説明

酸化亜鉛薄膜製造用組成物

【課題】ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物の部分加水分解物をベースとした組成物から、可視光線に対して80%以上の平均透過率と低体積抵抗率を有する酸化亜鉛薄膜を調製できる塗布用の組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物を沸点が110℃以上である電子供与性有機溶媒に溶解した溶液に水を添加して、有機亜鉛化合物を部分的に加水分解して得られる生成物を含む組成物。下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と下記一般式(2)または(3)で表される有機3B族元素化合物を、沸点が110℃以上である電子供与性有機溶媒に溶解した溶液に水を添加して、有機亜鉛化合物を部分的に加水分解して得られる生成物を含む組成物。
1−Zn−R1 (1)


cd・aH2O (3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有し、帯電防止薄膜、紫外線カット薄膜、透明電極薄膜などに利用可能な程度に低い体積抵抗率を有する酸化亜鉛薄膜を調製可能な酸化亜鉛薄膜製造用組成物に関する。
【0002】
本発明の酸化亜鉛薄膜製造用組成物は、有機亜鉛化合物を原料として調製され、かつ発火性がなく取扱いが容易であり、さらにスピンコート、ディップコート塗布原料として用いた場合には、体積抵抗率が8×10-2Ω・cm未満の特性を有する酸化亜鉛薄膜を提供でき、スプレー熱分解塗布原料として用いた場合には、体積抵抗率が1×10-3Ω・cm未満の特性を有する酸化亜鉛薄膜を提供できる。
【背景技術】
【0003】
可視光線に対して高い透過性を有し透明、かつ、体積抵抗率が8×10-2Ω・cm未満の特性を有する酸化亜鉛薄膜は、FPD(フラットパネルディスプレイ)の電極、抵抗膜式タッチパネルおよび静電容量式タッチパネルの電極、薄膜シリコン太陽電池および化合物(CdTe、CIS(ニセレン化銅インジウム))系薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機系薄膜太陽電池の上部電極、紫外線カット膜、帯電防止膜、赤外線反射膜等に使用され、幅広い用途を持つ。
【0004】
上記の酸化亜鉛薄膜の製造方法としては種々の方法が知られており(非特許文献1)、その中でも、塗布法は、装置が簡便で膜形成速度が速い為生産性が高く製造コストが低い、真空容器を用いる必要がなく真空容器による制約がない為大きな酸化亜鉛薄膜の作成も可能である、等の利点がある。
【0005】
塗布法として、スピンコート法(特許文献1)、ディップコート法(非特許文献2)、スプレー熱分解法(非特許文献3,4)等が挙げられる。
【0006】
塗布法用酸化亜鉛薄膜の材料として、酢酸亜鉛、アルコール系の有機溶媒に反応させながら溶解したジエチル亜鉛、ジエチル亜鉛を部分加水分解した組成物等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−182939号公報
【特許文献2】特願2009−102544号
【特許文献3】特願2009−197052号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本学術振興会透明酸化物光電子材料第166委員会編、透明導電膜の技術 改訂2版(2006)、p165〜173
【非特許文献2】Y. Ohya, et al. J. Mater. Sci., 4099(29), 1994
【非特許文献3】F. Paraguay D, et al. Thin Solid Films., 16(366), 2000
【非特許文献4】L. Castaneda, et al. Thin Solid Films., 212(503), 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明者らは、特許文献1に記載の3B族元素化合物と有機亜鉛化合物からなる溶液を用いたスピンコート法による製膜、非特許文献2に記載の有機亜鉛化合物と有機溶媒からなる溶液を用いたディップコート法による製膜、さらに、非特許文献3、4に記載の3B族元素化合物と酢酸亜鉛の溶液を用いたスプレー熱分解法による製膜を試みた。しかし、スピンコート法、ディップコート法の場合体積抵抗率が1×10-1Ω・cm以上の酸化亜鉛薄膜しか得られず、スプレー熱分解法においても体積抵抗率が1×10-3Ω・cm以上の酸化亜鉛薄膜しか得られず、それぞれより低抵抗な酸化亜鉛薄膜は得られなかった。
【0010】
さらに、スプレー熱分解法においては、製膜時の基板の加熱温度が400℃以下の場合は、体積抵抗率が1×10-2Ω・cm以上の酸化亜鉛薄膜しか得られず、それぞれより低抵抗な酸化亜鉛薄膜は得られなかった。
【0011】
また、本発明者らは、ジエチル亜鉛を部分加水分解した組成物、または、3B族元素化合物とジエチル亜鉛を部分加水分解した組成物の溶液を用いたスピンコート法による製膜を試み、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有する酸化亜鉛薄膜が得られ、特許出願した(特許文献2、3)。しかし、実施例において得られた酸化亜鉛薄膜の体積抵抗率は1×10-1Ω・cm以上であり、より低抵抗な酸化亜鉛薄膜を得るには、さらなる工夫が必要と考えた。
【0012】
そこで、本発明は、ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物の部分加水分解物をベースとした組成物から、可視光線に対して80%以上の平均透過率と、帯電防止薄膜などに利用可能な程度に低い体積抵抗率を有する酸化亜鉛薄膜を調製することができる新たな手段を提供することを目的とする。
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物の部分加水分解を、特許文献2及び3で用いた有機溶媒より高い沸点を有する有機溶媒中で実施することで調製した部分加水分解物を含む組成物は、塗布することで、可視光線に対して80%以上の平均透過率と、帯電防止薄膜などに利用可能な程度に低い体積抵抗率を有する酸化亜鉛薄膜が得られることを見出して本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、以下のとおりである。
(請求項1)
下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物を、
沸点が110℃以上である電子供与性有機溶媒、または、沸点が110℃以上である電子供与性有機溶媒を主成分として含有する混合有機溶媒に
4〜12質量%の範囲の濃度に溶解した溶液に、
水を、前記有機亜鉛化合物に対するモル比が0.4〜0.8の範囲になるよう添加して、
