説明

酸化チタン薄膜の製造方法及び酸化チタン薄膜を有する樹脂製品

【課題】容易に酸化チタン薄膜を製造できる酸化チタン薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化チタン薄膜の製造方法は、液相レーザーアブレーションによりアナターゼ型の酸化チタンの微粒子を含む酸化チタン水溶液を作製する微粒子作製工程と、ルチル型の酸化チタン層に紫外線を照射する照射工程と、酸化チタン層上にアナターゼ型の酸化チタンの微粒子及び水を含む酸化チタン水溶液を塗布する塗布工程と、酸化チタン水溶液の水を蒸発させて乾燥する乾燥工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒として知られている酸化チタン(TiO)薄膜の製造方法及び酸化チタン薄膜を有する樹脂製品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ガラス製品やプラスチック製品などの表面に形成することによって、汚れをセルフクリーニングすることが可能な光触媒である酸化チタン薄膜の研究が盛んに行われている。
【0003】
酸化チタンには、以下の3種類の型が存在する。ルチル型の酸化チタンは、最も安定な結晶と知られ、天然物としても存在するが、光触媒としてあまり機能しないことが知られている。アナターゼ型の酸化チタンは、親水性が最も強く光触媒としての研究が盛んに行われているものである。後、ブルッカイト型の酸化チタンも存在する。
【0004】
これらの酸化チタン薄膜の製造方法としては、ゾルゲル法が知られている。
【0005】
特許文献1に記載のゾルゲル法による酸化チタン薄膜の製造方法では、酸性溶液にチタンアルコキシドのアセチルアセトン溶液などを加えて作製したゲル状の酸化チタンを乾燥及び焼成して酸化チタンの微粒子を作製する。そして、酸化チタンの微粒子に水などを加えて混練することにより作製した酸化チタンのペーストを所定の基板上に塗布した後、450℃で焼成することによって酸化チタン薄膜を作製している。
【特許文献1】特開2006−128079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1のゾルゲル法による酸化チタン薄膜の製造方法では、高温で焼成する必要があるために熱により変形しやすい基板などに酸化チタン薄膜を製造することが容易ではない。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、容易に低温で酸化チタン薄膜を製造できる酸化チタン薄膜の製造方法及び酸化チタン薄膜を有する樹脂製品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、酸化チタン層に青色よりも波長の短い光を照射する照射工程と、前記酸化チタン層上に酸化チタンの微粒子及び水を含む酸化チタン水溶液を塗布する塗布工程と、前記酸化チタン水溶液の溶媒を蒸発させて乾燥する乾燥工程とを備えたことを特徴とする酸化チタン薄膜の製造方法である。尚、ここでいう酸化チタン薄膜とは、酸化チタンの微粒子が酸化チタン層上の全面を覆うものだけではなく、酸化チタンの微粒子が酸化チタン層上に分散している状態のものも含む概念である。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、前記照射工程では、所望の親水性を有するように酸化チタン層に前記光を照射することを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン薄膜の製造方法である。尚、ここでいう所望の親水性とは、酸化チタン層上の酸化チタン水溶液が、液滴とならずに略全域に広がる程度の親水性のことである。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、前記照射工程では、前記酸化チタン水溶液の接触角が12°以下となるように前記光を照射することを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の酸化チタン薄膜の製造方法である。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、前記照射工程では、前記酸化チタン層の表面に照射される前記光の単位面積当たりの合計エネルギーが2800J/cm以上となることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化チタン薄膜の製造方法である。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、前記照射工程では、紫外線を照射することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化チタン薄膜の製造方法である。
