには水流入部及び水排出部を設ければよい。本開示における浄水器において対象とすべき「水」は、JIS S3201:2010「家庭用浄水器試験方法」の「3.用語及び定義」に規定された「水」に限定するものではない。
【0031】
あるいは又、本開示の多孔質炭素材料等を組み込むのに適した部材として、キャップあるいは蓋付き、ストロー部材付き、スプレー部材付きのボトル(所謂ペットボトル)やラミネート容器、プラスチック容器、ガラス容器、ガラス瓶等におけるキャップあるいは蓋を挙げることができる。ここで、キャップや蓋の内部に本開示の多孔質炭素材料等を配し、ボトルやラミネート容器、プラスチック容器、ガラス容器、ガラス瓶等の内の液体あるいは水(飲料水や化粧水等)を、キャップや蓋の内部に配された本開示の多孔質炭素材料等を通過させて飲むことで、あるいは、使用することで、液体あるいは水中の酸化ストレス物質を除去することができるし、あるいは又、液体あるいは水の酸化還元電位を低下させることができる。即ち、飲料あるいは使用の直前に、液体あるいは水中の酸化ストレス物質を除去することができるし、あるいは又、液体あるいは水の酸化還元電位を低下させることができる。あるいは又、透水性を有する袋の中に本開示の多孔質炭素材料等を格納し、ボトル(所謂ペットボトル)やラミネート容器、プラスチック容器、ガラス容器、ガラス瓶、ポット水差し等の各種の容器内の液体あるいは水(飲料水や化粧水等)の中に、この袋を投入する形態を採用することもできる。これらの使用形態を採用することで、例えば、経時的に還元的性質を有する液体あるいは水が酸化的な性質へ変化するといった現象の発生を確実に防ぐことができる。
【0032】
本開示の多孔質炭素材料等の原料を、ケイ素(Si)を含有する植物由来の材料とする場合、具体的には、限定するものではないが、多孔質炭素材料は、ケイ素(Si)の含有率が5質量%以上である植物由来の材料を原料とし、ケイ素(Si)の含有率が、5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下であることが望ましい。
【0033】
本開示の多孔質炭素材料等を構成する多孔質炭素材料(以下、『本開示における多孔質炭素材料』と呼ぶ場合がある)は、例えば、植物由来の材料を400゜C乃至1400゜Cにて炭素化した後、酸又はアルカリで処理することによって得ることができる。このような本開示における多孔質炭素材料の製造方法(以下、単に、『多孔質炭素材料の製造方法』と呼ぶ場合がある)において、植物由来の材料を400゜C乃至1400゜Cにて炭素化することにより得られた材料であって、酸又はアルカリでの処理を行う前の材料を、『多孔質炭素材料前駆体』あるいは『炭素質物質』と呼ぶ。
【0034】
多孔質炭素材料の製造方法において、酸又はアルカリでの処理の後、賦活処理を施す工程を含めることができるし、賦活処理を施した後、酸又はアルカリでの処理を行ってもよい。また、このような好ましい形態を含む多孔質炭素材料の製造方法にあっては、使用する植物由来の材料にも依るが、植物由来の材料を炭素化する前に、炭素化のための温度よりも低い温度(例えば、400゜C〜700゜C)にて、酸素を遮断した状態で植物由来の材料に加熱処理(予備炭素化処理)を施してもよい。これによって、炭素化の過程において生成するであろうタール成分を抽出することが出来る結果、炭素化の過程において生成するであろうタール成分を減少あるいは除去することができる。尚、酸素を遮断した状態は、例えば、窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガス雰囲気とすることで、あるいは又、真空雰囲気とすることで、あるいは又、植物由来の材料を一種の蒸し焼き状態とすることで達成することができる。また、多孔質炭素材料の製造方法にあっては、使用する植物由来の材料にも依るが、植物由来の材料中に含まれるミネラル成分や水分を減少させるために、また、炭素化の過程での異臭の発生を防止するために、植物由来の材料をアルコール(例えば、メチルアルコールやエチルアルコール、イソプロピルアルコール)に浸漬してもよい。尚、多孔質炭素材料の製造方法にあっては、その後、予備炭素化処理を実行してもよい。不活性ガス中で加熱処理を施すことが好ましい材料として、例えば、木酢液(タールや軽質油分)を多く発生する植物を挙げることができる。また、アルコールによる前処理を施すことが好ましい材料として、例えば、ヨウ素や各種ミネラルを多く含む海藻類を挙げることができる。
【0035】
多孔質炭素材料の製造方法にあっては、植物由来の材料を400゜C乃至1400゜Cにて炭素化するが、ここで、炭素化とは、一般に、有機物質(本開示における多孔質炭素材料にあっては、植物由来の材料)を熱処理して炭素質物質に変換することを意味する(例えば、JIS M0104−1984参照)。尚、炭素化のための雰囲気として、酸素を遮断した雰囲気を挙げることができ、具体的には、真空雰囲気、窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガス雰囲気、植物由来の材料を一種の蒸し焼き状態とする雰囲気を挙げることができる。炭素化温度に至るまでの昇温速度として、限定するものではないが、係る雰囲気下、1゜C/分以上、好ましくは3゜C/分以上、より好ましくは5゜C/分以上を挙げることができる。また、炭素化時間の上限として、10時間、好ましくは7時間、より好ましくは5時間を挙げることができるが、これに限定するものではない。炭素化時間の下限は、植物由来の材料が確実に炭素化される時間とすればよい。また、植物由来の材料を、所望に応じて粉砕して所望の粒度としてもよいし、分級してもよい。植物由来の材料を予め洗浄してもよい。あるいは又、得られた多孔質炭素材料前駆体や多孔質炭素材料を、所望に応じて粉砕して所望の粒度としてもよいし、分級してもよい。あるいは又、賦活処理後の多孔質炭素材料を、所望に応じて粉砕して所望の粒度としてもよいし、分級してもよい。更には、最終的に得られた多孔質炭素材料に殺菌処理を施してもよい。炭素化のために使用する炉の形式、構成、構造に制限はなく、連続炉とすることもできるし、回分炉(バッチ炉)とすることもできる。
【0036】
多孔質炭素材料複合体の製造にあっては、酸又はアルカリで処理することによって、多孔質炭素材料を得た後、この多孔質炭素材料に機能性材料を付着させればよい。また、酸又はアルカリでの処理の後、多孔質炭素材料に機能性材料を付着させる前に、賦活処理を施す工程を含めることができる。ここで、機能性材料として、例えば、白金(Pt)、あるいは、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)を挙げることができ、機能性材料の多孔質炭素材料への付着の形態として、微粒子の状態での付着、薄膜の状態での付着を例示することができ、具体的には、多孔質炭素材料の表面(細孔内を含む)に、微粒子として付着している状態、薄膜状に付着している状態、海・島状(多孔質炭素材料の表面を「海」とみなした場合、機能性材料が「島」に相当する)に付着している状態を挙げることができる。尚、付着とは、異種の材料間の接着現象を指す。多孔質炭素材料に機能性材料を付着させる方法として、機能性材料を含む溶液に多孔質炭素材料を浸漬して多孔質炭素材料の表面に機能性材料を析出させる方法、多孔質炭素材料の表面に無電解メッキ法(化学メッキ法)又は化学還元反応にて機能性材料を析出させる方法、機能性材料の前駆体を含む溶液に多孔質炭素材料を浸漬して、熱処理を行うことによって多孔質炭素材料の表面に機能性材料を析出させる方法、機能性材料の前駆体を含む溶液に多孔質炭素材料を浸漬して、超音波照射処理を行うことによって多孔質炭素材料の表面に機能性材料を析出させる方法、機能性材料の前駆体を含む溶液に多孔質炭素材料を浸漬して、ゾル・ゲル反応を行うことによって多孔質炭素材料の表面に機能性材料を析出させる方法を挙げることができる。
【0037】