少なくとも前記有機亜鉛化合物を部分的に加水分解して得られる生成物を含む組成物。
1−Zn−R1 (1)
(式中、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である。)
(請求項2)
請求項1に記載の組成物に、
下記一般式(2)で表される有機3B族元素化合物を前記有機亜鉛化合物に対するモル比が0.005〜0.1の割合になるよう添加して得られる組成物。

(式中、Mは3B族元素であり、R2、R3、R4は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル、カルボン酸、または、アセチルアセトナート基であり、Lは窒素、酸素、またはリンを含有した配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
(請求項3)
下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と、
1−Zn−R1 (1)
(式中、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である。)
前記有機亜鉛化合物に対するモル比が0.005〜0.09の割合の下記一般式(2)または(3)で表される有機3B族元素化合物を、

(式中、Mは3B族元素であり、R2、R3、R4は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル、カルボン酸、または、アセチルアセトナート基であり、Lは窒素、酸素、またはリンを含有した配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
cd・aH2O (3)
(式中、Mは3B族元素であり、Xは、ハロゲン原子、硝酸または硫酸であり、Xがハロゲン原子または硝酸の場合、cは1、dは3、Xが硫酸の場合、cは2、dは3、aは0〜9の整数である。)
沸点が110℃以上である電子供与性有機溶媒、または沸点が110℃以上である電子供与性有機溶媒を主成分として含有する混合有機溶媒に、
前記有機亜鉛化合物と有機3B族元素化合物との合計濃度が4〜12質量%の範囲に溶解した溶液に、
水を、前記有機亜鉛化合物に対するモル比が0.4〜0.8の範囲になるよう添加して、
少なくとも前記有機亜鉛化合物を部分的に加水分解して得られる生成物を含む組成物。
(請求項4)
前記電子供与性有機溶媒は沸点が230℃以下である請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
(請求項5)
前記有機亜鉛化合物がジエチル亜鉛である請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
(請求項6)
前記一般式(2)の有機3B族元素化合物がトリメチルインジウムである請求項2〜5のいずれかに記載の組成物。
(請求項7)
前記一般式(2)の有機3B族元素化合物がトリスアセチルアセトナトアルミニウム、トリスアセチルアセトナトガリウム、トリスアセチルアセトナトインジウムである請求項2〜5のいずれかに記載の組成物。
(請求項8)
前記有機3B族元素化合物が塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウムである請求項2〜5のいずれかに記載の組成物。
(請求項9)
前記電子供与性有機溶媒は1,2−ジエトキシエタンである請求項1〜8に記載の組成物。
(請求項10)
前記混合有機溶媒が、1,2−ジエトキシエタンとテトラヒドロフランの混合溶媒である請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の酸化亜鉛薄膜製造用組成物を用いれば、スピンコート法、ディップコート法においては、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有しかつ体積抵抗率が8×10-2Ω・cm未満の特性を有する酸化亜鉛薄膜を製造することができる。また、本発明の酸化亜鉛薄膜製造用組成物を用いれば、スプレー熱分解法においては、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有しかつ体積抵抗率が1×10-3Ω・cm未満の特性を有する酸化亜鉛薄膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】スプレー製膜装置を示す図である。
【図2】実施例1で得られた組成物の真空乾燥後のNMRスペクトル
【図3】実施例1で得られた酸化亜鉛薄膜のXRDスペクトル
【図4】実施例4で得られた酸化亜鉛薄膜のXRDスペクトル
【図5】参考例3で得られた酸化亜鉛薄膜のXRDスペクトル
【発明を実施するための形態】
【0017】
[酸化亜鉛薄膜製造用組成物]
本発明の酸化亜鉛薄膜製造用組成物は、以下の3つの態様を含む。
(i)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物を電子供与性有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、前記有機亜鉛化合物を少なくとも部分的に加水分解して得られる生成物(以下、部分加水分解物1と呼ぶことがある)
(ii)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物を電子供与性有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、前記有機亜鉛化合物を少なくとも部分的に加水分解した後、前記一般式(2)または(3)で表される3B族元素化合物の少なくとも1種を添加して得られる生成物(以下、部分加水分解物2と呼ぶことがある)
(iii)下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と下記一般式(2)または(3)で表される3B族元素化合物の少なくとも1種とを電子供与性有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、少なくとも前記有機亜鉛化合物を少なくとも部分的に加水分解して得られる生成物(以下、部分加水分解物3と呼ぶことがある)
1−Zn−R1 (1)
(式中、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である)

(式中、Mは3B族元素であり、R2、R3、R4は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル基、カルボン酸基、もしくはアセチルアセトナート基であり、さらに、Lは窒素、酸素、リンいずれかを含有した配位性有機化合物であり、bは0〜9の整数である。)
cd・aH2O (3)