【0013】
また、請求項6に記載の発明は、前記酸化チタンの微粒子は、アナターゼ型の酸化チタンを主成分とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸化チタン薄膜の製造方法である。
【0014】
また、請求項7に記載の発明は、前記酸化チタン層は、ルチル型の酸化チタンを主成分とすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸化チタン薄膜の製造方法である。
【0015】
また、請求項8に記載の発明は、前記塗布工程と前記乾燥工程とを複数回繰り返し行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の酸化チタン薄膜の製造方法である。
【0016】
また、請求項9に記載の発明は、熱可塑性樹脂からなる樹脂部材と、前記樹脂部材の表面に形成された酸化チタン層と、前記酸化チタン層上に形成された酸化チタン薄膜とを備えたことを特徴とする酸化チタン薄膜を有する樹脂製品である。
【0017】
また、請求項10に記載の発明は、前記酸化チタン薄膜は、アナターゼ型の酸化チタンを主成分とすることを特徴とする請求項9に記載の酸化チタン薄膜を有する樹脂製品である。
【0018】
また、請求項11に記載の発明は、前記酸化チタン層は、ルチル型の酸化チタンを主成分とすることを特徴とする請求項9または10のいずれか1項に記載の酸化チタン薄膜を有する樹脂製品である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、乾燥工程において酸化チタン水溶液の溶媒を蒸発させることにより酸化チタン薄膜を作製することができるので、酸化チタン薄膜を低温で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(実施形態)
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図1は、本実施形態による樹脂製品の断面図である。
【0021】
図1に示すように、樹脂製品1は、プラスチックなどの熱可塑性樹脂からなる樹脂基板2と、樹脂基板2上に形成された酸化チタン層3と、酸化チタン薄膜4とを備えている。
【0022】
酸化チタン層3は、結晶性の低い酸化チタンを主成分とする。酸化チタン層3の作製方法は特に限定されるものではないが、一例として、酸素を含む真空中で金属チタンに電子線を照射して金属チタンを蒸発させ、酸素と反応させることにより樹脂基板2上に作製することができる。尚、酸化チタン層3をルチル型の酸化チタンを主成分として構成してもよい。
【0023】
酸化チタン薄膜4は、酸化チタン層3上に形成されたアナターゼ型の酸化チタンを主成分とする微粒子からなり、約10nm〜約50nmの厚みを有する。ここで、酸化チタン膜4を構成する酸化チタンの微粒子は、酸化チタン層3の表面全体を覆うように形成してもよく、また、分散させてもよく、酸化チタン膜4が光を透過可能であればよい。
【0024】
(酸化チタン薄膜の製造方法)
次に、上述した酸化チタン薄膜の製造方法について説明する。図2は、酸化チタン薄膜の製造工程図である。図3〜図5は、酸化チタン薄膜の各製造工程を説明するための概略図である。
【0025】
本実施形態による酸化チタン薄膜の製造方法は、図2に示すように、微粒子作製工程と、照射工程と、塗布工程と、乾燥工程とを備えている。以下、それぞれの工程について具体的に説明する。
【0026】
図3に示すように、微粒子作製工程では、液相レーザーアブレーション法によって酸化チタンの微粒子を作製する。詳細には、制御装置11により制御可能なNd:YAGレーザー12からレーザー光Lを照射し、そのレーザー光Lを反射鏡13で反射した後、集光レンズ14で集光して、蒸留水中に載置されたルチル型の酸化チタン単結晶4bに照射する。これにより、アナターゼ型の酸化チタンを主成分とする微粒子を蒸留水中に作製し、これを酸化チタン水溶液4aとする。尚、酸化チタン水溶液4a中の酸化チタンの微粒子の濃度は特に限定されるものではないが、形成される酸化チタン膜4中の酸化チタンの微粒子が1回の塗布工程において酸化チタン層3の全面を覆わない程度に低濃度のものが好ましい。また、ここでいう微粒子とは、特に大きさが限定されるものではないが、例えば、数100nm以下の直径を有する微粒子、好ましくは50nm以下の直径を有する微粒子である。
