説明

酸化チタン含有スメクタイト光触媒複合材料

【課題】 本発明は、スメクタイトの層間に酸化チタンを含む光触媒複合材料であって、スメクタイトの層間に形成される細孔構造が、分解対象分子の吸着において好適に制御された光触媒複合材料を提供することを目的とする。
【解決手段】 塩酸加水分解法によって均一な酸化チタンゾルを調整し、スメクタイト懸濁液と混合撹拌する。上記混合液の撹拌温度を、室温〜80℃の間の所定の温度に制御することで、分解対象分子の吸着において好適に制御された均質な細孔構造を備えた、酸化チタン含有スメクタイト光触媒複合材料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スメクタイトの層間に酸化チタンを含む多孔体構造を備えた光触媒複合材料に関し、より詳細には、スメクタイトの層間に形成される細孔構造が、分解対象分子の吸着に対し好適に制御された光触媒複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粘土鉱物のケイ酸塩層をホストとして、層間を微細なセラミックス粒子で架橋した粘土層間架橋体を触媒として活用することが検討されていた。特に、スメクタイトに代表される粘土鉱物の層間に酸化チタンの柱を立てて細孔構造を形成し、光触媒として機能させるための研究例が多く報告されている。しかし、実用化に至るような、充分な光触媒活性を備えた材料の作製例は、今までほとんど見られなかった。
【0003】
その理由として、スメクタイトに形成される細孔構造の制御が充分に行われていなかったことが挙げられる。触媒表面の細孔特性は、分解対象分子の拡散、吸着、脱離に影響を与えるといわれており、一般に、細孔の大きさは、対象分子の3〜5倍が適当であるといわれている。
【0004】
一方、1、4−ジオキサンは発癌性の疑いのある化学物質として知られており、水と似たような性質を持つために、水中からの分離が困難であるため問題となっていた。1、4−ジオキサンの分解については、Fenton試薬の利用、γ線の利用、あるいは、超音波の利用などの研究例が報告されているが、いずれも充分なものとはいえなかった。そこで、現在、1、4−ジオキサンの分解に酸化チタンの光活性触媒反応を用いる方法が種々検討されており、光活性触媒反応による1、4−ジオキサンの分解が報告されていた。しかし、1、4−ジオキサンの分解の結果生じる、中間生成物(エチレングリコールジフォルメイト: EGDF)は、分解速度が遅く、また、酸化チタンとの親和性が低いため、完全に分解するまでの間、EGDF分子を触媒に保持することができず、EGDFが系外に放出されてしまうという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、本発明は、スメクタイトの層間に酸化チタンを含み多孔体構造を備えた光触媒複合材料であって、スメクタイトの層間に形成される細孔構造が、分解対象分子の吸着において好適に制御された光触媒複合材料を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、スメクタイトの層間に酸化チタンを含み多孔体構造を備えた光触媒複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1、4−ジオキサンの完全分解には、難分解性の中間体であるEGDFを系外に放出させずに触媒試料に保持させ、分解を終えることが必要とされる。この課題を解決する手段として、EGDFを好適に吸着することができ、かつ、酸化チタンに対して安定であって、光触媒反応を阻害しない物質と酸化チタンとの複合材料の作製について検討した。スメクタイト系粘土は、それ自体が有機物に対し吸着能を持つことで知られており、また前述のように酸化チタンとの複合化も達成されている。そこで、スメクタイトと酸化チタンとの複合化により、1、4−ジオキサンの分解過程で生じるEGDFをスメクタイトに充分な時間保持させることでEGDFを完全分解し、系外への放出を抑えることができると考えられる。