(式中、Mは3B族元素であり、Xは、ハロゲン原子、硝酸または硫酸であり、Xがハロゲン原子または硝酸の場合、cは1、dは3、Xが硫酸の場合、cは2、dは3、aは0〜9の整数である。)
【0018】
本発明では、上記電子供与性有機溶媒としては、沸点が110℃以上である電子供与性有機溶媒か、沸点が110℃以上である電子供与性有機溶媒を主成分として含有する混合有機溶媒を用いる。このような溶媒を用いることで、80%以上の平均透過率を有し、かつ体積抵抗率が8×10-2Ω・cm未満の特性を有する酸化亜鉛薄膜が形成されることを本発明者らは見出した。
【0019】
特許文献2の実施例では部分加水分解用の有機溶媒として、テトラヒドロフラン(沸点66℃)を用い、特許文献3の実施例では部分加水分解用の有機溶媒として、1,4−ジオキサン(沸点101.1℃)を用いたが、いずれの場合も、透明な酸化亜鉛薄膜は得られたが、体積抵抗率が8×10-2Ω・cm未満という低い抵抗率を有する酸化亜鉛薄膜は得られなかった。テトラヒドロフランや1,4−ジオキサンを用いた理由は、これらの溶媒を用いる場合には加水分解時にゲルの生成が抑制されやすく、部分加水分解物の生成に有利であると考えたからである。しかし、試行錯誤の結果、沸点が110℃以上である電子供与性有機溶媒を用いても、加水分解時にゲルを生成することなく、部分加水分解物を生成できることを見出した。
【0020】
前記電子供与性有機溶媒は、その後の塗布工程での操作性、特に乾燥性などを考慮すると、好ましくは、沸点が110℃以上である電子供与性有機溶媒である。電子供与性有機溶媒は、沸点が上記範囲であること以外、一般式(1)で表される有機亜鉛化合物及び水に対して溶解性を有するものであればよく、例として、ジn−ブチルエーテル(沸点142.4℃)、ジヘキシルエーテル(沸点226.2℃)、アニソール(沸点153.8℃)、フェネトール(沸点172℃)、ブチルフェニルエーテル(沸点210.3℃)、ペンチルフェニルエーテル(沸点214℃)、メトキシトルエン(沸点171.8℃)、ベンジルエチルエーテル(沸点189℃)、ジフェニルエーテル(沸点258.3℃)、ベラトロール(沸点206.7℃)、トリオキサン(沸点114.5℃)そして、1,2−ジエトキシエタン(沸点121℃)、1,2−ジブトキシエタン(沸点203.3℃)等のグライム、また、ビス(2−メトキシエテル)エーテル(沸点162℃)、ビス(2−エトキシエテル)エーテル(沸点188.4℃)、ビス(2−ブトキシエテル)エーテル(沸点254.6℃)等のジグライム、さらに、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン(沸点216℃)、ビス[2−(2−メトキシエトキシエチル)]エーテル(沸点275℃)等のトリグライム、等のエーテル系溶媒、トリ−n−プロピルアミン(沸点150〜156℃)、トリ−n−ペンチルアミン(沸点130℃)、N,N−ジメチルアニリン(沸点193℃)、N,N−ジエチルアニリン(沸点217℃)、ピリジン(沸点115.3℃)等のアミン系溶媒等を挙げることができる。電子供与性有溶媒としては、グライムの一種である1、2−ジエトキシエタン(沸点121℃)が、組成物調製時のゲルの抑制と溶媒自身の揮発性の両方の観点から好ましい。電子供与性有溶媒の沸点の上限は、特にないが、得られた組成物を塗布した後に溶媒が除去されて塗膜となる際の乾燥時間が比較的短くなると言う観点からは、230℃以下であることが好ましい。
【0021】
沸点が110℃以上である電子供与性有機溶媒を主成分として含有する混合有機溶媒は、混合状態で一般式(1)で表される有機亜鉛化合物及び水に対して溶解性を有するものであればよく、例として、オクタン(沸点125.7℃)とテトラヒドロフラン(沸点66℃)、オクタンと1,4−ジオキサン、ノナン(沸点150.8℃)とテトラヒドロフラン、ノナンと1,4−ジオキサン、デカン(沸点174.1℃)とテトラヒドロフラン、デカンと1,4−ジオキサン、ウンデカンとテトラヒドロフラン、ウンデカンと1,4−ジオキサン、ドデカン(沸点216.3℃)とテトラヒドロフラン、ドデカンと1,4−ジオキサン、トルエン(沸点110.6℃)とテトラヒドロフラン、トルエンと1,4−ジオキサン、キシレン(沸点138〜145℃)とテトラヒドロフラン、キシレンと1,4−ジオキサン、エチルベンゼン(沸点136.2℃)とテトラヒドロフラン、エチルベンゼンと1,4−ジオキサン、ブチルベンゼン(沸点169〜183℃)とテトラヒドロフラン、ブチルベンゼンと1,4−ジオキサン、ペンチルベンゼン(沸点205.4℃)とテトラヒドロフラン、ペンチルベンゼンと1,4−ジオキサン、メシチレン(沸点164.7℃)とテトラヒドロフラン、メシチレンと1,4−ジオキサン、ジエチルベンゼン(沸点181〜184℃)とテトラヒドロフラン、ジエチルベンゼンと1,4−ジオキサン等が挙げられる。形成される酸化亜鉛薄膜の体積抵抗率を考慮すると、副成分はテトラヒドロフランであることが好ましい。また、製膜時の作業性を考えると、副成分であるテトラヒドロフランもしくは1,4−ジオキサンは主成分に対する重量比が0.05〜0.45であることが好ましい。
【0022】
前記一般式(1)で表される化合物を前記電子供与性有機溶媒または前記電子供与性有機溶媒を含有する混合有機溶媒に溶解した溶液における、前記一般式(1)で表される化合物の濃度は、4〜12質量%の範囲とすることが好ましい。沸点が110℃以上である電子供与性有機溶媒を用いても、前記一般式(1)で表される化合物の濃度が4質量%未満及び12質量%を超える場合には、所望の透明性と導電性を有する酸化亜鉛薄膜の形成が難しくなる傾向があるからである。前記有機溶媒に溶解した溶液における一般式(1)で表される化合物の濃度は、好ましくは6〜10質量%の範囲である。
【0023】
前記水の添加量は、部分加水分解物1、2においては、前記有機亜鉛化合物に対するモル比を0.4〜0.8の範囲とし、部分加水分解物3においては、前記有機亜鉛化合物と3B族元素化合物の合計量に対するモル比を0.4〜0.8の範囲とする。水の添加量がこの範囲であることで、スピンコート法、ディップコート法の場合、得られる部分加水分解物を含む反応生成物は、体積抵抗率が8×10-2Ω・cm未満の特性を有する酸化亜鉛薄膜を形成することができ、スプレー熱分解法の場合、体積抵抗率が1×10-3Ω・cm未満の特性を有する酸化亜鉛薄膜を形成することができる。
【0024】
さらに、モル比を0.4以上にすることにより、原料中に含有する亜鉛を基準として90%以上の高収率で有機亜鉛化合物を部分加水分解した生成物を含む有機亜鉛組成物を得ることができる。また、部分加水分解物3においては、3B族元素化合物も適量が部分加水分解される。モル比を0.4以上にすることで、部分加水分解物1、2の場合は、未反応の原料である有機亜鉛化合物の残量を、部分加水分解物3の場合は、有機亜鉛化合物と3B族元素化合物の残存量を抑えることができ、その結果、安全に取り扱える有機亜鉛組成物を得ることができる。また、モル比を0.8以下にすることにより加水分解反応中のゲルの発生を抑制できる。加水分解反応中にゲルが発生すると、溶液の粘度が上がり、その後の操作が困難になる場合がある。水の添加モル比は、上記観点から、好ましくは0.6〜0.8の範囲、より好ましくは0.6〜0.75の範囲である。
