説明

酸化亜鉛構造体、並びに酸化亜鉛粒子及びその製造方法

【課題】針状及び棒状のいずれかの形状を有する酸化亜鉛構造体、並びに酸化亜鉛粒子及びその製造方法の提供。
【解決手段】一定方位への規則的な結晶配向構造を有する、c軸方向に垂直であり、金属含有材料を含む結晶面を有する基板を酸化亜鉛が析出可能な反応溶液中に前記金属含有材料を含む結晶面が下向となるように基板を配置して浸漬させて該金属含有材料を含む結晶面に酸化亜鉛結晶を析出させ、前記金属含有材料を含む結晶面が、単結晶材料及びエピタキシャル結晶材料の少なくともいずれかから形成され、該結晶面を有する基板の面方位と同じ結晶面である酸化亜鉛構造体の製造方法により製造された酸化亜鉛構造体であって、アスペクト比が1以上であり、底面の半径が250nm〜450nmである酸化亜鉛結晶を基板上に有する酸化亜鉛構造体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックコンデンサー、アクチュエーター、光波長変換素子、レーザー発振素子、冷陰極素子等の電子材料や光材料、抗菌、防汚効果等を目的とする表面改質剤、気相及び液相の少なくともいずれかの相における触媒又はその担体等に有効な酸化亜鉛構造体、並びに酸化亜鉛粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基板上に金属酸化物膜を形成する装置としては、例えば、大気放出後に反応して金属酸化物を形成可能な金属化合物を加熱し、揮発ガス体として、該揮発ガス体をノズルから噴射して、基板表面に金属酸化物を蒸着させる大気開放型CVD(化学気相蒸着)装置が提案されている(特許文献1参照)。そして、この特許文献1に記載のCVD装置を用いて得られるウィスカー状ないし針状の金属酸化物構造体について提案されている(特許文献2参照)。また、非特許文献1では、窒化ガリウム(GaN)上に酸化亜鉛(ZnO)を電気化学的にヘテロエピタキシャル成長させることが報告されている。
このように大気圧下で、ウィスカー状ないしは針状の金属酸化物を基板上に形成した構造体が作製できることは公知である。
【0003】
しかし、これら従来技術の方法は、大規模な設備が必要で高コストであり、条件の制御が容易でなく、大面積の範囲に均一な大きさの針状及び棒状のいずれかの形状を有する金属酸化物構造体を効率よく、低コストに製造することは困難であり、更なる改良、開発が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−38671号公報
【特許文献2】特開2000−159599号公報
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.Vol.75,No.24,13 December 1999 p.3817−3819
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、針状及び棒状のいずれかの形状を有する金属酸化物構造体を効率よく製造することができる酸化亜鉛構造体、並びに酸化亜鉛粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 一定方位への規則的な結晶配向構造を有する、c軸方向に垂直であり、金属含有材料を含む結晶面を有する基板を酸化亜鉛が析出可能な反応溶液中に前記金属含有材料を含む結晶面が下向となるように基板を配置して浸漬させて該金属含有材料を含む結晶面に酸化亜鉛結晶を析出させ、前記金属含有材料を含む結晶面が、単結晶材料及びエピタキシャル結晶材料の少なくともいずれかから形成され、該結晶面を有する基板の面方位と同じ結晶面である酸化亜鉛構造体の製造方法により製造された酸化亜鉛構造体であって、
アスペクト比が1以上であり、底面の半径が250nm〜450nmである酸化亜鉛結晶を基板上に有することを特徴とする酸化亜鉛構造体である。
<2> 金属含有材料を含む結晶面を有する基板のa軸方向の格子定数をAとし、該結晶面に析出させる酸化亜鉛結晶のa軸方向の格子定数をAとしたとき、下記数式1で表されるミスフィット率が48%以下である前記<1>に記載の酸化亜鉛構造体である。