多孔質炭素材料の製造方法において、上述したとおり、賦活処理を施せば、孔径が2nmよりも小さいマイクロ細孔(後述する)を増加させることができる。賦活処理の方法として、ガス賦活法、薬品賦活法を挙げることができる。ここで、ガス賦活法とは、賦活剤として酸素や水蒸気、炭酸ガス、空気等を用い、係るガス雰囲気下、700゜C乃至1400゜Cにて、好ましくは700゜C乃至1000゜Cにて、より好ましくは800゜C乃至1000゜Cにて、数十分から数時間、多孔質炭素材料を加熱することにより、多孔質炭素材料中の揮発成分や炭素分子により微細構造を発達させる方法である。尚、より具体的には、加熱温度は、植物由来の材料の種類、ガスの種類や濃度等に基づき、適宜、選択すればよい。薬品賦活法とは、ガス賦活法で用いられる酸素や水蒸気の替わりに、塩化亜鉛、塩化鉄、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、硫酸等を用いて賦活させ、塩酸で洗浄、アルカリ性水溶液でpHを調整し、乾燥させる方法である。
【0038】
本開示の多孔質炭素材料等の表面に対して、化学処理又は分子修飾を行ってもよい。化学処理として、例えば、硝酸処理により表面にカルボキシ基を生成させる処理を挙げることができる。また、水蒸気、酸素、アルカリ等による賦活処理と同様の処理を行うことにより、多孔質炭素材料の表面に水酸基、カルボキシ基、ケトン基、エステル基等、種々の官能基を生成させることもできる。更には、多孔質炭素材料と反応可能な水酸基、カルボキシ基、アミノ基等を有する化学種又は蛋白質とを化学反応させることでも、分子修飾が可能である。
【0039】
多孔質炭素材料の製造方法にあっては、酸又はアルカリでの処理によって、炭素化後の植物由来の材料中のケイ素成分を除去する。ここで、ケイ素成分として、二酸化ケイ素や酸化ケイ素、酸化ケイ素塩といったケイ素酸化物を挙げることができる。このように、炭素化後の植物由来の材料中のケイ素成分を除去することで、高い比表面積を有する多孔質炭素材料を得ることができる。場合によっては、ドライエッチング法に基づき、炭素化後の植物由来の材料中のケイ素成分を除去してもよい。即ち、本開示における多孔質炭素材料の好ましい形態にあっては、原料として、ケイ素(Si)を含有する植物由来の材料を用いるが、多孔質炭素材料前駆体あるいは炭素質物質に変換する際、植物由来の材料を高温(例えば、400゜C乃至1400゜C)にて炭素化することによって、植物由来の材料中に含まれるケイ素が、炭化ケイ素(SiC)とはならずに、二酸化ケイ素(SiOx)や酸化ケイ素、酸化ケイ素塩といったケイ素成分(ケイ素酸化物)となる。尚、炭素化する前の植物由来の材料に含まれているケイ素成分(ケイ素酸化物)は、高温(例えば、400゜C乃至1400゜C)にて炭素化しても、実質的な変化は生じない。それ故、次の工程において酸又はアルカリ(塩基)で処理することにより、二酸化ケイ素や酸化ケイ素、酸化ケイ素塩といったケイ素成分(ケイ素酸化物)が除去される結果、窒素BET法による大きな比表面積の値を得ることができる。しかも、本開示における多孔質炭素材料の好ましい形態にあっては、天然物由来の環境融和材料であり、その微細構造は、植物由来の材料である原料中に予め含まれるケイ素成分(ケイ素酸化物)を酸又はアルカリで処理し、除去することによって得られる。従って、細孔の配列は植物の有する生体規則性を維持している。
【0040】
上述したとおり、多孔質炭素材料は、植物由来の材料を原料とすることができる。ここで、植物由来の材料として、米(稲)、大麦、小麦、ライ麦、稗(ヒエ)、粟(アワ)等の籾殻や藁、珈琲豆、茶葉(例えば、緑茶や紅茶等の葉)、サトウキビ類(より具体的には、サトウキビ類の絞り滓)、トウモロコシ類(より具体的には、トウモロコシ類の芯)、果実の皮(例えば、オレンジの皮、グレープフルーツの皮、ミカンの皮といった柑橘類の皮やバナナの皮等)、あるいは又、葦、茎ワカメを挙げることができるが、これらに限定するものではなく、その他、例えば、陸上に植生する維管束植物、シダ植物、コケ植物、藻類、海草を挙げることができる。尚、これらの材料を、原料として、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。また、植物由来の材料の形状や形態も特に限定はなく、例えば、籾殻や藁そのものでもよいし、あるいは乾燥処理品でもよい。更には、ビールや洋酒等の飲食品加工において、発酵処理、焙煎処理、抽出処理等の種々の処理を施されたものを使用することもできる。特に、産業廃棄物の資源化を図るという観点から、脱穀等の加工後の藁や籾殻を使用することが好ましい。これらの加工後の藁や籾殻は、例えば、農業協同組合や酒類製造会社、食品会社、食品加工会社から、大量、且つ、容易に入手することができる。
【0041】
本開示の多孔質炭素材料等には、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)や、リン(P)、硫黄(S)等の非金属元素や、遷移元素等の金属元素が含まれていてもよい。マグネシウム(Mg)の含有率として0.01質量%以上3質量%以下、カリウム(K)の含有率として0.01質量%以上3質量%以下、カルシウム(Ca)の含有率として0.05質量%以上3質量%以下、リン(P)の含有率として0.01質量%以上3質量%以下、硫黄(S)の含有率として0.01質量%以上3質量%以下を挙げることができる。尚、これらの元素の含有率は、比表面積の値の増加といった観点からは、少ない方が好ましい。多孔質炭素材料には、上記した元素以外の元素を含んでいてもよく、上記した各種元素の含有率の範囲も、変更し得ることは云うまでもない。
【0042】
本開示において、各種元素の分析は、例えば、エネルギー分散型X線分析装置(例えば、日本電子株式会社製のJED−2200F)を用い、エネルギー分散法(EDS)により行うことができる。ここで、測定条件を、例えば、走査電圧15kV、照射電流10μAとすればよい。
【0043】
本開示の多孔質炭素材料等は、細孔(ポア)を多く有している。細孔として、孔径が2nm乃至50nmの『メソ細孔』、及び、孔径が2nmよりも小さい『マイクロ細孔』、及び、孔径が50nmを超える『マクロ細孔』が含まれる。具体的には、メソ細孔として、例えば、20nm以下の孔径の細孔を多く含み、特に、10nm以下の孔径の細孔を多く含んでいる。また、マイクロ細孔として、例えば、孔径が1.9nm程度の細孔と、1.5nm程度の細孔と、0.8nm〜1nm程度の細孔とを多く含んでいる。本開示の多孔質炭素材料等において、BJH法による細孔の容積は0.4cm3/グラム以上であることが好ましく、0.5cm3/グラム以上であることが一層好ましい。
【0044】
本開示の多孔質炭素材料等において、窒素BET法による比表面積の値(以下、単に、『比表面積の値』と呼ぶ場合がある)は、より一層優れた機能性を得るために、好ましくは50m2/グラム以上、より好ましくは100m2/グラム以上、更に一層好ましくは400m2/グラム以上であることが望ましい。
【0045】
窒素BET法とは、吸着剤(ここでは、多孔質炭素材料)に吸着分子として窒素を吸脱着させることにより吸着等温線を測定し、測定したデータを式(1)で表されるBET式に基づき解析する方法であり、この方法に基づき比表面積や細孔容積等を算出することができる。具体的には、窒素BET法により比表面積の値を算出する場合、先ず、多孔質炭素材料に吸着分子として窒素を吸脱着させることにより、吸着等温線を求める。そして、得られた吸着等温線から、式(1)あるいは式(1)を変形した式(1’)に基づき[p/{Va(p0−p)}]を算出し、平衡相対圧(p/p0)に対してプロットする。そして、このプロットを直線と見なし、最小二乗法に基づき、傾きs(=[(C−1)/(C・Vm)])及び切片i(=[1/(C・Vm)])を算出する。そして、求められた傾きs及び切片iから式(2−1)、式(2−2)に基づき、Vm及びCを算出する。更には、Vmから、式(3)に基づき比表面積asBETを算出する(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第62頁〜第66頁参照)。尚、この窒素BET法は、JIS R 1626−1996「ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」に準じた測定方法である。
【0046】
a=(Vm・C・p)/[(p0−p){1+(C−1)(p/p0)}] (1)
[p/{Va(p0−p)}]
=[(C−1)/(C・Vm)](p/p0)+[1/(C・Vm)] (1’)
m=1/(s+i) (2−1)
C =(s/i)+1 (2−2)
sBET=(Vm・L・σ)/22414 (3)
【0047】
但し、
a:吸着量