【0007】
以上のような着想の下、本発明者らは、酸化チタンとスメクタイトとを均質に複合化し、かつ、対象分子分解のために好適な細孔構造を得るために、試料の調整方法、調整温度を含めて様々な条件で鋭意検討を実施した。その結果、酸化チタンゾルの添加方法については、塩酸加水分解法を採用し、熟成温度を室温〜80℃とすることで、ミクロ孔(2nm以下)からメソ孔(2〜50nm)までの細孔構造を好適に制御することができることを見いだし、本発明に至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、スメクタイトの層間にアナターゼ型酸化チタンを含む多孔体構造を備えた光触媒複合材料が提供される。前記光触媒複合材料の粉末X線回析における前記スメクタイトと前記アナターゼ型酸化チタンの積分強度比は0.2以上とすることができ、また、0.25以上7.0以下とすることもでき、さらに、前記スメクタイトはモンモリロナイトとすることができる。
【0009】
さらに、本発明によれば、スメクタイトの層間にアナターゼ型酸化チタンを含む光触媒複合材料の製造方法であって、前記製造方法は、塩酸加水分解法によって酸化チタンゾルを調整する工程と、スメクタイトを膨潤させた懸濁液を調整する工程と、該酸化チタンゾルと該懸濁液との混合液を室温〜80℃の範囲の温度で撹拌する工程とを含む製造方法が提供される。前記スメクタイトはモンモリロナイトとすることができる。
【0010】
さらに加えて、本発明によれば、スメクタイトの層間にアナターゼ型酸化チタンを含む多孔体構造を備えた光触媒複合材料による有機分子の分解方法であって、前記分解方法は、
メソ孔を有する前記光触媒複合材料に、電荷分布が不均一であってメソ孔に侵入する分子サイズの有機分子を吸着させる工程と、前記有機分子を吸着した光触媒複合材料に紫外線を照射して、前記有機分子を分解する工程とを含む分解方法が提供される。前記スメクタイトはモンモリロナイトとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スメクタイトの層間に酸化チタンを含み多孔体構造を備えた光触媒複合材料であって、スメクタイトの層間に形成される細孔構造が、分解対象分子の吸着において好適に制御された光触媒複合材料、および、その製造方法を提供することができる。本発明の光触媒複合材料は、1,4−ジオキサンおよびその難分解性の中間体EGDFなどを効率的に分解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を具体的な実施の形態をもって説明するが、本発明は、後述する実施の形態に限定されるものではない。図1は、本発明の、酸化チタン含有スメクタイト光触媒複合材料の作製方法を示したブロック図である。本発明の複合材料作製に際し、まず最初に酸化チタンゾルが調整される。酸化チタンゾルの添加方法としては、紛粒状の酸化チタンと紛粒状のスメクタイトとをあらかじめ混合しておいたものに水を加え、チタンの加水分解とスメクタイトとの混合を同時に行う、in−situ加水分解法、あるいは、溶媒としてイソプロピルアルコール(IPA)を用いる、イソプロパノール法などを選択しうるが、本発明者らは、酸化チタンゾルを、塩酸加水分解法によって調整することにより、酸化チタンゾルの均一性が得られ、それが、後述する工程において、酸化チタンとスメクタイトとを均質に複合化するうえで好ましいことを見出した。したがって、本発明においては、塩酸加水分解法によって酸化チタンゾルを調整することが望ましい。具体的には、所定の濃度の塩酸溶液に所定量のチタンのアルコキシドを滴下し、加水分解させる。加水水分解によって生じた白沈が透明になってから室温で充分に撹拌して、透明な酸化チタンゾルを調整する。上記アルコキシドとしては、チタニウムテトライソプロポキシドを用いることができる。その他、四塩化チタンなどのチタン塩を用いることも可能である。上記塩酸溶液の濃度は1N程度が好ましく、チタンのアルコキシドの滴下量は、塩酸とのモル比(Ti/H+)が、0.4〜6となる量が好ましく、上記モル比が4となる量が最も好ましい。また、上記溶液は、3時間以上撹拌することが好ましい。