<数式1>
ミスフィット率(%)=[(A−A)/A]×100
<3> 金属含有材料を含む結晶面が、酸化亜鉛(ZnO)を含有する前記<1>から<2>のいずれかに記載の酸化亜鉛構造体である。
<4> 金属含有材料を含む結晶面が、サファイア(Al)を含有する前記<1>から<3>のいずれかに記載の酸化亜鉛構造体である。
<5> 金属含有材料を含む結晶面が、金属窒化物を含有する前記<1>から<4>のいずれかに記載の酸化亜鉛構造体である。
<6> 金属窒化物が、窒化ガリウム(GaN)である前記<5>に記載の酸化亜鉛構造体である。
<7> 窒化ガリウム(GaN)が、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)により形成された窒化ガリウムである前記<6>に記載の酸化亜鉛構造体である。
<8> 金属含有材料を含む結晶面に析出させる酸化亜鉛が、ウルツ鉱型結晶を有する前記<1>から<7>のいずれかに記載の酸化亜鉛構造体である。
<9> 反応溶液が、Zn及びその塩、並びにZnの水酸化物及びZnの水和物から選択される少なくとも1種を含有する前記<1>から<8>のいずれかに記載の酸化亜鉛構造体である。
<10> 反応溶液中に錯化剤を含有する前記<1>から<9>のいずれかに記載の酸化亜鉛構造体である。
<11> 酸化亜鉛結晶が、針状及び棒状のいずれかの形状を有する前記<1>から<10>のいずれかに記載の酸化亜鉛構造体である。
<12> 前記<1>から<11>のいずれかに記載の酸化亜鉛構造体を基板から分離させて酸化亜鉛粒子を製造することを特徴とする酸化亜鉛粒子の製造方法である。
<13> 分離が、基板上に析出した酸化亜鉛結晶を該酸化亜鉛結晶の根元から切断することによる前記<12>に記載の酸化亜鉛粒子の製造方法である。
<14> 分離が、酸化亜鉛結晶が析出した基板から該基板のみを溶解除去することによる前記<12>に記載の酸化亜鉛粒子の製造方法である。
<15> 前記<12>から<14>のいずれかに記載の酸化亜鉛粒子の製造方法により製造されたアスペクト比が1より大きいことを特徴とする酸化亜鉛粒子である。
<16> 酸化亜鉛粒子が、針状及び棒状のいずれかの形状を有する前記<15>に記載の酸化亜鉛粒子である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、針状及び棒状のいずれかの形状を有する酸化亜鉛構造体及び酸化亜鉛粒子を効率よく低コストで製造することができる。本発明の酸化亜鉛構造体及び酸化亜鉛粒子は、絶縁体、導電体、固体電解質、蛍光表示管、EL素子、セラミックコンデンサー、アクチュエーター、レーザー発振素子、冷陰極素子、強誘電体メモリー、圧電体、サーミスター、バリスタ、超伝導体、プリント基板等の電子材料、電磁波シールド材、光誘電体、光スイッチ、光センサー、太陽電池、光波長変換素子、光吸収フィルター等の光素子、温度センサー、ガスセンサー等のセンサー材料、表面修飾剤、表面保護剤、反射防止剤、抗菌、防汚効果等を目的とする表面改質剤、気相や液相やその両方の相における触媒やその担体等に幅広く用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(酸化亜鉛構造体、並びに酸化亜鉛粒子及び酸化亜鉛粒子の製造方法)
本発明の酸化亜鉛構造体は、一定方位への規則的な結晶配向構造を有する、c軸方向に垂直であり、金属含有材料を含む結晶面を有する基板を酸化亜鉛が析出可能な反応溶液中に前記金属含有材料を含む結晶面が下向となるように基板を配置して浸漬させて該金属含有材料を含む結晶面に酸化亜鉛結晶を析出させ、前記金属含有材料を含む結晶面が、単結晶材料及びエピタキシャル結晶材料の少なくともいずれかから形成され、該結晶面を有する基板の面方位と同じ結晶面である酸化亜鉛構造体の製造方法により製造された酸化亜鉛構造体であって、
アスペクト比が1以上であり、底面の半径が250nm〜450nmである酸化亜鉛結晶を基板上に有することを特徴とする。
