説明

酸化物微小構造体の水酸基及び吸着水の除去方法

【課題】酸化物微小構造体表面の水酸基及び吸着水を十分に除去することができる酸化物微小構造体の水酸基及び吸着水の除去方法を提供する。
【解決手段】酸化物微小構造体の表面に存在する水酸基及び吸着水を除去する方法であって、当該酸化物微小構造体の表面に表面処理剤を修飾する第1工程と、当該表面処理剤により修飾された酸化物微小構造体にマイクロ波を照射する第2工程と、を含む酸化物微小構造体の水酸基及び吸着水の除去方法である。
本発明により得られる酸化物微小構造体は、その規則正しい構造の形状性など光学分野、触媒分野、電気化学分野、電子工学分野などで好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物、特に複雑な形状や高比表面積を持った酸化物微小構造体の表面から、複雑な形状や高比表面積を維持しながら、水酸基及び吸着水を除去することが可能となるような酸化物微小構造体の水酸基及び吸着水の除去方法に関するものである。このように、酸化物微小構造体表面に残留している水酸基及び吸着水を除去することにより、これらの酸化物微小構造体表面の機能化に応用できる。
【背景技術】
【0002】
ナノテクノロジーの中心材料として、ナノメートルサイズの構造を有する微小構造体は重要である。これまで多数の微小構造体が作られてきたが、その材質の多くが酸化物である。例えば、数ナノメートルから数100ナノメートル単位で制御された構造を有する多孔質粒子、多孔質膜、中空粒子、気泡内蔵膜や、様々な形状の酸化物微小構造体が作られている。
【0003】
このような酸化物微小構造体の製法としては、ナノインプリント法の適用も可能だが、界面活性剤等の有機物をテンプレートとして使用し、このテンプレートと水溶性ケイ酸塩やシリコンアルコキシド等の珪素化合物とを反応沈降させた後、沈降物を焼成して界面活性剤を取り除くテンプレート法(特許文献1参照)や、有機珪素化合物と水の二層分離液に触媒、界面活性剤を添加して得られたシリカ粒子前駆体にアルミン酸ナトリウムを加え、内部に空孔の有するシリカ粒子を製造する方法(特許文献2参照)などが提案され、実現されている。これらの酸化物微小構造体は、簡易で、均一性、生産性に優れた湿式法で作られることが多い。
【0004】
湿式法による製造では、溶媒として水を含むため、得られた酸化物微小構造体の表面は多くの水酸基及び吸着水で覆われている。また、シリカに代表される酸化物表面は、大気中の水分と反応し表面水酸基を生成することが知られている。これら酸化物表面の水酸基は大気中の水分との吸着点、あるいは表面修飾における化学反応点として機能するため、この水酸基量を制御する必要が生じる。
また、酸化物表面に形成された水酸基及び吸着した吸着水などの水分は化学反応に寄与し有用な場合もあるが、酸化物表面を親水性にし、疎水性物質との濡れ性を阻害する他、水分と化学反応する物質との混合を困難にしてしまうという有害な場合もある。さらに低誘電率、低誘電正接を求められる電子回路材料などでは、大きな極性を持つ水分が誘電率、誘電正接性を上昇させてしまうため、これらの酸化物をフィラー材として使用することが難しいという問題点もあった。
そこで、酸化物表面の水酸基及び吸着水を除去し、酸化物として必要な特性を得る技術は非常に重要な技術である。
【0005】
酸化物表面の水酸基及び吸着水を除去するための最も一般的な方法は、加熱処理である(非特許文献1参照)。しかしながら、例えばシリカ微小構造体表面の水酸基及び吸着水を完全に除去するためには600℃以上の高温加熱が必要であり、高温加熱による熱収縮のために、ナノレベルの構造体が崩壊してしまう。
そこで、従来から知られている水酸基及び吸着水を除去するための代表的な方法である、表面処理剤で処理することで酸化物表面の水酸基及び吸着水に表面処理剤を反応修飾する方法、減圧加熱処理をする方法(非特許文献2参照)、マイクロ波を照射する方法(特許文献3参照)を、酸化物微小構造体に適用することが考えられる。
また、酸化物微小構造体において水酸基及び吸着水を除去するための方法としては、疎水性ケイ素化合物を原料に添加する方法(特許文献4参照)、多段階の加熱処理をする方法(特許文献5参照)、紫外線照射により水酸基を反応・結合させてしまう方法(特許文献6参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003−531083号公報