【0013】
次に、スメクタイトの水溶液を調整する。市販のスメクタイトの紛粒体を水に混合し、スメクタイトが充分に膨潤するまで室温で撹拌し、スメクタイト懸濁液を得る。上記スメクタイトとして、モンモリロナイトを用いることができる。上記撹拌工程において、スメクタイトのシリケート層の層間は無限大に広がり、ばらばらになる。上記撹拌は、1日以上行うことが好ましい。
【0014】
次に、激しく撹拌したスメクタイト懸濁液に、あらかじめ調整しておいた酸化チタンゾルを滴下混合し、この混合液を充分に撹拌する。この際、スメクタイトの陽イオン交換能(CECclay)とチタニウムイオン(Ti4+)との比(Ti4+/CECclay)が4〜60となるように、酸化チタンゾルの滴下量を調整することが好ましく、メソ孔(2〜50nm)を多く生成させたい場合には、上記比が、40となるような滴下量が最も好ましい。
【0015】
また、スメクタイト懸濁液と酸化チタンゾルの混合液の撹拌は、所定の温度の下、3時間以上行うことが好ましい。上記一連の混合撹拌工程において、膨潤したスメクタイトの負に帯電したシリケート層に、正に帯電した酸化チタン粒子が付着し、続いて、シリケート層が凝集することによって、酸化チタン粒子がスメクタイトの層間に挿入されることになる。
【0016】
本発明においては、この撹拌工程を室温〜80℃の間の一定の温度で行うことが望ましい。80℃を超える高温で上記工程を行うと、酸化チタンがスメクタイトの層の外へ出てしまう確率が多くなり、結果的に酸化チタンとスメクタイトとを均質に複合化することができないため好ましくない。本発明は、室温〜80℃程度の低温であっても、充分な光触媒活性を示すことのできる酸化チタンのアナターゼ型結晶が、スメクタイトの層間に形成されることを開示するものである。また、上記工程を50℃以下の温度で行うと、メソ孔(2〜50nm)の生成割合が低下するので、分解しうる有機分子の分子サイズが制限されるため好ましくない。したがって、本発明においては、上記撹拌工程を、50〜80℃の温度で行うことが特に好ましい。
【0017】
最後に、上記撹拌工程を終えた混合液を、遠心分離によって固液分離したのち、得られた固体を硝酸銀反応がなくなるまで蒸留水で洗浄して、塩化物イオンを除去する。その後、恒温槽で乾燥し、本発明の、酸化チタン含有スメクタイト光触媒複合材料を得る。本発明においては、上記乾燥工程の後、上記材料を公知の方法で焼成することもできる。
【0018】
得られた酸化チタン含有スメクタイト光触媒複合材料の細孔径分布を調べたところ、酸化チタンゾルとスメクタイト懸濁液との混合液を撹拌する際の保持温度によって、細孔径分布が変化することがわかった。このことから、上記保持温度を制御することで、細孔構造において、ミクロ孔(2nm以下)およびメソ孔(2〜50nm)を選択的に形成しうることがわかった。また、得られた酸化チタン含有スメクタイト光触媒複合材料を用いて、1、4−ジオキサン溶液の紫外線光照射下での分解を試み、この時のEGDFの濃度変化を調べた。その結果、本発明の酸化チタン含有スメクタイト光触媒複合材料は、酸化チタン単体と比較して、難分解性の中間体EGDFが系外へ放出されることを著しく抑制することが判明した。
【0019】
これは、本発明の、2nm〜20nmの細孔構造を備えた酸化チタン含有スメクタイトが、スメクタイト自体が持つ有機物に対する吸着性、スメクタイトの層間に均質に形成された細孔構造、およびその他の要因による相乗効果により、1、4−ジオキサンのみならず、難分解性の中間体EGDFに対し特異的な吸着性を有し、その結果、EGDFの効率的な分解が可能となったことによると考えられる。
【0020】
