説明

酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法

【課題】汚染土壌中の重金属の溶出低減剤として用いられる各種の酸化マグネシウムの重金属不溶化性能を、汚染土壌を用いずに簡易にかつ短時間で評価することのできる方法を提供する。
【解決手段】(A)6価クロム含有化合物と酸化マグネシウムを、水を溶媒として混合して撹拌し、スラリーを得る工程と、(B)得られたスラリーを固液分離して、6価クロム含有化合物の一部に由来する6価クロムイオンを含む液分、及び、6価クロム含有化合物の残部に由来する6価クロムと酸化マグネシウムに由来する水酸化マグネシウムとを含む固体分を得る工程と、(C)得られた液分中の6価クロムイオン濃度を測定して、酸化マグネシウムの重金属不溶化性能を評価する工程を含む、酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌に含まれている鉛、カドミウム、6価クロム等の重金属を不溶化するために用いられる酸化マグネシウムの当該重金属不溶化性能を評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化マグネシウムを土壌固化剤や重金属溶出低減剤の材料として用いることは、従来から知られている。
例えば、酸化マグネシウムおよび/または硫酸マグネシウム、または、酸化マグネシウムおよび/または硫酸マグネシウム含有物からなる土壌固化剤が提案されている(特許文献1)。
また、所定深度の重金属等によって汚染されている汚染土壌を泥土状となし、前記泥土状汚染土壌中に、所定の水と所定量の酸化マグネシウムを混合した酸化マグネシウムを主成分とする土壌固化剤を注入して、該固化剤と前記土壌とを混合せしめ、注入した前記固化剤の酸化マグネシウムが反応して前記土壌を固化して、前記重金属を隣接土壌への溶出を防止せしめることを特徴とする汚染土壌の重金属等溶出防止手段が、提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平10−316967号公報
【特許文献2】特開2002−206090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
酸化マグネシウムとしては、一般に、炭酸マグネシウムや水酸化マグネシウムを焼成したものが用いられる。この場合、酸化マグネシウムの性状は、焼成温度、原料の種類、原料に含まれる不純物の種類及び量等によって変動する。
本発明者が焼成温度を変化させて種々の酸化マグネシウムを製造して得た知見によると、800〜1100℃の温度で焼成した場合であっても、得られる酸化マグシウムの中には、重金属不溶化性能に劣るものがある。そのため、重金属溶出低減剤としての酸化マグネシウムの品質の安定性を高めるためには、このような重金属不溶化性能に劣る酸化マグネシウムを見つけて、製品化前に排除する必要がある。その際、重金属不溶化性能を簡易にかつ短時間でしかも汚染土壌を実際に用いずに評価することができれば、好都合である。
この点、前記の特許文献1、2には、酸化マグネシウムを使用することは記載されているものの、重金属溶出低減等の性能の観点から、酸化マグネシウムの品質の良否を評価して選別することは、全く記載されていない。
そこで、本発明は、汚染土壌の固化及び汚染土壌中の重金属の溶出低減剤として用いられる各種の酸化マグネシウムの重金属不溶化性能を、汚染土壌を用いずに簡易にかつ短時間で評価することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、6価クロム含有化合物と酸化マグネシウムを、水を溶媒として混合して撹拌し、スラリーを得た後、このスラリーを固液分離して得られる液分中に存在する6価クロムイオン濃度を測定することによって、酸化マグネシウムに由来する水酸化マグネシウムと共に固体分を構成する不溶化した6価クロムを定量することができ、この不溶化した6価クロムの量が多いほど、酸化マグネシウムの重金属不溶化性能が高いと評価しうることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]を提供するものである。
[1] (A)6価クロム含有化合物と酸化マグネシウムを、水を溶媒として混合して撹拌し、スラリーを得る混合工程と、(B)得られたスラリーを固液分離して、上記6価クロム含有化合物の一部に由来する6価クロムイオンを含む液分、及び、上記6価クロム含有化合物の残部に由来する6価クロムと上記酸化マグネシウムに由来する水酸化マグネシウムとを含む固体分を得る固液分離工程と、(C)得られた液分中の6価クロムイオン濃度を測定して、上記酸化マグネシウムの重金属不溶化性能を評価する評価工程とを含むことを特徴とする酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法。