【特許文献2】特開2006−176343号公報
【特許文献3】特開平5−71871号公報
【特許文献4】特開2003−115486号公報
【特許文献5】特開2008−137821号公報
【特許文献6】特開2007−210884号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】馬場 文明 監修、「高周波用高分子材料の開発と応用」、株式会社シーエムシー出版、1999年1月29日発行、第4章
【非特許文献2】藤 正督 表面科学 Vol.24,No.10,第625−634頁,2003年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、表面処理剤で酸化物の表面を修飾する方法では、表面処理剤の分子サイズが大きいことから、修飾した表面処理剤同士の立体障害により水酸基の全てを修飾することはできず、また複雑な酸化物微小構造体表面を均一に覆うことができないために、水酸基及び吸着水が表面に残留してしまうという問題があった。
非特許文献2のような減圧加熱処理をする方法では、例えばシリカの場合、減圧下、比較的低温である400℃程度で熱処理するため、熱収縮による酸化物微小構造体への影響は少なくできるが、処理温度が低いため水酸基及び吸着水の除去は不完全であるという問題があった。
特許文献3のようなマイクロ波を照射する方法では、加熱処理のような高温処理で処理する必要がないため、熱収縮による構造体の崩壊を完全に防ぐことができるが、処理後の表面への水酸基の再形成や水の再吸着を防ぐことが難しいという問題があった。
【0009】
特許文献4のような疎水性ケイ素化合物を原料に添加する方法では、添加する疎水性ケイ素化合物が、ヘキサメチルジシロキサンに代表されるような有機物で耐熱性に乏しく、規則正しい酸化物微小構造体製造に使用されるテンプレート法には適用できない。また、分子サイズが大きいため表面を全て被覆できず、表面に水酸基が形成されてしまうという問題点があった。
特許文献5のような多段階の加熱処理をする方法では、温度を変えて加熱と冷却を繰り返す必要があり、時間とコストを要するという問題があった。
特許文献6のような紫外線照射により水酸基を反応・結合させてしまう方法では、水酸基を完全に反応除去することが難しく、さらに処理物があらかじめ形成された薄膜状でなければならないという形状的な問題があった。
このように、現在においても、酸化物微小構造体において水酸基及び吸着水を除去するための良好な方法は得られていない。
【0010】
そこで、本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、表面に存在する水酸基及び吸着水の少ない酸化物微小構造体を容易に得ることができる、酸化物微小構造体の水酸基及び吸着水の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、酸化物微小構造体の表面に表面処理剤を修飾した後に、マイクロ波を照射することにより、酸化物微小構造体表面の水酸基及び吸着水を減少させることができるとともに、酸化物微小構造体表面への水酸基の再形成や水の再吸着を防ぐことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1) 酸化物微小構造体の表面に存在する水酸基及び吸着水を除去する方法であって、当該酸化物微小構造体の表面に表面処理剤を修飾する第1工程と、当該表面処理剤により修飾された酸化物微小構造体にマイクロ波を照射する第2工程と、を含む酸化物微小構造体の水酸基及び吸着水の除去方法、
(2) 前記第1工程は、表面処理剤が酸化物微小構造体の表面に存在する水酸基及び吸着水と反応して、酸化物微小構造体の表面と表面処理剤との間で新たな結合を形成する上記(1)に記載の酸化物微小構造体の水酸基及び吸着水の除去方法、
(3) 酸化物微小構造体がシリカ多孔質膜である上記(1)又は(2)に記載の酸化物微小構造体の水酸基及び吸着水の除去方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の酸化物微小構造体の水酸基及び吸着水の除去方法によれば、表面処理剤が、酸化物微小構造体の表面に存在する水酸基及び吸着水と反応し、当該酸化物微小構造体の表面に修飾されることにより、当該水酸基及び吸着水を除去し、さらに、マイクロ波を照射することにより、残留した水酸基及び吸着水を除去されるので、表面の水酸基及び吸着水が少ない酸化物微小構造体を容易に得ることができる。