また、細孔構造が細孔径で20nm付近に制御された本発明の酸化チタン含有スメクタイト光触媒複合材料のメチレンブルーの吸着挙動を調べたところ、ミクロ孔領域(2nm以下)に制御された複合材料と比較して、吸着速度に大きな違いが見られ、メチレンブルー吸着に対し優位性を有することが判明した。メチレンブルーの分子サイズが1.6nm程度であることからすると、本発明の酸化チタン含有スメクタイト光触媒複合材料は、1、4−ジオキサンのみならず、ポリ塩素化ジベンゾパラジオキシン(PCDDs)及びポリ塩素化ジベンゾフラン(PCDFs)に代表されるダイオキシン類(2nm程度)や各種環境ホルモン(2nm程度)、さらには、人体に有害な各種石油系炭化水素(5〜10nm程度)に対しても特異的な吸着性を示すものと考えられ、環境浄化のための幅広い用途を持つ複合材料としての活用が期待される。
【0021】
以下、本発明の酸化チタン含有スメクタイト光触媒複合材料について、実施例を用いてより具体的に説明する。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
塩酸(1N)にチタニウムテトライソプロポキシド(関東化学製)を、モル比がTi/H=4となる量滴下し、加水分解で生じた白沈が透明になってから3時間撹拌して透明な酸化チタンゾル溶液を調製した。1.0質量%モンモリロナイト(クニピアF、クニミネ鉱業製、陽イオン交換能=115meq/100g)水溶液を調製し、十分に膨潤させるために一日以上撹拌した。激しく撹拌したモンモリロナイト懸濁液に、調製した酸化チタンゾルを混合比がTi4+/CECclay=4〜60となる条件で滴下した。この混合液の温度をそれぞれ、50℃、75℃および80℃に保持して3時間撹拌を行い、その後、遠心分離(8000rpm)によって固液分離し、硝酸銀反応がなくなるまで蒸留水で洗浄した。その後、60℃の恒温槽で乾燥し、目的とする酸化チタン含有スメクタイト試料を得た。得られた試料をTEM(H−9000、日立製作所製)によって観察したところ、保持温度に応じて2〜20nmの比較的細孔径の揃った細孔構造が確認された。
【0023】
上記各温度で作製した試料の細孔径分布を調べた。細孔径分布を求めるに際し、窒素吸着法(BET)を用い、窒素吸着測定装置にはオートソーブ1(米国カンタクローム製)を用いた。吸着ガスに窒素を用い、測定温度77Kで吸着40点-脱離40点の測定を平衡時間2分で測定した。試料約50mgは、測定前に180℃で3hの真空脱気を、前処理として行った。得られた吸着等温線より、BET法で比表面積を、BJH法で細孔径分布をそれぞれ算出した。図2は、上記方法によって求められた細孔径分布を示すグラフである。図2に示すように、保持温度が、50℃、75℃、80℃のとき、それぞれ2nm(ミクロ孔)、5nm(メソ孔)、20nm(メソ孔)の細孔構造が主に形成された。
【0024】
さらに、上記各温度で作製した試料について、粉末X線回折(XRD)を行った。粉末X線回折装置にはXRD−6100(島津製作所製)を用いた。X線源はCu K・線(40kV−30mA)を用い、グラファイトのモノクロメーターで単色化した。走査は連続スキャンで1°/minで測定した。スリットはダイバージェンスとスキャタリングスリットが0.5°、レシービングスリットは0.15mmとした。Si無反射板ホルダーに試料を約20mgを保持して測定した。図3は、本発明の酸化チタン含有スメクタイト光触媒複合材料の粉末X線回析の結果を示した図である。図3の線は、上から順番に、80℃、75℃、50℃で調整した試料の測定値を示し、Xは、酸化チタンを添加していないモンモリロナイトの測定値を示す。図中の●は、モンモリロナイトのピークを示し、▼は、酸化チタンのアナターゼ型結晶のピークを示す。また、下記表に、上記保持温度ごとの、モンモリロナイトおよびアナターゼのX線回析のピーク強度およびピーク強度比、ならびに、積分強度と積分強度比をまとめて示す。なお、下記強度比は、アナターゼ/モンモリロナイトを示す。表1に示すように、アナターゼ/モンモリロナイトのピーク強度比は、温度が高くなるにつれ、低下する傾向が見られた。一方、図2に示すように、温度が高くなるにつれ、メソ孔の生成割合が高まっていることから、温度が、本発明の複合材料の構造に重要な影響を与えることがわかる。
【0025】
【表1】