本発明の酸化亜鉛粒子の製造方法は、前記本発明の金属酸化物構造体を基板から分離させて金属酸化物粒子を製造する工程を含んでなる。
本発明の酸化亜鉛粒子は、本発明の前記金属酸化物粒子の製造方法により得られる。
以下、本発明の酸化亜鉛構造体、本発明の酸化亜鉛粒子の製造方法、及び本発明の酸化亜鉛粒子の詳細についても明らかにする。
【0009】
−基板−
前記金属酸化物結晶を析出する基板としては、一定方位への規則的な結晶配向構造を有する金属含有材料を含む結晶面を有してさえいれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単結晶材料及びエピタキシャル結晶材料の少なくともいずれかから形成された基板が好ましい。
この場合、基板全体が単結晶材料及びエピタキシャル結晶材料の少なくともいずれかから形成されていてもよいが、少なくとも金属酸化物を析出させる結晶面が単結晶材料及びエピタキシャル結晶材料の少なくともいずれかから形成されていれば特に制限はされない。
【0010】
前記単結晶材料としては、基板全体が一つの結晶、即ち基板全体を通じて一定の結晶軸に沿うように成長している結晶を意味する。外形は別に固有の結晶面からなるものでなくても、ただ結晶方位が一定方位を保つものであるならば単結晶である。
前記エピタキシャル結晶材料としては、単結晶基板上にその基板と同じ面方位を持った結晶薄膜を成長させた材料を意味する。基板と薄膜材料とが同一元素の場合にはホモエピタキシャル材料という。一方、薄膜材料と基板の元素が異なる場合をヘテロエピタキシャル材料という。
なお、前記金属酸化物を含む結晶面が単結晶材料及びエピタキシャル結晶材料のいずれかであるかは、X線回折(XRD)測定による回折ピーク、高分解能の透過型電子顕微鏡の格子像観察、電子線回折像などにより確認することができる。
【0011】
前記金属含有材料を含む結晶面は、該結晶面を有する基板の面方位と同じ結晶面であることが、高い結晶性の材料を形成するという点で好ましい。また、前記金属含有材料を含む結晶面は、該結晶面を有する基板のc軸方向に垂直な結晶面であることが、高い結晶性の材料を形成するという点で好ましい。
ここで、前記金属含有材料を含む結晶面を有する基板のa軸方向の格子定数をAとし、該結晶面に析出させる金属酸化物結晶のa軸方向の格子定数をAとしたとき、下記数式1で表されるミスフィット率は48%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。前記ミスフィット率が48%を超えると、界面での整合性がとれなくなり、欠陥が多く含まれた材料になってしまうことがある。
<数式1>
ミスフィット率(%)=[(A−A)/A]×100
【0012】
前記金属含有材料を含む結晶面における金属含有材料としては、金属を含有する材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、金属材料;金属イオンが含まれた材料;金属酸化物、金属窒化物等の金属化合物材料、などが挙げられる。
前記金属酸化物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、サファイア(高純度のアルミナ(Al)単結晶)、シリコン、酸化チタン、MgO、In、SiO、SnO、SnO、チタン酸バリウム、SrTiO、PZT、YBCO(YBaCu7−x)、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、YAG(YAl12又は3Y・5Al)、ITO(In/SnO)などが好適である。
【0013】
また、前記金属含有材料を含む結晶面は、金属窒化物を含有することが好ましい。該金属窒化物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、窒化ガリウム(GaN)などが挙げられ、例えば、酸化亜鉛(ZnO)を析出させる場合において、ZnO結晶の格子定数と近似しており、ミスフィット率が小さい点で窒化ガリウム(GaN)が特に好ましい。