【0027】
図4に示すように、照射工程では、結晶性の低い酸化チタンを主成分とする酸化チタン層3が所望の親水性を有するように所定の時間、Hg−Xeランプ21から照射された紫外線Lを集光レンズ22により集光して、載置台23上に置かれた酸化チタン層3に照射する。ここで、酸化チタン層3が所望の親水性を有するとは、酸化チタン層3上の水が液滴とならずに、酸化チタン層3の表面上の略全域に広がる程度の親水性(超親水性)である。一例として、酸化チタン層3上の酸化チタン水溶液4aの接触角θが、10°前後若しくはそれ以下であることが好ましい。ここでいう接触角θとは、図21に示すように、酸化チタン水溶液4aの外縁部の接線と酸化チタン層3との間の角度のことである。また、このような親水性を得るためには、酸化チタン層3の表面の単位面積当たりに照射されるHg−Xeランプ21から照射される光の合計エネルギーが、約2800J/cm以上であることが好ましい。尚、樹脂基板2上の酸化チタン層3にHg−Xeランプ21により紫外線を照射する場合には、Hg−Xeランプ21から照射される可視光や赤外線により樹脂基板21が高温になることを防ぐために、可視光及び赤外線を遮断するフィルターを通した光を照射することが好ましい。または、紫外線のみを照射可能な波長約266nmのレーザ光を照射するYAGレーザーなどにより照射工程を行ってもよい。
【0028】
図5に示すように、塗布工程では、酸化チタン層3上に、微粒子作製工程で作製された酸化チタン水溶液4aをマイクロピペット31により適量滴下して、塗布する。ここで、酸化チタン層3は、照射工程により親水性を有するので、滴下された酸化チタン水溶液4aは酸化チタン層3上ではじかれて液滴となることなく、略均一の厚みで酸化チタン層3上に広がる。尚、図5におけるCMOSカメラ32及び画像処理装置33については後述する第1実験において説明する。
【0029】
乾燥工程では、室温で酸化チタン水溶液4a中の蒸留水(溶媒)を蒸発させて乾燥させる。これにより、結晶性の低いの酸化チタン層3上に酸化チタンの微粒子からなるアナターゼ型の酸化チタン薄膜4を形成する。
【0030】
尚、塗布工程及び乾燥工程は、所望の酸化チタン薄膜の厚みや酸化チタンの微粒子の単位面積当たりの密度などに応じて複数回繰り返してもよい。
【0031】
(第1実験)
以下、上述した結晶性の低い酸化チタン層よりも反応性の低い、即ち、光触媒としての作用が低いルチル型の酸化チタン層の親水性を調べるために行った第1実験について説明する。まず、本発明に対応した実施例1〜5及び実施例と比較するために作製した比較例1について説明する。
【0032】
(実施例1)
まず、実施例1では、Hg−Xeランプによってルチル型の酸化チタン層へ、約5.0Wの光照射強度を有する紫外線を集光レンズで集光して約30分間照射した(照射工程に相当)。尚、集光レンズは集光距離が約25cmのものを採用し、酸化チタン層から約25cmの位置に配置した。また、酸化チタン層の表面は、紫外線を照射する前に、親水性への影響が大きい表面の平滑性を高めるために、約0.3μmの平均粒径を有するアルミナ(Al)によって研磨した。次に、紫外線が照射されたルチル型の酸化チタン層上へ蒸留水をマイクロピペットにより約50μl滴下して、酸化チタン層上に塗布した(滴下工程に相当)。実施例1における酸化チタン層上の蒸留水の状態を、図6に示す。
【0033】
(実施例2)
実施例2では、Hg−Xeランプによる酸化チタン層への紫外線の照射時間を25分とした以外は全て実施例1と同じ条件で行った。実施例2における酸化チタン層上の蒸留水の状態を、図7に示す。
【0034】
(実施例3)
実施例3では、Hg−Xeランプによる酸化チタン層への紫外線の照射時間を20分とした以外は全て実施例1と同じ条件で行った。実施例3における酸化チタン層上の蒸留水の状態を、図8に示す。
【0035】
(実施例4)
実施例4では、Hg−Xeランプによる酸化チタン層への紫外線の照射時間を15分とした以外は全て実施例1と同じ条件で行った。実施例4における酸化チタン層上の蒸留水の状態を、図9に示す。
【0036】
(実施例5)
実施例5では、Hg−Xeランプによる酸化チタン層への紫外線の照射時間を10分とした以外は全て実施例1と同じ条件で行った。実施例5における酸化チタン層上の蒸留水の状態を、図10に示す。
【0037】
(比較例1)
比較例1では、紫外線が照射されていない石英基板上に蒸留水をマイクロピペットにより約50μl滴下した。比較例1における石英基板上の蒸留水の状態を図11に示す。
【0038】