【0026】
(実施例2)
和光純薬製1、4−ジオキサン50ppm溶液100mlに対して酸化チタン含有スメクタイト試料を0.02g分散させた。用いた試料は50℃で調製した2nmの細孔を持つ試料である。紫外光を照射下(125mW/cm)で撹拌し、投入から30分ごとに所定量の溶液を分取した。分取溶液はフィルターを用いてろ過した後、ガスクロマトグラフを用いて1、4−ジオキサンおよびEGDFの定量分析を行った。ガスクロマトグラフにはGC−14A(島津製作所製)を用い、キャリアガスは窒素、ディテクタ200℃、注入口・カラム150℃、試料量20・lの条件で分析した。
【0027】
図4は、反応時間に対する1、4−ジオキサンおよびEGDFの濃度変化を示した図である。図4から、反応時間が進むにつれ1、4−ジオキサンの分解が進んでいるにもかかわらず、中間生成物であるEGDFがほとんど系外に放出されていないことが見て取れる。また、濃度変化から1、4−ジオキサンの分解定数を算出したところ、2.2×10−4となった。また、EGDFの生成速度と1、4−ジオキサンの分解速度の比を計算したところ約0.3となった。なお、分解定数の算出方法は、以下の通りに行った。
【0028】
濃度を[C]、速度定数をkとすると、1、4−ジオキサンの分解が拡散律速であることから、-d[C]/dt = k[C]となり、ln(C(t)) = ln(C0)-ktが導かれる。ここで、2段階の反応

