説明

酸化ルテニウムの成膜方法

【目的】 高純度なDPMのRu錯体(Ru(DPM)3)を用いて高特性のRuO2膜を安定して成膜できるCVD法プロセスの提供を目的としている。
【構成】 ジピバロイルメタネートルテニウムを原料とし、化学気相析出法により酸化ルテニウムを基材上に成膜することを特徴とする酸化ルテニウムの成膜方法である。
【効果】 本発明によれば、酸化物膜の成膜法として好適なCVD法によって、電極などとして優れた特性を有する酸化ルテニウム膜を安定して成膜することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は基材上に膜状ないし層状の酸化ルテニウムを化学気相析出法(以下、CVD法と略記する)によって成膜する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、集積回路素子の高集積化が進むなかで、64Mビット以降の次世代VLSIでは、従来の酸化ケイ素(SiO2)を用いたキャパシタに代えて、高誘電率で分極反転特性を有するPZT(Pb(Zr,Ti)O3)系強誘電体薄膜をDRAMキャパシタや不揮発メモリに応用する研究が内外で活発になっている。この不揮発性メモリにおいて、データの書き換えを繰り返すと膜が劣化することを、膜の疲労と呼んでいる。この疲労を抑制するためには、強誘電体材料そのものの面からの改良は勿論のこと、この膜の両面に接触する電極材料の面からの研究も最近さかんに行われている。従来、電極としてはPZTの高温反応性が強いため、もっぱら白金(Pt)が用いられてきた。これに対して酸化ルテニウム(RuO2)は導電性がよく(比抵抗値:30〜100μΩcm)、熱安定性や不純物拡散バリヤー性を有するため、Ptに代る電極材料として注目されている。最近の研究報告では、RuO2をFRAMの電極として使用すると、PZTの分極反転による膜疲労に対して、Pt電極よりも抑制効果が優れており、寿命性能が格段に向上するという。このことは例えば、L.Krsin-Elbaumら(J.Electrochem. Soc. 135巻,2610頁(1988))や、E.Kolawaら(Thim. Solid Films 173巻,217頁(1989))などで知られており、さらに、1992年3月9〜11日、米国のカリフォルニアで開催された第4回強誘電体集積化シンポジウム(International Symposium on Integrated Ferroelectrics;ISIF)でもRuO2薄膜電極の膜の疲労防止効果について議論された。上記の報告などでは、RuO2電極を成膜する方法として、Ruの有機化合物を用いたCVD法では、カーボンの汚染や電導性など、満足な電極が得られないとして、スパッタ法を採用している。
【0003】一般に、RuO2は、酸素欠損型の非化学量論化合物RuOx(x<2)となり易いことが知られている。実際にスパッタ法では、10-2Torr程度の減圧下で行われるため、酸素ガス圧の上限に制約があり、前記の非化学量論化合物が生成され、金属Ruや低級酸化物相も混在し易く、電気抵抗値も大きく変動する。また、スパッタ法は、段差被覆性がないため、集積回路素子の製造において、工程数の増加と歩留りの低下を招き易いという欠点もある。一方、CVD法は成膜速度が大きく、組成制御性や段差被覆性に優れ、酸素ガス圧を大きくすることが可能であり、酸化物膜の成膜法としては理想的である。Ptの場合は高価でもあり、今のところCVD法用のPt化合物がないため、CVD法は採用し難いが、RuO2でCVD法による成膜が採用できれば、PZT膜と一体化したCVD法によるFRAMメモリの製作技術の飛躍的進歩が期待される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述した従来の報告では、CVD法によるRuO2成膜用の原料化合物として、Ru(C5723,Ru(C552,Ru(CO)12などの化合物が試みられた。しかしながら、Ru(C5723やRu(CO)12を用いた場合、金属Ruや低級酸化物が混在し、電気抵抗が大きくなってしまう。またRu(C552を用いた場合、比抵抗値が約90μΩcmのものが得られたが、実用に供する成膜は得られていない。いずれにしても、上記の有機化合物は、蒸気圧が低く、CVDプロセス中で変質して長時間安定して使用できず、CVD法によるRuO2成膜法として成功していない。