m:単分子層の吸着量
p :窒素の平衡時の圧力
0:窒素の飽和蒸気圧
L :アボガドロ数
σ :窒素の吸着断面積
である。
【0048】
窒素BET法により細孔容積Vpを算出する場合、例えば、求められた吸着等温線の吸着データを直線補間し、細孔容積算出相対圧で設定した相対圧での吸着量Vを求める。この吸着量Vから式(4)に基づき細孔容積Vpを算出することができる(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第62頁〜第65頁参照)。尚、窒素BET法に基づく細孔容積を、以下、単に『細孔容積』と呼ぶ場合がある。
【0049】
p=(V/22414)×(Mg/ρg) (4)
【0050】
但し、
V :相対圧での吸着量
g:窒素の分子量
ρg:窒素の密度
である。
【0051】
メソ細孔の孔径は、例えば、BJH法に基づき、その孔径に対する細孔容積変化率から細孔の分布として算出することができる。BJH法は、細孔分布解析法として広く用いられている方法である。BJH法に基づき細孔分布解析をする場合、先ず、多孔質炭素材料に吸着分子として窒素を吸脱着させることにより、脱着等温線を求める。そして、求められた脱着等温線に基づき、細孔が吸着分子(例えば窒素)によって満たされた状態から吸着分子が段階的に着脱する際の吸着層の厚さ、及び、その際に生じた孔の内径(コア半径の2倍)を求め、式(5)に基づき細孔半径rpを算出し、式(6)に基づき細孔容積を算出する。そして、細孔半径及び細孔容積から細孔径(2rp)に対する細孔容積変化率(dVp/drp)をプロットすることにより細孔分布曲線が得られる(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第85頁〜第88頁参照)。
【0052】
p=t+rk (5)
pn=Rn・dVn−Rn・dtn・c・ΣApj (6)
但し、
n=rpn2/(rkn−1+dtn2 (7)
【0053】
ここで、
p:細孔半径
k:細孔半径rpの細孔の内壁にその圧力において厚さtの吸着層が吸着した場合のコア半径(内径/2)
pn:窒素の第n回目の着脱が生じたときの細孔容積
dVn:そのときの変化量
dtn:窒素の第n回目の着脱が生じたときの吸着層の厚さtnの変化量
kn:その時のコア半径
c:固定値
pn:窒素の第n回目の着脱が生じたときの細孔半径
である。また、ΣApjは、j=1からj=n−1までの細孔の壁面の面積の積算値を表す。
【0054】
マイクロ細孔の孔径は、例えば、MP法に基づき、その孔径に対する細孔容積変化率から細孔の分布として算出することができる。MP法により細孔分布解析を行う場合、先ず、多孔質炭素材料に窒素を吸着させることにより、吸着等温線を求める。そして、この吸着等温線を吸着層の厚さtに対する細孔容積に変換する(tプロットする)。そして、このプロットの曲率(吸着層の厚さtの変化量に対する細孔容積の変化量)に基づき細孔分布曲線を得ることができる(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第72頁〜第73頁、第82頁参照)。
【0055】
JIS Z8831−2:2010 「粉体(固体)の細孔径分布及び細孔特性−第2部:ガス吸着によるメソ細孔及びマクロ細孔の測定方法」、及び、JIS Z8831−3:2010 「粉体(固体)の細孔径分布及び細孔特性−第3部:ガス吸着によるミクロ細孔の測定方法」に規定された非局在化密度汎関数法(NLDFT法,Non Localized Density Functional Theory 法)にあっては、解析ソフトウェアとして、日本ベル株式会社製自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP−MAX」に付属するソフトウェアを用いる。前提条件としてモデルをシリンダ形状としてカーボンブラック(CB)を仮定し、細孔分布パラメータの分布関数を「no−assumption」とし、得られた分布データにはスムージングを10回施す。
【0056】
多孔質炭素材料前駆体を酸又はアルカリで処理するが、具体的な処理方法として、例えば、酸あるいはアルカリの水溶液に多孔質炭素材料前駆体を浸漬する方法や、多孔質炭素材料前駆体と酸又はアルカリとを気相で反応させる方法を挙げることができる。より具体的には、酸によって処理する場合、酸として、例えば、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化カルシウム、フッ化ナトリウム等の酸性を示すフッ素化合物を挙げることができる。フッ素化合物を用いる場合、多孔質炭素材料前駆体に含まれるケイ素成分におけるケイ素元素に対してフッ素元素が4倍量となればよく、フッ素化合物水溶液の濃度は10質量%以上であることが好ましい。フッ化水素酸によって、多孔質炭素材料前駆体に含まれるケイ素成分(例えば、二酸化ケイ素)を除去する場合、二酸化ケイ素は、化学式(A)又は化学式(B)に示すようにフッ化水素酸と反応し、ヘキサフルオロケイ酸(H2SiF6)あるいは四フッ化ケイ素(SiF4)として除去され、多孔質炭素材料を得ることができる。そして、その後、洗浄、乾燥を行えばよい。
【0057】
SiO2+6HF → H2SiF6+2H2O (A)
SiO2+4HF → SiF4+2H2O (B)
【0058】
また、アルカリ(塩基)によって処理する場合、アルカリとして、例えば、水酸化ナトリウムを挙げることができる。アルカリの水溶液を用いる場合、水溶液のpHは11以上であればよい。水酸化ナトリウム水溶液によって、多孔質炭素材料前駆体に含まれるケイ素成分(例えば、二酸化ケイ素)を除去する場合、水酸化ナトリウム水溶液を熱することにより、二酸化ケイ素は、化学式(C)に示すように反応し、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)として除去され、多孔質炭素材料を得ることができる。また、水酸化ナトリウムを気相で反応させて処理する場合、水酸化ナトリウムの固体を熱することにより、化学式(C)に示すように反応し、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)として除去され、多孔質炭素材料を得ることができる。そして、その後、洗浄、乾燥を行えばよい。
【0059】
SiO2+2NaOH → Na2SiO3+H2O (C)
【0060】
あるいは又、本開示における多孔質炭素材料として、例えば、特開2010−106007に開示された空孔が3次元的規則性を有する多孔質炭素材料(所謂、逆オパール構造を有する多孔質炭素材料)、具体的には、1×10-9m乃至1×10-5mの平均直径を有する3次元的に配列された球状の空孔を備え、表面積が3×1022/グラム以上の多孔質炭素材料、好ましくは、巨視的に、結晶構造に相当する配置状態にて空孔が配列されており、あるいは又、巨視的に、面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて、その表面に空孔が配列されている多孔質炭素材料を用いることもできる。
【実施例1】
【0061】
実施例1は、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る酸化ストレス物質除去方法、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る酸化還元電位低下方法、本開示の第1の態様〜第6の態様に係る濾材、本開示の第1の態様〜第6の態様に係る水、具体的には、飲料水あるいは化粧水に関する。
【0062】