【0025】
部分加水分解物2においては、有機亜鉛化合物に水を添加した後に、3B族元素化合物を添加することから、水の添加量等によるが、添加した水が有機亜鉛化合物の加水分解に消費された後に3B族元素化合物が添加される場合には、前記生成物は、通常、前記3B族元素化合物の加水分解物は含まない。3B族元素化合物は、加水分解されず、原料のままで含有されるか、あるいは、有機亜鉛化合物の部分加水分解物が有する有機基と3B族元素化合物の有機基(配位子)が交換(配位子交換)したものになる可能性もある。部分加水分解物3においては、有機亜鉛化合物と3B族元素化合物の混合溶液に水を添加するので、前記生成物は、通常、前記3B族元素化合物の加水分解物を含む。3B族元素化合物の加水分解物は、水の添加量等によるが、部分加水分解物であることができる。
【0026】
水の添加は、水を他の溶媒と混合することなく水のみで行うことも、水を他の溶媒と混合して得た混合溶媒を用いて行うこともできる。局所的な加水分解の進行を抑制するという観点からは、混合溶媒を用いることが好ましく、混合溶媒中の水の含有率は、例えば、1〜50質量%の範囲であることができ、好ましくは2〜20質量%である。水との混合溶媒に用いることができる溶媒は、例えば、上記電子供与性有機溶媒であることができる。さらに、電子供与性有機溶媒としては、沸点が110℃以上の有機溶媒であっても、沸点が110℃未満の有機溶媒であってもよい。但し、ジエチル亜鉛に対して不活性かつ水の溶解性が高い必要があるという観点からは、沸点が110℃未満の有機溶媒であることが好ましい。
【0027】
水の添加は、反応の規模にもよるが、例えば、60秒〜10時間の間の時間をかけて行うことができる。生成物の収率が良好であるという観点から、原料である前記一般式(1)の有機亜鉛化合物に水または水との混合溶媒を滴下することにより添加することが好ましい。水の添加は、一般式(1)で表される化合物と電子供与性有機溶媒との溶液を攪拌せずに(静置した状態で)または攪拌しながら実施することができる。添加時の温度は、−90〜150℃の間の任意の温度を選択できる。−15〜30℃であることが水と有機亜鉛化合物の反応性という観点から好ましい。
【0028】
水の添加後に、水と一般式(1)で表される化合物と一般式(2)または(3)で表される化合物、もしくは、水と一般式(1)で表される化合物との反応を進行させるために、例えば、1分から48時間、攪拌せずに(静置した状態で)置くか、または攪拌する。反応温度については、−90〜150℃の間の任意の温度で反応させることができる。反応温度は、5〜80℃の範囲であることが部分加水分解物を高収率で得るという観点から好ましい。反応圧力は制限されない。通常は、常圧(大気圧)で実施できる。水と一般式(1)で表される化合物との反応の進行は、必要により、反応混合物をサンプリングし、サンプルをNMRあるいはIR等で分析、もしくは、発生するガスをサンプリングすることによりモニタリングすることができる。
【0029】
前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物におけるR1として表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、2−ヘキシル基、およびヘプチル基を挙げることができる。一般式(1)で表される化合物は、R1が炭素数1、2、3、4、5、または6の化合物であることが好ましい。一般式(1)で表される化合物は、特にR1が炭素数2である、ジエチル亜鉛であることが好ましい。
【0030】
前記一般式(2)で表される3B族元素化合物におけるMとして表される金属の具体例としては、B、Al、Ga、Inを挙げことができる。また、Xとして表される塩の具体例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、硝酸、硫酸を挙げることができる。一般式(2)で表される3B族元素化合物は、特に、フッ化ホウ素、塩化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化アルミニウム6水和物、硝酸アルミニウム9水和物、塩化ガリウム、硝酸ガリウム水和物、塩化インジウム、塩化インジウム4水和物、硝酸インジウム5水和物を挙げることができる。
【0031】
前記一般式(3)で表される3B族元素化合物におけるMとして表される金属の具体例としては、B、Al、Ga、Inを挙げことができる。また、R2、R3、及びR4は水素であることが好ましい。あるいは、R2、R3、及びR4はアルキル基であることも好ましく、アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、2−ヘキシル基、およびヘプチル基を挙げることができる。R2、R3、及びR4は、少なくとも1つが水素であり、残りがアルキル基であることも好ましい。Lとして表される配位子は、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、ピリジン、モノフォリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、トリフェニルフォスフィン、ジメチル硫黄、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランを挙げることができる。一般式(3)で表される3B族元素化合物は、特に、ジボラン、ボラン−テトラヒドロフラン錯体、ボラン−トリメチルアミン錯体、ボラン−トリエチルアミン錯体、トリエチルボラン、トリブチルボラン、アラン−トリメチルアミン錯体、アラン−トリエチルアミン錯体、トリメチルアルミニウム、ジメチルアミルニウムヒドリド、トリイソブチルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウムを挙げることができる。価格が安く入手が容易であるという点から、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリメチルガリウム、トリメチルインジウムが特に好ましい。
【0032】
本発明の組成物の部分加水分解物2及び3においては、前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と有機亜鉛化合物に対する前記一般式(2)または(3)で表される3B族元素化合物のモル比は、0.005〜0.09の割合で添加することが、3B族元素の添加効果が適度に発現した酸化亜鉛薄膜を得るという観点から適当である。但し、部分加水分解物2においては、有機亜鉛化合物を含有する溶液に水を添加して部分加水分解物を得、その上で、上記モル比で3B族元素化合物を添加する。また、部分加水分解物3においては、上記モル比で有機亜鉛化合物と3B族元素化合物を含有する溶液に水を添加して部分加水分解物を得る。