また、高温に加熱して処理する必要がないため、構造に大きな影響を与えず、また熱収縮による酸化物微小構造体の崩壊を防ぐことができる。
さらに、酸化物微小構造体の表面が表面処理剤により覆われており、当該表面処理剤が処理後の表面への水酸基の再形成や水の再吸着を防ぐので、酸化物微小構造体表面の水酸基及び吸着水を少ない状態で維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の酸化物微小構造体の水酸基及び吸着水が除去されるプロセスを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の酸化物微小構造体の水酸基及び吸着水の除去方法ついて説明する。
この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、本発明を限定するものではない。
【0016】
本発明の酸化物微小構造体の水酸基及び吸着水の除去方法は、酸化物微小構造体の表面に存在する水酸基及び吸着水を除去するものであり、酸化物微小構造体の表面に表面処理剤を修飾する第1工程と、表面処理剤により修飾された酸化物微小構造体にマイクロ波を照射する第2工程と、を含むものである。
以下、適宜、図1を引用しながら本発明の各工程を詳細に説明する。
【0017】
本発明に用いられる酸化物微小構造体は、数ナノメートルから数100ナノメートル単位で制御された構造を有する酸化物であれば特に限定されるものではなく、例えば、多孔質粒子、多孔質膜、中空粒子、気泡内蔵膜などに代表される様々な形状の構造体を挙げることができる。
また、材質も酸化物であれば特に限定されるものではなく、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、ゼオライト等のケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化鉄、等の無機酸化物を1種又は2種以上選択して用いることができる。そして、これらの酸化物微小構造体は、従来より知られている方法、例えば、前記の特許文献1(特表2003−531083号公報)などのテンプレートを用いた湿式法により製造することができる。
【0018】
本発明に用いる表面処理剤は、酸化物微小構造体の表面に存在する水酸基及び吸着水と反応して、酸化物微小構造体の表面と表面処理剤との間で新たな結合を形成する化合物であれば、特に限定されるものではなく、例えば、アルコキシシラン、フルオロアルコキシシラン、シラザン等を用いることができる。
【0019】
アルコキシシランとしては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン等のトリアルキルアルコキシシランが好適に用いられ、フルオロアルコキシシランとしては、パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤が好適に用いられ、シラザンとしては、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。
このほかにも、アルキルシランも用いることができ、例えば、トリメチルモノシラン等のトリアルキルモノシランを用いることができる。
【0020】
また、官能基を含む表面処理剤として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプルピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤を用いてもよい。
【0021】
図1(a)〜(d)は、酸化物微小構造体として多孔質酸化物を用いた場合を例にして、本発明の酸化物微小構造体の水酸基及び吸着水が除去されるプロセスを説明する模式図である。図1において、1は酸化物微小構造体であり、2は酸化物微小構造体の表面であり、3は水酸基であり、4は吸着水であり、5は水酸基3及び吸着水4の蒸発により形成された水分子であり、6は表面処理剤であり、7はマイクロ波であり、8は水分子5同士が会合して形成された水粒子である。また、9は表面処理剤6同士の隙間を示している。