尚、図6〜図11の画像は、図5に示すように、30万画素のCMOSスコープカメラ32を用いて撮影した後、画像処理装置33によりコントラストや明暗を画像処理したものである。
【0039】
次に、上述した実施例1〜5及び比較例1の実験結果について説明する。
【0040】
紫外線を30分照射した実施例1では、図6の画像に示すように、酸化チタン層の表面が大きい親水性を有し、蒸留水が液滴とならず、表面に広がっているのがわかる。尚、実施例1では、酸化チタン層と蒸留水との接触角が約11°であった。
【0041】
また、紫外線を25分照射した実施例2においても、図7の画像に示すように、酸化チタン層が大きい親水性を有し、蒸留水が液滴とならず、表面に広がっているのがわかる。尚、実施例1では、酸化チタン層と蒸留水との接触角が約12°であった。
【0042】
これらの実験結果から実施例1及び2では、超親水性を示すことがわかった。尚、ここでいう超親水性とは、酸化チタン層と蒸留水との接触角が非常に小さい(例えば、10°前後若しくはそれ以下)状態のことをいう。尚、酸化チタン水溶液は、蒸留水に比べて接触角が小さくなるので、酸化チタン水溶液においても接触角が10°前後若しくはそれ以下であれば超親水性を示しているといえる。
【0043】
また、実施例3〜5においては、図8〜図10の画像に示すように、蒸留水が液滴となっているが照射時間が長くなるにつれて、親水性が大きくなることがわかる。尚、実施例3〜5における酸化チタン層と蒸留水との接触角は、それぞれ約33°、約63°、約64°であった。
【0044】
一方、比較例1では、図11の画像に示すように、親水性を有さないため、蒸留水が液滴となり、石英基板の表面に広がらず、一部にのみ形成されることがわかる。尚、比較例1では、石英基板と蒸留水との接触角が約40°であった。
【0045】
更に、これら実験結果から、ルチル型の酸化チタン層よりも光触媒としての機能が高い結晶性の低い酸化チタン層や他の酸化チタンからなる酸化チタン層でも紫外線照射により親水性を高めて蒸留水を表面に広げることができることがわかる。
【0046】
上述した実施例1及び2のように超親水性を示すには、Hg−Xeランプで約2800J/cm以上の合計エネルギーをルチル型の酸化チタンからなる酸化チタン層の表面の単位面積当たりに照射すればよいことがわかった。これにより、ルチル型の酸化チタン以外の酸化チタンからなる酸化チタン層には、Hg−Xeランプで約2800J/cm以上のエネルギーを照射すれば超親水性を示すことが容易に推測できる。
【0047】
(第2実験)
次に、アナターゼ型の酸化チタン薄膜の形成状態を調べるために行った第2実験について説明する。まず、本発明に対応した実施例6及び比較例2について説明する。
【0048】
(実施例6)
実施例6では、まず、微粒子作製工程において、約30mlの蒸留水中に載置された約1mmの厚みを有するルチル型の酸化チタンの単結晶にNd:YAGレーザー装置を用いて波長が約266nmのレーザー光を、集光レンズにより集光して約60分間照射した。これにより、約100nmの平均直径を有するアナターゼ型の酸化チタンの微粒子を蒸留水中に作製し、これを酸化チタン水溶液とした。尚、Nd:YAGレーザー装置のレーザー光のパラメータは、スポットサイズが約7.85×10−2cm、レーザー強度が約10mJ、フルーエンスが約1.15J/cm、繰り返し周波数が約10Hzである。また、レーザー光を集光するために用いた集光レンズは、透過率が約90%、焦点距離が約25cmであり、ルチル型の酸化チタンの単結晶から約15cm離れた位置に配置した。
【0049】
また、照射工程では、酸化チタン層の表面を約0.3μmの粒径を有するアルミナの粒子により研磨した後、照射工程において、実施例1と同じ条件で紫外線照射を約30分間、酸化チタン層に行った。
【0050】
その後、塗布工程において、約5μlの体積の酸化チタン水溶液を酸化チタン層上にマイクロピペットを用いて滴下して、酸化チタン層上に塗布した。
【0051】
次に、乾燥工程において、室温で酸化チタン水溶液の水分(溶媒)を蒸発させて乾燥させることにより酸化チタン層上にアナターゼ型の酸化チタン薄膜を形成する。
【0052】
実施例6における酸化チタン薄膜のFE−SEM(Field Emission Scanning Electron Microscopy)像を、図12(500倍)及び図13(2500倍)に示す。尚、FE−SEM像の撮影では、帯電現象を防ぐために、酸化チタン薄膜上に炭素蒸着を行った(以下、同様)。
【0053】
(比較例2)