【0005】そこで本発明者らは、蒸気圧や反応性などを考慮して、β−ジケトン(R1-CO-CH2-CO-R2)に着目し、そのβ−ジケトンの中からジピバロイルメタン(DPM)について、そのRu錯体を原料として検討した。このDPMを含めてβ−ジケトンのRu錯体の合成法については、Endoらの報文(Inorg. Chimica Acta, 150巻,25-34頁(1988))がある。それによれば、塩化ルテニウムとβ−ジケトンとをメタノールと水の混合溶液中でアルカリ(例えばKHCO3)でpHを調整しつつ合成し、ヘキサンに抽出し、カラムクロマトグラフィで精製する。この方法の最大の欠点は実験室的なカラムクロマトグラフィによる精製工程を含むことである。またこの方法では充分な純度の錯体が得られていない。
【0006】本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高純度なDPMのRu錯体(Ru(DPM)3)を用いて高特性のRuO2膜を安定して成膜できるCVD法プロセスの提供を目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明の酸化ルテニウムの成膜方法は、ジピバロイルメタネートルテニウムを原料とし、CVD法により酸化ルテニウムを基材上に成膜することを特徴としている。また、上記方法において、塩化ルテニウムとジピバロイルメタンとをアルカリ性反応促進剤の存在下で反応させて合成したジピバロイルメタネートルテニウムを用いることが望ましい。
【0008】
【作用】本発明に用いるジピバロイルメタネートルテニウムとしては、後述の実施例にあるように、脱水した有機溶媒による無水雰囲気中で塩化ルテニウムとジピバロイルメタンとをアルカリ性反応促進剤の存在下で反応させて得られ、熱重量分析における純度が実質的に100%の高純度の錯体である。このような高純度のルテニウム錯体(Ru(DPM)3)を用いてCVD法を行い、基板等の基材表面に酸化ルテニウムを成膜することにより、比抵抗値が小さいRuO2膜を安定して成膜することができる。また、CVD法によって比抵抗値が小さい酸化ルテニウムを成膜できるので、膜による段差被覆性が良好となる。
【0009】
【実施例】■Ru(DPM)3の合成三塩化ルテニウム(RuCl33H2O)25gを脱水したエタノール2lに溶解し、これを三口フラスコに入れ、78℃で約5時間還流しながら加熱した。この間、溶液の色は褐色から深い緑色を経て青紫色に変化した。青紫色に変色した溶液を室温まで冷却し、ジピバロイルメタン(以下DPMと略記する)53gを加え、さらに78℃で1時間還流した。この溶液を室温まで冷却した後、KHCO3を10g加えて、さらに78℃で3時間還流した。この後、溶液を室温まで冷却し、その後ろ過を行った。このろ液をロータリーエバポレータで減圧乾燥した。得られた粗製品(Ru(DPM)3)をヘキサン300mlに溶解し、これをろ過した。得られたろ液をロータリーエバポレータで減圧乾燥し、エタノール200mlを加えて再結晶を行い、ろ過して得られた結晶を真空乾燥して、Ru(DPM)3 45g(収率72%)を得た。得られたRu(DPM)3の元素分析結果を表1に示すとともに、熱重量分析結果を図1に示す。図1に示す熱重量曲線(TG曲線)から明らかなように、得られたRu(DPM)3は熱重量的な純度であるキレート蒸発量が100%であった。
【0010】
【表1】