[2] 工程(A)における上記6価クロム含有化合物の量は、上記スラリーの溶媒である水1リットルに対して6価クロムの質量が0.75〜10mgとなる量である前記[1]に記載の酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法。
[3] 工程(A)における上記酸化マグネシウムの量は、上記スラリーの溶媒である水1リットルに対して3〜100gである前記[1]又は[2]に記載の酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法。
[4] 工程(A)における撹拌時間が、15分間以上である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法。
[5] 工程(A)のスラリーの塩素含有イオン濃度が、塩素原子に換算して0.03mg/リットル以下である前記[1]〜[4]のいずれかに記載の酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法。
[6] 工程(A)〜(C)に加えて、(D)工程(C)の評価結果に基いて、複数の種類の酸化マグネシウムの中から、重金属不溶化性能の高い酸化マグネシウムを選別する選別工程を含む前記[1]〜[5]のいずれかに記載の酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法。
[7] 工程(A)において、上記6価クロム含有化合物の量は、上記スラリーの溶媒である水1リットルに対して6価クロムの質量が1.0〜2.0mgとなる量であり、上記酸化マグネシウムの量は、上記スラリーの溶媒である水1リットルに対して10〜35gであり、撹拌時間は15〜20分間であり、かつ、工程(D)において、上記6価クロム含有化合物中の6価クロムの全量の35質量%以上が上記固体分として回収されたことが判明した酸化マグネシウムを選別する前記[6]に記載の酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明の酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法によれば、簡易にかつ短時間(例えば、1時間以内)で酸化マグネシウムの重金属不溶化性能を高精度で評価することができる。特に、工程(A)において、スラリーの溶媒である水1リットル当たりの6価クロムの質量が1.0〜2.0mgとなるように6価クロム含有化合物の使用量を定め、かつ、スラリーの溶媒である水1リットル当たり10〜35gとなるように酸化マグネシウムの使用量を定めれば、市販の簡易測定装置(例えば、共立理化学研究所製の「デジタルパックテスト」)を用いることによって、10分間以内で工程(C)(評価工程)を行なうことができ、この場合、工程(A)〜工程(C)の全体の所要時間を例えば、30分間以内に短縮することができる。
また、本発明の評価方法によれば、汚染土壌を用意しなくても、微量の6価クロム含有化合物を用意するだけで、酸化マグネシウムの重金属不溶化性能を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法は、(A)6価クロム含有化合物と酸化マグネシウムを、水を溶媒として混合して撹拌し、スラリーを得る混合工程と、(B)得られたスラリーを固液分離して、上記6価クロム含有化合物の一部に由来する6価クロムイオンを含む液分、及び、上記6価クロム含有化合物の残部に由来する6価クロムと上記酸化マグネシウムに由来する水酸化マグネシウムとを含む固体分を得る固液分離工程と、(C)得られた液分中の6価クロムイオン濃度を測定して、上記酸化マグネシウムの重金属不溶化性能を評価する評価工程とを含む。
以下、工程(A)〜工程(C)について詳述する。
【0007】
[工程(A);混合工程]
工程(A)は、6価クロム含有化合物と酸化マグネシウムを、水を溶媒として混合して撹拌し、スラリーを得る工程である。
6価クロム含有化合物は、水中で6価クロムを含むイオン(例えば、クロム酸(CrO42-)、二クロム酸(Cr272-)など)を供給し得る水溶性のものであればよい。また、6価クロム含有化合物として、本発明の効果に影響を及ぼさない他の物質との混合物を用いてもよい。6価クロム含有化合物の形態は、液体と固体のいずれでもよい。