比較例2では、照射工程を行わずに、実施例6と同様に微粒子作製工程を行い、塗布工程において、約5μlの体積の酸化チタン水溶液を酸化チタン層上にマイクロピペットを用いて滴下した。次に、乾燥工程において、室温で酸化チタン水溶液の水分を蒸発させて乾燥させることにより酸化チタン層上にアナターゼ型の酸化チタン薄膜を形成する。
【0054】
比較例2における酸化チタン薄膜のFE−SEM像を、図14(500倍)及び図15(2500倍)に示す。尚、図14に示す写真が酸化チタン水溶液の液滴の中央部のものであり、図15に示す写真が酸化チタン水溶液の液滴の縁側のものである。
【0055】
次に、上述した実施例6及び比較例2の実験結果について説明する。尚、写真中の白い粒状に見えるものが、約100nm程度の大きさであることから、酸化チタンの微粒子であることがわかる(以下の写真でも同様)。
【0056】
図12及び図13に示すように、実施例6による酸化チタン薄膜は、酸化チタンの微粒子が酸化チタン層上に分散していることがわかる。
【0057】
一方、図14及び図15に示すように、比較例2による酸化チタン薄膜は、酸化チタンの微粒子があまり分散していないことがわかる。特に、図15に示すように、液滴の縁側に対応する領域では、液滴の縁側に酸化チタンの微粒子が集まるため、酸化チタンの微粒子が縁側に沿った線状に残ることがわかる。
【0058】
第2実験により、本発明による酸化チタン薄膜の製造方法により酸化チタンの微粒子を略均等に分散させることが可能なことがわかったが、分散により酸化チタンの微粒子の密度が低いことがわかった。
【0059】
(第3実験)
次に、塗布工程及び乾燥工程を複数回繰り返すことによって、第2実験により判明した酸化チタン薄膜内での酸化チタンの微粒子の低密度を改善するために行った第3実験について説明する。
【0060】
(実施例7)
実施例7では、実施例6と同様に微粒子作製工程と照射工程とを行った後、塗布工程において、約5μlの体積の酸化チタン水溶液を酸化チタン層上にマイクロピペットを用いて滴下して、塗布する。次に、乾燥工程において、室温で酸化チタン水溶液の水分(溶媒)を蒸発させて乾燥させることにより酸化チタン層上にアナターゼ型の酸化チタン薄膜を形成した。その後、塗布工程と乾燥工程とを交互に繰り返し行った。尚、塗布工程及び乾燥工程は、それぞれ合計5回ずつ行いアナターゼ型の酸化チタン薄膜を形成した。
【0061】
実施例7における酸化チタン薄膜のFE−SEM像を、図16(500倍)及び図17(2500倍)に示す。また、実施例7における2回目の塗布工程での酸化チタン水溶液の液滴の状態を図20に示す。
【0062】
(実施例8)
実施例8では、実施例6と同様に微粒子作製工程と照射工程とを行った後、塗布工程において、約5μlの体積の酸化チタン水溶液を酸化チタン層上にマイクロピペットを用いて滴下する。次に、乾燥工程において、室温で酸化チタン水溶液の水分(溶媒)を蒸発させて乾燥させることにより酸化チタン層上にアナターゼ型の酸化チタン薄膜を形成した。その後、塗布工程と乾燥工程とを交互に繰り返し行った。尚、塗布工程及び乾燥工程は、それぞれ合計10回ずつ行いアナターゼ型の酸化チタン薄膜を形成した。
【0063】
実施例8における酸化チタン薄膜のFE−SEM像を、図18(500倍)及び図19(2500倍)に示す。
【0064】
図16及び図17に示すように、実施例7による酸化チタン薄膜では、酸化チタンの微粒子を略均等に分散させつつ、酸化チタンの微粒子の密度を大幅に向上させていることがわかる。また、図18及び図19に示すように、実施例8による酸化チタン薄膜でも、酸化チタンの微粒子を略均等に分散させつつ、酸化チタンの微粒子の密度を大幅に向上させていることがわかる。
【0065】
また、図20に示すように、1回目の乾燥工程と2回目の塗布工程との間には、照射工程(紫外線照射)を行っていないにも関わらず、1回目の乾燥工程で形成された酸化チタン薄膜が酸化チタン水溶液中の水により親水基を含み、一定の親水性を有するため、2回目の塗布工程において滴下された酸化チタン水溶液の液滴が、比較例1などに比べて、広がっていることがわかる。このことより、2回目以降の塗布工程では、紫外線を照射しなくても、酸化チタンの微粒子を分散可能なことがわかる。
【0066】
上述したように本発明による酸化チタン薄膜の製造方法では、乾燥工程において、常温で乾燥させることによって酸化チタン薄膜を形成することができるので、熱可塑性樹脂のような高温で変形する樹脂基板上でも酸化チタン薄膜を形成することができる。
【0067】