前記窒化ガリウム(GaN)としては、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)により形成された窒化ガリウムであることが好ましい。ここで、前記有機金属化学気相成長法(MOCVD法)は、有機金属を原料としたCVD法であり、基板表面に原料となるガスを供給し、化学反応により膜を堆積する方法である。例えば、サファイア単結晶のc面上に窒化ガリウムをMOCVD法によりエピタキシャル成長させて成膜することができる。
【0014】
−金属酸化物−
前記基板に析出(成長)させる金属酸化物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ウルツ鉱型結晶を有する金属酸化物であることが、欠陥の少ない高い結晶性材料を形成できる点で好ましい。
前記基板に析出させる金属酸化物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ZnO、MgO、Al、In、SiO、SnO、SnO、TiO、チタン酸バリウム、SrTiO、PZT、YBCO(YBaCu7−x)、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、YAG(YAl12又は3Y・5Al)、ITO(In/SnO)、などが挙げられる。
【0015】
前記基板に金属酸化物結晶を析出(成長)させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記基板を金属酸化物結晶が析出可能な反応溶液中に浸漬させて該金属酸化物を含む結晶面に金属酸化物結晶を析出させる水溶液中での結晶成長法が、高価な設備を必要とせず、低コスト、低温プロセスである点で好ましい。
【0016】
前記金属酸化物が析出可能な反応溶液は、金属酸化物結晶が析出可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、金属酸化物源、錯化剤、溶媒、pH調整剤などを含有してなる。
前記金属酸化物源としては、基板に析出させる金属酸化物の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、基板に酸化亜鉛(ZnO)を成長させる場合には、Zn及びその塩、並びにZnの水酸化物及びZnの水和物から選択される少なくとも1種が好ましい。
前記Znの塩としては、例えば、Znの硫化物(例えば、ZnSO・7HO等)Znの硝酸物(例えば、Zn(NO等)、Znの塩化物(例えば、ZnCl等)などが挙げられる。
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。
前記錯化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、などが挙げられる。
前記反応溶液のpHは8.0〜11.0が好ましく、9.0〜10.0がより好ましい。該反応溶液のpHは、金属酸化物結晶の成長が完了して反応溶液中から基板を取り出す時までの変動が小さいことが好ましく、pH変動は1以下であることが好ましい。該反応溶液のpHは、pH調整剤を用いて調整される。該pH調整剤としては、例えば、NaOH、KOH、NHOHなどが挙げられる。
前記反応溶液の温度は40〜90℃が好ましく、50〜70℃がより好ましい。
【0017】
本発明の金属酸化物構造体の製造方法においては、図2に示すように、反応容器10中に、金属含有材料を含む結晶面が下向となるように基板1を配置して反応溶液3中に浸漬し、該結晶面に金属酸化物膜2を成膜することが好ましい。反応溶液中に基板を上向きに配置して反応させると基板の表面に沈殿が生じて、金属酸化物結晶の析出が阻害されてしまうことがある。
【0018】
ここで、本発明の金属酸化物構造体の製造方法の一例について、サファイア基板上に酸化亜鉛を成長させる場合を例にして具体的に説明する。