【0033】
前記の有機溶媒、原料である前記一般式(1)の有機亜鉛化合物、及び水または水との混合溶媒は、あらゆる慣用の方法に従って反応容器に導入することができる。これらの反応工程は回分操作式、半回分操作式、連続操作式のいずれでもよく、特に制限はないが、回分操作式が望ましい。
【0034】
上記反応により、前記一般式(1)の有機亜鉛化合物と前記一般式(2)または(3)の3B族元素化合物、または、前記一般式(1)の有機亜鉛化合物は、水により部分的に加水分解されて、部分加水分解物を含む生成物が得られる。一般式(1)の有機亜鉛化合物がジエチル亜鉛である場合、水との反応により得られる生成物についての解析は古くから行われているが、報告により結果が異なり、生成物の組成が明確に特定されている訳ではない。また、水の添加モル比や反応時間等によっても、生成物の組成は変化し得る。
【0035】
部分加水分解物1、2については、下記一般式(4)で表される化合物であるか、あるいは、mが異なる複数種類化合物の混合物であると推定される。
1−Zn−[O−Zn]p−R1 (4)
(式中、R1は一般式(1)におけるR1と同じであり、pは2〜20の整数である。)
【0036】
本発明においては、生成物の主成分は、部分加水分解物3については、下記一般式(5)および(6)で表される構造単位と下記一般式(7)で表される構造単位を組み合わせた化合物であるか、あるいはmが異なる複数種類の化合物の混合物であると推察される。
(R1−Zn)− (5)
−[O−Zn]m− (6)
(式中、R1は一般式(1)におけるR1と同じであり、mは2〜20の整数である。)

(式中、Mは一般式(2)または(3)におけるMと同じであり、Qは一般式(2)または(3)におけるX、R2、R3、R4のいずれかと同じであり、mは2〜20の整数である。)
【0037】
前記有機亜鉛化合物の加水分解の際に、前記3B族元素化合物を共存させていない部分加水分解物2の場合、反応終了後、前記一般式(2)または(3)の3B族化合物を添加することにより組成物を製造する。前記3B族元素化合物の添加量は、前述のように、前記有機亜鉛化合物の仕込み量に対して0.005〜0.09が適当である。
【0038】
加水分解反応終了後、例えば、ろ過、濃縮、抽出、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって、上記生成物の一部または全部を回収及び精製することができる。また、加水分解反応終了後に3B族元素化合物を添加する場合には、ろ過によって、上記生成物の一部または全部を回収及び精製することができる。反応生成物中に、原料である一般式(1)の有機亜鉛化合物が残存する場合には、上記方法で回収することもでき、回収することが好ましい。これらの方法で残存する原料を回収した後の反応生成物は、部分加水分解物1〜3いずれの場合も、一般式(1)で表される有機亜鉛化合物を含有しないものであることが好ましく、例えば、一般式(1)で表される有機亜鉛化合物の含有量が0.5wt%以下であることが好ましい。本発明の組成物は、未反応で残存する一般式(1)で表される有機亜鉛化合物を含有しないものであることが、塗布液として使用した場合、均一な膜が形成されるという観点から好ましい。
【0039】
上記方法で調製した溶液は、酸化亜鉛薄膜形成用の塗布用の溶液としてそのまま使用できる。あるいは、適宜希釈または濃縮することもできるが、製造工程を簡素化できるという観点からは、上記方法で調製した溶液が、そのまま酸化亜鉛薄膜形成用の塗布用の溶液として使用できる濃度であることが好ましい。
【0040】
[酸化亜鉛薄膜の製造方法]
本発明の酸化亜鉛薄膜形成用組成物を用いる酸化亜鉛薄膜の製造方法について説明する。基板表面に本発明の酸化亜鉛薄膜形成用組成物を塗布し、次いで、得られた塗布膜を加熱して酸化亜鉛薄膜を得る。塗布を例えば、スピンコート法、ディップコート法で行う場合には、80%以上の平均透過率を有しかつ体積抵抗率が8×10-2Ω・cm未満の特性を有する酸化亜鉛薄膜を得ることができる。塗布を例えば、スプレー熱分解法で行う場合には、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有しかつ体積抵抗率が1×10-3Ω・cm未満の特性を有する酸化亜鉛薄膜を形成することができる。
【0041】
基板表面への塗布は、ディップコート法、スピンコート法、スプレー熱分解法、インクジェット法、スクリーン印刷法等の慣用手段により実施できる。
【0042】
組成物の基板表面への塗布は、窒素等の不活性ガス雰囲気下、空気雰囲気下、水蒸気を多く含有した相対湿度が高い空気雰囲気下、酸素等の酸化ガス雰囲気下、水素等の還元ガス雰囲気下、もしくは、それらの混合ガス雰囲気下等のいずれかの雰囲気下、かつ、大気圧または加圧下で実施することができる。
【0043】
スピンコート法、ディップコート法においては、不活性ガス雰囲気下で形成しても良く、さらには、不活性ガスと水蒸気を混合させることにより相対湿度2〜15%にした雰囲気下で行っても良い。
【0044】
スプレー熱分解法は、基板を加熱しながらできる方法であり、そのため、塗布と並行して溶媒を乾燥させることができ、条件によっては、溶媒乾燥のための加熱が不要である場合もある。さらに、条件によっては、乾燥に加えて、有機亜鉛化合物の部分加水分解物の酸化亜鉛への反応も少なくとも一部、進行する場合もある。そのため、後工程である、所定の温度での加熱による酸化亜鉛薄膜形成をより容易に行える場合もある。基板の加熱温度は、例えば、50〜550℃の範囲であることができる。
【0045】
図1に、スプレー熱分解法で用いることができるスプレー製膜装置を示す。図中、1は塗布液を充填したスプレーボトル、2は基板ホルダ、3スプレーノズル、4はコンプレッサ、5は基板、6は水蒸気導入用チューブを示す。スプレー塗布は、基板を基板ホルダ2に設置し、必要によりヒーターを用いて所定の温度まで加熱し、その後、所定の雰囲気中で、基板の上方に配置したスプレーノズル3から圧縮した不活性ガスと塗布液を同時供給し、塗布液を霧化、噴霧させることにより基板上に酸化亜鉛薄膜を形成することができる。酸化亜鉛薄膜は、スプレー塗布することで、追加の加熱等することなしに形成される。
【0046】
塗布液のスプレー塗布は、塗布液をスプレーノズルより液滴の大きさが1〜15μmの範囲になるように吐出し、かつスプレーノズルと基板との距離を50cm以内として行うことが、良好な膜特性を有する酸化亜鉛薄膜を製造することができるという観点から好ましい。
【0047】
基板への付着性、溶媒の蒸発の容易性等を考慮すると、スプレーノズルより吐出される液滴の大きさについては、全ての液滴の大きさが1〜30μmの範囲にあることが好ましい。液滴の大きさは、より好ましくは3〜20μmの範囲にある。