また、酸化チタン層に紫外線を照射し、酸化チタン層が親水性を有する状態で酸化チタン水溶液を滴下するので、酸化チタン水溶液が酸化チタン層の表面で広がりやすい。これにより、酸化チタン水溶液中の酸化チタンの微粒子を酸化チタン層の表面で略均一に分散させることができる。このように酸化チタンの微粒子を分散させることにより、酸化チタン薄膜が形成された面において光を略均一に透過させることができる。
【0068】
また、アナターゼ型の酸化チタンの微粒子を用いることによって、光触媒作用の強い酸化チタン薄膜を形成することができる。
【0069】
また、容易に入手可能なルチル型の酸化チタン層上に酸化チタン薄膜を用いることによって、より容易に酸化チタン薄膜を形成することができる。
【0070】
また、塗布工程及び乾燥工程を複数回繰り返すことによって、酸化チタンの微粒子の密度を高めることができる。更に、2回目以降の塗布工程では、既に形成されている酸化チタン薄膜が一定の親水性を有するので、紫外線を照射しなくても容易に酸化チタン水溶液を広げることができ、酸化チタンの微粒子を分散することができる。
【0071】
以上、実施形態を用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載及び特許請求の範囲の記載と均等の範囲により決定されるものである。以下、上記実施形態を一部変更した変更形態について説明する。
【0072】
例えば、微粒子作製工程における液相レーザーアブレーションの時間やフルーエンスなどの各パラメータは適宜変更可能である。また、微粒子作製工程を液相レーザーアブレーション以外の方法により行い、酸化チタンの微粒子を作製してもよい。微粒子作製工程で用いる原料は酸化チタンに限定するものではなく、金属チタンでもよい。微粒子作製工程で作製する酸化チタンは、アナターゼ型の酸化チタンに限定されるものではなく、ルチル型やブルッカイト型の酸化チタンを作製してもよい。
【0073】
また、照射工程における光、時間及びランプの型などは適宜変更可能である。例えば、照射工程における光は紫外線に限定されるものではなく、酸化チタン層が親水性を有すれば青色よりも波長の短い光(波長が約400nm以下の光)でもよい。また、照射工程における紫外線(または光)の照射時間は、特に限定されるものではなく、酸化チタン層が所望の親水性を有すればよく、紫外線の強度などにより適宜変更可能である。紫外線を照射する酸化チタン層はルチル型に限定するものではなく、アナターゼ型の酸化チタン層を用いてもよい。更に、照射工程は、酸化チタン水溶液を酸化チタン層に滴下した後に行ってもよい。
【0074】
また、塗布工程における塗布方法や滴下量などは適宜変更可能である。例えば、塗布工程において、酸化チタン水溶液をスプレーコート法などにより酸化チタン層上に塗布してもよい。更に、塗布工程における酸化チタン水溶液は、蒸留水と酸化チタンの微粒子以外のアンモニア、硝酸及び硫酸などを含むものであってもよい。
【0075】
また、乾燥工程における温度は適宜変更可能であり、室温ではなく加熱(例えば、約40℃〜約50℃)してもよい。尚、乾燥工程において加熱する場合は、樹脂基板が変形しない温度で行うことが好ましい。
【0076】
また、上述した塗布工程及び乾燥工程を繰り返す工程は一例であり、所望の膜厚などにより適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本実施形態による樹脂製品の断面図である。
【図2】酸化チタン薄膜の製造工程図である。
【図3】酸化チタン薄膜の製造工程を説明するための概略図である。
【図4】酸化チタン薄膜の製造工程を説明するための概略図である。
【図5】酸化チタン薄膜の製造工程を説明するための概略図である。
【図6】親水性を調べるために行った第1実験における実施例1の写真である。
【図7】親水性を調べるために行った第1実験における実施例2の写真である。
【図8】親水性を調べるために行った第1実験における実施例3の写真である。
【図9】親水性を調べるために行った第1実験における実施例4の写真である。
【図10】親水性を調べるために行った第1実験における実施例5の写真である。
【図11】親水性を調べるために行った第1実験における比較例1の写真である。
【図12】酸化チタン薄膜の形成状態を調べるために行った第2実験における実施例6のFE−SEM像である。
【図13】酸化チタン薄膜の形成状態を調べるために行った第2実験における実施例6のFE−SEM像である。
【図14】酸化チタン薄膜の形成状態を調べるために行った第2実験における比較例2のFE−SEM像である。
【図15】酸化チタン薄膜の形成状態を調べるために行った第2実験における比較例2のFE−SEM像である。