6価クロム含有化合物の例としては、二クロム酸ナトリウム二水和物、二クロム酸ピリジニウム、フルオロクロム酸ピリジニウム、ポリ(二クロム酸4−ビニルピリジニウム)、無水クロム酸、クロム標準液(Cr−1000)、クロム標準液(Cr−100)、クロム酸亜鉛、クロム酸アンモニウム、クロム酸カリウム、クロム酸ナトリウム四水和物、クロム酸鉛(II)、クロム酸バリウム、クロムヘキサカルボニル、クロロクロム酸2,2’−ビピリジル、クロロクロム酸ピリジニウム、ジオキシ塩化クロム、チトリゾールクロム標準溶液、二クロム酸アンモニウム、二クロム酸イミダゾリウム、二クロム酸カリウム等が挙げられる。
【0008】
6価クロム含有化合物の量は、スラリーの溶媒である水1リットルに対して、6価クロムの質量が好ましくは0.75〜10mg、より好ましくは0.9〜5mg、特に好ましくは1.0〜2.0mgとなる量である。該値が0.75mg未満では、酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の優劣にかかわらず、工程(C)における6価クロムイオン濃度の測定値が小さくなり、酸化マグネシウムの評価が困難な場合がある。該値が10mgを超えると、6価クロム含有廃棄物の量が多くなり、廃棄物の処理の負担が増大する。
【0009】
酸化マグネシウムは、例えば、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等のマグネシウム含有化合物を焼成することによって得ることができる。焼成温度は、好ましくは750〜950℃、より好ましくは800〜900℃である。焼成温度が750℃未満では、焼成時間が長くなり、酸化マグネシウムの製造効率が低下する。焼成温度が950℃を超えると、重金属不溶化性能が低下する傾向がある。
酸化マグネシウムの量は、スラリーの溶媒である水1リットルに対して、好ましくは3〜100g、より好ましくは5〜100g、さらに好ましくは7〜50g、特に好ましくは10〜35gとなる量である。該量が3g未満では、酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の優劣にかかわらず、工程(C)における6価クロムイオン濃度の測定値が小さ過ぎて、酸化マグネシウムの評価が困難な場合がある。該量が100gを超えると、酸化マグネシウムの評価の精度が低下することがある。
本発明の評価対象物である酸化マグネシウムとしては、本発明の効果に影響を及ぼさない限りにおいて、他の物質との混合物を用いてもよい。他の物質としては、ゼオライト、珪藻土、白土、ベントナイト、乾燥粘土、炭酸カルシウム、珪石粉末、石膏等が挙げられる。他の物質の割合は、酸化マグネシウムとの合計量中、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
なお、本発明の効果に影響を及ぼしうる他の物質としては、例えば、6価クロムを3価クロムに還元する物質(還元剤;例えば、硫酸鉄(II)、硫化カルシウム等)が挙げられる。
【0010】
工程(A)におけるスラリーの塩素イオン濃度は、本発明の評価方法の評価の精度を高める観点から、好ましくは0.03mg/リットル以下である。なお、本明細書中、塩素イオン濃度とは、塩化物イオン(Cl-)等の塩素含有イオンの塩素原子(Cl)に換算した濃度をいう。
スラリーの塩素イオン濃度を前記の好ましい数値範囲内とするためには、工程(A)で用いる水として、蒸留水またはイオン交換水を用いればよい。水道水を用いた場合、通常、スラリー中の塩素イオン濃度は、0.03mg/リットルを超える。
工程(A)で用いる水の電気伝導度は、本発明の評価方法の評価の精度を高める観点から、好ましくは0.5μs/cm以下である。
6価クロム含有化合物と酸化マグネシウムを、水を溶媒として混合し撹拌する方法としては、例えば、6価クロム含有化合物と水を混合してなる水溶液と、酸化マグネシウムを混合して撹拌する方法が挙げられる。
撹拌時間の下限値は、好ましくは15分間以上である。該値が15分間未満では、酸化マグネシウムの評価の精度が低下することがある。
撹拌時間の上限値は、特に限定されないが、本発明の評価方法の効率性の観点から、好ましくは2時間以内、より好ましくは1時間以内、さらに好ましくは30分間以内、特に好ましくは20分間以内である。
【0011】
[工程(B);固液分離工程]
工程(B)は、得られたスラリーを固液分離して、6価クロム含有化合物の一部に由来する6価クロムイオンを含む液分、及び、6価クロム含有化合物の残部に由来する6価クロムと酸化マグネシウムに由来する水酸化マグネシウムとを含む固体分を得る工程である。