【0048】
スプレーノズルから基板に到達するまでに溶媒が幾分蒸発し液滴の大きさが減少すること等を考慮すると、スプレーノズルと基板との距離は50cm以内であることが好ましい。スプレーノズルと基板との距離は、酸化亜鉛薄膜の形成が良好にできるという観点から、好ましくは2〜40cmの範囲である。
【0049】
スプレー熱分解法においては、不活性ガス雰囲気下で水蒸気導入用チューブ6から水蒸気を導入して組成物の分解を促進させることが、体積抵抗率がより低い酸化亜鉛薄膜を形成するという観点から好ましい。例えば、水蒸気の導入量は、供給された前記組成物中の亜鉛に対するモル比で0.1〜5であることが好ましく、体積抵抗率がより低い酸化亜鉛薄膜を得るという観点から、0.3〜2であることがさらに好ましい。水蒸気の導入量が上記モル比で0.3〜2の範囲であれば、体積抵抗率が1×10-3Ω・cm未満のより良好な膜特性を有する酸化亜鉛薄膜を形成することができる。
【0050】
水蒸気の導入方法は、あらゆる慣用の方法に従って酸化亜鉛薄膜製造容器に導入することができる。水蒸気と組成物は加熱された基板付近で反応することが好ましく、例えば、水を不活性ガスでバブリングすることにより作製された水蒸気を含有する不活性ガスを加熱された基板付近に管で導入することが挙げられる。
【0051】
基板表面へ塗布液を塗布した後、必要により基板を所定の温度とし、溶媒を乾燥した後、所定の温度で加熱することにより酸化亜鉛薄膜を形成させる。
【0052】
溶媒を乾燥する温度は、例えば、20〜200℃の範囲であることができ、共存する有機溶媒の種類に応じて適時設定することができる。溶媒乾燥後の酸化亜鉛形成の為の加熱温度は、例えば、50〜550℃の範囲であり、好ましくは50〜500℃の範囲である。溶媒乾燥温度とその後の酸化亜鉛形成の為の加熱温度を同一にし、溶媒乾燥と酸化亜鉛形成を同時に行うことも可能である。
【0053】
必要に応じて、さらに、酸素等の酸化ガス雰囲気下、水素等の還元ガス雰囲気下、水素、アルゴン、酸素等のプラズマ雰囲気下で、上記加熱を行うことにより酸化亜鉛の形成を促進、または、結晶性を向上させることも可能である。酸化亜鉛薄膜の膜厚には特に制限はないが、実用的には0.05〜2μmの範囲であることが好ましい。上記製造方法によれば、スプレー熱分解法以外の場合、上記塗布(乾燥)加熱を1回以上繰り返すことで、上記範囲の膜厚の薄膜を適宜製造することができる。
【0054】
上記製造方法により形成される酸化亜鉛薄膜は、塗布方法及びその後の乾燥条件や加熱条件により変化するが、好ましくは8×10-2Ω・cm未満の体積抵抗率を有するものであり、より好ましくは1×10-3Ω・cm未満の体積抵抗率を有する。体積抵抗率は単位体積当りの抵抗であり、表面抵抗と膜厚を掛けることにより求められる。表面抵抗は例えば四探針法により、膜厚は例えばSEM測定、触針式段差膜厚計等により測定される。体積抵抗率は、スプレー塗布時もしくは塗布後の加熱による酸化亜鉛の生成の程度により変化(増大)するので、薄膜の体積抵抗率が8×10-2Ω・cmになるよう考慮して、スプレー塗布時もしくは塗布後の加熱条件(温度及び時間)を設定することが好ましい。
【0055】
上記製造方法により形成される酸化亜鉛薄膜は、好ましくは可視光線に対して80%以上の平均透過率を有するものであり、より好ましくは可視光線に対して85%以上の平均透過率を有する。「可視光線に対する平均透過率」とは、以下のように定義され、かつ測定される。可視光線に対する平均透過率とは、380〜780nmの範囲の光線の透過率の平均を云い、紫外可視分光光度計により測定される。尚、可視光線に対する平均透過率は、550nmの可視光の透過率を提示することによっても表現できる。可視光線に対する透過率は、スプレー塗布時もしくは塗布後の加熱による酸化亜鉛の生成の程度により変化(増大)するので、薄膜の可視光線に対する透過率が80%以上になるよう考慮してスプレー塗布時もしくは塗布後の加熱条件(温度及び時間)を設定することが好ましい。
【0056】
基板として用いられるのは、例えば、アルカリガラス、無アルカリガラス、透明基材フィルムであることができ、透明基材フィルムはプラスチックフィルムであることができる。但し、これら例示の材料に限定される意図ではない。
【0057】
[酸化亜鉛薄膜の用途]
上記方法により作製した酸化亜鉛薄膜は、優れた透明性と導電性を有することから、帯電防止膜、紫外線カット膜、透明導電膜等として使用できる。帯電防止膜は、例えば、固体電界コンデンザ、化学増幅系レジスト、窓ガラス等の建材等の分野に利用できる。紫外線カット膜は、例えば、画像表示装置の前面フィルター、ドライブレコーダー等の撮像装置、高圧放電ランプ等の照明器具、時計用カバーガラス、窓ガラス等の建材等の分野に利用できる。さらに、透明導電膜は、例えば、FPD、抵抗膜式タッチパネルおよび静電容量式タッチパネル、薄膜シリコン太陽電池および化合物(CdTe、CIS)系薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機系薄膜太陽電池等の分野に利用できる。但し、これらの分野に限定される意図ではない。
【実施例】
【0058】
以下に本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。全ての有機亜鉛化合物からの部分加水分解物を含む生成物の調製およびそれを用いた成膜は窒素ガス雰囲気下で行い、溶媒は全て脱水および脱気して使用した。
【0059】
[実施例1]
1、2−ジエトキシエタン(沸点121℃)39.9gにジエチル亜鉛3.49g(8.7質量%相当)を加えた。十分攪拌した後、−12℃まで冷却した。5.0%水を含有した1、4−ジオキサン(沸点101.1℃)溶液を、水のジエチル亜鉛に対するモル比が0.6になるように滴下した(添加総量:6.02g)。その後、室温(24℃)まで昇温し室温で18時間反応させ、メンブレンフィルターでろ過することにより、部分加水分解物溶液(濃度6.5質量%)を48.1g得た。真空乾燥により溶媒等を除去した後のNMR(THF−d8,ppm)測定により図2のスペクトルを得た。
【0060】
上述のように得た部分加水分解物を含む生成物含有塗布液をスピンコート法により18mm角のコーニング1737ガラス基板表面上に塗布した。その後、基板を500℃、4分加熱することで溶媒を乾燥させると同時に酸化亜鉛を形成させた。以上の操作をさらに5回繰り返した。形成された薄膜は、表面抵抗が1300Ω/□、膜厚が0.35μmであり、体積抵抗率は4.6×10-2Ω・cmであった。さらに、XRD(図3参照)により酸化亜鉛であることが確認された。また、550nmの可視光透過率は90%であり、透過率80%以上の透明な酸化亜鉛薄膜を得られた。
【0061】
[実施例2]