【図16】酸化チタンの微粒子の低密度を改善するために行った第3実験における実施例7のFE−SEM像である。
【図17】酸化チタンの微粒子の低密度を改善するために行った第3実験における実施例7のFE−SEM像である。
【図18】酸化チタンの微粒子の低密度を改善するために行った第3実験における実施例8のFE−SEM像である。
【図19】酸化チタンの微粒子の低密度を改善するために行った第3実験における実施例8のFE−SEM像である。
【図20】第3実験における実施例7の2回目の滴下状態を示す写真である。
【図21】接触角を説明するための図である。
【符号の説明】
【0078】
1 樹脂製品
2 樹脂基板
3 酸化チタン層
4 酸化チタン薄膜
4a 酸化チタン水溶液
4b 酸化チタン単結晶
11 制御装置
12 レーザー
13 反射鏡
14 集光レンズ
21 ランプ
22 集光レンズ
23 載置台
31 マイクロピペット
32 カメラ
32 スコープカメラ
33 画像処理装置
レーザー光
紫外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン層に青色よりも波長の短い光を照射する照射工程と、
前記酸化チタン層上に酸化チタンの微粒子及び水を含む酸化チタン水溶液を塗布する塗布工程と、
前記酸化チタン水溶液の溶媒を蒸発させて乾燥する乾燥工程とを備えたことを特徴とする酸化チタン薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記照射工程では、所望の親水性を有するように酸化チタン層に前記光を照射することを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記照射工程では、前記酸化チタン水溶液の接触角が12°以下となるように前記光を照射することを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の酸化チタン薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記照射工程では、前記酸化チタン層の表面に照射される前記光の単位面積当たりの合計エネルギーが、2800J/cm以上となることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化チタン薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記照射工程では、紫外線を照射することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化チタン薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記酸化チタンの微粒子は、アナターゼ型の酸化チタンを主成分とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸化チタン薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記酸化チタン層は、ルチル型の酸化チタンを主成分とすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸化チタン薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記塗布工程と前記乾燥工程とを複数回繰り返し行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の酸化チタン薄膜の製造方法。
【請求項9】
熱可塑性樹脂からなる樹脂部材と、
前記樹脂部材の表面に形成された酸化チタン層と、
前記酸化チタン層上に形成された酸化チタン薄膜とを備えたことを特徴とする酸化チタン薄膜を有する樹脂製品。
【請求項10】
前記酸化チタン薄膜は、アナターゼ型の酸化チタンを主成分とすることを特徴とする請求項9に記載の酸化チタン薄膜を有する樹脂製品。
【請求項11】
前記酸化チタン層は、ルチル型の酸化チタンを主成分とすることを特徴とする請求項9または10のいずれか1項に記載の酸化チタン薄膜を有する樹脂製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2008−260667(P2008−260667A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106277(P2007−106277)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】