固液分離の方法としては、濾過、遠心分離等が挙げられる。
固液分離手段としては、先端にフィルター(濾過手段)を装着した注射器や、減圧濾過装置や、遠心分離装置等が挙げられる。
【0012】
[工程(C);評価工程]
工程(C)は、工程(B)で得られた液分中の6価クロムイオン濃度を測定して、酸化マグネシウムの重金属不溶化性能を評価する工程である。
6価クロムイオン濃度とは、6価クロムを含むイオン(例えば、二クロム酸イオン)のクロム原子(Cr)に換算した濃度をいう。
本発明では、工程(A)で酸化マグネシウムを用いずに6価クロム含有化合物のみを水中に溶解させたと仮定した場合の液分中の6価クロムイオン濃度を基準値とした場合、この基準値に対する6価クロムイオン濃度の低下の程度が、酸化マグネシウムの重金属不溶化性能と高い相関性があるものとして、酸化マグネシウムの重金属不溶化性能を評価するものである。なお、酸化マグネシウムに関し、6価クロムに対する不溶化性能が高い場合、鉛、カドミウム等の重金属に対しても不溶化性能が高いことが、本発明者の実験によって確認されている。つまり、6価クロムに対する不溶化性能と、他の重金属に対する不溶化性能とは、高い相関関係がある。本発明では、この知見に基き、6価クロムに対する不溶化性能の評価を、重金属に対する不溶化性能の評価に置き換えるものである。
本発明の評価方法を用いずに酸化マグネシウムの重金属不溶化性能を評価するためには、酸化マグネシウムと汚染土壌を混合して、所定期間(例えば、28日)経過後に6価クロム等の重金属の溶出量の定量試験を行って、酸化マグネシウムの重金属不溶化性能を評価する必要がある。この点、本発明の評価方法では、汚染土壌が不要であり、しかも、簡易かつ迅速に評価することができる。
【0013】
[工程(D);選別工程]
本発明の評価方法は、工程(A)〜(C)に加えて、(D)工程(C)の評価結果に基いて、複数の種類の酸化マグネシウムの中から、重金属不溶化性能の高い酸化マグネシウムを、重金属溶出低減剤等としての使用に適する酸化マグネシウムとして選別する選別工程、を含むことができる。
工程(D)を含む場合における本発明の評価方法の好適な一例として、以下の(a)〜(d)の条件をすべて満たすものが挙げられる。
(a)工程(A)における6価クロム含有化合物の量は、スラリーの溶媒である水1リットルに対して6価クロムの質量が1.0〜2.0mgとなる量である。
(b)工程(A)における酸化マグネシウムの量は、スラリーの溶媒である水1リットルに対して10〜35gである。
(c)工程(A)における撹拌時間は、15〜20分間である。
(d)工程(D)は、6価クロム含有化合物中の6価クロムの全量の35質量%以上が固体分として回収されたことが判明した酸化マグネシウムを選別するものである。
重金属溶出低減剤は、酸化マグネシウム以外に他の物質(例えば、ゼオライト、珪藻土、白土、ベントナイト、乾燥粘土、炭酸カルシウム、珪石粉末、石膏等)を含むことができる。この場合、選別した酸化マグネシウムと、他の物質を混合して、重金属溶出低減剤を調製する。
重金属溶出低減剤の添加量は、汚染土壌に含まれている重金属の種類、量等によっても異なるが、通常、汚染土壌1mに対して、好ましくは10kg以上、より好ましくは50kg以上である。添加量の上限は、特に限定されないが、通常、汚染土壌1mに対して300kgである。
【実施例】
【0014】
[実施例1〜6]
(1)評価対象物である酸化マグネシウムの調製
マグネサイト原石を800〜1100℃程度で4時間加熱して、各種の酸化マグネシウム(以下、「軽焼マグネシアA」〜「軽焼マグネシアF」という。)を得た。
蒸留水1リットルに、二クロム酸カリウム(K2Cr27)0.04243gを溶解させて、6価クロム(Cr)の濃度が15.0mg/リットルである溶液を調製した後、この溶液を蒸留水で10倍に希釈して、6価クロムの濃度が1.5mg/リットルである6価クロム含有溶液(表1中の「Cr(1)」)を調製した。
次いで、この6価クロム含有溶液100ミリリットルを振とう器に投入した後、この振とう器に、表1に示す種類のMgO(軽焼マグネシア)を1g投入し、振とうした。なお、表1中の「MgOの種類」の欄の「A」〜「F」は、各々、「軽焼マグネシアA」〜「軽焼マグネシアF」を意味する。
振とうは、15分間、200回/分の条件、または、60分間、200回/分の条件で行なった。
振とう後、得られたスラリーから、先端にメンブレンフィルター(目開き寸法:0.45μm)を装着した注射器を用いて液分10ミリリットルを吸引して、この液分中の6価クロムイオン濃度(mg/リットル)を測定した。結果を表1に「重金属等の溶出量(mg/L)」として示す。