図1に示すように、まず、反応容器としてのビーカー10中に、金属酸化物源としてのZnSO・7HOを水中に[Zn2+]が0.02Mとなるように1時間撹拌して溶解した。この溶液中に錯化剤としてのNHClをRa=[NH4+]/[Zn2+]=30となるように30分間撹拌して、[Zn2+]が0.02Mである母液を調製する。
次に、得られた母液に水及びNaOH水溶液を[Zn2+]が0.01M、pH=9.5となるように添加し、ZnO結晶成長用溶液を作製した。
得られたZnO結晶成長用溶液中に、図2に示すように、基板のZnO結晶を析出させる結晶面が下側になるように配置し、60℃にて24時間浸漬した。基板を取り出し、乾燥させた。なお、基板取り出し後の反応溶液のpHは9.41であった。
【0019】
本発明の金属酸化物構造体の製造方法により製造される金属酸化物構造体は、アスペクト比が1より大きいことが好ましく、針状及び棒状のいずれかの形状を有してなるのが好ましい。なお、前記アスペクト比は、前記金属酸化物構造体の長さと直径との比を表し、その数値は大きいほど好ましい。
前記金属酸化物構造体は、基板上に針状及び棒状のいずれかの形状の金属酸化物結晶が垂直に配列されており、例えば、絶縁体、導電体、固体電解質、蛍光表示管、EL素子、セラミックコンデンサー、アクチュエーター、レーザー発振素子、冷陰極素子、強誘電体メモリー、圧電体、サーミスター、バリスタ、超伝導体、プリント基板等の電子材料、電磁波シールド材、光誘電体、光スイッチ、光センサー、太陽電池、光波長変換素子、光吸収フィルター等の光素子、温度センサー、ガスセンサー等のセンサー材料、表面修飾剤、表面保護剤、反射防止剤、抗菌、防汚効果等を目的とする表面改質剤、気相や液相やその両方の相における触媒やその担体等に使用することができる。
【0020】
本発明の金属酸化物粒子の製造方法は、本発明の金属酸化物構造体を基板から分離させて金属酸化物粒子を製造する工程を含んでなり、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
【0021】
前記分離としては、例えば、(1)基板上に析出した金属酸化物結晶を根元から切断する態様、(2)金属酸化物結晶が析出した基板から該基板のみを溶解除去する態様が好ましい。
前記(1)基板上に析出した金属酸化物結晶を根元から切断する方法としては、例えば、レーザー照射、振動、超音波、ナノカッターによる切断、などが挙げられる。
前記(2)の基板のみを溶解除去する方法としては、例えば、基板のみを溶解する薬品を用いて除去する方法、表面に析出した金属酸化物結晶に保護剤を塗布し、薬品を用いて基板を溶解する方法などが挙げられる。
【0022】
本発明の金属酸化物微粒子の製造方法により製造される金属酸化物微粒子は、アスペクト比が1より大きいことが好ましく、針状及び棒状のいずれかの形状を有してなるのが好ましい。なお、前記アスペクト比は、前記金属酸化物微粒子の長さと直径との比を表し、その数値は大きいほど好ましい。
前記金属酸化物微粒子の平均粒子長さとしては、0.05〜30μmが好ましく、0.05〜5μmがより好ましい。該平均粒子長さが30μmを超えると、散乱の影響を大きく受けることがあり、光学用途への適応性が低下することがある。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
単結晶基板としてサファイア(Al)基板を用いた。該サファイア基板のc面(0001)を一定方位への規則的な結晶配向構造を有する金属含有材料を含む結晶面として用いた。基板の格子定数、及びミスフィット率を表1に示す。このサファイア基板について、下記測定条件に従ったX線回折装置(XRD)による回折パターンを図3に示す。図3の結果から、サファイア基板のc面(0001)は単結晶材料から形成されていることが認められる。
【0025】
<XRD測定条件>
・Rigaku製、RAD=C
・CuKα
・Scanning Mode:2θ/θ
・Scanning Type:continuous
・X−Ray:50kV/120mA
・発散スリット:1deg.
・散乱スリット:1deg.