を考えると、下記数式(1)〜(3)が得られる。
【0029】
【数1】

【0030】
【数2】

【0031】
【数3】

数式(1)と(2)から、数式(4)が得られる。
【0032】
【数4】

また,t=0のとき[A]=[A]0,[B]=[C]=0を代入すると、下記数式(5)〜(7)が得られる。
【0033】
【数5】

【0034】
【数6】

【0035】
【数7】

ここで数式(5)の両辺の対数をとると、下記数式(8)が得られる。
【0036】
【数8】

【0037】
この系ではAが1、4−ジオキサン、BがEGDFとなるので、数式(8)より1、4−ジオキサン分解定数k1が得られる。また、数式(4)からk2/k1が求まるので,先に得られたk1の値を用いて,EGDF分解定数k2が得られる。
【0038】
(比較例1)
実施例2と同じ条件で、市販の酸化チタン粉末(ST−21、石原産業製)を用いて1、4−ジオキサンの分解実験を行った。図5は、反応時間に対する1、4−ジオキサンおよびEGDFの濃度変化を示したグラフである。また、濃度変化から1、4−ジオキサンの分解定数を算出したところ、1.4×10−4となった。さらに、EGDFの生成速度と1、4−ジオキサンの分解速度の比を取ったところ約1.0となり、分解した1、4−ジオキサンが、ほとんどEGDFに変化していることが示された。
【0039】
比較例1の結果を実施例2の結果と比較すると、比較例1では、定量されたEGDFの濃度で5倍、1、4−ジオキサン分解速度に対するEGDF生成速度の比率(−Δ[EGDF]/Δ[dioxane])で3倍という結果となり、実施例2において、本発明の酸化チタン含有スメクタイト光触媒材料によって1、4−ジオキサンの分解を行った場合、EGDFの生成が顕著に抑制されることが示された。
【0040】
(実施例3)
和光純薬製メチレンブルー5×10−5M水溶液100mlに対して、実施例1で作製した酸化チタン含有スメクタイト試料のうち、50℃で調製した2nmの細孔を持つ試料および80℃で調製した20nmの細孔を持つ試料をそれぞれ0.02g分散させて、暗所で撹拌した。投入から30分ごとにそれぞれの溶液を分取し、吸光光度計(MODEL
6B、平間製作所製)を用いて664nmでの吸光度を測定した。図6は、ミクロ孔試料(2nm)およびメソ孔試料(20nm)のメチレンブルー吸着挙動を示した図である。検量線をもとにして、所定の時間における試料へのメチレンブルー吸着量を算出した。メチレンブルーの濃度が1/10になる速度は、メソ孔試料(20nm)がミクロ孔試料(2nm)の約6倍であることがわかった。このことから、本発明のメソ孔を有する複合材料の有機分子に対する吸着性が著しく高いことが示される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により、難分解性の中間生成物EGDFを系外に放出しない1、4−ジオキサンの効率の良い分解技術をはじめ、ダイオキシン類、各種環境ホルモン、各種石油炭化水素などの有害物質を効率よく分解する技術を提供できる。また、本発明で用いられる材料は、特別な処理を施していない酸化チタンとスメクタイト粘土であるため、人体・環境への影響が少なく、上水設備などへの適用も容易である。これにより、新しい水浄化システムの技術を確立することができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の酸化チタン含有スメクタイト光触媒複合材料の作製方法を示したブロック図。
【図2】BJH法よって求められた、本発明の酸化チタン含有スメクタイト光触媒複合材料の細孔径分布を示す図。
【図3】本発明の酸化チタン含有スメクタイト光触媒複合材料の粉末X線回析の結果を示す図。
【図4】本発明の酸化チタン含有スメクタイト光触媒複合材料を用いた1、4−ジオキサンの分解反応において、反応時間に対する1、4−ジオキサンおよびEGDFの濃度変化を示した図。
【図5】酸化チタン単体の粉末を用いた1、4−ジオキサンの分解反応において、反応時間に対する1、4−ジオキサンおよびEGDFの濃度変化を示した図。
【図6】ミクロ孔試料およびメソ孔試料のメチレンブルー吸着挙動を示した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スメクタイトの層間にアナターゼ型酸化チタンを含む多孔体構造を備えた光触媒複合材料。
【請求項2】
前記光触媒複合材料の粉末X線回析における前記スメクタイトと前記アナターゼ型酸化チタンの積分強度比が0.2以上である、請求項1に記載の光触媒複合材料。
【請求項3】
前記光触媒複合材料の粉末X線回析における前記スメクタイトと前記アナターゼ型酸化チタンの積分強度比が0.25〜7.0である、請求項1に記載の光触媒複合材料。
【請求項4】
前記スメクタイトは、モンモリロナイトである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光触媒複合材料。
【請求項5】
スメクタイトの層間にアナターゼ型酸化チタンを含む光触媒複合材料の製造方法であって、
前記製造方法は、
塩酸加水分解法によって酸化チタンゾルを調整する工程と、スメクタイトを膨潤させた懸濁液を調整する工程と、該酸化チタンゾルと該懸濁液との混合液を室温〜80℃の範囲の温度で撹拌して、前記アナターゼ型酸化チタンを前記スメクタイトの層間に生成する工程とを含む、
製造方法。
【請求項6】
前記スメクタイトはモンモリロナイトである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
スメクタイトの層間にアナターゼ型酸化チタンを含む多孔体構造を備えた光触媒複合材料による有機分子の分解方法であって、
前記分解方法は、
メソ孔を有する前記光触媒複合材料に、電荷分布が不均一であってメソ孔に侵入する分子サイズの有機分子を吸着させる工程と、
前記有機分子を吸着した光触媒複合材料に紫外線を照射して、前記有機分子を分解する工程と、
を含む分解方法。
【請求項8】
前記スメクタイトはモンモリロナイトである、請求項7に記載の分解方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−326453(P2006−326453A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−152243(P2005−152243)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】