そして、図1の(a)は、酸化物微小構造体1の表面2に、水酸基3及び吸着水4が吸着している状態、すなわち本発明を実施する前の酸化物微小構造体の状態を示している。
【0022】
本発明の第1工程は、酸化物微小構造体の表面に表面処理剤を修飾する工程である。
本発明に用いる表面処理剤の修飾方法は、表面処理剤が酸化物微小構造体の表面に存在する水酸基及び吸着水と反応して、酸化物微小構造体の表面と表面処理剤との間で新たな結合を形成するようになれば特に限定されるものではないが、溶媒を用いた湿式法や、表面処理剤蒸気を直接接触させる乾式法が好ましい。
【0023】
湿式法は、粒子状などの微細な酸化物微小構造体に対して好適に用いることができる方法であって、表面処理剤を含む溶媒中に酸化物微小構造体を分散させ、必要に応じて加熱や還流を行い表面処理剤と酸化物微小構造体表面の水酸基を反応させる方法である。湿式法の溶媒は、特に限定されるものではないが、例えば、含有水分の少ないヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素、あるいはメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類などの、無極性ないしは極性の低い、含水量が微量の有機溶媒などを好適に用いることができる。
【0024】
乾式法は、膜体など、ある程度以上の大きさを有するものに好適に用いることができる方法であり、酸化物微小構造体と表面処理剤を処理容器内に入れ、酸化物微小構造体表面を表面処理剤の蒸気で晒すことにより、表面処理剤と酸化物微小構造体表面の水酸基及び吸着水を反応させる方法である。表面処理剤の蒸気圧を高めるためや、表面処理剤と水酸基及び吸着水との反応性を高めるために、表面処理剤や酸化物微小構造体を加熱することも好ましい。また、複雑な酸化物微小構造体の表面に表面処理剤蒸気をむら無く接触させるために、減圧下で処理することもできる。
乾式法で表面処理する場合の表面処理剤は、室温ないしは加熱下で蒸発するものであれば特に限定されず、前記のアルコキシシラン、フルオロアルアルコキシシラン、シラザン等を用いることができる。
【0025】
また、酸化物微小構造体の表面に、表面処理剤を直接接触させ、表面処理剤と水酸基及び吸着水を反応させることもできる。この方法としては、例えば、酸化物微小構造体からなる膜体をスピンコーターなどに保持して回転させ、この膜体に表面処理剤を滴下して拡散させた後、乾燥させるという方法である。
【0026】
この第1工程を示したものが、図1の(b)である。同図に示すように、酸化物微小構造体の表面2に表面処理剤6が結合し、表面処理剤6が酸化物微小構造体の表面2に修飾されることで、水酸基3及び吸着水4が除去される。しかし、この表面処理剤6だけでは、水酸基3及び吸着水4を十分に除去することができない。その理由は、表面処理剤6の分子の大きさは酸化物微小構造体の表面に形成されている水酸基3よりも大きいため、表面処理剤6で酸化物微小構造体の表面2を修飾すると、酸化物微小構造体の表面2が表面処理剤6で覆われてしまい、表面処理剤6の間に残留する水酸基3及び吸着水4に対して表面処理剤6が近づくことができず、表面処理剤6と残留した水酸基3及び吸着水4と反応することができないからである。
そこで、残留する水酸基3及び吸着水4を除去するために、本発明の第2工程を行う。
【0027】
本発明の第2工程は、表面処理剤により修飾された酸化物微小構造体にマイクロ波を照射する工程である。
表面処理剤により修飾された酸化物微小構造体に照射するマイクロ波は、水酸基及び吸着水だけを加熱、反応させることができる周波数のマイクロ波を照射するのが好ましい。このようなマイクロ波としては、電気双極子を持つOH結合を有する水酸基や吸着水を選択的に加熱、反応させることができる周波数2.45GHzのマイクロ波がある。
この周波数のマイクロ波は、酸化物微小構造体や表面処理剤を直接は加熱しないため、これらが反応、変質することはなく、元の特性を維持したまま水酸基及び吸着水を除去することが可能である。
【0028】
マイクロ波の出力は水酸基及び吸着水の除去を行う酸化物の量によって変える必要があるが、例えば、200W以上、2000W以下であることが好ましい。この範囲の出力であれば、酸化物微小構造体の表面に残留している水酸基及び吸着水を加熱、除去するのに十分であり、水酸基及び吸着水の加熱により発生する熱で酸化物微小構造体が変質することもないからである。