・受光スリット:0.15mm
・Start:20
・Stop:70
・Step:0.01
【0026】
まず、図1に示すように、金属酸化物源としてのZnSO・7HOを水中に[Zn2+]が0.02Mとなるように1時間撹拌して溶解した。この溶液中に錯化剤としてのNHClをRa=[NH4+]/[Zn2+]=30となるように30分間撹拌して、[Zn2+]が0.02Mである母液を調製した。
次に、得られた母液に水及びNaOH水溶液を[Zn2+]が0.01M、pH=9.5となるように添加した。以上により、ZnO結晶成長用溶液を作製した。
次に、得られたZnO結晶成長用溶液中に基板を、図2に示すように、ZnOを析出させる結晶面が下側になるように配置し、60℃にて24時間浸漬した。その後、基板を取り出し、乾燥させた。なお、基板取り出し後の溶液のpHは9.41であった。
【0027】
乾燥後のZnO結晶を電解放出型走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立製作所製、S−900)により観察した。このときのSEM写真を図5及び図6に示す。図5Aは平面図、図5Bは側面斜視図である。図6Aは平面図、図6Bは側面斜視図である。該SEM写真から、基板の結晶面には、底面の半径が250〜450nm程度の六角柱が複数本間隔をあけて集積している。六角柱の高さは250〜450nmであり、どの六角柱も向きが揃っている。
また、基板に酸化亜鉛を成長させた後におけるX線回折装置(XRD)による回折パターンを図4に示す。図4の結果から、酸化亜鉛の002面のみが選択的に成長していることが認められる。
【0028】
(実施例2)
サファイア基板のc面(0001)上にMOCVD法にて膜厚1.5μmの窒化ガリウム(GaN)膜を成膜して、GaN膜被覆サファイア基板を作製した。
この基板の格子定数、及びミスフィット率を表1に示す。また、X線回折装置(XRD)による回折パターンを図7に示す。図7の結果から、得られたGaN膜被覆サファイア基板は、サファイア基板のc面(0001)に窒化ガリウムがエピタキシャル成長したエピタキシャル材料から形成されていることが認められる。
【0029】
次に、得られたGaN膜被覆サファイア基板を用いて、実施例1と同様にして、酸化亜鉛(ZnO)の結晶成長を行った。なお、基板取り出し後の溶液のpHは9.47であった。
乾燥後のZnO結晶を電解放出型走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立製作所製、S−900)により観察した。このときのSEM写真を図9に示す。
該SEM写真から、基板に対し垂直に立った、底面の半径が2.3μm程度、高さが1.2μm程度の六角柱、高さが20μm程度の六角錐(倒れている)、基板に対し平行に配置されているものも見られた。これらは、折れ跡断面と六角柱の根元断面とが一致することから析出成長時には垂直に立っていたものが何らかの原因で折れたものと推測される(図9B、図9C参照)。
また、X線回折装置(XRD)による回折パターンを図8に示す。図8の結果から、酸化亜鉛の002面が選択的に成長していることが認められる。
【0030】
(比較例1)
ガラス基板上にZnOをゾルゲルコートしたZnOゾルゲルコート基板を以下のようにして作製した。
まず、2−メトキシエタノール及び2−アミノエタノール中に、Zn(CHCOO)・2HOを[2−アミノエタノール]/[Zn]=1.0となるように添加し、1時間撹拌した。
得られた[Zn2+]=0.75Mの前駆溶液をスライドガラス上にスピンコートにより3000回転/分、10秒で塗布し、400℃にて15分間熱処理した。以上により、ZnOゾルゲルコート基板を作製した。
この基板の格子定数、及びミスフィット率を表1に示す。また、X線回折装置(XRD)による回折パターンではピークは認められなかった。その原因として、成長したZnOは結晶体であったがこの膜の膜厚が非常に薄かったか、あるいはZnOがアモルファスであったことが考えられる。
【0031】
次に、得られたZnOゾルゲルコート基板上に、反応時間を6時間、12時間、24時間、及び72時間に変えた以外は、実施例1と同様にして、ZnO結晶を成長させた。なお、基板取り出し後の溶液のpHは、6時間後では9.45、12時間後では9.45、24時間後では9.42、72時間後では9.42であった。
【0032】
乾燥後のZnO結晶を電解放出型走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立製作所製、S−900)により観察した。このときのSEM写真を図10〜図12に示す。。図10Aは12時間浸漬後の平面図、図10Bは12時間浸漬後の側面斜視図である。図11Aは24時間浸漬後の平面図、図11Bは24時間浸漬後の側面斜視図である。図12Aは72時間浸漬後の平面図、図12Bは72時間浸漬後の側面斜視図である。