15分間の振とう後の液分の6価クロムイオン濃度が、1.0mg/リットル未満である場合を、酸化マグネシウムの重金属不溶化性能が良好(表1中、「○」)であるとし、該6価クロムイオン濃度が、1.0mg/リットル以上である場合を、酸化マグネシウムの重金属不溶化性能が不良(表1中、「×」)であるとして、酸化マグネシウムを評価した。評価結果を表1に「簡易評価方法でのMgOの評価結果」として示す。
一方、6価クロムを7.5mg/kgの濃度で含む汚染土壌に対して、汚染土壌1m3当たり100kgの量となるように前記の「軽焼マグネシアA」〜「軽焼マグネシアF」のいずれかを添加し、かつ、含水比が142%になるように水分量を調整して混合し、放置した。なお、含水比とは、(水の質量/汚染土壌の乾燥質量)×100を意味する。
混合から7日後に、環境省告示第46号法に準じて、6価クロムの溶出試験を行なった。
結果を表1中に「汚染土壌実験での重金属等の溶出量(mg/L)」として示す。なお、軽焼マグネシアを添加しない場合の当該6価クロムイオン濃度を測定したところ、0.98mg/リットルであった。
6価クロムイオン濃度が0.40mg/リットル未満である場合を、酸化マグネシウムの重金属不溶化性能が良好(表1中、「○」)であるとし、6価クロムイオン濃度が、0.40mg/リットル以上である場合を、酸化マグネシウムの重金属不溶化性能が不良(表1中、「×」)であるとして、酸化マグネシウムを評価した。評価結果を表1に「汚染土壌実験でのMgOの評価結果」として示す。
表1中の実施例1〜6から、本発明の簡易評価方法による軽焼マグネシアの評価結果は、汚染土壌を用いて実際に軽焼マグネシア(MgO)の重金属不溶化性能を調べた結果と一致していることがわかる。
【0015】
[実施例7]
二クロム酸カリウム(K2Cr27)に代えてクロム酸(CrO3)を用いて、6価クロムの濃度が1.5mg/リットルである6価クロム含有溶液(表1中の「Cr(2)」)を調製したこと以外は、実施例1と同様にして実験した。その結果、表1に示すように、実施例1と同じ結果が得られた。
[実施例8]
二クロム酸カリウム(K2Cr27)に代えて、二クロム酸カリウム(K2Cr27)と硝酸との混合物である原子吸光用標準試薬を用いて、6価クロムの濃度が1.5mg/リットルである6価クロム含有溶液(表1中の「Cr(3)」;pH4.5)を調製したこと以外は、実施例1と同様にして実験した。その結果、表1に示すように、実施例1と同じ結果が得られた。
なお、水酸化ナトリウムを用いて6価クロム含有溶液のpHを4.5から7.2または9.8に変えた各場合についても、前記と同様にして実験した。その結果、pHの変化による有意な差は見られなかった。
実施例7、8の結果から、6価クロム含有化合物の種類や、溶媒のpHを変えても、本発明の評価結果は変わらないことがわかる。
【0016】
[比較例1、2]
二クロム酸カリウムに代えて硝酸鉛(PbNO3)を用い、鉛(Pb)の濃度が1.5mg/リットルである鉛含有溶液を調製したこと以外は、実施例1、6と同様にして実験した。その結果、15分間と60分間のいずれの撹拌後も、液分中に鉛は検出されなかった。
[比較例3、4]
二クロム酸カリウムに代えて塩化カドミウム(CdCl2)を用い、カドミウム(Cd)の濃度が1.5mg/リットルであるカドミウム含有溶液を調製したこと以外は、実施例1、6と同様にして実験した。その結果、15分間と60分間のいずれの撹拌後も、液分中にカドミウムは検出されなかった。
[比較例5、6]
二クロム酸カリウムに代えて亜砒酸ナトリウム(NaAsO2)を用い、砒素(As)の濃度が1.5mg/リットルである砒素含有溶液を調製したこと以外は、実施例1、6と同様にして実験した。その結果、15分間と60分間のいずれの撹拌後も、液分中に砒素は検出されなかった。なお、砒素は、重金属ではないが、汚染土壌中にしばしば含まれる有害物質である。
[比較例7、8]
二クロム酸カリウムに代えてフッ化カリウム(KF)を用い、フッ素(F)の濃度が1.5mg/リットルであるフッ素含有溶液を調製したこと以外は、実施例1、6と同様にして実験した。なお、フッ素も重金属ではないが、汚染土壌中にしばしば含まれる有害物質である。その結果、液分中のフッ素濃度は、15分間と60分間のいずれの撹拌後も、軽焼マグネシアAよりも軽焼マグネシアFの方が小さくなり、汚染土壌を用いて実際に軽焼マグネシアの重金属不溶化性能を調べた結果とは逆の結果となった。
[比較例9、10]