実施例1で調製したジエチル亜鉛の部分加水分解物溶液に、トリメチルインジウムを、仕込んだジエチル亜鉛に対してモル比で0.03になるよう添加することによりインジウムを含有する部分加水分解物溶液を488.1g得た。
【0062】
上述のように得た部分加水分解物を含む生成物含有塗布液をスピンコート法により18mm角のコーニング1737ガラス基板表面上に塗布した。その後、基板を500℃、4分加熱することで溶媒を乾燥させると同時に酸化亜鉛を形成させた。以上の操作をさらに5回繰り返した。形成された薄膜は、表面抵抗が587Ω/□、膜厚が0.37μmであり、体積抵抗率は2.2×10-2Ω・cmであった。さらに、XRDにより酸化亜鉛であることが確認された。また、550nmの可視光透過率は91%であり、透過率80%以上の透明な酸化亜鉛薄膜を得られた。
【0063】
[実施例3]
実施例2のように得た部分加水分解物を含む生成物含有塗布液をスピンコート法により18mm角のコーニング1737ガラス基板表面上に塗布した。その後、基板を500℃、4分加熱することで溶媒を乾燥させると同時に酸化亜鉛を形成させた。以上の操作をさらに30回繰り返した。形成された薄膜は、表面抵抗が55Ω/□、膜厚が1.71μmであり、体積抵抗率は9.4×10-3Ω・cmであった。さらに、XRDにより酸化亜鉛であることが確認された。また、550nmの可視光透過率は85%であり、透過率80%以上の透明な酸化亜鉛薄膜を得られた。
【0064】
[実施例4]
1、2−ジエトキシエタン(沸点121℃)200.3gにジエチル亜鉛17.45g(8.7質量%相当)を加えた。十分攪拌した後、−12℃まで冷却した。5.0%水を含有したテトラヒドロフラン(沸点66℃)溶液を、水のジエチル亜鉛に対するモル比が0.6になるように滴下した(添加総量:30.1g)。その後、室温(24℃)まで昇温し室温で18時間反応させ、メンブレンフィルターでろ過することにより、部分加水分解物溶液(濃度6.4質量%)を245.2g得た。この部分加水分解物溶液に、トリメチルインジウムを仕込んだジエチル亜鉛に対してモル比で0.01になるよう添加することによりインジウムを含有する部分加水分解物溶液を245.3g得た。
【0065】
上記のようにして得た塗布液を、図1のスプレー製膜装置中スプレーボトルに充填した。18mm角のコーニング1737ガラス基板を基板ホルダに設置した。窒素ガス雰囲気下で、ガラス基板を400℃に加熱した後、24℃の水を毎分16Lでバブリングした窒素ガスを水蒸気導入用チューブ6で基板付近に導入することにより水を導入した。その後、スプレーノズルより塗布液を4ml/minで16分間噴霧した。スプレーノズルより吐出する液滴の大きさは、3〜20μmの範囲であり、かつスプレーノズルと基板との距離を30cmとして行った。形成された薄膜は、表面抵抗が15Ω/□、膜厚が0.49μmであり、体積抵抗率は7.4×10-4Ω・cmであった。さらに、XRD(図4参照)により酸化亜鉛であることが確認された。また、550nmの可視光透過率は83%であり、透過率80%以上の透明な酸化亜鉛薄膜を得られた。
【0066】
[実施例5]
実施例1〜4で得られた酸化亜鉛薄膜は帯電防止機能を有しており、帯電防止薄膜として使用できることを確認した。さらに、実施例1〜4で得られた酸化亜鉛薄膜は紫外線カット機能を有しており、紫外線カット薄膜として使用できることを確認した。
【0067】
[実施例6]
実施例4で得られた酸化亜鉛薄膜は透明電極になることを確認し、透明導電薄膜として使用できることを確認した。
【0068】
[参考例1]
1、2−ジエトキシエタン40.0gにジエチル亜鉛1.26g(3.15質量%相当)を加えた。十分攪拌した後、−12℃まで冷却した。5.0%水を含有した1、4−ジオキサン溶液を、水のジエチル亜鉛に対するモル比が0.6になるように滴下した(添加総量:2.06g)。その後、室温(24℃)まで昇温し室温で18時間反応させ、メンブレンフィルターでろ過することにより、部分加水分解物溶液(濃度2.7質量%)を43.1g得た。
【0069】
上述のように得た部分加水分解物を含む生成物含有塗布液をスピンコート法により18mm角のコーニング1737ガラス基板表面上に塗布した。その後、基板を500℃、4分加熱することで溶媒を乾燥させた。以上の操作をさらに5回繰り返した。しかし、形成された薄膜は、表面抵抗が>107Ω/□(測定範囲外)、550nmの可視光透過率は16%であり、透過率80%以下の不透明かつ高抵抗な薄膜しか得られなかった。
【0070】
[参考例2]
1、2−ジエトキシエタン39.9gにジエチル亜鉛6.53g(16.4質量%相当)を加えた。十分攪拌した後、−12℃まで冷却した。5.0%水を含有した1、4−ジオキサン溶液を、水のジエチル亜鉛に対するモル比が0.6になるように滴下した(添加総量:9.83g)。その後、室温(24℃)まで昇温し室温で18時間反応させ、メンブレンフィルターでろ過することにより、部分加水分解物溶液(濃度12.5質量%)を83.5g得た。
【0071】
上述のように得た部分加水分解物を含む生成物含有塗布液をスピンコート法により18mm角のコーニング1737ガラス基板表面上に塗布した。その後、基板を500℃、4分加熱することで溶媒を乾燥させた。以上の操作をさらに5回繰り返した。しかし、形成された薄膜は、表面抵抗が>107Ω/□(測定範囲外)、550nmの可視光透過率は88%であり、高抵抗な薄膜しか得られなかった。
【0072】
[参考例3]
テトラヒドロフラン(沸点66℃)39.9gにジエチル亜鉛3.50g(8.7質量%相当)を加えた。十分攪拌した後、−12℃まで冷却した。5.0%水を含有したテトラヒドロフラン溶液を、水のジエチル亜鉛に対するモル比が0.6になるように滴下した(添加総量:6.01g)。その後、室温(24℃)まで昇温し室温で18時間反応させ、メンブレンフィルターでろ過することにより、部分加水分解物溶液(濃度6.6質量%)を43.9g得た。
【0073】
上述のように得た部分加水分解物を含む生成物含有塗布液をスピンコート法により18mm角のコーニング1737ガラス基板表面上に塗布した。その後、基板を500℃、4分加熱することで溶媒を乾燥させると同時に酸化亜鉛を形成させた。以上の操作をさらに2回繰り返した。形成された薄膜は、表面抵抗が2.2×105Ω/□、550nmの可視光透過率は4%であり、不透明な薄膜しか得られなかった。図5に示すようにXRDにより酸化亜鉛の他に亜鉛が形成されたことが確認された。
【0074】
[参考例4]
上記のようにして得た塗布液を、図1のスプレー製膜装置中スプレーボトルに充填した。18mm角のコーニング1737ガラス基板を基板ホルダに設置した。窒素ガス雰囲気下で、ガラス基板を400℃に加熱した。その後、水蒸気は導入せずスプレーノズルより塗布液を4ml/minで16分間噴霧した。形成された薄膜は、表面抵抗が3590Ω/□、膜厚:0.31μm、550nmの可視光透過率は13%であり、不透明かつ高抵抗な薄膜しか得られなかった。