該SEM写真から、底面の半径が40〜60nm程度の六角柱が基板上に密に形成され、成長方向も実施例1に比べて不均一であった。膜厚は6時間で1.4μm、12時間で1.6μm、24時間で2.0μm、72時間で2.7μmであった。
また、X線回折装置(XRD)による回折パターンを図13に示す。図13の結果から、酸化亜鉛の002面が選択的に成長し、浸漬時間が長くなるほど、ピーク高さが増加することが認められる。ただし、実施例1及び2に比べてピークは弱く、結晶性が低いものであった。
【0033】
【表1】

*基板上に成長させたいZnO結晶の格子定数としては、a軸=0.325nm、c軸=0.521nmをミスフィットの計算に用いた。
*ミスフィット率(%)=[(A−A)/A]×100
ただし、前記式中、Aは金属含有材料を含む結晶面を有する基板のa軸方向の格子定数を表す。Aは結晶面に析出させる金属酸化物結晶のa軸方向の格子定数を表す。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の酸化亜鉛構造体、及び酸化亜鉛粒子の製造方法により製造された酸化亜鉛粒子は、絶縁体、導電体、固体電解質、蛍光表示管、EL素子、セラミックコンデンサー、アクチュエーター、レーザー発振素子、冷陰極素子、強誘電体メモリー、圧電体、サーミスター、バリスタ、超伝導体、プリント基板等の電子材料、電磁波シールド材、光誘電体、光スイッチ、光センサー、太陽電池、光波長変換素子、光吸収フィルター等の光素子、温度センサー、ガスセンサー等のセンサー材料、表面修飾剤、表面保護剤、反射防止剤、抗菌、防汚効果等を目的とする表面改質剤、気相や液相やその両方の相における触媒やその担体等に幅広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、実施例1における酸化亜鉛(ZnO)結晶の成長条件を示す概念図である。
【図2】図2は、基板を溶液中に浸漬する様子を示した概略図である。
【図3】図3は、サファイア基板のX線回折測定よる回折パターンである。
【図4】図4は、サファイア基板上に酸化亜鉛(ZnO)を析出させた状態を示すX線回折測定よる回折パターンである。
【図5A】図5Aは、実施例1で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶のSEM写真である。
【図5B】図5Bは、実施例1で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶のSEM写真である。
【図6A】図6Aは、実施例1で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶のSEM写真である。
【図6B】図6Bは、実施例1で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶のSEM写真である。
【図7】図7は、サファイア上にGaN膜を形成した基板のX線回折測定による回折パターンである。
【図8】図8は、サファイア上にGaN膜を形成した基板上にZnOを析出させた状態を示すX線回折測定による回折パターンである。
【図9A】図9Aは、実施例2で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶のSEM写真である。
【図9B】図9Bは、実施例2で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶のSEM写真である。
【図9C】図9Cは、実施例2で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶のSEM写真である。
【図9D】図9Dは、実施例2で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶のSEM写真である。
【図9E】図9Eは、実施例2で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶のSEM写真である。
【図10A】図10Aは、比較例1で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶の12時間浸漬後のSEM写真である。
【図10B】図10Bは、比較例1で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶の12時間浸漬後のSEM写真である。
【図11A】図11Aは、比較例1で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶の24時間浸漬後のSEM写真である。
【図11B】図11Bは、比較例1で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶の24時間浸漬後のSEM写真である。