実施例1の酸化ストレス物質除去方法あるいは酸化還元電位低下方法において使用する多孔質炭素材料、実施例1の濾材を構成する多孔質炭素材料、実施例1の水(飲料水あるいは化粧水)を得るために使用する多孔質炭素材料は、本開示の第1の態様に係る酸化ストレス物質除去方法あるいは酸化還元電位低下方法、本開示の第1の態様あるいは第2の態様に係る濾材、本開示の第1の態様あるいは第2の態様に係る水に則って表現すると、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上である。また、本開示の第2の態様に係る酸化ストレス物質除去方法あるいは酸化還元電位低下方法、本開示の第3の態様あるいは第4の態様に係る濾材、本開示の第3の態様あるいは第4の態様に係る水に則って表現すると、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法(NLDFT法)によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計(便宜上、『容積A』と呼ぶ)が0.1cm3/グラム以上、好ましくは0.2cm3/グラム以上である。更には、本開示の第3の態様に係る酸化ストレス物質除去方法あるいは酸化還元電位低下方法、本開示の第5の態様あるいは第6の態様に係る濾材、本開示の第5の態様あるいは第6の態様に係る水に則って表現すると、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合が全細孔の容積総計の0.2以上である。そして、このような多孔質炭素材料を液体(水)に浸漬することで、液体(水)に含まれる酸化ストレス物質を除去し、あるいは又、液体(水)の酸化還元電位を低下させる。また、濾材は、液体(水)に浸漬されることで液体(水)に含まれる酸化ストレス物質を除去し、また、液体(水)に浸漬されることで液体(水)の酸化還元電位を低下させる。更には、水は、多孔質炭素材料に浸漬されることで、酸化ストレス物質が除去された水(飲料水あるいは化粧水)であり、また、酸化還元電位が低下した水(飲料水あるいは化粧水)である。
【0063】
実施例1にあっては、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を米(稲)の籾殻とした。そして、実施例1における多孔質炭素材料は、原料としての籾殻を炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得られる。以下、実施例1における多孔質炭素材料の製造方法を説明する。
【0064】
実施例1における多孔質炭素材料の製造においては、植物由来の材料を400゜C乃至1400゜Cにて炭素化した後、酸又はアルカリで処理することによって、多孔質炭素材料を得た。即ち、先ず、籾殻に対して、不活性ガス中で加熱処理(予備炭素化処理)を施す。具体的には、籾殻を、窒素気流中において500゜C、5時間、加熱することにより炭化させ、炭化物を得た。尚、このような処理を行うことで、次の炭素化の際に生成されるであろうタール成分を減少あるいは除去することができる。その後、この炭化物の10グラムをアルミナ製の坩堝に入れ、窒素気流中(10リットル/分)において5゜C/分の昇温速度で800゜Cまで昇温させた。そして、800゜Cで1時間、炭素化して、炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換した後、室温まで冷却した。尚、炭素化及び冷却中、窒素ガスを流し続けた。次に、この多孔質炭素材料前駆体を46容積%のフッ化水素酸水溶液に一晩浸漬することで酸処理を行った後、水及びエチルアルコールを用いてpH7になるまで洗浄した。次いで、120°Cにて乾燥させた後、900゜Cで水蒸気気流中(5リットル/分)にて3時間加熱させることで賦活処理を行うことで、実施例1の多孔質炭素材料を得ることができた。
【0065】
比較例1として、和光純薬工業株式会社製のヤシガラから成る活性炭を使用し、後述する比較例2として、クラレケミカル株式会社製のヤシガラから成る活性炭を使用した。
【0066】
比表面積及び細孔容積を求めるための測定機器として、BELSORP−mini(日本ベル株式会社製)を用い、窒素吸脱着試験を行った。測定条件として、測定平衡相対圧(p/p0)を0.01〜0.99とした。そして、BELSORP解析ソフトウェアに基づき、比表面積及び細孔容積を算出した。また、メソ細孔及びマイクロ細孔の細孔径分布は、上述した測定機器を用いた窒素吸脱着試験を行い、BELSORP解析ソフトウェアによりBJH法及びMP法に基づき算出した。多孔質炭素材料の細孔を水銀圧入法にて測定した。具体的には、水銀ポロシメーター(PASCAL440:Thermo Electron社製)を用いて、水銀圧入法測定を行った。細孔測定領域を10μm〜2nmとした。更には、非局在化密度汎関数法(NLDFT法)に基づく測定にあっては、日本ベル株式会社製自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP−MAX」を使用した。尚、測定に際しては、試料の前処理として、200゜Cで3時間の乾燥を行った。
【0067】
実施例1及び実施例2の多孔質炭素材料、後述する実施例9の多孔質炭素材料複合体、比較例1、並びに、比較例2の活性炭について、比表面積及び細孔容積を測定したところ、表1に示す結果が得られた。尚、表1あるいは後述する表5中、「比表面積」は窒素BET法による比表面積の値を指し、単位はm2/グラムである。また、「MP法」、「BJH法」、「水銀圧入法」は、MP法による細孔(マイクロ細孔)の容積測定結果、BJH法による細孔(メソ細孔〜マクロ細孔)の容積測定結果、水銀圧入法による細孔の容積測定結果を示し、単位はcm3/グラムである。更には、NLDFT法に基づく測定を行った結果を表2に示す。尚、全細孔の容積総計の値は、上記の容積Aの値に相当する。
【0068】
[表1]
比表面積 MP法 BJH法 水銀圧入法
実施例1 1700 0.65 1.08 4.12
実施例2 1210 0.56 0.78 2.8
実施例9 1286 0.50 0.65
比較例1 1231 0.56 0.14 1.7
比較例2 975 0.38 0.08 1.20
【0069】
[表2]
容積割合 全細孔の容積総計
実施例1 0.479 1.33cm3/グラム
実施例2 0.402 1.53cm3/グラム
実施例9 0.432 1.38cm3/グラム
比較例1 0.100 0.76cm3/グラム
比較例2 0.021 0.69cm3/グラム
【0070】
実施例1の多孔質炭素材料、後述する実施例9の多孔質炭素材料複合体、及び、比較例1の活性炭の水中でのヒドロキシルラジカル(OH・)の除去量を、電子スピン共鳴装置(ESR)で測定した。具体的には、50ミリリットルのヒドロキシルラジカル発生水溶液中に15ミリグラムの試料を添加し、1時間撹拌した後、溶液をESRにて測定した。その結果、比較例1を「1」とした場合のヒドロキシルラジカルの相対除去量は、実施例1にあっては4.0であった。また、後述する実施例9にあっては9.8であった。
【0071】
また、実施例1の多孔質炭素材料及び比較例1の活性炭を用いたときの水のpH、酸化還元電位の測定結果を、以下の表3に示す。更には、参考のため、水道水等の酸化還元電位の測定結果も、以下の表3に示す。
【0072】
[表3]
添加前のpH 添加後のpH
実施例1 7.1 9.6
比較例1 7.1 6.2
添加前の酸化還元電位 添加後の酸化還元電位
実施例1 333mV 142mV
比較例1 333mV 294mV
酸化還元電位
水道水 547mV
蒸留水 333mV
市販天然水A 321mV
市販天然水B 258mV
【0073】
また、実施例1の多孔質炭素材料及び比較例1の活性炭の添加量とpHの関係を調べた結果を、図1のグラフに示す。更には、実施例1の多孔質炭素材料及び比較例1の活性炭の添加量と酸化還元電位の関係を図2の(A)のグラフに示し、実施例1の多孔質炭素材料における酸化還元電位の時間変化を図2の(B)に示す。尚、20ミリリットルの蒸留水に対して、試料を、300ミリグラム、150ミリグラム、70ミリグラム、30ミリグラム、10ミリグラム、添加し、1分間撹拌し、濾過後の水の酸化還元電位及びpHを測定した。
【0074】
実施例1にあっては、比較例1と比較して、多孔質炭素材料を添加した後の水のpHの値が上昇し、添加後の酸化還元電位の値が大幅に低下している。しかも、上述したとおり、ヒドロキシルラジカルの相対除去量が4.0であり、高い効率にてヒドロキシルラジカルを除去することができることが判った。
【実施例2】
【0075】
実施例2は、実施例1の変形である。実施例2及び比較例2として使用した多孔質炭素材料及び活性炭の物性は、表1及び表2に示したとおりである。
【0076】