【0075】
[参考例5]
1,4−ジオキサン(沸点101.1℃)500.0gにジエチル亜鉛43.5g(8.0質量%相当)を加えた。十分攪拌した後、−12℃まで冷却した。5.0%水を含有した1、4−ジオキサン(沸点101.1℃)溶液を、水のジエチル亜鉛に対するモル比が0.6になるように滴下した(添加総量:77.4g)。その後、室温(24℃)まで昇温し室温で18時間反応させ、メンブレンフィルターでろ過することにより、部分加水分解物溶液(濃度6.5質量%)を616.8g得た。この部分加水分解物溶液に、トリメチルインジウムを仕込んだジエチル亜鉛に対してモル比で0.01になるよう添加することによりインジウムを含有する部分加水分解物溶液を617.2g得た。
【0076】
上述のように得た部分加水分解物を含む生成物含有塗布液をスピンコート法により18mm角のコーニング1737ガラス基板表面上に塗布した。その後、基板を500℃、4分加熱することで溶媒を乾燥させた。以上の操作をさらに2回繰り返した。しかし、形成された薄膜は、表面抵抗が1.9×105Ω/□、膜厚が0.37μmであり、体積抵抗率は4.8×10-1Ω・cmであった。550nmの可視光透過率は95%であり、高抵抗な薄膜しか得られなかった。
【0077】
[参考例6]
参考例5のように得た部分加水分解物を含む生成物含有塗布液をスピンコート法により18mm角のコーニング1737ガラス基板表面上に塗布した。その後、基板を500℃、4分加熱することで溶媒を乾燥させた。以上の操作をさらに5回繰り返した。しかし、形成された薄膜は、表面抵抗が9.3×104Ω/□、膜厚が0.35μmであり、体積抵抗率は3.2×10-1Ω・cmであった。550nmの可視光透過率は67%であり、高抵抗かつ不透明な薄膜しか得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、酸化亜鉛薄膜の製造分野に有用である。
【符号の説明】
【0079】
1・・・スプレーボトル、
2・・・基板ホルダ(ヒーター付)、
3・・・スプレーノズル、
4・・・コンプレッサ−、
5・・・無アルカリガラス基板、
6・・・水蒸気導入用チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物を、
沸点が110℃以上である電子供与性有機溶媒、または、沸点が110℃以上である電子供与性有機溶媒を主成分として含有する混合有機溶媒に
4〜12質量%の範囲の濃度に溶解した溶液に、
水を、前記有機亜鉛化合物に対するモル比が0.4〜0.8の範囲になるよう添加して、
少なくとも前記有機亜鉛化合物を部分的に加水分解して得られる生成物を含む組成物。
−Zn−R (1)
(式中、Rは炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である。)
【請求項2】
請求項1に記載の組成物に、
下記一般式(2)で表される有機3B族元素化合物を前記有機亜鉛化合物に対するモル比が0.005〜0.1の割合になるよう添加して得られる組成物。

(式中、Mは3B族元素であり、R、R、Rは独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル、カルボン酸、または、アセチルアセトナート基であり、Lは窒素、酸素、またはリンを含有した配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
【請求項3】
下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と、
−Zn−R (1)
(式中、Rは炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である。)
前記有機亜鉛化合物に対するモル比が0.005〜0.09の割合の下記一般式(2)または(3)で表される有機3B族元素化合物を、

(式中、Mは3B族元素であり、R、R、Rは独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル、カルボン酸、または、アセチルアセトナート基であり、Lは窒素、酸素、またはリンを含有した配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
McXd・aHO (3)
(式中、Mは3B族元素であり、Xは、ハロゲン原子、硝酸または硫酸であり、Xがハロゲン原子または硝酸の場合、cは1、dは3、Xが硫酸の場合、cは2、dは3、aは0〜9の整数である。)
沸点が110℃以上である電子供与性有機溶媒、または沸点が110℃以上である電子供与性有機溶媒を主成分として含有する混合有機溶媒に、
前記有機亜鉛化合物と有機3B族元素化合物との合計濃度が4〜12質量%の範囲に溶解した溶液に、
水を、前記有機亜鉛化合物に対するモル比が0.4〜0.8の範囲になるよう添加して、
少なくとも前記有機亜鉛化合物を部分的に加水分解して得られる生成物を含む組成物。
【請求項4】
前記電子供与性有機溶媒は沸点が230℃以下である請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記有機亜鉛化合物がジエチル亜鉛である請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記一般式(2)の有機3B族元素化合物がトリメチルインジウムである請求項2〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記一般式(2)の有機3B族元素化合物がトリスアセチルアセトナトアルミニウム、トリスアセチルアセトナトガリウム、トリスアセチルアセトナトインジウムである請求項2〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記有機3B族元素化合物が塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウムである請求項2〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記電子供与性有機溶媒は1,2−ジエトキシエタンである請求項1〜8に記載の組成物。
【請求項10】
前記混合有機溶媒が、1,2−ジエトキシエタンとテトラヒドロフランの混合溶媒である請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−168407(P2011−168407A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30914(P2010−30914)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(301005614)東ソー・ファインケム株式会社 (38)
【Fターム(参考)】