【図12A】図12Aは、比較例1で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶の72時間浸漬後のSEM写真である。
【図12B】図12Bは、比較例1で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶の72時間浸漬後のSEM写真である。
【図13】図13は、ゾルゲルコートZnO基板に酸化亜鉛を析出させた状態を示すX線回折測定よる回折パターンである。
【符号の説明】
【0036】
1 基板(サファイア単結晶基板)
2 金属酸化物膜(ZnO)
3 反応溶液
10 反応容器(ビーカー)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定方位への規則的な結晶配向構造を有する、c軸方向に垂直であり、金属含有材料を含む結晶面を有する基板を酸化亜鉛が析出可能な反応溶液中に前記金属含有材料を含む結晶面が下向となるように基板を配置して浸漬させて該金属含有材料を含む結晶面に酸化亜鉛結晶を析出させ、前記金属含有材料を含む結晶面が、単結晶材料及びエピタキシャル結晶材料の少なくともいずれかから形成され、該結晶面を有する基板の面方位と同じ結晶面である酸化亜鉛構造体の製造方法により製造された酸化亜鉛構造体であって、
アスペクト比が1以上であり、底面の半径が250nm〜450nmである酸化亜鉛結晶を基板上に有することを特徴とする酸化亜鉛構造体。
【請求項2】
金属含有材料を含む結晶面を有する基板のa軸方向の格子定数をAとし、該結晶面に析出させる酸化亜鉛結晶のa軸方向の格子定数をAとしたとき、下記数式1で表されるミスフィット率が48%以下である請求項1に記載の酸化亜鉛構造体。
<数式1>
ミスフィット率(%)=[(A−A)/A]×100
【請求項3】
金属含有材料を含む結晶面が、酸化亜鉛(ZnO)を含有する請求項1から2のいずれかに記載の酸化亜鉛構造体。
【請求項4】
金属含有材料を含む結晶面が、サファイア(Al)を含有する請求項1から3のいずれかに記載の酸化亜鉛構造体。
【請求項5】
金属含有材料を含む結晶面が、金属窒化物を含有する請求項1から4のいずれかに記載の酸化亜鉛構造体。
【請求項6】
金属窒化物が、窒化ガリウム(GaN)である請求項5に記載の酸化亜鉛構造体。
【請求項7】
窒化ガリウム(GaN)が、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)により形成された窒化ガリウムである請求項6に記載の酸化亜鉛構造体。
【請求項8】
金属含有材料を含む結晶面に析出させる酸化亜鉛が、ウルツ鉱型結晶を有する請求項1から7のいずれかに記載の酸化亜鉛構造体。
【請求項9】
反応溶液が、Zn及びその塩、並びにZnの水酸化物及びZnの水和物から選択される少なくとも1種を含有する請求項1から8のいずれかに記載の酸化亜鉛構造体。
【請求項10】
反応溶液中に錯化剤を含有する請求項1から9のいずれかに記載の酸化亜鉛構造体。
【請求項11】
酸化亜鉛結晶が、針状及び棒状のいずれかの形状を有する請求項1から10のいずれかに記載の酸化亜鉛構造体。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の酸化亜鉛構造体を基板から分離させて酸化亜鉛粒子を製造することを特徴とする酸化亜鉛粒子の製造方法。
【請求項13】
分離が、基板上に析出した酸化亜鉛結晶を該酸化亜鉛結晶の根元から切断することによる請求項12に記載の酸化亜鉛粒子の製造方法。
【請求項14】
分離が、酸化亜鉛結晶が析出した基板から該基板のみを溶解除去することによる請求項12に記載の酸化亜鉛粒子の製造方法。
【請求項15】
請求項12から14のいずれかに記載の酸化亜鉛粒子の製造方法により製造されたアスペクト比が1より大きいことを特徴とする酸化亜鉛粒子。
【請求項16】
酸化亜鉛粒子が、針状及び棒状のいずれかの形状を有する請求項15に記載の酸化亜鉛粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図13】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【公開番号】特開2011−84465(P2011−84465A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267482(P2010−267482)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【分割の表示】特願2004−282826(P2004−282826)の分割
【原出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】