さらに、マイクロ波の照射時間は、特に限定されるものではないが、例えば、5分以上、2時間以下が好ましく、10分以上1時間以下がさらに好ましい。この範囲の時間であれば、酸化物微小構造体の表面に残留している水酸基及び吸着水を十分に除去することが可能だからである。
【0029】
水酸基及び吸着水の除去処理をする酸化物微小構造体は、通常、金属製チャンバーに入れられ、反射を繰り返したマイクロ波の照射を受けるが、この金属製チャンバー内の圧力は、マイクロ波によって加熱蒸発した水分子をすばやく酸化物微小構造体から引き離し、チャンバー外へ排気するため、減圧することが好ましい。減圧した場合、金属製チャンバー内圧力が0.1Paを超えると、マイクロ波の出力によってはプラズマが点灯し、酸化物微小構造体やこれを入れた容器が高熱になり、悪影響を及ぼす場合がある。したがって、金属製チャンバー内圧力は0.1Pa以下であることが好ましい。
また発生した水分子をすばやく金属製チャンバー外へ排気するために、キャリアガスを流してもよい。キャリアガスの種類は、乾燥していれば特に制限されるものではなく、乾燥空気、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスを用いることができる。
【0030】
また、酸化物微小構造体はマイクロ波の照射に合わせて加熱することが好ましい。これは酸化物微小構造体を加熱することで表面吸着水や水酸基の脱離がより効果的におこるためである。加熱温度は酸化物微小構造体や表面処理剤が変質しない温度範囲であれば特に限定はない。
ここで、酸化物微小構造体自体は500℃程度までの加熱では構造の変質は起こらない。しかし、表面処理剤は有機物のため耐熱性は高くなく、通常は200℃、高くても400℃を越えると分解や酸化が起こる。このため、加熱温度の上限は表面処理剤により規定される場合が多く、通常は200℃以下であることが好ましい。一方、脱離した水分子が再吸着することを防ぐためには、100℃以上に加熱することが好ましい。
【0031】
なお、この工程では、上記したような金属製チャンバーに限らず、照射するマイクロ波の周波数を通すことのできる材質の容器に酸化物微小構造体を入れ、マイクロ波を照射してもよい。例えば、周波数2.45GHzのマイクロ波を通すことができる材料としては、4フッ化エチレン樹脂等のフッ素樹脂や石英がある。
ただし、このような容器を用いた場合には、マイクロ波によって加熱蒸発した水分子が容器内に残留しやすくなり、酸化物微小構造体への再付着が起こりやすくなるので、前記のキャリアガスを流す等して、容器内の水分子を速やかに除去できるようにするのが好ましい。
【0032】
この第2工程を示したものが、図1の(c)であり、酸化物微小構造体1にマイクロ波7を照射して、酸化物微小構造体の表面2に残留している水酸基3及び吸着水4を除去している工程を示すものである。
マイクロ波7は、表面処理剤6が存在しても直接酸化物微小構造体の表面2に残留している水酸基3及び吸着水4にエネルギーを与えることができるので、この水酸基3及び吸着水4がエネルギーを吸収して水分子(水蒸気)5となり、酸化物微小構造体の表面2から除去される。
【0033】
第2工程を終了することにより得られた、水酸基及び吸着水が除去された酸化物微小構造体を、図1の(d)に示す。
同図に示すように、酸化物微小構造体1から除去された水酸基及び吸着水による水分子(水蒸気)5は、会合・凝集して、ある程度の大きさを有する水粒子8となる。また、水粒子8は、空気中にもともと存在する水粒子であっても良い。
ここで、酸化物微小構造体の表面2を修飾した表面処理剤6は、自身の分子が大きく、酸化物微小構造体の表面2を覆う形となるため、表面処理剤6同士の隙間9は僅かである。一方、水粒子8の大きさは表面処理剤6同士の隙間9に比べて大きいため、水粒子8は表面処理剤6同士の隙間9を通って酸化物微小構造体の表面2に近づくことができない。これにより、水粒子8が酸化物微小構造体の表面2に再付着することが防止でき、水酸基が酸化物微小構造体の表面2に再形成するのを防止できる。
【0034】
このように、酸化物微小構造体1にマイクロ波を照射する前に、その表面2をあらかじめ表面処理剤6により修飾させておく理由は、第1に、水酸基2及び吸着水3の大半をあらかじめ除去しておくことにより、マイクロ波照射時に水酸基2及び吸着水3の除去をより速くかつ確実に行うためであり、第2に、分子の大きい表面処理剤6で酸化物微小構造体の表面2を覆うことにより、一旦除去された吸着水3が酸化物微小構造体の表面に再付着したり、一旦除去された水酸基2が酸化物微小構造体の表面に再形成することを防止するためである。