二クロム酸カリウムに代えて四ホウ酸ナトリウム(Na247・10H2O)を用い、ホウ素(B)の濃度が1.5mg/リットルであるホウ素含有溶液を調製したこと以外は、実施例1、6と同様にして実験した。なお、ホウ素も重金属ではないが、汚染土壌中にしばしば含まれる有害物質である。その結果、液分中のホウ素濃度は、15分間と60分間のいずれの撹拌後も、軽焼マグネシアAと軽焼マグネシアFとで同じであった。
比較例1〜10の結果から、6価クロム以外の重金属等を用いた場合、酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の優劣を評価できないことがわかる。
【0017】
【表1】

【0018】
[実施例9〜43]
実施例1〜8で用いた軽焼マグネシアとは異なる種類の軽焼マグネシア(以下、「軽焼マグネシアG」という。)を用いて、水1リットル当たり表2に示す量の6価クロム及び酸化マグネシウムを含むスラリーを調製し、かつ、表2に示す振とう時間としたこと以外は、実施例1と同様にして実験した。なお、実施例22における水1リットル当たりの6価クロム量及び酸化マグネシウム量は、実施例1〜8と同じである。
実施例22において、振とう時間が15分間である場合、液分中の6価クロムの溶出量は、1.06mg/リットルであった。この値は、実施例6(軽焼マグネシアFを用いた実験例)と同じである。したがって、実施例9〜43で用いた軽焼マグネシアGの重金属不溶化性能の評価結果は、「×」(不良)である。
実施例9〜43において、液分中の6価クロムの溶出量の測定値に基いて算出した、不溶化した6価クロムの質量割合を、表2に示す。
【0019】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)6価クロム含有化合物と酸化マグネシウムを、水を溶媒として混合して撹拌し、スラリーを得る混合工程と、
(B)得られたスラリーを固液分離して、上記6価クロム含有化合物の一部に由来する6価クロムイオンを含む液分、及び、上記6価クロム含有化合物の残部に由来する6価クロムと上記酸化マグネシウムに由来する水酸化マグネシウムとを含む固体分を得る固液分離工程と、
(C)得られた液分中の6価クロムイオン濃度を測定して、上記酸化マグネシウムの重金属不溶化性能を評価する評価工程と
を含むことを特徴とする酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法。
【請求項2】
工程(A)における上記6価クロム含有化合物の量は、上記スラリーの溶媒である水1リットルに対して6価クロムの質量が0.75〜10mgとなる量である請求項1に記載の酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法。
【請求項3】
工程(A)における上記酸化マグネシウムの量は、上記スラリーの溶媒である水1リットルに対して3〜100gである請求項1又は2に記載の酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法。
【請求項4】
工程(A)における撹拌時間が、15分間以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法。
【請求項5】
工程(A)のスラリーの塩素含有イオン濃度が、塩素原子に換算して、0.03mg/リットル以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法。
【請求項6】
工程(A)〜(C)に加えて、(D)工程(C)の評価結果に基いて、複数の種類の酸化マグネシウムの中から、重金属不溶化性能の高い酸化マグネシウムを選別する選別工程を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法。
【請求項7】
工程(A)において、上記6価クロム含有化合物の量は、上記スラリーの溶媒である水1リットルに対して6価クロムの質量が1.0〜2.0mgとなる量であり、上記酸化マグネシウムの量は、上記スラリーの溶媒である水1リットルに対して10〜35gであり、撹拌時間は15〜20分間であり、かつ、工程(D)において、上記6価クロム含有化合物中の6価クロムの全量の35質量%以上が上記固体分として回収されたことが判明した酸化マグネシウムを選別するものである請求項6に記載の酸化マグネシウムの重金属不溶化性能の評価方法。

【公開番号】特開2010−5488(P2010−5488A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164020(P2008−164020)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】