実施例2にあっては、市販の天然水50ミリリットルに対して、実施例2の多孔質炭素材料及び比較例2の活性炭を20ミリグラムから200ミリグラム添加して、1分間震盪した後、シリンジフィルターによる濾過を行い、得られた水の酸化還元電位を調べた。その結果を図3の(A)に示すが、比較例2(図3の(A)の曲線「B」を参照)の活性炭と比較して実施例2(図3の(A)の曲線「A」を参照)の多孔質炭素材料にあっても、酸化還元電位が還元側に大きく変化することが判った。
【0077】
実施例2の多孔質炭素材料及び比較例2の活性炭による濾過処理前後における水中のミネラル量の変化をICP測定法に基づき解析した(単位:ppm)。その結果を表4に示すが、実施例2及び比較例2において殆ど有意な変化は見られなかった。また、イオンクロマトグラフィーによる炭酸イオン(CO3-)の量も変わらなかった。以上の分析結果から、実施例2の多孔質炭素材料及び比較例2の活性炭による水酸化物イオンの増加は殆ど無いと考えられる。
【0078】
[表4]
処理前の天然水 実施例2での処理後 比較例2での処理後
Ca 9.39 9.46 9.52
K 1.81 1.88 1.92
Mg 1.81 1.84 1.86
Na 5.70 5.91 6.27
Si 11.1 11.3 11.5
CO3- 50 50 50
【0079】
濾過前後における水のマイナス電荷量を測定した結果を図3の(B)に示す。水中の電荷量測定には、クーロンメーター及びファラデーカップ(いずれも春日電機株式会社製)を使用した。具体的には、市販の天然水50ミリリットルに対して、実施例2の多孔質炭素材料及び比較例2の活性炭を20ミリグラム添加して、1分間震盪した後、シリンジフィルターによる濾過を行い、マイナス電荷量を測定した。
【0080】
実施例2の多孔質炭素材料を用いた濾過処理を行うことによって、水中のマイナスの電荷量が非常に多くなっていることが確認された。水がマイナスの電荷を帯びることは、古くから静電気学の領域で知られている。実施例2の多孔質炭素材料にあっては、メソ領域からマクロ領域の細孔の存在によって水との接触性が高くなり、水分子に摩擦が生じ易く、レナード効果に基づき水をマイナスに帯電させ易いと推定される。
【実施例3】
【0081】
実施例3も、実施例1の変形である。実施例3にあっては、100ミリリットルのガラス製ビーカーに入れた状態の(即ち、空気と接触した状態にある)市販の天然水50ミリリットルに実施例2と同じ多孔質炭素材料20ミリグラムを添加し、静止した状態で5分間放置した後、pH及び酸化還元電位を測定し、水質のエージングに対する効果を観察した。比較例2と同じ活性炭20ミリグラムを使用して同様の試験を行った。その結果を、図4の(A)に示す。
【0082】
水のpHと酸化還元電位の理論相関線を図4の(A)に示すが、この理論相関線より上の領域の水を酸化的、下の領域の水を還元的と定義することができる。実施例3の多孔質炭素材料が共存する水は還元的な領域に推移することが判った。そして、以上の結果から、実施例3の多孔質炭素材料は水質のエージングを効果的に防止・抑制することができることが判った。ここで、処理前の水の酸化還元電位と、処理後の水の酸化還元電位との関係を纏めると、実施例の多孔質炭素材料は、Ag/AgCl電極を参照極とした3極式の電位計を用いて測定した酸化還元電位が100ミリボルト乃至1000ミリボルトである飲料水(あるいは水)中に放置することにより、50ミリボルト以上、酸化還元電位を低下させることができる多孔質炭素材料であるし、濾材は、Ag/AgCl電極を参照極とした3極式の電位計を用いて測定した酸化還元電位が100ミリボルト乃至1000ミリボルトである飲料水(あるいは水)を濾過したとき、50ミリボルト以上、酸化還元電位を低下させることができる濾材である。
【実施例4】
【0083】
実施例4も、実施例1の変形である。遺伝子を構成するデオキシグアノシンの酸化誘導率を定量することにより、水の抗酸化性(還元性)を評価することが可能である(例えば、特開2001−272388参照)。2’−デオキシグアノシン(dG)は、酸化されると、8−ヒドロキシ−2’−デオキシグアノシン(8OHdG)に誘導される。このdGから8OHdGへの酸化誘導(『デオキシグアノシン酸化誘導』と呼ぶ)は、広い意味での生物毒性指標といえる。即ち、2’−デオキシグアノシン(dG)は遺伝子を構成する物質であり、酸化される程、遺伝子の損傷が発生し易くなる。水のデオキシグアノシン酸化誘導はGO指数として以下の式で表現できる(参考文献:高木ら、Medical Technology, Vol. 34, No. 4, 2006 参照)。
【0084】
GO指数=(デオキシグアノシン酸化誘導率)/(8OHdG分解率)
【0085】
実施例4及び比較例4においては、実施例2と同じ多孔質炭素材料及び比較例2と同じ活性炭を使用した。そして、実施例4の多孔質炭素材料で処理した天然水と、比較例4の活性炭で処理した天然水のGO指数を測定した結果を、図4の(B)に示す。具体的には、50ミリリットルの天然水に対し、50ミリグラムの実施例4の多孔質炭素材料あるいは比較例4の活性炭を添加し、1分間撹拌した後、シリンジ及びメンブレンフィルターにて濾過するといった方法に基づき天然水を処理した。GO指数は、dGを添加したそれぞれの水に対し、紫外線やKBrO3添加処理といった負荷をかけることによってdGの酸化誘導により生成した8OHdGの濃度及びdGの濃度を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって検出する(抗酸化性の高い水では、8OHdGの量は少なく検出される)といった測定方法に基づき求めることができる。実施例4の多孔質炭素材料で処理した水は、処理前と比較してGO指数が大きく低下する。一方、比較例4の活性炭で処理した水は、処理前と比較してGO指数が殆ど変化していない。このことから、実施例4の多孔質炭素材料で処理することによって、2’−デオキシグアノシン(dG)を酸化しない水、即ち、抗酸化性の高い水が生成できることが確認された。
【実施例5】
【0086】
実施例5も、実施例1の変形である。活性酸素に対処するために従来から用いられている抗酸化物質として、L−アスコルビン酸(ビタミンC)やα−トコフェロール(ビタミンE)等の有機分子を挙げることができる。しかしながら、これらの物質は、安定性が低い上に、単回の還元作用によってそれ自身が酸化され、機能を失うという問題点を有している。また、スーパーオキシドディスムターゼやカタラーゼ等の高分子性の抗酸化物質は、効果を示す反応条件が限定されるという問題点がある。
【0087】
実施例5にて使用した多孔質炭素材料、及び、比較例5Aの活性炭の比表面積及び細孔容積を測定した結果を表5に示す。更には、NLDFT法に基づく測定を行った結果を表6に示し、実施例5A、実施例5B、実施例5C及び比較例5Aの、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布の測定結果を図5のグラフに示す。尚、表5中、「細孔容積」はBET法による容積測定結果であり、単位はcm3/グラムである。
【0088】
[表5]
比表面積 細孔容積 MP法 BJH法
実施例5A 2149 1.932 0.9105 1.3419
実施例5B 1423 1.016 0.6126 0.5652
実施例5C 1329 0.9611 0.5857 0.5421
比較例5A 1190 0.5681 0.5180 0.1116
【0089】
[表6]
容積割合 全細孔の容積総計
実施例5A 0.4743 2.486 cm3/グラム
実施例5B 0.3352 1.433 cm3/グラム
実施例5C 0.3649 1.332 cm3/グラム
比較例5A 0.0005 0.8681cm3/グラム
【0090】
尚、実施例5A及び実施例5Bの多孔質炭素材料は、実施例1において説明した方法と概ね同様の方法に基づき製造した。また、実施例5Cの多孔質炭素材料は、後述する実施例9において説明する方法と概ね同様の方法に基づき製造した。更には、比較例5Aの活性炭は、和光純薬工業株式会社製のヤシガラから成る活性炭である。
【0091】
実施例5A、実施例5B、実施例5C、比較例5A、比較例5B、比較例5Cの試料の過酸化水素分解特性を分光法により評価した結果を図6に示し、各試料の過酸化水素分解能を表7に示す。尚、比較例5BとしてL−アスコルビン酸を使用し、比較例5Cとしてフラーレンを使用した。過酸化水素分解特性を分光法に基づき評価した。表7及び図6から、実施例5A〜実施例5Cの多孔質炭素材料、特に、実施例5Cの多孔質炭素材料の過酸化水素分解能は、比較例5A〜比較例5Cの試料よりも格段に大きいことが判った。即ち、本開示の多孔質炭素材料の過酸化水素分解能は5×10ミリモル・h-1・g-1以上であることが判った。