【0035】
このように、本発明の酸化物微小構造体の水酸基及び吸着水の除去方法を用いれば、高温での処理を行うことなく、かつ確実に酸化物の表面から水酸基及び吸着水を除去することができるので、水酸基及び吸着水が十分に除去された酸化物微小構造体を得ることができる。特に高温で処理しなくてすむことから、微小構造が崩壊することもない。また各種表面処理を施した酸化物微小構造体においても、高温で処理しなくてすむことから表面処理剤が変質することもない。
したがって、構造や機能性が維持され、水酸基及び吸着水が十分に除去された酸化物微小構造体を得ることが可能となる。
【0036】
なお、この水酸基及び吸着水の除去方法は、水酸基及び吸着水の除去が必要な材料全般にわたって適用可能である。特に微細な構造を有する材料、例えば、酸化物粒子、繊維状酸化物、バルク状酸化物、ガラスクロス等の材料表面から水酸基及び吸着水を除去したい場合に有効である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明について実施例によりさらに説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
(1)試料および第1工程(表面処理剤の修飾工程)
エタノール6gにテンプレート(Pluronic P123 BASF社)1gを溶解させ、酢酸水溶液(関東化学社)にてpH2に調整したテンプレート溶液に、テトラメトキシシラン(信越シリコーン社)1.6gを滴下して合成したシリカゾルを石英基板上に塗布した後500℃で2時間熱処理して、シリカ多孔質膜(厚さ0.2μm、平均細孔半径4.0nm)を作製し、酸化物微小構造体膜とした。この酸化物微小構造体膜(シリカ多孔質膜)を走査型電子顕微鏡により観察したところ、細孔が数十ナノメートル単位で制御された構造を有するものであった。
【0038】
なお、以下の記載で基板付シリカ多孔質膜という場合は、石英基板が付いたシリカ多孔質膜を意味する。
この基板付シリカ多孔質膜をスピンコーターに保持し、表面処理剤としての1,1,1,3,3,3ヘキサメチルジシラザンを2ml滴下して300rpmで回転させ、表面処理剤をシリカ多孔質膜全体に広げた後、さらに1800rpmで回転させて不要な表面処理剤を除去した。表面処理剤が塗布された基板付シリカ多孔質膜を100℃で乾燥させ、表面処理した基板付シリカ多孔質膜を得た。
【0039】
(2)第2工程(マイクロ波の照射工程)
表面処理した基板付シリカ多孔質膜を真空チャンバーに入れ、真空ポンプでチャンバー内部を0.1Paまで減圧した。その後、表面処理した基板付シリカ多孔質膜を250℃に加熱しつつ、周波数2.45GHz、出力1000Wのマイクロ波を20分照射し、シリカ多孔質膜の表面に残留している水酸基及び吸着水の除去処理を行い、水酸基及び吸着水が除去された実施例1の酸化物微小構造体膜(シリカ多孔質膜)を得た。この酸化物微小構造体膜(シリカ多孔質膜)を走査型電子顕微鏡により観察したところ、細孔等シリカ多孔質膜の構造はほとんど変化していなかった。
【0040】
実施例2
(1)試料および第1工程(表面処理剤の修飾工程)
酸化物微小構造体膜として実施例1と同様のシリカ多孔質膜を有する基板付シリカ多孔質膜を用いて、実施例1と同様に第1工程(表面処理剤の修飾工程)をおこなった。
(2)第2工程(マイクロ波の照射工程)
マイクロ波の出力を1000Wから200Wに変えたほかは、実施例1の第2工程(マイクロ波の照射工程)と同様にして、水酸基及び吸着水が除去された実施例2の酸化物微小構造体膜(シリカ多孔質膜)を得た。なお、このシリカ多孔質膜の構造はほとんど変化していなかった。
【0041】
実施例3
(1)試料および第1工程(表面処理剤の修飾工程)
酸化物微小構造体膜として実施例1と同様のシリカ多孔質膜を有する基板付シリカ多孔質膜を用いて、実施例1と同様に第1工程(表面処理剤の修飾工程)をおこなった。
(2)第2工程(マイクロ波の照射工程)