【0011】■RuO2の成膜図2に示すCVD装置を用いてRuO2膜を成膜した。図2において符号1は原料気化器(以下、気化器という)、2は反応室、3は基板保持台である。このCVD装置は気化器1に気化原料を入れ、加熱した気化器1内にArガス(キャリヤガス)と酸素ガスを導入し、これらのガスと気化原料のガスとを反応室2に導いて、加熱した基板保持台3上に置いた基板に接触させて成膜を行うようになっている。実際の成膜は、上記■において製造したRu(DPM)3を気化器1に入れ、その温度を125℃とし、この気化器1にArガスを100ml/min.供給し、ここに酸素ガスを200ml/min.混合して反応室2へ供給した。反応室2には電熱により360℃に加熱されたステンレス熱板(基板保持台3)の上に、シリコンないしMgOの基板を置き、上記原料混合ガスを供給して基板上でRu(DPM)3を熱分解してRuO2膜を析出させた。反応系のガス圧は5Torrで行った。この時、RuO2膜の析出速度は約150オンク゛ストローム/min.であった。
【0012】このようにして得られた膜の性状を調べた結果を次に示す。図3にこの膜のX線回折図を示した。この回折結果から、得られたRuO2膜はルチル型結晶構造を持つRuO2単一相の多結晶膜であった。また、基板にSi(100)および石英を用いたときは無配向であったが、MgO(100)を用いたときは(110)面に配向した多結晶膜が得られた。得られたRuO2膜は暗紫色を示し、膜厚は均一で、表面は極めて平滑であった。電子顕微鏡による表面観察では、500〜1000ンク゛ストロームの微結晶が緻密に配列していた。四探針法により膜の比抵抗値を測定した結果、50〜70μΩcmを得た。これはバルク結晶の文献値46μΩcmに近い値であり、しかも安定して得られた。
【0013】次に、RuO2膜とPZT膜の反応性を調べるために図4に示すように、シリコンないしMgOよりなる基板10上に、下部電極となる厚さ2000オンク゛ストローのRuO2膜11を上述した条件により成膜し、このRuO2膜11上に、既知のMOCVD法(有機金属化学気相析出法)により、基板温度650℃で膜厚0.35μmのPZT膜12を成膜し、さらにPZT膜12の上に、蒸着法によりAu膜13(上部電極)を成膜して積層体を作製した。
【0014】図5は、上記積層体におけるPZT膜12の分極−電界ヒステリシス曲線を示すものである。図5から明らかなように、このPZT膜のヒステリシス曲線の形状は良好な対称性を示し、残留分極値、抗電解値はPt電極を用いた場合と全く同様な値が得られた。この結果から、RuO2膜11上に650℃でPZT膜12を成膜した場合でも、RuO2とPZTとの間で反応が全く起こらないことが実証された。
【0015】これらの結果より、高純度のRu(DPM)3を原料としてCVD法により作製したRuO2膜は50〜70μΩcmの小さい比抵抗値と良好な段差被覆性とを有していることから、FRAM用電極などとしてPt電極よりも優れた電極材料として使用し得ることが明らかとなった。
【0016】
【発明の効果】以上説明したように、本発明では、熱重量分析における純度が実質的に100%であるような高純度のジピバロイルメタネートルテニウム(Ru(DPM)3)を用いてCVD法を行い、基板等の基材表面に酸化ルテニウムを成膜することにより、比抵抗値が小さいRuO2膜を安定して成膜することができる。また、CVD法によって比抵抗値が小さい酸化ルテニウムを成膜できるので、膜による段差被覆性が良好となる。従って、本発明によれば、酸化物膜の成膜法として好適なCVD法によって、電極などとして優れた特性を有する酸化ルテニウム膜を安定して成膜することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る実施例において作製したCVD気化原料(Ru(DPM)3)の熱重量曲線(TG曲線)を示すグラフである。
【図2】同じく実施例で用いたCVD装置を例示する概略構成図である。
【図3】同じく実施例で作製したRuO2膜(Si基板とMgO基板上)のX線回折結果を示すグラフである。
【図4】同じく実施例で作製したRuO2膜を有する積層体を示す概略側面図である。
【図5】同じく実施例で作製したRuO2膜を有する積層体で測定した分極−電界ヒステリシス曲線を示す図である。
【符号の説明】
1……原料気化器、2……反応室、3……基板保持部、10……基板、11……RuO2膜(下部電極)、12……PZT膜、13……Au膜(上部電極)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ジピバロイルメタネートルテニウムを原料とし、化学気相析出法により酸化ルテニウムを基材上に成膜することを特徴とする酸化ルテニウムの成膜方法。
【請求項2】 塩化ルテニウムとジピバロイルメタンとをアルカリ性反応促進剤の存在下で反応させて合成したジピバロイルメタネートルテニウムを用いることを特徴とする請求項1の酸化ルテニウムの成膜方法。

【図1】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図2】
image rotate


【公開番号】特開平6−283438
【公開日】平成6年(1994)10月7日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−68877
【出願日】平成5年(1993)3月26日
【出願人】(000231235)日本酸素株式会社 (642)
【出願人】(593059957)