【0092】
[表7]
過酸化水素分解能/ミリモル・h-1・g-1
実施例5A 81
実施例5B 45
実施例5C 781
比較例5A 9.1
比較例5B 4.2
比較例5C 0.6
【実施例6】
【0093】
実施例6も、実施例1の変形である。実施例6にあっては、過酸化水素に各種試料を種々の濃度で添加して、37゜Cにおいて転倒攪拌しながら2時間インキュベートした。そして、これをフィルターで濾過し、濾液を培地で10倍に希釈してサンプル溶液とした。次いで、ヒト正常表皮細胞を、1×104セル/100マイクロリットル/ウェルにて96ウェルプレートに播種し、サンプル溶液を添加した。そして、CO2インキュベーター内(5%CO2、37゜C)で2時間培養した後、表皮用無血清培地に培地交換した。そして、24時間後、生細胞測定試薬SFによって生細胞を染色し、生存細胞量をO.D.値として、サンプル数5で評価した。また、光学顕微鏡による細胞観察を行った。尚、実施例6Aにおいては実施例5Bと同じ多孔質炭素材料を用い、実施例6Bにおいては実施例5Cと同じ多孔質炭素材料を用いた。また、比較例6Aにおいては比較例5Bと同じ材料を用い、比較例6Bにおいては比較例5Cと同じ材料を用いた。得られたO.D.値を図7に示す。また、添加量40ミリグラムの場合の試験後の細胞の光学顕微鏡像を図8に示す。
【0094】
図7から、実施例6A及び実施例6Bの多孔質炭素材料の添加率を増加させることで、表皮細胞の生存率が上昇していることが判る。また、生存細胞量は、比較例6A、比較例6Bと比べると、非常に多く、生存細胞量の増加に必要とされる添加量が少なくてもよいことが判る。また、図8から、40ミリグラムの添加量において、実施例6A、実施例6Bでは細胞が生存しているのに対して、比較例6A、比較例6Bでは細胞死が確認された。これは、比較例6A、比較例6Bに比べて、実施例6A、実施例6Bの多孔質炭素材料によって活性酸素が効率良く除去されたためであると考えられる。
【実施例7】
【0095】
実施例7も、実施例1の変形である。実施例7にあっては、各種試料を15ミリリットルのリン酸緩衝液(過酸化水素水が添加されている)に加え、37゜Cで2時間回転ローラーにより攪拌した後、フィルターで濾過した。一方、細胞をチャンバースライドで培養して蛍光プローブを取り込ませた。そして、調製した過酸化水素が添加された各種試料溶液を培地で10倍希釈した後、蛍光プローブを取り込ませた細胞にこの試料溶液を添加し、室温にて15分間静置した。最後に、蛍光顕微鏡とデジタルカメラを用いて蛍光写真を撮影した。尚、実施例7Aにおいては実施例5Bと同じ多孔質炭素材料を用い、実施例7Bにおいては実施例5Cと同じ多孔質炭素材料を用いた。一方、比較例7Aにおいては比較例5Bと同じ材料を用い、比較例7Bにおいては比較例5Cと同じ材料を用いた。全ての試料において、添加量は80ミリグラムである。得られた蛍光顕微鏡像を図9に示す。図9から、実施例7A、実施例7Bにあっては活性酸素の発生が抑制されているのに対して、比較例7A、比較例7Bにあっては酸化ストレスにより活性酸素が細胞内で生じていることが判る。
【実施例8】
【0096】
実施例8も、実施例1の変形である。実施例8にあっては実施例5Bと同じ多孔質炭素材料を使用した。そして、マウスに0.14質量%の鉄配合粉末飼料を摂取させることで腸粘膜中の過酸化脂質量を増加させ、このマウスに実施例8の多孔質炭素材料を14日間反復経口投与し、影響を評価した。
【0097】
具体的には、馴化飼育終了後のマウスに、通常粉末飼料、あるいは、0.14質量%の鉄配合粉末飼料を与えて飼育し、同時に、実施例8の多孔質炭素材料を蒸留水に分散させた投与液を、1日1回、14日間反復経口投与した。最終経口投与の翌日、イソフルラン麻酔下でマウスを脱血安楽死させた後、結腸を採取し、この腸粘膜に含まれる過酸化脂質量を測定することで、実施例8の多孔質炭素材料の過酸化脂質量低下作用を評価した。
【0098】
尚、0.14質量%の鉄配合粉末飼料は、通常粉末飼料に飼料混入用鉄1680ミリグラムを加えて全体質量を1200グラムとすることで調製した。また、投与液は、多孔質炭素材料を500ミリグラム秤量し、媒体である蒸留水を加えて10ミリリットルとすることで、多孔質炭素材料500ミリグラム/キログラム投与液を調製した。あるいは又、多孔質炭素材料を1000ミリグラム秤量し、媒体である蒸留水を加えて10ミリリットルとすることで、多孔質炭素材料1000ミリグラム/キログラム投与液を調製した。
【0099】
鉄配合飼料給餌開始日をDay1として、Day0、Day7、Day15において各試験群のマウスの体重を測定し、0.14質量%の鉄配合飼料摂取群(コントロール群)と各試験群間の平均値を比較した。その結果を図10の(A)に示すが、いずれの測定日においてもコントロール群と他の試験群との間に、有意な体重平均値の差は観察されなかった。
【0100】
また、Day1、Day5、Day8、Day12に給餌量を測定し、Day5、Day8、Day12、Day15に残餌量を測定した。そして、測定値から1日当たりの平均摂餌量を算出した。その結果を図10の(B)に示す。コントロール群と各試験群間の1日当たりの摂餌量とを比較した結果、いずれの測定日においてもコントロール群と他の試験群との間に有意な平均摂餌量の差は観察されなかった。
【0101】
反復経口投与最終日の翌日、安楽死させたマウスから腸粘膜を採取し、含有する過酸化脂質濃度を測定した。具体的には、採取された結腸から剥がし取った腸粘膜を1.15%KCl溶液500マイクロリットル中に入れ、ホモジネートした。そして、このホモジネート品を、13000gで15分間、遠心分離し、上澄みを回収して、腸粘膜中過酸化脂質量測定及び蛋白質量測定の試料とした。即ち、測定用試料をよく撹拌した後、蛋白質濃度測定キットを用いて試料中の蛋白質の量を測定した。
【0102】
また、過酸化脂質量をTBARS法に基づき測定した。具体的には、測定用試料をよく撹拌し、蓋付き試験管に各々100マイクロリットルずつ分注した。同様に、TBARS測定用マロンアルデヒドビズ標準液(0ナノモル/ミリリットル、2.5ナノモル/ミリリットル、5ナノモル/ミリリットル、10ナノモル/ミリリットル、20ナノモル/ミリリットル、30ナノモル/ミリリットル、40ナノモル/ミリリットル、50ナノモル/ミリリットル)を蓋付き試験管に100マイクロリットルずつ分注した。更に、325マイクロリットルのTBA反応溶液と75マイクロリットルの20%酢酸緩衝液(pH3.5)を加えてよく撹拌した後、氷中で1時間放置した。その後、試験管を100゜Cの温浴中で1時間加熱した。加熱後、試験管を冷却し、800マイクロリットルのブタノール:ピリジン(質量割合15:1)溶液を加え、激しく撹拌した。これをマイクロチューブに移し、4゜Cにおいて2000gで5分間、遠心分離した。遠心分離後、上層(ブタノール:ピリジン層)中のTBARS濃度を、蛍光分光光度計により、励起波長515nm、測定波長535nmで測定し、測定用試料中の過酸化脂質濃度を算出した。腸粘膜中の過酸化脂質量は、測定した蛋白質の質量を基準として、ナノモル/ミリグラム.prot(腸粘膜中の蛋白質1ミリグラム分の組織中の量)として算出した。測定されたTBARS量を図11に示す。
【0103】
その結果、コントロール群は通常飼料群(ノーマル群)と比較して有意な(P=0.0098)腸粘膜中過酸化脂質量の高値を示すことが判明した。また、コントロール群と比較して、実施例8の多孔質炭素材料500ミリグラム/キログラム投与各群(P=0.0397)[実施例8A]、実施例8の多孔質炭素材料1000ミリグラム/キログラム投与各群(P=0.0074)[実施例8B]の両投与群において、有意な腸粘膜中過酸化脂質量の低値が認められた。
【0104】