表面処理した基板付シリカ多孔質膜を真空チャンバーに入れ、乾燥窒素を導入しつつ真空ポンプでチャンバー内部を0.3Paまで減圧した。その後、容器を250℃に加熱しつつ、周波数2.45GHz、出力200Wのマイクロ波を20分照射し、シリカ多孔質膜の表面に残留している水酸基及び吸着水の除去処理を行い、水酸基及び吸着水が除去された実施例3の酸化物微小構造体膜(シリカ多孔質膜)を得た。なお、このシリカ多孔質膜の構造はほとんど変化していなかった。
【0042】
実施例4
(1)試料および第1工程(表面処理剤の修飾工程)
酸化物微小構造体膜として実施例1と同様のシリカ多孔質膜(厚さ0.2μm、平均細孔半径4.0nm)を有する基板付シリカ多孔質膜を使用した。
この基板付シリカ多孔質膜をガラス製容器に入れ、表面処理剤としての1,1,1,3,3,3ヘキサメチルジシラザンを共存させて蓋をし、80℃で5分間保持した。このようにして、シリカ多孔質膜を1,1,1,3,3,3ヘキサメチルジシラザンの蒸気に晒すことで、表面処理した基板付シリカ多孔質膜を得た。
(2)第2工程(マイクロ波の照射工程)
実施例1の第2工程(マイクロ波の照射工程)と同様にして、水酸基及び吸着水が除去された実施例4の酸化物微小構造体膜(シリカ多孔質膜)を得た。なお、このシリカ多孔質膜の構造はほとんど変化していなかった。
【0043】
比較例1
酸化物微小構造体膜として実施例1と同様のシリカ多孔質膜を有する基板付シリカ多孔質膜に対して特段の処理を行なわず、比較例1の酸化物微小構造体膜(シリカ多孔質膜)とした。
比較例2
酸化物微小構造体膜として実施例1と同様のシリカ多孔質膜を有する基板付シリカ多孔質膜を用いて、実施例1と同様の第1工程(表面処理剤の修飾工程)のみを行い、比較例2の酸化物微小構造体膜(シリカ多孔質膜)を得た。なお、本比較例では、実施例1と異なり、第2工程(マイクロ波の照射工程)を行っていない。
【0044】
比較例3
酸化物微小構造体膜として実施例1と同様のシリカ多孔質膜を有する基板付シリカ多孔質膜を用いて、第1工程(表面処理剤の修飾工程)を行なうことなく、実施例1と同様の第2工程(マイクロ波の照射工程)のみを行い、比較例3の酸化物微小構造体膜(シリカ多孔質膜)を得た。
比較例4
酸化物微小構造体膜として実施例1と同様のシリカ多孔質膜を有する基板付シリカ多孔質膜を用いて、初めに第2工程(マイクロ波の照射工程)を行い、その後第1工程(表面処理剤の修飾工程)を行なって、比較例4の酸化物微小構造体膜(シリカ多孔質膜)を得た。なお、各工程の条件は、実施例1と同一とした。
【0045】
実施例1〜4及び比較例1〜4で得られた酸化物微小構造体膜(シリカ多孔質膜)について、以下のような測定を行い、評価した。
(1)赤外吸収(IR)
実施例1〜4及び比較例1〜4で得られたシリカ多孔質膜を石英基板上から削り落として粉末状とした試料について、フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR670Plus(日本分光社製)を用いて、赤外吸収スペクトルを測定した。残留する水酸基及び吸着水の量の評価としては、各試料の測定スペクトルを、未処理の試料(比較例1)のスペクトルと重ね合わせ、シラノール基の吸収を示す3000〜3800cm-1の吸収ピーク値を比較して、ピーク値が未処理の試料に比べ概ね1/4以下となったものを○、1/4から1/2程度のものを△とした。この水酸基及び吸着水の量の評価結果を「赤外吸収スペクトルのピーク値比較」として表1に示す。
【0046】
(2)熱重量分析(TG)
熱重量分析計Thermo Plus 2(理学電機株式会社製)を用いて、実施例1〜4及び比較例1〜4で得られたシリカ多孔質膜の熱重量減少量を測定した。
ここで、50〜200℃間の重量減少は吸着水の蒸発除去によるもの、200〜400℃間の重量減少は残留水酸基の蒸発除去によるものとした。一方、400〜550℃間の重量減少は、表面処理剤の分解除去によるものとし、400℃を超える温度範囲は残留水酸基の蒸発量の計測には用いなかった。測定結果を、分析前の試料重量に対する減少割合として表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例1〜4の試料におけるシラノール基の赤外吸収ピークは、未処理試料(比較例1)のピークに比べて概ね1/4未満に低下しており、シラノール基が大幅に減少していることで、水酸基及び吸着水の除去が示唆されていた。また、これら試料の50〜200℃間の熱重量減少割合は0.1〜0.2%であり、吸着水がほとんど除去され、水分の再吸着もないこと、また200〜400℃間の熱重量減少割合は1%以下であり、水酸基がほとんど除去されたことが示された。
【0049】
一方、比較例2〜4では、シラノール基の赤外吸収ピークは、未処理試料(比較例1)のピークに比べて概ね1/4以上であり、シラノール基はさほど減少しておらず、水酸基の除去が不十分であることが示唆された。また、これら試料の50〜200℃間の熱重量減少割合は1.0〜2.1質量%であり、吸着水の除去も不十分であること、また200〜400℃間の熱重量減少割合は3.4〜6.3質量%であり、水酸基の除去が不十分であることが示された。
【0050】
ここで、比較例2は、表面処理剤の修飾工程のみを行ったものであり、表面処理剤の修飾のみでは水酸基及び吸着水の除去が不十分であった。これは、既にシリカ多孔質膜の表面を修飾した表面処理剤の分子サイズが大きいために、残留している水酸基及び吸着水に対して表面処理剤が近づくことができず、また表面処理剤が複雑な酸化物微小構造体表面を均一に覆うことができないために、結果として水酸基及び吸着水が残留してしまうためと考えられる。
【0051】
また、比較例3は、マイクロ波の照射工程のみを行ったものであり、マイクロ波照射時点ではほぼ完全に除去されたはずの水酸基及び吸着水が存在することから、一旦除去された水酸基や、空気中の水分などが再吸着しているものと考えられる。
さらに、比較例4は、マイクロ波の照射工程を行った後に表面処理剤の修飾工程を行ったものだが、マイクロ波照射後に再吸着した水分により発生した吸着水及び水酸基が、表面処理剤の修飾では除去しきれないために、水酸基及び吸着水が残留してしまうためと考えられる。
【0052】
以上の実施例1〜4および比較例1〜4の結果から、酸化物微小構造体に対して本発明の水酸基及び吸着水の除去方法を適用することにより、酸化物微小構造体表面に存在する水酸基及び吸着水を十分に除去することができ、構造に大きな影響を与えず、また熱収縮による酸化物微小構造体の崩壊を防ぐことができ、表面に存在する水酸基及び吸着水の少ない酸化物微小構造体が得られることを確認した。
さらに、酸化物微小構造体の表面が表面処理剤により覆われており、当該表面処理剤が処理後の表面への水酸基の再形成や水の再吸着を防ぐので、酸化物微小構造体表面の水酸基及び吸着水を少ない状態で維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、酸化物微小構造体の表面に存在する水酸基及び吸着水を十分に除去することができるので、表面に存在する水酸基及び吸着水を十分に減少させた酸化物構造体を製造するのに好適に用いることができる。
また、このような酸化物微小構造体は、その大きな比表面積や規則正しい構造の形状性など光学分野、触媒分野、電気化学分野、電子工学分野などで好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 酸化物微小構造体
2 表面
3 水酸基
4 吸着水
5 水分子
6 表面処理剤
7 マイクロ波
8 水粒子
9 表面処理剤分子間の隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物微小構造体の表面に存在する水酸基及び吸着水を除去する方法であって、当該酸化物微小構造体の表面に表面処理剤を修飾する第1工程と、当該表面処理剤により修飾された酸化物微小構造体にマイクロ波を照射する第2工程と、を含む酸化物微小構造体の水酸基及び吸着水の除去方法。
【請求項2】
前記第1工程は、表面処理剤が酸化物微小構造体の表面に存在する水酸基及び吸着水と反応して、酸化物微小構造体の表面と表面処理剤との間で新たな結合を形成する請求項1に記載の酸化物微小構造体の水酸基及び吸着水の除去方法。
【請求項3】
酸化物微小構造体がシリカ多孔質膜である請求項1又は2に記載の酸化物微小構造体の水酸基及び吸着水の除去方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−68527(P2011−68527A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222044(P2009−222044)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(000114031)ミクロ電子株式会社 (37)
【Fターム(参考)】