このように、0.14質量%の鉄配合飼料を2週間摂餌させた群(コントロール群)では、通常飼料群(ノーマル群)と比較して有意な腸粘膜中過酸化脂質量の高値を示した。このことから、鉄配合飼料摂取による腸粘膜中過酸化脂質量増加モデルを作成できたと考えられる。そして、蒸留水に分散させた実施例8の多孔質炭素材料を14日間反復強制経口投与した結果、コントロール群と比較して実施例8の多孔質炭素材料投与群は、投与量に依存して、腸粘膜中過酸化脂質量の増加を抑制することができ、500ミリグラム/キログラム投与各群、1000ミリグラム/キログラム投与各群の両方とも、有意な抑制効果を示すことが判明した。特に1000ミリグラム/キログラム投与各群は、ノーマル群と同程度の腸粘膜中過酸化脂質量を示したことから、実施例8の多孔質炭素材料は強い抗酸化作用を有する可能性が考えられる。実施例8の多孔質炭素材料は反復経口投与しても有意な体重減少を引き起こすことがなく、鉄配合飼料の摂取による腸粘膜中過酸化脂質量増加に対して強い抑制効果を示す可能性が示唆された。
【実施例9】
【0105】
実施例9は、本開示の第4の態様に係る酸化ストレス物質除去方法、本開示の第7の態様に係る濾材、本開示の第7の態様に係る水(具体的には飲料水あるいは化粧水)に関する。実施例9にあっては、多孔質炭素材料、及び、この多孔質炭素材料に付着した機能性材料から成り、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、好ましくは0.4cm3/グラム以上である多孔質炭素材料複合体を使用する。あるいは又、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法(NLDFT法)によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上、好ましくは0.2cm3/グラム以上であるである多孔質炭素材料複合体を使用する。あるいは又、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合が全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料複合体を使用する。
【0106】
そして、多孔質炭素材料複合体を液体(水)に浸漬することで、液体(水)に含まれる酸化ストレス物質を除去する。また、濾材は、液体(水)に浸漬されることで液体(水)に含まれる酸化ストレス物質を除去する。更には、水は、多孔質炭素材料に浸漬されることで、酸化ストレス物質が除去された水(飲料水あるいは化粧水)である。
【0107】
実施例9にあっては、機能性材料として、多孔質炭素材料に付着した金属系材料(具体的には、白金微粒子,白金ナノ粒子)を用いた。多孔質炭素材料は、実施例1において説明したと概ね同様の方法に基づき製造した。
【0108】
より具体的には、実施例9にあっては蒸留水182ミリリットルに対して5ミリモルのH2PtCl6水溶液を8ミリリットル、L−アスコルビン酸(表面保護剤)を3.5ミリグラム添加して、暫く撹拌した。その後、実施例1において説明した多孔質炭素材料を0.43グラム添加して、20分間、超音波照射した後、40ミリモルのNaBH4水溶液を10ミリリットル加え、3時間撹拌した。その後、吸引濾過し、120゜Cで乾燥させることによって、黒色の粉末試料である実施例9の多孔質炭素材料複合体を得た。
【0109】
実施例9にあっては、上述したとおり、ヒドロキシルラジカルの相対除去量が9.8であり、実施例1よりも更に高い効率にてヒドロキシルラジカルを除去することができることが判った。
【実施例10】
【0110】
実施例10は、実施例1〜実施例9の変形である。実施例10にあっては、模式的な一部断面図を図12の(A)に示すように、実施例1〜実施例9において説明した多孔質炭素材料あるいは多孔質炭素材料複合体(以下、『多孔質炭素材料等40』と呼ぶ)を、キャップ部材30の付いたボトル(所謂ペットボトル)20に組み込んだ。具体的には、キャップ部材30の内部に多孔質炭素材料等40を配し、多孔質炭素材料等40が流出しないように、フィルター31,32をキャップ部材30の液体流入側及び液体排出側に配置した。そして、ボトル20の内の液体あるいは水(飲料水や化粧水等)10を、キャップ部材30の内部に配された多孔質炭素材料等40を通過させて飲むことで、あるいは、使用することで、液体(水)の中の酸化ストレス物質を除去することができるし、あるいは又、液体(水)の酸化還元電位を低下させることができる。即ち、飲料あるいは使用の直前に、液体(水)の中の酸化ストレス物質を除去することができるし、あるいは又、液体(水)の酸化還元電位を低下させることができる。尚、キャップ部材30は、通常、図示しない蓋を用いて閉じておく。
【0111】
あるいは又、模式的な断面図を図12の(B)に示すように、透水性を有する袋50の中に多孔質炭素材料等40を格納し、ボトル20内の液体あるいは水(飲料水や化粧水等)10の中に、この袋50を投入する形態を採用することもできる。尚、参照番号21は、ボトル20の口部を閉鎖するためのキャップである。あるいは又、模式的な断面図を図13の(A)に示すように、ストロー部材60の内部に多孔質炭素材料等40を配し、多孔質炭素材料等40が流出しないように、図示しないフィルターをストロー部材の液体流入側及び液体排出側に配置する。そして、ボトル20の内の液体あるいは水(飲料水)10を、ストロー部材60の内部に配された多孔質炭素材料等40を通過させて飲むことで、液体(水)の中の酸化ストレス物質を除去することができるし、あるいは、液体(水)の酸化還元電位を低下させることができる。あるいは又、一部を切り欠いた模式図を図13の(B)に示すように、スプレー部材70の内部に多孔質炭素材料等40を配し、多孔質炭素材料等40が流出しないように、図示しないフィルターをスプレー部材70の液体流入側及び液体排出側に配置する。そして、スプレー部材70に設けられた押しボタン71を押すことで、ボトル20の内の液体あるいは水(飲料水や化粧水等)10を、スプレー部材70の内部に配された多孔質炭素材料等40を通過させて、スプレー穴72から噴霧することで、液体(水)の中の酸化ストレス物質を除去することができるし、あるいは又、液体(水)の酸化還元電位を低下させることができる。
【0112】
以上、好ましい実施例に基づき本開示を説明したが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。実施例にあっては、多孔質炭素材料の原料として、籾殻を用いる場合について説明したが、他の植物を原料として用いてもよい。ここで、他の植物として、例えば、藁、葦あるいは茎ワカメ、陸上に植生する維管束植物、シダ植物、コケ植物、藻類及び海草等を挙げることができ、これらを、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。具体的には、例えば、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を稲の藁(例えば、鹿児島産;イセヒカリ)とし、多孔質炭素材料を、原料としての藁を炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得ることができる。あるいは又、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を稲科の葦とし、多孔質炭素材料を、原料としての稲科の葦を炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得ることができる。また、フッ化水素酸水溶液の代わりに、水酸化ナトリウム水溶液といったアルカリ(塩基)にて処理して得られた多孔質炭素材料においても、同様の結果が得られた。尚、多孔質炭素材料あるいは多孔質炭素材料複合体の製造方法は、実施例1、実施例5、実施例9と同様とすることができる。
【0113】
あるいは又、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を茎ワカメ(岩手県三陸産)とし、多孔質炭素材料を、原料としての茎ワカメを炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得ることができる。具体的には、先ず、例えば、茎ワカメを500゜C程度の温度で加熱し、炭化する。尚、加熱前に、例えば、原料となる茎ワカメをアルコールで処理してもよい。具体的な処理方法として、エチルアルコール等に浸漬する方法が挙げられ、これによって、原料に含まれる水分を減少させると共に、最終的に得られる多孔質炭素材料に含まれる炭素以外の他の元素や、ミネラル成分を溶出させることができる。また、このアルコールでの処理により、炭素化時のガスの発生を抑制することができる。より具体的には、茎ワカメをエチルアルコールに48時間浸漬する。尚、エチルアルコール中では超音波処理を施すことが好ましい。次いで、この茎ワカメを、窒素気流中において500゜C、5時間、加熱することにより炭化させ、炭化物を得る。尚、このような処理(予備炭素化処理)を行うことで、次の炭素化の際に生成されるであろうタール成分を減少あるいは除去することができる。その後、この炭化物の10グラムをアルミナ製の坩堝に入れ、窒素気流中(10リットル/分)において5゜C/分の昇温速度で1000゜Cまで昇温する。そして、1000゜Cで5時間、炭素化して、炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換した後、室温まで冷却する。尚、炭素化及び冷却中、窒素ガスを流し続ける。次に、この多孔質炭素材料前駆体を46容積%のフッ化水素酸水溶液に一晩浸漬することで酸処理を行った後、水及びエチルアルコールを用いてpH7になるまで洗浄する。そして、最後に乾燥させることにより、多孔質炭素材料を得ることができる。
【0114】
また、ナトリウム、マグネシウム、カリウム及びカルシウムから成る群から選択された少なくとも1種類の成分を含む植物(具体的には、例えば、ミカンの皮、オレンジの皮、グレープフルーツの皮といった柑橘類の皮、バナナの皮)を原料とした多孔質炭素材料とすれば、多孔質炭素材料から水にミネラル成分を多く溶出させることができ、水の硬度の制御を行うことができる。尚、この場合、多孔質炭素材料には、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)及びカルシウム(Ca)が、合計で0.4質量%以上を含まれることが好ましい。
【符号の説明】
【0115】
10・・・水、20・・・ボトル、21・・・キャップ、30・・・キャップ部材、31,32・・・フィルター、40・・・多孔質炭素材料等、50・・・袋、60・・・ストロー部材、70・・・スプレー部材、71・・・押しボタン、72・・・スプレー穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を用いて、液体に含まれる酸化ストレス物質を除去する酸化ストレス物質除去方法。
【請求項2】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を用いて、液体に含まれる酸化ストレス物質を除去する酸化ストレス物質除去方法。
【請求項3】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合が全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料を用いて、液体に含まれる酸化ストレス物質を除去する酸化ストレス物質除去方法。
【請求項4】
多孔質炭素材料、及び、該多孔質炭素材料に付着した機能性材料から成り、
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上である多孔質炭素材料複合体を用いて、液体に含まれる酸化ストレス物質を除去する酸化ストレス物質除去方法。
【請求項5】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を用いて、液体の酸化還元電位を低下させる酸化還元電位低下方法。
【請求項6】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を用いて、液体の酸化還元電位を低下させる酸化還元電位低下方法。
【請求項7】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合が全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料を用いて、液体の酸化還元電位を低下させる酸化還元電位低下方法。
【請求項8】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上である多孔質炭素材料から成り、液体に浸漬されることで液体に含まれる酸化ストレス物質を除去する濾材。
【請求項9】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上である多孔質炭素材料から成り、液体に浸漬されることで液体の酸化還元電位を低下させる濾材。
【請求項10】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料から成り、液体に浸漬されることで液体に含まれる酸化ストレス物質を除去する濾材。
【請求項11】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料から成り、液体に浸漬されることで液体の酸化還元電位を低下させる濾材。
【請求項12】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合が全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料から成り、液体に浸漬されることで液体に含まれる酸化ストレス物質を除去する濾材。
【請求項13】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合が全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料から成り、液体に浸漬されることで液体の酸化還元電位を低下させる濾材。
【請求項14】
多孔質炭素材料、及び、該多孔質炭素材料に付着した機能性材料から成り、
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上である多孔質炭素材料複合体から成り、液体に浸漬されることで液体に含まれる酸化ストレス物質を除去する濾材。
【請求項15】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上である多孔質炭素材料に浸漬されることで、酸化ストレス物質が除去された水。
【請求項16】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上である多孔質炭素材料に浸漬されることで、酸化還元電位が低下した水。
【請求項17】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料に浸漬されることで、酸化ストレス物質が除去された水。
【請求項18】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料に浸漬されることで、酸化還元電位が低下した水。
【請求項19】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合が全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料に浸漬されることで、酸化ストレス物質が除去された水。
【請求項20】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合が全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料に浸漬されることで、酸化還元電位が低下した水。
【請求項21】
多孔質炭素材料、及び、該多孔質炭素材料に付着した機能性材料から成り、
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法よる細孔の容積が0.2cm3/グラム以上、であり、MP法による細孔の容積が0.2cm3/グラム以上である多孔質炭素材料複合体に浸漬されることで、酸化ストレス物質が除去された水。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−179588(P2012−179588A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−281123(P2011−281123)
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】